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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1287974
審判番号 不服2012-12856  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-05 
確定日 2014-05-20 
事件の表示 特願2010- 37374「排気後処理装置を再生する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 9日出願公開、特開2010-196704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年2月23日(パリ条約による優先権主張、2009年2月26日、欧州特許庁)の出願であって、平成22年4月26日に明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、平成23年6月20日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成23年12月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年3月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成24年7月5日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成24年8月16日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出され、さらに当審において平成25年5月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知されたのに対し、平成25年11月7日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成23年12月22日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに平成22年4月26日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
排気後処理装置を有した内燃機関における燃焼を制御する方法であって、
前記排気後処理装置の再生事象の要求が検出されると、パイロット噴射及び遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行われ、
前記再生燃焼モードの間、前記主噴射の噴射タイミングは、その遅れが、所望のトルクを呈する最大タイミング遅延として決定される遅延閾値よりも遅くならず、噴射燃料量が、格納発煙限界マップにより与えられる最大燃料量を超えないように制御されることを特徴とする方法。」

3.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である特開2008-267287号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置に関する。
‥‥(中略)‥‥
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した排気浄化装置においては、排気温度を上昇させるために燃料噴射時期を遅角するが、燃料噴射時期を遅角しすぎると未燃燃料が潤滑油に混じりオイル希釈が生じるという問題がある。また、排気温度を低下させるために燃料噴射時期を進角するが、燃料噴射時期を進角しすぎるとスモークが発生するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、オイル希釈やスモークを抑制しつつ排気温度を調整することができるエンジンの排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
‥‥(中略)‥‥
【0007】
本発明は、ディーゼルエンジン(10)の排気通路(30)に設けられ、排気中のパティキュレートを捕集するフィルタ(31)と、フィルタ(31)の再生時期を検出する再生時期検出手段(34)とを備え、フィルタ再生時にフィルタ(31)に堆積しているパティキュレートを燃焼させる排気浄化装置(100)である。この排気上装置(100)は、フィルタ(31)に流入する排気の温度を検出する排気温度検出手段(32)と、エンジン(10)からの排気の空気過剰率を制御する空気過剰率制御手段(S23、S33)と、エンジン(10)に燃料を噴射するインジェクタ(11)の燃料噴射時期を制御する燃料噴射時期制御手段(S25、S35)と、フィルタ再生時に、検出された排気温度が目標排気温度となるように、空気過剰率と燃料噴射時期のうち空気過剰率を優先的に制御して排気温度を調整する排気温度調整手段(S22?S25、S32?S35)と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、オイル希釈やスモーク発生への影響が小さい空気過剰率を優先的に制御して排気温度を調整し、空気過剰率制御によっても排気温度が目標温度に達しない場合に燃料噴射時期を制御する。これにより、オイル希釈やスモークを抑制しつつ排気温度を調整することが可能となる。」(段落【0001】ないし【0008】)

(イ)「【0009】
以下、図面を参照してエンジンの排気浄化装置の実施形態を説明する。
【0010】
図1は、エンジンの排気浄化装置1の構成を示す図である。
【0011】
排気浄化装置100は、ディーゼルエンジン10と、外部からの新気をエンジン10へ流す吸気通路20と、エンジン10からの排気を流す排気通路30とを備える。
‥‥(中略)‥‥
【0021】
DPF31は、タービン43よりも下流側の排気通路30に設置される。このDPF31は、例えばコージェライト等のセラミックからなる多孔質のハニカム構造体であって、排気が流れる流路を多孔質薄壁によって格子状に仕切る。各流路の入口は交互に目封じされ、入口が目封じされない流路は出口が目封じされるので、DPF31に流入した排気に含まれるPMは多孔質薄壁を通過する際に、その内側表面で捕集される。したがって、DPF31は、エンジン10から排出された排気に含まれるPMを捕集し、PMが除去された排気を下流に流す。
【0022】
上記したDPF31の上流側の排気通路30には、温度センサ32と、空気過剰率を検出するための酸素センサ33と、圧力センサ34が設置される。
【0023】
温度センサ32は、DPF31に流入する排気の排気温度を検出し、コントローラ60に検出信号を出力する。この温度センサ32に検出された排気温度からDPF31のDPF温度と推定する。なお、DPF31に温度センサを設置し、DPF温度を直接検出するようにしてもよい。
【0024】
酸素センサ33は、DPF31の入口側の排気の空気過剰率を検出し、コントローラ60に検出信号を出力する。
【0025】
圧力センサ34は、DPF31の入口側の排気圧力を検出し、コントローラ60に検出信号を出力する。この圧力センサ34によって検出された排気圧力の上昇量に基づいてDPF31に堆積したPMの堆積量(以下「PM堆積量」という。)を推定する。
【0026】
上記した排気浄化装置100は、エンジン10を制御するためにコントローラ60を備える。
【0027】
コントローラ60はCPU、ROM、RAM及びI/Oインタフェースから構成される。このコントローラ60には、温度センサ32、酸素センサ33、圧力センサ34、その他図示しない車速センサ等の車両の運転状態を検出する各種センサの出力が入力する。
【0028】
コントローラ60は、上記各種センサからの検出信号に基づいて、燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御するためのインジェクタ11への燃料噴射指令信号、吸気絞り弁22への開度指令信号、EGR弁52への開度指令信号、可変ノズル42を制御するためのアクチュエータ44への開度指令信号等を出力する。
【0029】
また、コントローラ60は、圧力センサ34で検出された排気圧力からPM堆積量を推定し、このPM堆積量に基づいてDPF再生の再生時期を判断する。コントローラ60は、DPF31が継続してPMを捕集し続けてPM堆積量が所定量に達したと判断した場合には、空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF温度を600℃以上にしてDPF31に堆積したPMを強制的に燃焼除去する。そして、DPF再生中は、DPF温度に基づいて決定される排気の目標温度と実際の排気温度とがほぼ一致するように、燃料噴射時期などをフィードバック制御して排気温度を調整する。
【0030】
ところで、排気温度が目標温度よりも低い場合には燃料噴射時期を遅角して排気温度を上昇させるが、燃料噴射時期を遅角しすぎると未燃燃料によるオイル希釈が生じる。また、排気温度が目標温度よりも高い場合には燃料噴射時期を進角して排気温度を低下させるが、燃料噴射時期を進角しすぎるとスモークが発生する。
【0031】
図6(A)は、燃料噴射時期とオイル希釈量との関係を示す図である。横軸は燃料噴射時期を示し、縦軸はオイル希釈量を示す。
【0032】
図6(A)に示す通り、燃料噴射時期とオイル希釈量との関係は、空気過剰率によらず、実線Aのように燃料噴射時期を遅角するにしたがってオイル希釈量は増加する。つまり、燃料噴射時期が遅角されるほど、燃料が気筒内壁面に付着しやすくなるので、未燃燃料が潤滑油に混じりやすくなってオイル希釈量が増大する。
【0033】
図6(B)は、燃料噴射時期とスモーク発生量との関係を示す図である。横軸は燃料噴射時期を示し、縦軸はスモーク発生量を示す。
【0034】
図6(B)の実線B?Dに示す通り、燃料噴射時期が進角されるにしたがってスモーク発生量は増大する。つまり、燃料噴射時期が進角されるほど、燃料がピストン頂面に液膜として残りやすくなり、スモークの発生量が増大する。
【0035】
また、燃料噴射時期とスモーク発生量との関係は、空気過剰率によっても変化する。空気過剰率がリッチになるほど混合気中の酸素濃度が低下するので、実線Dに示すようにスモークが発生しやすくなる。これに対して、空気過剰率がリーンになるほど混合気中の酸素濃度は増加するので、実線Bに示すようにスモークが発生しにくくなる。
【0036】
このように、排気温度を調整するために燃料噴射時期を制御すると、燃料噴射時期制御に起因してスモークが発生したり、オイル希釈が生じたりする。そこで、本実施形態では、オイル希釈やスモークの発生が抑制される範囲で空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を調整する(図2参照)。
【0037】
図2(A)は、所定の空気過剰率における燃料噴射時期と排気温度との関係を示す図である。横軸は燃料噴射時期を示し、縦軸は排気温度を示す。
【0038】
図2(A)に示す通り、実線F上の基本制御位置から燃料噴射時期を遅角すると排気温度は上昇し、進角すると排気温度は低下する。また、この基本制御位置から空気過剰率をリッチにすると実線Gに示すように排気温度は上昇し、リーンにすると実線Eに示すように排気温度は低下する。
【0039】
ここで、燃料噴射時期の遅角制御の限界は、図2(B)に示すオイル希釈限界値によって決定する。つまり、オイル希釈限界値に達する燃料噴射時期に基づいて基本制御位置からの遅角補正限界値(遅角限界値)FB_(IT_RET)が決定され、このオイル希釈限界値を超えない範囲で燃料噴射時期が遅角制御される。
【0040】
一方、燃料噴射時期の進角制御の限界は、図2(C)に示すように、空気過剰率とスモーク発生限界値とによって決定される。つまり、空気過剰率がリッチ側に制御されたときの実線Dにおいて、スモーク発生限界値に達する燃料噴射時期に基づいて基本制御位置からの進角補正限界値FB_(IT_ADV)が決定され、この進角補正限界値(進角限界値)FB_(IT_ADV)を超えない範囲で燃料噴射時期が進角制御される。
【0041】
また、図2(C)の実線Cに示すように、空気過剰率はリッチになるほどスモーク発生量が増大し、スモーク発生限界値に達しやすくなる。そのため、空気過剰率のリッチ制御の限界は、スモーク発生限界値や燃焼性能などに基づいて決定され、図2(A)の実線Gに示すように実線Fからのリッチ補正限界値(リッチ限界値)FBλ_(_RI)が決定される。そして、このリッチ補正限界値FB_(λ_RI)を超えない範囲で空気過剰率がリッチ制御される。
【0042】
一方、空気過剰率をリーン側に制御するとスモーク発生量は抑制されるので、空気過剰率のリーン制御の限界は、スモーク発生量やオイル希釈量ではなく燃焼性能などのエンジン運転状態に基づいて決定される。そして、図2(A)の実線Eに示すように、実線Fからのリーン補正限界値(リーン限界値)FBλ_(_LE)が決定され、このリーン補正限界値FBλ_(_LE)を超えない範囲で空気過剰率がリーン制御される。このように、空気過剰率がスモークの発生やオイル希釈に与える影響は、燃料噴射時期と比較して小さい。」(段落【0009】ないし【0042】)

(ウ)「【0076】
DPF再生時において、排気温度を調整するためにインジェクタ15の主噴射時期やポスト噴射時期を制御するようにしてもよい。また、インジェクタ15の主噴射量だけでなく、ポスト噴射量に基づいて空気過剰率を制御して、排気温度を調整するようにしてもよい。」(段落【0076】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図1ないし図6の記載から、以下の事項が分かる。

(エ)上記(1)(ア)、(イ)及び図1ないし図6の記載から、引用文献1には、DPF31が設けられたディーゼルエンジン10において燃焼を制御する方法が記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(ア)ないし(ウ)の記載から、引用文献1に記載されたDPF31が設けられたディーゼルエンジン10において燃焼を制御する方法は、コントローラ60がPM堆積量が所定量に達したと判断した場合には、インジェクタ11による空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF31に堆積したPMを強制的に焼却除去することによりDPF再生を行うものであることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(ウ)の記載から、引用文献1に記載されたDPF31が設けられたディーゼルエンジン10において燃焼を制御する方法は、DPF再生中、燃料噴射時期は、遅角補正限界値であるオイル希釈限界値を超えない範囲で遅角制御されるものであることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)ないし(ウ)並びに図2の記載から、引用文献1に記載されたDPF31が設けられたディーゼルエンジン10において燃焼を制御する方法は、DPF再生中、空気過剰率のリッチ制御の限界が、スモーク発生限界値に基づくリッチ補正限界値FBλ_(_RI)を超えない範囲で制御されるものであることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし図6から、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「DPF31が設けられたディーゼルエンジン10において燃焼を制御する方法であって、
コントローラ60がPM堆積量が所定量に達したと判断した場合には、インジェクタ11による燃料噴射の空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF31に堆積したPMを強制的に焼却除去することによりDPF再生を行い、
前記DPF再生中、燃料噴射時期は、遅角補正限界値であるオイル希釈限界値を超えない範囲で遅角制御され、空気過剰率のリッチ制御の限界が、スモーク発生限界値に基づくリッチ補正限界値FBλ_(_RI)を超えない範囲で制御される方法。」

4.対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「DPF31」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「排気後処理装置」に相当し、同様に、「ディーゼルエンジン10」は「内燃機関」に、それぞれ相当する。
また、ディーゼルエンジンにおけるインジェクタによる燃料噴射は、常識的に主噴射を含むものであるところ、引用文献1記載の発明においてDPF再生中の燃料噴射は燃料噴射時期の遅角により排気温度を上昇させるものであるから、「少なくとも遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行」われるという限りにおいて、引用文献1記載の発明において「インジェクタ11による燃料噴射の空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF31に堆積したPMを強制的に焼却除去することによりDPF再生」が行われることは、本願発明において「パイロット噴射及び遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行われ」ることに相当する。
そして、引用文献1記載の発明において「コントローラ60がPM堆積量が所定量に達したと判断した場合には」、「空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF31に堆積したPMを強制的に焼却除去することによりDPF再生を行」うことは、本願発明において「排気後処理装置の再生事象の要求が検出されると」、「再生燃焼モードが行われ」ることに相当する。
さらに、引用文献1記載の発明において、DPF再生中、「空気過剰率のリッチ制御の限界が、スモーク発生限界値に基づくリッチ補正限界値FBλ_(_RI)を超えない範囲で制御される」ことは、燃料噴射量が、引用文献1の図2(C)に示されたスモーク発生限界値により与えられるリッチ補正限界値FBλ_(_RI)の範囲内に制御されることを意味するから、本願発明において、再生燃焼モードの間、「燃料噴射量が、格納発煙限界マップにより与えられる最大燃料量を超えないように制御されること」に相当する。

よって、本願発明と引用文献1記載の発明とは、
「排気後処理装置を有した内燃機関における燃焼を制御する方法であって、
前記排気後処理装置の再生事象の要求が検出されると、少なくとも遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行われ、
前記再生燃焼モードの間、噴射燃料量が、格納発煙限界マップにより与えられる最大燃料量を超えないように制御されることを特徴とする方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)「少なくとも遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行」うにあたり、本願発明においては、「パイロット噴射及び遅延主噴射からなる再生燃焼モードが行」うのに対し、引用文献1記載の発明においては、「インジェクタ11による燃料噴射の空気過剰率や燃料噴射時期を制御して排気温度を上昇させ、DPF31に堆積したPMを強制的に焼却除去することによりDPF再生を行」う点(以下、「相違点1」という。)。
(b)本願発明においては「前記再生燃焼モードの間、前記主噴射の噴射タイミングは、その遅れが、所望のトルクを呈する最大タイミング遅延として決定される遅延閾値よりも遅くなら」ないのに対し、引用文献1記載の発明においては「DPF再生中、燃料噴射時期は、遅角補正限界値であるオイル希釈限界値を超えない範囲で遅角制御され」る点(以下、「相違点2」という。)。

5.判断
上記相違点について検討する。

まず、相違点1に関し、「ディーゼルエンジンの燃料噴射において、パイロット噴射を行うこと」は慣用技術(以下、「慣用技術」という。例えば、当審拒絶理由で示した引用文献2(特開2002-266678号公報」の段落【0042】等参照)であり、引用文献1記載の発明において、燃料噴射がパイロット噴射を伴うものとすることによって、DPF再生中の燃料噴射をパイロット噴射を伴う遅延主噴射とし、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

審判請求人は平成25年11月7日に提出した意見書(以下、「当審拒絶理由に対する意見書」という。)において、引用文献1記載の発明においては、主噴射のタイミングが進角されることがあり、この点で、必ず主噴射が遅延される本願発明の再生燃焼モードとは異なる旨を主張している。
しかし、ディーゼルエンジンの排気浄化装置の再生のための燃焼を制御する方法において、排気温度を調整するために、燃料噴射タイミングを遅角のみさせ、進角させないことは、むしろ慣用的に行われていることであるから、引用文献1記載の発明において、燃料噴射タイミングを遅角のみさせることが格別困難であるとすることはできない。

また、審判請求人は上記当審拒絶理由に対する意見書において、上記引用文献2には、エンジン回転数Neと通常運転時の主噴射の噴射量Qに応じて、パイロット噴射や主噴射や後噴射等の噴射時期(噴射タイミング)を求めるためのデータマップが記載されているが、この制御は、主噴射のタイミングの最大遅延を可能にすることを前提にしたものではなく、エンジン回転数Neと通常運転時の主噴射の噴射量Qに応じて、主噴射の噴射タイミングが進角方向にも変動し得るものであり、本願発明のパイロット噴射と、引例2のパイロット噴射とは作用効果の点で全く異なる旨を主張している。
しかし、本願の明細書及び特許請求の範囲には、本願発明において、パイロット噴射により主噴射のタイミングの最大遅延が可能になる旨の記載はなく、これらの主張は、何ら本願の明細書及び特許請求の範囲の記載に基づくものではない。そして、DPFの再生時にパイロット噴射を行うことによりメイン噴射時期を遅角させることができることは、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば特開2008-106687号公報の段落【0056】等参照。)であるから、本願発明は、上記相違点1に係る発明特定事項によって、格別な作用効果を奏するということもできない。

次に、相違点2に関し、「ディーゼルエンジンの制御方法において、排気ガス温度の昇温にあたり、所望のトルクを呈するように制御すること」は、慣用的に行われている事項(以下、「慣用事項」という。例えば、上記引用文献2の段落【0046】ないし【0049】並びに図3及び4や、当審拒絶理由で示した引用文献3(特開2006-17073号公報)の段落【0092】及び図22等参照。)である。
また、上記引用文献3の段落【0046】には、「ディーゼルエンジンの制御方法において、排気ガス温度の昇温にあたり、所望のトルクを呈する許容最大遅角量を超えない範囲で、主噴射の燃料噴射時期を制御するという技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されている。
したがって、引用文献1記載の発明において、所望のトルクを呈するように制御したときに、遅角補正限界値であるオイル希釈限界値に代えて、所望のトルクを呈する許容最大遅角量を超えない範囲で、主噴射の燃料噴射時期を制御することにより、上記相違点2に係る本願の請求項1に係る発明の発明特定事項のようにすることは、引用文献1記載の発明並びに上記慣用事項及び引用文献3記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
この点に関し、審判請求人は当審拒絶理由に対する意見書において、上記引用文献3の段落【0046】に記載されている「トルク変動」は、トルクのばらつきのことであり、本願発明の「所望のトルク」とは技術的意義が異なるものである旨を主張している。
しかし、引用文献3の段落【0030】及び【0031】には、要求出力に対する機関出力の不足分に対応して排気エネルギ増大を行う旨が記載されており、その具体例として段落【0032】ないし【0048】の記載があることからみて、段落【0046】に記載されている「トルク変動」は、要求出力に対応したものであると認められる。

さらに、本願発明は、全体構成でみても、引用文献1記載の発明並びに引用文献3記載の技術、慣用技術及び慣用事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものでもない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明並びに引用文献3記載の技術、慣用技術及び慣用事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-19 
結審通知日 2013-12-20 
審決日 2014-01-08 
出願番号 特願2010-37374(P2010-37374)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺川 ゆりか  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 藤原 直欣
柳田 利夫
発明の名称 排気後処理装置を再生する方法  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 星野 修  
代理人 宮前 徹  
代理人 富田 博行  

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