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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12Q 審判 全部無効 2項進歩性 C12Q 審判 全部無効 特29条の2 C12Q 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12Q |
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管理番号 | 1295143 |
審判番号 | 無効2010-800195 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2010-10-25 |
確定日 | 2014-11-10 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3313358号「核酸の合成方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年 7月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10274号平成24年10月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3313358号(以下、「本件特許」という。)は、平成11年11月8日(優先権主張平成10年11月9日)を国際出願日として出願され、平成14年5月31日に特許権の設定の登録がされたものである。 これに対して、請求人は、平成22年10月25日に、請求項1?11に係る発明についての特許を無効とする審決を求めて特許無効審判を請求した。 平成23年7月25日に、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決(以下、「1次審決」という。)がされたが、知的財産高等裁判所において同審決を取消す判決がされ(平成23年(行ケ)10274号、平成24年10月31日判決言渡)、最高裁判所において上記判決に対する上告を棄却する旨及び上告審として受理しない旨の決定(平成25年(行ツ)第45号、平成25年(行ヒ)第54号)がされ、上記判決は確定した。 その後、被請求人は、平成26年4月28日に訂正の請求の申立てをし、平成26年5月23日に訂正請求書を提出し、同日付けで上申書を提出した。 平成26年6月3日に請求人に訂正請求書を送付し弁駁を求めたところ、請求人から応答はなかった。 第2 訂正の可否に対する判断 1.平成26年5月23日付け訂正請求の内容 被請求人が平成26年5月23日に提出した訂正請求書による訂正請求によって求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載を、同訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1?7からなるものと認められる(下線部は訂正箇所である)。 (1)訂正事項1 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項1において 「【請求項1】 次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを、ループ部分にアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程」 とあるのを、 「【請求項1】 次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程であって、 前記鋳型は、3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である工程、 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを、前記ループ部分の前記領域F2cにアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程。」 と訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許公報の特許請求の範囲の請求項2において 「【請求項2】 工程C)におけるオリゴヌクレオチドが、その5′側末端に工程B)において合成起点となった3′末端に相補的な塩基配列を備えたものである請求項1に記載の増幅方法。」 とあるのを、 「【請求項2】 工程C)におけるオリゴヌクレオチドが、その5′側末端に工程B)において合成起点となった3′末端の領域F1に相補的な塩基配列の領域F1cを備えたものである請求項1に記載の増幅方法。」 と訂正する。 (3)訂正事項3 詳細な説明について、特許公報2頁4欄30行の「DispIacement」を「Displacement」に訂正する。 (4)訂正事項4 詳細な説明について、特許公報3頁5欄18行の「NucIeic」を「Nucleic」に訂正する。 (5)訂正事項5 詳細な説明について、特許公報9頁17欄12行の「増てえいく」を「増えていく」に訂正する。 (6)訂正事項6 詳細な説明について、特許公報9頁17欄31行?32行の「インナープライマーの温度」を「インナープライマーの濃度」に訂正する。 (7)訂正事項7 詳細な説明について、特許公報12頁24欄18行の「プライマータイマー」を「プライマーダイマー」に訂正する。 2.訂正の適否について (1)訂正事項1 ア.訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1は、請求項1の鋳型を提供する工程A)において、 「前記鋳型は、3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である工程」 という記載を追加するものである。 訂正前の請求項1は、工程A)で提供される鋳型について、「3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型」であることは特定していたものの、各領域の関係について具体的に特定していなかった。 訂正後の請求項1は、鋳型の各領域を 「3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1」 「前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1c」 「前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2c」 「5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1c」 「前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1」 「前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2」 と特定し、さらに、その場合に、 「前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である」ことを限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 また、上記訂正事項により領域を特定したことから、C)におけるループ内の領域が「前記領域F2c」であり、プライマーであるオリゴヌクレオチドの「領域F2」がループ内の「前記領域F2c」にアニールすることを明確にした。この訂正事項は上記訂正事項と整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 イ.新規事項の有無について 訂正事項1について、発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。 「本発明の特徴となっている、3'末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸は、様々な方法によって得ることができる。もっとも望ましい態様においては、次の構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用した相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 すなわち本発明において有用なオリゴヌクレオチドとは、少なくとも以下の2つの領域X2およびX1cとで構成され、X2の5'側にX1cが連結されたオリゴヌクレオチドからなる。 X2:特定の塩基配列を持つ核酸の領域X2cに相補的な塩基配列を持つ領域 X1c:特定の塩基配列を持つ核酸における領域X2cの5'側に位置する領域X1cと実質的に同じ塩基配列を持つ領域 ここで、本発明のオリゴヌクレオチドの構造を決定する特定の塩基配列を持つ核酸とは、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーとして利用するときに、その鋳型となる核酸を意味する。本発明の合成方法に基づいて核酸の検出を行う場合には、特定の塩基配列を持つ核酸とは、検出対象、あるいは検出対象から誘導された核酸である。特定の塩基配列を持つ核酸は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある核酸を意味する。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5'側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0-500 塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5'側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。」(特許公報6頁12欄39行?7頁13欄36行)(下線は、当審による。) このように、本件特許の発明の詳細な説明には、鋳型の領域X2cおよびその5′側に位置する領域X1cの相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定され、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れない方が望ましいが、一方で、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想されることから、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造として、領域X2cおよび領域X1cとの距離が、10?70塩基となるように設計することが望ましいことが開示されている。 よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正事項1により領域を特定したことから、請求項2に記載された「工程B)において合成起点となった3′末端」を「領域F1」と、その「相補的な塩基配列」を「領域F1c」と明確にしたものであり、当該訂正事項は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3?7 訂正事項3?5、7は、いずれも誤記の訂正を目的とするものであり、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 訂正事項6について、訂正前は「アウタープライマーを利用する場合には、F2cからの合成よりも後にアウタープライマー(F3)からの合成が開始される必要がある。最も単純な方法はインナープライマーの温度をアウタープライマーの濃度よりも高くすることである。具体的には、通常2?50倍、望ましくは4?10倍の濃度差でプライマーを用いることにより、期待どおりの反応を行わせることができる。」(下線は、当審による。)と記載されているところ、その前後の文章からして、「インナープライマーの温度」は誤記であり、「インナープライマーの濃度」が正しいことが明らかであるから、訂正事項6は、誤記の訂正を目的とするものであり、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 3.むすび 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において読み替えて準用する第126条第3項?第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 なお、平成26年8月25日に提出した承諾書により、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正を請求することについて、通常実施権者の承諾を得られたと認められ、本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第127条の要件を満たしている。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件発明は、本件訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された以下のとおりのものである。(以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。) 「【請求項1】 次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程であって、 前記鋳型は、3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である工程、 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを、前記ループ部分の前記領域F2cにアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程。 【請求項2】 工程C)におけるオリゴヌクレオチドが、その5′側末端に工程B)において合成起点となった3′末端の領域F1に相補的な塩基配列の領域F1cを備えたものである請求項1に記載の増幅方法。 【請求項3】 更に工程C)におけるオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖を工程A)における鋳型とする工程を含む請求項2に記載の増幅方法。 【請求項4】 融解温度調整剤の存在下で鎖置換相補鎖合成反応を行う請求項1に記載の方法。 【請求項5】 融解温度調整剤がベタインである請求項4に記載の方法。 【請求項6】 反応液中に0.2?3.0Mのベタインを存在させる請求項5に記載の方法。 【請求項7】 請求項1?6に記載のいずれかの増幅方法を行い、増幅反応生成物が生じたかどうかを観察することにより試料中の標的塩基配列を検出する方法。 【請求項8】 増幅反応生成物に、ループに相補的な塩基配列を含むプローブを加え、両者のハイブリダイズを観察する請求項7に記載の方法。 【請求項9】 プローブが粒子標識されており、ハイブリダイズによって生じる凝集反応を観察する請求項8に記載の方法。 【請求項10】 核酸の検出剤存在下で請求項1?6に記載のいずれかの増幅方法を行い、検出剤のシグナル変化に基づいて増幅反応生成物が生じたかどうかを観察する請求項7に記載の方法。 【請求項11】 請求項7に記載の検出方法によって標的塩基配列の変異を検出する方法であって、増幅対象である塩基配列における変異が、増幅方法を構成するいずれかの相補鎖合成を妨げるものである方法。」 第4 当事者の主張の概要 1.請求人の主張の概要 請求人が主張する無効理由の概要は、次のとおりであり、甲第1号証?甲第33号証(以下、「甲1」?「甲33」ということがある。)を提出している。 (1)無効理由1 本件発明1?11は、甲1?甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)無効理由2 本件発明1?11は、本件出願前(優先日前)に出願され、かつ本件出願後に出願公開された甲9に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 (3)無効理由3、4 本件発明1?11は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない。 <証拠方法> 甲第1号証:THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.266、 No.21、 pp.14031-14038、 1991 甲第1号証の2:甲第1号証の抄訳(平成23年5月27日付手続補正書) 甲第1号証の3:Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol.79、 pp.724-728、 1982 甲第2号証:“DNA REPLICATION SECOND EDITION”、 ARTHUR KORNBERG、TANIA A BAKR、 W.H.FREEMAN AND COMPANY、1992 pp.700-704 & pp.713-716. 甲第2号証の2:甲第2号証の抄訳 甲第2号証の3:“DNA REPLICATION SECOND EDITION”、 ARTHUR KORNBERG、TANIA A BAKER、 W.H.FREEMAN AND COMPANY、 1992 pp.492-493 & pp.504. 甲第2号証の4:甲第2号証の3の抄訳 甲第3号証:WO 96/01327 甲第3号証の2:甲第3号証の訳文 甲第4号証:WO 97/04131 甲第4号証の2:甲第4号証の抄訳 甲第5号証:特表平10-510158号公報 甲第6号証:特開平9-168400号公報 甲第7号証:「バイオ実験イラストレイテッド 3+ 本当にふえるPCR」秀潤社、1998年6月1日発行 甲第8号証:WO96/31622 甲第8号証の2:特表平11-503019(甲第8号証の訳文) 甲第9号証:特開2000-37194号公報 甲第9号証の2:甲第8号証の優先権証明書 甲第10号証:Nucleic Acids Research、2000、Vol.28、No.12、e63 甲第10号証の2:甲第10号証の抄訳 甲第11号証:平成21年(行ケ)第10107号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年2月1日付け第4準備書面 甲第12号証:平成21年(行ケ)第10107号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年2月18日付け第5準備書面) 甲第13号証:平成21年(行ケ)第10107号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年7月7日付け第7準備書面 甲第14号証:平成21年(行ケ)第10107号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年9月29日付け技術説明資料 甲第15号証:無効2008-800293(特許第3897805号特許無効審判事件)の、請求人栄研化学による平成21年8月7日付け技術説明資料 甲第16号証:無効2008-800293(特許第3897805号特許無効審判事件)の、請求人栄研化学による平成21年9月18日付け上申書 甲第17号証:平成21年(行ケ)第10420号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年3月1日付け第1準備書面 甲第18号証:平成21年(行ケ)第10420号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年8月23日付け第3準備書面 甲第19号証:平成21年(行ケ)第10420号事件の、原告栄研化学株式会社による平成22年9月8日付け技術説明資料 甲第20号証:平成21年(行ケ)第10107号事件の、原告栄研化学株式会社による平成21年10月5日付け第2準備書面 甲第21号証:特願2001-575171の、出願人栄研化学株式会社による平成23年3月7日付け意見書 甲第22号証:特願2001-575171の審査経過における、平成23年1月4日付け発送拒絶理由通知 甲第23号証:特願2001-575171の出願経過書類 甲第24号証:平成17年(行ケ)10207号審決取消請求事件の判決文 甲第25号証:請求人による平成23年5月11日付け口頭審理説明資料 甲第26号証:無効2010-800195(特許第3313358号無効審判事件)、無効2010-800197(特許第3974441号無効審判事件)及び無効2010-800198(特許第4139424号無効審判事件)の、被請求人栄研化学による平成23年5月11日付け口頭審理技術説明資料 甲第27号証:東京化学同人「分子細胞生物学辞典」第2版 807頁(「ヘアピンループ」の解説の頁)、平成9年(1997年)3月10日 第1版第1刷発行 甲第28号証:被請求人栄研化学作成のWebサイト「LAMP法の原理」(http://loopamp.eiken.co.jp/lamp/principle.htmlからダウンロード[ダウンロード日:平成23年(2011年)5月19日]) 甲第29号証:平成24年(行サ)第10044号事件上告理由書の第1、3及び8?11頁 甲第30号証:平成24年(行ノ)第10064号事件上告受理申立理由書の第1、3及び8?11頁 甲第31号証:平成24年(行サ)第10044号事件上告理由書及び平成24年(行ノ)第10064号事件上告受理申立理由書における乙第2号証の2 甲第32号証:平成24年(行サ)第10044号事件上告理由書及び平成24年(行ノ)第10064号事件上告受理申立理由書における乙第2号証の3 甲第33号証:平成24年(行サ)第10044号事件上告理由書及び平成24年(行ノ)第10064号事件上告受理申立理由書における乙第2号証の16 2.被請求人の主張の概要 被請求人は、請求人の主張する無効理由1?4はいずれも理由がないと主張し、乙第1号証?乙第8号証(以下、「乙1」?「乙8」ということがある)を提出している。 <証拠方法> 乙第1号証:「生化学辞典 第3版」第1刷1998年10月8日、株式会社東京化学同人発行 乙第2号証:特願平11-179056の審査経過における平成15年12月24日付手続補正書 乙第3号証:特願平11-179056の審査経過における平成16年2月27日起案の拒絶理由通知書 乙第4号証:特願平11-179056の審査経過における平成16年9月2日付意見書 乙第5号証:特願平11-179056の審査経過における平成17年1月11日起案の拒絶査定 乙第6号証:特願平11-179056の審査経過における平成17年4月18日付出願取下書 乙第7号証:平成23年5月11日付被請求人技術説明資料 乙第8号証:タカラバイオ株式会社のウェブサイト(http://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.asp?unitid=U100003529)のプリントアウト 第5 当審の判断 1.本件発明について (1)本件明細書の記載について 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 ア.「本発明の課題は、新規な原理に基づく核酸の合成方法を提供することである。より具体的には、低コストで効率的に配列に依存した核酸の合成を実現することができる方法を提供することである。すなわち、単一の酵素を用い、しかも等温反応条件の下でも核酸の合成と増幅を達成することができる方法の提供が、本発明の課題である。更に本発明は、公知の核酸合成反応原理では達成することが困難な高い特異性を実現することができる核酸の合成方法、並びにこの合成方法を応用した核酸の増幅方法の提供を課題とする。」(本件特許公報7欄6?15行) イ.「本発明において合成の目的としている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸とは、1本鎖上に互いに相補的な塩基配列を隣り合せに連結した核酸を意味する。更に本発明においては、相補的な塩基配列の間にループを形成するための塩基配列を含まなければならない。本発明においては、この配列をループ形成配列と呼ぶ。そして本発明によって合成される核酸は、実質的に前記ループ形成配列によって連結された互いに相補的な塩基配列で構成される。」(本件特許公報10欄27?35行)。 ウ.「ヘアピンループを形成させて自身を鋳型(template)とする相補鎖合成反応の報告は多いが、本発明においてはヘアピンループ部分に塩基対結合を可能とする領域を備えており、この領域を相補鎖合成に利用している点において新規である。」(本件特許公報12欄5?10行) エ.「本発明の特徴となっている、3′末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸は、様々な方法によって得ることができる。もっとも望ましい態様においては、次の構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用した相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 すなわち本発明において有用なオリゴヌクレオチドとは、少なくとも以下の2つの領域X2およびX1cとで構成され、X2の5′側にX1cが連結されたオリゴヌクレオチドからなる。 X2:特定の塩基配列を持つ核酸の領域X2cに相補的な塩基配列を持つ領域 X1c:特定の塩基配列を持つ核酸における領域X2cの5′側に位置する領域X1cと実質的に同じ塩基配列を持つ領域 ここで、本発明のオリゴヌクレオチドの構造を決定する特定の塩基配列を持つ核酸とは、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーとして利用するときに、その鋳型となる核酸を意味する。本発明の合成方法に基づいて核酸の検出を行う場合には、特定の塩基配列を持つ核酸とは、検出対象、あるいは検出対象から誘導された核酸である。特定の塩基配列を持つ核酸は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある核酸を意味する。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5′側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0-500 塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5′側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。」(本件特許公報12欄39行?13欄36行) オ.「本発明による核酸の合成方法において有用な上記オリゴヌクレオチドを利用し、鎖置換活性を持ったDNA ポリメラーゼと組み合わせて合成を行う反応について、基本的な原理を図5-6を参考にしながら以下に説明する。上記オリゴヌクレオチド(図5におけるFA)は、まずX2(F2に相当)が鋳型となる核酸にアニールし相補鎖合成の起点となる。図5においてはFAを起点として合成された相補鎖がアウタープライマー(F3)からの相補鎖合成(後述)によって置換され、1本鎖(図5-A)となっている。得られた相補鎖に対して更に相補鎖合成を行うと、このとき図5-Aの相補鎖として合成される核酸の3'末端部分は、本発明によるオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を持つ。つまり、本発明のオリゴヌクレオチドは、その5'末端部分に領域X1c(F1cに相当)と同じ配列を持つことから、このとき合成される核酸の3' 末端部分はその相補配列X1 (F1)を持つことになる。図5は、R1を起点として合成された相補鎖がアウタープライマーR3を起点とする相補鎖合成によって置換される様子を示している。置換によって3' 末端部分が塩基対結合が可能な状態となると、3'末端のX1 (F1)は、同一鎖上のX1c(F1c)にアニールし、自己を鋳型とした伸長反応が進む (図5-B)。そしてその3' 側に位置するX2c(F2c)を塩基対結合を伴わないループとして残す。このループには本発明によるオリゴヌクレオチドのX2(F2)がアニールし、これを合成起点とする相補鎖合成が行われる (図5-B)。このとき、先に合成された自身を鋳型とする相補鎖合成反応の生成物が、鎖置換反応によって置換され塩基対結合が可能な状態となる。 本発明によるオリゴヌクレオチドを1種類、そしてこのオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖を鋳型として核酸合成を行うことが可能な任意のリバースプライマーを用いた基本的な構成によって、図6に示すような複数の核酸合成生成物を得ることができる。図6からわかるとおり、(D)が本発明において合成の目的となっている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸である。他方の生成物(E)は、加熱変性などの処理によって1本鎖とすれば再び(D)を生成するための鋳型となる。また2本鎖状態にある核酸である生成物(D)は、もしも加熱変性などによって1本鎖にされた場合、もとの2本鎖とはならずに高い確率で同一鎖内部でのアニールが起きる。なぜならば、同じ融解温度(Tm)を持つ相補配列ならば、分子間(intermolecular)反応よりも分子内(intramolecular)反応のほうがはるかに優先的に進むためである。同一鎖上でアニールした生成物(D)に由来する1本鎖は、それぞれが同一鎖内でアニールして(B)の状態に戻るので、更にそれぞれが1分子づつの(D)と(E)を与える。これらの工程を繰り返すことによって、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を次々に合成していくことが可能である。1サイクルで生成される鋳型と生成物が指数的に増えていくので、たいへん効率的な反応となる。 ところで図5-(A)の状態を実現するためには、はじめに合成された相補鎖を少なくともリバースプライマーがアニールする部分において塩基対結合が可能な状態にしなければならない。このステップは任意の方法によって達成することができる。すなわち、最初の鋳型に対して本発明のオリゴヌクレオチドがアニールする領域F2cよりも更に鋳型上で3' 側の領域F3cにアニールするアウタープライマー(F3)を別に用意する。このアウタープライマーを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成を触媒するポリメラーゼによって相補鎖合成を行えば、本発明の前記F2cを合成開始点として合成された相補鎖は置換され、やがてR1がアニールすべき領域R1cを塩基対結合が可能な状態とする(図5)。鎖置換反応を利用することによって、ここまでの反応を等温条件下で進行させることができる。」(本件特許公報16欄12行?17欄28行) カ.「以下の態様においては、本発明に基づくオリゴヌクレオチドとして2種類を用意する。これを説明のためにFAとRAと名づける。FAとRAを構成する領域は、以下のとおりである。 X2 X1c FA F2 F1c RA R2 R1c ここで、F2は鋳型となる核酸の領域F2cに相補的な塩基配列である。またR2はF2をプライマーとして合成される相補鎖に含まれる任意の領域R2cに相補的な塩基配列である。F1cとR1cはそれぞれ、F2cおよびR2cのそれぞれ下流に位置する任意の塩基配列である。ここでF2-R2間の距離は任意であって良い。相補鎖合成を行うDNA ポリメラーゼの合成能力にも依存するが、好適な条件では1kbp 程度の長さであっても十分に合成が可能である。より具体的には、Bst DNA ポリメラーゼを用いた場合、F2/R2c 間で 800bp、望ましくは 500bp以下の長さであれば確実に合成される。温度サイクルを伴うPCR では、温度変化ストレスによる酵素活性の低下が長い塩基配列の合成効率を下げるとされている。本発明における望ましい態様では、核酸増幅工程における温度サイクルが不要となるので、長い塩基配列であっても合成、ならびに増幅を確実に達成することができる。 まず鋳型となる核酸に対してFAのF2をアニールさせ、これを合成起点として相補鎖合成を行う。以下、図1の(4)にいたるまでは先に説明した本発明の基本的な態様(図5) と同様の反応工程となっている。図1の(2)でF3としてアニールしている配列は、先に説明したアウタープライマーである。このプライマーを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成を行うDNA ポリメラーゼで行うことにより、FAから合成した相補鎖は置換され、塩基対結合が可能な状態となる。 (4)でR2cが塩基対結合が可能な状態となったところで、リバースプライマーとしてのRAがR2c/R2の組み合わせでアニールする。これを合成起点とする相補鎖合成は、FAの5'側末端であるF1cに至る部分まで行われる。この相補鎖合成反応に続いて、やはり置換用のアウタープライマーR3がアニールし、鎖置換を伴って相補鎖合成を行うことにより、RAを合成起点として合成された相補鎖が置換される。このとき置換される相補鎖は、RAを5'側に持ちFAに相補的な配列が3'末端に位置する。」(本件特許公報19欄31行?20欄23行) キ.「さて、こうして置換された1本鎖核酸の3'側には、同一鎖上のF1cに相補的な配列F1が存在する。F1は、同一分子内に並ぶF1cに速やかにアニールし、相補鎖合成が始まる。3'末端(F1)が同一鎖上のF1cにアニールするときに、F2cを含むループが形成されている。このループ部分は塩基対結合が可能な状態で維持されていることは、図2-(7)からも明らかである。F2cに相補的な塩基配列を持つ本発明のオリゴヌクレオチドFAは、このループ部分にアニールして相補鎖合成の起点となる(7)。ループ部分からの相補鎖合成は、先に開始したF1からの相補鎖合成の反応生成物を置換しながら進む。その結果、自身を鋳型として合成された相補鎖は、再び3'末端において塩基対結合が可能な状態となる。この3'末端は、同一鎖上のR1cにアニールしうる領域R1を3'末端に備えており、やはり同一分子内の速やかな反応により両者は優先的にアニールする。こうして、先に説明したFAを鋳型として合成された3'末端からの反応と同様の反応が、この領域でも進行する。結果として、本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸は次々と相補鎖合成と置換とを継続し、その3' 末端R1を起点とする伸長を続けることになる。3'末端R1の同一鎖へのアニールによって形成されるループには常にR2cが含まれることから、以降の反応で3'末端のループ部分にアニールするのは常にR2を備えたオリゴヌクレオチド(すなわちRA)となる。 一方、自分自身を鋳型として伸長を継続する1本鎖の核酸に対して、そのループ部分にアニールするオリゴヌクレオチドを合成起点として相補鎖合成される核酸に注目すると、ここでも本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成が進行している。すなわち、ループ部分からの相補鎖合成は、たとえば図2-(7)においては、RAに達した時点で完了する。そして、この核酸の合成によって置換された核酸が相補鎖合成を開始(図3-(8))すると、やがてその反応はかつて合成起点であったループ部分に達して再び置換が始まる。こうしてループ部分から合成を開始した核酸も置換され、その結果同一鎖上にアニールすることができる3' 末端R1を得る(図3-(10))。この3' 末端R1は同一鎖のR1cにアニールして相補鎖合成を開始する。さて、この反応のFとRを読みかえれば、図2-(7)で起きている反応と同じである。したがって図3-(10)に示す構造は、自身の伸長と新たな核酸の生成を継続する新しい核酸として機能することができる。 なお図3-(10)に示す核酸から開始する核酸の合成反応は、ここまで述べてきたものとは逆に常に3' 末端F1を合成起点とする伸長となる。すなわち本発明においては、1つの核酸の伸長に伴って、これとは別に伸長を開始する新たな核酸を供給しつづける反応が進行する。更に鎖が伸長するのに従い、末端のみならず、同一鎖上に複数のループ形成配列がもたらされる。これらのループ形成配列は、鎖置換合成反応により塩基対形成可能な状態となると、オリゴヌクレオチドがアニールし、新たな核酸の生成反応の基点となる。末端のみならず鎖の途中からの合成反応も組み合わされることにより、さらに効率のよい増幅反応が達成されるのである。以上のようにリバースプライマーとして本発明に基づくオリゴヌクレオチドRAを組み合わせることによって、伸長とそれに伴う新たな核酸の生成が起きる。更に本発明においては、この新たに生成した核酸自身が伸長し、それに付随する更に新たな核酸の生成をもたらす。一連の反応は、理論的には永久に継続し、きわめて効率的な核酸の増幅を達成することができる。しかも本発明の反応は、等温条件のもとで行うことができる。 このとき蓄積する反応生成物は、F1-R1間の塩基配列とその相補配列が交互に連結された構造を持つ。ただし繰り返し単位となっている配列の両端には、F2-F1 (F2c-F1c)、またはR2-R1(R2c-R1c)の塩基配列で構成される領域が連続している。たとえば図3-(9)では、5'側から(R2-F2c)-(F1-R2c)-(R1-F1c)-(F2-R2c)という順序で連結された状態となる。これは、本発明に基づく増幅反応が、オリゴヌクレオチドを合成起点としてF2(またはR2)から開始し、続いて自身の3' 末端を合成起点とするF1(またはR1)からの相補鎖合成反応によって伸長するという原理のもとに進行しているためである。 さて、ここでは最も望ましい態様としてループ部分にアニールするオリゴヌクレオチドに本発明によるオリゴヌクレオチドFA、およびRAを用いた。しかし本発明による核酸の増幅反応は、これらの限られた構造を持ったオリゴヌクレオチドのみならず、ループからの相補鎖合成を開始できるオリゴヌクレオチドを利用しさえすれば実施することができる。つまり、伸長を続ける3'末端はループからの相補鎖合成によって置換されさえすれば、再びループ部分を与える。ループ部分から開始する相補鎖合成は、常に1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を鋳型としていることから、本発明で目的としている核酸の合成が可能なことは自明である。ただし、ここで合成される核酸は、置換後にループを形成して相補鎖合成は行うものの、以降のループを形成するための3'末端を持たないため、新たな鋳型としては機能できなくなる。したがって、FA、あるいはRAによって合成を開始した核酸と違って指数的な増幅は期待できない。このような理由から、FAやRAのような構造を持ったオリゴヌクレオチドは、本発明に基づく高度に効率的な核酸の合成に有用なのである。 一連の反応は、鋳型となる1本鎖の核酸に対して、以下の成分を加え、FAおよびRAを構成する塩基配列が相補的な塩基配列に対して安定な塩基対結合を形成することができ、かつ酵素活性を維持しうる温度でインキュベートするだけで進行する。 ・4種類のオリゴヌクレオチド: FA、 RA、 アウタープライマーF3、 およびアウタープライマーR3、 ・鎖置換型の相補鎖合成を行うDNA ポリメラーゼ、 ・DNA ポリメラーゼの基質となるヌクレオチド したがって、PCR のような温度サイクルは必要無い。なおここでいう安定な塩基対結合とは、反応系に存在するオリゴヌクレオチドの少なくとも一部が相補鎖合成の起点を与えうる状態を意味する。安定な塩基対結合をもたらす望ましい条件は、たとえば融解温度(Tm)以下に設定することである。一般に融解温度(Tm)は、互いに相補的な塩基配列を持つ核酸の 50%が塩基対結合した状態となる温度とされている。融解温度(Tm)以下に設定することは本発明の必須の条件ではないが、高度な合成効率を達成するためには考慮すべき反応条件の一つである。鋳型とすべき核酸が2本鎖である場合には、少なくともオリゴヌクレオチドがアニールする領域を塩基対結合が可能な状態とする必要がある。そのためには一般に加熱変性が行われるが、これは反応開始前の前処理として1度だけ行えば良い。」(本件特許公報20欄24行?22欄47行) ク.「この反応は、酵素反応に好適なpH を与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行う。緩衝剤としては、Tris-HCl 等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが用いられる。pH は使用するDNA ポリメラーゼに応じて調整する。塩類としては KCl、NaCl、あるいは(NH_(4))2SO_(4)等が、酵素の活性維持と核酸の融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。更に融解温度(Tm)の調整剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)やホルムアミドが一般に利用される。融解温度(Tm)の調整剤を利用することによって、前記オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調整することができる。更にベタイン(N、N、N、-trimethylglycine)やテトラアルキルアンモニウム塩は、そのisostabilize 作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは、反応液中 0.2?3.0M、好ましくは 0.5?1.5 M 程度の添加により、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。」(本件特許公報22欄48行?23欄51行) ケ.「この特徴を遺伝子変異の検出に利用することができる。本発明におけるアウタープライマーを用いる態様においては、このアウタープライマー2種、本発明のオリゴヌクレオチドからなるプライマー2種の合計4種のプライマーが用いられている。すなわち4種のオリゴヌクレオチドに含まれる6領域が設計通りに働かなければ本発明の合成反応は進行しない。特に、相補鎖合成の起点となる各オリゴヌクレオチドの3'末端、および相補配列が合成起点となるX1c領域の5'末端の配列は重要である。そこで、この重要な配列を検出すべき変異に対応するように設計すれば、本発明による合成反応生成物を観察することによって、塩基の欠失や挿入といった変異の有無、あるいはSNPs のような遺伝子多型を総合的に分析することができる。より具体的には、変異や多型が予想される塩基が、相補鎖合成の起点となるオリゴヌクレオチドの3'末端付近(相補鎖が起点となる場合には5'末端付近)に相当するように設計するのである。相補鎖の合成起点となる3'末端や、その付近にミスマッチが存在すると核酸の相補鎖合成反応は著しく阻害される。本発明においては、反応初期の生成物における末端構造が繰り返し反応を行わなければ高度な増幅反応に結びつかない。したがって、たとえ誤った合成が行われたとしても、増幅反応を構成する相補鎖合成がいずれかの段階で常に妨げられるのでミスマッチを含んだままでは高度な増幅は起きない。結果的にミスマッチが増幅反応を効果的に抑制し、最終的には正確な結果をもたらすことになる。つまり本発明に基づく核酸の増幅反応は、より完成度の高い塩基配列のチェック機構を備えていると言うことができる。これらの特徴は、たとえば単純に2つの領域で増幅反応を行っているPCR 法などでは期待しにくい利点である。」(本件特許公報23欄32行?24欄12行) コ.「本発明によって合成された核酸は、1本鎖とは言え相補的な塩基配列から構成されるため、その大部分が塩基対結合を形成している。この特徴を利用して、合成生成物の検出が可能である。エチジウムブロマイド、SYBR Green 1、あるいはPico Green のような2本鎖特異インターカレーターである蛍光色素の存在下で本発明による核酸の合成方法を実施すれば、生成物の増加に伴って蛍光強度の増大が観察される。これをモニターすれば、閉鎖系でリアルタイムな合成反応の追跡が可能である。この種の検出系はPCR 法への応用も考えられているが、プライマーダイマー等によるシグナルの発生と区別がつかないことから問題が多いとされている。しかし本発明に応用した場合には、非特異的な塩基対結合が増加する可能性が非常に低いことから、高い感度と少ないノイズが同時に期待できる。2本鎖特異インターカレーターと同様に、均一系の検出系を実現する方法として、蛍光エネルギー転移の利用が可能である。」(本件特許公報26欄9行?26欄25行) サ.「本発明による核酸の合成方法を支えているのは、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNA ポリメラーゼである。上記反応中には、必ずしも鎖置換型のポリメラーゼを要しない反応ステップも含まれてはいる。しかし、構成試薬の単純化、そして経済性の点で、1種類のDNA ポリメラーゼを利用するのが有利である。この種のDNA ポリメラーゼには、以下のようなものが知られている。また、これらの酵素の各種変異体についても、それが配列依存型の相補鎖合成活性と鎖置換活性を有する限り、本発明に利用することができる。ここで言う変異体とは、酵素の必要とする触媒活性をもたらす構造のみを取り出したもの、あるいはアミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変したもの等を示すことができる。 Bst DNA ポリメラーゼ Bca(exo-)DNA ポリメラーゼ DNA ポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント Vent DNA ポリメラーゼ Vent(Exo-)DNA ポリメラーゼ(Vent DNA ポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの) DeepVent DNA ポリメラーゼ DeepVent(Exo-)DNA ポリメラーゼ(DeepVent DNA ポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの) Φ29ファージDNA ポリメラーゼ MS-2ファージDNA ポリメラーゼ Z-Taq DNA ポリメラーゼ(宝酒造) KOD DNA ポリメラーゼ(東洋紡績) これらの酵素の中でもBst DNA ポリメラーゼやBca(exo-)DNA ポリメラーゼは、ある程度の耐熱性を持ち、触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本発明の反応は、望ましい態様においては等温で実施することができるが、融解温度(Tm)の調整などのために必ずしも酵素の安定性にふさわしい温度条件を利用できるとは限らない。したがって、酵素が耐熱性であることは望ましい条件の一つである。また、等温反応が可能とは言え、最初の鋳型となる核酸の提供のためにも加熱変性は行われる可能性があり、その点においても耐熱性酵素の利用はアッセイプロトコールの選択の幅を広げる。」(本件特許公報26欄26行?27欄13行) シ.「第二の特徴は、塩基対結合が可能な状態にあるループを常に形成することである。塩基対結合が可能な状態にあるループの構造を、図4に示した。図4からわかるように、ループはプライマーのアニールが可能な塩基配列F2c(X2c)と、F2c-F1c(X1c)の間に介在する塩基配列とで構成される。F2c-F1c間(普遍的に示せばX2c-X1c間)の配列は、鋳型に由来する塩基配列である。したがってこの領域に対して相補的な塩基配列を持つプローブをハイブリダイズさせれば、鋳型特異的な検出を行うことができる。しかも、この領域は常に塩基対結合が可能な状態にあることから、ハイブリダイズに先だって加熱変性する必要がない。なお本発明の増幅反応生成物におけるループを構成する塩基配列は、任意の長さとすることができる。したがって、プローブのハイブリダイズを目的とする場合には、プライマーがアニールすべき領域とプローブがハイブリダイズすべき領域を別々にして両者の競合を避けることにより理想的な反応条件を構成することができる。 本発明の望ましい態様によれば、1本の核酸鎖上に塩基対結合が可能な多数のループがもたらされる。このことは、核酸1分子に多数のプローブがハイブリダイズ可能なことを意味しており、感度の高い検出を可能とする。また、感度のみならず、たとえば凝集反応のような特殊な反応原理に基づく核酸の検出方法を可能とするものでもある。」(本件特許公報28欄31行?29欄5行)。 ス.「すなわち、本発明に基づくオリゴヌクレオチドを鋳型鎖とその相補鎖に対して適用することによって、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸が連続して合成されるようになる。この反応は、原理的には合成に必要な出発材料が枯渇するまで続き、その間にループ部分から合成を開始した新たな核酸を生成し続ける。こうして、ループにアニールしたオリゴヌクレオチドからの伸長が、長い1本鎖核酸(すなわち、複数組の相補的な塩基配列が連結したもの)の伸長のための3′-OH を供給する鎖置換を行う。一方、長い1本鎖の3′-OH は自身を鋳型とする相補鎖合成反応を行うことによって自身の伸長を達成すると同時に、ループから合成開始した新たな相補鎖の置換を行う。このような増幅反応工程が、高い特異性を維持しながら等温条件下で進行する。」(本件特許公報43欄49行?44欄30行)。 セ.「図1 図2 図3 図5 図6 」 2.無効理由2(特許法第29条の2違反)について (1)先願明細書の記載について 平成10年6月24日が優先権主張日であり、平成12年2月8日に出願公開された特願平11-179056号の願書に最初に添付された明細書及び図面である先願明細書(甲9)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項12】特定の核酸配列を非直線的に増幅するためのプロセスであって、以下の工程:該特定の核酸配列、該特定の核酸配列ついての第1の初期プライマーまたは核酸構築物であって、該第1の初期プライマーまたは核酸構築物が、以下の2つのセグメント:(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および、(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、そして(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成されて第1のプライマー伸長を置換するように、均衡または限定サイクリング条件下で、続く第2のプライマーまたは核酸構築物の第1のセグメントの、該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメント、を含む;ならびに、該特定の核酸配列の相補体に対する続く初期プライマーまたは核酸構築物であって、該続く初期プライマーまたは該核酸構築物が、以下の2つのセグメント、(A)第1のセグメントであって、(i)該特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性の第1の伸長をし得る、セグメント、および、(B)第2のセグメントであって、(i)該第1のセグメントに実質的に非同一であり、(ii)該特定の核酸配列の第2の部分に実質的に同一であり、(iii)該第2のセグメントの相補的配列に結合し得、そして(iv)第2のプライマー伸長が生成され、そして第1のプライマー伸長を置換するように、均衡または限定サイクリング条件下で、続くプライマーの第1のセグメントの、該特定の核酸配列の該第1の部分への結合を提供し得る、セグメント、を含む:ならびに基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素;を提供する工程:ならびに、均衡または限定サイクリング条件下で、該基質、緩衝液、またはテンプレート依存性重合化酵素の存在下で、該特定の核酸配列および該新規プライマーまたは核酸構築物をインキュベートし;それにより、該特定の核酸配列を非線形に増幅する、工程、を包含する、プロセス。」 「【0013】【発明が解決しようとする課題】本発明は、核酸増幅、核酸配列決定、および重要な特徴(例えば、低減した熱力学的安定性)を有する独特の核酸の生成に有用かつ応用可能である新規のプロセスを提供することを目的とする。」 「【0074】本発明はまた、特定の核酸配列を非直線的に増幅するプロセスを提供する。このプロセスにおいて、増幅されることが求められている目的の特定の核酸配列、第1初期プライマーまたは目的の特定の核酸配列のための核酸構築物、後続の初期プライマーまたは目的の特定の核酸配列の相補体に対する核酸構築物、ならびに基質、緩衝液、およびテンプレート依存性ポリマー化酵素が提供される。第1初期プライマーまたは核酸構築物は、2つのセグメントを含む。第1セグメント(A)は独特であり、(i)特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性第1伸長が可能であると特徴づけられる。第2セグメントもまた独特であり、以下の4つの特徴で特徴づけられる。第1に、それは、(i)第1セグメントと実質的に同一でない。第2に、それは、(ii)特定の核酸配列の第2部分と実質的に同一である。第3に、第2セグメントは、(iii)第2セグメントの相補配列に結合し得る。第4に、第2セグメントは、(iv)均衡または限定サイクル条件下で、第2プライマーの第1セグメントまたは核酸構築物の、特定の核酸配列の第1部分への続く結合を提供し得る。この方法において、第1プライマー伸長を置換するために、第2プライマー伸長を生成する。後続の初期プライマーまたはこの特定の核酸配列の相補体に対する核酸構築物はまた、2つのセグメントを含む。第1セグメント(A)は、(i)特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性第1伸長が可能であると特徴づけられる。第2セグメント(B)は、以下の4つの特徴で独特に特徴づけられる。第1に、第2セグメント(B)は、(i)第1セグメントと実質的に同一でない。第2に、それは、(ii)特定の核酸配列の第2部分と実質的に同一である。第3に、第2セグメント(B)は、(iii)第2セグメントの相補配列に結合し得る。第4に、それは、(iv)均衡または限定サイクル条件下で、後続のプライマーの第1セグメントの、特定の核酸配列の第1部分への後続の結合を提供し得る。このような条件下およびこの方法において、第1プライマー伸長を置換する第2プライマー伸長が生成される。このプロセスを行うために、特定の核酸配列および新規のプライマーまたは核酸構築物が、基質、緩衝液、およびテンプレート依存性ポリマー化酵素の存在下で、均衡または限定サイクル条件下で、インキュベートされる;それにより、目的の特定の核酸配列が非直線的に増幅される。」 「【0092】本発明の特定の局面において、新規のプライマーおよび核酸構築物が開示され、これらは、新規のプライマーまたは核酸構築物の少なくとも1つのセグメントが、適切な条件下で二次構造形成し得るという固有の特徴を有する。本発明において、二次構造の形成は、結合部位の再生を提供し得、その結果それらは、上記の外側調節因子のいずれも必要とせずに、新規のプライマーまたは核酸構築物の複数の結合および伸長のために使用され得る。」 「【0103】(1つのステムループ形成プライマーとの直線的増幅)本発明の1つの局面において、特定の核酸配列の直線的増幅は、均衡または限定サイクリング条件下で、少なくとも2つのセグメントを有する新規の単一のプライマーまたは新規の単一の核酸構築物の使用によって行われる。・・・新規のプライマーおよび核酸構築物の第1セグメントは、標的核酸配列に存在する配列に実質的に相補的である配列を含む。新規のプライマーまたは核酸構築物の第2セグメントは、標的核酸に存在する配列に実質的に同一である配列を含む。新規の核酸構築物は、第1セグメントおよび第2セグメントの1つ以上のコピーを有し得る。新規のプライマーまたは核酸構築物のテンプレート依存性伸長は、自己ハイブリダイゼーションによって形成されるステムループ構造、ならびに新規のプライマーまたは核酸構築物を含む配列に同一または相補的でない伸長配列を有する産物を作製し得る。 【0104】この産物は、図1に例示される、連続する一連の以下の工程によって、形成され得る。新規のプライマーまたは核酸構築物のテンプレート依存性伸長は、この新規のプライマーまたは核酸構築物の第2セグメントを含む配列に相補的である伸長部分配列において生成する。これらの自己相補性領域は、テンプレートに結合しままであり得るか、または自己相補性構造を形成し得る。二次構造の形成は、テンプレートからの、伸長した新規のプライマーの第1セグメントの全てまたは一部の除去を提供し得る。このことは、別の初期プライマーが、テンプレートからの新規の第1伸長プライマーの除去の前に、テンプレート配列に結合することを可能にする。テンプレート上の第2プライマーの伸長は、テンプレートからの第1伸長プライマーの置換を導き得る。このことは、伸長プライマーの分離が、別の結合および伸長反応のためのテンプレートの使用の前に常に起こる先行技術とは対照的である。これらの手段によって、単一のテンプレートは、均衡条件下で、2つ以上の初期事象を提供し得る。さらに、この方法は、全ての温度が伸長産物およびそのテンプレートのTmのものを下回る、限定サイクル条件下で使用され得る。連続するプロセスにおいて、新規の第2伸長プライマーにおける二次構造の形成は、新規の第3プライマーの結合および続く伸長を提供し得る。このようにして、変性条件の非存在下において、本発明の新規のプロセスは、核酸テンプレートの単鎖からの多重プライミング、伸長、および遊離事象を提供し得る。さらに、これらの工程の全ては、均衡条件下で、同時および連続的に起こり得る。」 「【0106】新規の伸長プライマーおよび核酸構築物の、自己相補性構造を形成する能力は、適切な条件下で実現化され得る。先行技術は、その特徴が短い相補性オリゴヌクレオチドの会合および解離が、温度、塩条件、塩基含有量、および相補配列の長さによって決定される平衡反応として生じることを示している。・・・相補性DNAの大きな方の鎖は、広範な条件にわたって容易に解離しない安定な立体配置における2本鎖分子として存在するが、それらは、鎖間結合の一時的および局在した弛緩を形成することが周知である。用語「呼吸」は、水素結合のこの局在化破壊を説明するために使用されている。パリンドローム配列を含む2本鎖DNA分子における二次元構造を作製する「呼吸」のための経路は、A.KornbergおよびT.A.Bakerによって、「DNA Replication、第2版」(1992)W.H.Freeman and Co. NY、NY(その内容を本明細書中で参考として援用する)に記載されている。 【0107】本発明において、上記のように、線状2本鎖分子のセグメントの、鎖内ステムループ構造への転移は、プライマー開始事象を、伸長プライマーのそのテンプレートからの分離の前に起こることを可能にし得る。これらの2つの構造の間の平衡は、多数の要因に依存する。第1に、首尾良いプライマー結合のために、標的に結合する初期プライマーのセグメントは、反応に使用される温度で、安定なプライミングが可能であるように適切な長さおよび塩基組成でなければならない。第2に、初期プライマーの伸長後に自己ハイブリダイゼーションに関与するプライマーのセグメントは、適切な長さおよび塩基組成でなければならず、その結果伸長されたプライマーのテンプレートからの部分解離は、十分に安定な二次構造の形成(すなわち、ステムループ構造のステム)を可能にし得る。」 「【0112】本発明はまた、特定の核酸配列を非直線的に増幅するためのプロセスを提供する。非直線的増幅は、以下の成分または試薬を提供する最初の工程を含む:増幅されることが求められる目的の特定の核酸配列、特定の核酸配列のための第1初期プライマーまたは核酸構築物、この特定の核酸配列の相補体に対する続く初期プライマーまたは核酸構築物、ならびに適切な基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素。記載したばかりの第1初期プライマーまたは核酸構築物は、2つのセグメントを含む。第1に、2つの規定された特徴を有する第1セグメント(A)が存在する。それは、(i)この特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そして(ii)テンプレート依存性第1伸長が可能である。第1初期プライマーの第2セグメントは、4つの規定された特徴を有する。第1に、それは、(i)第1セグメント(A)と実質的に同一でない。第2に、それは、(ii)特定の核酸配列の第2部分と実質的に同一である。第2セグメントの第3の特徴は、(iii)第2セグメントの相補配列に結合し得るその能力である。第2セグメントの第4の特徴は、(iv)均衡または限定サイクル条件下で、第2プライマーまたは核酸構築物の第1セグメントの、特定の核酸配列の第1部分への続く結合を提供するためのその能力である。このような条件下で、第2プライマー伸長が生成されて、第1プライマー伸長を置換する。 【0113】続く初期プライマーまたは核酸構築物に関して、このエレメントは2つのセグメント、第1セグメント(A)および第2セグメント(B)を含む。第1セグメント(A)は、(i)特定の核酸配列の第1の部分に実質的に相補的であり、そしてそれは、(ii)テンプレート依存性第1伸長が可能である。4つの特徴は、第2セグメント(B)を規定する。第1に、第2セグメント(B)は、(i)第1セグメントと実質的に同一でない。第2に、それは、(ii)特定の核酸配列の第2部分と実質的に同一である。第3に、第2セグメント(B)は、(iii)第2セグメントの相補配列に結合し得る。第2セグメント(B)の第4の特徴は、(iv)均衡または限定サイクル条件下で、続くプライマーの第1セグメントの、特定の核酸配列の第1部分への続く結合を提供するその能力である。このような条件下で、第2プライマー伸長が生成され、そしてそれは第1プライマー伸長を置換する。このプロセスの第2工程は、特定の核酸配列および新規のプライマーまたは核酸構築物を、適切な基質、緩衝液、およびテンプレート依存性重合化酵素の存在下で、均衡または限定サイクル条件下で、インキュベートすることを含む。それにより、目的の特定の核酸配列は、非直線的に増幅される。」 「【0131】非直線的増幅産物は、均衡または限定条件下で、連続した一連の以下の工程によって、新規のプライマーおよび標準的なプライマーによって合成され得る。新規のプライマーは標的鎖に結合し、そして新規の単一プライマーとの直線的増幅について以前に記載されるのと、同じ一連の伸長、二次構造形成、プライマー結合部位の再生、第2結合、第2伸長、およびテンプレートからの第1伸長プライマーの分離が存在する。新規の伸長プライマーは、他方の新規のプライマーの連続する結合および伸長によって置換されるので、これらの1本鎖産物は標準的なプライマーに結合し得、そしてそれらを伸長させて、完全な2本鎖アンプリコンを作製し得る。この潜在的な一連の事象を、図2に示す。得られる2本鎖構造は一方の鎖において新規のプライマーについてのプライマー結合部位に相補的な配列と、および他方の鎖において新規のプライマーについてのプライマー結合部位に同一の配列と隣接する各鎖自己相補配列を含む。この結果として、各鎖は、アンプリコンの一方の末端で、ステムループ構造を形成し得る。次いで、1本鎖ループ構造におけるプライマー結合部位の露出は、図1において以前に示した同じプロセスによって、さらなる一連のプライマー結合および置換反応をもたらし、それにより均衡または限定サイクル条件下で、目的の配列の非直線的増幅の生成を可能にする。・・・」 「【0133】非直線的増幅産物はまた、均衡または限定サイクル条件下で、2つの第1セグメントおよび1つの第2セグメントを含む新規の核酸構築物によって合成され得る。第1セグメントの各々は、核酸の鎖またはその相補体に相補的であり、そして第2セグメントは、第1セグメントの1つの伸長後に、二次構造を形成し得る。この構築物は、一対の相補的な潜在的ステムループ構造を有する産物を作製し得る。この産物は、連続する一連の以下の工程によって形成され得る。新規の構築物の1つの第1セグメントおよび1つの第2セグメントは、新規の単一プライマーによる直線的増幅について以前に記載されているのと同様の連続する一連の結合、伸長、二次構造形成、プライマー結合部位の再生、第2結合、第2伸長、および鎖分離工程を行い得る。さらに、この合成の産物は、一連の結合および伸長工程のためのテンプレートとして、新規のプライマーおよび標準的なプライマーでの非直線的増幅について上に記載されているような他方の第1セグメントによって使用され得る。これらの工程が作製し得る潜在的な一連の異なる形態は、図3および4に与えられる。この新規の構築物が潜在的に行い得る一連の事象は、以前に記載されたのと同じであり、そして図4に示される最終産物は、ともに結合したプライマーの2つの5′末端を有する図2の最終産物の位相的等価体である。」 「【0144】これらの特徴によって、適切な標的分子の一方の鎖の存在は、新規の単一プライマーを非直線的増幅し得る自己複製核酸に変換し得る。本発明の新規の単一プライマーは、標的に結合し得、そして伸長のためのテンプレートとしてそれを利用する。・・・ 【0145】標的核酸の適切な鎖の存在によって直線状の新規のプライマーからこのような形態を合成するのに使用され得る一連の工程は、図9、10、および11に示される。新規のプライマーはテンプレートに結合し得、そして伸長して、図9の工程2の構造を形成し得る。」 「【0156】・・・上記の鎖配置で2つの第1、第2、および第3セグメントを有する構築物の例は、図13および図15に与えられる。本発明のこの局面において使用される構築物は、図9、10、および11に例示された以前の局面に関連する。・・・それにより、図13および15の工程3は、単一テンプレート分子が、1つのみではなく2つの3′末端の伸長に使用されることを除いて、図9の工程2に等しい。・・・」 「【0159】(反応の単純化および反応産物)本発明を含む全ての増幅において、反応の間にも起こり得る副反応が存在する。これらは、高分子量産物の複雑な多様性を形成し得る。それらは、所望の配列の合成の効率またはこれらの配列の検出の効率のいずれかを減少する点において有害であり得る。合成の効率の減少は、副反応が、所望の配列の合成の量を、ポリメラーゼおよび基質資源についての競合によって減少する場合に起こり得る。副反応はまた、適切な配列が合成されるが、反応のいくつかの工程に阻害的な二次構造にある場合、効率を減少し得る。このことは、プライマーの結合または伸長のいずれかを妨害する構造によって起こり得る。後者の場合において、プライムされたテンプレートを使用できないことに起因して、そして酵素が結合するが進行し得ない場合のポリメラーゼ活性の欠失にも起因して、効率が失われ得る。不適切な二次構造もまた、適切な配列の検出における問題を生じ得る。」 「【0178】【実施例】(実施例1 53℃および63℃でのBstポリメラーゼによるPCR産物の等温増幅) (i)HBVプラスミドDNAのPCR増幅 HBVマイクロタイタープレートアッセイ・・・からのHBVポジティブコントロールを、PCRによる増幅のための標的として使用した。・・・1ulのHBV標的、1×PE緩衝液・・・、4mMのMgCl_(2)、250umのdNTP、6単位のアンプリサーム(Amplitherm)・・・ならびに10ピコモルのHBVオリゴプライマーFCおよびRCからなる50ulのPCR反応を実施した。 FC配列=5′-CATAGCAGCA GGATGAAGAG GAATATGATA GGATGTGTCT GCGGCGTTT-3′ RC配列=5′-TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG AGGTTTTGCA TGGTCCCGTA-3′。 【0179】この実施例において、FCプライマーの3′末端における29塩基、およびRCプライマーの3′末端における30塩基は、テンプレートとしてHBV標的DNAを使用して伸長し得る第1のセグメントである。FCおよびRCプライマーの5′末端における30塩基は、テンプレートとしてHBV DNAを使用して、プライマーの伸長によって合成された最初の30塩基に相補的な第2のセグメントである。熱循環条件は、94℃を1’、56℃を15”、および68℃を30”を30サイクル行った。HBV配列に基づいて、予想されたPCR産物は長さが211bpであるべきである。ステムループ構造は、それぞれ、第2のセグメントおよびその相補体により与えられる30塩基対のステム、ならびにFCおよびRCの第1のセグメントにより与えられる29および30塩基のループを伴って、この生成物のそれぞれの末端において起こり得る。 【0180】(ii)PCR産物の分析 増幅は、0.5ug/mlの臭化エチジウムの存在下で、0.5×TBE緩衝液を用いて流した4%Metaphorアガロースゲル・・・中の10ulのサンプルのゲル電気泳動によってアッセイした。UV照射下で、3つのバンドが出現し、それらはDNAサイズマーカーによる判定で、長さがおよそ210、180、および170bpであった。210bpに対応するバンドは、予想された線状PCR産物であり、そしておそらく他の2つのバンドは、同じサイズのアンプリコンに対応しており、ここで、二次構造が一方または両方のいずれかの末端上で形成され、それによってそれらの効果的な移動度が変化している。 【0181】(iii)PCR産物の等温増幅 上記のPCR産物の種々の希釈物5ulは、1×ThermoPol緩衝液・・・、200uMのdNTP、20ピコモルの正方向および逆方向プライマー、8単位のBstポリメラーゼ・・・からなる100ulの反応混合物中で使用された。正方向プライマーはFCまたはLFCのどちらかであり、逆方向プライマーはRCまたはLRCのどちらかであった。FCおよびRCプライマーの配列は上記に示した。LFCおよびLRCプライマーは、FCおよびRCプライマーだけの第1のセグメントに対応する配列を有している。そのような配列は以下のとおりである: LFC=5′-GGATGTGTCT GCGGCGTTT-3′ LRC=5′-AGGTTTTGCA TGGTCCCGTA-3′。 【0182】インキュベーションは、30分、180分、もしくは終夜のインキュベーションであった。反応温度は53℃もしくは63℃のどちらかであった。30分反応したものは2%アガロースゲルを用いてゲル電気泳動で分析した;180分反応したものは4%Metaphorアガロースを用いて分析した。 【0183】この分析結果を図17に示す。30分インキュベーションの後に取り出したサンプルの最初の組の中で、PCR産物の10^(-2)希釈物だけが53℃でいくらかの合成を示すが、63℃からの反応物は、10^(-2)、10^(-3)および10^(-4)希釈物で合成を示している。これらのデータは、合成量は加えた標的DNAの量に依存するということを示している。180分の合成の後に取り出されたサンプルの組では、実質的により多くの合成が行われている。これらの反応の生成物は、分離したパターンを形成する一連のバンドである。これは、通常PCRで見られる単一の分離したバンド、またはPCR増幅の後でLCおよびRCプライマーを用いて以前に見られた2つもしくは3つのバンドと対照をなしている。この複数のバンドは、おそらく、アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得るか、またはストランドスイッチングの徴候であり得る。53℃で3時間インキュベーションした後、標的が少しもないようなコントロールでさえ、実質的な合成の証拠を示している。しかし、標的テンプレートを有するすべての53℃の反応物に見られる、単一の標的依存性パターンが存在し、そして標的なしのコントロールに存在するパターンは実質的に異なることが留意され得る。これはおそらく標的が合成を開始した経路が異なっていることに起因する。63℃でインキュベーションしたものは、全てのテンプレート希釈物で実質的な合成を示し、そして同じパターンが53℃の反応によって生成されることを証明する。しかし、本実施例においては、63℃では、標的非依存性増幅の証拠はない。10^(-5)の希釈でさえ実質的な量の合成があるということは、この系が実質的な増幅をし得ることを示している。終夜のインキュベーションもまたゲルによって分析され、そして3時間インキュベーションと同じパターンおよび同じ量を示した(データ表示なし)。」 「 図1 図2 図3 図13 図14 」 (2)「二次構造」の意義について 先願明細書にいう「二次構造」とは、【0104】及び図1の記載によれば、ステムループ構造と同義であり、図1マル3?マル5、図2マル1及びマル3?マル5並びに図3マル1、マル3及びマル4において、領域C-B′-C′、領域C-B-C′、領域E-F′-E′及び領域E-F-E′により形成されるループ部分を意味するものと認められる。 (3)等温増幅に使用されたFCプライマー及びRCプライマーの構成について 先願明細書の【0179】に記載のFCプライマー及びRCプライマーの塩基配列は、いずれも【0178】に記載されており、それによれば、これらの塩基数は、FCプライマーが49塩基であり、RCプライマーが50塩基であると認められる一方、【0179】には、FCプライマーの第1セグメントが29塩基で、第2セグメントが30塩基である旨及びRCプライマーの第1セグメントが30塩基で、第2セグメントが30塩基である旨が記載されており、両者の塩基数の記載は、一致していない。むしろ、先願明細書の【0181】には、FCプライマー及びRCプライマーの第1セグメントに対応する配列として、塩基数が19のLFCプライマー及び塩基数が20のLRCプライマーの塩基配列が記載されていることに照らすと、FCプライマーの第1セグメントの塩基数は19であり、RCプライマーの第1セグメントの塩基数は20であると認められる。したがって、【0181】の下線部分のうち、「29」は「19」の、「30」は「20」の誤記であり、PCR産物の等温増幅に使用されたFCプライマーは、3′末端側の19塩基対(第1セグメント)及びこれに連続する30塩基対(第2セグメント)からなる一方、RCプライマーは、3′末端側の20塩基対(第1セグメント)及びこれに連続する30塩基対(第2セグメント)からなるものと認められる。 また、ここで、第1セグメントは、【0179】に記載のとおり、テンプレート(鋳型)としてHBV標的DNA(HBVプラスミドDNA)を使用して伸長し得るものとして設計されているから、これと相補的な塩基配列と塩基対結合(アニール)を生じた場合、DNAポリメラーゼが触媒となって、FCプライマー及びRCプライマーは、いずれも第1セグメントに隣接する3′末端を合成起点として相補鎖合成反応を開始することになる。他方、第2セグメントは、【0179】に記載のとおり、FCプライマー又はRCプライマーの上記相補鎖合成反応によって合成された最初の30塩基に相補的に設計されているから、第1セグメント及び第2セグメントは、第2セグメント及びその相補体により与えられる30塩基対のステム並びに第1セグメント(FCプライマーの場合19塩基、RCプライマーの場合20塩基)からなるループを発生させ、これにより生成物に1個のステムループ構造(二次構造)を生じさせることになる旨が記載されているといえる。 さらに、上記FCプライマーは、【0181】に記載のとおり、正方向プライマーであるから、その「第1セグメント」は、図1マル1の太い矢印に記載された領域B′に対応する一方、上記RCプライマーは、【0181】に記載のとおり、逆方向プライマーであるから、その「第1セグメント」は、図3マル1の下側の矢印に記載された領域Fに対応するものと認められる。また、これらのプライマーの各「第2セグメント」は、同じく領域C(FCプライマー)及びE′(RCプライマー)にそれぞれ対応するものであり、これらのプライマーの3′末端の相補鎖合成反応により生成するステムループ構造は、例えば、図1マル3の領域C-B′-C′(FCプライマー)及び図3マル4の領域E-F-E′(RCプライマー)により形成されるループ部分に対応するものと認められる。 (4) 先願明細書に記載の増幅反応について ア. 先願明細書の記載について 先願明細書には、【0181】【0182】に記載のとおり、HBVプラスミドDNAの211bpのPCR産物を、直前のPCRで使用したFCプライマー及びRCプライマーと同じプライマー及びBstポリメラーゼを使用して、53℃及び63℃で30分、180分又は終夜のインキュベーションを実施した旨の記載があるが、このインキュベーションについて「PCR産物の等温増幅」という標題が付されているから、当業者は、先願明細書から、当該インキュベーションにより当該PCR産物を鋳型とする等温増幅が行われた旨を記載していることを読み取ることができる。 次に、上記インキュベーションによる等温増幅の結果について、先願明細書には、「これらの反応の生成物は、分離したパターンを形成する一連のバンドである。これは、通常PCRでみられる単一の分離したバンド、またはPCR増幅の後でLC及びRCプライマーを用いて以前にみられた2つもしくは3つのバンドと対照をなしている。」との記載がある(【0183】)ところ、「PCR産物の等温増幅」という標題の実験の結果が、それまでにみられた「バンドと対照をなしている。」と記載されていることに照らすと、当業者は、上記記載部分から、PCR産物の等温増幅により、これに先立つPCR増幅(【0178】【0179】)及びこれによる産物の分析結果(【0180】)とは異なる独自の等温増幅反応が生じていることを読み取ることができるものといえる。 そして、上記独自の等温増幅反応が発生した理由について、先願明細書には、「この複数のバンドは、おそらく、アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載がある(【0183】)ところ、ここにいう「アンプリコン」とは、PCR産物にほかならず、「二次構造」とは、前記(2)に説示のとおり、ステムループ構造を意味するものであるから、ここにいう「二次構造」(ステムループ構造)を有する「アンプリコン」(PCR産物)とは、前記【0180】の記載に図1ないし3を参照すると、PCR産物である(1)210bpに対応するバンドで示される線状産物、(2)180bpに対応するバンドで示される、一方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物、(3)170bpに対応するバンドで示される両方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物(図3マル4。ダンベル型中間体)のうち、(2)及び(3)(ダンベル型中間体)を意味するものといえる。したがって、これらのPCR産物のうちダンベル型中間体に着目すると、上記記載部分は、「ダンベル型中間体をプライマー及びテンプレート(鋳型)として機能させるステムループ構造の存在」、すなわちステムループ構造が存在することによって、PCR産物であるダンベル型中間体それ自体が、相補鎖合成により核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させており、これが、上記独自の等温増幅反応の理由であると説明しているものと理解することができる。 イ. 先願明細書の記載から理解される増幅反応の作用機序について 先願明細書に記載の等温増幅反応の鋳型とされたPCR産物には、前記アに説示のとおり、両方の末端上で二次構造(ステムループ構造)が形成された産物(図3マル4。ダンベル型中間体)が含まれている。 他方、上記等温増幅の際に使用されたFCプライマー及びRCプライマーは、前記(3)に説示のとおり、第1セグメント(領域B′又はF)が鋳型の相補的な塩基配列(領域B又はF′)と塩基対結合(アニール)を発生させ、第2セグメント(領域C又はE′)が3′末端の相補鎖合成反応によって合成された最初の30塩基(領域C′又はE)に相補的になるように設計されているものである。 さらに、Bstポリメラーゼが鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであることや、DNAポリメラーゼの機能によって、部分的に2本鎖となった鋳型核酸の3′末端が鋳型核酸の1本鎖となっている部分に対して相補鎖合成を行うということは、本件優先権主張日当時、当業者の技術常識であったものと認められる。 したがって、鋳型となる核酸としてダンベル型中間体に着目した場合、先願明細書の「アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との前記記載、すなわちステムループ構造が存在することによって、PCR産物であるダンベル型中間体それ自体が、相補鎖合成により核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させており、これが、上記独自の等温増幅反応の理由であるとの記載部分について、当業者は、上記技術常識及び先願明細書の記載から、次の増幅反応が発生していることを読み取ることが可能であるというべきである。 (ア) Bstポリメラーゼは、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼであるから、鋳型であるダンベル型中間体を構成する鎖の各3′末端(例えば、図3マル4の下側の鎖の領域C′)を合成起点として、ダンベル型中間体を構成する2本の鎖の塩基対結合部分を置換しながら相補鎖合成を行うことになる。 (イ) 次に、FCプライマー及びRCプライマーは、いずれも鋳型と塩基対結合(アニール)を発生させる第1セグメントを備えているところ、ダンベル型中間体の下側の鎖を鋳型とする場合を例にとると、FCプライマーの第1セグメント(領域B′)は、鋳型となる鎖のうち、塩基対結合を生じていないループ部分(図3マル4の下側の鎖の領域B)と塩基対結合(アニール)を発生させる。そして、前記のとおり、Bstポリメラーゼは、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するから、FCプライマーの3′末端は、ダンベル型中間体のステム部分及びそれに引き続く塩基対結合を置換しながら相補鎖合成を開始する。 (ウ) ダンベル型中間体の下側の鎖の3′末端は、塩基対結合の置換により相補鎖を合成して当該鎖の5′側末端まで到達するが、次いで、FCプライマーの3′末端は、当該相補鎖を5′末端に至るまで置換して相補鎖合成を行うから、ダンベル型中間体の下側の鎖の3′末端が合成してきた塩基配列は、1本鎖となり、その結果、当該鎖は、3′末端に引き続く部分に新たなステムループ構造(3′末端側から、領域E-F′-E′となる。)を形成した上で、再び自らを鋳型として3′末端から塩基対結合の置換による相補鎖合成を開始する。他方、RCプライマーは、上記新たなステムループ構造のループ部分(領域F′)に対してアニールできる領域(領域F)を第1セグメントに備えているから、当該ループ部分に塩基対結合(アニール)を発生させ、先にFCプライマーが行ったのと同じ塩基対結合の置換による相補鎖合成を行うことになる。こうして、ダンベル型中間体は、そのうち1本の鎖の3′末端が、Bstポリメラーゼの触媒により塩基対結合の置換による相補鎖合成を行うことに加えて、FCプライマー及びRCプライマーが相次いでアニールを繰り返すことで、それ自身がプライマーであると同時にテンプレート(鋳型)である増幅反応を繰り返す結果、1本鎖上に鋳型核酸の塩基配列が交互に連結された核酸が得られることになる。 (5) 先願明細書に記載の発明について 以上のとおり、先願明細書には、PCR増幅に引き続くインキュベーションにより「等温増幅」が発生した旨が記載されており、それが先行するPCR増幅とは異なる独自の増幅反応であって、その理由について「おそらく、アンプリコンをプライマーおよびテンプレートとして機能させる二次構造の存在に起因し得る」との記載があるが、当該記載は、ステムループ構造が存在することによって、PCR産物(ダンベル型中間体を含む。)それ自体が、FCプライマー及びRCプライマーと相俟って、塩基対結合の置換による相補鎖合成を繰り返し、核酸を合成するプライマーであると同時にその鋳型になるという増幅反応を発生させているとの趣旨に理解することができる。そして、ここでみられる塩基対結合の置換による相補鎖合成反応は、3′末端からの自己伸長反応と呼んで差し支えない。 このように、当業者は、先願明細書の記載及び本件優先権主張日当時の技術常識に基づき、上記増幅反応の作用機序を、前記(4)イに説示したものとして理解することが可能であったものと認められるから、先願明細書には、次の発明が記載されているものと認められる。 先願発明:3′末端側から領域B′-Cという構造を有するFCプライマー、3′末端側から領域F-E′という構造を有するRCプライマー及びBstポリメラーゼを使用する等温増幅反応であって、 工程1:両方の末端にステムループ構造を有する核酸であって、3′末端側から順に領域C′-B-C-D-E-F-E′を有する核酸(ダンベル型中間体の下側の鎖)を鋳型として、 工程2:その3′末端からの自己伸長反応により、塩基対結合を可能とする領域Bを備えるループを有し、その余の部分が互いに相補的な配列で塩基対結合した核酸を得、 工程3:このループにFCプライマーをアニールさせ、自己伸長反応を行うと同時に、上記工程2の自己伸長反応によって合成された相補的な塩基配列を置換し、その結果、上記工程2の自己伸長反応によって合成された鎖の3′末端に、塩基対結合を可能とする領域F′を備える新たなステムループ構造が形成され、 工程4:上記工程3で新たに形成された3′末端のステムループ構造からの自己伸長反応により、塩基対結合を可能とする領域F′を備えるループを有し、その余の部分が互いに相補的な配列で塩基対結合した核酸を得ると同時に、上記工程3のFCプライマーの自己伸長反応により合成された相補的な塩基配列を置換し、3′末端から順に、領域E-F′-E′-D′-C′-B′-Cである核酸を得、 工程5:上記工程4の塩基対結合を可能とする領域F′を備えるループを有する核酸に、RCプライマーをアニールさせ、伸長反応を行うと同時に、上記工程4の自己伸長反応によって合成された相補的な塩基配列を置換し、その結果、上記工程4の自己伸長反応によって合成された鎖の3′末端に、塩基対結合を可能とする領域Fを備える新たなステムループ構造が形成され、 工程6:これら一連の、ステムループ構造の3′末端からの自己伸長反応と、その際に形成されるループへのプライマー結合に伴う自己伸長反応を繰り返すことによって、鋳型の領域Dとその相補的配列を有する領域D′が交互に1本鎖の核酸上に延伸する方法 (6)本件発明1と先願発明との対比について ア.本件発明1及び先願発明の方法発明における目的物は、いずれも鋳型の有する領域と当該領域に相補的な配列を有する領域が交互に1本鎖の核酸上に延伸した核酸である点で一致する。 イ.次に、本件発明1の酵素は、「鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼ」であるが、前記1.(1)サに記載のとおり、当該DNAポリメラーゼは、Bstポリメラーゼを含む一方、先願発明の酵素は、Bstポリメラーゼであるから、両者の酵素は、一致する。 ウ.また、本件発明1の鋳型核酸は、「3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型」であって、「3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合」に、本件発明1の鋳型核酸は、図2(7)に記載されるように、3′末端側から順に領域F1-F2c-F1c-R1-R2-R1cを有するものとなる。そうすると、先願発明の「3′末端側から順に領域C′-B-C-D-E-F-E′を有する両末端にステムループ構造を有する核酸」は、本件発明1の「3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型」に相当する。 しかしながら、本件発明1の鋳型は、「前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である」ことが特定されているのに対し、先願発明には、そのような特定はなされていない。 エ.そして、本件発明1のプライマーは、「前記ループのうち3′末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3′末端に含むオリゴヌクレオチド」である。先願発明のFCプライマーにおける「B′」は、本件発明1における「F2」に相当するから、先願発明のFCプライマーは、本件発明1のプライマーと一致する。 オ.本件発明1の工程B)は、工程A)で与えられた鋳型核酸の3′末端からの自己伸長反応であり、この工程は、先願発明の工程2と一致する。 カ.本件発明1の工程C)は、鋳型核酸の3′末端側のループにオリゴヌクレオチド(プライマー)がアニールし、その3′末端を合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼにより相補鎖合成を行うものであり、その際、工程B)で合成された相補鎖を置換しながら相補鎖合成が進行し、その結果、工程B)で合成された相補鎖の3′末端が塩基対結合可能な状態となるという工程であるところ、本件発明1と先願発明とでは、前記イ及びエに説示のとおり、使用するポリメラーゼ及びプライマーが一致するほか、本件発明1の工程C)のうち、プライマーのアニールと鎖置換型の相補鎖合成及び工程B)で合成された相補鎖の3′末端を塩基対結合可能な状態とする点は、いずれも先願発明の工程3と一致する。 キ.本件発明1の工程D)は、工程B)で合成された相補鎖を新たな鋳型とすることを規定するものである。他方、先願発明の工程4では、同じく工程2の自己伸長反応により合成された核酸にRCプライマーがアニールし、一連の反応が進行するものであって、先願発明においても、工程2の自己伸長反応により合成された核酸を新たな鋳型として一連の反応が進行しているということができる。したがって、本件発明1の工程D)は、先願発明の工程4と一致する。 ク.以上のとおりであるから、本件発明1と先願発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 一致点:次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程、 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3′末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3′末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを、前記ループ部分の前記領域F2cにアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3′末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3′末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程。 相違点:本件発明1では、「前記鋳型は、3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である」のに対し、先願発明では、そのような特定はなされていない点。 ケ.上記相違点に関して先願明細書をみると、先願明細書には、本件発明1の「前記領域F2cと前記領域F1c」に相当する「セグメントBとセグメントC」間、及び本件発明1の「前記領域R2と前記領域R1」に相当する「セグメントEとセグメントF」間の塩基数については、特に記載はなされていない。 また、先願明細書における実施例についてみると、実施例1には、HBVプラスミドDNAをFCプライマー及びRCプライマーを使用してPCR増幅することが記載されており(【0178】)、FCプライマーの配列は、「5′-CATAGCAGCA GGATGAAGAG GAATATGATA GGATGTGTCT GCGGCGTTT-3′」であり、RCプライマーの塩基配列は、「5′-TCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAG AGGTTTTGCA TGGTCCCGTA-3′」であることが記載されている。先願明細書には、鋳型となるHBVのDNA配列は記載されていないが、平成26年5月23日付け上申書に添付された参考資料1に示されるとおり、HBVのDNA配列は、本願優先日前の平成8年5月15日にEMBL/GenBank/DDBJデータベースにアクセッション番号Z72478として登録されており、当該配列は本願優先日前における技術常識であったといえる。 そして、参考資料1のHBVのDNA配列によれば、参考資料1の塩基配列の375位?393位は、FCプライマーの3′末端に位置するGGATGTGTCT GCGGCGTTTと同一であり、これの相補配列は先願発明におけるセグメントB(本件発明1の「領域F2c」に相当)に対応する。また、参考資料1の塩基配列の394位?423位は、FCプライマーの5′末端に位置するCATAGCAGCA GGATGAAGAG GAATATGATAの相補配列であり、これの相補配列は先願発明におけるセグメントC(本件発明1の「領域F1c」に相当)に対応する。そして、このセグメントBとセグメントCは連続しており、両セグメント間の塩基数は0であることが理解できる。 さらに、参考資料1の塩基配列の475位?504位は、RCプライマーの5′末端に位置するTCCTCTAATT CCAGGATCAA CAACAACCAGと同一であり、これは先願発明におけるセグメントE(本件発明1の「領域R1」に相当)に対応する。また、参考資料1の塩基配列の505位?523位は、RCプライマーの3′末端に位置するAGGTTTTGCA TGGTCCCGTAの相補配列であり、これは先願発明におけるセグメントF(本件発明1の「領域R2」に相当)に対応する。そして、このセグメントEとセグメントFは連続しており、両セグメント間の塩基数は0であることが理解できる。 そうすると、先願明細書には、鋳型において、「前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基」とすること、および「前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基」とすることは開示されていない。 そして、この点が本願優先日前における周知技術であるとは認められないから、上記相違点が、課題解決のための具体的手段における微差であるともいえない。 したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明ではない。 コ.本件発明2?11について 本件発明2?11は、本件発明1に更に他の構成要件を付加したものであるところ、本件発明1は、先願明細書に記載された発明ではないから、本件発明2?11も、先願明細書に記載された発明とはいえない。 (7)小括 以上のとおり、本件発明1?11に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえない。 3.無効理由1(特許法第29条第2項違反)について (1)甲1の記載について 甲1(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.266、 No.21、 pp.14031-14038、 1991)には、以下の事項が記載されている。 「観察に基づき、スナップバック(snap-back)DNA合成における増幅に対し、図8のモデルを提案する。 工程1 T4ホロ酵素が、スナップバック機構により、直鎖ssDNA鋳型を複製する。この反応の生成物は、長い2本鎖のヘアピンであり、それは、出発物質である直鎖ssDNAに対して相同である。 工程2 uvsXタンパク質が、工程1における直鎖ssDNA分子と2本鎖ヘアピン生成物との間の結合を触媒する。uvsXタンパク質(6)によって触媒されるDNA分岐点移動の、5′から3′への方向性(ssDNAへの侵入に関する)により、前記ssDNAの3′末端は、D-ループ構造に組み込まれ、そこで、DNA複製を開始できる状態を保つ(脚注6:ヘアピン構造領域におけるループ部分の2重鎖は、直鎖ssDNAと非相同的であり、このため、3′末端の対合が困難になっている)。 工程3および4 このように開始されるDNA合成により、D-ループ中間体を、ダイマー長の直鎖2本鎖に分解し、前記直鎖2本鎖は複製開始DNA合成における鋳型としてもよい(工程5)。 工程5及び6 uvsXタンパク質が直鎖ssDNA分子(出発物質)と2本鎖の二量体中間体の相同性タンパク質との間のシナプシスを触媒し、DNA合成を開始する。DNAバブル移動機構(13)によるこの鋳型の複製によって、内部相補的であり、急速に復元するダイマー長の直鎖ssDNA分子が生じる。 工程7 この生成物の復元によって、工程1と同一のヘアピン構造が形成される。そして、これらの生成物は新たなDNA合成に用いてもよく、それによって、これらの生成物は増幅される。」(14037頁右欄28行?54行) 「図8 T4uvsXタンパク質の複製開始活性に基づく、前記タンパク質によるスナップバック(snap-back)DNA合成の増幅モデル。uvsXが触媒する、直線ssDNAプライマー/テンプレートと、スナップバック複製のdsDNA産物との再結合が、スナップバック産物と同じ配列を持つ2倍の長さの二重鎖を産生するDNA合成を開始する。このテンプレートにおける再結合で開始されたDNA合成は、スナップバック産物の産生を増幅させる。詳細は、ディスカッションを参照。」(14037頁左欄1行?8行) 「図8 」 「最後に、snap-backのDNA合成反応は、比較的シンプルな、試験管内システムにおいて、高い精度のDNAポリメラーゼを用いて実施されるDNAの等温増幅プロセスの一例である。」(14038頁右欄13行?16行) (2)甲2の記載について 甲2(“DNA REPLICATION SECOND EDITION”, ARTHUR KORNBERG,TANIA A BAKR, W.H.FREEMAN AND COMPANY,1992 pp.700-704, pp.713-716, pp.492-493 pp.504)には、以下の事項が記載されている。 「一般に、自律的ウイルスは、mRNAの相補鎖をカプシドに包んでいる。一方、AAVは、(+)鎖と(-)鎖のどちらかを同じ頻度で別々の粒子としてパッケージしている。このウイルス粒子からの放出時に、相補鎖は直鎖状二重鎖を形成するようにアニールできる。パルボウイルスのDNAの鎖端は、自己アニーリングによるさまざまなヘアピン構造を形成できるように反転して末端繰り返し配列を持っている(図19-6)。」(701頁1行?6行) 「図19-6 AAVの提案モデル。A、A’、B、B’などの文字は、末端繰り返し配列を示している。(1) ウイルス鎖。鎖の形成しうる四つの末端構造のうち、三つは大括弧内に示されている。(2) ヘアピンループは、相補鎖合成を開始し、二本鎖複製型をつくる。(右の直線分画におけるBとCの間の距離は、左の折り返し型の距離と同じであるはずである。)ニック(矢印)は、親鎖の3′端の反対側に起こる。(3) ニックとニックからの鎖伸長反応の結果、ヘアピンの転移がおこる。(4) 末端ヘアピンの再構成により、どちらかの末端にひとしく3′プライマー末端が作られる。(5) その3′プライマー末端からの(DNAが)合成されることで、1ユニット分の長さのゲノムが置換される。(6) 1ラウンドの置換合成反応が完了することにより、置換された一本鎖が((この鎖は)ステップ1記載にあるように、相補鎖合成のスタート準備ができている)、そして、ヘアピン転移反応と鎖置換反応の他のラウンドが起こりうる二本鎖分子((この鎖は)ステップ2の初めに記載)が、結果として生じる。(Berns KI、 Hauswirth WW (1982) ウイルスDNAの構成と複製(カプランA編)。CRC出版、クリーブランド、25ページ)」(701頁図19-6の説明) 「末端配列は、ヘアピンのプライミングとヘアピンループの転移のための基礎となる(図19-6)42。AAVの各々の鎖における四つの可能な末端配列の組み合わせは同じ割合で見つかっており、このことは、末端配列の特定の方向性には、バイアスがないということを示している。反転は、ウイルス粒子のAAV鎖の3′末端に起こらないので、複雑な複製も出るが推測できる。 親と子孫の双方の細胞内複製中間体43における末期のクロス結合分子は、5′端配列を複製するための末端ヘアピン鎖からの(複製)開始とヘアピンループの転移メカニズムに一致している。双方の鎖の合成が、5′から3′方向の鎖置換機構による継続的伸長反応によって起こる。感染したウイルスの一本鎖からの親の複製型(DNA分子)の初期合成におけるように、置換された一本鎖は、カプシドに包まれるか、または、相補鎖の合成によって、複製型にもどされ、リサイクルされる(図19-6)。」(702頁21行?34行) 「図19-6 」 「図19-12 牛痘ウイルスDNAの複製モデル。一方の端のループ領域で開始する複製は、ヘアピンループ機構により、そこから直線状のゲノムが遊離してサイクルが回るところのコンカテマーをつくるために一方向的に進行する(左の経路)。両端から始まる複製は、直線状ゲノムを直接産生する(右の経路)[After Moss B (1990) in Virology (Fields BN、 Knipe DM、 eds.). Raven Press、 New York、 p2079]」(716頁図19-12の説明) 「適切な時間に、いくつかの場所で鋳型環が開くことが完全な二本鎖を作るのに必要とされる。おそらく、パリンドローム配列が折り返して、最終的に環状ウイルスの子孫DNA分子を作るヘアピンを作る。ニッキングと結合酵素は、ゲノムを完成させるための分子内結合の原因となるものかもしれない。」(716頁1行?5行) (3)甲3の記載について 甲3(WO 96/01327)には、以下の事項が記載されている。 「本発明は、DNAポリメラーゼによる核酸標的配列の増幅方法であって、標的配列と特異的にハイブリダイズできる部分(3′)、及び少なくとも1つの逆方向反復配列を含む部分(5′)からなる少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーの伸長を利用することを特徴とする方法に関する。」(4頁28行?35行) 「逆方向反復配列(またはパリンドローム配列ともいう)により、ヘアピン形状の二本鎖構造を形成するための自己プライミングが可能になる。」(5頁29行?32行) 「実際、熱撹拌の効果により、DNAの二本鎖の末端のパリンドローム配列は、2つの形成の間の動的平衡にある:すなわち、通常の二本鎖⇔二本ヘアピンである(図5h及び5i)。 DNAポリメラーゼは、二本ピンに折り曲げられた鎖の一方の末端3′に結合され、かつ折り曲げられた末端をプライマーとして用いて、鎖の一方の複製を開始することができる(図5j)。DNAポリメラーゼは、そうすることで、相補的鎖を移動させ、かつ2つの鎖は温度上昇を行うことを必要とせず、このようにして分離される(図5j)。このステップから、鎖の一方は、新規なプライマーP2とハイブリダイズして、新規な複製サイクルを開始することができる(図5f)。他方は、各サイクルで、その長さは理論上二倍になるサイズの増大を受ける(図5k、5l、5m)。 反応の間中一定に維持される反応温度は、プライマーのハイブリダイゼーション、広げた形状及びヘアピン状に折り曲げられた形状の間の逆方向反復配列の平衡、及び他方で選択したポリメラーゼによる鎖の伸長を可能にするように選択される。一般的に、この温度は、45-75℃であり、好ましくは50-65℃である。」(7頁31行?8頁20行) 「図5 」 (4)甲4の記載について 甲4(WO 97/04131)には、以下の事項が記載されている。 「他の好ましい態様において、図17に示す通り、ヘアピンDNAは、標的ポリヌクレオチド上でのプライマー(プローブ)の伸長によって得られる。AからDの領域の一本鎖の標的ポリヌクレオチドを、パネルAに示す。前記プローブの3′末端は、前記標的ポリヌクレオチドの領域Aに相補的な配列である。前記プローブの5′末端は、前記標的ポリヌクレオチドの領域Bと同一の配列である。前記標的ポリヌクレオチドが二本鎖の場合、それを、一本鎖の標的を産生するために変性させる。その後、前記プローブを前記標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズさせる(図17、パネルA)。そして、少なくとも前記標的ポリヌクレオチドの領域Dの5′末端に伸長させた状態で、前記プローブを鋳型依存性ポリヌクレオチドポリメラーゼに接触させる(図17、パネルB)。変性は、図C(注:「パネルC」の誤記と思われる。)の伸長生成物を産生する鎖分離を引き起こす。この伸長生成物は、5′ 末端が牧杖形状をしており、プライマーDを用いて増幅できる。前述のとおり、前記プライマーDは、図17、パネルDに示す生成物を産生するために、伸長生成領域D’に相補的である。」(23頁第5行?23行) 「図17 」 (5)本件発明1と甲1に記載された発明の対比 前記(1)の甲1の記載によれば、甲1には、「T4ホロ酵素がスナップバック機構により中央にヘアピン構造を有する長い2本鎖DNAを合成し、これに当該2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入し、当該直鎖ssDNAがプライマーとして機能して鎖置換型の相補鎖合成を行うことによる、uvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存する、T4ホロ酵素を用いたスナップバックDNA増幅機構」が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。 本件発明1と引用発明1を対比すると、両者は、DNAの増幅方法である点で一致する。 請求人は、引用発明1におけるヘアピン構造が本件発明1のループ部分に相当し、同じく直鎖ssDNAがプライマー(オリゴヌクレオチド)に相当する旨主張する。 しかしながら、本件発明1の工程A)で提供される鋳型となる核酸のループ部分(ループ形成配列)は、3′末端及び5′末端にそれぞれ領域F1-F2c-F1c及びR1c-R2-R1の塩基配列で構成される領域(ループ形成配列)を有するものであり、かつ、当該領域は、本件発明1における工程C)以下を実現させる上で不可欠の構成である。さらに、本件発明1では、「前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である」ことが特定されている。 一方、引用発明1のヘアピン構造は、T4ホロ酵素のスナップバック機構により生ずるものであるばかりか、本件発明1のループ形成配列における領域F2c又はR2に相当する部分を欠くものであり、また、領域間の塩基数に関する記載もない。 したがって、引用発明1におけるヘアピン構造は、本件発明1のループ部分に相当するということはできない。 そうすると、本件発明1が「A)3′末端と5′末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程であって、 前記鋳型は、3′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5′末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域をR1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である工程」を有する一方、引用発明1にはこれが存在しないことは、両者の実質的な相違点である(以下、「相違点A」という。)。 また、本件発明1においてアニールされるオリゴヌクレオチドは、3′末端側のループ内の領域F2c部分に相補的な塩基配列部分(領域F2)を含むもので、当該領域F2部分が当該領域F2c部分にアニールするというものであり、かつ、当該オリゴヌクレオチドの構成及びそれに基づくアニールの方法は、いずれも工程C)以下を実現させる上で不可欠の構成である一方、引用発明1は、既存の2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって、アニールされる直鎖ssDNAの構成及びアニール(侵入)の方法が、いずれも本件発明1とは相違するというほかない。 したがって、引用発明1における直鎖ssDNAは、本件発明1のオリゴヌクレオチドに相当するということはできず、むしろ、本件発明1が上記のようなオリゴヌクレオチド、すなわち、「3′末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3′末端に含むオリゴヌクレオチドを、ループ部分にアニールさせ(工程C))」るとの構成を有する一方、引用例1に記載の発明が「当該2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの作用によって侵入」するとの構成を有することは、両者の実質的な相違点である(以下、「相違点B」という。)。 (8)判断 ア.相違点Aについて 引用発明1におけるヘアピン構造は、T4ホロ酵素のスナップバック機構により生ずるものであって、本件発明のループ形成配列における領域F2c又はR2に相当する部分を欠くものであるから、構成として自己完結しているものであって、甲1には、DNAの増幅に当たって、あえて本件発明1の相違点Aに係る構成を採用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また、技術分野を同じくする他の文献にも、この点に関する示唆ないし動機付けは見当たらない。 イ.相違点Bについて 引用発明1は、既存の2本鎖DNAに相同な直鎖ssDNAがuvsXリコンビナーゼの組換え反応に依存して侵入するというものであって、相補鎖の置換を開始するための方法としては、本件発明1における塩基対結合の相補性を利用したアニールと全く異なる原理に基づくものであるから、甲1には、DNAの増幅に当たって、引用発明1の相違点Bに係る構成に代えて、本件発明1の相違点Aに係る構成を前提とした本件発明1の相違点Bに係る構成を採用させるに足りる示唆ないし動機付けが見当たらない。また、技術分野を同じくする他の文献にも、この点に関する示唆ないし動機付けは見当たらない。 (9)甲2?8について 甲2に記載された発明は、種々のウイルスの生体内におけるDNA複製機構を明らかにすることを課題とするものであり、例えば、アデノ随伴ウイルスの増幅機構は、図19-6に詳述されているが、3′末端と5′末端の双方にループが形成された1本鎖核酸(鋳型)において、その3′末端から自己を鋳型とする相補鎖合成が開始され、二本鎖の複製型が一旦形成され、その親鎖の3′端の反対側でニックが生じ、ニックからの伸長反応の結果、ヘアピン構造への転移が生じ、末端ヘアピンの再構成によって、どちらかの末端に3′末端が形成され、当該末端からの自己を鋳型とする相補鎖合成によって、次の新しい鋳型が提供されるというものである。 ところが、3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせることは甲2のどこにも記載されていない。 甲3に記載された発明は、ヘアピン構造を形成し得るプライマーを使用し、核酸を等温増幅する方法の提供を課題とするものであり、二本鎖DNAの末端にあるパリンドローム配列は動的平衡によってヘアピン構造を形成し、折り曲げられた末端はプライマーとして機能し、自己を鋳型とする相補鎖合成を行って、核酸の伸長反応が継続的に生じるこというものである。 この甲3にも、3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせることはどこにも記載されていない。 甲4に記載された発明は、単一のプライマーを用いて、ヘアピン構造を有する核酸を増幅することを課題とするものであり、その詳細は、図17に示されるとおり、標的ポリヌクレオチドの領域Aに相補的な配列と、標的ポリヌクレオチドの領域Bと同一の配列を有するプライマー(TP)を標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズさせ、3′末端からの伸長反応によって伸長生成物を生じさせ、これを熱変性によって鎖分離し、該伸長生成物が5′末端にヘアピン構造を形成した後に、PCRプライマー(D)をハイブリダイズさせ、該生成物を増幅するというものである。 この甲4に記載される、標的ポリヌクレオチドの領域Aに相補的な配列と、標的ポリヌクレオチドの領域Bと同一の配列を有するプライマーは、TPと構造は同じではあるが、これを3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせることはどこにも記載されていない。 請求人はこの点について、図17Dの核酸分子のループに、図17AのTPがアニールして伸長可能であることは自明であり、これは、本件発明1の「1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法」及び工程c)(鎖置換を除く)に該当することを主張しているが、単一のプライマーを用いての増幅を意図している、プライマーDを用いた増幅工程において、図17AのTPを存在させることが何ら記載されていないのであるから、図17AのTPがアニールして伸長可能であることは自明であるとしても、本件発明1の工程c)に相当するものが記載されていることにならない。 このように、これら甲2?4にも、甲1と同様に、3′末端側に位置するループ部分にプライマーをアニールさせること(本件発明1の工程C))は記載されていない。 また、甲5?8にも、この点は記載されていない。 したがって、甲1?甲8に記載された発明を、どのように組合わせたとしても、本件発明1には到達できず、本件発明1は、これらの発明から当業者が容易に発明することができないというべきものである。 (9)小括 よって、本件発明1は、甲1?8に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 また、本件発明2?11は、いずれも本件発明1を引用する発明であるところ、本件発明1は、甲1?甲8に基づいて当業者が容易に想到することができなかったものであるから、本件発明2?11も、同じく容易に想到することができなかったものというべきである。 以上のとおり、本件発明1?11に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。 4.無効理由3、4(特許法第36条第6項第1号及び同条第4項違反)について (1)実施可能要件について 本件明細書には、前記1.(1)エ、オ及びカに記載のとおり、本件発明1の工程A)の鋳型を提供する方法について、具体例を挙げつつ、様々な方法が可能である旨の記載があり、かつ、そこに記載の具体例は、いずれも一般的な技術に基づくものであるから、本件出願日当時の技術常識に照らして、当業者が実施可能であると認められる。 次に、本件発明1の工程B)それ自体は、DNAポリメラーゼの機能によって、部分的に2本鎖となった鋳型核酸の3′末端が鋳型核酸の1本鎖となっている部分に対して相補鎖合成を行うということであって、本件出願日当時の当該分野における技術常識にほかならない(甲2参照)。 本件発明1の工程C)のうち、既存の核酸のループ形成配列(領域F2c)と相補的な塩基配列(領域F2)を有するオリゴヌクレオチドをループ部分にアニールさせることそれ自体は、ループ部分に塩基対結合を生じていない塩基配列が存在すれば発生し得ることであって、これもまた、本件出願日当時の当業者の技術常識であったものと認められる。また、上記工程C)のうち、特定のDNAポリメラーゼが触媒となって、他の核酸にアニールしたオリゴヌクレオチドの3′末端(プライマー)が塩基対結合の置換による相補鎖合成反応を示すことは、本件明細書でも多数の既存のDNAポリメラーゼが鎖置換型ポリメラーゼとして紹介されていること(前記1.(1)サ)から、やはり本件出願日当時の当業者の技術常識であったものと認められる。したがって、上記工程C)自体は、当業者が本件出願日当時の技術常識に照らして実施可能であったといえる。 さらに、本件発明1の工程D)は、工程A)において、5′末端に領域R1c-R2-R1の塩基配列で構成されるループ形成配列をあらかじめ提供していたことによる論理的帰結であって、それ自体に何ら技術的な困難性が見当たらない。 以上に加えて、本件発明2以下は、いずれも、本件発明1に他の構成が追加されたものであるが、これらの追加された各構成は、前記1.(1)に記載の本件明細書の記載によれば、いずれも既存ないし既知の技術に立脚するものと認められ、当該各構成を使用することが本件発明2?11の場合において不可能であると認めるに足りる証拠もないから、いずれも、本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして当業者が実施可能であるものといえる。 したがって、本件発明1?11は、いずれも本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らして当業者が使用可能なものであるといえる。 (2)サポート要件について 本件明細書は、前記1.(1)エ、オ及びカに記載のとおり、本件発明の工程A)の鋳型核酸の製造方法について記載した上で、本件発明1?3については、前記1.(1)キにその作用機序及び技術的思想に関する詳細な説明を記載しており、本件発明4?6については、前記1.(1)クに、本件発明7?11については、前記1.(1)ケ、コ及びシに、それぞれその構成及びその技術的意義に関する詳細な説明を記載しており、これらの記載は、いずれも当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるものであると認められる。 (3)請求人の主張について ア.請求人は、本件明細書には本件発明1の工程A)の鋳型核酸の製造方法として2つのOPを用いた方法以外には記載がないから、当業者がこれを実施できず、また、本件発明のLAMP法では2つのOP及びTPが必須である旨を主張する。 しかしながら、本件明細書には、上記工程A)の鋳型核酸は、様々な方法によって得ることができるとされており(前記1.(1)エ)、それ自体実施可能であるとされているから、この点を問題として実施可能要件又はサポート要件違反を指摘する主張は、失当である。 イ.請求人は、本件発明における工程A)の鋳型核酸を作るに当たり、加熱変性が必要であることから、本件発明が実施可能要件又はサポート要件に違反する旨を主張する。 しかしながら、前記1.(1)サにもあるように、本件発明は、「等温反応が可能とは言え、最初の鋳型となる核酸の提供のためにも加熱変性は行われる可能性があ」るというものであり、本件発明において、加熱変性などの処理を行って鋳型核酸を得ることが完全に排除されているわけではないから、請求人の上記主張は採用できない。 (4)小括 以上のとおり、本件発明1?11に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。 第5 むすび 以上まとめると、本件発明1?11について、請求人が申し立てた無効理由は、いずれも理由がないものであるから、本件請求項1?11に係る発明についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 核酸の合成方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3’末端と5’末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程であって、 前記鋳型は、3’末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域F1とし、前記領域F1と相補的な塩基配列からなる領域を領域F1cとし、前記領域F1と前記領域F1cとの間に存在し前記領域F1と前記領域F1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域F2cとし、かつ、5’末端に存在し同一鎖上の相補的な塩基配列にアニールする領域を領域R1cとし、前記領域R1cと相補的な塩基配列からなる領域を領域R1とし、前記領域R1cと前記領域R1との間に存在し前記領域R1と前記領域R1cがアニールしたときに塩基対結合可能となる領域を領域R2とした場合に、前記領域F2cと前記領域F1cとの距離が10?70塩基であり、および/または、前記領域R2と前記領域R1との距離が10?70塩基である工程、 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3’末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3’末端側に位置するループ内の前記領域F2cに相補的な塩基配列の領域F2を3’末端に含むオリゴヌクレオチドを、前記ループ部分の前記領域F2cにアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3’末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3’末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程。 【請求項2】 工程C)におけるオリゴヌクレオチドが、その5’側末端に工程B)において合成起点となった3’末端の領域F1に相補的な塩基配列の領域F1cを備えたものである請求項1に記載の増幅方法。 【請求項3】 更に工程C)におけるオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖を工程A)における鋳型とする工程を含む請求項2に記載の増幅方法。 【請求項4】 融解温度調整剤の存在下で鎖置換相補鎖合成反応を行う請求項1に記載の方法。 【請求項5】 融解温度調整剤がベタインである請求項4に記載の方法。 【請求項6】 反応液中に0.2?3.0Mのベタインを存在させる請求項5に記載の方法。 【請求項7】 請求項1?6に記載のいずれかの増幅方法を行い、増幅反応生成物が生じたかどうかを観察することにより試料中の標的塩基配列を検出する方法。 【請求項8】 増幅反応生成物に、ループに相補的な塩基配列を含むプローブを加え、両者のハイブリダイズを観察する請求項7に記載の方法。 【請求項9】 プローブが粒子標識されており、ハイブリダイズによって生じる凝集反応を観察する請求項8に記載の方法。 【請求項10】 核酸の検出剤存在下で請求項1?6に記載のいずれかの増幅方法を行い、検出剤のシグナル変化に基づいて増幅反応生成物が生じたかどうかを観察する請求項7に記載の方法。 【請求項11】 請求項7に記載の検出方法によって標的塩基配列の変異を検出する方法であって、増幅対象である塩基配列における変異が、増幅方法を構成するいずれかの相補鎖合成を妨げるものである方法。 【発明の詳細な説明】 技術分野 本発明は、核酸の増幅方法として有用な、特定の塩基配列で構成される核酸を合成する方法に関する。 背景技術 核酸塩基配列の相補性に基づく分析方法は、遺伝的な特徴を直接的に分析することが可能である。そのため、遺伝的疾患、癌化、微生物の識別等には非常に有力な手段である。また遺伝子そのものを検出対象とするために、例えば培養のような時間と手間のかかる操作を省略できる場合もある。 とはいえ試料中に存在する目的の遺伝子量が少ない場合の検出は一般に容易ではなく、標的遺伝子そのものを、あるいは検出シグナル等を増幅することが必要となる。標的遺伝子を増幅する方法の一つとしてPCR(Polymerase Chain Reaction)法が知られている(Science,230,1350-1354,1985)。PCR法は、in vitroにおける核酸の増幅技術として現在最も一般的な方法である。その指数的な増幅効果に基づく高い感度により優れた検出方法として定着した。また、増幅生成物をDNAとして回収できることから、遺伝子クローニングや構造決定などの遺伝子工学的手法を支える重要なツールとして幅広く応用されている。しかしPCR法においては、実施のために特別な温度調節装置が必要なこと;増幅反応が指数的に進むことから定量性に問題があること;試料や反応液が外部からの汚染を受け、誤って混入した核酸が鋳型として機能してしまうコンタミネーションの影響を受け易いこと等の問題点が指摘されている。 ゲノム情報の蓄積に伴って、1塩基多型(SNPs;single nucleotide polymorphism)の解析が注目されている。プライマーの塩基配列にSNPsを含むように設計することによってPCRを利用したSNPsの検出が可能である。すなわち、反応生成物の有無によってプライマーに相補的な塩基配列の有無を知ることができる。しかしPCRにおいては、万が一誤って相補鎖合成が行われてしまった場合には、その生成物が以降の反応の鋳型として機能して誤った結果を与える原因となる。現実には、プライマーの末端における1塩基の相違のみでは、PCRを厳密に制御することは難しいといわれている。したがって、PCRをSNPsの検出に利用するには特異性の改善が必要とされている。 一方リガーゼに基づく核酸合成方法も実用化されている。LCR法(Ligase Chain Reaction,Laffler TG;Carrino JJ;Marshall RL;Ann.Biol.Clin.(Paris),1993,51:9,821-6)は、検出対象となる配列上において隣接する2つのプローブをハイブリダイズさせ、リガーゼによって両者を連結する反応が基本原理になっている。標的塩基配列が存在しない場合には2つのプローブを連結することはできないので、連結生成物の存在は標的塩基配列の指標となる。LCR法も合成した相補鎖と鋳型との分離に温度制御が必要となることから、PCR法と同じ問題点を伴っている。LCRについては、隣接するプローブの間にギャップを設け、これをDNAポリメラーゼで充填する工程を加え特異性を改善する方法も報告されている。しかし、この改良方法によって期待できるのは特異性のみであり、温度制御を要求する点については依然として課題を残している。しかも、必要な酵素が増えるため、コストを犠牲にしているといえる。 検出対象配列を鋳型として相補的な配列を持つDNAを増幅する方法には、SDA法(Strand Displacement Amplification)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392-396;1992][Nucleic Acid.Res.,20,1691-1696;1992]と呼ばれる方法も知られている。SDA法は、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその鎖を置換しながら相補鎖の合成を行う特殊なDNAポリメラーゼを利用する方法である。なお以下本明細書において単に5’側、あるいは3’側と表現するときには、いずれも鋳型となっている方の鎖における方向を意味している。5’側の2本鎖部分が新たに合成された相補鎖によって置換(displacement)されることからSDA法と呼ばれている。SDA法では、プライマーとしてアニールさせた配列に予め制限酵素認識配列を挿入しておくことによって、PCR法においては必須となっている温度変化工程の省略を実現できる。すなわち、制限酵素によってもたらされるニックが相補鎖合成の起点となる3’-OH基を与え、そこから鎖置換合成を行うことによって先に合成された相補鎖が1本鎖として遊離して次の相補鎖合成の鋳型として再利用される。このようにSDA法はPCR法で必須となっていた複雑な温度制御を不要とした。 しかし、SDA法では鎖置換型のDNAポリメラーゼに加え、必ずニックをもたらす制限酵素を組み合わせる必要がある。必要な酵素が増えるということは、コストアップの要因である。また、用いる制限酵素によって2本鎖の切断ではなくニックの導入(すなわち一方の鎖だけの切断)を行うために、一方の鎖には酵素消化に耐性を持つように合成の際の基質としてαチオdNTPのようなdNTP誘導体を利用しなければならない。このため、SDAによる増幅産物は天然の核酸とは異なった構造となり、制限酵素による切断や、増幅産物の遺伝子クローニングへの応用といった利用は制限される。またこの点においてもコストアップの要因を伴っているといえる。加えて、未知の配列にSDA法を応用するときには、合成される領域の中にニック導入のための制限酵素認識配列と同じ塩基配列が存在する可能性を否定できない。このようなケースでは完全な相補鎖の合成が妨げられる必要がある。 複雑な温度制御を不要とする核酸の増幅方法として、NASBA(Nucleic Acid Sequence-based Amplification、TMA/Transcription Mediated Amplification法とも呼ばれる)が公知である。NASBAは、標的RNAを鋳型としてT7プロモーターを付加したプローブでDNAポリメラーゼによるDNA合成を行い、これを更に第2のプローブで2本鎖とし、生成する2本鎖DNAを鋳型としてT7 RNAポリメラーゼによる転写を行わせて多量のRNAを増幅する反応系である(Nature,350,91-92,1991)。NASBAは2本鎖DNAを完成するまでにいくつかの加熱変性工程を要求するが、以降のT7 RNAポリメラーゼによる転写反応は等温で進行する。しかし、逆転写酵素、RNaseH、DNAポリメラーゼ、そしてT7 RNAポリメラーゼといった複数の酵素の組み合わせが必須となることから、SDAと同様にコストの面では不利である。また複数の酵素反応を行わせるための条件設定が複雑なので、一般的な分析方法として普及させることが難しい。このように公知の核酸増幅反応においては、複雑な温度制御の問題点、あるいは複数の酵素が必要となることといった課題が残されている。 更に、これらの公知の核酸合成反応について、特異性やコストを犠牲にすることなく核酸の合成効率を更に向上させる試みについては、ほとんど報告が無い。たとえば、RCA(Rolling-circle amplification)と呼ばれる方法では、標的塩基配列の存在下でパドロックプローブ(padlock probe)に相補的な塩基配列が連続した1本鎖のDNAを継続して合成できることが示された(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225-232,July,1998)。RCAでは、1本のオリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端がLCRにおける隣接プローブを構成する特殊な構造のパドロックプローブが利用される。そして鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼを組み合わせることにより、標的塩基配列の存在下でライゲーションされ環化したパドロックプローブを鋳型とする連続的な相補鎖合成反応がトリガーされる。同じ塩基配列からなる領域が繰り返し連続した構造を持った1本鎖核酸が生成される。この1本鎖核酸に対して更にプライマーをアニールさせてその相補鎖の合成を行って、高度な増幅を実現している。しかし、複数の酵素が必要な点は依然として残された課題である。また、相補鎖合成のトリガーは、2つの隣接領域の連結反応に依存しており、その特異性は原理的にLCRと同じレベルである。 3’-OHの供給という課題に対しては、3’末端に同一鎖上の塩基配列に相補的な配列を持たせ、末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene71,29-40,1988)。このようなヘアピンループからは、自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ、相補的な塩基配列で構成された1本鎖の核酸を生成する。たとえばPCT/FR95/00891では、相補的な塩基配列を連結した末端部分で同一鎖上にアニールする構造を実現している。しかしこの方法では、末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消して改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である。このステップは塩基対結合を伴う相補的な塩基配列同士の末端における微妙な平衡状態に依存して進むとされている。すなわち、相補鎖との塩基対結合と、同一鎖上での塩基対結合との間で維持される平衡状態を利用し、同一鎖上の塩基配列とアニールしたもののみが相補鎖合成の起点となる。したがって、高度な反応効率を達成するためには、厳密な反応条件の設定が求められるものと考えられる。更にこの先行技術においては、プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがいったん生成すると、標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され非特異的な合成産物を形成してしまう。これは重大な問題点といえる。更に、プライマーダイマーの生成とそれに伴う非特異的な合成反応によるプライマーの消費が、目的とする反応の増幅効率の低下につながる。 その他に、DNAポリメラーゼに対して鋳型とならない領域を利用して同一鎖にアニールする3’末端構造を実現した報告(EP713922)がある。この報告も末端部分における動的平衡を利用している点、あるいはプライマーダイマー形成にともなう非特異的な合成反応の可能性においては先のPCT/FR95/00891と同様の問題点を持つ。更に、DNAポリメラーゼの鋳型とならない特殊な領域をプライマーとして用意しなければならない。 また前記NASBAの原理を応用した各種のシグナル増幅反応においては、2本鎖のプロモーター領域を供給するためにしばしば末端でヘアピン状の構造を伴ったオリゴヌクレオチドが利用される(特開平5-211873)。しかしこれらは、相補鎖合成の3’-OHの連続的な供給を可能とするものではない。更に特表平10-510161(WO96/17079)においては、RNAポリメラーゼによって転写されるDNA鋳型を得ることを目的として同一鎖上に3’末端をアニールさせたヘアピンループ構造が利用されている。この方法では、RNAへの転写と、RNAからDNAへの逆転写を利用して鋳型の増幅が行われる。しかし、この方法も複数の酵素を組み合わせなければ反応系を構成できない。 発明の開示 本発明の課題は、新規な原理に基づく核酸の合成方法を提供することである。より具体的には、低コストで効率的に配列に依存した核酸の合成を実現することができる方法を提供することである。すなわち、単一の酵素を用い、しかも等温反応条件の下でも核酸の合成と増幅を達成することができる方法の提供が、本発明の課題である。更に本発明は、公知の核酸合成反応原理では達成することが困難な高い特異性を実現することができる核酸の合成方法、並びにこの合成方法を応用した核酸の増幅方法の提供を課題とする。 本発明者らは、まず鎖置換型の相補鎖合成を触媒するポリメラーゼの利用が、複雑な温度制御に依存しない核酸合成に有用であることに着目した。このようなDNAポリメラーゼは、SDAやRCAでも利用された酵素である。しかし、たとえこのような酵素を用いたとしても、公知のプライマーに基づく手法では、たとえばSDAのように合成起点となる3’-OHを供給するために常に他の酵素反応が要求される。 そこで本発明者らは、公知のアプローチとはまったく異なる角度から3’-OHの供給について検討した。その結果、特殊な構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用することによって、付加的な酵素反応に頼らずとも3’-OHの供給が可能となることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の核酸の合成方法、更にはこの核酸合成方法を応用した核酸の増幅方法、ならびにこれらの方法を可能とする新規なオリゴヌクレオチドに関する。 〔1〕以下の工程を含む1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法。 a)同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を3’末端に備え、この領域F1がF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸を与える工程 b)F1cにアニールしたF1の3’末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程 c)領域F2cに相補的な配列からなるF2を3’末端に含むオリゴヌクレオチドをアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程b)で合成された相補鎖を置換する工程 d)工程c)で置換され塩基対結合が可能となった相補鎖における任意の領域に相補的な配列を3’末端に含むポリヌクレオチドをアニールさせ、その3’末端を合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程c)で合成された相補鎖を置換する工程 〔2〕工程d)において、合成起点が領域R1cにアニールすることができる同一鎖上の3’末端に存在する領域R1であり、R1がR1cにアニールすることによって塩基対結合が可能な領域R2cを含むループが形成される〔1〕に記載の方法。 〔3〕少なくとも以下の2つの領域X2およびX1cとで構成され、X2の5’側にX1cが連結されたオリゴヌクレオチド。 X2:特定の塩基配列を持つ核酸の任意の領域X2cに相補的な塩基配列を持つ領域 X1c:特定の塩基配列を持つ核酸における領域X2cの5’側に位置する領域X1cと実質的に同じ塩基配列を持つ領域 〔4〕工程a)における核酸が、以下の工程によって提供される第2の核酸である〔1〕に記載の方法。 i)領域X2が領域F2であり、領域X1cが領域F1cである〔3〕に記載のオリゴヌクレオチドの領域F2を鋳型となる核酸の領域F2cにアニールさせる工程、 ii)オリゴヌクレオチドのF2を合成起点とし、鋳型に相補的な塩基配列を持つ第1の核酸を合成する工程 iii)工程ii)で合成された第1の核酸の任意の領域を塩基対結合が可能な状態とする工程、 iv)工程iii)における第1の核酸の塩基対結合を可能とした領域に相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチドをアニールさせ、それを合成起点として第2の核酸を合成し、その3’末端のF1を塩基対結合が可能な状態とする工程 〔5〕工程iii)の塩基対結合を可能とする領域がR2cであり、かつ工程iv)におけるオリゴヌクレオチドが、領域X2cが領域R2cであり、領域X1cが領域R1cである〔3〕に記載のオリゴヌクレオチドである〔4〕に記載の方法。 〔6〕工程iii)およびiv)における塩基対結合が可能な状態とする工程を、鋳型におけるF2cの更に3’側にアニールするアウタープライマー、および第1の核酸における工程iv)で合成起点とした領域の更に3’側にアニールするアウタープライマーを合成起点とする鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる鎖置換相補鎖合成によって行う〔4〕または〔5〕に記載の方法。 〔7〕反応に用いる各オリゴヌクレオチドと鋳型におけるその相補領域との融解温度が、同じストリンジェンシーの下で次の関係にある〔6〕に記載の方法。(アウタープライマー/鋳型における3’側の領域)≦(F2c/F2およびR2c/R2)≦(F1c/F1およびR1c/R1) 〔8〕鋳型となる核酸がRNAであり、工程ii)における相補鎖合成を逆転写酵素活性を持つ酵素で行う〔4〕?〔7〕のいずれかに記載の方法。 〔9〕次の工程を繰り返すことによる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の増幅方法。 A)3’末端と5’末端において、それぞれ末端領域に相補的な塩基配列からなる領域を同一鎖上に備え、この互いに相補的な塩基配列がアニールしたときに両者の間に塩基対結合が可能となるループが形成される鋳型を提供する工程 B)同一鎖にアニールさせた前記鋳型の3’末端を合成起点として相補鎖合成を行う工程、 C)前記ループのうち3’末端側に位置するループ内に相補的な塩基配列を3’末端に含むオリゴヌクレオチドを、ループ部分にアニールさせ、これを合成起点として鎖置換相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによる相補鎖合成を行って、工程B)で合成された相補鎖を置換してその3’末端を塩基対結合が可能な状態とする工程、および D)工程C)において3’末端を塩基対結合が可能な状態とした鎖を工程A)における新たな鋳型とする工程 〔10〕工程C)におけるオリゴヌクレオチドが、その5’側末端に工程B)において合成起点となった3’末端に相補的な塩基配列を備えたものである〔9〕に記載の増幅方法。 〔11〕更に工程C)におけるオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖を工程A)における鋳型とする工程を含む〔10〕に記載の増幅方法。 〔12〕工程A)における鋳型が〔5〕に記載の方法によって合成されたものである〔9〕に記載の増幅方法。 〔13〕融解温度調整剤の存在下で鎖置換相補鎖合成反応を行う〔1〕または〔9〕に記載の方法。 〔14〕融解温度調整剤がベタインである〔13〕に記載の方法。 〔15〕反応液中に0.2?3.0Mのベタインを存在させる〔14〕に記載の方法。 〔16〕〔9〕?〔15〕に記載のいずれかの増幅方法を行い、増幅反応生成物が生じたかどうかを観察することにより試料中の標的塩基配列を検出する方法。 〔17〕増幅反応生成物に、ループに相補的な塩基配列を含むプローブを加え、両者のハイブリダイズを観察する〔16〕に記載の方法。 〔18〕プローブが粒子標識されており、ハイブリダイズによって生じる凝集反応を観察する〔17〕に記載の方法。 〔19〕核酸の検出剤存在下で〔9〕?〔15〕に記載のいずれかの増幅方法を行い、検出剤のシグナル変化に基づいて増幅反応生成物が生じたかどうかを観察する〔16〕に記載の方法。 〔20〕〔16〕に記載の検出方法によって標的塩基配列の変異を検出する方法であって、増幅対象である塩基配列における変異が、増幅方法を構成するいずれかの相補鎖合成を妨げるものである方法。 〔21〕以下の要素を含む、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成用キット。 i)鋳型となる核酸の領域F2cをX2cとし、F2cの5’側に位置するF1cをX1cとする〔3〕に記載のオリゴヌクレオチド ii)i)のオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖における任意の領域に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチド iii)鋳型となる核酸の領域F2cの3’側に位置する領域F3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド iv)鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ、および v)要素iv)の基質となるヌクレオチド 〔22〕ii)のオリゴヌクレオチドが、i)のオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖における任意の領域R2cをX2cとし、R2cの5’に位置するR1cをX1cとする〔3〕に記載のオリゴヌクレオチドである〔21〕に記載のキット。 〔23〕更に付加的に以下の要素を含む、〔22〕に記載のキット。 vi)i)のオリゴヌクレオチドを合成起点として合成された相補鎖における任意の領域R2cの3’側に位置する領域R3cに相補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチド。 〔24〕〔21〕?〔23〕に記載のいずれかのキットに、更に付加的に核酸合成反応の生成物を検出するための検出剤を含む、標的塩基配列の検出用キット。 本発明において合成の目的としている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸とは、1本鎖上に互いに相補的な塩基配列を隣り合せに連結した核酸を意味する。更に本発明においては、相補的な塩基配列の間にループを形成するための塩基配列を含まなければならない。本発明においては、この配列をループ形成配列と呼ぶ。そして本発明によって合成される核酸は、実質的に前記ループ形成配列によって連結された互いに相補的な塩基配列で構成される。なお一般的には、それが部分的に塩基対結合を伴っているかどうかにかかわらず、塩基対結合を解離させたときに2つ以上の分子に分離しないものを1本鎖と呼ぶ。相補的な塩基配列は、同一鎖上で塩基対結合を形成することができる。本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結した核酸を、同一鎖上で塩基対結合させることによって得ることができる分子内塩基対結合生成物は、見かけ上2本鎖を構成する領域と、塩基対結合を伴わないループ部分を与える。 すなわち、本発明における1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結した核酸とは、同一鎖上でアニールすることが可能な相補的な塩基配列を含み、そのアニール生成物は折れ曲がったヒンジ部分に塩基対結合を伴わないループを構成する1本鎖核酸と定義することもできる。そして塩基対結合を伴わないループには、相補的な塩基配列を持つヌクレオチドがアニールすることができる。ループ形成配列は任意の塩基配列であることができる。置換のための相補鎖合成を開始することができるように塩基対結合が可能であり、望ましくは特異的なアニーリングを達成するために他の領域に存在する塩基配列から識別可能な配列を備える。たとえば望ましい態様においては、鋳型となる核酸に由来し同一鎖上でアニールする領域(すなわちF1cやR1c)の更に3’側に位置する領域F2c(あるいはR2c)と実質的に同じ塩基配列を含む。 本発明において、実質的に同じ塩基配列とは、次のように定義される。すなわち、ある配列を鋳型として合成された相補鎖が、目的の塩基配列に対してアニールし相補鎖合成の起点を与えるとき、このある配列は目的の塩基配列に対して実質的に同一である。たとえばF2に対して実質的に同一な塩基配列とは、F2とまったく同一な塩基配列に加えて、F2にアニールして相補鎖合成の起点となりうる塩基配列を与える鋳型として機能する塩基配列を含む。本発明における用語「アニール」は、核酸がワトソン-クリックの法則に基づく塩基対結合によって2本鎖構造を形成することを意味する。したがって、塩基対結合を構成する核酸鎖が1本鎖であっても、分子内の相補的な塩基配列が塩基対結合を形成すれば、アニールである。本発明において、アニールとハイブリダイズは、核酸が塩基対結合により2本鎖構造を構成する点で同義である。 本発明による核酸を構成する相補的な塩基配列の数は、少なくとも1組である。本発明の望ましい態様によれば、その整数倍となることもある。そしてこの場合、理論的には本発明における前記核酸を構成する相補的な塩基配列のペアの数に上限はない。本発明の合成生成物である核酸が複数組の相補的な塩基配列で構成されるとき、この核酸は同じ塩基配列の繰り返しからなる。 本発明によって合成される1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結した核酸は、必ずしも天然の核酸と同じ構造を取る必要はない。核酸重合化酵素の作用によって核酸を合成するときに基質としてヌクレオチド誘導体を利用すれば、核酸の誘導体の合成が可能なことは公知である。このようなヌクレオチド誘導体には、ラジオアイソトープで標識したヌクレオチドや、ビオチンやジゴキシンのような結合性リガンドで標識したヌクレオチド誘導体などが用いられる。これらのヌクレオチド誘導体を用いることにより、生成物である核酸誘導体の標識が達成される。あるいは、蛍光性のヌクレオチドを基質として用いることによって、生成物である核酸を蛍光性の誘導体とすることができる。更にこの生成物は、DNAであることもできるし、RNAとすることもできる。いずれを生成するかは、プライマーの構造、重合のための基質の種類、そして核酸の重合を行う重合化試薬との組み合わせによって決定される。 上記の構造を持った核酸の合成は、鎖置換活性を持ったDNAポリメラーゼと、3’末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸によって開始することができる。ヘアピンループを形成させて自身を鋳型(template)とする相補鎖合成反応の報告は多いが、本発明においてはヘアピンループ部分に塩基対結合を可能とする領域を備えており、この領域を相補鎖合成に利用している点において新規である。この領域を合成起点とすることにより、先に自身を鋳型として合成された相補鎖が置換される。そして置換された鎖の3’側に存在する領域R1c(任意の領域)が塩基対結合可能な状態となる。このR1cに相補的な塩基配列を持つ領域がアニールして相補鎖合成を行われ、結果としてF1からR1cにいたる塩基配列とその相補鎖とがループ形成配列を介して交互に結合した核酸(2分子)が生成する。本発明において、たとえば前記R1cのように任意に選択される領域は、その領域に相補的な塩基配列を持つポリヌクレオチドをアニールすることができ、そしてそのポリヌクレオチドを合成起点として合成される相補鎖が本発明に必要な機能を備えている限り、任意の領域から選択することができる。 更に本発明では、核酸という用語を用いる。本発明において核酸とは、一般的にはDNAとRNAの双方を含む。しかしながら、構成ヌクレオチドが人工的な誘導体に置換されているものや、あるいは天然のDNAやRNAが修飾されたものであっても、相補鎖合成のための鋳型として機能する限り、本発明の核酸に含まれる。本発明の核酸は、一般に生物学的な試料に含まれる。生物学的試料とは、動物、植物、あるいは微生物の組織、細胞、培養物、排泄物あるいはそれらの排出物を示すことができる。本発明の生物学的試料には、ウイルスやマイコプラズマのような細胞内寄生体のゲノムDNA、あるいはRNAが含まれる。また本発明の核酸は、前記生物学的試料に含まれる核酸から誘導されたものであってもよい。たとえば、mRNAをもとに合成されたcDNAや、生物学的試料に由来する核酸をもとに増幅された核酸は、本発明における核酸の代表的なものである。 本発明の特徴となっている、3’末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる核酸は、様々な方法によって得ることができる。もっとも望ましい態様においては、次の構造を持ったオリゴヌクレオチドを利用した相補鎖合成反応に基づいてその構造を与えることができる。 すなわち本発明において有用なオリゴヌクレオチドとは、少なくとも以下の2つの領域X2およびX1cとで構成され、X2の5’側にX1cが連結されたオリゴヌクレオチドからなる。 X2:特定の塩基配列を持つ核酸の領域X2cに相補的な塩基配列を持つ領域 X1c:特定の塩基配列を持つ核酸における領域X2cの5’側に位置する領域X1cと実質的に同じ塩基配列を持つ領域 ここで、本発明のオリゴヌクレオチドの構造を決定する特定の塩基配列を持つ核酸とは、本発明のオリゴヌクレオチドをプライマーとして利用するときに、その鋳型となる核酸を意味する。本発明の合成方法に基づいて核酸の検出を行う場合には、特定の塩基配列を持つ核酸とは、検出対象、あるいは検出対象から誘導された核酸である。特定の塩基配列を持つ核酸は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある核酸を意味する。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0-500塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0?100塩基、さらに望ましくは10?70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。 なお本発明に基づくオリゴヌクレオチドを構成する塩基配列の特徴付けのために用いられる同一、あるいは相補的という用語は、いずれも完全に同一、あるいは完全に相補的であることを意味しない。すなわち、ある配列と同一とは、ある配列に対してアニールすることができる塩基配列に対して相補的な配列をも含むことができる。他方、相補的とは、ストリンジェントな条件下でアニールすることができ、相補鎖合成の起点となる3’末端を提供することができる配列を意味する。 上記特定の塩基配列を持つ核酸に対して本発明によるオリゴヌクレオチドを構成する領域X2およびX1cは、通常は重複することなく連続して配置される。あるいはもしも両者の塩基配列に共通の部分があるのであれば、部分的に両者を重ねて配置することもできる。X2はプライマーとして機能する必要があることから、常に3’末端となるようにしなければならない。一方X1cは、後に述べるように、これを鋳型として合成された相補鎖の3’末端にプライマーとしての機能を与える必要があることから、5’末端に配置する。このオリゴヌクレオチドを合成起点として得られる相補鎖は、次のステップにおいては逆向きからの相補鎖合成の鋳型となり、最終的には本発明によるオリゴヌクレオチド部分も鋳型として相補鎖に写し取られる。写し取られることによって生じる3’末端は塩基配列X1を備えており、同一鎖上のX1cにアニールするとともに、ループを形成する。 本発明においてオリゴヌクレオチドとは、相補的な塩基対結合を形成できること、そしてその3’末端において相補鎖合成の起点となる-OH基を与えること、の2つの条件を満たすものを意味する。したがって、そのバックボーンは必ずしもホスホジエステル結合によるものに限定されない。たとえばPではなくSをバックボーンとしたホスホチオエート体やペプチド結合に基づくペプチド核酸からなるものであることもできる。また、塩基は、相補的な塩基対結合を可能とするものであれば良い。天然の状態では、一般にはACTGおよびUの5種類となるが、たとえばブロモデオキシウリジン(bromodeoxyuridine)といった類似体であることもできる。本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、合成の起点となるのみならず、相補鎖合成の鋳型としても機能するものであることが望ましい。なお、本発明においてはオリゴヌクレオチドを含む用語としてポリヌクレオチドを用いる。用語ポリヌクレオチドは、その鎖長を制限しない場合に用い、オリゴヌクレオチドは比較的短い鎖長のヌクレオチド重合体を意味する用語として用いられる。 本発明によるオリゴヌクレオチドは、以下に述べる各種の核酸合成反応において、与えられた環境の下で必要な特異性を維持しながら相補鎖との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を持つ。具体的には、5-200塩基、より望ましくは10-50塩基対とする。配列依存的な核酸合成反応を触媒する公知のポリメラーゼが認識するプライマーの鎖長が、最低5塩基前後であることから、アニールする部分の鎖長はそれ以上である必要がある。加えて、塩基配列としての特異性を期待するためには、確率的に10塩基以上の長さを利用するのが望ましい。一方、あまりにも長い塩基配列は化学合成によって調製することが困難となることから、前記のような鎖長が望ましい範囲として例示される。なお、ここで例示した鎖長はあくまでも相補鎖とアニールする部分の鎖長である。後に述べるように、本発明によるオリゴヌクレオチドは最終的には少なくとも2つの領域に個別にアニールすることができる。したがって、ここに例示する鎖長は、オリゴヌクレオチドを構成する各領域の鎖長と理解するべきである。 更に、本発明によるオリゴヌクレオチドは、公知の標識物質によって標識することができる。標識物質としては、ジゴキシンやビオチンのような結合性リガンド、酵素、蛍光物質や発光物質、あるいは放射性同位元素などを示すことができる。あるいは、オリゴヌクレオチドを構成する塩基を蛍光性のアナログに置換する技術(WO95/05391,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,6644-6648,1994)も公知である。 この他本発明によるオリゴヌクレオチドは、それ自身を固相に結合させておくこともできる。あるいは、オリゴヌクレオチドの任意の部分にビオチンのような結合性のリガンドで標識しておき、これを固相化アビジンのような結合パートナーによって間接的に固相化することもできる。固相化オリゴヌクレオチドを合成開始点とする場合には、核酸の合成反応生成物が固相に捕捉されることから、分離が容易となる。分離された生成物に対して、核酸特異的な指示薬や、あるいは更に標識プローブをハイブリダイズさせることによって、検出を行うこともできる。あるいは、任意の制限酵素で消化することによって、目的とする核酸の断片を回収することもできる。 本発明において用いられる鋳型という用語は、相補鎖合成の鋳型となる側の核酸を意味する。鋳型に相補的な塩基配列を持つ相補鎖は、鋳型に対応する鎖としての意味を持つが、両者の関係はあくまでも相対的なものに過ぎない。すなわち、相補鎖として合成された鎖は、再び鋳型として機能することができる。つまり、相補鎖は鋳型になることができる。 本発明に有用なオリゴヌクレオチドは前記2つの領域のみならず、更に付加的な領域を含むことができる。X2とX1cとがそれぞれ3’末端と5’末端に配置される一方、両者の間に任意の配列を介在させることが可能である。それは、たとえば制限酵素認識配列、RNAポリメラーゼが認識するプロモーター、あるいはリボザイムをコードするDNA等であることができる。制限酵素認識配列とすることにより、本発明の合成産物である1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を同じ長さを持った2本鎖核酸に切りそろえることができるようになる。RNAポリメラーゼが認識するプロモーター配列を配置すれば、本発明の合成生成物を鋳型として更にRNAへの転写が行われる。このときに、更にリボザイムをコードするDNAを配置すれば、転写生成物を自身で切断する系が実現する。なお、これらの付随的な塩基配列はいずれも2本鎖となった場合に機能するものである。したがって、本発明による1本鎖の核酸がループを形成しているときには、これらの配列は機能しない。核酸の伸長が進み、ループを含まない状態で相補的な塩基配列を持つ鎖とアニールした状態になったときにはじめて機能する。 本発明に基づくオリゴヌクレオチドに対して、合成された領域の転写を可能とする方向でプロモーターを組み合わせた場合、同じ塩基配列を繰り返す本発明に基づく反応生成物は、高度に効率的な転写系を実現する。これを適当な発現系と組み合わせることによって、タンパク質への翻訳も可能である。すなわち、細菌や動物細胞内で、あるいはin vitroでの転写とタンパク質への翻訳に利用することができる。 上記のような構造の本発明によるオリゴヌクレオチドは、化学的に合成することができる。あるいは天然の核酸を制限酵素などによって切断し、上記のような塩基配列で構成されるように改変する、あるいは連結することも可能である。 本発明による核酸の合成方法において有用な上記オリゴヌクレオチドを利用し、鎖置換活性を持ったDNAポリメラーゼと組み合わせて合成を行う反応について、基本的な原理を図5-6を参考にしながら以下に説明する。上記オリゴヌクレオチド(図5におけるFA)は、まずX2(F2に相当)が鋳型となる核酸にアニールし相補鎖合成の起点となる。図5においてはFAを起点として合成された相補鎖がアウタープライマー(F3)からの相補鎖合成(後述)によって置換され、1本鎖(図5-A)となっている。得られた相補鎖に対して更に相補鎖合成を行うと、このとき図5-Aの相補鎖として合成される核酸の3’末端部分は、本発明によるオリゴヌクレオチドに相補的な塩基配列を持つ。つまり、本発明のオリゴヌクレオチドは、その5’末端部分に領域X1c(F1cに相当)と同じ配列を持つことから、このとき合成される核酸の3’末端部分はその相補配列X1(F1)を持つことになる。図5は、R1を起点として合成された相補鎖がアウタープライマーR3を起点とする相補鎖合成によって置換される様子を示している。置換によって3’末端部分が塩基対結合が可能な状態となると、3’末端のX1(F1)は、同一鎖上のX1c(F1c)にアニールし、自己を鋳型とした伸長反応が進む(図5-B)。そしてその3’側に位置するX2c(F2c)を塩基対結合を伴わないループとして残す。このループには本発明によるオリゴヌクレオチドのX2(F2)がアニールし、これを合成起点とする相補鎖合成が行われる(図5-B)。このとき、先に合成された自身を鋳型とする相補鎖合成反応の生成物が、鎖置換反応によって置換され塩基対結合が可能な状態となる。 本発明によるオリゴヌクレオチドを1種類、そしてこのオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相補鎖を鋳型として核酸合成を行うことが可能な任意のリバースプライマーを用いた基本的な構成によって、図6に示すような複数の核酸合成生成物を得ることができる。図6からわかるとおり、(D)が本発明において合成の目的となっている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸である。他方の生成物(E)は、加熱変性などの処理によって1本鎖とすれば再び(D)を生成するための鋳型となる。また2本鎖状態にある核酸である生成物(D)は、もしも加熱変性などによって1本鎖にされた場合、もとの2本鎖とはならずに高い確率で同一鎖内部でのアニールが起きる。なぜならば、同じ融解温度(Tm)を持つ相補配列ならば、分子間(intermolecular)反応よりも分子内(intramolecular)反応のほうがはるかに優先的に進むためである。同一鎖上でアニールした生成物(D)に由来する1本鎖は、それぞれが同一鎖内でアニールして(B)の状態に戻るので、更にそれぞれが1分子づつの(D)と(E)を与える。これらの工程を繰り返すことによって、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を次々に合成していくことが可能である。1サイクルで生成される鋳型と生成物が指数的に増えていくので、たいへん効率的な反応となる。 ところで図5-(A)の状態を実現するためには、はじめに合成された相補鎖を少なくともリバースプライマーがアニールする部分において塩基対結合が可能な状態にしなければならない。このステップは任意の方法によって達成することができる。すなわち、最初の鋳型に対して本発明のオリゴヌクレオチドがアニールする領域F2cよりも更に鋳型上で3’側の領域F3cにアニールするアウタープライマー(F3)を別に用意する。このアウタープライマーを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成を触媒するポリメラーゼによって相補鎖合成を行えば、本発明の前記F2cを合成開始点として合成された相補鎖は置換され、やがてR1がアニールすべき領域R1cを塩基対結合が可能な状態とする(図5)。鎖置換反応を利用することによって、ここまでの反応を等温条件下で進行させることができる。 アウタープライマーを利用する場合には、F2cからの合成よりも後にアウタープライマー(F3)からの合成が開始される必要がある。最も単純な方法はインナープライマーの濃度をアウタープライマーの濃度よりも高くすることである。具体的には、通常2?50倍、望ましくは4?10倍の濃度差でプライマーを用いることにより、期待どおりの反応を行わせることができる。またアウタープライマーの融解温度(Tm)をインナープライマーのX1(F1やR1に相当)領域のTmより低くなるように設定することによって合成のタイミングをコントロールすることもできる。すなわち、(アウタープライマーF3:F3c)≦(F2c/F2)≦(F1c/F1)、あるいは(アウタープライマー/鋳型における3’側の領域)≦(X2c:X2)≦(X1c:X1)である。なおここで(F2c/F2)≦(F1c/F1)としたのは、F2がループ部分にアニールするよりも先にF1c/F1間のアニールを行わせるためである。F1c/F1間のアニールは分子内の反応なので優先的に進む可能性が高い。しかしより望ましい反応条件を与えるためにTmを考慮することには意義がある。同様の条件は、リバースプライマーの設計においても考慮すべきであることは言うまでもない。このような関係とすることにより、確率的に理想的な反応条件を達成することができる。融解温度(Tm)は、他の条件が一定であればアニールする相補鎖の長さと塩基対結合を構成する塩基の組み合わせによって理論的に算出することができる。したがって当業者は、本明細書の開示に基づいて望ましい条件を容易に導くことができる。 更にアウタープライマーのアニールのタイミングを調整するために、コンティギュアス スタッキング(contiguous stacking)と呼ばれる現象を応用することもできる。コンティギュアス スタッキングとは、単独ではアニールすることができないオリゴヌクレオチドが2本鎖部分に隣接することによってアニールが可能となる現象である(Chiara Borghesi-Nicoletti et.al.Bio Techniques 12,474-477(1992)。つまり、アウタープライマーをF2c(X2c)に隣接させ、単独ではアニールできないように設計しておくのである。こうすれば、F2c(X2c)がアニールしたときに初めてアウタープライマーのアニールが可能となるので、必然的にF2c(X2c)のアニールが優先されることになる。この原理に基づいて、一連の反応にプライマーとして必要なオリゴヌクレオチドの塩基配列を設定した例が実施例に記載されている。なお、この工程は加温による変性や、DNAヘリカーゼによって達成することもできる。 F2c(X2c)を持つ鋳型核酸がRNAの場合には、異なる方法により図5-(A)の状態を実現することもできる。たとえば、このRNA鎖を分解してしまえば、R1は塩基対結合が可能な状態となる。すなわち、F2をRNAのF2cにアニールさせ、逆転写酵素によってDNAとして相補鎖合成を行う。次いで鋳型となったRNAをアルカリ変性やDNA/RNA2本鎖のRNAに作用するリボヌクレアーゼによる酵素処理によって分解すれば、F2から合成したDNAは1本鎖となる。DNA/RNA2本鎖のRNAを選択的に分解する酵素には、RNaseHや、一部の逆転写酵素が備えているリボヌクレアーゼ活性を利用することができる。こうして塩基対結合を可能としたR1cにリバースプライマーをアニールさせることができる。したがってR1cを塩基結合可能な状態とするためのアウタープライマーが不要となる。 あるいは逆転写酵素が備えている鎖置換活性を利用して、先に述べたアウタープライマーによる鎖置換を行うこともできる。この場合は逆転写酵素のみで反応系を構成することができる。すなわち、RNAを鋳型として、そのF2cにアニールするF2からの相補鎖合成、更にその3’側に位置するF3cにアニールするアウタープライマーF3を合成起点とする相補鎖合成と置換とが、逆転写酵素で可能となる。逆転写酵素がDNAを鋳型とする相補鎖合成反応を行うものであれば、置換された相補鎖を鋳型としてそのR1cにアニールするR1を合成起点とする相補鎖合成、そして3’側に位置するR3cにアニールするR3を合成起点とする相補鎖合成と置換反応をも含めてすべての相補鎖合成反応が逆転写酵素によって進行する。あるいは、与えられた反応条件の下で逆転写酵素にDNA/DNA鎖の置換活性が期待できないときには、先に述べた鎖置換活性を持ったDNAポリメラーゼを組み合わせて用いても良い。以上のように、RNAを鋳型として第1の1本鎖核酸を得るという態様は、本発明における望ましい態様を構成する。逆に、鎖置換活性を有し、逆転写酵素活性を併せ持つBca DNAポリメラーゼのようなDNAポリメラーゼを利用しても、同様にRNAからの第1の1本鎖核酸の合成のみならず、以降のDNAを鋳型とする反応も同一の酵素によって行うことができる。 さて、以上のような反応系は前記リバースプライマーとして特定の構造を持つものを利用することによって、本発明に固有の様々なバリエーションをもたらす。もっとも効果的なバリエーションについて以下に述べる。すなわち、本発明のもっとも有利な態様においては、前記リバースプライマーとして、〔5〕に述べたような構成からなるオリゴヌクレオチドを用いるのである。〔5〕のオリゴヌクレオチドとは、すなわちF2をプライマーとして合成される相補鎖における任意の領域R2cをX2cとし、R1cをX1cとするオリゴヌクレオチドである。このようなリバースプライマーの利用により、ループの形成とこのループ部分からの相補鎖合成と置換という一連の反応が、センス鎖とアンチセンス鎖(フォーワード側とリバース側)の両方で起きるようになる。その結果、本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法の合成効率が飛躍的に向上すると共に、一連の反応を等温で実施可能とするものである。以下に、この態様をまとめた図1-図3に基づき、具体的に説明する。 以下の態様においては、本発明に基づくオリゴヌクレオチドとして2種類を用意する。これを説明のためにFAとRAと名づける。FAとRAを構成する領域は、以下のとおりである。 ここで、F2は鋳型となる核酸の領域F2cに相補的な塩基配列である。またR2はF2をプライマーとして合成される相補鎖に含まれる任意の領域R2cに相補的な塩基配列である。F1cとR1cはそれぞれ、F2cおよびR2cのそれぞれ下流に位置する任意の塩基配列である。ここでF2-R2間の距離は任意であって良い。相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼの合成能力にも依存するが、好適な条件では1kbp程度の長さであっても十分に合成が可能である。より具体的には、Bst DNAポリメラーゼを用いた場合、F2/R2c間で800bp、望ましくは500bp以下の長さであれば確実に合成される。温度サイクルを伴うPCRでは、温度変化ストレスによる酵素活性の低下が長い塩基配列の合成効率を下げるとされている。本発明における望ましい態様では、核酸増幅工程における温度サイクルが不要となるので、長い塩基配列であっても合成、ならびに増幅を確実に達成することができる。 まず鋳型となる核酸に対してFAのF2をアニールさせ、これを合成起点として相補鎖合成を行う。以下、図1の(4)にいたるまでは先に説明した本発明の基本的な態様(図5)と同様の反応工程となっている。図1の(2)でF3としてアニールしている配列は、先に説明したアウタープライマーである。このプライマーを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼで行うことにより、FAから合成した相補鎖は置換され、塩基対結合が可能な状態となる。 (4)でR2cが塩基対結合が可能な状態となったところで、リバースプライマーとしてのRAがR2c/R2の組み合わせでアニールする。これを合成起点とする相補鎖合成は、FAの5’側末端であるF1cに至る部分まで行われる。この相補鎖合成反応に続いて、やはり置換用のアウタープライマーR3がアニールし、鎖置換を伴って相補鎖合成を行うことにより、RAを合成起点として合成された相補鎖が置換される。このとき置換される相補鎖は、RAを5’側に持ちFAに相補的な配列が3’末端に位置する。 さて、こうして置換された1本鎖核酸の3’側には、同一鎖上のF1cに相補的な配列F1が存在する。F1は、同一分子内に並ぶF1cに速やかにアニールし、相補鎖合成が始まる。3’末端(F1)が同一鎖上のF1cにアニールするときに、F2cを含むループが形成されている。このループ部分は塩基対結合が可能な状態で維持されていることは、図2-(7)からも明らかである。F2cに相補的な塩基配列を持つ本発明のオリゴヌクレオチドFAは、このループ部分にアニールして相補鎖合成の起点となる(7)。ループ部分からの相補鎖合成は、先に開始したF1からの相補鎖合成の反応生成物を置換しながら進む。その結果、自身を鋳型として合成された相補鎖は、再び3’末端において塩基対結合が可能な状態となる。この3’末端は、同一鎖上のR1cにアニールしうる領域R1を3’末端に備えており、やはり同一分子内の速やかな反応により両者は優先的にアニールする。こうして、先に説明したFAを鋳型として合成された3’末端からの反応と同様の反応が、この領域でも進行する。結果として、本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸は次々と相補鎖合成と置換とを継続し、その3’末端R1を起点とする伸長を続けることになる。3’末端R1の同一鎖へのアニールによって形成されるループには常にR2cが含まれることから、以降の反応で3’末端のループ部分にアニールするのは常にR2を備えたオリゴヌクレオチド(すなわちRA)となる。 一方、自分自身を鋳型として伸長を継続する1本鎖の核酸に対して、そのループ部分にアニールするオリゴヌクレオチドを合成起点として相補鎖合成される核酸に注目すると、ここでも本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成が進行している。すなわち、ループ部分からの相補鎖合成は、たとえば図2-(7)においては、RAに達した時点で完了する。そして、この核酸の合成によって置換された核酸が相補鎖合成を開始(図3-(8))すると、やがてその反応はかつて合成起点であったループ部分に達して再び置換が始まる。こうしてループ部分から合成を開始した核酸も置換され、その結果同一鎖上にアニールすることができる3’末端R1を得る(図3-(10))。この3’末端R1は同一鎖のR1cにアニールして相補鎖合成を開始する。さて、この反応のFとRを読みかえれば、図2-(7)で起きている反応と同じである。したがって図3-(10)に示す構造は、自身の伸長と新たな核酸の生成を継続する新しい核酸として機能することができる。 なお図3-(10)に示す核酸から開始する核酸の合成反応は、ここまで述べてきたものとは逆に常に3’末端F1を合成起点とする伸長となる。すなわち本発明においては、1つの核酸の伸長に伴って、これとは別に伸長を開始する新たな核酸を供給しつづける反応が進行する。更に鎖が伸長するのに従い、末端のみならず、同一鎖上に複数のループ形成配列がもたらされる。これらのループ形成配列は、鎖置換合成反応により塩基対形成可能な状態となると、オリゴヌクレオチドがアニールし、新たな核酸の生成反応の基点となる。末端のみならず鎖の途中からの合成反応も組み合わされることにより、さらに効率のよい増幅反応が達成されるのである。以上のようにリバースプライマーとして本発明に基づくオリゴヌクレオチドRAを組み合わせることによって、伸長とそれに伴う新たな核酸の生成が起きる。更に本発明においては、この新たに生成した核酸自身が伸長し、それに付随する更に新たな核酸の生成をもたらす。一連の反応は、理論的には永久に継続し、きわめて効率的な核酸の増幅を達成することができる。しかも本発明の反応は、等温条件のもとで行うことができる。 このとき蓄積する反応生成物は、F1-R1間の塩基配列とその相補配列が交互に連結された構造を持つ。ただし繰り返し単位となっている配列の両端には、F2-F1(F2c-F1c)、またはR2-R1(R2c-R1c)の塩基配列で構成される領域が連続している。たとえば図3-(9)では、5’側から(R2-F2c)-(F1-R2c)-(R1-F1c)-(F2-R2c)という順序で連結された状態となる。これは、本発明に基づく増幅反応が、オリゴヌクレオチドを合成起点としてF2(またはR2)から開始し、続いて自身の3’末端を合成起点とするF1(またはR1)からの相補鎖合成反応によって伸長するという原理のもとに進行しているためである。 さて、ここでは最も望ましい態様としてループ部分にアニールするオリゴヌクレオチドに本発明によるオリゴヌクレオチドFA、およびRAを用いた。しかし本発明による核酸の増幅反応は、これらの限られた構造を持ったオリゴヌクレオチドのみならず、ループからの相補鎖合成を開始できるオリゴヌクレオチドを利用しさえすれば実施することができる。つまり、伸長を続ける3’末端はループからの相補鎖合成によって置換されさえすれば、再びループ部分を与える。ループ部分から開始する相補鎖合成は、常に1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を鋳型としていることから、本発明で目的としている核酸の合成が可能なことは自明である。ただし、ここで合成される核酸は、置換後にループを形成して相補鎖合成は行うものの、以降のループを形成するための3’末端を持たないため、新たな鋳型としては機能できなくなる。したがって、FA、あるいはRAによって合成を開始した核酸と違って指数的な増幅は期待できない。このような理由から、FAやRAのような構造を持ったオリゴヌクレオチドは、本発明に基づく高度に効率的な核酸の合成に有用なのである。 一連の反応は、鋳型となる1本鎖の核酸に対して、以下の成分を加え、FAおよびRAを構成する塩基配列が相補的な塩基配列に対して安定な塩基対結合を形成することができ、かつ酵素活性を維持しうる温度でインキュベートするだけで進行する。 ・4種類のオリゴヌクレオチド: FA、 RA、 アウタープライマーF3、 およびアウタープライマーR3、 ・鎖置換型の相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼ、 ・DNAポリメラーゼの基質となるヌクレオチド したがって、PCRのような温度サイクルは必要無い。なおここでいう安定な塩基対結合とは、反応系に存在するオリゴヌクレオチドの少なくとも一部が相補鎖合成の起点を与えうる状態を意味する。安定な塩基対結合をもたらす望ましい条件は、たとえば融解温度(Tm)以下に設定することである。一般に融解温度(Tm)は、互いに相補的な塩基配列を持つ核酸の50%が塩基対結合した状態となる温度とされている。融解温度(Tm)以下に設定することは本発明の必須の条件ではないが、高度な合成効率を達成するためには考慮すべき反応条件の一つである。鋳型とすべき核酸が2本鎖である場合には、少なくともオリゴヌクレオチドがアニールする領域を塩基対結合が可能な状態とする必要がある。そのためには一般に加熱変性が行われるが、これは反応開始前の前処理として1度だけ行えば良い。 この反応は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行う。緩衝剤としては、Tris-HCl等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが用いられる。pHは使用するDNAポリメラーゼに応じて調整する。塩類としてはKCl、NaCl、あるいは(NH_(4))_(2)SO_(4)等が、酵素の活性維持と核酸の融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。更に融解温度(Tm)の調整剤には、ジメチルスルホキシド(DMSO)やホルムアミドが一般に利用される。融解温度(Tm)の調整剤を利用することによって、前記オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調整することができる。更にベタイン(N,N,N,-trimethylglycine)やテトラアルキルアンモニウム塩は、そのisostabilize作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは、反応液中0.2?3.0M、好ましくは0.5?1.5M程度の添加により、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。これらの融解温度の調整剤は、融解温度を下げる方向に作用するので、塩濃度や反応温度等のその他の反応条件を考慮して、適切なストリンジェンシーと反応性を与える条件を経験的に設定する。 本発明においては、一連の反応が常に複数の領域の位置関係を維持した状態でなければ進行しないことが重要な特徴である。この特徴によって、非特異的な相補鎖合成に伴う非特異的な合成反応が効果的に防止できるのである。すなわち、たとえ何らかの非特異的な反応が起きたとしても、その生成物が以降の増幅工程に対して出発材料となる可能性を低く押さえることにつながるのである。またより多くの領域によって反応の進行が制御されているということは、類似した塩基配列の厳密な識別を可能とする検出系を自由に構成できる可能性をもたらす。 この特徴を遺伝子変異の検出に利用することができる。本発明におけるアウタープライマーを用いる態様においては、このアウタープライマー2種、本発明のオリゴヌクレオチドからなるプライマー2種の合計4種のプライマーが用いられている。すなわち4種のオリゴヌクレオチドに含まれる6領域が設計通りに働かなければ本発明の合成反応は進行しない。特に、相補鎖合成の起点となる各オリゴヌクレオチドの3’末端、および相補配列が合成起点となるX1c領域の5’末端の配列は重要である。そこで、この重要な配列を検出すべき変異に対応するように設計すれば、本発明による合成反応生成物を観察することによって、塩基の欠失や挿入といった変異の有無、あるいはSNPsのような遺伝子多型を総合的に分析することができる。より具体的には、変異や多型が予想される塩基が、相補鎖合成の起点となるオリゴヌクレオチドの3’末端付近(相補鎖が起点となる場合には5’末端付近)に相当するように設計するのである。相補鎖の合成起点となる3’末端や、その付近にミスマッチが存在すると核酸の相補鎖合成反応は著しく阻害される。本発明においては、反応初期の生成物における末端構造が繰り返し反応を行わなければ高度な増幅反応に結びつかない。したがって、たとえ誤った合成が行われたとしても、増幅反応を構成する相補鎖合成がいずれかの段階で常に妨げられるのでミスマッチを含んだままでは高度な増幅は起きない。結果的にミスマッチが増幅反応を効果的に抑制し、最終的には正確な結果をもたらすことになる。つまり本発明に基づく核酸の増幅反応は、より完成度の高い塩基配列のチェック機構を備えていると言うことができる。これらの特徴は、たとえば単純に2つの領域で増幅反応を行っているPCR法などでは期待しにくい利点である。 更に本発明に用いるオリゴヌクレオチドを特徴付ける領域X1cは、相補配列が合成されてはじめて合成起点となり、この相補配列が、新たに合成された同一鎖内の配列X1にアニールすることにより、自己を鋳型とする合成反応が進行する。このため、たとえ先行技術でしばしば重要な問題となるいわゆるプライマーダイマーを生成しても、本オリゴヌクレオチドはループを形成しない。したがって、プライマーダイマーに起因する非特異的な増幅は原理的に生じ得ず、反応の特異性向上に貢献している。 更に本発明によれば、F3(図1-(2))やR3(図2-(5))で示したアウタープライマーを組み合わせることによって、上記の一連の反応を等温条件下で行うことができる。すなわち本発明は、前記〔9〕に示した工程を含む1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸を増幅する方法を提供するものである。この方法では、F2c/F2間、R2c/R2間、F1c/F1間、そしてR1c/R1間で安定なアニールが起きる温度条件が選択され、そして望ましくはF3c/F3間、ならびにR3c/R3間は、それぞれF2c/F2間、ならびにR2c/R2間のアニールに助けられるコンティギュアス スタッキング現象によってアニールするように設定される。 本発明においては核酸の合成(synthesis)と増幅(amplification)という用語を用いる。本発明における核酸の合成とは、合成起点となったオリゴヌクレオチドからの核酸の伸長を意味する。合成に加えて、更に他の核酸の生成と、この生成された核酸の伸長反応とが連続して起きるとき、一連の反応を総合して増幅という。 さて、3’末端に同一鎖上の一部F1cにアニールすることができる領域F1を備え、この領域F1が同一鎖上のF1cにアニールすることによって、塩基対結合が可能な領域F2cを含むループを形成することができる1本鎖核酸は、本発明の重要な構成要素である。このような1本鎖核酸は、次のような原理に基づいて供給することもできる。すなわち、予め次のような構造を持ったプライマーに基づいて相補鎖合成を進めるのである。 5’-[プライマー内に位置する領域X1cにアニールする領域X1]-[塩基対結合が可能な状態にあるループ形成配列]-[領域X1c]-[鋳型に相補的な配列を持つ領域]-3’ 鋳型に相補的な配列を持つ領域には、F1に相補的な塩基配列(プライマーFA)およびR1cに相補的な塩基配列(プライマーRA)の2種類を用意する。なお、このとき合成すべき核酸を構成する塩基配列は、領域F1から領域R1cにいたる塩基配列と、この塩基配列に相補的な塩基配列を持つ領域R1から領域F1cにいたる塩基配列とを含むものである。一方、プライマー内部でアニールすることができるX1cとX1は、任意の配列とすることができる。ただしプライマーFAとRAの間では、領域X1c/X1の配列を異なるものとするのが望ましい。 まず鋳型核酸の領域F1から前記プライマーFAによる相補鎖合成を行う。次いで合成された相補鎖の領域R1cを塩基対結合が可能な状態とし、ここに一方のプライマーをアニールさせて相補鎖合成の起点とする。このとき合成される相補鎖の3’末端は、最初に合成された鎖の5’末端部分を構成するプライマーFAに相補的な塩基配列を持つので、3’末端には領域X1を持ち、これが同一鎖上の領域X1cにアニールするとともにループを形成する。こうして、前記本発明による特徴的な3’末端構造が提供され、以降の反応は最も望ましい態様として示した先の反応系そのものとなる。なおこのときループ部分にアニールするオリゴヌクレオチドは、3’末端にループ内に存在する領域X2cに相補的な領域X2を持ち、5’側には領域X1を持つものとする。先の反応系ではプライマーFAとRAを使って鋳型核酸に相補的な鎖を合成することによって核酸の3’末端にループ構造をもたらした。この方法は、短いプライマーで効果的に本発明に特徴的な末端構造を提供する。一方、本態様においては、プライマーとしてはじめからループを構成する塩基配列全体を提供しており、より長いプライマーの合成が必要となる。 リバースプライマーに制限酵素認識領域を含む塩基配列を利用すれば、本発明による異なった態様を構成することができる。図6に基づき、リバースプライマーが制限酵素認識配列を含む場合について具体的に説明する。図6-(D)が完成したところで、リバースプライマー内の制限酵素認識部位に対応する制限酵素によりニックが生じる。このニックを合成起点として鎖置換型の相補鎖合成反応が開始する。リバースプライマーは(D)を構成する2本鎖核酸の両端に位置しているので、相補鎖合成反応も両端から開始することになる。基本的には先行技術として記載したSDA法の原理に基づくが、鋳型となる塩基配列が本発明によって相補的な塩基配列を交互に連結した構造となっているので、本発明に特有の核酸合成系が構成されるのである。なお、ニックを入れるリバースプライマーの相補鎖となる部分には制限酵素による2本鎖の切断が生じないようにヌクレアーゼ耐性となるようにdNTP誘導体が取りこまれるように設計しなければならない。 リバースプライマーにRNAポリメラーゼのプロモーターを挿入しておくこともできる。この場合もSDA法を応用した先の態様と同様に、図6-(D)の両端からこのプロモーターを認識するRNAポリメラーゼにより転写が行われる。 本発明によって合成された核酸は、1本鎖とは言え相補的な塩基配列から構成されるため、その大部分が塩基対結合を形成している。この特徴を利用して、合成生成物の検出が可能である。エチジウムブロマイド、SYBR Green 1、あるいはPico Greenのような2本鎖特異インターカレーターである蛍光色素の存在下で本発明による核酸の合成方法を実施すれば、生成物の増加に伴って蛍光強度の増大が観察される。これをモニターすれば、閉鎖系でリアルタイムな合成反応の追跡が可能である。この種の検出系はPCR法への応用も考えられているが、プライマーダイマー等によるシグナルの発生と区別がつかないことから問題が多いとされている。しかし本発明に応用した場合には、非特異的な塩基対結合が増加する可能性が非常に低いことから、高い感度と少ないノイズが同時に期待できる。2本鎖特異インターカレーターと同様に、均一系の検出系を実現する方法として、蛍光エネルギー転移の利用が可能である。 本発明による核酸の合成方法を支えているのは、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼである。上記反応中には、必ずしも鎖置換型のポリメラーゼを要しない反応ステップも含まれてはいる。しかし、構成試薬の単純化、そして経済性の点で、1種類のDNAポリメラーゼを利用するのが有利である。この種のDNAポリメラーゼには、以下のようなものが知られている。また、これらの酵素の各種変異体についても、それが配列依存型の相補鎖合成活性と鎖置換活性を有する限り、本発明に利用することができる。ここで言う変異体とは、酵素の必要とする触媒活性をもたらす構造のみを取り出したもの、あるいはアミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変したもの等を示すことができる。 Bst DNAポリメラーゼ Bca(exo-)DNAポリメラーゼ DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント Vent DNAポリメラーゼ Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの) DeepVent DNAポリメラーゼ DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの) Φ29ファージDNAポリメラーゼ MS-2ファージDNAポリメラーゼ Z-Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造) KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績) これらの酵素の中でもBst DNAポリメラーゼやBca(exo-)DNAポリメラーゼは、ある程度の耐熱性を持ち、触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本発明の反応は、望ましい態様においては等温で実施することができるが、融解温度(Tm)の調整などのために必ずしも酵素の安定性にふさわしい温度条件を利用できるとは限らない。したがって、酵素が耐熱性であることは望ましい条件の一つである。また、等温反応が可能とは言え、最初の鋳型となる核酸の提供のためにも加熱変性は行われる可能性があり、その点においても耐熱性酵素の利用はアッセイプロトコールの選択の幅を広げる。 Vent(Exo-)DNAポリメラーゼは、鎖置換活性と共に高度な耐熱性を備えた酵素である。ところでDNAポリメラーゼによる鎖置換を伴う相補鎖合成反応は、1本鎖結合タンパク質(single strand binding protein)の添加によって促進されることが知られている(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225-232,July,1998)。この作用を本発明に応用し、1本鎖結合タンパク質を添加することによって相補鎖合成の促進効果を期待することができる。たとえばVent(Exo-)DNAポリメラーゼに対しては、1本鎖結合タンパク質としてT4 gene 32が有効である。 なお3’-5’エクソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼには、相補鎖合成が鋳型の5’末端に達した部分で停止せず、1塩基突出させた状態まで合成を進める現象が知られている。本発明では、相補鎖合成が末端に至ったときの3’末端の配列が次の相補鎖合成の開始につながるため、このような現象は望ましくない。しかし、DNAポリメラーゼによる3’末端への塩基の付加は、高い確率でAとなる。したがって、dATPが誤って1塩基付加しても問題とならないように、3’末端からの合成がAで開始するように配列を選択すれば良い。また、相補鎖合成時に3’末端がたとえ突出してしまっても、これを消化してblunt endとする3’→5’エクソヌクレアーゼ活性を利用することもできる。たとえば、天然型のVent DNAポリメラーゼはこの活性を持つことから、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼと混合して利用することにより、この問題を回避することができる。 本発明による核酸の合成方法、あるいは増幅方法に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキットとして供給することができる。具体的には、本発明のために、相補鎖合成のプライマーとして、あるいは置換用のアウタープライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、相補鎖合成の基質となるdNTP、鎖置換型の相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼ、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液、更に必要に応じて合成反応生成物の検出のために必要な試薬類で構成されるキットが提供される。特に、本発明の望ましい態様においては、反応途中で試薬の添加が不要なことから、1回の反応に必要な試薬を反応容器に分注した状態で供給することにより、サンプルの添加のみで反応を開始できる状態とすることができる。発光シグナルや蛍光シグナルを利用して、反応生成物の検出を反応容器のままで行えるようなシステムとすれば、反応後の容器の開封を全面的に廃止することができる。これは、コンタミネーションの防止上、たいへん望ましいことである。 さて、本発明によって合成される、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸には、たとえば次のような有用性がある。第一には、相補的な塩基配列を1分子内に備えた特殊な構造に伴う利点の活用である。この特徴により、検出が容易となることが期待される。すなわち、相補的な塩基配列との塩基対結合に伴って、シグナルを増減する核酸の検出系が公知である。たとえば先に述べたような2本鎖特異インターカレーターを検出剤として利用する方法などを組み合わせれば、本発明の合成生成物の特徴を生かした検出系を実現することができる。このような検出系において本発明の合成反応生成物を一度熱変性して元の温度に戻すと、分子内のアニールが優先的に起きるため速やかに相補的配列の間で塩基対結合を構成する。一方、もしも非特異的反応生成物が存在していても、それは分子内に相補的配列を持っていないので熱変性により2分子以上に分離してしまい、すぐにはもとの二本鎖には戻れない。こうして、検出前に加熱変性工程を追加することによって、非特異反応に伴うノイズを軽減することができる。熱に対して耐性を持たないDNAポリメラーゼを使用しているときには、加熱変性工程は反応停止の意味も持ち、反応時間の制御の点で有利である。 第二の特徴は、塩基対結合が可能な状態にあるループを常に形成することである。塩基対結合が可能な状態にあるループの構造を、図4に示した。図4からわかるように、ループはプライマーのアニールが可能な塩基配列F2c(X2c)と、F2c-F1c(X1c)の間に介在する塩基配列とで構成される。F2c-F1c間(普遍的に示せばX2c-X1c間)の配列は、鋳型に由来する塩基配列である。したがってこの領域に対して相補的な塩基配列を持つプローブをハイブリダイズさせれば、鋳型特異的な検出を行うことができる。しかも、この領域は常に塩基対結合が可能な状態にあることから、ハイブリダイズに先だって加熱変性する必要がない。なお本発明の増幅反応生成物におけるループを構成する塩基配列は、任意の長さとすることができる。したがって、プローブのハイブリダイズを目的とする場合には、プライマーがアニールすべき領域とプローブがハイブリダイズすべき領域を別々にして両者の競合を避けることにより理想的な反応条件を構成することができる。 本発明の望ましい態様によれば、1本の核酸鎖上に塩基対結合が可能な多数のループがもたらされる。このことは、核酸1分子に多数のプローブがハイブリダイズ可能なことを意味しており、感度の高い検出を可能とする。また感度のみならず、たとえば凝集反応のような特殊な反応原理に基づく核酸の検出方法を可能とするものでもある。たとえばポリスチレンラテックスのような微粒子に固定したプローブを本発明による反応生成物に加えると、プローブとのハイブリダイゼーションに伴ってラテックス粒子の凝集が観察される。凝集の強度を光学的に測定すれば、高感度に、しかも定量的な観察が可能である。あるいは、凝集反応を肉眼的に観察することもできるので、光学的な測定装置を使わない反応系を構成することもできる。 更に、1核酸分子当たり多くの標識を結合できる本発明の反応生成物は、クロマトグラフィックな検出をも可能とする。イムノアッセイの分野では、肉眼的に検出可能な標識を利用したクロマト媒体を用いた分析方法(イムノクロマトグラフィー法)が実用化されている。この方法は、クロマト媒体に固定した抗体と標識抗体でアナライトをサンドイッチし、未反応の標識成分を洗い去る原理に基づいている。本発明の反応生成物は、この原理を核酸の分析にも応用可能とする。すなわち、ループ部分に対する標識プローブを用意し、これをクロマト媒体に固定化した捕捉用プローブでトラップすることによってクロマト媒体中での分析が行われる。捕捉用プローブには、ループ部分に対する相補配列を利用することができる。本発明の反応生成物は、多数のループ部分を伴っていることから、多数の標識プローブを結合し、肉眼的に認識可能なシグナルをもたらす。 ループとして常に塩基対結合が可能な領域を与える本発明による反応生成物は、この他にもさまざまな検出系を可能とする。たとえば、このループ部分に対するプローブを固定した表面プラズモン共鳴を利用した検出系が可能である。また、ループ部分に対するプローブを2本鎖特異的なインターカレーターで標識しておけば、より高感度な蛍光分析を行うことができる。あるいは、本発明によって合成される核酸が3’側と5’側の両方に塩基対結合が可能なループを形成することを積極的に利用することもできる。たとえば、一方のループを正常型と異常型で共通の塩基配列となる部分とし、他方のループに両者の違いが生じる領域となるように設計しておくのである。共通部分に対するプローブで遺伝子の存在を確認し、他方の領域で異常の有無を確認するといった特徴的な分析系を構成することができる。本発明による核酸の合成反応は、等温で進めることも可能なことから、一般的な蛍光光度計によってリアルタイムな分析が可能となることも特筆すべき利点である。これまでにも同一鎖上にアニールする核酸の構造は公知である。しかし本発明によって得ることができる1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸は、他のオリゴヌクレオチドが塩基対結合することができる多数のループ部分を含む点において新規である。 一方、本発明による反応生成物によって与えられる多数のループ部分そのものをプローブとして利用することも可能である。たとえば、DNAチップにおいては、限られたエリアに高密度にプローブを集積する必要がある。しかし現在の技術では、一定の面積に固定することができるオリゴヌクレオチドの数は制限される。そこで本発明の反応生成物を利用すれば、アニールが可能な多数のプローブを高密度に固定化することができる。すなわち、本発明による反応生成物をプローブとしてDNAチップ上に固定すればよい。反応生成物は、増幅後に公知の手法によって固定することもできるし、あるいは固定化したオリゴヌクレオチドを本発明の増幅反応におけるオリゴヌクレオチドとして利用することにより結果的に固定化された反応生成物とすることもできる。このようにして固定化されたプローブを用いれば、限られたエリア中に多くの試料DNAハイブリダイズすることができ、結果的に高いシグナルを期待することができる。 図面の簡単な説明 図1は、本発明の望ましい態様の反応原理の一部(1)-(4)を示す模式図である。 図2は、本発明の望ましい態様の反応原理の一部(5)-(7)を示す模式図である。 図3は、本発明の望ましい態様の反応原理の一部(8)-(10)を示す模式図である。 図4は、本発明による1本鎖核酸が形成するループの構造を示す模式図である。 図5は、本発明による基礎的な態様の一部(A)-(B)を示す模式図である。 図6は、本発明による基礎的な態様の一部(C)-(D)を示す模式図である。 図7は、M13mp18の標的塩基配列における、オリゴヌクレオチドを構成する各塩基配列の位置関係を示す図である。 図8は、M13mp18を鋳型として本発明による1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。 レーン1:XIV size marker レーン2:1 fmol M13mp18 dsDNA レーン3:targetなし 図9は、実施例1によって得られた本発明による核酸合成反応の生成物を制限酵素で消化しアガロース電気泳動した結果を示す写真である。 レーン1:XIV size marker レーン2:精製物のBamHI消化物 レーン3:精製物のPvuII消化物 レーン4:生成物のHindIII消化物 図10は、M13mp18を鋳型として、ベタイン添加による本発明の1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。0、0.5、1、2は反応液中に添加したベタイン濃度(M)を表す。また、Nは陰性対照を、-21は鋳型DNAの濃度10^(-21)molを表す。 図11は、HBV由来の標的塩基配列における、オリゴヌクレオチドを構成する各塩基配列の位置関係を示す図である。 図12は、M13mp18組みこまれたHBV-M13mp18を鋳型として本発明による1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。 レーン1:XIV size marker レーン2:1 fmol HBV-M13mp18 dsDNA レーン3:targetなし 図13は、本発明による1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアルカリ変性ゲル電気泳動の結果を示す写真である。 レーン1:ラムダファージのHindIII消化断片 レーン2:実施例1の反応生成物 レーン3:実施例3の反応生成物 図14は、ターゲットであるM13mp18の濃度を変えてときに、本発明による1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。上は反応時間1時間、下は反応時間3時間の結果である。 レーン1:M13mp18 dsDNA 1x10^(-15)mol/tube レーン2:M13mp18 dsDNA 1x10^(-16)mol/tube レーン3:M13mp18 dsDNA 1x10^(-17)mol/tube レーン4:M13mp18 dsDNA 1x10^(-18)mol/tube レーン5:M13mp18 dsDNA 1x10^(-19)mol/tube レーン6:M13mp18 dsDNA 1x10^(-20)mol/tube レーン7:M13mp18 dsDNA 1x10^(-21)mol/tube レーン8:M13mp18 dsDNA 1x10^(-22)mol/tube レーン9:targetなし レーン10:XIV size marker 図15は、変異の位置、および標的塩基配列(target)に対する各領域の位置関係を表す図である。下線で示したグアニンが、変異型ではアデニンに置換されている。 図16は、本発明の増幅反応による生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。 M:100bp ladder(New England Biolabs) N:鋳型なし(精製水) WT:野生型鋳型M13mp18 1 fmol MT:変異型鋳型M13mp18FM 1 fmol 図17は、標的mRNAをコードする塩基配列における、オリゴヌクレオチドを構成する各塩基配列の位置関係を示す図である。 図18は、mRNAをターゲットとして本発明による1本鎖核酸の合成方法によって得られた生成物のアガロース電気泳動の結果を示す写真である。 発明を実施するための最良の形態 実施例1 M13mp18内の領域の増幅 M13mp18を鋳型として、本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法を試みた。実験に使用したプライマーは、M13FA、M13RA、M13F3、そしてM13R3の4種類である。M13F3とM13R3は、それぞれM13FAとM13RAを合成起点として得られた第1の核酸を置換するためのアウタープライマーである。アウタープライマーはM13FA(あるいはM13RA)よりも後から相補鎖合成の起点となるべきプライマーなので、M13FA(あるいはM13RA)と隣接する領域にコンティギュアス スタッキング現象を利用してアニールするように設計した。また、M13FA(あるいはM13RA)のアニールが優先的に起こるようにこれらのプライマー濃度を高く設定した。 各プライマーを構成する塩基配列は配列表に示したとおりである。プライマーの構造的な特徴を以下にまとめた。また標的塩基配列(target)に対する各領域の位置関係を図7に示した。 このようなプライマーによって、M13mp18の領域FlcからR1cにいたる領域とその相補的な塩基配列とが、F2cを含むループ形成配列を挟んで1本鎖上に交互に連結した核酸が合成される。これらのプライマーによる本発明による核酸の合成方法のための反応液組成を以下に示す。 反応液組成(25μL中) 20mM Tris-HCl pH8.8 10mM KCl 10mM (NH_(4))_(2)SO_(4) 6mM MgSO_(4) 0.1% Triton X-100 5% ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.4mM dNTP プライマー: 800nM M13FA/配列番号:1 800nM M13RA/配列番号:2 200nM M13F3/配列番号:3 200nM M13R3/配列番号:4 ターゲット:M13mp18 dsDNA/配列番号:5 反応:上記反応液を95℃で5分間加熱し、ターゲットを変性させて1本鎖とした。反応液を氷水上に移し、Bst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を4U添加し、65℃で1時間反応させた。反応後、80℃10分間で反応を停止し再び氷水上に移した。 反応の確認:上記反応液の5μLに1μLのloading bufferを添加し、2%アガロースゲル(0.5% TBE)を使って、1時間、80mVで電気泳動した。分子サイズマーカーとして、XIV(100bp ladder,Boehringer Mannheim製)を使用した。泳動後のゲルをSYBR Green I(Molecular Probes,Inc.)で染色して核酸を確認した。結果は図8に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。 1.XIV size marker 2.1fmol M13mp18 dsDNA 3.targetなし レーン3では未反応のプライマーが染色されている以外にバンドは認識されなかった。レーン2はターゲットが存在する場合、低サイズのバンドのラダーと高サイズでのスメアな染色、およびゲル内でほとんど泳動されていないバンドとして生成物が確認された。低サイズのバンドのうち、290bp、450bp付近のバンドは、それぞれ本発明の合成反応により予想される産物である、配列番号:11および配列番号:12が2本鎖となったもの(図2-(7)および図2-(10)が2本鎖となったものに相当)および配列番号:13(図3-(9)にある長い1本鎖に相当)とサイズが一致することから、反応が予想されるとおりに進行していることが確認された。高サイズのスメアなパターン、および泳動されていないバンドは、本反応が基本的に連続的な反応であることから、反応産物が一定のサイズにはならないこと、そして部分的な1本鎖、あるいは2本鎖の複合体を形成した複雑な構造をともなっているため、結果としてこのような泳動結果を与えるものと考えられた。 実施例2 反応産物の制限酵素消化確認 実施例1で得られた本発明による1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸の構造を明らかにすることを目的として、制限酵素による消化を行った。制限酵素を使った消化によって理論どおりの断片を生じる一方、実施例1で観察された高サイズのスメアなパターンや泳動されないバンドが消滅すれば、これらがいずれも本発明によって合成された1本鎖上に相補的な塩基配列を交互に連結した核酸であることが推定できる。 実施例1の反応液を8本分(200μL)プールし、フェノール処理後、エタノール沈でんを行って精製した。この沈でんを回収して200μLのTE緩衝液で再溶解し、その10μLを制限酵素BamHI、PvuII、およびHindIIIでそれぞれ37℃2時間消化した。消化物を2%アガロースゲル(0.5% TBE)を使って、1時間、80mVで電気泳動した。分子サイズマーカーとして、SUPER LADDER-LOW(100bp ladder)(GensuraLaboratories,Inc.製)を使用した。泳動後のゲルをSYBR Green I(MolecularProbes,Inc.)で染色して核酸を確認した。結果は図9に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。 1.XIV size marker 2.精製物のBamHI消化物 3.精製物のPvuII消化物 4.精製物のHindIII消化物 ここで比較的鎖長の短い増幅生成物を構成している塩基配列は、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、および配列番号:16等と推定される。これらの塩基配列から、推測される各制限酵素消化断片のサイズは表1のとおりである。表中のLは、ループ(1本鎖)を含む断片なので泳動位置が未確定であることを示す。 未消化でのバンドのほとんどが消化後には推定されるサイズのバンドへ変化したことから、目的の反応産物が増幅されていることが確認された。また非特異的産物はほとんどないことも示された。 実施例3 ベタイン添加による増幅反応の促進 増幅反応液中へのベタイン(betaine:N,N,N,-trimethylglycine、SIGMA)添加による、核酸の増幅反応に対する効果を調べる実験を行った。実施例1と同様に、M13mp18を鋳型とし、本発明による1本鎖上に相対的な塩基配列が交互に連結された核酸の合成方法を、種々の濃度のベタイン存在下で行った。実験に使用したプライマーは、実施例1で使用したものと同じである。鋳型DNA量は、10^(-21)mol(M13mp18)で、陰性対照として水を用いた。添加するベタインは、0、0.5、1、2Mの濃度になるように反応液に加えた。反応液組成を以下に示す。 反応液組成(25μL中) 20mM Tris-HCl pH8.8 4mM MgSO_(4) 0.4mM dNTPs 10mM KCl 10mM (NH_(4))_(2)SO_(4) 0.1% TritonX-100 プライマー: 800nM M13FA/配列番号:1 800nM M13RA/配列番号:2 200nM M13F3/配列番号:3 200nM M13R3/配列番号:4 ターゲット:M13mp18 dsDNA/配列番号:5 使用したポリメラーゼ、反応条件、反応後の電気泳動条件は、実施例1に記載したものと同じである。 結果を図10に示す。ベタイン濃度0.5、1.0M存在下での反応では、増幅産物量が増大した。また2.0Mまで増やすと逆に増幅産物は確認されなかった。これにより、適度のベタイン存在で、増幅反応が促進されることが示された。ベタイン濃度2Mの場合に、増幅産物が低下したことは、Tmが低下しすぎたのが原因と考えられた。 実施例4 HBV遺伝子配列の増幅 HBV遺伝子の部分配列を組み込んだM13mp18 dsDNAを鋳型として、本発明による核酸の合成方法を試みた。実験に使用したプライマーは、HB65FA(配列番号:6)、HB65RA(配列番号:7)、HBF3(配列番号:8)、そしてHBR3(配列番号:9)の4種類である。HBF3とHBR3は、それぞれHB65FAとHB65RAを合成起点として得られた第1の核酸を置換するためのアウタープライマーである。アウタープライマーはHB65FA(あるいはHB65RA)よりも後から相補鎖合成の起点となるべきプライマーなので、HB65FA(あるいはHB65RA)と隣接する領域にコンティギュアス スタッキング現象を利用してアニールするように設計した。また、HB65FA(あるいはHB65RA)のアニールが優先的に起こるようにこれらのプライマー濃度を高く設定した。M13mp18に組みこまれたHBVに由来する本実施例のターゲット配列(430bp)を配列10に示した。 各プライマーを構成する塩基配列は配列表に示したとおりである。プライマーの構造的な特徴を以下にまとめた。また標的塩基配列(target)に対する各領域の位置関係を図11に示した。 このようなプライマーによって、HBV遺伝子の部分配列を組み込んだM13mp18(HBV-M13mp18)の領域F1cからR1cにいたる領域とその相補的な塩基配列とが、F2cを含むループ形成配列を挟んで1本鎖上で交互に連結した核酸が合成される。上記プライマーを用いる他は実施例1と同じ条件で反応させ、その反応液をアガロース電気泳動により分析した。結果は図12に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。 1.XIV size marker 2.1 fmol HBV-M13mp18 dsDNA 3.targetなし 実施例1と同様に、targetが存在するときにのみ、低サイズのバンドのラダーと高サイズでのスメアな染色、およびゲル内でほとんど泳動されていないバンドとして生成物が確認された(レーン2)。低サイズのバンドのうち、310bp、および480bp付近のバンドはそれぞれ、本反応により予想される産物である。配列番号:17および配列番号:18の2本鎖とサイズが一致することから、反応が予想されるとおりに進行していることが確認された。高サイズのスメアなパターン、および泳動されていないバンドは、実施例1の結果で述べたように、本発明に特徴的な合成生成物の構造が原因となっているものと推定された。この実験により、増幅する配列(target)が異なっても本発明を実施可能であることが確認された。 実施例5 合成反応生成物のサイズの確認 本発明に基づいて合成された核酸の構造を確認するために、その長さをアルカリ変性条件下での電気泳動によって分析した。実施例1と実施例4のターゲット存在下での反応液の5μLに、それぞれ1μLのalkaline loading bufferを添加し、0.7%アガロースゲル(50mM NaOH,1mM EDTA)を使って、14時間、50mAで電気泳動した。分子サイズマーカーとして、ラムダファージのHindIII消化断片を使用した。泳動後のゲルを1M Tris pH8で中和後、SYBR Green I(MolecularProbes,Inc.)で染色して核酸を確認した。結果は図13に示す。各レーンは以下のサンプルに対応している。 1.ラムダファージのHindIII消化断片 2.実施例1の反応生成物 3.実施例4の反応生成物 反応生成物をアルカリ変性条件で泳動すると1本鎖状態でのサイズ確認が可能である。実施例1(レーン2)、実施例4(レーン3)ともに主な生成物は2kbase内であることが確認された。また、本発明による生成物はこの分析によって確認できる範囲で少なくとも6kbase以上にまで伸びていることが判明した。加えて、実施例1や実施例4の未変性条件下で泳動されなかったバンドは、変性状態では個々の1本鎖に分離されサイズが小さくなることが改めて確認された。 実施例6 M-13mp13内の領域の増幅における、ターゲット濃度依存的増幅の確認 本発明による核酸の合成方法に及ぼす、ターゲットの濃度変化の影響を観察した。ターゲットであるM13mp18 dsDNAを0?1fmolとし、反応時間を1時間および3時間とする他は、実施例1と同じ条件で本発明による核酸の合成方法を実施した。実施例1と同様に、2%アガロースゲル(0.5% TBE)で電気泳動し、SYBR GreenI(Molecular Probes,Inc.)染色により核酸を確認した。分子サイズマーカーとして、XIV(100bp ladder,Boehringer Mannheim)を使用した。結果は図14(上:反応時間1時間、下:反応時間3時間)に示した。 各レーンは、次のサンプルに対応する。 1.M13mp18 dsDNA 1x10^(-15)mol/tube 2.M13mp18 dsDNA 1x10^(-16)mol/tube 3.M13mp18 dsDNA 1x10^(-17)mol/tube 4.M13mp18 dsDNA 1x10^(-18)mol/tube 5.M13mp18 dsDNA 1x10^(-19)mol/tube 6.M13mp18 dsDNA 1x10^(-20)mol/tube 7.M13mp18 dsDNA 1x10^(-21)mol/tube 8.M13mp18 dsDNA 1x10^(-22)mol/tube 9.targetなし 10.XIV size marker 泳動像の下部に見られる各レーンに共通のバンドは未反応のプライマーが染色されたものである。反応時間にかかわらず、ターゲットが存在しないときは全く増幅産物は観察されない。ターゲット存在下でのみ、ターゲットの濃度依存的に増幅産物の染色パターンが得られた。また、反応時間を長くすることにより、より低濃度まで増幅産物が確認できた。 実施例7 点変異(ポイントミューテーション)の検出 (1)M13mp18FM(変異型)の作製 ターゲットDNAとして、M13mp18(野生型)、およびM13mp18FM(変異型)を用いた。変異型であるM13mp18FMの作製は、LA PCR^(TM) in vitro Mutagenesis Kit(宝酒造)を使用し、1塩基置換を導入した。その後、シークエンシングにより配列を確認した。F1領域での配列を以下に示す。 (2)プライマーのデザイン 使用するプライマーは、FAプライマーのF1c領域の5’末端に野生型、変異型で配列の異なる塩基となるようにした。変異の位置、および標的塩基配列(target)に対する各領域の位置関係を図15に示す。 (3)増幅反応 M13mp18(野生型)、およびM13mp18FM(変異型)を鋳型にして、以下に示すそれぞれに特異的なプライマーの組み合わせで鋳型特異的な増幅反応が起きるかどうか実験を行った。 野生型増幅用プライマーセット:FAd4,RAd4,F3,R3 変異型増幅用プライマーセット:FAMd4,RAd4,F3,R3 各プライマーの塩基配列は以下の通りである。 (4)M13mp18の点突然変異の検出 反応液の組成は以下のとおりである。 上記反応液にターゲットM13mp18、またはM13mp18FM 1fmol(2μl)を添加し、95℃で5分間加熱し、ターゲットを変性させて1本鎖とした。反応液を氷水上に移し、Bst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)を1μL(8U)添加し、68℃または68.5℃で1時間反応させた。反応後、80℃10分間で反応を停止し再び氷水上に移した。 図16で示すように、FAプライマーとして野生型用のFAd4を用いたときは、野生型の鋳型存在のみ効果的に増幅が観察された。一方、FAプライマーとして変異型用のFAMd4を用いたときは、野生型の鋳型存在のみ効果的に増幅が観察された。 以上の結果から、本発明の増幅反応を利用することにより、点変異を効率的に検出できることが示された。 実施例8 mRNAをターゲットとした増幅反応 ターゲットとなる核酸をmRNAとして、本発明による核酸の合成方法を試みた。ターゲットとなるmRNAは、前立腺特異抗原(Prostate specific antigen;PSA)を発現した細胞である前立腺癌細胞株LNCaP cell(ATCC No.CRL-1740)と、非発現細胞である慢性骨髄性白血病細胞株K562 cell(ATCC No.CCL-243)を、1:10^(6)?100:10^(6)で混合し、Qiagen社(ドイツ)のRNeasy Mini kitを用いて全RNAを抽出した。実験に使用したプライマーは、PSAFA、PSARA、PSAF3、そしてPSAR3の4種類である。PSAF3とPSAR3は、それぞれPSAFAとPSARAを合成起点として得られた第一の核酸を置換するためのアウタープライマーである。また、PSAFA(あるいはPSARA)のアニールが優先的に起こるようにこれらのプライマー濃度を高く設定した。各プライマーを構成する塩基配列は以下のとおりである。 プライマー: プライマーの構造的な特徴を以下にまとめた。また、標的のmRNAをコードするDNA塩基配列に対する各プライマーの位置関係、および制限酵素Sau3AIの認識部位を図17に示した。 本発明による核酸の合成方法のための反応液組成を以下に示す。 反応液組成(25μL中) 20mM Tris-HCl pH8.8 4mM MgSO_(4) 0.4mM dNTPs 10mM KCl 10mM(NH_(4))_(2)SO_(4) 0.1% TritonX-100 0.8M betaine 5mM DTT 1600nM PSAFA & PSARA プライマー 200nM PSAF3 & PSAR3 プライマー 8U Bst DNA ポリメラーゼ 100U ReverTra Ace(TOYOBO,日本) 5μg 全RNA 全ての成分は氷上で混合した。本実験においてはmRNA(1本鎖)をtargetとしているので、加熱変性によって1本鎖とする工程は不要である。反応は、65℃で45分間行い、85℃、5分で、反応を停止させた。反応終了後、5μLの反応液を2%アガロースを使って電気泳動し、SYBR Green Iで検出した。 結果を図18に示す。各レーンは、以下のサンプルに対応している。 Bst DNAポリメラーゼ、ReverTra Aceのいずれか一方がないと、増幅産物が得られなかった(レーン1?4)。両方の酵素存在下では、LNCaP由来のRNAが存在すると、増幅産物が検出された(レーン5?7)。100万個のK562細胞に1個のLNCaPからの抽出RNAでも検出可能であった(レーン6)。増幅産物は、ターゲット内部の配列にある制限酵素部位Sau3AIで消化したところ、予想される大きさの断片に消化された(レーン8,9)。 以上の結果から、本発明による核酸の合成方法において、ターゲットとしてRNAを用いた場合でも、目的の反応産物が得られることが確認された。 産業上の利用の可能性 本発明による新規なオリゴヌクレオチドとそれを用いた核酸の合成方法により、複雑な温度制御の不要な1本鎖上に交互に相補的な塩基配列が連結した核酸の合成方法が提供される。本発明に基づくオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成される相補鎖は、常にその3’末端が自身を鋳型とする新たな相補鎖合成の合成起点となる。このとき、新たなプライマーのアニールをもたらすループの形成を伴い、この部分からの相補鎖合成によって先に合成された自身を鋳型とする相補鎖合成反応の生成物は再び置換され塩基対結合が可能な状態となる。このようにして得ることができる自身を鋳型として合成された核酸は、たとえばSDAのような公知の核酸合成方法との組み合わせによって、それらの核酸合成効率の向上に貢献する。 更に本発明の望ましい態様によれば、単に公知の核酸合成方法の効率向上を達成するのみならず、複雑な温度制御を必要としない、しかも高度な増幅効率を期待でき、更には高い特異性を達成できる新規な核酸の合成方法が提供される。すなわち、本発明に基づくオリゴヌクレオチドを鋳型鎖とその相補鎖に対して適用することによって、1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸が連続して合成されるようになる。この反応は、原理的には合成に必要な出発材料が枯渇するまで続き、その間にループ部分から合成を開始した新たな核酸を生成し続ける。こうして、ループにアニールしたオリゴヌクレオチドからの伸長が、長い1本鎖核酸(すなわち、複数組の相補的な塩基配列が連結したもの)の伸長のための3’-OHを供給する鎖置換を行う。一方、長い1本鎖の3’-OHは自身を鋳型とする相補鎖合成反応を行うことによって自身の伸長を達成すると同時に、ループから合成開始した新たな相補鎖の置換を行う。このような増幅反応工程が、高い特異性を維持しながら等温条件下で進行する。 本発明におけるオリゴヌクレオチドは、2つの連続した領域が設計どおりに配置されているときにはじめて本発明による核酸合成反応のためのプライマーとして機能する。このことが、特異性の維持に大きく貢献する。たとえばPCRでは、2つのプライマーの意図した位置関係とは無関係に、非特異的なミスアニールにより、非特異的増幅反応が開始してしまうことと比べれば、本発明では高い特異性が期待できることは容易に説明できる。この特徴を利用してSNPsを高い感度で精確に検出することができる。 本発明の特徴は、このような反応がごく単純な試薬構成で容易に達成できることにある。たとえば本発明によるオリゴヌクレオチドは、特殊な構造を持つとは言えそれは塩基配列の選択の問題であって、物質としては単なるオリゴヌクレオチドである。また、望ましい態様においては、鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼのみで反応を進めることができる。更に、RNAを鋳型として本発明を実施する場合には、Bca DNAポリメラーゼのような逆転写酵素活性と鎖置換型のDNAポリメラーゼ活性を併せ持つDNAポリメラーゼを利用することによって、全ての酵素反応を単一の酵素によって行うことができる。このようなシンプルな酵素反応で高度な核酸の増幅反応を実現する反応原理はこれまでに知られていない。あるいは、SDA等の公知の核酸合成反応に適用するとしても、本発明との組み合わせによって新たな酵素が必要となるようなことはなく、単に本発明に基づくオリゴヌクレオチドを組み合わせるだけで各種反応系への適応が可能である。したがて、本発明による核酸合成方法は、コストの点においても有利といえる。 以上述べたように、本発明の核酸の合成方法とそのためのオリゴヌクレオチドは、操作性(温度制御不要)、合成効率の向上、経済性、そして高い特異性という、複数の困難な課題を同時に解決する新たな原理を提供する。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2014-09-12 |
結審通知日 | 2014-09-22 |
審決日 | 2014-09-29 |
出願番号 | 特願2000-581248(P2000-581248) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YA
(C12Q)
P 1 113・ 537- YA (C12Q) P 1 113・ 536- YA (C12Q) P 1 113・ 16- YA (C12Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 明照、深草 亜子 |
特許庁審判長 |
鈴木 恵理子 |
特許庁審判官 |
三原 健治 冨永 みどり |
登録日 | 2002-05-31 |
登録番号 | 特許第3313358号(P3313358) |
発明の名称 | 核酸の合成方法 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 明石 幸二郎 |
代理人 | 浅村 昌弘 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 永島 友悟 |
代理人 | 渡邉 義敬 |
代理人 | 渡邉 義敬 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 明石 幸二郎 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 藤川 義人 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 昌弘 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 清水 良寛 |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 永島 友悟 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 雨宮 沙耶花 |
代理人 | 吉田 玲子 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 山上 和則 |