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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1290424
審判番号 不服2012-22276  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-12 
確定日 2014-08-20 
事件の表示 特願2008-545259「エレベータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日国際公開、WO2008/062500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本件出願は、2006年11月20日を国際出願日とする出願であって、平成20年10月22日に国内書面が提出され、平成23年11月15日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月20日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成24年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年11月12日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同時に、同日付けで特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成25年2月8日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成25年3月27日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件発明

本件出願の請求項7に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成24年11月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(なお、本件出願の特許請求の範囲の請求項7は、上記平成24年11月12日付けの手続補正により補正される前の(すなわち、平成24年1月20日付けで提出された手続補正書により補正された)請求項8に対応するものであるところ、上記平成24年11月12日付けの手続補正によっても発明特定事項について何らの補正がなされておらず、上記平成24年1月20日付けで提出された手続補正書により補正されたままである。)

「【請求項7】
昇降路内を昇降されるかご、
上記かごの位置を監視するとともに、上記かごの速度が予め設定された過速度に達するかどうかを監視する制御装置、
複数の乗場ドア、及び
上記乗場ドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段
を備え、
上記制御装置には、通常運転用の過速度パターンと、保守運転用の過速度パターンとが設定されており、
上記制御装置は、上記かごの位置の情報と、上記かごの走行方向の情報と、上記ドア開閉検出手段からの情報と、上記過速度パターンとに基づいて、現在の過速度を設定するとともに、上記かごが停止している階以外の上記乗場ドアの開放が上記ドア開閉検出手段により検出されると、上記過速度の設定値を低くするエレベータ装置。」

3.刊行物に記載された発明

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭59-64484号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「エレベーター昇降路内の器具の保守,点検作業は、保守員がエレベーターのかごの上に乗つて行うのが普通である。第1図はこの作業を説明するための図である。
第1図において、1はエレベーターかご、2はかご上に乗つた保守員、2’はかご上の保守時運転用の運転盤である。
3は昇降路底部、4は昇降路底部3に設けられた緩衝器、5は最下階、6は最下階5の乗場の扉の戸じめ機構部、7はかご1に固定されたカム、8,9はかご1が最下階5を所定距離だけ行き過ぎるとカム7に押されてかご1を停止させる制限スイツチで、昇降路に固定されている。」(第1ページ右下欄第4ないし16行)

b)「エレベーターはガバナによつて制限されている速度の範囲で運転され、制御装置が正常であれば制限スチツチ8,9が動作することなく、その手前で安全に停止する。
しかし、制御装置に異常が発生すると、正常の停止位置では停止せず、制限スイツチ8,9が開放して電磁ブレーキが動作し、さらに緩衝器の緩衝作用も加わつて、停止位置は大きくずれるけれども安全に停止することができる。
この模様を図示したのが第4図である。図において、H_(0)は最上階の正規の停止位置、H_(1)は最上階の制限リレー12の動作する位置、H_(2)は同じく13の動作する位置、L_(0)は最下階の正規の停止位置、L_(1)は制限スイツチ8の動作する位置、L_(2)は同じく9の動作する位置、L_(3)は緩衝器4が緩衝動作を開始する位置、L_(4)は緩衝器4の緩衝作用のなくなる位置、L_(f)(審決注:第4図に照らして、「L_(f)」は、「L_(f0)」の明らかな誤記と認める。)は昇降路3の底部の位置、V_(H)は平常運転のときの最大速度、V_(HG)は速度制限用ガバナの動作する速度である。」(第3ページ左上欄第8行ないし右上欄第6行)

c)「本発明の目的は保守時運転中にエレベーターの速度が異常に高くなつた場合、それを抑制するとともに、エレベーターのかごを十分下にまで安全に降下させ、最下階の乗場の戸じめ機構部等の点検を可能にする方法を提供するにある。」(第4ページ左上欄第14ないし18行)

d)「第7図において、V_(MH)は保守運転中、正常に運転された場合の最高速度、V_(MG)は保守時運転時に動作する速度制限装置の動作速度の最大値で、V_(MH)よりも僅かに大きな値に設定される。
61は最上階制限スイツチ12が設けられている位置H_(1)と最下階制限スイツチ8が設けられている位置L_(1)の間の速度制限装置の動作速度曲線で、この場合はV_(MG)の値に一定とする。
62はL_(1)とL_(7)の間の速度制限装置の動作速度曲線である。L_(7)は最下階の戸じめ機構部等の保守点検が可能な位置であり、かつ、緩衝器4が押しきられて緩衝作用のなくなる位置L_(4)よりも上方にあつて、緩衝器の緩衝作用がまだ期待される位置である。
動作速度曲線62はL_(7)の位置で図のように零にし、かつ、エレベーターの速度がこの曲線に達して速度制限装置が動作した場合、かごが必ずL_(4)よりも上方で安全に停止できるように定める。」(第4ページ右上欄第4行ないし左下欄第1行)

e)「このように、保守時運転用の速度制限装置を採用し、第7図のような動作速度曲線に設定すると、たとえば、最下階の戸じめ機構部の保守点検のため所定の低い位置にまで安全にかごを降下させることが可能となる。」(第4ページ左下欄第13ないし17行)

f)「81は速度指令発生回路、82は運転制御回路、83は速度制御回路、84は主回路、85は安全回路、86は保守時運転時の制限速度信号発生回路、87は保守時運転時の速度制限回路で、86とともに、いわゆる、電気式ガバナを構成している。
91は呼び信号、92は交流電源、93は保守時運転指令、94は機械式ガバナである。
・・・・・中略・・・・・
まず、平常運転の場合について説明する。このときは105cが閉じて、105d,105d’が開いているので点線の回路は関係がなくなる。
呼び信号が91より与えられると、運転制御回路82は連続位置信号発生回路80より送られてくるかごの位置と呼び信号から、上昇もしくは下降の何階床運転であるかを判断して、速度指令発生装置81に信号を与え、適切な速度指令を発生させる。
運転制御回路83は81からの指令と速度検出用交流発電機79からの信号を比較して主回路84の例えばサイリスタを制御して電動機77の速度を制御する。
電動機77はシーブ75を介してかごを動かす。
エレベーターの速度がある制限値すなわち、第4図のV_(HG)に達すると、機械式ガバナ94が動作し、安全回路85に信号が送られ、主回路84を遮断すると同時に、電磁ブレーキ78を動作させてエレベーターを停止させる。・・・・・中略・・・・・
保守時運転の場合には105cが開いて105d,105d’が閉じ点線の回路が生きる。
93より保守時運転の指令が与えられると運転制御回路82では保守時運転時の速度指令を発生するよう速度指令回路81に指令する。速度制御装置83は保守時運転速度で運転するよう主回路84を制御する。
保守時運転中、何らかの原因で速度が上昇し、保守時運転時の速度制限装置の動作速度曲線、例えば、第7図の61に達すると87より出力がでて、安全回路85が動作してエレベーターは停止する。」(第5ページ左上欄第3行ないし左下欄第9行)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)b)、d)、e)及びf)並びに第4図、第7図及び第8図の記載によれば、第7図におけるV_(HG)は、平常運転時に速度制限用ガバナの動作する速度であるから、最上階の制限リレー12の動作する位置H_(1)と制限スイツチ8の動作する位置L_(1)の間において、速度制限用ガバナの動作する速度であるV_(HG)上の線分(第7図において、速度制限装置の動作速度曲線61と平行に右側に描かれる線分)は、平常運転時の速度制限用ガバナの動作速度曲線であることが分かる。

ロ)上記(1)b)、d)、e)及びf)並びに第4図、第7図及び第8図の記載によれば、第7図における61及び62は、保守時運転時に動作する速度制限装置の動作速度曲線であることが分かる。

ハ)上記(1)b)、d)、e)及びf)並びに第7図、第8図及び第9図の記載を上記イ)及びロ)とあわせてみると、(保守時運転時には、)保守時運転時の速度制限回路87は保守時運転時の制限速度信号発生回路86とともに電気式ガバナを構成しており、連続位置信号発生回路80より送られてくるかご位置信号は、制限速度信号発生回路86に入力されていて、保守時運転時に動作する速度制限装置の動作速度曲線に達すると保守時運転時の速度制限回路87より出力がでて、安全回路85が動作してエレベーターは停止すること、及び、(平常運転時には、)エレベーターの速度が平常運転時の速度制限用ガバナの動作速度曲線に達すると、機械式ガバナ94が動作し、安全回路85に信号が送られ、主回路84を遮断すると同時に、電磁ブレーキ78を動作させてエレベーターを停止させることから、少なくとも、安全回路85、保守時運転時の速度制限回路87、保守時運転時の制限速度信号発生回路86、機械式ガバナ94を含む装置は、エレベーターかご1の位置を監視するとともに、エレベーターかご1の速度が予め設定された過速度に達するかどうかを監視する制御装置であることが分かる。

ニ)上記(1)a)並びに第1図及び第8図の記載によれば、エレベーターは、複数の乗場戸を備えていることが分かる。

ホ)上記(1)b)、d)、e)及びf)並びに第7図、第8図及び第9図の記載を上記ハ)とあわせてみると、制御装置は、エレベーターかご1の位置の情報と、保守時運転の指令と、動作速度曲線とに基づいて、現在の過速度を設定するとともに、保守時運転の指令が与えられると、過速度の設定値を低くすることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物1に記載された発明>

「昇降路内を昇降されるエレベーターかご1、
エレベーターかご1の位置を監視するとともに、エレベーターかご1の速度が予め設定された過速度に達するかどうかを監視する制御装置、
複数の乗場戸
を備え、
制御装置には、平常運転時の速度制限用ガバナの動作速度曲線と、保守時運転時に動作する速度制限装置の動作速度曲線とが設定されており、
制御装置は、エレベーターかご1の位置の情報と、保守時運転の指令と、動作速度曲線とに基づいて、現在の過速度を設定するとともに、保守時運転の指令が与えられると、過速度の設定値を低くするエレベーター。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2005-206346号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0001】
本発明は、エレベーター装置の保守点検作業するにあたり、保守員が昇降路内に入り込んでこれを行う場合、安全に保守点検できる方法に関わり、保守点検モードの設定およびその解除に関する。」(段落【0001】)

b)「【0009】
本発明は、保守員が昇降路内に侵入し、昇降路内で保守点検作業するときに安全を確保するために保守員自身が安全操作をすることなくまた、センサーなどの外部機器を付加することもなく、簡単に保守員が昇降路内に侵入したことを検出し、安全な保守点検作業の環境を作り出すことを目的とする。」(段落【0009】)

c)「【0010】
このような問題を解決するために本発明は、昇降路内を昇降する乗りかごが、任意の乗り場階に停止しているときに、乗りかごの停止している乗り場階以外の少なくとも1つ乗り場扉を開けた場合に、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換えてエレベーター装置の保守点検をする。乗りかごの停止している乗り場階以外の乗り場扉を開けることにより保守員が昇降路内に侵入したとみなし、保守点検モードに切り換える。この場合は保守員が昇降路内に立ち入る場合以外ありえないからである。これは、かご扉の開閉に状態に関係なく適用される。」(段落【0010】)

d)「【0012】
昇降路内を昇降する乗りかごが任意の乗り場階に停止しているときに、かご扉が開いている状態において、乗りかごの停止している乗り場階以外の少なくとも1つ乗り場扉を開けた場合に、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換えてエレベーター装置の保守点検をする。これは、かご扉が開いている場合に適用される。」(段落【0012】)

e)「【0020】
本発明の安全保守点検方法の構成は以下のとおりである。
1)乗りかごの停止している乗り場階以外の少なくとも1つの乗り場扉を開ける場合に、昇降路内に保守員が侵入したと判断し、エレベーター装置を通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換える。
2)かご扉が閉まっている時に、少なくとも1つの乗り場扉が開いたことを検知し、その時に、昇降路内に保守員が侵入したと判断し、エレベーター装置を通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換える。
3)かご扉が開いている時に、乗りかごの停止階以外の少なくとも1つの乗り場扉のが開いたことを検知しその時に、昇降路内に保守員が侵入したと判断し、エレベーター装置を通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換える。
【0021】
保守点検モードは、また自動走行禁止モードである。自動走行禁止モードとは通常のエレベーター運行を停止し、従って乗りかごの昇降運転を停止し、保守員の必要に応じて行う操作にのみにより乗りかごの昇降運転できる状態になっていることをいう。」(段落【0020】及び【0021】)

f)「【0030】
(ケース3)
ケース2の場合のかご扉3が閉まっている場合に対してケース3においてはかご扉が開いている場合についての保守点検モードの設定および解除について説明する。図4において、ステップS1で、かご扉3は戸全開かどうか検出する。ステップS2で、乗りかご2の停止している乗り場階6以外の乗り場扉4が開いたかを検出する。乗り場階6以外の乗り場扉4が開いている場合、乗りかご2はその停止階で休止し、乗りかご2内は「管制運転中」灯が点灯し、乗り場では「休止」灯が点灯する(ステップS3)。以降はケース1と同様であり、説明は省略する。」(段落【0030】)

(5)上記(4)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)a)、d)及びf)並びに図4の記載によれば、「乗りかご2の停止している乗り場階6以外の乗り場扉4が開いたかを検出する」ことから、エレベーター装置は、乗り場扉の開閉状態を検出する扉開閉検出手段を備えていることが分かる。

ロ)上記(4)a)ないしf)の記載によれば、エレベーター装置は、乗りかごが停止している乗り場階以外の乗り場扉の開放が扉開閉検出手段により検出されると、昇降路内で保守員が保守点検作業を行っている可能性があるとみなして、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換えることが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物2に記載された発明>

「乗り場扉の開閉状態を検出する扉開閉検出手段を備え、乗りかごが停止している乗り場階以外の乗り場扉の開放が扉開閉検出手段により検出されると、昇降路内で保守員が保守点検作業を行っている可能性があるとみなして、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換えるエレベーター装置。」

4.対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「エレベーターかご1」、「乗場戸」、「平常運転時の速度制限用ガバナの動作速度曲線」、「保守時運転時に動作する速度制限装置の動作速度曲線」、「動作速度曲線」及び「エレベーター」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「かご」、「乗場ドア」、「通常運転用の過速度パターン」、「保守運転用の過速度パターン」、「過速度パターン」及び「エレベータ装置」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「昇降路内を昇降されるかご、
かごの位置を監視するとともに、かごの速度が予め設定された過速度に達するかどうかを監視する制御装置、
複数の乗場ドア
を備え、
制御装置には、通常運転用の過速度パターンと、保守運転用の過速度パターンとが設定されているエレベータ装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>

本件発明においては、「乗場ドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段」を備え、制御装置は、「かごの位置の情報と、かごの走行方向の情報と、ドア開閉検出手段からの情報と、過速度パターンとに基づいて、現在の過速度を設定するとともに、かごが停止している階以外の乗場ドアの開放がドア開閉検出手段により検出されると、過速度の設定値を低くする」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、乗場戸(本件発明における「乗場ドア」に相当する。)の開閉状態を検出するドア開閉検出手段を備えているか否か不明であり、制御装置は、「エレベーターかご1の位置の情報と、保守時運転の指令と、動作速度曲線とに基づいて、現在の過速度を設定するとともに、保守時運転の指令が与えられると、過速度の設定値を低くする」点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明及び本件発明は、何れも、エレベータ装置の技術分野に属するものであり、しかも、エレベータ装置の保守点検作業時における安全を確保するとの目的において、軌を一にするものである。
そこで、本件発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記載された発明における「乗り場扉」、「扉開閉検出手段」、「乗りかご」、「乗り場階」及び「エレベーター装置」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本件発明における「乗場ドア」、「ドア開閉検出手段」、「かご」、「階」及び「エレベータ装置」に相当する。
そうすると、刊行物2に記載された発明は、これらの相当関係に基づき、本件発明の用語を用いて以下のように表現することができる。
「乗場ドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段を備え、かごが停止している階以外の乗場ドアの開放がドア開閉検出手段により検出されると、昇降路内で保守員が保守点検作業を行っている可能性があるとみなして、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換えるエレベータ装置。」
そして、この本件発明の用語を用いて表現した刊行物2に記載された発明から、保守点検モードに切り換える条件に着目すると、以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
「エレベータ装置において、乗場ドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段を備え、かごが停止している階以外の乗場ドアの開放がドア開閉検出手段により検出されると、通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換える技術。」

一方、刊行物1には、上記3.(1)d)、e)及びf)並びに第7図、第8図及び第9図の記載によれば、刊行物1には、保守時運転時においてエレベーターかご1を降下させる際の動作速度曲線について説明されていることから、刊行物1に記載された発明における「現在の過速度」は、エレベーターかご1の位置の情報と、保守時運転の指令と、エレベーターかご1の降下方向の情報、換言すれば、エレベーターかご1の走行方向の情報と、動作速度曲線とに基づいて設定されているともいえるところ、エレベータ装置において、かごの位置の情報と、かごの走行方向の情報と、過速度パターンとに基づいて、現在の過速度を設定することは、本件出願前周知の技術(例えば、平成23年11月15日付けの拒絶理由に示された国際公開第2005/049468号[特に、明細書第3ページ第1行ないし第5ページ第11行及び図1ないし3]及び国際公開第2006/103768号(2006年10月5日国際公開。)[特に、明細書の段落[0023]及び図1ないし3]等参照。以下、「周知技術」という。)である。
そして、「保守時運転の指令が与えられる」ことと「保守点検モードに切り換える」こととは、技術的意義からみて、同義であることから、「保守時運転の指令が与えられる」こと又はこれと同義の「保守点検モードに切り換える」ことに関し、刊行物1に記載された発明における「制御装置」は、「保守時運転の指令が与えられると、過速度の設定値を低くする」機能を備えていることから、「過速度の設定値を低くする」条件として「保守時運転の指令が与えられる」ことが設定されているといえる一方、前述のとおり、刊行物2に記載された技術は、「通常の運転走行モードから保守点検モードに切り換える」条件、換言すれば、「保守点検モードに切り換える」条件として「かごが停止している階以外の乗場ドアの開放がドア開閉検出手段により検出される」ことが設定されているといえる。

してみると、刊行物1に記載された発明における「制御装置」について、周知技術を考慮して、現在の過速度を設定し、エレベータ装置の保守点検作業時における安全を確保するとの目的の下で、「保守時運転の指令が与えられる」条件として、刊行物2に記載された技術を適用し、この適用に伴って必然的に、刊行物2に記載された技術における「乗場ドアの開閉状態を検出するドア開閉検出手段を備え」させて、相違点に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

5.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-10 
結審通知日 2013-09-17 
審決日 2013-10-28 
出願番号 特願2008-545259(P2008-545259)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出野 智之  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 藤原 直欣
林 茂樹
発明の名称 エレベータ装置  
代理人 飯野 智史  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 大宅 一宏  
代理人 曾我 道治  
代理人 上田 俊一  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 梶並 順  

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