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審決分類 審判 一部無効 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正  G08G
審判 一部無効 5項独立特許用件  G08G
審判 一部無効 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明  G08G
審判 一部無効 2項進歩性  G08G
管理番号 1290830
審判番号 無効2011-800136  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-08-04 
確定日 2014-07-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3229297号「移動体の操作傾向解析方法、運行管理システム及びその構成装置、記録媒体」の特許無効審判事件についてされた平成24年 2月27日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10129号平成24年10月17日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 平成25年4月15日付け訂正請求において、訂正事項1のうち請求項9についての訂正、訂正事項3(請求項15に係る訂正)、訂正事項5を認める。訂正事項1のうち請求項10、請求項11についての訂正、訂正事項2(請求項11に係る訂正)、訂正事項4、訂正事項6は認めない。 特許第3229297号の請求項9及び請求項15に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3229297号の主な経緯は次のとおりである。
平成11年10月12日 特許出願
平成13年 9月 7日 特許の設定登録(請求項の数20)
平成14年 5月20日 特許異議申立(異議2002-71235)
平成14年10月25日 訂正請求(請求項1?16の訂正と
請求項17?20の削除)
平成15年 1月21日 特許異議の決定
(訂正を認め、請求項1?16の特許を維持)
平成23年 8月 4日 本件無効審判請求
(無効2011-800136号)
平成23年 9月16日 訂正請求
平成24年 2月27日 一次審決(訂正を認める。無効としない。)
平成24年 4月 5日 審決取消訴訟の提起
(平成24年(行ケ)10129号)
平成24年10月17日 判決言渡
(平成24年2月27日にした審決を取り消す)
平成24年10月31日 上告受理申立
(平成24年(行ノ)10059号)
平成25年 3月12日 上告受理申立却下
平成25年 3月15日 訂正請求申立
平成25年 4月15日 訂正請求
平成25年 6月18日 弁駁書提出
平成25年 7月 8日 補正許否の決定(補正の許可)
平成25年 7月24日 答弁書提出
平成25年 8月 8日 訂正拒絶理由通知
平成25年 9月 9日 意見書提出

第2 請求人及び被請求人の主張の概略
1 請求人の主張
請求人の主張は、以下のとおりである。
本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:実願平3-26831号(実開平4-123472号)の
マイクロフィルム
甲第2号証:特開平6-223249号公報
甲第3号証:特開昭62-144295号公報
甲第4号証:特開平10-24784号公報
甲第5号証:特開平10-177663号公報
甲第6号証の1:特開平5-150314号公報
甲第6号証の2:特開平5-258144号公報
甲第6号証の3:特開平6-4733号公報
甲第6号証の4:特開平6-300773号公報
甲第6号証の5:特開平10-63905号公報
甲第7号証:特開平9-147159号公報
甲第8号証:東京地裁平成23年11月30日判決
(平成22年(ワ)第40331号)

2 被請求人の主張
本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明は、いずれも甲第1号証?甲第3号証、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とされるべきものではない。
また、被請求人は、乙第1の1号証ないし乙第1の3号証として、グーグル検索結果表示画面等(「車の挙動」等に関する検索結果等)をプリントアウトしたもの、乙第2号証として、平成23年(行ケ)10265号審決取消請求事件平成24年4月9日判決(写し)、乙第3号証として、広辞苑(岩波書店)、「管理」、「水準」の用語の意味を記載した頁を提出している。

第3 訂正について
1 訂正請求の趣旨及び訂正事項
平成25年4月15日に提出した訂正請求書により被請求人が求める訂正は、平成15年1月21日付けの特許異議の決定で特許維持された本件特許の明細書(平成14年10月25日付けの訂正明細書、以下、「本件基準明細書」という。)を、平成25年4月15日付け訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものであって、以下の訂正事項を含む。

(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件基準明細書の特許請求の範囲の請求項9に記載された事項について訂正するものであって、以下の訂正事項を含むものである。

ア 訂正事項1-1
「前記挙動を特定挙動と判定」を、「前記挙動を前記移動体の操作傾向を解析するためにその特微が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定」へと訂正する。

イ 訂正事項1-2
「判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、」を、「判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に従い、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、」へと訂正する。

ウ 訂正事項1-3
「前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し、」を、「前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて前記収集条件に適合する挙動に関わる情報を、前記移動体の操作者用の記録媒体に記録する記録手段とを有し、」へと訂正する。

エ 訂正事項1-4
「前記記録媒体は、前記移動体の識別情報、前記移動体の操作者の識別情報、前記移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、」を、「前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、」へと訂正する。

オ 訂正事項1-5
「このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されている」を、「このカード状記録媒体に少なくとも前記収集条件が設定されている」へと訂正する。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件基準明細書の特許請求の範囲の請求項11に記載された「前記特定挙動に関わる情報と区別して」を、「前記特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報と区別して」へと訂正する。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件基準明細書の特許請求の範囲の請求項15に記載された事項について訂正するものであって、以下の訂正事項を含むものである。

ア 訂正事項3-1
「移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件」を、「移動体の挙動を当該移動体の操作傾向を解析するためにその特微が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件」へと訂正する。

イ 訂正事項3-2
「所定の記録媒体」を、「前記移動体の操作者用の記録媒体」へと訂正する。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、本件基準明細書の段落【0016】に記載された
「本発明のデータレコーダは、移動体の挙動を検出するセンサ部と、前記挙動を特定挙動と判定するための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有する。前記特定挙動が危険挙動である場合、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される。
また、記録手段は、前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録するようにする。
この記録媒体は、好ましくは、移動体の識別情報、移動体の操作者の識別情報、移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体とし、このカード状記録媒体に少なくとも前記挙動条件が記録されるようにする。」を次のとおりに訂正する。
「本発明のデータレコーダは、移動体の挙動を検出するセンサ部と、前記挙動を前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に従い、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて前記収集条件に適合する挙動に関わる情報を前記移動体の操作者用の記録媒体に記録する記録手段とを有し、前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、このカード状記録媒体に少なくとも前記収集条件が設定されている。データレコーダである。
前記特定挙動が危険挙動である場合、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される。
また、記録手段は、前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動の発生前後所定時間の挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録するようにする。」

(5)訂正事項5
訂正事項5は、本件基準明細書の段落【0020】に記載された
「本発明の記録媒体は、移動体の特定挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する処理、前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体である。」
を次のとおりに訂正する。
「本発明の記録媒体は、移動体の挙動を、前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を、前記移動体の操作者用の記録媒体に設定する処理、前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体である。」

(6)訂正事項6
訂正事項6は、本件基準明細書の段落【0051】に記載された
「以下に説明する第2実施形態は、」を、「以下に説明する実施形態は、」に訂正する。

2 訂正目的、新規事項の有無の検討
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件基準明細書の特許請求の範囲の請求項9の発明を特定するための事項を限定してするもの、当該限定に伴う訂正及び明瞭でない記載を明確にしたものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするもの、及び、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0006】、【0007】、【0030】、【0038】、【0039】、【0041】、【0043】?【0046】、【0048】?【0050】、【0066】、【0068】、【0070】、【0085】等の記載から導かれる事項であるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1-2の訂正に伴って、訂正前の請求項11の「前記特定挙動に関わる情報と区別して」を「前記特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報と区別して」と訂正するものであり、引用する請求項9の訂正内容に合わせて訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0049】等の記載から導かれる事項であるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件基準明細書の特許請求の範囲の請求項15の発明を特定するための事項を限定してするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書の段落【0030】、【0039】、【0041】、【0043】?【0046】、【0048】?【0050】、【0068】、【0070】、【0085】等の記載から導かれる事項であるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項9、10、11を訂正したことに伴う明細書の発明の詳細な説明の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項3により、特許請求の範囲の請求項15を訂正したことに伴う明細書の発明の詳細な説明の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、本件基準明細書の「(第3実施形態)」に関する記載がされている段落【0051】における明らかな誤記である「第2実施形態」を「実施形態」と訂正するするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。

3 訂正の適否についての検討
訂正の適否は、特許請求の範囲の訂正については、無効審判が請求されている請求項について、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされた場合は、請求項ごとにその許否判断を行う。それ以外の特許請求の範囲の訂正及び明細書又は図面の訂正については、一体不可分にその許否を判断する。但し、無効審判が請求されている請求項について個別に許否判断がされる特定の請求項に関することが明らかな明細書又は図面の訂正は、当該請求項についての訂正の許否判断と一体的に判断する。

(1)訂正事項1及び2について
上記のとおり、訂正事項1は、請求項9の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、請求項9を訂正するものであるが、請求項10及び請求項11は請求項9の従属項であるから、訂正事項1は、請求項10及び請求項11についても請求項9と同じ内容の訂正をするものといえる。そして、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項2は、請求項11を訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1による請求項9の訂正は適法なものである。
一方、訂正後の請求項10、11は、訂正事項1により減縮された請求項9を引用しているから、訂正前の請求項10、11から減縮されている。そして、本件無効審判においては、請求項10、11については無効審判が請求されていないから、請求項10、11についての訂正が適法であるためには、訂正後の請求項10、11に係る発明(以下、「訂正発明3」、「訂正発明4」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである(特許法第134条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合する)必要があるが、この点については、訂正後の請求項9に係る発明について請求人が主張する無効理由を検討した後で判断する。

(2)訂正事項3について
上記のとおり、訂正事項3は、請求項15の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3は適法なものである。

(3)訂正事項4?6について
訂正事項4?6は、明細書の発明の詳細な説明についての訂正であるが、訂正事項5は、無効審判が請求されている請求項15に関することが明らかな明細書又は図面の訂正であるので、訂正事項3の許否判断と一体的に行う。そして、訂正事項5は、上記のとおり特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、請求項15についての訂正である訂正事項3が適法なものであるから、訂正事項5も適正なものである。
一方、訂正事項4、6は、本件発明の実無効審判が請求されている請求項9、請求項15に関することが明らかな明細書又は図面の訂正であるとは認められないから、上記請求項10、請求項11に係る訂正の適否の判断と一体的に行う。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、少なくとも、訂正事項1のうち請求項9についての訂正、訂正事項3、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、訂正を認める。
訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正、訂正事項2、訂正事項4、訂正事項6が適法なものか否かの判断については、「第5」において検討する。

第4 無効理由について
請求人の主張する無効理由は、平成25年6月18日付け弁駁書により上記「第2」(1)のとおりに補正されたので、その無効理由について検討する。

1 訂正後の発明の認定
本件訂正により請求項9及び請求項15は訂正されたので、訂正後の請求項9、請求項15に係る発明(以下、「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項9及び請求項15の記載により特定される、次のとおりのものである。

・訂正発明1
「移動体の挙動を検出するセンサ部と、
前記挙動を前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に従い、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて前記収集条件に適合する挙動に関わる情報を前記移動体の操作者用の記録媒体に記録する記録手段とを有し、
前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、
このカード状記録媒体に少なくとも前記収集条件が設定されている、
データレコーダ。」

・訂正発明2
「移動体の挙動を当該移動体の操作傾向を解析するためにその特微が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を前記移動体の操作者用の記録媒体に設定する処理、
前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理、
読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、
コンピュータ読取可能な記録媒体。」

2 引用文献の記載事項
(1)特開昭62-144295号公報(甲第3号証)
請求人が甲第3号証として提出した、本件特許の出願前(優先日前)に頒布された刊行物である、特開昭62-144295号公報には、車輌運転管理システムに関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【産業上の利用分野】
この発明は、車輌を利用するドライバーの運転状態を管理するシステムに係り、特に安全スピード及び粗雑運転を判別し、走行距離を用途(時間帯)別に区分して把握することができる車輌運転管理システムに関する。
【従来の技術】
ドライバーが乗用自動車やその他の車輌を運転する場合におけるスピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数、或いは用途別(私用、公用、通勤等)の走行距離の管理は、従来ドライバーの自覚に任されており、客観的に評価することは困難であった。
特に使用する車輌が社有自動車或いは社用供与自動車等の場合においては、管理区分乃至責任を明確にする必要性が高く、信頼性のある運転管理システムが望まれている。
【発明が解決しようとする問題点】
この発明は上記事情に鑑みて創案されたものであってその第1の課題は、スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予め設定された基準値を基に自動判定し、また走行距離を用途別(私用、公用、通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供するにある。
この発明の第2の課題は上記課題に加えて、他のデータ処理装置から入力されるデータと共に統合的にドライバーの運転管理データを得るシステムを提供するにある。」(第2頁左下欄第9行?右下欄第17行)

イ 「ここで運転データ記録装置2から管理データ処理装置3ヘデータを送るには書込部10Aを介して外部記憶体1ヘデータをストアさせ(管理データ処理装置3側でデータの読出しを行い)或いはデータ通信部10Bを介してのデータ転送させること等により行うことができる。」(第3頁右下欄第16行?第4頁左上欄第1行)

ウ 「【実施例】
以下に、この発明の車輌運転管理システムを社有自動車に適用し、外部記憶体としてICカードを用いた好適実施例を第3図及び第4図に基づいて説明する。
第3図は、車輌運転管理システムのハード構成を示す概略図であり、車輌Vに搭載された運転データ記録装置2と、該運転データ記録装置2により運転データが書込まれるICカード1と、事業乃至販売場所に設置してあって該ICカード1の磁気ストライプの識別データ記憶部1bから識別データを読取る磁気テープ読取式データ処理装置4と、管理事務所等にある管理データ処理装置3とから構成されている。
また、前記ICカードlは、カードにCPUとICメモリが設けられた構成からなって、運転データを書込むだめの運転データ記憶部1aを構成し、カードの外表面に取外けられた磁気ストライプが識別データを記憶している識別データ記憶部1bとなる構成からなっている。
そして、識別データ記憶部lbには、本実施例の場合、オペレータの識別コード(IDコード)が適宜書込手段によって予め書込まれている。
次ぎに、運転データ記録装置2は、データ読取書込部2aを備えたマイクロコンピュータ構成からなっており、I/OポートとCPUと演算部20とを有している。
この運転データ記録装置2には、車輌Vの駆動輪系乃至速度計に設けられて所定のサンプリング間隔で車速を検出する検出部5がインターフェースを介して接続されており、運転データ記録装置2に検出信号を入力している。
該検出部5で検出されない運転データはマニュアル入力スイッチ2b(本実施例では、入力データの種類を決定するロータリースイッチと、その値を設定するデジタルスイッチとからなっている)により随時入力することができる構成となっている。
また、運転データ記録装置2にはバッテリーバックアップされたクロックジェネレータからなる時計機能6が設けられており、日時や時刻等のクロック信号を演算部20に入力している。
次ぎに、上記演算された運転データは、マニュアル入力スイッチ2bから入力されたデータと共に運転データ記録装置2のデータ読取書込部10Aを介してICカード1の運転データ記憶部1aに書込まれる。
また、ドライバーが作業中に、例えばガソリンスタンドで給油する場合には、給油所にある磁気テープ読取式データ処理装置41に上記ICカード1の磁気ストライプからなる識別データ記憶部1bに記憶された識別コードを読取らせ、給油量・料金等の処理データと一体化して記録させる。」(第4頁左上欄第7行?左下欄第19行)

エ 「このように、運転に関連してドライバーがICカード1を磁気カードとして用いて磁気テープ読取式データ処理装置4で処理したデータは、ドライバーの識別コードに基づいて管理データ処理装置3で統合的にデータ処理乃至記録される。」(第4頁右下欄第9?13行)

オ 「上記システムにおいて、運転データの管理は第4図で示す如き構成で行われる。 即ち、検出部5から入力された車速データは、記録装置2の演算部20に入力される。 該演算部20では、車速データを安全スピード判定手段13に入力する。
この安全スピード判定手段13には、予め安全走行の励行として基準スピードが設定されており、入力された車速データが上記基準スピードを超えるか否かを判定する。
ここで、安全スピード判定手段13で判定する安全スピード基準値の一例を示せば、例えば第1基準を時速80Km以上110Km未満、第2基準を時速110Km以上に分けて判定する構成等である。
また、この車速データは、スピード変化率算出手段11に入力されて一定時間における速度変化率が算出され、次いで粗雑運転判定手段12でこの変化率が予め急速発進として設定されている基準変化率を超えているか否か及び急制動として設定されている基準変化率を下回っているか否かによって急速発進及び急制動が判定される。」(第5頁左上欄第13行?右上欄第13行)」

カ 「この運転評価手段31は、上記各データを基に運転評価を行うもので、その-例を示せば、安全スピード運転評価手段33では、安全スピード判定手段13で判定された基準スピード以上のスピードを出した回数をカウントし所定係数との積をポイントとして算出する。
ここで、安全スピード基準値は第1基準を時速80Km以上110Km未満とし、第2基準を時速110Km以上としており、安全スピード運転評価手段31でそれぞれの基準値を超えた回数をカウントしその回数とそれぞれの係数との積を算出する。
次ぎに粗雑運転評価手段32では、粗雑運転判定手段12で判定された急速発進及び急制動の回数がカウントされ、これに対応する所定係数との積をポイントとして算出する。」(第5頁右下欄第1?15行)

キ 「ここで、上記構成は運転データ記録装置2の演算部20と管理データ処理装置3の演算部30とで行われるものであり、特にどちらの演算部で処理されるかにつき本発明では限定されるものではないが、本実施例では運転評価手段31以降が管理データ処理装置3の演算部30で処理されている。」(第6頁左上欄第15行?右上欄第1行)

上記記載事項ア?キ及び図面の記載によれば、甲第3号証には、次の発明が記載されているといえる(以下、「甲3発明」という。)。

「スピードの出し過ぎや急発進・急制動を判定して、車輌を利用するドライバーの運転状態を管理する車輌運転管理システムであって、車輌に搭載された運転データ記録装置2と、運転データ記憶部1aとドライバーの識別コードが書き込まれた識別データ記憶部1bとを有し、運転データ記録装置2によって運転データが書込まれるICカード1と、給油所等に設置される磁気テープ読取式データ処理装置4と、管理事務所に設置される管理データ処理装置3から構成され、運転データ記録装置2には車速を検出する検出部5が接続され、運転データ記録装置2の演算部20は、安全スピード判定手段13、スピード変化率算出手段11、粗雑運転判定手段12等を備え、車速データが基準スピードを超えるか否かを判定するとともに、車速データから算出された速度変化率と予め設定された基準変化率を比較して急速発進及び急制動を判定し、これらの運転データがICカード1に書き込まれて管理データ処理装置3側で読み出しを行うことができるようにし、管理データ処理装置3の演算部30は、安全スピード運転評価手段33、粗雑運転評価手段32等を備え、安全スピード判定手段13で判定された基準スピード以上のスピードを出した回数をカウントしてポイントを算出するとともに、粗雑運転判定手段12で判定された急速発進及び急制動の回数をカウントしてポイントを算出し、さらに、ドライバーがガソリンスタンドで給油するときは、給油所にある磁気テープ読取式データ処理装置4にICカード1から識別コードを読取らせ、給油量等のデータと一体化して記録させ、磁気テープ読取式データ処理装置4で処理したデータがドライバーの識別コードに基づいて管理データ処理装置3で統合的にデータ処理される車輌運転管理システム。」

3 訂正発明1についての進歩性
(1)訂正発明1と甲3発明との一致点、相違点
訂正発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「車輌」、「車速」、「検出部5」、「スピードの出し過ぎや急発進・急制動」、「ICカード1」、「運転データ記録装置2」、「ドライバーの識別コード」は、それぞれ訂正発明1の「移動体」、「移動体の挙動」、「センサ部」、「特定挙動」、「カード状記録媒体」、「記録手段」、「移動体の操作者の識別情報」に相当し、甲3発明の車輌運転管理システムにおける「検出部5」、「ICカード1」、「運転データ記録装置2」等は、訂正発明1の「データレコーダ」に相当する。
甲3発明は、スピードの出し過ぎや急発進・急制動を判定するものであるから、訂正発明1における「移動体の操作傾向の解析が可能となる」との要件を備えるといえる。
甲3発明のICカード1には、ドライバーの識別コードが書き込まれた識別データ記憶部1bを有するものであるから、甲3発明は、訂正発明1における「記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成された」との要件を備える。

したがって、訂正発明1と甲3発明は、以下の点で一致する。

(一致点)
「移動体の挙動を検出するセンサ部と、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録する記録手段とを有し、前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であるデータレコーダ。」

そして、次の各点で相違する。

(相違点1)
訂正発明1は、特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報をカード状記録媒体に記録するものであり、かつ、該収集条件が該カード状記録媒体に設定されているのに対して、甲3発明は、そのようなものでない点。

(相違点2)
訂正発明1は、特定挙動について、移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動であるのに対し、甲3発明ではそのような特定がされていない点。

(相違点3)
訂正発明1は、挙動に関わる情報を記録媒体に記録する記録手段が、移動体の操作者用の記録媒体に記録するものであるが、甲3発明では、記録媒体について、移動体の操作者用の記録媒体と特定されていない点。

(2)相違点についての検討
以下、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
ア 訂正発明1、2の特許請求の範囲にいう「特定挙動」とは、急発進時の車両の挙動等の、「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」を意味するものであり、訂正明細書の段落【0030】、【0034】、【0050】及び図2、3等によれば、訂正発明1、2における「事故につながるおそれのある危険な操作」がされたか否かの判定は、例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えるか否かによってなされるものと認められる。また、訂正発明1、2の特許請求の範囲にいう「収集条件」とは、「特定挙動」発生前後の挙動に関わる移動体(車両)の情報を所定時間収集するための条件をいうが、訂正明細書の段落【0011】ないし【0021】、【0030】ないし【0035】、【0043】、【0048】ないし【0070】及び図面2、3、5によれば、具体的には、例えば、加速度等の閾値ないし閾値の組合せ、あるいはさらにGPSデータ等の限定を加えたものが上記「収集条件」に当たるものと認められる。
なお、訂正発明1、2で「特定挙動」の発生前後の挙動に関わる情報を収集する独自の技術的意義について、訂正明細書の段落【0050】には、「(d)所定のしきい値以上の角速度、加速度、速度等が発生したとき」が「特定挙動」の発生を判断するタイミングの1つとして掲げられており、例えば1つだけの物理量が所定の閾値を超えた場合に「特定挙動」が発生したと判定される構成が考慮外とされているわけではない。

イ 請求人が甲第1号証として提出した、本件特許の出願前(優先日前)に頒布された刊行物である、実願平3-26831号(実開平4-123472号)のマイクロフィルムは、車両の加速及び減速の履歴情報を有するデータを収集する車両運行データ収集装置に関する発明(考案)に係る文献であるところ、訂正発明1にいう「特定挙動」すなわち「事故につながるおそれのある危険な操作に伴う車両の挙動」の発生前後の車両の挙動に関する情報の収集に関して、次のとおりの記載がある。
・【実用新案登録請求の範囲、請求項1】
「車両の加速及び減速の履歴情報を有する車両運行データを記録媒体に記録して収集する車両運行データ収集装置において、予め定めた加減速ランクの各々に対応した複数の回数記録エリアを有する記録媒体と、車両の加減速を予め定めた複数の加減速ランクデータの一つに変換する変換手段と、車両の停車を検出する停車検出手段と、最大ランク又はこれに近いランクの急減速を検出する急減速検出手段と、減速の開始から車速が連続して所定値低下したことを検出する車速低下検出手段と、車両の走行開始又は前回サイクルの終了から前記停車検出手段、前記急減速検出手段又は前記車速低下検出手段による検出までを1サイクルとし、該1サイクルの間に前記変換手段によって変換した加減速ランクデータの内の最大の加減速ランクを検出する最大加減速ランク検出手段と、該最大加減速ランク検出手段により検出した最大加減速ランクに対応する前記記録媒体の回数記録エリアのデータをインクリメントする書込手段とを備えることを特徴とする車両運行データ収集装置。」
・段落【0005】
「このように、収集される車両運行データは車両が走行する道路の状況によって大きく左右され、一般道路を多く走行した場合には高ランクの加速の頻度が多くなり、高速道路を多く走行した場合には低ランクの加速の頻度が多くなる。従って、高ランクの加速が多い走行を行った車両の運転者が、高速道路を多く走行し、低ランクの多い走行をした車両の運転者の運転よりも、経済運転や安全運転をしていないと判断するのは適当でなく、この装置によって収集したデータはあまり有効に利用できるとは言い難い。」
・段落【0006】
「よって本考案は、上述した従来の問題点に鑑み、道路状況に左右されないで、運転者の運転状況を把握するのに有効な、加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる車両運行データ収集装置を提供することを課題としている。」
・段落【0010】
「以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。第2図は急加速及び急減速の履歴情報の他に、時々刻々変化する車速データ、走行距離などを含む車両運行データを収集するように構成された本考案による車両運行データ収集装置の一実施例を示す。」
・段落【0011】
「・・・車両運行データ収集装置は、車両のトランスミッションに図示しない連結手段によって連結され、車両の走行に伴って車速に応じた周波数の走行信号を発生する走行センサ1と、この走行センサ11からの走行信号をサンプリングして入力するマイクロコンピュータ(CPU)2と、実時間を表す時刻情報を発生するカレンダ及び時計3と、記録媒体としてのICメモリカード4が挿抜されるカードコネクタ5とを有する。」
・段落【0013】
「上記ICメモリカード4には、・・・カードを識別するためのカードIDを書き込むためのカードIDエリア41と、後述する運行データ解析装置によって書き込まれる各種の設定データDsを格納する設定データエリア42と、収集した車速や走行距離データを書き込むための運行データエリア43と、オプションデータエリア44とが形成されている。設定データエリア42には、・・・ランク1乃至8の加速ランクデータ(m/秒2)とランク1乃至8の減速ランクデータ(m/秒2)とが格納されている。」
・段落【0015】
「一方、CPU2内のRAMには、・・・設定データDsの格納エリア22a、・・・などが形成されている。設定データ格納エリア22aには、・・・1乃至8の加速ランクデータと1乃至8の減速ランクデータとがICメモリカード4から読み込まれて格納される。」
・段落【0017】
「CPU2が行う他の仕事は、所定時間毎に走行信号に基づいて加速、減速を演算により求め、予め定めた条件下で成立する1サイクル中の最大の加速、減速がどのランクに当てはまるかを上記加速ランクデータ及び減速ランクデータに基づいて決定し、・・・」
・段落【0049】
「以上説明したように本考案によれば、停車毎の他、最大ランク又はこれに近いランクの急減速の検出や、減速の開始から車側の連続した所定値の低下の検出毎に、それまでの1サイクルの最大加減速ランクをインクリメントしているので、道路状況に左右されないで、運転者の運転状況を把握するのに有効な、加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる。」

そうすると、甲第1号証の車両運行データ収集装置は、運転者の操作(運転)傾向を把握するために車両の加速及び減速を分類(ランク分け)する基準となる加速ランクデータ及び減速ランクデータを、装置に挿入、接続されたICメモリカードに記録し、かつICメモリカードから読み込んだ加速ランクデータ及び減速ランクデータをCPUのRAMに格納して、上記分類に用いる構成を有するものである。
そして、甲第1号証に記載された甲1発明も、甲3発明と同じく、運転者の操作(運転)傾向を把握、分析するために車両の挙動に関する情報を収集、記録する装置に関するもので、技術分野が共通する。当該発明によって解決しようとする技術的課題も、甲1発明が運転者の操作(運転)傾向をより適切に把握するべく、「道路状況に左右されないで、運転者の運転状況を把握するのに有効な、加減速の履歴情報を含む車両運行データを収集することのできる車両運行データ収集装置を提供すること」にあるのに対し、甲3発明は「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予め設定された基準値を基に自動判定し、また走行距離を用途別(私用、公用、通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」(2頁)こと等にあって、運転者の操作(運転)傾向を分析する上でより有用、効果的な情報を収集、記録するための手段を提供するためのものである点で重なり合うものである。そうすると、運転者の操作(運転)傾向を把握、分析するために車両の挙動に関する情報を収集、記録する装置の技術分野の当業者にとっては、甲1発明を甲3発明に適用する動機付けがあると解して差し支えない。
補足するに、甲第3号証の2頁左下欄10ないし14行に「この発明は、車輌を利用するドライバーの運転状態を管理するシステムに係り、特に安全スピード及び粗雑運転を判別し、走行距離を用途(時間帯)別に区分して把握することのできる車輌運転管理システムに関する。」と記載されているのに対応して、訂正明細書の段落【0004】ないし【0007】に当該発明によって解決すべき技術課題が、交通事故等の発生を未然に防止するべく、交通事故の発生率が高い箇所での車両の操作傾向を適切に把握することができる移動体の操作傾向解析技術の提供にある旨が記載されているから、甲3発明と訂正発明1とは粗雑運転を検出、防止する手段として運転者による車両の操作傾向に関わる情報を効果的に収集、記録しようとする点でその技術的課題が共通するものであって、当業者であれば、甲3発明に甲1発明を適用して、訂正発明1に至ろうとする動機を抱くものである。

ウ (ア)ところで、甲第4号証(特開平10-24784号公報)は、運転に係る要因による異常又は異常に近い状況をコンピュータによって把握するための装置を備えた車両等の発明に関する文献であるところ、そこにおける請求項4の記載は、「内部に設置されたセンサから得られる運転状況に関する情報を監視し、前記運転に係る要因において異常の状況または異常に近い状況が発生したときこの発生した時間帯よりも前後に広げた時間帯における前記監視された運転状況に関する情報と走行環境に関する情報とを記憶手段または記録手段に蓄積するコンピュータを備えたことを特徴とする車両。」というものである。そうすると、甲第4号証では、車両の挙動に関する情報を収集、記録する装置において、運転に係る要因による異常又は異常に近い状況が発生した時点の前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集、記録する技術的事項が開示されていることが明らかである。

甲第4号証の段落【0004】には、「本発明の目的は、上記課題を解決すべく、自動車等の車両において、ドライバーの知識にたよることなく、常に運転に係る要因による異常または異常に近い状況をコンピュータによって把握して安全運転が実行できるようにした車両及び車両カルテシステムを提供することになる。また本発明の他の目的は、自動車等の車両の運転に係る要因の異常もしくは異常の前触れとなる情報を正しくドライバーまたは整備技術者に伝え、緊急度に応じて車両のメインテナンスを実行して常に安全運転が保たれるようにした車両及び車両カルテシステム並びに車両メインテナンス方法を提供することにある。また本発明の他の目的は、携帯型情報端末装置を用いて自動車等の車両に係るメンテナンス情報を早期に得られるようにして緊急度に応じて車両のメインテナンスを容易に実行できるようにして常に安全運転が保たれるようにした車両及び車両カルテシステムを提供することにある。」との記載があるし、段落【0005】には「上記目的を達成するために、本発明は、内部に設置されたセンサから得られる運転状況に関する情報を監視し、前記運転に係る要因(ハンドル、ブレーキ、アクセル、エンジン自体等)において異常の状況または異常に近い状況が発生したとき少なくとも前記監視された運転状況に関する情報を記憶手段または記録手段に蓄積するコンピュータを備えたことを特徴とする自動車等の車両である。また本発明は、内部に設置されたセンサから得られる運転状況に関する情報を監視し、前記運転に係る要因(ハンドル、ブレーキ、アクセル、エンジン自体等)において異常の状況または異常に近い状況が発生したとき少なくとも前記監視された運転状況に関する情報と走行環境に関する情報とを記憶手段または記録手段に蓄積するコンピュータを備えたことを特徴とする自動車等の車両である。また本発明は、内部に設置されたセンサから得られる運転状況に関する情報を監視し、前記運転に係る要因において異常の状況または異常に近い状況が発生したときこの発生した時間帯よりも前後に広げた時間帯における前記監視された運転状況に関する情報を記憶手段または記録手段に蓄積するコンピュータを備えたことを特徴とする自動車等の車両である。」との記載があるから、甲第4号証のコンピュータは車両の装置の異常の検出を第一の目的としているものである。
しかしながら、甲第4号証に記載された技術的事項が、一定の契機を基準時にして、その前後の車両の挙動に係る情報を収集、記録するというものであること自体は上記記載によっても否定されるものではなく、かかる技術的事項を周知技術として甲第4号証から認定することに支障があるわけではない(また、甲第4号証の段落【0032】には、車両の装置の異常とは無関係に、運転者の操作を分析して、警告情報を表示することが記載されているから、運転者の操作に係る情報の収集等が全く埒外とされているわけでもない。)。
そして、甲第4号証の装置は、車両内部に設置されたセンサから得られた運転に関する情報、すなわちハンドル、ブレーキ、アクセル、エンジン等の情報から運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を判定するが、これは具体的には、例えば、横加速度、ハンドルの向き、アクセルやブレーキの量等の組合せから、通常の運転時では合理的でない情報の組合せが生じているか否かによって判定するものである(段落【0005】、【0015】、図2)。

(イ)甲第5号証(特開平10-177663号公報)は、2つの異なる周期で車両の運航状態データを収集し、通常時には低い頻度(サンプリングレート)で、事故信号を検出した異常時は高い頻度で上記運航状態データをそれぞれ記録するデータ収集装置に関する発明に係る文献であるところ、段落【0006】には、「本発明に係るデータ収集装置は、移動体の所望の運航状態データを第1の周期でサンプリングして出力する手段と、この運航状態データを一時的に記憶保持するバッファメモリ手段と、取り外し可能な外部メモリ手段と、事故信号を検出しないときはデータロギング手段によってサンプリングされた運航状態データのうち第1の周期よりも遅い第2の周期でサンプリングされたデータを、外部メモリ手段に記憶させ、事故信号を検出したときはバッファメモリ手段に記憶保持されているデータを外部メモリ手段に記憶させる制御手段とを備えている。このように構成することにより本発明に係るデータ収集装置は、通常時には第2の周期で収集した運航状態データを外部メモリ等に記録し、事故発生時には第2の周期よりも速い第1の周期で収集した運航状態データを記録することができる。」との記載が、段落【0033】には、「ステップ101で事故信号を検出するとステップ108に移行し、 RAM7に記録されているデータを補助記憶部8とメモリカード3とに転送してデータ収集を終了する。このとき、事故信号を検出してからもさらにサンプリングを継続することにより事故後のデータを記録することもできる。」との記載がそれぞれある。ここで、甲第5号証にいう「運航状態データ」は、「移動体の稼働状況(例えば、タクシーにおける待機、回送、賃送や、トラックにおける荷役状況等)および運航状況(例えば、速度、変速段、制動信号、操舵信号、エンジン回転数、加速度信号、ヨーレート、温度、車載重量等)を示すデータ信号のことであ」るから(段落【0010】)、甲第5号証においては、交通事故の発生前後(より正確には「事故信号」の発生前後)の所定時間分の速度等の車両の挙動に関する情報を収集、記録する技術的事項が開示されているということができる。
そして、甲第5号証の段落【0022】には、エアバッグ作動信号を手掛かりとして「事故信号」を検出するが、加速度信号やエンジンの回転数、ブレーキ信号を手掛かりに用いてもよい旨が記載されているから、加速度等に閾値を設け、この閾値を超えた時点の前後の車両の挙動に関する情報を収集、記録する技術的事項が開示されていると評価することが可能である。

(ウ)甲第6号証の1(特開平5-150314号公報)は、車両内に複数の加速度センサと撮影装置を設け、衝突時の状況を撮影する車載用撮影装置の発明に係る文献であるが(特許請求の範囲、段落【0001】)、段落【0014】には「各撮影装置は、車両の走行中常時車両の前後左右方向の被写体を連続して撮影し、その撮影情報をそれぞれ記録装置に出力する。記録装置は、撮影装置から出力される撮影情報を記録媒体にエンドレス状に記録し、所定量撮影情報が記録されると、前に記録されている撮影情報を順次消去しながら新しい撮影情報を記録していく。」との記載が、段落【0015】には「加速度センサは、車両の前後方向と左右方向の加速度を常時検出して、加速度センサの検出出力が所定レベル以上になると、それを検知した制御手段は、車両が衝突や追突などの交通事故が発生したものと判断し、その時点から所定時間経過すると、記録装置の記録動作を停止させる。」との記載がある。そうすると、甲第6号証の1では、加速度センサの検出出力に閾値を設け、この閾値を超えた時点(交通事故の発生と判定される。)の前後の所定時間分の車両の挙動を撮影する技術的事項が開示されているということができる。

(エ)甲第6号証の2(特開平5-258144号公報)は、速度等の車両運行清報を収集、記録するデジタル運行記録装置に関する発明に係る文献であるところ、特許請求の範囲(請求項1)には、「・・・前記速度計測手段が発生する速度生データを衝撃が加わった時刻前後の所定時間の間前記事故解析データ領域に書き込む速度生データ書込手段と、車両に衝撃が加わった時刻を前記事故解析データ領域に書き込む衝撃発生時刻書込手段と、車両に衝撃が加わった時刻の前後所定回数、ブレーキ操作された時刻を前記事故解析データ領域に書き込む制動時刻書込手段とを備えることを特徴とするデジタル運行記録装置。」との記載が、段落【0007】には「本発明は、・・・交通事故の発生直前から直後の正確な車両の走行状況を記録することができるデジタル運行記録装置を提供することを目的としている。」との記載が、段落【0010】には「このようにして記録媒体13には、速度圧縮データや所定時間の間の速度生データだけでなく、車両に衝撃が加わった時刻、衝撃が加わった時刻の前後所定回数のブレーキ操作の時刻もそれぞれ記録されるようになるので、この記録を解析することにより、車両に衝撃が加わった時刻を事故発生時刻と見なして、その前後の速度やブレーキ操作の様子を知ることができる。」との記載がそれぞれある。そうすると、甲第6号証の2では、車両に衝撃が加わった時点を交通事故発生時点と見なして、この時点の前後の所定時間分の速度等の車両の挙動に係る情報を収集、記録する技術的事項が開示されているということができる。
なお、段落【0012】には、「CPU11には、インタフェース(I/F)12を介して、・・・図示しない衝撃センサが事故などの際に車両に加わるような所定値より大きな衝撃に応じて発生する衝撃信号・・・が入力される。」との記載があるから、上記における車両に衝撃が加わり、CPUによって交通事故が発生したとみなされる事象の有無は、具体的には、例えば所定の閾値を有する衝撃センサが発する信号の有無によって判定されるものである。

(オ)甲第6号証の3(特開平6-4733号公報)は、車両事故を解析するのに有効なデータを収集するための車両事故解析用データ収集装置に関する発明に係る文献であるところ、上記データの収集、記録に関し、次のとおりの記載がある。
・請求項1
「自車両と検知物体との距離を検出し距離信号を出力する車間距離検出手段と、自車両の車速を検出し車速信号を出力する車速検出手段と、前記車間距離検出手段及び車速検出手段からの距離信号及び車速信号に基づいて追突の危険性が生じる程接近したと判断して警報信号を出力する接近警報判断手段と、車両に設けられ加速度を検出して加速度信号を出力する加速度検出手段と、書き替え可能な記憶手段と、前記加速度検出手段が発生する加速度信号に基づいて衝突を検出して衝突信号を発生する衝突検出手段と、前記接近警報判断手段による警報信号の発生から第1の一定時間の間と、前記衝突検出手段による衝突信号の発生から第2の一定時間の間に、前記車速信号、加速度信号を取り込んで得たデータを前記記憶手段に書き込む書き込み手段とを備えることを特徴とする車両事故解析用データ収集装置。」
・段落【0007】
「本発明は、・・・事故前後のデータを収集し、事故解析を容易に行うことができるようにした車両事故解析用データ収集装置を提供することを目的としている。」
・段落【0011】
「上記構成により、自車両と検知物体との距離を検出し距離信号aを出力する車間距離検出手段11及び自車両の車速を検出し車速信号bを出力する車速検出手段12からの信号a、bに基づいて、接近警報判断手段13が追突の危険性が生じる程接近したと判断して警報信号cを出力する。車両に設けられた加速度検出手段15が、加速度を検出して加速度信号dを出力する。加速度検出手段が発生する加速度信号dに基づいて、衝突検出手段19が衝突を検出して衝突信号hを発生する。接近警報判断手段13による警報信号cの発生から第1の一定時間の間と、衝突検出手段19による衝突信号hの発生から第2の一定時間の間に書き込み手段16cが、車速信号b、加速度信号dを取り込んで得たデータを記憶手段16bに書き込む。」
そうすると、甲第6号証の3では、この衝突信号hが発せられた時点を衝突時点とみなしてその前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集、記録する技術的事項が開示されているということができる。なお、甲第6号証の3では、自車両と他の車両等の検知物体との間の距離及び速度をもとに追突の危険性を判定し、警報信号cを発生するが、この警報信号cの発生時点に車両の挙動に係る情報の記録が開始される構成が採用されている。
ここで、段落【0015】には「15は車両の前後左右4カ所に設けた加速度(G)検出手段であり、これは加速度(G)を検出し加速度信号を出力する。」との記載、段落【0016】には「19はコンパレータによって構成され得る衝突検出手段であり、これは加速度検出手段15が発生する加速度信号dを入力して±0.4Gに相当する大きさの加速度信号dに応じて衝突信号hを発生する。」との記載がそれぞれあるから、車両に衝撃が加わり、CPUによって交通事故が発生したとみなされる事象の有無は、車両に設けられた加速度検出手段が発する加速度信号(加速度の大きさ)が所定の閾値を超えるか否かによって判定されるものである。
そして、甲第6号証の4(特開平6-300773号公報)は、交通事故データ記録装置等に関する発明に係る文献であり、甲第6号証の5(特開平10-63905号公報)はドライビングレコーダに関する文献であるところ、これらの文献でも交通事故発生時点ないし衝突等による衝撃発生時点の前後にわたって所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集、記録する技術的事項が開示されており、また、これらにおいても車両に設けられた加速度センサーによる検出値が所定の閾値を超えたか否かによって、上記交通事故発生等の有無を判定する構成が採用されているものである。

(カ)前記(イ)ないし(オ)を総合すれば、交通事故の発生前後の所定時間にわたって車両の挙動に係る情報を収集、記録すること、車両に設けられた加速度センサーが検出する加速度が所定の閾値を超えるか否かやエアバッグ作動信号の有無に代えて、車両の加速度等が所定の閾値を超えたか否かによって交通事故が発生したか否かを判定する程度の事柄は、本件優先日当時における車両の挙動に係る情報を収集、記録する装置の技術分野の当業者の周知技術にすぎないということができる。
そして、訂正発明1、2にいう「特定挙動」は前記のとおり「事故につながるおそれのある危険な操作に件う車両の挙動」であって交通事故の発生を前提とするものではない(交通事故が発生しない場合も含む)が、訂正明細書の段落【0030】、【0034】、【0050】、図2、3等の記載によれば、訂正発明1、2にあっても、例えばセンサ部から得られる角速度等のデータが所定の閾値を超えたか否かによって「特定挙動」の有無が判定されるから、装置の機能の面に着目すれば、訂正発明1、2において「特定挙動」発生前後の所定時間分の情報を収集、記録する構成は、上記周知技術において「交通事故」発生前後の所定時間分の情報を収集、記録する構成と実質的に異なるものではないということができる。
加えて、上記周知技術と甲3発明とは、属する技術分野が共通し、前者を後者に適用するに当たって特段障害はないから、本件優先日当時、かかる適用を行うことにより、当業者が訂正発明1、2にいう「特定挙動」の発生前後の所定時間分の車両の挙動に係る情報を収集、記録する構成に想到することは容易であるということができる。
さらに、甲第4号証にも、車両内部のセンサから得られた横加速度等の情報から、運転に係る要因による異常又は異常に近い状況の発生の有無を認定し、かかる状況の発生前後の所定時間分の車両の挙動に関する情報を収集、記録する技術的事項が開示されているところ(前記(ア))、上記と同様に装置の機能面の共通性に着目すれば、上記の結論に至ることが可能である。

エ 以上によれば、甲3発明に、「特定挙動」の発生前後の車両の挙動に係る情報を収集する条件を記録媒体に記録、設定する甲1発明と、「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4、第5、第6号証の1ないし5記載の周知技術を適用することにより、本件優先日当時、当業者において、甲3発明と訂正発明1の相違点1に係る構成(「特定挙動」発生前後の車両の挙動に係る情報を所定時間分収集するための収集条件に適合する挙動の情報を記録媒体に記録、設定する構成)に容易に想到することができたというべきである。

(相違点2について)
ア 訂正発明1の相違点2に係る構成における「特定挙動」についての「移動体の操作傾向を解析するため」との限定について、甲3発明も、スピードの出し過ぎや急発進・急制動を判定するもので、訂正発明1における「移動体の操作傾向の解析が可能となる」との要件を備え、その「スピードの出し過ぎや急発進・急制動」が訂正発明1の「特定挙動」に相当するものであるから、甲3発明の「特定挙動」も「移動体の操作傾向を解析するため」との限定を備えるものである。

イ 一方、請求人が甲第2号証として提出した、本件特許の出願前(優先日前)に頒布された刊行物である、特開平6-223249号公報は、自動車の操作に関するイベント(事象)を記録する自動車レーダシステムに関する発明に係る文献であるところ、車両の挙動に係る情報の収集条件の設定処理に関し、次のとおりの記載がある。
・段落【0008】
「本発明の良好な実施例は特に自動車レーダシステムと組み合わせて使用され、自動車機能、操作状態、環境などに関する選択可能の情報を記録する、着脱自在かつ外部読み出し可能の不揮発性固体メモリのイベント記録装置(ERA データ格納カード)を提供する。このERA(イベント記録装置)は特に、事故分析に有効な情報を記録することができる。」
・段落【0018】
「図2は、本発明の実施例のERAシステムのより詳細なブロック図である。RAMカード20は、インターフェイスレセプタクル21を介してマイクロコントローラ22に接続される・・・」
・段落【0043】
「RAMカード20は取り外し可能であり、・・・」
・段落【0047】
「本発明のこの態様はまた、自動車の操作指標をドライバーの意向に合わせて『特別化』あるいは『個人化』するのにも用いられる。例えば、量販車あるいはバスなどのドライバーはRAMカード20を用いて、所望の前方間隔、警告しきい値、自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータに関する各自の意向を車両に組み込むことができる。」

ウ そうすると、甲第2号証には、自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において、コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて、前方間隔、警告閾値や、自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し、変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し、その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されているということができる。
また、甲第2号証の段落【0047】の記載事項から、甲2発明は、前方間隔、警告閾値や、自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータに関する各自の意向を車両に組み込むことができる点、すなわち、そのパラメータをドライバー毎、すなわち、操作者毎に設定することが記載されている点が記載されている。
ここで、甲2発明は、車両の挙動に関する情報を収集、記録する装置に関するもので、甲3発明と技術分野が共通し、特定挙動の特徴を操作者毎に定められた挙動とする程度のことは、甲第1ないし3号証に接した当業者であれば、甲3発明に、甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。
そうすると、甲3発明に、甲2発明を適用して上記相違点2に係る訂正発明1の構成のように、特定挙動の特徴が操作者毎に定められた挙動とすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(相違点3について)
甲第2号証には、その段落【0043】に「各ドライバーは個人用のRAMカード20を所有すること」と記載され、甲2発明において、RAMカードがドライバー個人用のRAMカードであることが記載されており、また上記「(相違点2について)」で検討したように、甲2発明を甲3発明に適用することの動機付けがあることを考慮すれば、甲3発明に甲2発明を適用して、上記相違点3に係る訂正発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(4)小括
以上のとおり、訂正発明1は、甲3発明に、甲1発明、及び、甲2発明、並びに、「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4、第5、第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより、本件優先日当時、当業者において、容易に想到することができたというべきであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

4 訂正発明2についての進歩性
(1)訂正発明2と甲3発明との一致点、相違点
訂正発明2と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「車輌」、「スピードの出し過ぎや急発進・急制動」、「運転データ」、「ICカード1」、「管理データ処理装置3」は、それぞれ訂正発明2の「移動体」、「特定挙動」、「当該挙動に関わる情報」、「記録媒体」、「コンピュータ装置」に相当する。
甲3発明は、ICカード1に書き込まれた運転データを管理データ処理装置3側で読み出し、管理データ処理装置3の演算部30が、安全スピード判定手段13で判定された基準スピード以上のスピードを出した回数をカウントしてポイントを算出するとともに、粗雑運転判定手段12で判定された急速発進及び急制動の回数をカウントしてポイントを算出するものであるから、訂正発明2における「当該挙動に関わる情報が記録された記録媒体からその記録情報を読み出す処理」及び「読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理」を「コンピュータ装置に実行させる」との要件を備えるといえる。
したがって、訂正発明2と甲3発明は、以下の点で一致する。

(一致点)
「移動体の挙動を特定挙動と判定して当該挙動に関わる情報が記録された記録媒体からその記録情報を読み出す処理、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体。」

そして、次の点で相違する。

(相違点4)
訂正発明2は、特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を記録媒体に設定する処理をコンピュータ装置に実行させるものであるのに対し、甲3発明は、そのようなものでない点。

(相違点5)
訂正発明2は、特定挙動について、移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動であるのに対し、甲3発明ではそのような特定がされていない点。

(相違点6)
訂正発明2は、挙動に関わる情報を記録媒体に設定する処理が、移動体の操作者用の記録媒体に設定するものであるが、甲3発明では、記録媒体について、移動体の操作者用の記録媒体と特定されていない点。

(2)相違点についての検討
以下、上記各相違点について検討する。

(相違点4について)
ア 上記3(2)の「(相違点2について)」で検討したように、甲第2号証には、自動車用イベント(事象)記録装置(ERA)において、コンピュータ装置及び着脱可能なRAMカード(20)を用いて、前方間隔、警告閾値や、自動車の電子制御システムを介してセットされるその他のパラメータを設定する発明すなわちRAMカードに記録されているパラメータを変更し、変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し、その後変更されたパラメータをERAに適用する発明(甲2発明)が記載されている。
そして、甲2発明は、車両の挙動に関する情報を収集、記録する装置に関するもので、甲3発明と技術分野が共通する。そして、コンピュータ装置に処理を実行させて、着脱可能なRAMカード等の記録媒体に記録されているパラメータを変更し、変更されたパラメータをRAMカードに再度記録し、その後変更されたパラメータを上記収集・記録装置に適用する程度の事柄であれば、甲2発明の技術的課題である事故分析に有用な情報を記録するブラックボックス的機能を有する、車両の挙動に係る情報の記録装置(甲第2号証の段落【0001】?【0007】)とは不可分のものではなく、甲第1ないし3号証に接した当業者であれば、「スピードの出し過ぎや急発進・急制動の有無乃至その回数を予め設定された基準値を基に自動判定し、また走行距離を用途別(私用、公用、通勤等)に区分して把握してドライバーの運転管理データを得るシステムを提供する」こと等を技術的課題とする甲3発明に、甲2発明を適用する動機付けがあると解して差し支えない。

ウ したがって、甲3発明に甲1発明、甲2発明と甲第4、第5、第6号証の1ないし5記載の周知技術(前記(1)ウ(カ))を適用することにより、本件優先日当時、当業者において、甲3発明と訂正発明2の相違点4に係る構成に容易に想到することができたというべきである。

(相違点5について)
相違点5は、訂正発明2が、特定挙動について、移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動であるのに対し、甲3発明ではそのような特定がされていない点であり、実質的に相違点2と同一である。
そして、上記3(2)の「(相違点2について)」で検討したとおり、甲3発明に、甲2発明を適用して、上記相違点5に係る訂正発明2の構成のように、特定挙動の特徴が操作者毎に定められた挙動とすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(相違点6について)
相違点6は、訂正発明2の「記録媒体」が、「移動体の操作者用の記録媒体」と特定される点で、甲3発明と相違するものであるから、実質的に相違点3と同一である。
そして、上記3(2)の「(相違点3について)」で検討したとおり、甲3発明に甲2発明を適用して、上記相違点6に係る訂正発明2の構成のようにすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(4)小括
以上のとおり、訂正発明2は、甲3発明に、甲1発明、及び、甲2発明、並びに、「特定挙動」に相当する一定の契機(交通事故等)の発生前後所定時間分の車両の挙動に係る情報収集をする甲第4、第5、第6号証の1ないし6記載の周知技術を適用することにより、本件優先日当時、当業者において、容易に想到することができたというべきであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

第5 請求項10及び請求項11に係る訂正について
上記、「第4 3 訂正発明1についての進歩性」で検討したとおり、訂正後の請求項9に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明、及び、甲第4、第5、第6号証の1ないし6記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので、以下、訂正後の請求項10に係る発明(訂正発明3)及び訂正後の請求項11に係る発明(訂正発明4)の独立特許要件について検討する。

1 訂正発明3の独立特許要件
(1)訂正発明3
訂正発明3は、訂正後の特許請求の範囲の請求項10の記載により特定される、次のとおりのものである。
「前記特定挙動が危険挙動であり、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される、
請求項9記載のデータレコーダ。」

(2)訂正発明3についての対比
訂正発明3と甲3発明とを対比すると、訂正発明3は、訂正発明1を引用しているから、両者は、上記「第4 3(1)訂正発明1と甲3発明との一致点、相違点」の相違点1、相違点2、相違点3において相違する。
また、請求項10において限定している「前記特定挙動が危険挙動であり、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される」という点について検討すると、当該限定は、「特定挙動」が「危険挙動」であるという限定に他ならない。
そこで、当該限定事項について検討すると、本件訂正明細書の【発明が解決しようとする課題】、【発明の実施の形態】、【図7】等からみて、訂正発明3の「特定挙動」は、「急発進」、「急ブレーキ」を含むことは明らかであり、してみると、甲3発明の「急発進・急制動」は、訂正発明3の「危険挙動」に相当するものである。
してみると、請求項10で限定されている構成は、甲3発明も有しているというべきであるから、上記請求項10において限定している事項は、実質的相違点ではなく、訂正発明3と甲3発明とは、相違点1、相違点2、相違点3においてのみ相違する。

(3)相違点についての検討
相違点1、相違点2、相違点3については、上記「第4 3(2)相違点についての検討」で検討したとおりである。

(4)小括
したがって、上記「第4 3(2)相違点についての検討」で検討したように、訂正発明3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明、及び、周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、訂正発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

2 訂正発明4の独立特許要件
(1)訂正発明4
訂正発明4は、訂正後の特許請求の範囲の請求項11の記載により特定される、次のとおりのものである。
「前記記録手段は、前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録する、
請求項9記載のデータレコーダ。」

(2)訂正発明4についての対比
訂正発明4と甲3発明とを対比すると、訂正発明4は、訂正発明1を引用しているから、両者は、上記「第4 3(1)訂正発明1と甲3発明との一致点、相違点」の相違点1、相違点2、相違点3において相違し、さらに、以下の点で相違する。

(相違点7)
訂正発明4は、特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録する構成を有するのに対し、甲3発明はそのような構成を有さない点。

(3)相違点についての検討
ア 相違点1、相違点2、相違点3については、上記「第4 3(2)相違点についての検討」で検討したとおりである。

イ 相違点7について検討する。
請求人が甲第5号証として提出した本件特許の優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-177663号公報(甲第5号証)には、以下の事項が記載されている。
・【請求項1】
「移動体に搭載されて複数の運航状態データを収集するデータ収集装置において、
移動体の所望の運航状態データを第1の周期でサンプリングして出力する手段と、
この運航状態データを一時的に記憶保持するバッファメモリ手段と、
取り外し可能な外部メモリ手段と、
事故信号を検出しないときはデータロギング手段によってサンプリングされた運航状態データのうち第1の周期よりも遅い第2の周期でサンプリングされたデータを、外部メモリ手段に記憶させ、事故信号を検出したときはバッファメモリ手段に記憶保持されているデータを外部メモリ手段に記憶させる制御手段とを備えたことを特徴とするデータ収集装置。」
・段落【0034】
「また、事故信号を検出しなければ、予め設定した期間(例えば1日、1週間等)に亘ってデータ収集を行った後に上記操作を完了する。そして、乗務員または管理者によって、記録済みのメモリカード3はデータ収集装置1から取り外され、固定局サブシステム2のメモリカード入出力部10に装着される。メモリカード3に記録されているデータは直ちにデータ処理部11によって読み出され、運航データ保管部14に保管される。」
・段落【0035】
「以上のように、通常時においては高速サンプリングデータと低速サンプリングデータは2秒(第2の周期)ごとにメモりカードに記憶される。日時等のデータは1分(第3の周期)ごとに記憶される。そして、事故発生時には0.2秒周期(第1の周期)の高速サンプリングデータを記憶する。」

【図3】のフローチャートと上記記載事項から、甲第5号証には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。

(甲5発明)
「事故信号を検出しないときは、第1の周期よりも遅い第2の周期でサンプリングされた運航状態データを外部メモリ手段に記憶させ、事故信号を検出したときは第1の周期でサンプリングされたデータを外部メモリ手段に記憶させる車両のデータ収集装置」

ウ 甲5発明は、車両の挙動に関する情報(運航状態データ)を収集、記録する装置に関する点で甲3発明と共通の技術分野に属し、また、甲3発明も、検出部が所定のサンプリング間隔で運転データを検出し記録装置に信号を入力するものであり(甲第3号証第4頁右上欄第14?18行)、甲3発明と甲5発明に接した当業者が、記憶装置の容量を効率的に活用し、かつ、特定挙動には通常時より詳細な情報を提供すべく、甲3発明に甲5発明を適用して、上記相違点7に係る訂正発明4の構成のようにすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(4)小括
したがって、上記(3)及び「第4 3(2)相違点についての検討」で検討したように、訂正発明4は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明、及び、甲第5号証に記載された発明、並びに、周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、訂正発明4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3 訂正の可否について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、上記「第3 2(1)及び3(1)」で検討したように、特許法第134の2第1項ただし書き第1号、第3号を目的とする訂正であり、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3、4項に適合する。
しかしながら、訂正事項1で訂正される請求項10、11については無効審判が請求されておらず、また、上記「1及び2」で検討したとおり、訂正後の請求項10に係る発明、及び、訂正後の請求項11に係る発明はいずれも、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、特許法第134条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合せず、訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正は認めることができない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、上記「第3 2(2)及び3(1)」で検討したように、請求項11について、特許法第134条の2第1項ただし書第3号を目的とする訂正であり、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3、4項に適合するものである。
しかしながら、上記「1及び2」で述べたように、請求項10及び請求項11についての訂正事項1は認めることができず、また、無効審判請求が請求されていない特許請求の範囲の訂正については、一体不可分にその許否を判断し、上記 で述べたように訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正は認めることができないから、請求項11を訂正する訂正事項2も認めることができない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、上記「第3 2(4)」で検討したように、訂正事項1に伴う明細書の発明の詳細な説明の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
しかしながら、無効審判請求が請求されていない特許請求の範囲の訂正及び明細書又は図面の訂正については、一体不可分にその許否を判断するものであり、上記(1)で述べたように訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正は認めることができないから、訂正事項1に伴う明細書についての訂正である訂正事項4も認めることができない。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、上記「第3 2(6)」で検討したように、明細書について、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に規定する「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
しかしながら、明細書又は図面の訂正については、無効審判が請求されている請求項について個別に許否判断がされる特定の請求項に関することが明らかで、その請求項についての訂正の許否判断と一体的になされるものでなければ、他の訂正と一体不可分に許否判断されるものであるから、請求項9または請求項15についての許否判断と一体にされるとは認められない訂正事項6は認められない。

4 訂正についての結び
上記「第3」、及び、上記「3 訂正の可否について」(1)?(6)で検討したとおり、訂正事項1のうち請求項9についての訂正、訂正事項3、訂正事項5は認められるものの、訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正、訂正事項2、訂正事項4、訂正事項6は、訂正を認めることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の訂正事項1のうち請求項9についての訂正、訂正事項3、訂正事項5は認められるものの、訂正事項1のうち請求項10及び請求項11についての訂正、訂正事項2、訂正事項4、訂正事項6は、訂正を認めることができない。
また、本件特許の請求項9及び請求項15に係る発明は、甲第3号証、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
移動体の操作傾向解析方法、運行管理システム及びその構成装置、記録媒体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の特定挙動を示す挙動条件に従って、実際に検出された当該移動体の挙動における前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記特定挙動の発生事実に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を当該挙動の発生前後にわたって所定の記録媒体に記録するとともに、前記特定挙動が発生していない場合の前記移動体の挙動に関わる情報を間欠的に前記記録媒体に記録し、これらの記録された情報をもとに当該移動体の操作傾向を解析する、
移動体の操作傾向解析方法。
【請求項2】
前記移動体の操作者の識別情報、前記移動体の挙動環境、前記操作者の挙動履歴の少なくとも1つに基づいて前記操作傾向を解析する、
請求項1記載の操作傾向解析方法。
【請求項3】
互いに異なる複数の移動体操作要因に基づいて前記操作傾向を解析する、
請求項1記載の操作傾向解析方法。
【請求項4】
所定の収集条件を満足した移動体の挙動を検出して該挙動が検出されたときはその挙動の発生前後にわたって前記移動体の挙動を所定の記録媒体に記録する手段を備えたデータレコーダと、前記収集条件を設定する条件設定手段と、記録された情報に基づいて当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを有し、
前記データレコーダが、前記条件設定手段で設定した収集条件に適合する挙動に関わる情報のみをその挙動別に前記記録媒体に記録するように構成される、
移動体の運行管理システム。
【請求項5】
所定の収集条件を満足した移動体の挙動を検出して該挙動が検出されたときはその挙動の発生前後にわたって前記移動体の挙動を所定の記録媒体に記録する手段を備えたデータレコーダと、前記収集条件を設定する条件設定手段と、記録された情報に基づいて当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを有し、
前記データレコーダは、前記条件設定手段で設定した収集条件に適合する挙動に関わる情報をその挙動別に前記記録媒体に記録するように構成され、
更に、前記データレコーダは、前記収集条件を満足しない挙動に関わる情報を間欠的に記録する手段を有し、前記記録媒体上で、前記間欠的に記録された情報が前記収集条件に適合する挙動に関わる情報と区別されるように構成されている、
移動体の運行管理システム。
【請求項6】
前記条件設定手段が、前記移動体の操作者の識別情報、前記移動体の挙動環境、前記操作者の挙動履歴の少なくとも1つに従って前記収集条件を設定するように構成される、
請求項4または5記載の運行管理システム。
【請求項7】
前記条件設定手段は、互いに異なった移動体操作要因に従う複合的な収集条件を設定するように構成されている、
請求項4または5記載の運行管理システム。
【請求項8】
前記記録媒体が、前記移動体の識別情報、前記移動体を操作する操作者の識別情報、前記移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される各分類毎に作成されたカード状記録媒体である、
請求項4ないし7のいずれかの項記載の運行管理システム。
【請求項9】
移動体の挙動を検出するセンサ部と、
前記挙動を前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に従い、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて前記収集条件に適合する挙動に関わる情報を前記移動体の操作者用の記録媒体に記録する記録手段とを有し、
前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、
このカード状記録媒体に少なくとも前記収集条件が設定されている、
データレコーダ。
【請求項10】
前記特定挙動が危険挙動であり、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される、
請求項9記載のデータレコーダ。
【請求項11】
前記記録手段は、前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録する、
請求項9記載のデータレコーダ。
【請求項12】
移動体の特定の挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する条件設定手段と、
前記設定された収集条件に適合する移動体の挙動に関わる情報を記録した前記記録媒体からその記録情報を読み出し、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを備えて成る、
移動体の操作傾向解析装置。
【請求項13】
前記解析手段は、前記特定挙動に関わる情報とは異なった情報であって、当該特定挙動以外の挙動に沿って間欠的に記録された情報を前記記録媒体から読み出し、これらの情報に従って当該移動体の操作傾向を解析することを特徴とする、
請求項12記載の移動体の操作傾向解析装置。
【請求項14】
前記解析手段が、前記読み出した情報の統計処理項目を含む複数の処理項目を設けたメニュー画面を所定の表示装置に表示させ、特定の処理項目が選択されたときに当該処理項目に対応した解析処理を自動実行するように構成されている、
請求項13記載の移動体の操作傾向解析装置。
【請求項15】
移動体の挙動を当該移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を前記移動体の操作者用の記録媒体に設定する処理、
前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理、
読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、
コンピュータ読取可能な記録媒体。
【請求項16】
移動体の特定挙動に関する情報を収集するための第1の収集条件と、前記特定挙動以外の通常挙動に関する情報を収集するための第2の収集条件とを所定の記録媒体に設定する処理、
前記第1及び第2の収集条件に適合する挙動に関わる情報が区別して記録された前記記録媒体から挙動別の記録情報を読み出す処理、
読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、
コンピュータ読取可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両や鉄道等の移動体の挙動を表す運行データの管理システムに係り、特に、運転者の操作傾向の解析に適したデータレコーダ及びこれを利用した運行管理システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両その他の移動体の挙動に関わる測定データを記録するデータレコーダ及びこのデータレコーダに記録された測定データの解析を行う挙動解析装置を有する運行管理システムが知られている。この種の運行管理システムにおいて、車両の挙動に関わる測定データを検出して記録するデータレコーダは、セーフティレコーダとも呼ばれ、角速度計、加速度計、GPSレシーバから成るセンサ部と、このセンサ部で検出された測定データを記録するためのレコーダ部とから構成される。測定データは、具体的には、ロール、ピッチ、ヨーの角速度データ、二次元または三次元の加速度データ、緯度・経度・速度・方位を表すGPSデータ等である。
【0003】
レコーダ部に記録された測定データは、挙動解析装置で集計され、解析される。挙動解析装置はコンピュータ装置によって実現されるもので、測定データのうち、角速度データから旋回角速度を求め、加速度データから発進加速度及びブレーキ加速度を求め、さらに、GPSデータから車両の現在位置、時間、運行速度を求める機能を有している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来のデータレコーダは、例えば車両に一つ固定的に取り付けられ、しかも記録される測定データは、運転者が誰かにかかわらない。これは、従来のデータレコーダが、事故等が発生した場合に、その車両の挙動を事後的に解析して事故等の発生原因を究明するためのものであったことによる。そのため、利用範囲が著しく制限されてしまい、一般の運転者向けに普及させることが困難であった。
【0005】
また、従来は、車両の挙動に際して発生する測定データをすべて記録しているため、データレコード側では、記録を繰り返し行うとはいえ、所定期間内での記録のために多大な記録領域を確保しておかなければならず、これらを峻別する解析装置側でも重い処理が必要となる問題があった。
【0006】
さらに、従来のこの種の運行管理システムでは、運転者による操作傾向を把握して事故等の発生を未然に防止するための情報を生成するという観点は存在しなかった。
例えば自動車においては、交通事故発生の約7割は交差点等、運転者に複合操作が要求される箇所で発生している。すなわち、運転動作としては、アクセルまたはブレーキの操作を行うとともに、ハンドルの操作も行う必要のある箇所である。従来では、このような交通事故発生率の高い箇所での運転操作に対して、危険を認識する工夫が十分ではなかった。
【0007】
そこで本発明は、車両等の移動体の操作傾向を適切に把握することができる、移動体の操作傾向解析技術を提供することを主たる課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、移動体の操作傾向解析方法、この方法の実施に適した移動体の運行管理システム、データレコーダ、挙動解析装置、及び操作傾向解析のための処理をコンピュータ上で実行する上で好適となる記録媒体を提供する。
【0009】
本発明の移動体の操作傾向解析方法は、移動体の特定挙動を示す挙動条件に従って、実際に検出された当該移動体の挙動における前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記特定挙動の発生事実に応じて当該移動体の特定挙動に関わる情報を所定の記録媒体に記録し、この記録媒体に記録された情報をもとに当該移動体の操作傾向を解析することを特徴とする。
【0010】
前記特定挙動に関わる情報を当該挙動の発生前後にわたって前記記録媒体に記録するとともに、前記特定挙動が発生していない場合の前記移動体の挙動に関わる情報を間欠的に前記記録媒体に記録し、これらの記録された情報をもとに当該移動体の操作傾向を解析するようにしても良い。また、移動体の操作者の識別情報、移動体の挙動環境、操作者の挙動履歴の少なくとも1つに基づいて、あるいは、互いに異なる複数の移動体操作要因に基づいて操作傾向を解析するようにしても良い。
【0011】
本発明の移動体の運行管理システムは、所定の収集条件を満足した移動体の挙動を検出して該挙動が検出されたときはその挙動の発生前後にわたって前記移動体の挙動を所定の記録媒体に記録する手段を備えたデータレコーダと、前記収集条件を設定する条件設定手段と、記録された情報に基づいて当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを有し、前記データレコーダが、前記条件設定手段で設定した収集条件に適合する挙動に関わる情報のみをその挙動別に前記記録媒体に記録するように構成されるシステムである。
【0012】
なお、他の形態として、前記データレコーダが、前記収集条件を満足する挙動のみならず、前記収集条件を満足しない挙動に関わる情報をも間欠的に記録する手段を有するように構成してもよい。この場合、前記記録媒体上で、前記間欠的に記録された情報が前記収集条件に適合する挙動に関わる情報と区別されるように構成する。
【0013】
また、前記条件設定手段は、前記移動体の操作者の識別情報、前記移動体の挙動環境、前記操作者の挙動履歴の少なくとも1つに従って前記収集条件を設定するように、あるいは、互いに異なった移動体操作要因に従う複合的な収集条件を設定するように構成される。
【0014】
本発明の他の運行管理システムは、移動体の挙動が所定の収集条件を満たしているかどうかを検出する手段を有し、所定の収集条件を満たしているときの前記移動体の挙動を所定の記録媒体に記録するとともに、所定の収集条件を満たしているときの前記移動体の挙動とは別個に、前記所定の収集条件を満たしていないときの前記移動体の挙動を間欠的に所定の記録媒体に記録する手段と、記録された情報に基づいて当該移動体の操作傾向を解析する解析手段と、前記記録媒体に記録された情報をもとに当該移動体の運行状況を再現する手段とを有する、移動体の運行管理システムである。
【0015】
上記各運行管理システムに使用される記録媒体は、好ましくは、移動体の識別情報、移動体を操作する操作者の識別情報、移動体の挙動環境の少なくとも1つに従って分類される各分類毎に作成されたカード状記録媒体とする。
【0016】
本発明のデータレコーダは、移動体の挙動を検出するセンサ部と、前記挙動を前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件に従い、前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定し、前記移動体の操作傾向の解析が可能となるように、前記特定挙動の発生に応じて前記収集条件に適合する挙動に関わる情報を前記移動体の操作者用の記録媒体に記録する記録手段とを有し、前記記録媒体は、前記操作者の識別情報又は前記移動体の挙動環境に従って分類される分類毎に作成されたカード状記録媒体であり、このカード状記録媒体に少なくとも前記収集条件が設定されている、データレコーダである。
前記特定挙動が危険挙動である場合、前記記録手段は、当該危険挙動の条件を定めた条件パターンと前記センサ部で検出された挙動パターンとの適合性に基づいて前記危険挙動の発生の有無を判定し、危険挙動が発生したときは当該危険挙動に関わる情報を記録するように構成される。
また、記録手段は、前記特定挙動が発生していないと判定されている場合に当該移動体の挙動に関わる情報を前記特定挙動の発生前後所定時間の挙動に関わる情報と区別して間欠的に前記記録媒体に記録するようにする。
【0017】
本発明の挙動解析装置は、移動体の特定の挙動に関わる情報を収集するための収集条件を所定の記録媒体に設定する条件設定手段と、前記設定された収集条件に適合する移動体の挙動に関わる情報を記録した前記記録媒体からその記録情報を読み出し、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを備えて成る。
【0018】
本発明の他の挙動解析装置は、移動体の特定挙動に関する情報を収集するための収集条件を設定する収集条件設定手段と、前記移動体の特定挙動に関わる情報が記録された所定の記録媒体から前記情報を読み出し、この読み出した情報と所定の挙動パターンを特定するための条件パターンとを比較して当該移動体の操作傾向を解析する解析手段とを備えて成る。
【0019】
挙動解析装置において、前記解析手段は、例えば、前記特定挙動に関わる情報とは異なった情報であって、当該特定挙動以外の挙動に沿って間欠的に記録された情報を前記記録媒体から読み出し、これらの情報に従って当該移動体の操作傾向を解析するように構成する。あるいは、前記読み出した情報の統計処理項目を含む複数の処理項目を設けたメニュー画面を所定の表示装置に表示させ、特定の処理項目が選択されたときに当該処理項目に対応した解析処理を自動実行するように構成する。
【0020】
本発明の記録媒体は、移動体の挙動を、前記移動体の操作傾向を解析するためにその特徴が操作者毎に定められた挙動である特定挙動と判定して当該特定挙動の発生前後の挙動に関わる情報を所定時間分収集するための収集条件を前記移動体の操作者用の記録媒体に設定する処理、前記設定された収集条件に適合する挙動に関わる情報が記録された前記記録媒体からその記録情報を読み出す処理、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0021】
本発明の他の記録媒体は、移動体の特定挙動に関する情報を収集するための第1の収集条件と前記特定挙動以外の通常挙動に関する情報を収集するための第2の収集条件とを所定の記録媒体に設定する処理、前記第1及び第2の収集条件に適合する挙動に関わる情報が区別して記録された前記記録媒体から挙動別の記録情報を読み出す処理、読み出した情報から当該移動体の操作傾向を解析する処理をコンピュータ装置に実行させるためのディジタル情報が記録された、コンピュータ読取可能な記録媒体である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を、車両の操作傾向や危険挙動の事実を検出して運転者に提示する運行管理システムに適用した場合の実施の形態を説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による運行管理システムの構成図である。
この運行管理システム1は、車両に取り付けられるデータレコーダ10と、メモリカード20と、メモリカード20に運転者の固有情報や、車両の挙動の特徴を認識するための条件パターンを設定するとともに、これらの設定情報に基づいてメモリカード20に記録された情報を読み込んで車両の挙動内容を解析する挙動解析装置30とを有している。
【0024】
データレコーダ10は、センサ部11、カード収容機構12、レコーダ部13を含んで構成される。
センサ部11は、車両における三次元軸線回り(ロール、ピッチ、ヨー)の角速度データを検出するための角速度計111x,111y,111z、車両の前後左右方向の加速度データ(アクセル加速度、ブレーキ加速度、旋回加速度等)を検出する加速度計112x,112y、車両の現在の緯度・経度・速度・方位等を表すGPSデータを受信するGPSレシーバ113、車両計器等から車速パルスを取得するパルス取得機構114を有している。
【0025】
このセンサ部11から出力されるデータのうち、アクセル加速度(前後G)は+○G(○は数値、Gは重力加速度、以下同じ)、ブレーキ加速度(前後G)は-○G、右加速度(横G)は左折+○G、左加速度(横G)は右折-○G、旋回角速度(Yr等)は右が+○°/sec、左が-○°/secのように表現される。また、方位角速度(平均)は○°/secのように表現される。
【0026】
なお、GPSデータと車速パルスは、適宜切り換えて、あるいは併用して出力できるようになっている。例えば、GPSデータを受信できる通常の路上ではGPSデータを用い、GPSデータの届かないトンネル内では車速パルスを用いて速度等を表したり、それまで受信したGPSデータに基づく現在位置の補正等を行うようにする。
【0027】
カード収容機構12は、メモリカード20を離脱自在に収容してレコーダ部13との間のデータの読み出しや書き込みを支援するものである。
【0028】
レコーダ部13は、CPUとメモリとを含み、CPUがメモリの一部に記録された所定のプログラムを読み込んで実行することにより形成される、前処理部131、イベント抽出部132、データ読取部133、データ記録部134の機能ブロック、及びカウンタの機能を具備して構成される。
【0029】
前処理部131は、センサ部11から出力される角速度データに含まれるオフセット成分及びドリフト成分の除去処理を行う。また、角速度データ及び加速度データから成る慣性データとGPSデータとのマッチング処理を行う。つまりGPSデータは慣性データに対して2秒程度の遅れがあるので、2秒前の慣性データとのマッチング処理を行う。
【0030】
データ読取部133は、メモリカード20に設定された条件パターン、すなわち、車両の特徴的な挙動、例えば危険挙動の事実(以下、「イベント」)が発生したと認識するための一つの閾値または複数の閾値の組み合わせ又は例えば交差点旋回等の挙動パターンを認識してイベント抽出部132へ伝えるものである。
【0031】
イベント抽出部132は、センサ部11から出力され、前処理部131でオフセット成分等が除去されたデータから、イベント毎の条件パターンに適合する測定データ(角速度データ、加速度データ、GPSデータ、車速パルス等:以下、「イベントデータ」)を抽出し、そのイベントデータ及びその種別データ(条件パターンの識別データ)、イベント発生日時(GPSデータ)、イベント発生場所(GPSデータ)、各イベントの記録数(設定による)、イベント発生後の走行距離(例えば、急ブレーキをかけた後の走行距離:車速パルスが1パルス発生したら所定の車速パルスのスケールファクタ分だけカウントする。車速パルスが取得できない場合は、GPSデータに含まれる緯度・経度の変化によって速度が検出できるので、これを積分することにより、距離を出す)、及び初期情報(レコーダ番号、運転手名、車両番号名等)等をデータ記録部134に送出する。
【0032】
なお、測定日はGPSレシーバ112で受信した世界標準時に9時間を加算した日付であり、測定時間はGPSレシーバ112で受信した世界標準時に9時間を加算した時間である。イベント場所は、GPSデータに含まれる緯度・経度で特定できる位置情報である。
【0033】
データ記録部134は、これらのデータをファイル化してメモリカード20に記録する。また、イグニッションON/OFF、データレコーダ10の電源ON/OFFのほか、GPS通信正常・異常等が発生したときは、その発生時間、発生内容(何時、何処で、何が起こったか)を予め定めたビットパターンで記録できるようになっている。
【0034】
イベント抽出部132において認識されるイベント毎の条件パターンは、例えば、図2、図3に示すものである。図2は急発進の場合の条件パターン、図3は交差点における条件パターンであり、それぞれ「リターンON」はイベント認識、「リターンOFF」は非認識を表す。
なお、これらの条件パターンは例示であり、事後的に修正したり、追加設定できるようになっている。
【0035】
メモリカード20は、不揮発性メモリ領域であるEEPROM及びROMとCPUとを有する可搬性のICチップ搭載カード又はフラッシュROM等、不揮発性メモリである。ROMにはプログラムコードが記録されており、EEPROMには上記条件パターンを含む各種設定情報と、レコーダ部13からのイベントデータに関わる情報及び暗号情報が記録されるようになっている。但し、メモリ制御機能がデータレコーダ10及び挙動解析装置30で実現される場合は、メモリカード20側で常にメモリ制御機能(CPU、ROM)を用意しておく必要はない。
【0036】
挙動解析装置30は、例えば図4のように構成される。
ここでは、メモリカード20を収容してデータ記録及び読み出しを行うカードリーダライタ31と、各種設定情報や解析結果を確認するための表示装置32と、初期情報や上記条件パターン等を入力するためのデータ入力装置33と、これらの装置との間のインタフェースとなる入出力制御部34を装備した据え置き型のコンピュータ装置を用いて挙動解析装置30を構成する場合の例を挙げている。
【0037】
挙動解析装置30は、また、コンピュータ装置のCPUが所定の記録媒体に記録されたディジタル情報を読み込んで、そのコンピュータ装置のオペレーティングシステム(OS)と共に実行することにより(協働実行)形成される、初期情報設定部35、条件設定部36、解析処理部37の機能ブロックを具備している。
【0038】
初期情報設定部35は、メモリカード20を初めて使用するときに、個人情報、データレコーダ10に関する情報、及び、データレコーダ10を搭載させる車両に関する情報等をそのメモリカード20に設定するものである。
個人情報は、そのメモリカード20を保有する運転手の名称等であり、データレコーダ10に関する情報は、データレコーダ10を識別するためのレコーダ番号、そのデータレコーダ10のロット番号等である。
車両に関する情報は、データレコーダ10を取り付ける車両の車両番号、車種、車速パルス、車速パルスのスケールファクタ等である。
これらの初期情報は、解析対象となる車両やそれを運転する運転者を識別したり、データレコーダ10の精度等を挙動解析に加味するために使用される。
【0039】
条件設定部36は、各種条件パターンをメモリカード20に設定するものである。この条件設定部36及び初期情報設定部35では、運転者の便宜を図るため、所定の埋め込み式ダイヤログウインドウを有する設定用インタフェース画面を表示装置32に表示させ、運転者が、データ入力装置33でこれらのダイヤログウインドウの該当領域に該当データを埋め込み入力することによって各種設定情報を設定できるようになっている。
【0040】
解析処理部37は、メモリカード20に記録されたイベントデータ等から車両の挙動内容と運転者による操作傾向(癖等)を解析するものである。
具体的には、メモリカード20に記録されたイベントデータ及びそれに関わる情報を、運行単位、例えば1日単位に読み取って集計し、これをグラフ処理することで、個々のイベントの発生日時、発生場所、運行単位での発生傾向、発生頻度等を表示装置32に表示して視覚的に把握できるようにしている。
【0041】
解析に際しては、処理可能な項目を該当サブルーチンで対応付けた階層メニュー画面で提示し、運転者が望む項目を選択するだけで、自動的にイベントデータに基づく情報処理が起動実行されるようになっている。
メニュー画面は、例えば、最初は初期情報に関わる項目(つまり、誰がどの車両を運転したのか等を選択する画面、次いで、解析処理を行う項目(危険挙動別又は特徴的な挙動の発生回数等/悪癖情報/運行経路/運転評価グラフ表示・・・)を選択する画面、及びその詳細選択画面(危険挙動別であれば急加速等の選択項目等)である。
運転者が選択した項目についての処理結果は、表示装置32に逐次表示され、必要に応じてファイルに記録される。あるいは図示しない印刷装置で印刷されるようにしても良い。
【0042】
なお、解析挙動装置30にデータ変換の機能を設け、上記統計等の処理を既存の表計算ソフトウエアやデータベースソフトウエア等に実行させるようにすることもできる。
【0043】
次に、上記のように構成される運行管理システム1における運用形態を説明する。
(1)メモリカード20の用意
新規の運転者の場合は、挙動解析装置30でその運転者用のメモリカード20を作成する。この場合は、運転者が、カードリーダライタ31に新しいメモリカードを装着し、表示装置32に、図5に例示する初期情報設定画面を表示させ、データ入力装置23を通じて該当データを入力する。次いで、図6に例示する特徴的な挙動設定画面を表示させ、所要のデータを入力する。これらの設定データをメモリカード20に記録させる。新規の運転者でない場合も、閾値や詳細条件を変える場合は、挙動解析装置30でその内容を新たに設定する。
【0044】
(2)データレコーダ10によるイベントデータ等の記録
メモリカード20を、車両に取り付けられたデータレコーダ10のカード収容機構12に装着し、運転を開始する。
車両が動き始めると、データレコーダ10のセンサ部11は、その挙動を逐次測定し、その出力データをレコーダ部13に送る。レコーダ部13は、上述のようにして設定された条件パターンに適合するイベントデータ及びそれに関わる情報のみを抽出し、これをメモリカード20に記録する。
【0045】
(3)イベントデータ等の解析
運転終了後、データレコーダ10から抜き取ったメモリカード20を挙動解析装置30のカードリーダライタ31に挿入し、表示装置32に解析処理のメニュー画面を表示させる。運転者がメニュー画面を通じて特定の処理項目を選択した場合は、該当するサブルーチンが自動起動し、メモリカード20から読み取った情報の分類処理、統計処理、表示処理等が行われる。表示処理では、図7に示されるような運転評価グラフを含んだ解析結果が表示装置32に表示される。
【0046】
このように、本実施形態の運行管理システム1では、初期情報や条件パターンを運転者毎にメモリカード20に設定しておき、条件パターンに適合するイベントが発生したときに、そのイベントに関わる情報のみをそのメモリカード20に記録するようにしたので、資源の有効活用を図りつつ、運転者毎の運転評価や操作傾向を解析することが可能になる。
そのため、従来のように事故等が発生した場合のみならず、事故等の発生の有無に関わらない利用形態、例えば安全運転のための技術向上過程を確認したり、特徴的な挙動を確認して事故等の未然防止を図ったりすることが可能になる。
【0047】
(第2実施形態)
第1実施形態では、センサ部11の出力データのうち、運転者が設定した条件パターンに適合するかどうかをデータレコーダ10側で判定し、適合するイベントデータ及びそれに関わる情報をメモリカード20に記録する場合の例を示したが、条件パターンは、常にメモリカード20側に設けなければならないというものではない。例えば、第1実施形態のイベント抽出部132に相当する機能ブロックを挙動解析装置30側に設け、挙動解析装置の入力段で条件パターンに適合するイベントデータ及びそれに関わる情報のみを解析処理部37に渡すようにする構成も可能である。
この場合は、データレコーダ10のレコーダ部13では、イベントを認識するための各種閾値データやデータ収集間隔等のみを設定しておけばよくなるので、構成が簡略化される。また、既存のセーフティレコーダに記録されたデータをも解析することができるため、汎用性が高い運行管理システムを構築することが可能になる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、図8(a)に示されるように、挙動解析装置30において、移動体の特定の挙動に関わる情報を収集するためのデータ収集条件がメモリカード20に設定されるようにする。
【0049】
データ収集条件には、例えば、図8(b)に示されるように、1秒間の間に変化する角速度が10°を越えた場合等が挙げられる。このような条件が満足された場合、特定挙動が発生したと判断され、発生前後の所定時間(例えば、前後30秒)の測定データがメモリカード20に記録される。
例えば、カーブを曲がるパターン(特定の挙動)の測定データを収集するように、メモリカード20に収集条件を設定する。具体的には、カーブ走行を20°/秒以上で旋回した場合を収集条件として設定すると、この条件を満足する挙動(設定値を超える挙動)に対して高周波信号(例えば、10MHz)を用いて収集される。収集された測定データは以降に説明する解析手法を用いることにより運転者の移動体操作傾向が解析される。
【0050】
また、解析対象となる特定挙動の発生を判断するタイミングとしては、
(a)停止状態から発進したとき
(b)交差点におけるカーブ走行発生時
(c)特定地点を通過したとき
(d)所定のしきい値以上の角速度、加速度、速度等が発生したとき
等が挙げられ、このタイミング前後の所定時間だけ測定データを収集するように設定することができる。なお、固定された時間に限られず、所定の条件を満足している時間だけ測定データを収集するように設定しても良い。
【0051】
また、第1実施形態では、危険を認識するための条件パターンを図2、図3に示されるような条件ステップの形式で保持されていた。しかし、条件パターンは必ずしもこのような形式で保持される必要はなく、以下に説明する実施形態は、2次元計測から求められる条件パターンをモデリングした他の形式を適用したものである。
【0052】
この実施形態では特に、運転操作に、1)アクセルとブレーキの操作と、2)ハンドルの操作との2つの複合した操作が必要とされる箇所での運転傾向について重点的に計測・解析がなされるものである。ここでは、複合した操作が必要とされる箇所として交差点における右折を例に挙げて説明する。
なお、前述した2つの複合操作は、加速度計と方位ジャイロによって計測され、それぞれからデータが出力される。
【0053】
図9は、交差点の概要と運転者の操作する車両が移動する方向を示している。また、この交差点には一時停止箇所P1が設けられている。運転者が図9に示される方向に移動するように車両を操作する際、歩行者や対向車への注意が加わり、性急な運転や、不注意な運転に起因する危険回避のための運転による無理な運転挙動が計測される場合がある。
【0054】
図10(a),(b)は、このような無理な運転挙動が発生していない場合の加速度計からの出力データと、方位ジャイロからの出力データとを示したグラフである。これらのグラフから明らかなように、加速度計により測定された加速度データと、方位ジャイロにより測定された旋回の角速度データとは、運転者による右折操作の特徴を示している。また、これらのグラフを合成すると図11に示されるようになる。
【0055】
図11に示されるデータの意味するところは、まず、マイナス方向の加速度を発生するブレーキがかけられながら、わずかにハンドルを右に切ることによる角速度の発生が示される(矢印A1)。一時停止の後、ハンドルが右に切られながらアクセルが吹かされることにより加速度が発生し、さらに、所定の速度に達した後にアクセル操作による加速がゆるめられながらハンドルがもとに戻されていることが示されている(矢印A2)。
【0056】
図10及び図11に示されているデータは、無理な運転挙動が発生していない場合についてであるが、右折操作の際に前方から対向車が近づき、無理に旋回して右折した場合のデータを図12(a),(b)及び図13(実線)に示す。これらのグラフに示されるデータから、停止位置で完全に停止していないこと、急加速及び急ハンドル操作を行っていることが判明する。図14には、右折の際に、無理な運転挙動が発生していない場合(通常カーブ動作)と発生した場合(無理なカーブ動作)について複数の項目で比較した図表が示されている。
【0057】
このように、複数の異なった操作に起因する挙動(複合的な挙動)は、それぞれの操作を計測した結果を多次元で処理することにより、通常の運転挙動と、無理な運転挙動とを明確に差別化することができる。例えば、右折時の通常の運転挙動を示すグラフと、無理な運転挙動を示すものとを重ね合わせると、図13に示されるようになる。この図から、無理な運転挙動を示すグラフは、通常の運転挙動を示すグラフに比べて、発進時の加速度の上昇カーブが急であることと、全体の形状になめらかさ(スムーズさ)がないことがわかる。このように、パターン認識やパターンマッチングが行われたグラフ形状の差異から運転挙動を容易に推測することができる。
【0058】
なお、右折の際、急発進後に旋回した場合のグラフを模式的に示すと図15のL1に、急旋回後に急発進した場合のグラフを模式的に示すと図15のL2に示されるようになる。各グラフから明らかなように、急発進後に旋回した場合にはグラフの立ち上がりの傾きが小さく、急旋回後に急発進した場合にはグラフの立ち上がりの傾きが大きくなる。
【0059】
右折時の通常の運転挙動は、ゆっくり加速してハンドルを切ることであり、この挙動を模式的なグラフで示すと図15のL3に示されるようになる。この図に示される各グラフを、この第2実施形態における条件パターンとして用いることができる。すなわち図16において、空白の領域内は安全運転を示す安全運転領域となり、これ以外のハッチング領域は、危険な運転を示す危険挙動領域となる。
【0060】
このような条件パターンの設定とデータ記録とがメモリカード20に施された上で、挙動解析装置30は車両の挙動内容と運転者による操作傾向とを解析する。この際、安全運転領域を外れていた時間の割合等により危険挙動及び特徴的挙動が定量化するように構成することができる。
【0061】
例えば、記録されたデータのうち、安全運転領域または危険挙動領域に位置する時間が3.56秒で、このうち安全運転領域を外れた時間が2.34秒である場合には、
危険度及び特徴度=2.34/3.56
=0.66
となり、このように定量化された数値によって運転者による操作傾向を判断したり、他人の挙動内容と比較することができる。このような算出方法の他に、安全運転領域を外れた面積を数値化するようにしても良い。
【0062】
以上の説明では、複合した操作が必要とされる箇所として交差点を例に挙げ、加速度計と方位ジャイロによって計測された加速度と角速度から解析を行っている。これによれば、カーブでの走行パターン、カーブでの停止パターン、旋回を伴う発進、及び、旋回を伴う停止という挙動を解析することができる。しかし、これに限られず他の測定器の組合せも考えられる。
【0063】
例えば、測定器に車速パルスと加速度計とを用いて、速度と加速度を測定するようにしても良い。この場合、ブレーキが踏まれることによって発生する加速度(マイナス方向)であっても車両の速度が10kmである場合の-0.1Gと、100kmである場合の-0.1Gとは車両や運転者に与える影響が異なる。従って、測定されたデータを解析することにより、同じブレーキ動作であっても、速度に応じた危険度を求めることができる。
【0064】
また、測定器に方位ジャイロと加速度計とを用いて、速度と角速度に加えて車両の横方向の加速度(横加速度)を測定するようにしても良い。この場合、速度と角速度との積から車両の遠心力が求められる。通常の運転では、遠心力と横加速度とはほぼ等しい。しかし、車両の旋回において運転限界を超えた場合、車両が滑り出してロールが発生するため、遠心力と横加速度とが等しくなくなる。従って、遠心力と横加速度との差に基づいて危険度を求めることができる。
【0065】
以上のように第3実施形態の運行管理システムによれば、複合した操作が必要とされる箇所において、複合的な挙動に対してそれぞれの操作を計測した結果が多次元で処理される。これにより、第1実施形態及び第2実施形態による作用効果に加え、危険度、特徴度等の解析や判定を挙動状況に応じてより詳細に行うことができるようになる。
【0066】
次に、条件パターンの設定に関する手法をより詳細に説明する。第3実施形態の条件パターンの形状や解析される危険度は、車両が運行する環境、すなわち挙動環境によっても異なる。挙動環境には、車両が運行する地方、地域、時間帯等が含まれる。
【0067】
車両が運行する地方が東京の場合と北海道の場合では、車両の平均速度や交差点の数等が異なる。また、各地方であっても、街中と郊外の違い、運行距離が長距離であるか至近距離であるかの違い等、地域に従って違いが発生する。この他にも、夜中の運行、早朝運行、夕方の運行等の時間帯によって諸条件が異なるため、これに応じた条件パターンを設定するようにしても良い。
【0068】
また、運転者の運転能力にも個人差があるため、解析結果の統計等の挙動履歴があればこれを用いるようにしても良い。すなわち、運転能力、事故歴によって数値や条件パターンを変更することにより、運転者が同じような運転を行っても解析結果が異なることになる。
【0069】
前述したデータ解析は、挙動解析装置30においてメモリカード20からデータが読み出された後に行われる。このような収集条件の設定による測定データの収集と、解析とを繰り返し行うことにより、危険挙動を検出するのみではなく、対象となる運転パターンを収集して運転傾向を数値化することができる。さらに、解析された運転傾向をもとに、さらに収集条件をメモリカード20に設定するようにしても良い。
【0070】
また、収集条件と、前述した挙動環境や挙動履歴を組み合わせることにより各種応用が可能となる。例えば、高速道路を使用する長距離トラックの運転手を対象運転者とし、アクセルやブレーキ動作を検証したい場合には速度が70km/H以上で0.1G以上を収集条件として測定データを収集して解析するようにできる。また、対象運転者を同様にして、数値は小さくとも急なハンドル操作を認識するために角速度の微分値を収集するように収集条件として設定することにより、居眠り運転防止のための対策を立てることができる。
【0071】
(変形例)
次に、前述した各実施形態の変形例を説明する。
ここでは、収集条件に該当した挙動が発生した場合その発生から前後30秒の測定データを収集するとともに、収集条件に該当しない場合の1分間毎に統計データを収集し、収集された1分間の統計データの収集・解析例について説明する。前後30秒の測定データを収集する手法については種々の手法が考えられるが、最も簡単な手法としては、少なくとも1分以上の測定データを記録できる容量をもつ不揮発性メモリにエンドレスに測定データを記録し、イベントが発生したときに(角速度や加速度の急峻なデータを検出することで判る)、その後30秒経過後に測定データの記録を停止させることで実現が可能である。
【0072】
まず、この変形例において収集されたデータの概略構成を図16に、また、1分間の統計データの内容を図17に示す。
図17に示される統計データ内容の解析処理について説明する。図18は、1日分の最大速度の解析例であり、1分毎の最大速度履歴を示す。このようなデータを1ヶ月統計処理することにより、図19に示されるような統計グラフが求められる。この統計グラフの分布から速度と時間帯との関連を割り出すことができる。例えば、時間帯によって速度が変わる場合の原因を探ることができる。通常、夕方になると速度が増し、速度の偏差1σの値が大きくなる。これは速度のばらつきが大きくなっていることを示している。速度そのものの大きさと標準偏差の大きさの平均または安全運転の平均からの「ずれ」で、危険度や注意すべき数値が求められる。
【0073】
図20は、最大加速度の1日の履歴を示す。ここでは、プラス加速度でアクセルによる加速度、マイナス加速度でブレーキによる加速度であることがわかる。これより、速度同様に平均値、標準偏差の統計処理で、アクセル、ブレーキの時間帯との関係が求められ、その安全走行または全体平均からの「ずれ」等によって乱暴な運転の度合いや危険度が求められる。
【0074】
図21は、最大角速度の1日の履歴を示す。ここでは、ハンドルの右旋回をプラス、左旋回をマイナスで示すことができる。これより、速度同様に平均値、標準偏差の統計処理で、ハンドル操作と時間帯との関係が求められ、その安全走行または全体平均からの「ずれ」等によって乱暴な運転の度合いや危険度が求められる。
【0075】
最大横加速度も、最大加速度や最大角速度と同様に解析処理され、遠心力、ロール角と時間帯との関係が求められ、その安全走行または全体平均からの「ずれ」等によって乱暴な運転の度合いや危険度が求められる。
GPSでの位置、時間計測は、1分毎にいつ、どこにいたのかを示す履歴を生成することにより、何時から何時まで運行したかの運行開始、終了時間の確認や、時間とともに運行位置を地図に展開して運行経路の確認を行うことができる。また、測定器である車速パルスは配線工事が必要とされるが、GPSのデータを利用して走行速度、距離を概算することができる。
【0076】
この他、最大速度、アクセル、ブレーキ等の平均、標準偏差を各種分類に従って統計処理することにより、運転者別、地域別、事業所別、会社別の統計結果が求められる。図22は、1ヶ月の平均最大速度と標準偏差(1σ)を示す。この他にも、特定の時間(例えば、夕方5時)の1ヶ月統計を求めることにより、運転者が気のゆるむまたは荒くなる運転が発生し易い時間帯について比較することができる。これらについても、安全運転または平均からの「ずれ」等で数値化することにより運転者へのアドバイス資料とすることができる。
【0077】
また、前述した各項目を複合して複合的統計解析を行うこともできる。測定データの組合せと、このデータの測定に用いられる測定器、及び、解析内容を図23の表に示す。さらに、「最大加速度-速度」の解析結果をグラフ化したものを図24に示す。
【0078】
「最大加速度-速度」の解析では、1)全体的に速度を増すとブレーキ、アクセルの大きさは小さくなり、高速度でのブレーキ等はきわめて危険な挙動と判断できる。2)低速でのアクセル、ブレーキが大きくあるのは、発進、停止におおける操作に応じている。3)上記データを安全運転カーブをモデリングして危険挙動解析を行うことができる。すなわち、同グラフに示されている鎖線は安全運転領域を示し、この分布から危険度を求めることができる。計算例としては、
危険度=安全運転カーブ以外の点数/全体の点数
=237/1034
=0.23
となる。また、この他にも図25に示されるような運転者個人毎に解析を行うこともできる。
【0079】
この変形例によれば、危険な挙動や、特定の挙動に関わる測定データが収集され、解析されるだけではなく、運転者による移動体操作全般にわたった測定データを収集して解析することができる。
なお、この変形例では、収集条件を満足しない場合に1分間毎に測定データが記録されているがこれに限らない。収集条件を満足しない場合に不規則に測定データを記録するようにしても良い。
【0080】
前述した各実施形態では、各種計測器から構成されている1つのセンサ部11が車両の特定の場所に設置されていることを前提として説明されているが、これに限らない。
例えば、複数のセンサ部11をそれぞれ、車両の異なる場所に設置するようにしても良い。1つの車両に複数のセンサ部11を異なる場所に設置する場合、各設置場所には、運転席の下、後部座席、トランク等が挙げられる。また、このように複数の場所にセンサ部11を設置することは、大型のトラックやバス、さらには電車の車両に有効である。トラックであれば、運転座席と貨物の載置場との異なる場所での挙動を個別に解析することができる。また、バスや電車の車両であれば、運転座席と客席との異なる場所での挙動を個別に解析することができる。
【0081】
なお、複数の場所にセンサ部11を設置する際、センサ部11は3次元軸線回りの角速度データを検出する必要はなく、それぞれが所定の方向の角速度データを検出する角速度計を備えるのみでも良い。
この場合、各センサ部11から送られる測定データを用いて、車両全体の挙動を解析して傾向を把握することができる。このため、車両を製造するメーカにおいて挙動を解析するのに好適である。
【0082】
上記各実施形態の挙動解析装置をコンピュータ装置上で実現するためのディジタル情報(プログラムコード及びデータ)は、通常は、コンピュータ装置の固定型ディスクに記録され、随時コンピュータ装置のCPU読み取られて実行されるようになっているが、運用時に上述の機能ブロック35?37、132が形成されれば本発明を実施することができるので、その記録形態、記録媒体は任意であって良い。例えば、コンピュータ装置と分離可能なCD-ROM、DVD、光ディスク、フレキシブルディスク、半導体メモリ等の可搬性記録媒体、あるいは構内ネットワークに接続されたプログラムサーバ等にコンピュータ可読の形態で格納され、使用時に上記固定型ディスクにインストールされるものであっても良い。
【0083】
また、記録媒体に記録されたディジタル情報のみによって上記機能ブロック35?37,132が形成されるだけでなく、そのディジタル情報の一部がOSの機能を読み出すことによって上記機能ブロック35?37、132が形成される場合も本発明の範囲である。
【0084】
また、上記の各実施形態では、車両の運行管理を例に挙げて説明したが、本発明は、車両以外の他の移動体にも適用が可能なものである。例えば、ヘリコプタ等の飛行体等多種多様な移動体にも同様に適用することができる。
【0085】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、移動体の操作傾向を操作者毎に効率的に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態による運行管理システムの構成図。
【図2】急発進の場合の条件パターン例を示した図。
【図3】交差点の認識条件パターンの例を示した図。
【図4】第1実施形態による挙動解析装置の構成図。
【図5】初期情報設定画面の一例を示した説明図。
【図6】特徴的な挙動の設定画面の一例を示した説明図。
【図7】解析処理結果の一例を示したグラフ。
【図8】本発明の第2実施形態による運行管理システムにおいて、(a)は測定データを収集する収集条件を挙動解析装置30においてメモリカード20に設定する様子を示す模式図であり、(b)は収集条件を満足する挙動を検出して測定データの収集を行っている例を示すグラフ。
【図9】交差点において車両が右折をする様子を説明するための図。
【図10】(a)は無理な運転挙動が発生していない右折操作における加速度計からの出力データを示すグラフであり、(b)同様の状態における方位ジャイロからの出力データとを示したグラフ。
【図11】図10(a)のグラフと図10(b)のグラフと合成したグラフ。
【図12】(a)は、無理に旋回して右折した場合の加速度計からの出力データを示すグラフであり、(b)同様の状態における方位ジャイロからの出力データとを示したグラフ。
【図13】図12(a)と図12(b)を合成したグラフ(実線)と図11のグラフ(鎖線)とを重ね合わせた図。
【図14】右折操作による挙動において、無理な運転挙動が発生していない場合(通常カーブ動作)と発生した場合(無理なカーブ動作)について複数の項目で比較した図表。
【図15】右折操作による挙動において急発進後に旋回した場合の角速度と加速度の合成グラフを模式的に示したものと、同様の挙動において急旋回後に急発進した場合の角速度と加速度の合成グラフを模式的に示したものと同様の挙動において通常挙動の角速度と加速度の合成グラフを模式的に示したものとを重ね合わせた図。
【図16】本発明の変形例において収集されたデータ例の構成を示す図。
【図17】本発明の変形例において収集されたデータの内容を説明するための図表。
【図18】本発明の変形例において収集されたデータの解析結果の例であり、1日分の最大速度の解析を示すグラフ。
【図19】本発明の変形例において収集されたデータの解析結果の例であり、図18に示される最大速度の解析を1ヶ月統計処理した例を示す図。
【図20】本発明の変形例において収集されたデータの解析結果の例であり、最大加速度の1日の履歴を示す図。
【図21】本発明の変形例において収集されたデータの解析結果の例であり、最大角速度の1日の履歴を示す図。
【図22】本発明の変形例において収集されたデータの解析結果の例であり、個人別に1ヶ月の平均最大速度と標準偏差(1σ)を示した図。
【図23】本発明の変形例において収集されるデータの組合せと、このデータの測定に用いられる測定器、及び、解析内容を示す図表。
【図24】図23の表示に示される「最大加速度-速度」の解析結果例をグラフ化した図。
【図25】本発明の変形例において収集されたデータに基づいて運転者個人毎に危険度を解析した結果例を示した図。
【符号の説明】
1 運行管理システム
10 データレコーダ
11 センサ部
12 カード収容機構
13 レコーダ部
131 前処理部
132 イベント抽出部
133 データ読取部
134 データ記録部
20 メモリカード
30 挙動解析装置
31 カードリーダライタ
35 初期情報設定部
36 条件パターン設定部
37 解析処理部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-10-10 
結審通知日 2013-10-15 
審決日 2013-10-28 
出願番号 特願平11-290354
審決分類 P 1 123・ 121- ZAB (G08G)
P 1 123・ 575- ZAB (G08G)
P 1 123・ 573- ZAB (G08G)
P 1 123・ 574- ZAB (G08G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 原 泰造
平田 信勝
登録日 2001-09-07 
登録番号 特許第3229297号(P3229297)
発明の名称 移動体の操作傾向解析方法、運行管理システム及びその構成装置、記録媒体  
代理人 栗下 清治  
代理人 栗下 清治  
代理人 藤掛 宗則  
代理人 鈴木 正剛  
代理人 松本 司  
代理人 藤掛 宗則  
代理人 井上 裕史  
代理人 鈴木 正剛  

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