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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1290398
審判番号 不服2012-23592  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-29 
確定日 2014-08-21 
事件の表示 特願2007-512378「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月12日国際公開、WO2006/106574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、2005年3月31日を国際出願日とする出願であって、平成18年3月1日付けで国内書面が提出され、平成23年5月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成23年7月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年12月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成24年3月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年9月28日付けの補正却下の決定により上記平成24年3月9日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲又は図面についての手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年11月29日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲についての手続補正がなされ、その後、当審において平成25年4月9日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成25年5月29日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年11月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成24年11月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成24年11月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年7月1日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし7を下記の(b)に示す請求項1ないし7と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する複数のセンサ、
上記センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び
上記センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ
を備え、
上記検出信号及び上記指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われるエレベータ装置。
【請求項2】
上記センサ、上記電子安全コントローラ及び上記エレベータ制御部には、相互間の信号の伝送を無線通信で行うための通信部がそれぞれ設けられている請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】
上記電子安全コントローラは、上記かごを最寄り階に停止させるための指令信号の伝送を無線通信により行い、上記かごを非常停止させるための指令信号の伝送を有線通信により行う請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項4】
上記電子安全コントローラは、上記電子安全コントローラ自体の異常を検出可能であり、上記電子安全コントローラ自体の異常を検出した場合にも、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項5】
上記電子安全コントローラは、上記センサの異常を検出可能であり、上記センサの異常を検出した場合にも、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項6】
上記電子安全コントローラは、第1の安全プログラムに基づいてエレベータの異常を検出するための演算処理を実行する第1のマイクロプロセッサと、第2の安全プログラムに基づいてエレベータの異常を検出するための演算処理を実行する第2のマイクロプロセッサとを含み、
上記第1及び第2のマイクロプロセッサは、プロセッサ間バスを介して互いに通信可能になっており、かつ互いの演算処理結果を比較することにより上記第1及び第2のマイクロプロセッサ自体の健全性を確認可能になっている請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項7】
上記かごと上記エレベータ制御部との間の信号の伝送も無線通信により行われる請求項1記載のエレベータ装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する複数のセンサ、
上記センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び
上記センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ
を備え、
上記検出信号及び上記指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われ、
上記電子安全コントローラと上記エレベータ制御部との間の情報の伝送は、無線通信で行われ、
上記センサからの検出信号は、無線通信により電子安全コントローラに送信され、
上記無線通信は、多重通信となっており、
上記電子安全コントローラから、エレベータの異常時に上記かごを急停止させるための安全回路部への非常停止指令は、通信ケーブルを通して伝送されるエレベータ装置。
【請求項2】
上記センサ、上記電子安全コントローラ及び上記エレベータ制御部には、相互間の信号の伝送を無線通信で行うための通信部がそれぞれ設けられている請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項3】
上記電子安全コントローラは、上記かごを最寄り階に停止させるための指令信号の伝送を無線通信により行う請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項4】
上記電子安全コントローラは、上記電子安全コントローラ自体の異常を検出可能であり、上記電子安全コントローラ自体の異常を検出した場合にも、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項5】
上記電子安全コントローラは、上記センサの異常を検出可能であり、上記センサの異常を検出した場合にも、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項6】
上記電子安全コントローラは、第1の安全プログラムに基づいてエレベータの異常を検出するための演算処理を実行する第1のマイクロプロセッサと、第2の安全プログラムに基づいてエレベータの異常を検出するための演算処理を実行する第2のマイクロプロセッサとを含み、
上記第1及び第2のマイクロプロセッサは、プロセッサ間バスを介して互いに通信可能になっており、かつ互いの演算処理結果を比較することにより上記第1及び第2のマイクロプロセッサ自体の健全性を確認可能になっている請求項1記載のエレベータ装置。
【請求項7】
上記かごと上記エレベータ制御部との間の信号の伝送も無線通信により行われる請求項1記載のエレベータ装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正後の請求項1は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「上記検出信号及び上記指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われるエレベータ装置。」の記載を、「上記検出信号及び上記指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われ、
上記電子安全コントローラと上記エレベータ制御部との間の情報の伝送は、無線通信で行われ、
上記センサからの検出信号は、無線通信により電子安全コントローラに送信され、
上記無線通信は、多重通信となっており、
上記電子安全コントローラから、エレベータの異常時に上記かごを急停止させるための安全回路部への非常停止指令は、通信ケーブルを通して伝送されるエレベータ装置。」とするものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「エレベータ装置」における「信号の伝送」の形態について限定したものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものを含むので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-137055号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0004】
図15は従来のエレベータ制御装置の構成を示す図であり、巻上機1の駆動によってロープ2を介して乗りかご3とカウンタウエイト4とをつるべ式に昇降させるロープ式エレベータにおけるエレベータ制御装置の構成が示されている。
【0005】
主制御装置を構成する主制御回路(CPU)11は、巻上機1の軸端1aに設けられた回転センサ5からの出力信号を受けて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う。また、この主制御回路11とは別系統で、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21が設けられている。」(段落【0004】及び【0005】)

b)「【0036】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施形態におけるエレベータ制御装置の構成を示す図である。なお、図1の装置構成において、従来例として図15に示したエレベータ制御装置の構成と共通する部分には同一符号を付して説明するものとする。
【0037】
図1に示すように、巻上機1の駆動によってロープ2を介して乗りかご3とカウンタウエイト4とをつるべ式に昇降させるロープ式エレベータにおけるエレベータ制御装置において、エレベータの基本制御を行う主制御回路(メインコントローラ)11と別に、終端階強制減速装置の制御回路(サブコントローラ)21が独立して設けられている。
【0038】
終端階強制減速装置の制御回路21には、乗りかご3の終端階付近での位置を検出する複数のリミットスイッチ6a?6fの出力と、乗りかご3の速度を検出するかご速度検出器7の出力が接続されている。図1の例では、最下階側から上方向にリミットスイッチ6a、6b、6cが所定間隔毎に一列に配設されており、最上階側から下方向にリミットスイッチ6d、6e、6fが所定間隔毎に一列に配設されている。これらのリミットスイッチ6a?6fはそれぞれの位置で乗りかご3に取り付けられた図示せぬ着検板の通過を検知して、その位置信号を制御回路21に出力する。
【0039】
制御回路21は、終端階減速停止装置をソフトウェア的に実現するものであり、マイクロコンピュータ(CPU)からなる。この制御回路21には、上記各リミットスイッチ6a?6fからの信号と、図示せぬガバナ(調速機)の軸端に設けられたかご速度検出器7からの信号が入力される。これらの信号をソフトウェア的に処理して乗りかご3を終端階付近で減速停止させる。
【0040】
ここで、制御回路21には、WDT監視回路22が設けられている。WDT監視回路22は、制御回路21が正常動作しているときには0?Nのカウント動作を繰り返し行い、制御回路21に異常が発生し、カウント値が所定値Nになっても0クリアできない状況のときに(これをWDTトリップと呼ぶ)、WDT信号をONにして自動リセット回路24に出力する。このWDT監視回路22は主制御回路11にも接続されており、主制御回路11ではWDT監視回路22の状態を常に監視できるようになっている。
【0041】
自動リセット回路24は、WDT監視回路のWDT信号がONになったときに、制御回路21に対してリセット信号を出力する。この場合、図15に示した従来のリセット回路22では保守員がリセット解除操作を行うまでリセット信号が保持されていたが、この自動リセット回路24は自動リセット解除機能を備えており、例えばタイマにより一定時間後にリセット解除を行うように構成されている。
【0042】
また、昇降路ピット内には、乗りかご3用のバッファ8aとカウンタウエイト4用のバッファ8bが設けられている。バッファ8a、8bは、それぞれピット底部に設置されており、乗りかご3やカウンタウエイト4の衝撃を緩和するものである。
【0043】
図2に本発明のリレー回路の構成を示す。
【0044】
図2において、図16に示した従来のリレー回路と同じ部分には同一符号を付してある。従来と異なる点は、終端階強制減速装置が乗りかごの速度異常を検出した際に安全回路を遮断してエレベータを緊急停止させるリレーをbcon(ON設定)としていることである。
【0045】
終端階強制減速装置の制御回路21と終端階強制減速リレー(1SR)31が接続されており、制御回路21が出力をOFFすれば、終端階強制減速リレー(1SR)31はOFFする。安全回路リレー(SCR)32の条件に終端階強制減速リレー(1SR)31が入っており、終端階強制減速リレー(1SR)31がOFFすれば安全回路リレー(SCR)32がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33の条件に安全回路リレー(SCR)32が入っており安全回路リレー(SCR)32がOFFすると、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がONしているときには、ブレーキコイル(BK)34が通電され、巻上機1のブレーキが開放された状態(ブレーキOFF)となる。一方、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFすると、ブレーキコイル(BK)34の通電が遮断され、巻上機1のブレーキが釈放された状態(ブレーキON)となる。
【0046】
また、主制御回路11には、モータ駆動制御用のインバータ35が接続されており、インバータ35を制御するゲート出力は、安全回路リレー(SCR)32がOFFすると遮断される。
【0047】
ここで、終端階減速装置の制御回路21は、通常時は終端階強制減速リレー(1SR)31をONしている。これにより、ブレーキは作用せず、乗りかご3は終端位置で通常に停止する。また、乗りかご3が昇降路内のリミットスイッチ6a?6fを通過したときの乗りかご3の速度が所定値を超えている場合に、終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFしてインバータ35を停止させると共に、巻上機1のブレーキをかけて乗りかご3がバッファ8aに当たる時に(上昇運転の時はカウンタウエイト4がバッファ8bが当たる時)の定格速度以下に強制的に減速させて停止させる。」(段落【0036】ないし【0047】)

c)「【0056】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施形態について図5および図6を参照して説明する。
【0057】
図5は本発明の第2の実施形態におけるエレベータ制御装置の構成を示す図であり、図1(第1の実施形態)と同じ部分には同一符号を付してある。なお、リレー回路の構成については図2と同様であるため、ここでは説明を省略するものとする。
【0058】
第2の実施形態において、上記第1の実施形態と異なる点は、主制御回路11と終端階強制減速装置の制御回路21との間に通信手段25が追加されていることである。この通信手段25は主制御回路11が制御回路21との間のハンドシェイクにより異常の有無をソフト的に検出するためのものであり、例えば双方向で書込み/読み込みが可能なデュアルポートRAMやシリアル伝送装置などが用いられる。また、主制御回路11は自動リセット回路24を直接操作して、制御回路21をリセットしたり、リセット解除できるようになっている。
【0059】
図6は第2の実施形態における主制御回路11の動作を示すフローチャートであり、制御回路21の異常を検出する方法としてインクリメントリターンを用いた場合の処理が示されている。すなわち、主制御回路11から制御回路21に対してある値を与えて、それがインクリメントされて戻ってきた場合に制御回路21が正常動作しているものとみなし、インクリメントされていなかった場合に制御回路21が異常動作しているものと見なす。
【0060】
図6に示すように、ます、主制御回路11は自動リセット回路24にリセット解除指令を出して終端階強制減速装置の制御回路21を再起動する(ステップC11)。
【0061】
ここで、主制御回路11は制御回路21と共有のインクリメントリターンエリア(INC_A)のデータをリードすると共に(ステップC12)、前回のインクリメントリターン値(INCOLD_A)をリードして(ステップC13)、INC_AとINCOLD_Aの両者の値を比較する(ステップC14)。その結果、インクリメントリターンエリア(INC_A)のデータが前回のインクリメントリターン値(INCOLD_A)より更新されていれば、主制御回路11は制御回路21が正常動作しているものと判断し、現在のINC_Aの値を主制御回路11のローカルエリアであるINCOLD_Aに格納し(ステップC21)、INC_Aの値に1を加算してINC_Aに格納する(ステップC22)。この間、乗りかご3の運転は継続的に行われている。
【0062】
一方、INC_Aの値が前回と同じ値であった場合には、主制御回路11は当該主制御回路11に設けられた図示せぬタイマをスタートして(ステップC15)、インクリメントリターンエリア(INC_A)のデータを再度リードする(ステップC16)。そして、上記タイマが予め設定された所定の時間を計時するまでの間に、INC_Aの値が前回から更新されないままタイマアウトした場合に(ステップC17、ステップC18のYes)、主制御回路11は制御回路21が異常動作しているものと判断して、乗りかご3を最寄りの階へ停止させる(ステップC19)。
【0063】
このように、主制御装置が健全であれば、終端階強制減速装置の制御回路21がWDTトリップした場合に、終端階強制減速装置の制御回路21との間のハンドシェイクによりソフトリスタートをかけて処理を再開できれば、乗りかご3の運転を継続することができるので、上記第1の実施形態と同様に制御回路21の誤動作により終端階でない位置で不用意に乗りかご3を停止させて、乗客を乗りかご3内に閉じ込めてしまうことを防止できると共に、WDT信号の監視以外に、制御回路21の動作異常を検出する機能を追加することでより安全性を高めることができる。」(段落【0056】ないし【0063】)

(2)上記(1)a)ないしc)及び図面の記載より分かること

以下は、従来例として説明されている図15のエレベータ制御装置並びに第1の実施形態として説明されている図1のエレベータ制御装置及び図2のリレー回路を参照しつつ、第2の実施形態として説明されている図5のエレベータ制御装置及び図2のリレー回路に着目して記載する。

イ)上記(1)a)及び図15並びに上記(1)b)及び図1の記載を参照して、上記(1)c)及び図5の記載をみると、回転センサ5、かご速度検出器7及びリミットスイッチ6a?6fは、エレベータの状態を検出するための検出信号を発生することが分かる。

ロ)上記(1)a)及び図15並びに上記(1)b)及び図1の記載を参照して、上記(1)c)及び図5の記載をみると、主制御回路11は、回転センサ5からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行うことが分かる。

ハ)上記(1)a)及び図15並びに上記(1)b)、図1及び図2の記載を参照して、上記(1)c)及び図5の記載をみると、「主制御回路11とは別系統で、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21が設けられて」おり、「制御回路21は、終端階減速停止装置をソフトウェア的に実現するものであり」、「終端階強制減速装置は、乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出して安全に停止させるための安全装置であって」、「この制御回路21には、上記各リミットスイッチ6a?6fからの信号と、図示せぬガバナ(調速機)の軸端に設けられたかご速度検出器7からの信号が入力され」ており、「乗りかご3が昇降路内のリミットスイッチ6a?6fを通過したときの乗りかご3の速度が所定値を超えている場合に、終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFしてインバータ35を停止させると共に、巻上機1のブレーキをかけて乗りかご3がバッファ8aに当たる時に(上昇運転の時はカウンタウエイト4がバッファ8bが当たる時)の定格速度以下に強制的に減速させて停止させる」ことから、制御回路21は、リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力することが分かる。

ニ)上記(1)a)及び図15並びに上記(1)b)及び図1の記載を参照して、上記(1)c)及び図5の記載をみると、「主制御回路11と終端階強制減速装置の制御回路21との間に通信手段25が追加されていることである。この通信手段25は主制御回路11が制御回路21との間のハンドシェイクにより異常の有無をソフト的に検出するためのものであり、例えば双方向で書込み/読み込みが可能なデュアルポートRAMやシリアル伝送装置などが用いられる。また、主制御回路11は自動リセット回路24を直接操作して、制御回路21をリセットしたり、リセット解除できるようになっている」ことから、制御回路21と主制御回路11との間の情報の伝送が行われることが分かる。

ホ)上記(1)a)及び図15並びに上記(1)b)、図1及び図2の記載を参照して、上記(1)c)及び図5の記載をみると、「主制御回路11とは別系統で、終端階強制減速装置を構成する制御回路(CPU)21が設けられて」おり、「制御回路21は、終端階減速停止装置をソフトウェア的に実現するものであり」、「終端階強制減速装置は、乗りかご3が昇降路の終端階に向けて走行中に所定の位置に対して速度が定格速度以内に減速できていない状態を検出して安全に停止させるための安全装置であって」、「この制御回路21には、上記各リミットスイッチ6a?6fからの信号と、図示せぬガバナ(調速機)の軸端に設けられたかご速度検出器7からの信号が入力され」ており、「終端階強制減速装置が乗りかごの速度異常を検出した際に安全回路を遮断してエレベータを緊急停止させるリレーをbcon(ON設定)としてい」て、「終端階強制減速装置の制御回路21と終端階強制減速リレー(1SR)31が接続されており、制御回路21が出力をOFFすれば、終端階強制減速リレー(1SR)31はOFFする。安全回路リレー(SCR)32の条件に終端階強制減速リレー(1SR)31が入っており、終端階強制減速リレー(1SR)31がOFFすれば安全回路リレー(SCR)32がOFFする。ブレーキ制御回路リレー(BKR)33の条件に安全回路リレー(SCR)32が入っており安全回路リレー(SCR)32がOFFすると、ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFF」し、「ブレーキ制御回路リレー(BKR)33がOFFすると、ブレーキコイル(BK)34の通電が遮断され、巻上機1のブレーキが釈放された状態(ブレーキON)とな」り、「主制御回路11には、モータ駆動制御用のインバータ35が接続されており、インバータ35を制御するゲート出力は、安全回路リレー(SCR)32がOFFすると遮断され」、「乗りかご3が昇降路内のリミットスイッチ6a?6fを通過したときの乗りかご3の速度が所定値を超えている場合に、終端階強制減速リレー(1SR)31をOFFしてインバータ35を停止させると共に、巻上機1のブレーキをかけて乗りかご3がバッファ8aに当たる時に(上昇運転の時はカウンタウエイト4がバッファ8bが当たる時)の定格速度以下に強制的に減速させて停止させる」ことから、制御回路21から、エレベータの異常時にかごを緊急停止させるための安全回路への緊急停止指令が伝送されることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明>

「エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する回転センサ5、リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7、
回転センサ5からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う主制御回路11、及び
リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する制御回路21
を備え、
検出信号及び指令信号の伝送が行われ、
制御回路21と主制御回路11との間の情報の伝送が行われ、
リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7からの検出信号は、制御回路21に伝送され、
制御回路21から、エレベータの異常時にかごを緊急停止させるための安全回路への緊急停止指令が伝送されるエレベータ装置。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う」、「主制御回路11」、「制御回路21」、「制御回路21に伝送」、「緊急停止」、「緊急停止指令」及び「安全回路」は、それぞれ、本件補正発明における「かごの運転を制御する」、「エレベータ制御部」、「電子安全コントローラ」、「電子安全コントローラに送信」、「急停止」、「非常停止指令」及び「安全回路部」に相当する。
また、刊行物に記載された発明における「回転センサ5」、「リミットスイッチ6a?6f」及び「かご速度検出器7」は、それぞれ、エレベータの状態を検出するための検出信号を発生するものであるから、本件補正発明における「センサ」に相当し、刊行物に記載された発明における「回転センサ5」、「リミットスイッチ6a?6f」及び「かご速度検出器7」は、本件補正発明における「複数のセンサ」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する複数のセンサ、
センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び
センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ
を備え、
検出信号及び指令信号の伝送が行われ、
電子安全コントローラとエレベータ制御部との間の情報の伝送が行われ、
センサからの検出信号は、電子安全コントローラに送信され、
電子安全コントローラから、エレベータの異常時にかごを急停止させるための安全回路部への非常停止指令が伝送されるエレベータ装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

「検出信号及び指令信号」、「情報]及び「非常停止指令」の「伝送」に関し、
本件補正発明においては、「検出信号及び指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われ」、「情報の伝送は、無線通信で行われ」、「センサからの検出信号は、無線通信により電子安全コントローラに送信され」、「無線通信は、多重通信となっており」、「非常停止指令は、通信ケーブルを通して伝送される」のに対し、
刊行物に記載された発明においては、そのようになっているか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

エレベータ装置において、信号伝送における通信ケーブル(信号線)の本数を減少させるために、有線方式に代えて、無線方式を採用するとの課題は、本件出願前周知の課題(例えば、特開昭64-60586号公報[特に、第2ページ右下欄第2ないし末行及び第5ページ左上欄第8行ないし右上欄第4行]及び特開平6-227766号公報[特に、【0002】及び【0066】]等参照。以下、「周知課題」という。)であり、この周知課題を考慮すると、刊行物に記載された発明においても、同様の課題が内在しているものといえる。
一方、エレベータ装置における信号伝送の形態について、(かごを急停止させるための)安全回路信号の伝送を有線方式とし、その他の信号の伝送を無線方式を含む方式とすることは、本件出願前周知の技術(例えば、特開昭64-60586号公報[特に、第4ページ右上欄第16行ないし左下欄第2行及び第5ページ左上欄第8行ないし右上欄第4行並びに第2図]及び特開平6-227766号公報[特に、段落【0003】]等参照。以下、「周知技術1」という。)であり、また、信号伝送の信頼性を向上させるために、無線通信を多重通信とすることは、本件出願前周知の技術(例えば、特開平6-227766号公報[特に、【0060】及び【0065】]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
してみると、刊行物に記載された発明において、検出信号及び指令信号、情報及び「緊急停止指令(本件補正発明における「非常停止指令」に相当する。)の伝送について、周知課題を考慮しつつ、周知技術1及び2を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明並びに周知課題、周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明並びに周知課題、周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成24年11月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成23年7月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物(特開2004-137055号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)及び(2)のとおりのものが記載されている。

(2)刊行物に記載された発明1

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明1」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明1>

「エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する回転センサ5、リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7、
回転センサ5からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいて巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う主制御回路11、及び
リミットスイッチ6a?6f及びかご速度検出器7からの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する制御回路21
を備え、
検出信号及び指令信号の伝送が行われるエレベータ装置。」

3.対比・判断

本件発明と刊行物に記載された発明1とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物に記載された発明1における「巻上機1を駆動制御するなどのエレベータの基本制御を行う」、「主制御回路11」及び「制御回路21」は、それぞれ、本件発明における「かごの運転を制御する」、「エレベータ制御部」、「電子安全コントローラ」及び「電子安全コントローラに送信」に相当する。
また、刊行物に記載された発明1における「回転センサ5」、「リミットスイッチ6a?6f」及び「かご速度検出器7」は、それぞれ、エレベータの状態を検出するための検出信号を発生するものであるから、本件発明における「センサ」に相当し、刊行物に記載された発明1における「回転センサ5」、「リミットスイッチ6a?6f」及び「かご速度検出器7」は、本件補正発明における「複数のセンサ」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物に記載された発明1とは、
「エレベータの状態を検出するための検出信号を発生する複数のセンサ、
センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてかごの運転を制御するエレベータ制御部、及び
センサからの検出信号が入力され、入力された検出信号に基づいてエレベータの異常を検出し、エレベータを安全な状態に移行させるための指令信号を出力する電子安全コントローラ
を備え、
検出信号及び指令信号の伝送が行われるエレベータ装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

「検出信号及び指令信号」の「伝送」に関し、
本件発明においては、「検出信号及び指令信号の少なくとも一部の信号の伝送は、無線通信により行われる」のに対し、
刊行物に記載された発明1においては、そのようになっているか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

上記相違点1について検討する。

エレベータ装置において、信号伝送における通信ケーブル(信号線)の本数を減少させるために、有線方式に代えて、無線方式を採用するとの課題は、上記第2[理由][3]2.で述べたとおり、本件出願前周知の課題(例えば、特開昭64-60586号公報[特に、第2ページ右下欄第2ないし末行及び第5ページ左上欄第8行ないし右上欄第4行]及び特開平6-227766号公報[特に、【0002】及び【0066】]等参照。以下、「周知課題」という。)であり、この周知課題を考慮すると、刊行物に記載された発明1においても、同様の課題が内在しているものといえる。
一方、エレベータ装置における信号伝送の形態について、少なくとも一部の伝送を無線方式とすることは、本件出願前周知の技術(例えば、特開昭64-60586号公報[特に、第4ページ右上欄第16行ないし左下欄第2行及び第5ページ左上欄第8行ないし右上欄第4行並びに第2図]及び特開平6-227766号公報[特に、段落【0003】]等参照。以下、「周知技術3」という。)である。
してみると、刊行物に記載された発明1において、検出信号及び指令信号の伝送について、周知課題を考慮しつつ、周知技術3を適用して、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明1並びに周知課題及び周知技術3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明1並びに周知課題及び周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-10 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-10-17 
出願番号 特願2007-512378(P2007-512378)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B66B)
P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 聖子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
林 茂樹
発明の名称 エレベータ装置  
代理人 曾我 道治  
代理人 飯野 智史  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  

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