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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1290141
審判番号 不服2013-2330  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2014-07-23 
事件の表示 特願2007-325601「動画表示システム,動画表示方法,およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年7月2日出願公開,特開2009-145805〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成19年12月18日 :特許出願
平成24年 7月 4日付け:拒絶理由通知(同年同月9日発送)
平成24年 9月 6日 :意見書
平成24年 9月 6日 :手続補正書
平成24年11月 8日付け:拒絶査定(同年同月12日送達)
平成25年 2月 6日 :手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成25年 2月 6日 :審判請求

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項2に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された特開2007-316971号公報(発明の名称:表示処理装置,表示処理方法,及びコンピュータプログラム,出願人:株式会社エクシング及び株式会社エイタロウソフト,出願日:平成18年5月26日,公開日:平成19年12月6日,以下「引用例」という。)に記載された発明及び周知の技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

第3 本願発明
1 本件補正について
本件補正のうち,特許請求の範囲の請求項1についての補正は,本件補正前の請求項2に係る発明を本件補正後の請求項1とする補正であり,本件補正前の請求項1は存在しなくなった点で特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除を目的とする補正といえるから,この限りにおいて,適法である。

2 本願発明
そこで,本件補正を認めて審理を進めると,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
三次元上における動体の運動動作を規定した複数の動作データが格納してある動作データベースと,前記動作データベースに格納された動作データに基づき,動作データで規定される運動動作を行う動体が三次元空間における任意の方向から見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を生成する手段とを備え,生成した動画の表示処理を行う動画表示システムにおいて,
異なる複数の方向から動体が見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を,方向ごとにそれぞれ生成する動画生成手段と,
前記動画生成手段が生成した方向ごとの複数の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画の表示処理を行う表示処理手段と
を備え,
前記動画生成手段は,動体に対して正面方向となる方向から動体が見られた内容の動画を主動画として生成すると共に,正面方向と異なる他方向から動体が見られた内容の動画を副動画として生成するようにしてあり,
前記表示処理手段は,主動画と副動画とを組み合わせた状態で表示処理を行うことを特徴とする動画表示システム。」
なお,「副画像」は「副動画」の明らかな誤記と認めて,下線部のとおり「副動画」に修正して記載した。
【図1】


【図15】


3 引用例及び引用発明
引用例には,以下の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】本発明は,モーションデータを有する動体の動画表示処理を行う際に,動体の次の動きを表す方向情報を自動付加して表示処理を行うようにした表示処理装置,表示処理方法,及びコンピュータプログラムに関する。」

(2) 「【背景技術】
【0002】従来,様々な動画コンテンツ(ビデオ)が存在し,例えば,ダンス及びスポーツ等の動きに関する指導を行うために,ダンスのステップ及びスポーツにおける体の動かし方等を実写,アニメーション画像等で表現した指導用ビデオがある。これらの指導用ビデオでは,次の動き予め示すための矢印を画像中に挿入したものもある(例えば,特許文献1の図7?13)。
【0003】また,上述した動画コンテンツを所謂モーションキャプチャ技術を用いて作成することが行われている(特許文献2参照)。モーションキャプチャとは,人体の所要箇所にデータ取得対象となるマーカを複数取り付けた状態で,その人にダンス及びスポーツの動きを行ってもらうことにより,三次元座標におけるマーカを付した箇所の座標値及び角度を表すモーションデータ(動作情報)を取得するものである。このように取得されたモーションデータを利用して人体を表す画像が動作を行う内容の動画コンテンツを作成でき,モーションデータに基づく動画コンテンツは視点変更(表示する方向の変更)を容易に行うことができる。
【0004】さらに,特許文献3では,実写映像と,コンピュータグラフィックによるキャラクタ画像を三次元情報に基づいて合成した映像を作成することが開示されている。
【特許文献1】特開平10-319957号公報
【特許文献2】特開平10-222668号公報
【特許文献3】特開2000-23037号公報」

【図1】

(3) 「【0035】図1は,本発明の実施形態に係る表示処理装置1を示している。本実施形態の表示処理装置1は,汎用のパーソナルコンピュータを適用しており,コンピュータ本体1aに,各種映像,画像等を表示するディスプレイ装置10,並びにユーザからの操作指示を受け付けるキーボード11及びマウス12を接続している。表示処理装置1は,モーションキャプチャ技術により得られたモーションデータ(動作情報に相当)をフレームごとに含んだ動画データを予め記憶しており,動画再生の際,そのモーションデータにより時間的に前後する動体の動きの差を把握して,次の動体の動作方向を示す矢印画像(方向情報に相当)を生成して映像中に自動で表示できるようにしたことが特徴である。以下,表示処理装置1について詳説する。
【0036】表示処理装置1は,コンピュータ本体1aの内部において,各種制御処理を行う制御部2(プロセッサ)に,RAM3,ROM4,表示用インタフェース5,操作部インタフェース6,音声出力処理部7,及びハードディスク装置9を内部バス1bで接続している。RAM3は制御部2の処理に従うデータ及びフォルダ等を一時的に記憶し,ROM4は制御部2が行う基本的な処理内容を規定したプログラム等を予め記憶している。
【0037】表示用インタフェース5は,本実施形態の表示処理装置1では外部機器になるディスプレイ装置10と接続されており,動画データの表示処理を行って再生した映像をディスプレイ装置10へ順次送って,ディスプレイ装置10の画面10aに映像を表示する処理を行う。また,操作部インタフェース6は,キーボード11及びマウス12が接続され,図7(a)(b)に示すメニュー画面18,19等に対するユーザからの指示を受け付けると共に,受け付けた指示内容を制御部2へ伝える処理を行う。さらに,音声出力処理部7は音声出力手段及び再生手段として機能し,スピーカ8を接続すると共に,楽曲データ及び音声データ等を制御部2の制御指示に基づいて再生及び増幅等の処理を行って,再生音をスピーカ8から出力する処理を行う。
【0038】ハードディスク装置9は,各種プログラム及びデータ等を記憶し,本実施形態ではプログラムとして,コンピュータ本体1aを作動させる上でベースとなる処理を規定したシステムプログラム14,本発明に係る表示処理を規定した表示処理プログラム(本発明のコンピュータプログラムに相当)15,モーションキャプチャ技術に基づく表示処理対象となる動画データD,次の動作を音声で指示するための音声データを格納した音声テーブルT,各種処理判断で基準及び判別用の値を含む閾値データ16,及びメニュー画像データ17等を記憶している。
【0039】ハードディスク装置9に記憶される本実施形態の動画データDは,ダンス指導用の動画コンテンツであり,ダンサーにマーカを付してモーションキャプチャ技術により,三次元空間におけるマーカの座標等を表すモーションデータを,動画(映像)を構成するフレーム単位で含ませた内容になっている。このような動画データDは,再生時に視点を指定することで,ダンサーに応じた人体画像(動体に相当)の動きを所望の方向から眺めた映像を表示再生できるようになっている。」

【図2】

(4) 「【0040】具体的な動体データDのイメージは,図2に示すように,モーションデータに基づいて三次元コンピュータグラフィクス技術により作成されるダンサーを表す人体画像20がX軸,Y軸,Z軸で構成されるXYZ座標系に位置し,このXYZ座標系とは相違するカメラ22の撮像方向(再生時の視点方向に相当)及び位置を定めるためのUVW座標系を設け,XYZ座標系とUVW座標系との相対関係を規定することで,ユーザが所望する方向及び位置からの映像表示が可能になる。
【0041】また,三次元コンピュータグラフィックス技術により作成される人体画像20(図3(a)参照)は,図3(b)に示すように,人体の骨に相当するボーンBと云う棒状のリンク部材を連結したものに,人体の皮膚に相当するスキンを被せて作成されている。さらに,図3(b)に示すボーンBの各所に付された点P1?P17が,オリジナルのダンサーに付されたマーカ位置に相当し,これら各点P1?P17ごとにモーションデータが存在している。なお,図3(b)に示す各点P1?P17の位置及び個数は一例であり,ダンサーに付すマーカの位置及び個数に応じて適宜変更できる。」
【図3】


(5) 「【0042】図4は,動画データDを構成する各時刻ごとのフレームで作成される人体画像20のイメージを示す図である。動画データDは,時刻t1,t2,t3・・・におけるフレームf1,f2,f3・・・により構成されており,各フレームf1,f2,f3等に応じた画像を順次再生することで,各フレームf1,f2,f3等に含まれるダンサーを表した人体画像20が動く映像(動画)を再生表示できる。なお,本実施形態の動画データDは,1秒当たりのフレーム数を60個(60フレーム/秒)にしているが,この数値はあくまで一例であり,モーションデータを取得する際のフレーム数の範囲であれば,要求される動画品質に応じて適宜増減できる。」
【図4】


【図7】

(6) 「【0048】一方,図7(a)(b)に示すメニュー画面18,19は,ハードディスク装置9に記憶されるメニュー画像データ17に対応する内容の一例である。図7(a)のメニュー画面18は,表示処理プログラム15を起動させた場合,最初に表示されるメニュー内容に相当し,「視点方向設定」と云う第1ボタン18a,「映像再生」と云う第2ボタン18b,「一時停止検索」と云う第3ボタン18c(一時停止状態の検索指示を受け付ける受付手段に相当),「終了」と云う第4ボタン18dを有している。なお,第1ボタン18aは,キーボード11又はマウス12の操作により選択された場合,図7(b)に示す視点選択用のメニュー画面19が表示されることが,表示処理プログラム15により規定されている。
【0049】図7(b)のメニュー画面19は,視点方向を選択するための矢印形の方向ボタン19a?19eを有すると共に,決定ボタン19fを有する。人体に対して前後,左右,及び上の5方向のいずれかの視点を特定する方向ボタン19a?19eの中で一つが指定選択された状態で,決定ボタン19fが選択されると,指定された方向で視点が決定されて,図7(a)のメニュー画面18に表示が戻ることが,表示処理プログラム15により規定されている。なお,図7(b)のメニュー画面19に基づく視点方向の指定の仕方は一例であり,他の指定の仕方を適用することも勿論可能であり,例えば,マウス12の操作により360度のいずれの角度を指定するようにしてもよい。
【0050】また,図7(a)の第2ボタン18bが選択された場合,表示処理プログラム15が動画データDの再生処理を開始する。なお,再生処理の開始後に,キーボード11の複数のキー(例えば,ALTキーとF4キー)が同時に操作されると,表示処理装置1は再生停止指示を受け付けたことになる。さらに,第3ボタン18cが選択された場合,後述する一時停止状態の検索処理が開始される。さらにまた,第4ボタン18dが選択された場合,表示処理プログラム15の全ての処理が終了する。
【0051】次に,表示処理プログラム15が規定する処理内容について説明する。表示処理プログラム15は,制御部2が行う制御処理内容を規定しており,起動すると,先ず,図7(a)のメニュー画面18のメニュー画像データ17を読み出して,表示用インタフェース5から出力して,ディスプレイ装置10の画面10aにメニュー画面18を表示させる処理を制御部2に行わせることを規定している。また,メニュー画面18を表示して,「視点方向設定」の第1ボタン18aが選択されたことが操作部インタフェース6から制御部2に伝えられると,図7(b)のメニュー画面19を表示して視点方向の指定選択の操作に伴い制御部2が映像再生に係る視点方向を決定することを規定している。
【0052】さらに,表示処理プログラム15は,第2ボタン18bの選択に基づき動画データDの動画表示処理を行う際に,表示処理対象となるフレームと,その後のフレームのそれぞれに含まれるモーションデータの差分を制御部2が算出手段として算出することを規定する。例えば,図4に示す時刻t1の第1フレームf1の表示処理を行う際,その第1フレーム1と,時刻t2の第2フレームf2のそれぞれに含まれるモーションデータが有する各点P1?P17ごとの要素(回転角度,座標)の差分を制御部2が算出する。」

(7) 「【0059】また,生成された矢印画像25は図9(a)(b)に示すように,人体画像20と,視点方向及び視点位置を決定するカメラ22との間に位置するように,差分の算出対象となった前側のフレームに制御部2が付加手段として付加する処理を行うことを,表示処理プログラム15は規定している。図9(b)中,人体画像20のY座標の値をy1,矢印画像25の配置箇所に対するY座標の値をy2,カメラ22のY座標の値をy3とした場合,y1<y2<y3の関係が成立する。なお,フレームの画像中に含まれる人体画像20も,表示処理プログラム15の三次元コンピュータグラフィックス技術に基づいて規定した処理内容に従って制御部2が作成している。このように矢印画像25の配置を,人体画像20及びカメラ22の間にすることで,カメラ22からの視点方向による表示において,矢印画像25が,人体画像20によって隠れてしまう(埋もれてしまう)ことがなくなり,良好に矢印画像25をユーザに見せることができる。
【0060】さらに,表示処理プログラム15は,上述したように作成した人体画像20及び矢印画像25を含むフレームに対して,表示処理を行うことを規定しており,制御部2が上記フレームを表示用インタフェース5へ送る制御を行って,表示処理が行われた再生画像がディスプレイ装置10の画面10aに表示される。
【0061】また,表示処理プログラム15は,矢印画像25に関する処理に加えて,音声データの出力処理も規定している。具体的には,上述したモーションデータの差分算出により,人体画像20の各部分(頭部,左腕,右腕,胴体部分,左脚,右脚)ごとに,何れか点に対する差分絶対値が求まると,その差分絶対値に対応する音声データを図6の音声テーブルTから制御部2が音声特定手段として特定することを,表示処理プログラム15は規定している。また,特定した音声データは制御部2の制御により,矢印画像25含むフレームをディスプレイ装置10に表示する処理に同期させて,音声出力処理部7へ送られてスピーカ8から出力される。
【0062】制御部2は,上述したような矢印画像25の表示及び音声の出力に係る処理を,動画表示処理に連係してリニアに行い,表示処理プログラム15は,ユーザにより動画再生の停止指示を受けた場合,又は最後フレームの表示処理を行うまで,上述した処理を継続することを規定している。」

(8) 「【0085】さらに,動画表示処理時の制御部2の処理負担を低減するためには,予め時間的に前後するフレーム間のモーションデータの差分を算出すると共に,算出に関連するフレームと対応付けて図1のハードディスク装置9に差分結果を記憶しておき,動画表示処理時に記憶する差分の結果に基づき矢印画像25を生成して,作成した人体画像20の画像を含むフレームに付加してもよい。」

(9) 「【0091】さらに,本発明において,動体の対象となるのは人体に限定されるものではなく,モーションデータが関連付けられた動く物体であれば,全て適用可能である。そのため,例えば,図19(a)に示す表示画像56のように,物を動かして組み立てる際の組み立てマニュアル的な動画ビデオにも本発明を適用でき,この場合,移動して第1物体31へ組み付けられる対象の第2物体20′(動体に相当)の組み付け方向を矢印画像25で表すことができ,しかも,視点方向を自由に変更することで,組み付け方を詳細に確認することが可能になる。さらにまた,図19(b)に示す表示画像57のように,動体としてボール20″の移動方向を矢印画像25で表すことも可能である。
【0092】また,本発明の表示処理装置1としてはパーソナルコンピュータのコンピュータ本体1aを用いる以外に,表示ディスプレイを具備した携帯型のパーソナルコンピュータ,PD,携帯電話機等も適用可能である。さらに,装置内のみで処理を完結させる以外に,図20に示すネットワークシステム100のように,サーバ装置110で上述した動画表示処理を行い,処理を行った動画をネットワークNW及び中継基地局100A?100Nを通じて携帯電話機120のような端末装置へ配信し,端末装置で表示処理が行われた図11に示す各画像を順次表示させることも可能である。」

以上を総合勘案すると,引用例には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 ハードディスク装置9に記憶されるダンス指導用の動画コンテンツであり,ダンサーにマーカを付してモーションキャプチャ技術により,三次元空間におけるマーカの座標等を表すモーションデータを,動画を構成するフレーム単位で含ませた内容になっていて,再生時に視点を指定することで,ダンサーに応じた人体画像(動体に相当)の動きを所望の方向から眺めた映像を表示再生できるようになっている,動画データDと,
表示処理プログラム15は,制御部2が行う制御処理内容を規定しており,表示処理プログラム15の三次元コンピュータグラフィックス技術に基づいて規定した処理内容に従って,フレームの画像中に含まれる人体画像20を生成する,制御部2と,
ディスプレイ装置10と接続されており,動画データの表示処理を行って再生した映像をディスプレイ装置10へ順次送って,ディスプレイ装置10の画面10aに映像を表示する処理を行う,表示用インタフェース5と,
を備え,
表示処理プログラム15により,視点選択用のメニュー画面19が表示され,人体に対して前後,左右,及び上の5方向のいずれかの視点を特定する方向ボタン19a?19eの中で一つが指定選択された状態で,決定ボタン19fが選択されると,指定された方向で視点が決定され,第2ボタン18bが選択された場合,動画データDの再生処理を開始し,
表示処理プログラム15は,作成した人体画像20及び矢印画像25を含むフレームに対して,表示処理を行うことを規定しており,制御部2がフレームを表示用インタフェース5へ送る制御を行って,表示処理が行われた再生画像がディスプレイ装置10の画面10aに表示される,
表示処理装置1。」

4 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
(1) 動作データベース
引用発明は,「ハードディスク装置9に記憶されるダンス指導用の動画コンテンツであり,ダンサーにマーカを付してモーションキャプチャ技術により,三次元空間におけるマーカの座標等を表すモーションデータを,動画を構成するフレーム単位で含ませた内容になっていて,再生時に視点を指定することで,ダンサーに応じた人体画像(動体に相当)の動きを所望の方向から眺めた映像を表示再生できるようになっている,動画データD」の構成を具備する。また,引用例には,背景技術として,段落【0002】のとおり記載されているから,引用例の記載に接した当業者ならば,引用発明の動画データDは,データベースの形態でハードディスク装置9に格納されているものと理解する。
したがって,引用発明の「動画データD」は,本願発明の「三次元上における動体の運動動作を規定した複数の動作データが格納してある動作データベース」に相当する。

(2) 動画を生成する手段,動画生成手段
引用発明は,「表示処理プログラム15の三次元コンピュータグラフィックス技術に基づいて規定した処理内容に従って,フレームの画像中に含まれる人体画像20を生成する,制御部2」の構成を具備するところ,引用発明の表示処理プログラム15及び制御部2は,協働して,「視点選択用のメニュー画面19が表示され,人体に対して前後,左右,及び上の5方向のいずれかの視点を特定する方向ボタン19a?19eの中で一つが指定選択された状態で,決定ボタン19fが選択されると,指定された方向で視点が決定され,第2ボタン18bが選択された場合,動画データDの再生処理を開始し」の処理を行う。
したがって,引用発明の「表示処理プログラム15」及び「制御部2」は,本願発明の「前記動作データベースに格納された動作データに基づき,動作データで規定される運動動作を行う動体が三次元空間における任意の方向から見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を生成する手段」に相当するとともに,本願発明の動画生成手段に関して,「動体が見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を,生成する」の要件を満たす。

(3) 表示処理手段
引用発明は,「ディスプレイ装置10と接続されており,動画データの表示処理を行って再生した映像をディスプレイ装置10へ順次送って,ディスプレイ装置10の画面10aに映像を表示する処理を行う,表示用インタフェース5」の構成を具備するところ,引用発明の「表示処理プログラム15」,「制御部2」及び「表示インタフェース5」は,協働して,「表示処理プログラム15は,作成した人体画像20及び矢印画像25を含むフレームに対して,表示処理を行うことを規定しており,制御部2がフレームを表示用インタフェース5へ送る制御を行って,表示処理が行われた再生画像がディスプレイ装置10の画面10aに表示される」の処理を行う。
したがって,引用発明の「表示処理プログラム15」,「制御部2」及び「表示インタフェース5」と本願発明の「表示処理手段」は,「前記動画生成手段が生成した三次元コンピュータグラフィックスに係る動画の表示処理を行う表示処理手段」の点で共通するとともに,本願発明の「生成した動画の表示処理を行う」の要件を満たす。

(4) 動画表示システム
以上の対比結果,並びに,本願発明及び引用発明の全体構成を勘案すると,引用発明の「表示処理装置1」は,本願発明の「動画表示システム」に相当する。

そうしてみると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。

(一致点)
三次元上における動体の運動動作を規定した複数の動作データが格納してある動作データベースと,前記動作データベースに格納された動作データに基づき,動作データで規定される運動動作を行う動体が三次元空間における任意の方向から見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を生成する手段とを備え,生成した動画の表示処理を行う動画表示システムにおいて,
動体が見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を,生成する動画生成手段と,
前記動画生成手段が生成した三次元コンピュータグラフィックスに係る動画の表示処理を行う表示処理手段と
を備える,
動画表示システム。

(相違点)
本願発明の動画生成手段は,「異なる複数の方向から」動体が見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を,「方向ごとにそれぞれ」生成する動画生成手段であり,「動体に対して正面方向となる方向から動体が見られた内容の動画を主動画として生成すると共に,正面方向と異なる他方向から動体が見られた内容の動画を副動画として生成するようにしてあり」の構成を具備し,また,本願発明の表示処理手段は,前記動画生成手段が生成した「方向ごとの複数の」三次元コンピュータグラフィックスに係る動画の表示処理を行う表示処理手段であり,「主動画と副動画とを組み合わせた状態で表示処理を行う」の構成を具備するのに対して,引用発明は,方向ボタン19aないし19eの中で一つが指定選択され,その指定された方向の視点による一つの動画のみを生成し,表示するものである点。

5 判断
対象物の運動状態を表示する際に,対象物を複数方向から見た画像を同時に表示することは,一例として,原査定の拒絶の理由で引用された特開2005-111138号公報(以下「周知例1」という。)されているように,周知の技術である。
また,より判りやすく引用発明の動画を表示すべく,他の表示技術を基に引用発明の構成に適宜の設計変更を施すことは当業者が容易になし得る事項であるから,前記周知の技術を引用発明に適用して,複数の方向の画像を表示するよう設計することに,技術的な困難性があるとはいえない。
そして,複数の方向の画像を生成するに際し,必要となる数のグラフィックの生成を行うように設計することは,前記の周知の技術を引用発明に適用するに際し当然に為されるべき事項であり,また,複数の方向の画像のうち,正面の方を主動画と定めて設計することは,引用例においても,もっぱら正面からの動画(主動画)を用いて動作説明がされていること,また,一例として,前記周知例1においても正面からの動画が主動画として扱われていること,さらには,ダンスの動きを最も理解しやすい方向が正面であることからみて,当然のことである。
したがって,引用発明と周知の技術を組み合わせて,相違点に係る構成を克服することは,当業者が容易にできることである。

この点に関し,審判請求人は,概略,(A)引用例に記載の発明と,周知例1の記載事項は,次元的及び根本的に全く別異のものであり,それゆえ両者の具体的な技術内容も相容れないものとなっており,これらのことが両者を結び付けることに対する阻害要因になる,(B)仮に,引用例に記載の発明に,周知例1に記載の事項を適用できたとしても,相違点の構成に到達しない,と主張する。
周知例1は,あくまで,「対象物の運動状態を表示する際に,対象物を複数方向から見た画像を同時に表示すること」が周知の技術であることの一例として示したに過ぎないものであるが,審判請求人の主張にかんがみて,周知例1の具体的記載内容に踏み込んで検討してもなお,(A)引用発明と周知の技術の組み合わせに阻害要因がないこと,また,(B)引用発明と周知の技術を組み合わせて相違点に係る構成に至ることを,以下,確認する。

(阻害要因について)
引用発明の具体的な実施態様は「ダンス指導用の動画コンテンツ」であるところ,引用例には,段落【0002】及び【0091】の記載があるから,引用例の記載に接した当業者ならば,少なくとも,ダンスやスポーツ等の動きに関する指導を動画を用いて行う周知の技術を参照して種々の知見を取得し,引用発明のダンスの動きに関する動画による指導の改善を試みることは,通常の創意工夫の範囲内の事項である。
ここで,周知例1には,(a)1台のビデオカメラを使用してゴルフクラブスイング運動の正面画像を撮影して二次元画像解析を行い,(b)練習映像表示手段,三次元運動解析映像表示手段,模範演技映像表示手段に正面からの映像を表示する,第1実施形態(【図2】及びその説明)に加えて,第2実施形態として,(a')2台のビデオカメラを使用してゴルフクラブスイング運動の正面画像及び側面画像を撮影して三次元画像解析を行い,(b)練習映像表示手段,三次元運動解析映像表示手段,模範演技映像表示手段に正面からの映像を表示し,さらに,(b')正面からの映像と側面からの映像を合成し表示する(【図5】及びその説明)運動技能練習支援装置の発明が例示されるとともに,発明の背景として,「従来より,例えば,松田岩男,杉原隆著“運動心理学入門”(1987年,大修館書店)で述べられているように,運動動作の内容を伝達しようとする場合,言葉による説明だけでは言い尽せない部分が多く,視覚情報を用いて説明することは有力な伝達の手段である。したがって,運動技能指導では必ずといってよいほど視覚情報を利用した指導がなされている。具体的には,示範,図解,写真やフィルム,VTR,最近では,ディジタルビデオの利用などがそれであり,言葉による説明と視覚情報が併用されながら指導がなされている。」と記載されている(段落【0002】)から,周知例1の記載内容からは,運動動作の内容を伝達しようとするに際し視覚情報を用いて説明することは有力な伝達の手段であり,その一例として,正面からの映像を表示することに加えて,正面からの映像と側面からの映像を合成して映像表示すると良いことが把握できる。
そうしてみると,引用発明に対して周知例1記載の,正面からの映像と側面からの映像を合成して映像表示する構成を採用し,引用発明のダンスの動きに関する動画による指導の改善を試みることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項であるし,また,上述のような容易推考の過程において,その推考を妨げるような障害は何ら存在しない。
以上のとおりであるから,引用発明において周知の技術を組み合わせるに際し,特段の阻害要因が存在するとは考えられない。
なお,引用例の段落【0004】には,実写映像と,コンピュータグラフィックによるキャラクタ画像を三次元情報に基づいて合成した映像を作成する従来技術が開示されている。このような観点から見ても,引用例の記載に接した当業者が,実写による映像技術とコンピュータグラフィックスによる映像技術を組み合わせることに特段の困難を感じるとは考えられない。そもそも,引用発明は,実写によるモーションキャプチャ映像を用いて人工の三次元映像を作り出すことを前提とした技術であるから(段落【0035】),引用発明は,むしろ,周知例1に記載のような実際の映像技術を応用することを積極的に示唆しているといえる。

(相違点に係る構成に至ることについて)
本件出願の明細書の段落【0022】,【0079】,【0084】及び【0095】の記載からみて,本願発明の「主動画」とは,「動体を正面方向から見た動画」,すなわち,「動体の動作を最も把握しやすい方向から見た動画」を意味し,また,たとえ画面に表示されるものが単一の動画(「副動画」と呼べる他の動画が存在しない状態)であっても,正面(動作を最も把握しやすい方向)から見た動画は「主動画」と定義されている。
ここで,引用発明と周知の技術を単純に組み合わせるならば,ダンサーの人体画像の正面からの映像と側面からの映像を合成して映像表示する構成に至り,この場合,ダンサーの動きを最も理解しやすい方向である,人の正面から見た映像,すなわち主動画が,側面からの映像(副動画)とともに表示されることとなる。あるいは,引用発明が,ダンサーの人体画像を眺める視点を選択させる構成を具備するものであることを考慮すると,引用発明と周知の技術を組み合わせるに際し,ダンサーの動きを最も把握しやすい方向である,人の正面から見た映像,すなわち主動画を通常表示する動画とし,これに合成して表示する正面以外の方向の動画を選択表示する構成とすることも,容易である。
なお,ダンサーの動きを最も理解しやすい方向が,人の正面(顔が見える方向)から見た方向であることは一般常識であり,例えば,引用例においても,ダンサーの動きを説明する手段として,人の正面方向から見た図が採用されている。
いずれにせよ,引用発明に対して周知の技術を組み合わせた場合,引用発明の動画生成手段は,「動体に対して正面方向となる方向から動体が見られた内容の動画を主動画として生成すると共に,正面方向と異なる他方向から動体が見られた内容の動画を副動画として生成する」ように構成されることとなるから,「異なる複数の方向から」動体が見られた内容の三次元コンピュータグラフィックスに係る動画を,「方向ごとにそれぞれ」生成するものとなる。また,引用発明の表示処理手段は,「主動画と副動画とを組み合わせた状態で表示処理を行うこと」となるから,前記動画生成手段が生成した「方向ごとの複数の」三次元コンピュータグラフィックスに係る動画の表示処理を行うものとなる。
また,引用発明の表示処理装置1は,汎用のパーソナルコンピュータを適用したものであり(段落【0035】),また,引用例には,動画処理能力の問題に言及した記載(段落【0085】)もあるが,引用発明において,フレーム数を60フレーム/秒(段落【0042】)から落とせば動画処理能力に余裕が生じることは明らかであり,あるいは,専用のサーバ装置に動画処理を行わせること(段落【0092】)も引用発明が示唆する範囲内であるから,いずれにせよ,動画処理が非現実的なものとなることはない。
以上のとおりであるから,引用発明と周知の技術を組み合わせて相違点に係る構成に至ることは,当業者が容易にできることである。
なお,「対象物の運動状態を表示する際に,対象物を複数方向から見た画像を同時に表示すること」が周知の技術であることを示す刊行物は,周知例1の一例で十分と考えるが,念のために,特開平3-236868号公報(以下「周知例2」という。特に第6図を参照。),特開昭63-144664号公報(以下「周知例3」という。特に第2図を参照。)も例示する。

ところで,映像技術分野における常套手段にかんがみるならば,「主動画」は通常,画面の大きな領域を占めて表示される動画のことであり,「副動画」は通常,主動画に比して小さく表示される(「子画面」又は「ピクチャー・イン・ピクチャー」と称される)動画のことである。
本件出願の明細書の段落【0022】,【0079】,【0084】及び【0095】の記載,並びに,本件出願の特許請求の範囲の請求項2との関係を考えると,本願発明の「主動画」及び「副動画」の意味を,このような常套手段の構成にまで限定解釈することはできないが,念のため,本願発明の「主動画」及び「副動画」の意味を,「大きく表示される動画」及び「小さく表示される動画」と限定解釈して検討したとしても,以下のとおり,当業者が容易に発明できることに変わりはない。
すなわち,上述のとおり,対象物の運動状態を表示する際に,対象物を複数方向から見た,大きな主動画と小さな副動画として同時に表示することは,映像技術分野における常套手段に過ぎない。そうしてみると,相違点に係る構成は,引用発明と周知の技術との組み合わせにより克服されるものである。なお,仮に,ダンスやスポーツ等の映像技術分野に限定したとしても,大きな主画面と小さな副画面を合成して表示することは,周知例2の第6図及びその説明,周知例3の第2図及び2頁右下欄15行ないし3頁左上欄5行に例示されるように,周知の技術又は常套手段である。

いずれにせよ,引用発明を容易推考の出発点として,相違点に係る構成を克服し,本願発明の構成に至ることは,当業者が容易にできることである。
また,本願発明の作用効果は,引用発明及び周知の技術を組み合わせるに際し当業者が予測する効果の範囲にとどまるものであって,格別のものではない。

第4 結び
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-05-28 
審決日 2014-06-10 
出願番号 特願2007-325601(P2007-325601)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 571- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 居島 一仁  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 小林 紀史
樋口 信宏
発明の名称 動画表示システム、動画表示方法、およびコンピュータプログラム  
代理人 岡本 敏夫  
代理人 岡本 敏夫  

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