• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1287810
審判番号 不服2013-19094  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-02 
確定日 2014-06-04 
事件の表示 特願2010- 59154「リチウムイオンキャパシタの製造方法、および正極の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月29日出願公開、特開2011-192888、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成22年3月16日の出願であって、原審において平成25年4月16日付で拒絶の理由が通知され、同年6月5日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月10日付で拒絶査定となり、これに対して、同年10月2日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正ががなされたものである。
なお、平成25年12月13日付けで当審より前置報告書に基づく審尋を発したが、その指定期間内に回答書の提出はなされなかった。


第2 平成25年10月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は、本件補正前の平成25年6月5日付けの手続補正書に、

「【請求項1】
正極活物質層を有する正極と、
負極活物質層を有する負極と、
リチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液と、
を含み、
前記正極活物質層は、リチウムイオンおよびアニオンの少なくとも一方を可逆的に担持可能な正極活物質を有し、
前記負極活物質層は、リチウムイオンを可逆的に担持可能な負極活物質を有し、
前記正極活物質は、フッ素アクリル樹脂によって結着されて前記正極活物質層をなし、
前記正極活物質層の比表面積は、1530m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であって、前記正極活物質の比表面積の70%以上95%以下である、リチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
請求項1において、
さらに、リチウム極を含み、
前記正極および前記負極の少なくとも一方と、前記リチウム極と、の電気化学的接触によって、リチウムイオンが前記正極および前記負極の少なくとも一方に担持される、リチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
正極活物質層を有する正極を形成する工程と、
負極活物質層を有する負極を形成する工程と、
前記正極および前記負極を、リチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液に浸漬する工程と、
を含み、
前記正極活物質層は、リチウムイオンおよびアニオンの少なくとも一方を可逆的に担持可能な正極活物質を有し、
前記負極活物質層は、リチウムイオンを可逆的に担持可能な負極活物質を有し、
前記正極活物質層は、
前記正極活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、-前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された前記溶液に結着剤を添加して形成され、
前記結着剤の添加量は、前記正極活物質に対して、5質量%以上15質量%以下であり、
前記増粘剤の添加量は、前記正極活物質に対して、1質量%以上10質量%以下であり、
前記正極活物質層の比表面積は、1530m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であり、
前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記正極活物質層の比表面積は、前記正極活物質の比表面積の70%以上95%以下である、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4において、
さらに、リチウム極を形成する工程を含み、
前記浸漬する工程において、前記正極および前記負極の少なくとも一方と、前記リチウム極と、を電気化学的に接触させる、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項6】
活物質が、フッ素アクリル樹脂によって結着され、かつ、比表面積が、1530m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であって、前記活物質の比表面積の70%以上95%以下である活物質層を有する、正極。
【請求項7】
請求項6において、
前記正極を用いた、蓄電デバイス。
【請求項8】
活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された前記溶液に結着剤を添加して活物質層を形成し、
前記結着剤の添加量は、前記正極活物質に対して、5質量%以上15質量%以下であり、
前記増粘剤の添加量は、前記正極活物質に対して、1質量%以上10質量%以下であり、
前記活物質層の比表面積は、1530m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であり、
前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する、正極の製造方法。」
とあったものを、

「【請求項1】
正極活物質層を有する正極を形成する工程と、
負極活物質層を有する負極を形成する工程と、
前記正極および前記負極を、リチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液に浸漬する工程と、
を含み、
前記正極活物質層は、リチウムイオンおよびアニオンの少なくとも一方を可逆的に担持可能な正極活物質を有し、
前記負極活物質層は、リチウムイオンを可逆的に担持可能な負極活物質を有し、
前記正極活物質層は、
前記正極活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、
前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された前記溶液に結着剤を添加して形成され、
前記結着剤の添加量は、前記正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下であり、
前記増粘剤の添加量は、前記正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下であり、
前記正極活物質層の比表面積は、1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であり、
前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記正極活物質層の比表面積は、前記正極活物質の比表面積の80%以上92%以下である、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
さらに、リチウム極を形成する工程を含み、
前記浸漬する工程において、前記正極および前記負極の少なくとも一方と、前記リチウム極と、を電気化学的に接触させる、リチウムイオンキャパシタの製造方法。
【請求項4】
活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された前記溶液に結着剤を添加して活物質層を形成し、
前記結着剤の添加量は、前記正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下であり、
前記増粘剤の添加量は、前記正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下であり、
前記活物質層の比表面積は、1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であり、
前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する、正極の製造方法。」
と補正するものである。


2.補正の適否
上記本件補正は、補正前の請求項1,2,6,7を削除し、
補正前の請求項3および8(補正後の請求項1および請求項4に対応)に記載した発明を特定するために必要な事項である、
「結着剤の添加量」について、「正極活物質に対して、5質量%以上15質量%以下」を、「正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下」と補正し、
「増粘剤の添加量」について、「正極活物質に対して、1質量%以上10質量%以下」を、「正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下」と補正し、
「活物質層の比表面積」について、「1530m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下」を、「1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下」と補正することによって、その数値範囲を減縮するものである。

したがって本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当するとともに、補正前の請求項3、4について、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、まず本件補正後の請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。下記に再掲)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(本願補正発明)
「 活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された前記溶液に結着剤を添加して活物質層を形成し、
前記結着剤の添加量は、前記正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下であり、
前記増粘剤の添加量は、前記正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下であり、
前記活物質層の比表面積は、1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下であり、
前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する、正極の製造方法。」
(なお、本願補正発明において「前記正極活物質に対して、」とあるが、その前段には「活物質」の記載しかなく、本願補正発明が「正極の製造方法」であることを鑑みると、本願補正発明冒頭の「活物質を溶媒に混合させて」における「活物質」とは「正極活物質」を意味するものと認められ、以後そのように扱う。)


2-1.刊行物の記載事項
2-1-1.刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-65814号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「電気二重層キャパシタおよびその製造方法」として、図面と共に次の事項が記載されている。

ア.「(実施例9)
活性炭粉末(比表面積:2000m^(2)/g、平均粒径:2μm)10重量部とアセチレンブラック2重量部とを水に均一に分散する。カルボキシメチルセルロース(CMC、カルボキシル基のプロトンの一部をNaイオンで置換したもの)2重量部を水に溶解する。両方の液をさらに混合撹拌して活性炭溶液としたのちフィルム化する。このフィルムの両面にアルミニウムを蒸着する。空気中で30分乾燥後100℃で60分遠赤外線乾燥し活性炭電極を作製する。第2図に示すように、得られた箔状電極体12の一対を、セパレータ13を介して捲回し電極体を得る。電解液としてプロピレンカーボネート液にテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを1mol/l溶解し実施例8と同様にステンレスケース14、アルミニウム層を有するステンレス蓋15とでハウジングを完成する。ただし、この構成はハーメチック封口素子でり、アルミニウムの陽、陰極リード16はガラス層17を介してステンレス蓋15と接合されており、ステンレスケース14とアルミニウム層を有するステンレス蓋15とは溶接されている。」(4頁右上欄15行?同右下欄15行)

イ.第2図の電気二重層キャパシタの一部破断斜視図には、箔状電極体12とセパレータ13が図示されている。

上記ア.の記載によれば、「活性炭溶液」は「活性炭粉末」10重量部と「カルボキシメチルセルロース」2重量部を含むから、『カルボキシメチルセルロースは、活性炭粉末に対して20重量%』の割合となる。
上記ア.の記載から、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「 比表面積2000m^(2)/gの活性炭粉末とアセチレンブラックを水に均一に分散し、
カルボキシメチルセルロースを水に溶解し、
両方の液をさらに混合撹拌して活性炭溶液としたのちフイルム化し、
カルボキシメチルセルロースは、活性炭粉末に対して20重量%である、
活性炭電極の製造方法。」


2-1-2.刊行物2の記載事項
同じく、原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-267382号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「キャパシタ電極バインダー用組成物、キャパシタ電極用スラリーおよびキャパシタ電極」として、以下の事項が記載されている。

「【0020】 本発明のキャパシタ電極バインダー用組成物によれば、これを構成する材料として特定のフッ素系重合体が含有されているために基本的に電気化学的な安定性が得られ、さらに特定の(メタ)アクリル系重合体が特定の割合で含有されると共に、当該キャパシタ電極バインダー用組成物が特定の数平均粒子径を有する粒子状のものとされているために、集電体が多孔質のものである場合にも塗布時におけるレベリング性が得られながら目詰まりが生じ難く、従って、得られるキャパシタ電極をリチウムイオンキャパシタの電極として用いた場合にもリチウムドープを阻害することなく良好な電極活性を得られる。」

「【0069】〔実施例1〕(フッ素系重合体の重合工程)
電磁式撹拌機を備えた内容積約6リットルのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5リットル、および乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、フッ化ビニリデン(VDF)70%、および六フッ化プロピレン(HFP)30%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cm^(2) Gに達するまで仕込んだ。その後、重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始させた。重合中は内圧が20kg/cm^(2) Gに維持されるようVDF60.2%およびHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入した。また、重合が進行するに従って重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同量の重合開始剤を窒素ガスを使用して圧入し、さらに3時間反応を継続させた。その後、反応液を冷却すると共に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出して反応を停止させ、フッ素系重合体よりなる微粒子〔A〕を含有するラテックス〔A〕を得た。フッ素系重合体よりなる微粒子〔A〕の数平均粒子径は120nmであった。また、19F-NMRから求めた各単量体の質量組成比はVdF/HFP=85/15であった。
【0070】((メタ)アクリル系重合体の重合工程)
容量7リットルのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、得られたラテックス〔A〕10部(固形分換算)、重合性乳化剤「アデカリアソープSR1025」(旭電化社製)0.1部、メタクリル酸メチル(MMA)9部、アクリル酸(AA)0.4部および水170部を仕込み、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部および亜硫酸ナトリウム0.1部を投入し、50℃で2時間反応させた。
一方、別の容器に水80部、「アデカリアソープSR1025」(旭電化社製)0.5部、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)54部、メタクリル酸メチル17部、スチレン(ST)9部およびアクリル酸0.6部を投入して混合し、均一に乳化させて乳化液を得た。この乳化液を先のセパラブルフラスコに投入し、50℃で3時間、さらに80℃で1時間反応させた。その後、冷却して反応を停止させ、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節し、消泡剤として「ノプコNXZ」(サンノプコ社製)0.05部を投入することにより、重合体粒子〔1〕が含有された水系分散体〔1〕を得た。
得られた水系分散体〔1〕中の重合体粒子〔1〕の数平均粒子径は200nmであった。」

「【0081】(2)網目構造の集電体への塗工性
活性炭「クラレコールYP」(クラレケミカル株式会社製)100部、導電性カーボン「デンカブラック」(電気化学工業社製)5部、カルボキシメチルセルロース(ダイセル化学社製)3部および水系分散体〔1〕?〔10〕5部を、スラリー固形分濃度が25%になるようにイオン交換水を加えて撹拌することにより、作製したペースト200ccを、織布塗工試験装置「Model EPUF-2010」のペーストホッパー部に仕込み、引き上げ速度0.5m/min、ブレード間ギャップ0.25mmにて、幅100mmのニッケル製エキスパンドメタル「LW10」(日本金属工業社製)への塗工を行った。その後、120℃で15分間乾燥機を用いて乾燥させた後、さらに真空乾燥機を用いて5mmHg、150℃で2時間減圧乾燥させたものを、光学顕微鏡を用いて観察し、任意の200個の網目のうち、目詰まりしている網目の割合(%)を算出した。
なお、この目詰まりの割合が小さいほど、網目を埋めて閉塞させることなく良好な塗工性を有すると評価することができる。」


2-1-3.刊行物3の記載事項
同じく、原査定において引用した特開2009-266910号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「電気二重層キャパシターの電極形成用ペースト組成物」として、以下の事項が記載されている。

「【0016】 塗工法によって電極を形成する大型EDLCに用いられる活性炭は、コストを重視するため、やしがら原料を用いたものが主流になりつつあり、その比表面積は1300?2000m^(2)/g程度である。またフェノール樹脂をアルカリ賦活した比表面積2000?2800m^(2)/g程度の高比表面積活性炭も高容量が要求される大型EDLCやリチウムイオンキャパシター(LIC)に使用されている。本発明においては、特に活性炭の原料や賦活方法によって限定されるものではないが、前記の比表面積の範囲内において適宜選択使用することができる。」

「【0026】 以下、この発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明する。なお、この発明は、この実施例によって限定若しくは制限を受けるものではない。
(塗料・試料の調整)
CMCナトリウム塩を純水に溶解した水溶液中に、活性炭と、導電助剤であるケッチェンブラックと、アセチレンブラックと、を配合してボールミルで1時間分散処理を行った。その後、バインダーであるアクリル系エマルジョンまたはSBR系エマルジョンを所定量配合し、30分間攪拌して電気二重層キャパシターの電極形成用ペースト組成物である塗料を得た。前記ペースト組成物の配合表を表1?表3に示す。」


2-1-4.刊行物4の記載事項
平成25年10月25日付けの前置報告書に記載された特開2009-200302号公報(以下、「刊行物4」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
「【0017】 正極合材層21には、正極活物質として活性炭が含まれる。この活性炭には、リチウムイオンやアニオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。また、負極合材層24には、負極活物質としてポリアセン系有機半導体(PAS)が含まれる。このPASには、リチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。このように、正極活物質として活性炭を採用し、負極活物質としてPASを採用することにより、蓄電デバイス10はリチウムイオンキャパシタとして機能することになる。なお、本発明において、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味している。すなわち、ドープとは、正極活物質や負極活物質に対してリチウムイオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味している。すなわち、脱ドープとは、正極活物質や負極活物質からリチウムイオン等が出る状態を意味している。」

「【0049】 [正極の製造]
比表面積2000m^(2)/gの市販活性炭粉末85重量部、アセチレンブラック粉体5重量部、アクリル系樹脂バインダー6重量部、カルボキシメチルセルロース4重量部、および水200重量部を充分に混合することによって正極用スラリーを得た。また、厚さ35μm(気孔率50%)のアルミニウム製エキスパンドメタルの両面に、非水系のカーボン系導電塗料をスプレー方式にてコーティングした。このアルミニウム製エキスパンドメタルに塗られたカーボン系導電塗料を乾燥させることにより、導電層が形成された正極集電体を得た。この正極集電体の全体の厚さ(基材厚さと導電層厚さの合計)は52μmである。正極集電体の貫通孔は導電塗料によってほぼ閉塞された。次いで、ロールコータを用いて正極用スラリーを上記正極集電体の両面に均等に塗工した。そして、上記正極集電体に塗工された正極用スラリーを、乾燥させてプレスすることにより、厚み寸法が129μmとなる正極を得た。」


2-2.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

まず、引用発明の「活性炭粉末」は、本願明細書【0039】にも「活性炭」の例示があるように、本願補正発明の「活物質(正極活物質)」に相当する。
(なお、「アセチレンブラック」に関しては、摘記はないが刊行物1の(実施例1)には「アセチレンブラック」を用いない実施例も記載があり、また、本願明細書【0075】にも「導電剤としてアセチレンブラック粉体6質量部」と記載があるように、引用発明においても「アセチレンブラック」は「導電剤」として用いられているものと認められ、本願補正発明の「活物質」には含まれないと解するのが相当である。)

また、引用発明の「活性炭粉末」が「均一に分散」される「水」は、本願補正発明の「溶媒」に相当し、「活性炭粉末」が「均一に分散」された「水」は、「活物質」が「溶媒」に混合された「溶液」にあたる。
また、引用発明の「カルボキシルメチルセルロース」は、水に溶解してその粘性を増加させることは技術常識であるから「増粘剤」であって、「カルボキシルメチルセルロース」が溶解された「水」もまた増粘作用を呈するのは明らかであるから、本願補正発明の「増粘剤」に相当する。
また、引用発明の「活性炭粉末とアセチレンブラックを水に均一に分散し、カルボキシメチルセルロースを水に溶解し、両方の液をさらに混合撹拌して活性炭溶液とした」ことは、結果的に「活性炭粉末とアセチレンブラック」が「均一に分散」された「水」、すなわち「活物質を溶媒に混合」させた「溶液」に、後から「増粘剤」としての「カルボキシメチルセルロース」ないしその溶液が添加されたことになるから、本願補正発明の「活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し」に相当する。
また、引用発明の「のちフイルム化し」は、活性炭溶液がフイルム化して層を形成することとなるのは明らかであり、本願補正発明の「前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された活物質層を形成する」ことに相当する。
また、引用発明の「活性炭粉末」の「比表面積」は「2000m^(2)/g」であるが、「カルボキシメチルセルロース」のような「増粘剤」を添加した後にフイルム化して形成された「活物質層」としての「比表面積」は不明である。
そして、引用発明の「活性炭電極」は、上記ア.にあるように、最終的に「箔状電極体12」の一対として「電気二重層キャパシタ」の「正極」と「負極」を構成するから、引用発明の「活性炭電極の製造方法」は、本願補正発明の「正極の製造方法」に相当する。

以上から、両者は、以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加し、前記増粘剤を添加した後に、前記増粘剤が添加された活質層を形成する、
正極の製造方法。」

(相違点1)
本願補正発明は、「増粘剤が添加された溶液に結着剤を添加し」、「結着剤の添加量は、正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下」であり、「前記結着剤は、フッ素アクリル樹脂を含有する」のに対して、引用発明は「結着剤」を添加していない点。

(相違点2)
本願補正発明は、「増粘剤の添加量は、正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下」であるのに対して、引用発明は「20重量%」である点。

(相違点3)
本願補正発明は、「活物質層の比表面積は、1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下」であるのに対して、引用発明には「活物質層の比表面積」の記載がない点。


2-3.判断
2-3-1.相違点1の「結着剤」について
まず、本願明細書【0048】にも「結着剤(バインダー)」とあるように、例えば刊行物2の「キャパシタ電極バインダー用組成物」における「バインダー」は「結着剤」である。
また、上記2-1-2.の刊行物2の段落【0020】、【0069】、【0070】にあるように、刊行物2の「キャパシタ電極バインダー用組成物」は、「フッ素系重合体」と「(メタ)アクリル系重合体」から成る組成物であって、『フッ素アクリル樹脂』を含有する「結着剤」ということができる。
そして、刊行物2の段落【0081】には、本願補正発明の「活物質」に相当する「活性炭」100部と、「増粘剤」にあたる「カルボキシメチルセルロース」3部と、「結着剤」相当の前記『フッ素アクリル樹脂』を含む「水系分散体」5部を、「イオン交換水」を加えて攪拌した「ペースト」を作成し、キャパシタ電極バインダー用組成物としたことが記載されている。
しかしながら、「結着剤」相当の前記『フッ素アクリル樹脂』を含む「水系分散体」5部を加える順序については記載は無く、「増粘剤が添加された溶液に結着剤を添加し」ているということはできない。
また、仮に「結着剤」相当の前記『フッ素アクリル樹脂』を含む「水系分散体」が全量「フッ素アクリル樹脂」からなるとしても、「活物質」に相当する「活性炭」100部に対して「水系分散体」5部であるから、「結着剤の添加量は、正極活物質に対して、5.0質量%」が最大であって、「結着剤の添加量は、正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下」であるということもできない。

同様に、上記2-1-3.の刊行物3の段落【0026】には、「CMCナトリウム塩」(「増粘剤」相当)を純水に溶解した水溶液中に、「活性炭」(「活物質」に相当)を配合して分散処理を行った後、「バインダーであるアクリル系エマルジョンまたはSBR系エマルジョン」(「結着剤」相当)を配合し攪拌して「電気二重層キャパシターの電極形成用ペースト組成物」を得たことが記載されており、摘記はないがそこで参照する刊行物3の【表1】?【表3】には、「活性炭」100質量部に対して「バインダー」1.5?6質量部を配合することが記載されている。
刊行物3記載の上記発明では、「バインダーであるアクリル系エマルジョンまたはSBR系エマルジョン」(結着剤)を「分散処理を行った後」に配合してはいるものの、「CMCナトリウム塩」(増粘剤)を純水に溶解した水溶液中に、「活性炭」(活物質)を配合して分散処理を行っているから、
「活物質を溶媒に混合させて溶液を作製した後に、前記溶液に増粘剤を添加」する本願補正発明とは、あらかじめ「活物質を溶媒に混合させて溶液を作製」しておく点において「活性炭」(活物質)の前処理の前提が異なるものであり、引用発明との組み合わせにより本相違点1を克服するに足るものということはできない。
また、刊行物3の【表1】?【表3】にある「バインダー」(結着剤)の質量部(1.5?6)をみても、「結着剤の添加量は、正極活物質に対して、6.6質量%以上8.7質量%以下」であるということもできない。

また同様に、上記2-1-4.の刊行物4の段落【0049】には、「比表面積2000m2/gの市販活性炭粉末85重量部、アセチレンブラック粉体5重量部、アクリル系樹脂バインダー6重量部、カルボキシメチルセルロース4重量部、および水200重量部を充分に混合することによって正極用スラリーを得た。」ことが記載されているが、この記載をもってしても、増粘剤が添加された溶液に(後から)結着剤を添加することまでは読み取れない。

以上のように、刊行物2?4には本相違点1を克服するに足る記載はなく、また本願明細書【0036】に記載された「まず、正極活物質とイオン交換水とを混合することにより、正極活物質の表面をイオン交換水で被覆することができる。そのため、正極活物質の表面細孔内部に、増粘剤、結着剤が侵入することを抑制することができ、比表面積の低下を抑制することができる。」という作用効果を勘案すれば、本相違点1は上記刊行物1?4の記載から容易に想到し得たものということもできない。


2-3-2.相違点2の「増粘剤の添加量」について
上記2-3-1.相違点1の「結着剤」について の判断に於いても前述のように、刊行物2の段落【0081】には、 本願補正発明の「活物質」に相当する「活性炭」100部と、「増粘剤」にあたる「カルボキシメチルセルロース」3部を含む「キャパシタ電極バインダー用組成物」が記載されている。
ここで、「カルボキシメチルセルロース」(増粘剤)の「活性炭」(正極活物質)に対する添加量は3質量%であり、本相違点2の「4.4質量%以上6.5質量%以下」の範囲外である。

同様に、前述のように刊行物3の段落【0026】には、「CMCナトリウム塩」(「増粘剤」相当)を純水に溶解した水溶液中に、「活性炭」(「活物質」に相当)を配合して分散処理を行っており、刊行物3の【表1】?【表3】によれば、「CMCナトリウム塩」(増粘剤)の「活性炭」(正極活物質)100に対する添加量は2?4の範囲であり、本相違点2の「4.4質量%以上6.5質量%以下」の範囲外である。

一方、上記刊行物4の段落【0049】には、「活性炭粉末」85重量部と「カルボキシメチルセルロース」4重量部を添加した「正極用スラリー」が記載されており、ここでは「カルボキシメチルセルロース」(増粘剤)の「活性炭」(正極活物質)に対する添加量は4.7重量%であるから、本相違点2の「4.4質量%以上6.5質量%以下」の範囲内である。

これらの刊行物の記載を総合すると、「増粘剤の添加量」は、引用発明の「20重量%」に対して、本願補正発明の「4.4質量%以上6.5質量%以下」を含み、より低い値までも許容されることがわかり、また本願明細書の記載を検討しても、その数値範囲に格別の臨界的意義も認められないので、「増粘剤の添加量は、正極活物質に対して、4.4質量%以上6.5質量%以下」とする本相違点2は格別のことではない。


2-3-3.相違点3の「活物質層の比表面積」について
引用発明にも認定したように、刊行物1には、「比表面積2000m^(2)/gの活性炭粉末」が記載されている。
また、刊行物2の段落【0081】記載の「活性炭「クラレコールYP」(クラレケミカル株式会社製)」の比表面積は不明であるが、刊行物3の段落【0016】には、「比表面積2000?2800m^(2)/g程度の高比表面積活性炭」についての記載がある。
また同様に、刊行物4の段落【0049】には、「比表面積2000m^(2)/gの市販活性炭粉末」が記載されている。

しかしながら、これらの刊行物に記載されているのは「活物質層」を構成する原料となる「活性炭」(活物質)の比表面積であって、本相違点3にかかる「活物質層」の比表面積ではない。
また、原料となる「活性炭」(活物質)に「増粘剤」や「結着剤」を添加することによって、形成された「活物質層」に占める「活物質」(活性炭)の重量比率は低下するから、「活物質層」の単位重量あたりの表面積である「比表面積」も一般に低下すると推定され、更に本願明細書の段落【0036】にいうような「正極活物質の表面細孔内部に、増粘剤、結着剤が侵入すること」による比表面積の低下の効果も勘案すれば、刊行物2?4の記載から、「活物質層の比表面積は、1690m^(2)/g以上2200m^(2)/g以下」になるということはできない。

そして、本願明細書の段落【0035】、【0036】にも、「まず正極活物質と導電剤とイオン交換水とを混合させ、次に増粘剤を混合させ、次に結着剤を混合させることにより、スラリーを調整する。この順番で混合させることにより、正極活物質層14の比表面積を、1530m^(2)/g?2200m^(2)/gにすることができる。」、「正極活物質の表面細孔内部に、増粘剤、結着剤が侵入することを抑制することができ、比表面積の低下を抑制することができる。」とあるように、本願補正発明は前記相違点1の構成と併せて、本相違点3の構成を達成するものであるから、相違点3も引用発明および刊行物2?4の記載から容易になし得たものということはできない。

以上のように、本願補正発明は引用発明及び刊行物2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。


2-4.本件補正後の請求項1ないし3に係る発明について
本件補正後の請求項1に係る発明は、本願補正発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定し、「リチウムイオンキャパシタの製造方法」としたものであるから、上記2-3.と同じ理由により、引用発明及び刊行物2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本件補正後の請求項2ないし3は、請求項1に従属する請求項であり、本願補正発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記2-3.と同じ理由により、引用発明及び刊行物2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


2-5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


第3.本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-05-20 
出願番号 特願2010-59154(P2010-59154)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H01G)
P 1 8・ 121- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 大介多田 幸司  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 酒井 伸芳
井上 信一
発明の名称 リチウムイオンキャパシタの製造方法、および正極の製造方法  
代理人 布施 行夫  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 松本 充史  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ