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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B |
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管理番号 | 1293955 |
審判番号 | 不服2013-7041 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-04-17 |
確定日 | 2014-11-12 |
事件の表示 | 特願2009-290116「被験者の頭及び目の動きを分析する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日出願公開,特開2010-131401〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成15年10月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成14年10月15日,米国)を国際出願日として出願した特願2004-545136号の一部を平成21年12月22日に新たな特許出願としたものであって,平成24年4月26日付けで拒絶理由が通知され,同年11月7日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,同年12月12日付けで拒絶査定がなされたのに対し,平成25年4月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 2 平成25年4月17日付けでなされた手続補正について 平成25年4月17日付けでなされた手続補正は,請求項1及び2並びに請求項5?14のうち直接又は間接に請求項3を引用しないものを削除したものである。 したがって,この補正は,特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。また,新たな技術事項を導入するものではないから,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。 よって,平成25年4月17日付けでなされた手続補正は,特許法第17条の2の規定に適合する。 3 本願発明 この出願の請求項1?13に係る発明は,平成25年4月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「ドライバの動作及び/又はドライバの状態を評価する際の比較の基準点を表す方法であって, ドライバの検知された特徴に基づいた注視方向のデータ流れを収集し, 前記収集した注視方向のデータを,ドライバの状態を識別するために利用し, 典型的な目の向く方向の運転を表す領域を,収集された前記注視方向のデータから決定された高密度パターンに基づいて確認し, 前記典型的な目の向く方向の運転を表す確認された領域と比較しながら,収集された前記注視方向のデータを利用して,前記比較に基づく以下のドライバの状態の特徴(1)知覚的なドライバの注意散漫,(2)視覚的なドライバの注意散漫,及び(3)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つの過酷さを識別し及び評価し, (1)注視の逸脱,(2)知覚的なドライバの注意散漫,(3)視覚的なドライバの注意散漫,及び(4)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つの確認された識別の頻度または持続時間に基づき,ドライバの状態の過酷さを定量化するものであり, 目の向く方向の運転がドライバによって維持される予め規定された期間中の相対時間量に基づいて,道路中心のパーセント(PRC)のドライバの特徴を計算すること,及び/またはガウス分布形状を有した道路中央領域のピーク道路中央(PRC)を計算することから成る,典型的な目の向く方向の運転を表す領域を確認するステップを備えることを特徴とする方法。」 4 刊行物の記載事項 本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-113186号公報(以下「刊行物」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 (1)「【0002】 【従来の技術】過去において,車両ドライバの注視方向の分類は,とりわけ居眠り運転を判定する上で重要であった。しかも,自動車の進路上の障害物を確認するために照準を定める赤外線,マイクロ波あるいは音波探知機などの外部のセンサーと共に,注視探知システムは,ドライバーが衝突の可能性に注意を払っているかどうかを判定する上で有用である。ドライバーが注意を払っておらず,むしろ進行方向から目をそらしているような場合には,自動警報を与えることが望ましい。このようなオートマチック・システムは『「音と匂いで落ち着きのないドライバーに揺さぶりをかける」(ウォール・ストリート・ジャーナル,ページB1,1993年5月3日)』に記述されている。さらに,より精巧なシステム上では,操縦前に特定ドライバーの特徴的行動を学習してこれらの操縦の今後を予想できるようにする試みもなされるかもしれない。」 (2)「【0025】このように,カメラのキャリブレーションについての正確な事前知識または環境の正確な測定をせずに,さらに頭部や眼球のメトリック測定をせずに,リアルタイムに注視方向を分類することが可能となる。本発明は,自動車の警報の適用において,適切な警報や合図の生成を可能にする。当該システムは,自動車の警報の適用に関して記述されているが,時間動作研究,入院患者の観察,コンピュータモニタ前の行動の判断などの他方面での適用も本発明の範囲内にある。使用されるアルゴリズムは,『”Letters to Natures”,Kyuma et al,Nature,Vol372,p.197,1994』で記述されるように三菱電機株式会社製の人工網膜(Artificial Retina:AR)カメラに最適である。 【0026】要約すると,周囲の対象物を多数観察して被験者の注視方向を分類するためのシステムが提供される。当該システムは,頻繁に生じる被験者の頭部の姿勢を,周囲の対象物と関連づけることにより自動的に識別し,ラべリングする質的アプローチを利用している。眼球位置の処理と組み合わせて,注視方向の分類を可能にする。 【0027】一つの実施の形態では,観測された被験者の頭部姿勢は,逐一自動的に姿勢間隔ヒストグラムにあるビンに自動的に関連付けられる。上記ヒストグラムは,異なる頭部姿勢の頻度を長時間にわたって記録する。例えば,自動車のドライバーを観測した場合,姿勢間隔ヒストグラムはドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ることに対応して経時的に複数のピーク値を示す。各ピーク値は,被験者の周囲の環境の質的描写(自動車の例でいえばダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされる。ラベリングされたヒストグラムは,つぎに後続する全てのイメージにおいて被験者の頭部姿勢を分類するために使われる。この頭部姿勢の処理は,眼球位置の処理と共に拡張し,被験者を観測するために使用されるカメラのキャリブレーションに関する事前の正確な情報なしに,また被験者周囲の環境の形状を表わす事前の正確な三次元測定をせずに,さらに実行時に被験者の位置,頭部姿勢や視点方向の正確な三次元メトリック測定値を計算する必要なく,当該システムが被験者の注視方向をすばやく分類するのを可能にしている。」 (3)「【0034】次に,図5を参照すると,システムが短時間継続して実行された後,姿勢間隔ヒストグラムにおける頻繁な注視方向に対応したピーク値が更新されると,これらのピーク値は自動的に検出され,周囲の環境において関心のある対象物との相関性からラベル付けされる。車両ドライバーに対して適用された場合,前記ピーク値はダッシュボード,ミラー類,あるいは正面を見ることに対応している。」 (4)「【0041】図8(e)に見られるように,該システムでは頭部姿勢を姿勢間隔ヒストグラムに自動車のドライバーについて記録する。図の左手の明るいスポットは,ドライバーが左方を見たことを示している。もし明るいスポットが左側だけでなく,水平方向の中心線より下側にもあれば,ドライバーは低位置にあるサイドミラーを見ていると推論することができる。明るいスポットが中心にあるなら,ドライバーは真正面を見ていると推論できる。明るいスポットが上方に,そして右側にある場合は,ドライバーは上を向いてバックミラーを見ていると推論できる。このように姿勢間隔ヒストグラムは,物理的に頭部位置や視線の方向を測定する必要なく,ドライバーの注視方向の確率的な指標を提供する。」 (5)上記(2)の段落【0027】の「被験者」は,「自動車のドライバーを観測した場合」,「ドライバー」であることは自明である。 以上の記載事項(1)?(5)を総合すると,上記刊行物には,以下の発明が記載されていると認められる。 「観測されたドライバーの頭部姿勢は,逐一自動的に姿勢間隔ヒストグラムにあるビンに自動的に関連付けられ, 上記ヒストグラムは,異なる頭部姿勢の頻度を長時間にわたって記録し, 姿勢間隔ヒストグラムはドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ることに対応して経時的に複数のピーク値を示し, 各ピーク値は,ドライバーの周囲の環境の質的描写(ダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされ, ラベリングされたヒストグラムは,つぎに後続する全てのイメージにおいてドライバーの頭部姿勢を分類するために使われ, この頭部姿勢の処理は,眼球位置の処理と共に拡張し, ドライバーの注視方向をすばやく分類するものであり, 適切な警報や合図の生成を可能にする方法。」(以下「引用発明」という。) 5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「ドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ること」及び「ドライバーの注視方向」は,それぞれ,本願発明の「ドライバの動作」及び「ドライバの状態」に相当する。 また,引用発明は「ドライバーの注視方向をすばやく分類するもの」であって,「適切な警報や合図の生成を可能にする」方法であるから,そのために,「ドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ること」や「ドライバーの注視方向」を評価することは自明である。 さらに,引用発明の「姿勢間隔ヒストグラムにあるビン」のうち「ドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ることに対応して経時的に」「示」される「複数のピーク値」であって,「ドライバーの周囲の環境の質的描写(ダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされ,ラベリングされたヒストグラムは,つぎに後続する全てのイメージにおいてドライバーの頭部姿勢を分類するために使われ」る「各ピーク値」は,上記評価に用いられることは自明であるから,本願発明の「比較の基準点」に相当する。 したがって,引用発明の「姿勢間隔ヒストグラムはドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ることに対応して経時的に複数のピーク値を示し,各ピーク値は,ドライバーの周囲の環境の質的描写(ダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされ,ラベリングされたヒストグラムは,つぎに後続する全てのイメージにおいてドライバーの頭部姿勢を分類するために使われ」,「ドライバーの注視方向をすばやく分類するものであり,適切な警報や合図の生成を可能にする方法」は,本願発明の「ドライバの動作及び/又はドライバの状態を評価する際の比較の基準点を表す方法」に相当する。 (2)引用発明の「観測されたドライバーの頭部姿勢」は本願発明の「ドライバの検知された特徴」に相当し,引用発明の「姿勢間隔ヒストグラム」は本願発明の「注視方向のデータ」に相当する。 したがって,引用発明の「観測されたドライバーの頭部姿勢は,逐一自動的に姿勢間隔ヒストグラムにあるビンに自動的に関連付けられ,上記ヒストグラムは,異なる頭部姿勢の頻度を長時間にわたって記録」することは,本願発明の「ドライバの検知された特徴に基づいた注視方向のデータ流れを収集」することに相当する。 (3)引用発明の「姿勢間隔ヒストグラムはドライバーがダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウの方向および,正面を頻繁に見ることに対応して経時的に複数のピーク値を示し,各ピーク値は,ドライバーの周囲の環境の質的描写(ダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされ,ラベリングされたヒストグラムは,つぎに後続する全てのイメージにおいてドライバーの頭部姿勢を分類するために使われ」ることは,本願発明の「前記収集した注視方向のデータを,ドライバの状態を識別するために利用」することに相当する。 (4)引用発明の「正面」は,ダッシュボード,ミラー,サイドウィンドウ,その他の注視方向に対して,典型的な目の向く方向の運転の表す領域であることは自明であり,その「ヒストグラム」が高密度パターンとなることも自明である。 したがって,引用発明の「姿勢間隔ヒストグラムはドライバーが」「正面を頻繁に見ることに対応して経時的に」「ピーク値を示し」,「ピーク値は,ドライバーの周囲の環境の質的描写(正面の近似的,相対的方向等)を用いることで,ラベリングされ」ることは,本願発明の「典型的な目の向く方向の運転を表す領域を,収集された前記注視方向のデータから決定された高密度パターンに基づいて確認」することに相当する。 してみると,本願発明と引用発明とは 「ドライバの動作及び/又はドライバの状態を評価する際の比較の基準点を表す方法であって, ドライバの検知された特徴に基づいた注視方向のデータ流れを収集し, 前記収集した注視方向のデータを,ドライバの状態を識別するために利用し, 典型的な目の向く方向の運転を表す領域を,収集された前記注視方向のデータから決定された高密度パターンに基づいて確認する方法。」 である点で一致し,次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明が「前記典型的な目の向く方向の運転を表す確認された領域と比較しながら,収集された前記注視方向のデータを利用して,前記比較に基づく以下のドライバの状態の特徴(1)知覚的なドライバの注意散漫,(2)視覚的なドライバの注意散漫,及び(3)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つの過酷さを識別し及び評価し,(1)注視の逸脱,(2)知覚的なドライバの注意散漫,(3)視覚的なドライバの注意散漫,及び(4)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つの確認された識別の頻度または持続時間に基づき,ドライバの状態の過酷さを定量化するものであ」るのに対し,引用発明がそのようなものであるか否か不明である点。 (相違点2) 本願発明が「目の向く方向の運転がドライバによって維持される予め規定された期間中の相対時間量に基づいて,道路中心のパーセント(PRC)のドライバの特徴を計算することから成る,典型的な目の向く方向の運転を表す領域を確認するステップを備える」のに対し,引用発明がそのようなステップを備えるか否か不明である点。 6 判断 (1)相違点1について 刊行物の段落【0002】には,【従来の技術】として「注視探知システムは,ドライバーが衝突の可能性に注意を払っているかどうかを判定する上で有用である。ドライバーが注意を払っておらず,むしろ進行方向から目をそらしているような場合には,自動警報を与えることが望ましい。」と記載されている。 そして,引用発明は「適切な警報や合図の生成を可能にする」ものであるから,この適切な警報や合図の生成のために,上記従来の技術である「ドライバーが衝突の可能性に注意を払っているかどうかを判定」し,「ドライバーが注意を払っておらず,むしろ進行方向から目をそらしているような場合には,自動警報を与える」ようにすることは,当業者が容易に想起できるものであって,その際に,「ドライバーが衝突の可能性に注意を払っているかどうか」すなわち「進行方向から目をそらしている」かどうかを判断するために,典型的な目の向く方向の運転を表す確認された領域である「正面」と比較しながら,ドライバーの注視方向の頻度または持続時間に基づき定量化することは,例えば,ISO15007及びSAE J-2396が提供する「瞥見の頻度」,「瞥見の時間」,「道路の前方シーンを外れた時間」,「一見の持続時間」のような目の特徴及びそれを取得する手順の定量的な規則が周知技術であることも踏まえれば,格別の困難性はないというべきである。 そして,引用発明の「ドライバーが衝突の可能性に注意を払っているかどうか」すなわち「進行方向から目をそらしている」かどうかは,本願発明の「前記比較に基づく以下のドライバの状態の特徴(2)視覚的なドライバの注意散漫,及び(3)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つの過酷さ」及び「(1)注視の逸脱,(3)視覚的なドライバの注意散漫,及び(4)高いドライバの作業負荷のうちの少なくとも一つ」に相当する。 したがって,引用発明から相違点1に係る構成に想到することは,当業者が容易になし得たことである。 (2)相違点2について 上記「(1)相違点1について」で述べたように,典型的な目の向く方向の運転を表す確認された領域である「正面」と比較しながら,ドライバーの注視方向の頻度または持続時間に基づき定量化することは格別の困難性はないところ,ここで,定量化する際にパーセント計算を用いることは周知技術である。 したがって「目の向く方向の運転がドライバによって維持される予め規定された期間中の相対時間量に基づいて,道路中心のパーセント(PRC)のドライバの特徴を計算すること」も当業者が容易になし得たことである。 (3)効果について 上記相違点により本願発明の奏する効果は,引用発明及び周知技術から,当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。 7 むすび 本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-06-16 |
結審通知日 | 2014-06-17 |
審決日 | 2014-06-30 |
出願番号 | 特願2009-290116(P2009-290116) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 谷垣 圭二 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 藤田 年彦 |
発明の名称 | 被験者の頭及び目の動きを分析する方法及び装置 |
代理人 | 堅田 多恵子 |
代理人 | 溝渕 良一 |
代理人 | 清水 英雄 |
代理人 | 高木 祐一 |
代理人 | 小椋 正幸 |
代理人 | 重信 和男 |
代理人 | 秋庭 英樹 |