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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E06B
管理番号 1296007
審判番号 不服2013-1380  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-25 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2009-127080号「非常ボタンの保護カバー、操作用装置、及び、それを備えるシャッター装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 9日出願公開、特開2010-275721号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年5月26日の出願であって、平成24年10月29日付けで拒絶査定され、これを不服として平成25年1月25日に審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において平成26年5月26日付けで拒絶理由を通知したところ、平成26年7月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成26年7月25日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
押しボタン式の非常ボタンと前記非常ボタンを覗かせるボタン開口部との間に隙間部が形成される操作用装置の前記隙間部に挿入される挿入片部を備えた保護カバーであって、
前記保護カバーは、前記非常ボタンの意図しない押し操作を防止するために、前記ボタン開口部に装着されて前記ボタン開口部を覆うものであり、
前記挿入片部は、前記隙間部に挿入されつつ、前記ボタン開口部の端面に圧着されるものであり、
前記保護カバーは、前記挿入片部の内周面よりも内側の位置において、前記ボタン開口部の端面の内側に沿って形成される破断用部位を有し、
前記保護カバーには、平坦な面で構成されるウラ面が非常ボタンに接触し得るように構成された押圧用部位が形設され、
前記保護カバーにおいて前記押圧用部位が押圧された際に、前記破断用部位が破断するように構成される、こととする、非常ボタンの保護カバー。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-213430号公報(以下「刊行物1」という。)には、エレベータ用ボタン装置に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「【背景技術】・・・
【0003】前記ボタン装置10は、かご1内の乗客が非常時に操作してその非常の発生を外部に通報するために使用される。・・・
【0007】・・・一対の枠リング23,24間には誤操作防止用のカバー26が挟み込まれている。このカバー26は、一定以上の力で押圧されたときに破断する透明なプラスチックで形成され、前記ボタントップ22の表面と一定の距離をあけて対向するように支持されている。
【0008】このようなボタン装置10においては、通常時にはボタントップ22がカバー25で覆われているから、ボタントップ22に対する不用意な誤操作が防止される。非常時には、かご1内の乗客が指先でカバー26を一定以上の強い力で押し込む。・・・」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】しかしながら、このような従来の構造においては、ボタントップ22が一旦操作されるとカバー26が破断され、このためボタン装置10を復旧させる際には、枠リング23,24を分解して破断したカバー26を取り外し、また新たなカバー26を持ち込み、その新たなカバー26を枠リング23,24で挟み込み、ねじ25で締め付けて再度取り付けなければならない。
【0010】すなわち、カバー26を繰り返して使用することができず、その都度、新たなカバー26を用意してそれをいちいち枠リング23,24およびねじ25を用いてフェイスプレート11に取り付けなければならず、このため作業が面倒で能率が低下するばかりでなく、コストが嵩んで不経済となる難点がある。
さらに、ボタントップ22を操作する際にはカバー26を破断しなければならないから、指先に怪我を負うような恐れもあり、安全性の点でも問題がある。
【0011】この発明はこのような点に着目してなされたもので、その目的とするところは、カバーを繰り返して使用で、復旧させる作業を容易に能率よく行なえ、さらに安全性も高めることができるエレベータのボタン装置を提供することにある。」

(ウ)「【0020】図1にはこの発明の第1の実施形態に係るボタン装置の外観を示す斜視図を、図2にはそのボタン装置の正面図を、図3にはそのボタン装置の断面図を示してある。
【0021】このボタン装置10においては、フェイスプレート11に形成された開口16、およびこの開口16に遊合するボタントップ22がそれぞれ四角形状となっている。そしてフェイスプレート11の開口16に四角形状のボタン枠30が装着され、このボタン枠30の内側にボタントップ22が遊合されている。
【0022】このボタン枠30は、開口16の内周に嵌着する嵌着口部31と、この嵌着口部31と一体に連なってフェイスプレート11の表面側に突出するフード部32とで構成されている。なお、33はフード部32の両側に一体に張出すように形成された飾り部である。
【0023】ボタン枠30の内周面の例えば上面と下面には、それぞれ一対ずつ係合溝36,37が形成され、これら係合溝36,37を介してボタン枠30の内側に誤操作防止用のカバー38が装着保持されている。
【0024】図4にはボタン枠30とカバー38とを分解した状態を示してあり、この図4に示すように、カバー38はボタン枠30に対応する四角の外形を有し、かつその各角部が切欠部39として斜めに切欠された多角形状となっている。そしてこのカバー38の上縁および下縁に前記係合溝36,37に対応する高さの小さい突起40,41が一体に突出形成されている。
【0025】このカバー38は、図2および図3に示すように、上縁の突起40がボタン枠30の内側上面の係合溝36に、下縁の突起41がボタン枠30の内側下面の係合溝37にそれぞれ係脱可能に嵌着されてボタン枠30の前面側開口部に装着保持されている。
・・・
【0028】次に、このボタン装置10の作用について説明する。
【0029】図5(A)および図6(A)には通常時の状態を示してある。非常時には、図5(A)および図6(A)に示すカバー38をかご内の乗客が指先で一定以上の圧力で押し込む。この押し込みに応じて、例えば図5(B)および図6(B)に示すように、カバー38の上縁の突起40が係合溝36から外れてカバー38がボタン枠30の奥側に変位し、この変位でボタントップ22が押圧され、これによりスイッチが入って非常の発生がかごの外部に通報される。
・・・
【0033】図5ないし図7の状態は、乗客が指先でカバー38の上部を押したときの場合であるが、カバー38の下部を押したときには、カバー38の下縁の突起41が係合溝37から外れてカバー38がボタン枠30の奥側に変位してボタントップ22が押し込まれ、またカバー38の中央部を押したときには、カバー38の上縁と下縁の双方の突起40、41が各係合溝36,37から外れてカバー38がボタン枠30の奥側に変位してボタントップ22が押し込まれるが、そのいずれの場合であっても、前述の場合と同様に、カバー38の切欠部39とボタン枠30との間の隙間aに工具bを差し込み、その工具bでカバー38を手前側に引き込み、突起40,41と係合溝36,37とを係合させることでカバー38を当初の状態に復帰させることができる。
【0034】このようなボタン装置10においては、カバー38を繰り返して使用することができ、新たなカバー38を用意することも必要がなく、このためコストを軽減でき、またボタントップ22が操作された後にはカバー38を工具bで単に引き込むだけでよく、したがってボタン装置10の復旧作業を容易に能率よく行なうことができる。さらに、ボタン装置10を操作する際には、カバー38を押し込んで変位させるだけで、カバー38を破断する必要がないから、指先に怪我を負うような恐れがなく、安全に操作することができる。」

(エ)「【0044】さらに、この発明のボタン装置は、エレベータのかご内に設ける場合に限らず、例えばエレベータ乗り場の壁面などに設けるような場合であってもよい。」

(オ)「【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るボタン装置を示す斜視図。
・・・
【図3】そのボタン装置の断面図。
・・・
【図6】そのボタン装置の操作時の動作を順に示す断面図。」

(カ)図3にはボタン装置の断面図が、図6にはそのボタン装置の操作時の動作を順に示す断面図が記載されている。図3及び図6においては、以下の点が示されている。
開口16はボタントップ22を覗かせている。
また、図3、6において押圧する者側に対し反対側の面(図3、6において右側を向く面)をウラ面として、カバー38のウラ面は平坦な面で構成されている。
またカバー38のウラ面がボタントップ22に接触し得るように構成されている。
また、ボタントップ22と開口16の間には間隙が形成されており、嵌着口部31は当該間隙部に挿入されている。
また、嵌着口部31は開口16内周の面に接し嵌着されている。
また、嵌着口部31の内周面はボタン枠30の内周面がボタン枠30の奥側へ延長された面となっている。

すると刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されている。
「押し込み式の非常時用のボタントップ22と、非常時用のボタントップ22を覗かせる開口16との間に間隙部が形成されるボタン装置10の前記間隙部に挿入される嵌着口部31を備えたボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38であって、
ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38は、非常時用のボタントップ22の不用意な誤操作を防止するために、開口16に嵌着されて開口16を覆うものであり、
嵌着口部31は、前記間隙部に挿入されつつ、開口16内周の面に接し嵌着されるものであり、
ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38は、ボタン枠側にボタン枠30内周面に形成される係合溝36、37、及びカバー38側に係合溝36、37に対応する突起40,41を有し、これら係合溝36、37と突起40,41とは係脱可能であり、
嵌着口部31内周面はボタン枠30内周面がボタン枠30の奥側へ延長された面であり、
ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38においては、カバー38は平坦な面で構成されるウラ面が非常時用のボタントップ22に接触し得るように構成されており、
ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38においてカバー38が押圧された際に、係合溝36、37から突起40,41が外れるように構成される、非常時用のボタントップ22のボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38。」

(2)本願出願前に頒布された刊行物である実願昭55-107885号(実開昭57-30923号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、非常用ボタンのカバーに関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「以下、本考案の実施例を第3図以下の図面によって説明する。
第3図は本考案による非常用ボタンのカバーの正面図を示し、第4図は縦断面図を示すものである。図中の符号11は非常用ボタン12の前方を覆うプラスチック板である。このプラスチック板11は鉄板製のカバー本体13の中央部に形成された窓に装着されている。また、このプラスチック板11には弓状の長孔14が中央部11aを囲むように配列されて穿設されている。この長孔14はプラスチック板11を貫通して形成されており、長孔14の連接部に形成されたリブ15によって中央部11aが周囲から支持される構造となっている。
上記のような非常用ボタンのカバーにおけるプラスチック板11を破壊して非常用ボタン12を押すときには、指Aを中央部11aに当てて強く押す。その結果、長孔14の連接部に形成されたリブ15が破断するだけであるので押し力は比較的小さくて済み、容易に非常用ボタン12を押すことができる。
また、リブ15の破断部以外に鋭角部が残らないのでプラスチック板11によって指Aを傷つけることはない。」(明細書第3頁16行目?第4頁17行目)

(イ)「次に、第5図および第6図に示す本考案の他の実施例は第3図および第4図に示したものを応用したものであり、長孔14によって囲まれたプラスチック板11の中央部11aに点検孔16が穿設されたものである。」(明細書第4頁18行目?第5頁2行目)

(ウ)第5図および第6図には長孔14によって囲まれたプラスチック板11の中央部11aに点検孔16が穿設された実施例が記載されており、第6図はその縦断面図である。第5図を参照して第6図を見ると、第6図には中央部11aが押し破られていない状態の縦断面図が記載されており、プラスチック板11の前面は中央部11a部分を含め面一となっていることが示されている。

(3)本願出願前に頒布された刊行物である実願昭61-173898号(実開昭63-79017号)のマイクロフィルム(以下「刊行物3」という。)には、非常通報用押釦の保護板に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「第1図は本考案による非常通報用押釦の保護板の斜視図、第2図は本考案による非常通報用押釦の保護板を装置に採用した場合のA-A’線の一部断面図である。1は保護板で、枠部2、保護部3、連結部4、突部5、抜孔6を一体成形している。7は筐体、8は化粧パネル、9は基板、10は非常通報用押釦、11は可動接点、12は固定接点である。まず上記一体成形した保護板1は保護部3に外力が加わったとき容易に枠部2から分離できるように連結部4で連結されている。」(明細書第3頁5?15行目)

(イ)「つぎに、非常事態が発生して保護板1の保護部3を押圧すると、その保護部3は枠部2から容易に分離し、基板9に設けた非常通報用押釦10を押圧することができる。」(明細書第4頁5?8行目)

(ウ)第1図には非常通報用押釦の保護板の斜視図が、第2図には非常通報用押釦の保護板の断面図が記載されている。第1、2図においては、以下の点が示されている。
・保護板1の前面は保護部3部分を含め面一となっている。


3.本願発明と引用発明の対応関係
・引用発明の「非常時用のボタントップ22」は、本願発明の「非常ボタン」に相当し、以下同様に、
「開口16」は、「ボタン開口部」に、
「間隙部」は、「隙間部」に、
「ボタン装置10」は、「操作用装置」に、
「嵌着口部31」は、「挿入片部」に、
「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38」は、「保護カバー」に相当する。
そして、引用発明の「押し込み式の非常時用のボタントップ22と、非常時用のボタントップ22を覗かせる開口16との間に間隙部が形成されるボタン装置10の前記間隙部に挿入される嵌着口部31を備えたボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38」は、本願発明の「押しボタン式の非常ボタンと前記非常ボタンを覗かせるボタン開口部との間に隙間部が形成される操作用装置の前記隙間部に挿入される挿入片部を備えた保護カバー」に相当する。
・引用発明の「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38は、非常時用のボタントップ22の不用意な誤操作を防止するために、開口16に嵌着されて開口16を覆うもの」であることは、本願発明の「前記保護カバーは、前記非常ボタンの意図しない押し操作を防止するために、前記開口部に装着されて前記ボタン開口部を覆うもの」であることに相当する。
・引用発明の「開口16内周の面」は本願発明の「ボタン開口部の端面」に相当する。
そして、引用発明の「嵌着口部31は、前記間隙部に挿入されつつ、開口16内周の面に接し嵌着される」ものであることと、本願発明の「前記挿入片部は、前記隙間部に挿入されつつ、前記ボタン開口部の端面に圧着される」ものであることとは、「挿入片部は、隙間部に挿入されつつ、ボタン開口部の端面に接し装着される」ものであるという点で共通する。
・引用発明の「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38においては、カバー38は平坦な面で構成されるウラ面が非常時用のボタントップ22に接触し得るように構成され」る構成と、本願発明の「前記保護カバーには、平坦な面で構成されるウラ面が非常ボタンに接触し得るように構成された押圧用部位が形設され」る構成とは、「保護カバーには、平坦な面で構成されるウラ面が非常ボタンに接触し得るように構成された押圧用部位が形設され」るという構成で共通する。
・引用発明の「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38は、ボタン枠側にボタン枠30内周面に形成される係合溝36、37、及びカバー38側に係合溝36、37に対応する突起40,41を有し、これら係合溝36、37と突起40,41とは係脱可能であり」、「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38においてカバー38が押圧された際に、係合溝36、37から突起40,41が外れるように構成される」ことと、本願発明の「前記保護カバーは、前記挿入片部の内周面よりも内側の位置において、前記ボタン開口部の端面の内側に沿って形成される破断用部位を有し」、「前記保護カバーにおいて前記押圧用部位が押圧された際に、前記破断用部位が破断するように構成される」ことは、「保護カバーにおいて押圧用部位が押圧された際に、押圧用部位が保護カバーから分離されるように構成されている」点で共通する。

両発明の一致点:
「押しボタン式の非常ボタンと前記非常ボタンを覗かせるボタン開口部との間に隙間部が形成される操作用装置の前記隙間部に挿入される挿入片部を備えた保護カバーであって、
前記保護カバーは、前記非常ボタンの意図しない押し操作を防止するために、前記ボタン開口部に装着されて前記ボタン開口部を覆うものであり、
前記挿入片部は、前記隙間部に挿入されつつ、前記ボタン開口部の端面に装着されるものであり、
前記保護カバーには、平坦な面で構成されるウラ面が非常ボタンに接触し得るように構成された押圧用部位が形設され、
前記保護カバーにおいて前記押圧用部位が押圧された際に、押圧用部位が保護カバーから分離されるように構成されている非常ボタンの保護カバー。」

両発明の相違点:
ア.挿入片部のボタン開口部への装着について、本願発明では「端面に圧着される」とされているのに対し、引用発明では「内周の面に接し嵌着される」とされている点。

イ.「押圧用部位が押圧された際に、押圧用部位が保護カバーから分離されるように構成」することについて、本願発明では「保護カバー」が、「挿入片部の内周面よりも内側の位置において、前記ボタン開口部の端面の内側に沿って形成される破断用部位を有し」て「保護カバーにおいて前記押圧用部位が押圧された際に、前記破断用部位が破断するように構成される」ものであるのに対して、引用発明の「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38」は「ボタン枠側にボタン枠30内周面に形成される係合溝36、37、及びカバー38側に係合溝36、37に対応する突起40,41を有し」、「これら係合溝36、37と突起40,41とは係脱可能」として「ボタン枠30及びそれに保持される誤操作防止用のカバー38においてカバー38が押圧された際に、係合溝36、37から突起40,41が外れるように構成される」ものである点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点ア.について
部材を開口部内面に接して嵌着する手法として「圧着」をともなった嵌着は、周知慣用のものに過ぎず、引用発明の開口16内周の面に接し「嵌着」を該周知慣用の態様で具現化し、開口部端面に圧着することは、当業者が容易に成し得たことである。

(2)相違点イ.について
(a)保護カバーが破断用の部位を有しており、押圧用の部位が押圧された際には破断用の部位が破断するという構成は、上記刊行物2、3に例示されるように当業者にとって周知の技術であり、この周知技術を採用することは格別困難無く想到し得ることである。
(b)次に破断用部位が「挿入片部の内周面よりも内側の位置において、前記ボタン開口部の端面の内側に沿って」形成されるという位置関係について検討すると、引用発明においては係合溝36、37はボタン枠30内周面に設けられ、その位置で誤操作防止用のカバー38がボタン枠30と係脱するものであるところ、これに上記周知技術を適用する場合、破断用部位の後方が空いていないと破断ができなくなることから、破断用部位がそのボタン枠30の内周面よりも内側の位置となることは自明であり、また、通常操作部は大きい方が望ましいと考えられるので、破断用部位を可及的にボタン枠30内周面に近づけて、ボタン開口部の端面の内側に沿ったものとすることも当業者が普通に成し得る選択である。
なお、刊行物1の図3、6においては係合溝36、37は嵌着口部31よりも図面で見て左側のボタン枠30内周面に形成されているが、この点は本願も、本願の図4上で見て破断用部位35は挿入片部35よりも図面で見て左側に位置されており、同様である。
(c)なお、請求人は平成26年7月25日提出の意見書において、「引用文献1は、非常ボタンのカバーにおいて、カバーを繰り返し使うために破断によらない構成を実現することを課題とするものであります。つまり、破断用部位を有するカバーの問題点を解決するために、破断部を設けないようした発明であります。
このことからすると、引用文献1のカバーについて、係合溝36と、突起40と、からなる係合箇所に代えて、引用文献2、3に記載される破断部の構成を適用することの動機付けが存在するものではありません。」と主張しているので、これについても検討する。
しかし、上記(a)の破断する形式の保護カバーは、引用発明の外れる形式のカバーと共に、非常ボタンのカバーの形式として、代表的なもの(刊行物1においても、記載事項(ア)(イ)で従来の構造として扱われている。さらに必要があれば、実公平4-48584号公報には、両形式が従来の技術として並記されている。)であって、かつ、両形成それぞれの構成に起因した特徴(例えば、破断する形式の保護カバーは少ない部品数で構成でき、外れる形式のカバーはカバーを繰り返して使用できる等。)を有するものであり、両形式の置換は当業者が格別困難無く想起することである。
そして、引用発明においても、少ない部品数で構成できることは、望ましいことと認識出来るものであるので、「引用文献2、3に記載される破断部の構成を適用することの動機付けが存在するものではない」とはいえない。
さらに、引用発明に破断する形式の保護カバーを採用すると、刊行物1記載事項(ア)の「ボタントップ22に対する不用意な誤操作が防止される。」という引用発明の基本的目的が達成できないとか、上記「3.」の一致点に係る構成(例えば、「隙間部に挿入される挿入片部を備えた」点等)が、使用できなくなるような事情が存在するようなものでもない。
以上を踏まえると、引用発明に刊行物2、3に例示される周知技術を採用して保護カバーを本願発明の相違点イ.に係る構成とすることは格別困難無く想到し得ることである。

(3)総合判断
そして、本願発明の作用効果は、引用発明、刊行物2、3に例示される周知技術から、当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2、3に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-10 
結審通知日 2014-11-11 
審決日 2014-11-25 
出願番号 特願2009-127080(P2009-127080)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森次 顕  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 中川 真一
住田 秀弘
発明の名称 非常ボタンの保護カバー、操作用装置、及び、それを備えるシャッター装置  
代理人 大上 寛  

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