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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J
管理番号 1289064
審判番号 不服2013-3904  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-28 
確定日 2014-06-18 
事件の表示 特願2005-129132「ピストンリング溝を有するピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月17日出願公開、特開2005-321096〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月27日(パリ条約による優先権主張2004年5月3日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年10月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年2月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成25年2月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年2月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由A]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング(1,10)の断面輪郭に適合されており、
背後側で傾斜面(2)によって画定される内部傾斜面を有するピストンリング(1)を用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部(4)を備え、このすみ肉部(4)は前記傾斜面(2)に対して間隔をもった傾斜面(3)を有しており、
ピストンリングの上面(5)がピストンリング溝の上面(6)と間隔(a)を置いており、これにより形成されたガスギャップが互いに垂直方向間隔(a´)を有する両傾斜面(2、3)間に延びて前記ピストンリングの背後面(7)と前記ピストンリング溝の背後面(8)との間で終わっており、前記両傾斜面(2、3)間に水平方向間隔(r´)が、前記両背後面(7、8)間に間隔(r)が生じるようにし、
間隔(a)が垂直方向間隔(a´)に、間隔(r)が水平方向間隔(r´)にほぼ等しいことを特徴とするピストンリング溝を有するピストン。
【請求項2】
非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング溝の断面輪郭に適合されており、
背後面(18)で2つの画定面(11、12)によって形成されるL字状凹所(20)を有するピストンリング(10)を用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部(15)を備え、
このすみ肉部(15)は前記画定面(11)に対して平行におよび間隔(r´)をもって延びる面(13)と前記画定面(12)に対して平行におよび間隔(a´)をもって延びる面(14)とを有しており、ピストンリング(10)がピストンリングの上面(16)を有し、その間隔(a)がピストンリング溝の上面(17)と平行であり、
これにより形成されたガスギャップが前記面(11)と間隔(r´)を置いている面(13)間に延び、さらに間隔(a´)を置いて互いに延びている面(12、14)との間に延び、前記背後面(18)とこれに平行に間隔(r)を置いて延びている背後面(19)との間で終わっており、
間隔(a)が間隔(a´)に、間隔(r)が間隔(r´)にほぼ等しいことを特徴とするピストンリング溝を有するピストン。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「このすみ肉部(4)は前記傾斜面(2)に対して間隔をもって平行に配置された傾斜面(3)によって画定されており」が「このすみ肉部(4)は前記傾斜面(2)に対して間隔をもった傾斜面(3)を有しており」に補正されている。これにより、請求項1は、「傾斜面(2)」と「傾斜面(3)」が「平行に配置された」という事項が削除され、その限りで拡張されている。この補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定されたいずれの事項を目的とするものでもない。
したがって、本件補正は、他の補正事項について検討するまでもなく、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正が却下すべきものであることは上述のとおりである。
ただ、請求人は、審判請求の理由において、
「2.補正の根拠の明示
上記特許請求の範囲の補正は、請求項1に明細書の段落0008,0011の記載及び図1に基づいて発明特定事項を追加して新請求項1とし、請求項2に請求項3及び4を追加するとともに、明細書の段落0009?0011の記載に基づき発明特定事項を追加して新請求項2としたものであり、いずれも新規事項を追加するものではない。」と主張しており、確かに、下記のとおり、発明特定事項を追加して限定する補正もなされている。そこで、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとみて、本件補正の適否について検討した。その検討内容・結果は以下の理由B、Cのとおりである。

[理由B」
本件補正による特許請求の範囲の補正は上記のとおりである。
その補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ピストンリングの上面(5)とピストンリング溝の上面(6)との間の垂直方向間隔(a)が、前記両傾斜面(2,3)相互間の垂直方向間隔(a′)にほぼ等しく、前記両傾斜面(2,3)相互間の水平方向間隔(r′)が、前記ピストンリングの背後面(7)と前記ピストンリング溝の背後面(8)との間の間隔にほぼ等しい」を「ピストンリングの上面(5)がピストンリング溝の上面(6)と間隔(a)を置いており、これにより形成されたガスギャップが互いに垂直方向間隔(a´)を有する両傾斜面(2、3)間に延びて前記ピストンリングの背後面(7)と前記ピストンリング溝の背後面(8)との間で終わっており、前記両傾斜面(2、3)間に水平方向間隔(r´)が、前記両背後面(7、8)間に間隔(r)が生じるようにし、間隔(a)が垂直方向間隔(a´)に、間隔(r)が水平方向間隔(r´)にほぼ等しい」に限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明1
上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平6-26572号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0008】本発明は、キーストンリングを装着したピストン装置におけるブローバイを低減することを目的とする。また、オイル上がりを低減することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上面と下面のうちの少なくとも上面の内周側に円錐面を有し、この円錐面の外側に円錐面に連続する環状の水平面を有するキーストンリングと、リング溝面に前記キーストンリングの円錐面に相対する円錐面が形成されているピストンとからなるピストン装置において、前記ピストンのリング溝面の円錐面の外側に、円錐面に連続する環状の水平面が形成されており、かつ、シリンダボア、このシリンダボアに挿入されている前記ピストン、およびこのピストンのリング溝に装着されている前記キーストンリングが同心に位置した状態で、前記キーストンリングに関し、前記円錐面と水平面との境界から半径方向外側にリング外周面までの距離をL1、前記ピストンのリング溝に関し、前記円錐面と水平面との境界から半径方向外側に前記シリンダボア内周面までの距離をL2としたとき、L1≧L2であることを特徴とする。」
(い)「【0027】なお、本発明は、両面キーストンリングを装着したピストン装置だけでなく、図4に示す片面キーストンリングを装着したピストン装置にも適用可能である。
【0028】図4において、片面キーストンリング36は、リングの上面37が、内周端から外側に向かって斜め上方に延びている傾斜面からなる円錐面37aと、その円錐面37aの外側に円錐面37aに連続して形成されている環状の水平面37bと、さらに水平面37bに連続し外周端に形成されている環状の面取面37cとで形成されている。リングの下面38は環状の水平面38bと、リング外周端に設けられている面取面38cとで形成されている。
【0029】一方、ピストン33のリング溝35の上下面は次のように形成されている。すなわち、リング溝35の上面39は、内周端から外側に向かって斜め上方に延びている傾斜面からなる円錐面39aと、その円錐面39aの外側に円錐面39aに連続して形成されている環状の水平面39bとで形成されている。リング溝35の上面39の円錐面39aの傾斜角度は、片面キーストンリング36の上面37の円錐面37aの傾斜角度と同一角度をなすように形成されている。リング溝35の下面40は環状の水平面に形成されている。
【0030】そして、片面キーストンリング36に関し、前記円錐面37aと水平面37bとの境界から半径方向外側にリング外周面41までの距離をL1とし、ピストン33のリング溝35に関し、前記リング溝35の上面39の円錐面39aと水平面39bとの境界から半径方向外側に前記シリンダボア内周面12までの距離をL2としたとき、L1>L2の関係にある。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「片面キーストンリングであるピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリング溝の断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリングの断面輪郭に適合されており、
背後側において、傾斜面からなる円錐面37aを有するピストンリングが用いられており、ピストンリング溝の上面39は傾斜面からなる円錐面39aを備え、ピストンリング溝の円錐面39aはピストンリングの円錐面37aに対して間隔をもっており、
ピストンリングの上面がピストンリング溝の上面と間隔を置いており、これにより形成されたガスギャップが互いに垂直方向間隔を有する両円錐面(37a、39a)間に延びて前記ピストンリングの背後面と前記ピストンリング溝の背後面との間で終わっており、前記両円錐面(37a、39a)間に水平方向間隔が、前記両背後面間に間隔が生じるようにしてなるピストンリング溝を有するピストン。」
(2-2)引用例2
実願昭49-42945号(実開昭50-131410号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、全角半角等の文字の大きさ、字体、促音、拗音、句読点などは記載内容を損なわない限りで適宜表記した。
(か)「第2図は、圧力リングとしてインナーベベルカットリングを装着して使用するピストンにおいて、本考案の実施例を示すもので、ピストンリング1はその内周上端部が傾斜して削除されていて傾斜面13を有し、これに対応するリング溝21の底面21aの上端部にも、装着状態におけるピストンリング1の内周側傾斜面21bが設けられている。ピストンのリング溝底面の形状を本実施例に示す如くする場合には、従来のもの比べて第2図の二点鎖線と傾斜面21bとで囲む部分の容積だけ、ピストンリング背後空間の容積を減少させることができる。
以上の如く、本考案は、リング溝内におけるピストンリング背後に形成される空間を小さくすることが出来るので、該空間に滞留する未燃焼ガス量を減少させることができ、したがって、エンジンからの未燃焼有害ガス成分、特に炭化水素ガスの排出量を減少させる優れた利点を有する。」(明細書第5ページ第11行?第6ページ第10行)
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、
後者の「片面キーストンリングであるピストンリング」は前者の「非対称断面輪郭を有するピストンリング」に、「前記ピストンリング溝の断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリングの断面輪郭に適合されており」は「前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング(1,10)の断面輪郭に適合されており」に、「背後側において、傾斜面からなる円錐面37aを有するピストンリングが用いられており」は「背後側で傾斜面(2)によって画定される内部傾斜面を有するピストンリング(1)を用いる場合」に、「ピストンリング溝の上面39は傾斜面からなる円錐面39aを備え、ピストンリング溝の円錐面39aはピストンリングの円錐面37aに対して間隔をもっており」は「ピストンリング溝がすみ肉部(4)を備え、このすみ肉部(4)は前記傾斜面(2)に対して間隔をもった傾斜面(3)を有しており」に、「両円錐面(37a、39a)」は「両傾斜面(2、3)」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリングの断面輪郭に適合されており、
背後側で傾斜面によって画定される内部傾斜面を有するピストンリングを用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部を備え、このすみ肉部は前記傾斜面に対して間隔をもった傾斜面を有しており、
ピストンリングの上面がピストンリング溝の上面と間隔を置いており、これにより形成されたガスギャップが互いに垂直方向間隔を有する両傾斜面間に延びて前記ピストンリングの背後面と前記ピストンリング溝の背後面との間で終わっており、前記両傾斜面間に水平方向間隔が、前記両背後面間に間隔が生じるようにしてなるピストンリング溝を有するピストン。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明1は、ピストンリングの上面とピストンリング溝の上面との間隔(a)、両傾斜面(2、3)間の垂直方向間隔(a´)、両背後面(7、8)間の間隔(r)、両傾斜面(2、3)間の水平方向間隔(r´)に関して、「間隔(a)が垂直方向間隔(a´)に、間隔(r)が水平方向間隔(r´)にほぼ等しい」のに対して、
引用例1発明は、これらの間隔がそのような事項を備えているかどうか、不明である点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1発明のピストンリングとピストンリング溝は、運転時等において一般に相対的に変位し得る。そして、例えば、引用例1の図4において、ピストンリングが上方に相対変位してピストンリングの上面37がピストンリング溝の上面39に当接しようとする場合、ピストンリングとピストンリング溝が各々の上面37、39のうち両円錐面37a、39a、両水平面37b、39bの一方のみで当接すると、他方の当接しない面の間では隙間が生じる。その隙間の範囲で、ピストンリングはピストンリング溝に対して相対変位ないし相対的に揺動し得るから、ピストンリングはピストンリング溝内において、そのような不安定な姿勢で支持される状態が生じ得る。また、一般に、当接する面積が小さいと、大きい場合に比べて局所的に比較的大きな衝撃・応力が発生し得る。このようなことは当業者に明らかである。また、製造上の精度・公差等により、上記のように隙間が生じるとしても、シール性等の点でその隙間が小さい方が望ましいことは、引用例1(特に【0013】?【0015】)に記載されているように明らかである。以上の点を考慮するならば、引用例1発明において、ピストンリングが上方に相対変位してピストンリングの上面37がピストンリング溝の上面39に当接しようとする場合に、両円錐面及び両水平面の両方で当接するように、あるいは、上記の隙間が小さくなるように、ピストンリングの円錐面とピストンリング溝の円錐面との間の垂直方向間隔と、ピストンリング水平面とピストンリング溝の水平面との間の間隔を略等しくするという構成に想到することは当業者にとって格別困難なことではない。
実際、引用例1(特に(あ))には、キーストンリングの円錐面と水平面との境界から半径方向外側にリング外周面までの距離をL1、ピストンのリング溝の円錐面と水平面との境界から半径方向外側にシリンダボア内周面までの距離をL2としたとき、L1≧L2であると記載されており、L1=L2の場合が包含・想定されており、この場合には、ピストンリングピストンリング溝の円錐面間の垂直方向間隔と水平面間の間隔は等しくなる。
以上に述べた支持、衝撃・応力の点は、引用例1発明において、ピストンリングとピストンリング溝が水平方向に相対変位して、ピストンリングの背後面及び上記円錐面とピストンリング溝の背後面及び上記円錐面とが当接しようとする場合にも、特に異なるものではない。そして、これらの点を考慮するならば、同様に、引用例1発明において、ピストンリングとピストンリング溝が水平方向に相対変位して、ピストンリングの背後面及び上記円錐面とピストンリング溝の背後面及び上記円錐面とが当接しようとする場合に、両背後面及び両円錐面の両方で当接するように、あるいは、上記の隙間が小さくなるように、ピストンリングの円錐面とピストンリング溝の円錐面との間の水平方向間隔と、ピストンリングの背後面とピストンリング溝の背後面との間の間隔を略等しくするという構成に想到することは当業者にとって格別困難なことではない。
実際、引用例2(特に第2図)では、ピストンリング1の傾斜面13とピストンリング溝のリング溝底傾斜面21bとの間の水平方向間隔と、ピストンリング1の背後面とピストンリング溝の底面21a(背後面)との間の間隔が略等しく描かれている。
以上より、引用例1発明に引用例1、2の上記事項を適用して、相違点に係る本願補正発明1の上記事項に想到することは、当業者が容易になし得たものと認められる。
(4-2)効果について
本願補正発明1の効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものではない。
(4-3)まとめ
したがって、本願補正発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、審判請求の理由において、
「4.3)本願発明1では、上記構成により、ピストンリング(1)の傾斜面(2)がピストンリング溝の傾斜面(3)に接するとき、ピストンリング(1)の上面(5)がピストンリング溝の上面(6)に接するとともに、ピストンリング(1)の背後面(7)もピストンリング溝の背後面(8)に接することになる。
4.4)しかしながら、引用文献1及び2に記載された発明では、上記作用を奏することはない。」と主張する。
しかし、(a)「ピストンリング(1)の傾斜面(2)がピストンリング溝の傾斜面(3)に接するとき、ピストンリング(1)の上面(5)がピストンリング溝の上面(6)に接するとともに、ピストンリング(1)の背後面(7)もピストンリング溝の背後面(8)に接する」ためには、傾斜面(2)と傾斜面(3)が平行であることに加えて、両傾斜面の長さが同じことを要するが、この点が本願の請求項1のどの事項に基づく主張であるのか、必ずしも明らかではない。(b)本願の請求項1には、「間隔(a)が垂直方向間隔(a´)に、間隔(r)が水平方向間隔(r´)にほぼ等しい」と記載されている。「ほぼ等しい」にすぎないから、請求人の上記主張は、「ほぼ等しい」ではなく、それを「等しい」に限定した下位概念発明ないし実施例についての作用効果の主張であって、それが、直ちに本願補正発明1の作用効果にあたるものではない。以上からすると、請求人の該主張の趣旨が必ずしも明確ではないが、それはひとまず措くとして、本願補正発明1は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上述したとおりである。

(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

[理由C]
本件補正による特許請求の範囲の補正は上記のとおりである。
その補正は、請求項2についてみると、実質的に、本件補正前の請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「ピストンリング」、「ピストンリング溝」、及び「ガスキャップ」について、「これにより形成されたガスギャップが前記面(11)と間隔(r´)を置いている面(13)間に延び、さらに間隔(a´)を置いて互いに延びている面(12、14)との間に延び、前記背後面(18)とこれに平行に間隔(r)を置いて延びている背後面(19)との間で終わっており、間隔(a)が間隔(a´)に、間隔(r)が間隔(r´)にほぼ等しい」という事項を追加して限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)本願補正発明2
上記のとおりである。
(2)引用例
実願平2-79728号(実開平4-37855号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「2.実用新案登録請求の範囲
ガスシール用として用いられるピストリングを有する内燃機関用ピストンにおいて、ピストリング溝上面のランド部下面に該ランド部の外周部より小径の段部を形成すると共に、前記リング溝に取付けられるピストンリングの内周部は上面を切欠いて外周部より上下厚さを小さくし、該内周部上面と前記段部下面との間及び該外周部上面と前記ランド部外周下部のリング溝側面との間に、夫々一定のクリアランスを持つシール面を形成し、かつ該各シール面とリング溝の側面及び段部の外周面との間に空間を設けてなることを特徴とする内燃機関用ピストン。」(明細書第1ページ第3?15行)
(し)「第3図はリング溝13にピストンリング22を取付けた状態と示し、段部14の下面とリング溝13に嵌入した内周部24の上面24aとの間には一定のクリアランスを有するシール面が形成され、また外周部23の上面23aと段部14外方のランド部12の下面12aとの間には一定のクリアランスを有するシール面が形成されている。また夫々のシール面と、リング溝13の側面及び段部14の外周面との間には空間27、28が形成されている。」(明細書第6ページ第16行?第7ページ第4行)
(す)「4.図面の簡単な説明
第1図は本考案の実施例を示すピストンの正面図、第2図は第1図のリング溝に取付けられるピストンリングの一部を示す正面断面図、第3図は第2図のピストンリングを第1図に取付けた状態の要部の正面断面図、第4図は従来のピストンリングの1例の1部を示す正面断面図、第5図は従来提案されているピストンにおけるピストンヘツドとピストンリングとの結合状態を示す断面図である。
図の主要部分の説明
10……ピストン 11……冠部
12,15,17……ランド部 13,16,18……リング溝
19……スカート部 22……ピストンリング
23……外周部 24……内周部
23a……外周部の上面 24a……内周部の上面
25……下面 26……外周面
27,28……空間」(明細書第8ページ第13行?第9ページ第10行)
以上の記載事項及び図面からみて、引用例3には、次の発明(以下、「引用例3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング溝の断面輪郭に適合されており、
背後面で上下方向及び水平方向の2つの画定面によって形成されるL字状凹所を有するピストンリングが用いられており、ピストンリング溝が段部14を備え、
この段部14は前記上下方向の画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる外周面と前記水平方向の画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる下面とを有しており、ピストンリングがピストンリングの外周部の上面23aを有し、その間隔がピストンリング溝のランド部12の下面12aと平行であり、
これにより形成されたガスギャップが前記上下方向の画定面と間隔を置いている段部14の外周面に延び、さらに間隔を置いて互いに延びている水平方向の画定面と段部14の下面との間に延び、ピストンリングの前記背後面とこれに平行に間隔を置いて延びているピストンリング溝の背後面との間で終わっている、ピストンリング溝を有するピストン。」
(3)対比
本願補正発明2と引用例3発明とを比較すると、
後者の「上下方向及び水平方向の2つの画定面」は前者の「2つの画定面」に、「ピストンリングが用いられており」は「ピストンリングを用いる場合」に、「段部」は「すみ肉部」に、「前記上下方向の画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる外周面」は「前記画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる面」に、「前記水平方向の画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる下面」は「前記画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる面」に、「ピストンリングの外周部の上面」は「ピストンリングの上面」に、「ピストンリング溝のランド部の下面」は「ピストンリング溝の上面」に、「これにより形成されたガスギャップが前記上下方向の画定面と間隔を置いている段部の外周面に延び、さらに間隔を置いて互いに延びている水平方向の画定面と段部の下面との間に延び、ピストンリングの前記背後面とこれに平行に間隔を置いて延びているピストンリング溝の背後面との間で終わっている」は「これにより形成されたガスギャップが前記面と間隔を置いている面間に延び、さらに間隔を置いて互いに延びている面との間に延び、前記背後面とこれに平行に間隔を置いて延びている背後面との間で終わっており」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明2の用語に倣って整理すると、両者は、
「非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリングの断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング溝の断面輪郭に適合されており、
背後面で2つの画定面によって形成されるL字状凹所を有するピストンリングを用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部を備え、
このすみ肉部は前記画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる面と前記画定面に対して平行におよび間隔をもって延びる面とを有しており、ピストンリングがピストンリングの上面を有し、その間隔がピストンリング溝の上面と平行であり、
これにより形成されたガスギャップが前記面と間隔を置いている面間に延び、さらに間隔を置いて互いに延びている面との間に延び、前記背後面とこれに平行に間隔を置いて延びている背後面との間で終わっている、ピストンリング溝を有するピストン。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明2は、ピストンリングの上面(16)とピストンリング溝の上面(17)との間隔(a)、画定面(12)とすみ肉部(15)の面(14)との間隔(a´)、両背後面(18、19)間の間隔(r)、画定面(11)とすみ肉部(15)の面(13)との間隔(r´)に関して、「間隔(a)が垂直方向間隔(a´)に、間隔(r)が水平方向間隔(r´)にほぼ等しい」のに対して、
引用例3発明は、これらの間隔がそのような事項を備えているかどうか、不明である点。
(4)判断
(4-1)相違点について
引用例1発明のピストンリングとピストンリング溝は、運転時等において一般に相対的に変位し得る。そして、例えば、引用例3の第3図において、ピストンリングが上方に相対変位して、ピストンリングの上方の面とピストンリング溝の面とが当接しようとする場合、ピストンリング溝の段部14の下面とピストンリングの内周部24の上面24a間、ピストンリング溝のランド部12の下面12aとピストンリングの外周部23の上面23a間の一方のみで当接すると、他方の当接しない面の間では隙間が生じる。その隙間の範囲で、ピストンリングはピストンリング溝に対して相対変位ないし相対的に揺動し得るから、ピストンリングはピストンリング溝内において、そのような不安定な姿勢で支持される状態が生じ得る。また、一般に、当接する面積が小さいと、大きい場合に比べて局所的に比較的大きな衝撃・応力が発生し得る。このようなことは当業者に明らかである。また、製造上の精度・公差等により、上記のように隙間が生じるとしても、シール性等の点でその隙間が小さい方が望ましいことは、上記の引用例1(特に【0013】?【0015】)に記載されているように明らかである。以上の点を考慮するならば、引用例3発明において、ピストンリングが上方に相対変位して、ピストンリングの上方の面とピストンリング溝の面とが当接しようとする場合に、ピストンリング溝の段部14の下面とピストンリングの内周部24の上面24a間、ピストンリング溝のランド部12の下面12aとピストンリングの外周部23の上面23a間の両方で当接するように、あるいは、上記の隙間が小さくなるように、ピストンリング溝の段部14の下面とピストンリングの内周部24の上面24aとの間の間隔と、ピストンリング溝のランド部12の下面12aとピストンリングの外周部23の上面23aとの間の間隔を略等しくするという構成に想到することは当業者にとって格別困難なことではない。
実際、引用例3(特に第3図)では、ピストンリング溝の段部14の下面とピストンリングの内周部24の上面24aとの間の間隔と、ピストンリング溝のランド部12の下面12aとピストンリングの外周部23の上面23aとの間の間隔が略等しく描かれている。
以上に述べた支持、衝撃・応力の点は、引用例3発明において、ピストンリングとピストンリング溝が水平方向に相対変位して、ピストンリングの外周部23及び内周部24の背後面とピストンリング溝の側面(背後面)及び段部14の外周面(背後面)とが当接しようとする場合にも、特に異なるものではない。そして、これらの点を考慮するならば、同様に、引用例3発明において、ピストンリングとピストンリング溝が水平方向に相対変位して、ピストンリングの外周部23及び内周部24の背後面とピストンリング溝の側面(背後面)及び段部14の外周面(背後面)とが当接しようとする場合に、ピストンリングの外周部23の背後面とピストンリング溝の側面(背後面)との間、ピストンリングの内周部24の背後面とピストンリング溝の段部14の外周面(背後面)との間の両面で当接するように、あるいは、上記の隙間が小さくなるように、ピストンリングの外周部23の背後面とピストンリング溝の側面(背後面)との間の間隔と、ピストンリングの内周部24の背後面とピストンリング溝の段部14の外周面(背後面)との間の間隔を略等しくするという構成に想到することは当業者にとって格別困難なことではない。
実際、引用例3(特に第3図)では、ピストンリングの外周部23の背後面とピストンリング溝の側面(背後面)との間の間隔と、ピストンリングの内周部24の背後面とピストンリング溝の段部14の外周面(背後面)との間の間隔が略等しく描かれている。
以上より、引用例3発明に基づいて、相違点に係る本願補正発明2の上記事項に想到することは、当業者が容易になし得たものと認められる。
(4-2)効果について
本願補正発明2の効果は、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものではない。
(4-3)まとめ
したがって、本願補正発明2は、引用例3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明2について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成25年2月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成23年5月23日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、平成24年6月5日付け手続補正は、原審において、平成24年10月17日付けで決定をもって却下されている。
「【請求項1】
非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリング溝の断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング(1,10)の断面輪郭に適合されており、
背後側で傾斜面(2)によって画定される内部傾斜面を有するピストンリング(1)を用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部(4)を備え、このすみ肉部(4)は前記傾斜面(2)に対して間隔をもって平行に配置された傾斜面(3)によって画定されており、
ピストンリングの上面(5)とピストンリング溝の上面(6)との間の垂直方向間隔(a)が、前記両傾斜面(2,3)相互間の垂直方向間隔(a′)にほぼ等しく、
前記両傾斜面(2,3)相互間の水平方向間隔(r′)が、前記ピストンリングの背後面(7)と前記ピストンリング溝の背後面(8)との間の間隔にほぼ等しいことを特徴とするピストンリング溝を有するピストン。
【請求項2】
非対称断面輪郭を有するピストンリングを受け入れるためのピストンリング溝を有するピストンにおいて、
前記ピストンリング溝の断面輪郭が、ガスギャップが自由に連通するように、前記ピストンリング(1,10)の断面輪郭に適合されており、
2つの画定面(11,12)によって形成される背後側の凹所を有するピストンリング(10)を用いる場合、ピストンリング溝がすみ肉部(15)を備え、このすみ肉部(15)は前記凹所の画定面に対して間隔をもって平行に配置された面(13,14)によって画定されていることを特徴とするピストン。
【請求項3】
前記ピストンリングの上面(16)と前記ピストンリング溝の上面(17)との間の垂直方向間隔(a)が、前記凹所の下側の画定面(12)と前記すみ肉部(15)の下面(14)との間の垂直方向間隔(a′)にほぼ等しいことを特徴とする請求項1または2に記載のピストン。
【請求項4】
前記上方の画定面(11)とこれに平行な前記すみ肉部(15)の面(13)との間の水平方向間隔(r′)が、前記ピストンリング(10)の背後面(18)と前記ピストンリング溝の背後面(19)との間の水平方向間隔(r)にほぼ等しく選択されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のピストン。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は、実質的にみると、本願補正発明1を拡張した発明に相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記2.の「理由B」に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。

3-2.本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)について
(1)本願発明2
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例3、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明2は、実質的にみると、本願補正発明2を拡張した発明に相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明2が、上記2.の「理由B」に記載したとおり、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明2は引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。

4.結論
上述のように、本願発明1、2が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-01-07 
結審通知日 2014-01-14 
審決日 2014-01-28 
出願番号 特願2005-129132(P2005-129132)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚原 一久  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
森川 元嗣
発明の名称 ピストンリング溝を有するピストン  
代理人 山口 巖  
復代理人 山本 浩  

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