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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1297167
審判番号 不服2013-21886  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-08 
確定日 2015-02-04 
事件の表示 特願2010-292773「半導体およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011-82563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年7月29日に特許出願された特願平11-214602号(パリ条約による優先権主張1998年7月31日、米国)の一部を、平成22年12月28日に新たな特許出願として出願したものであって、その後の経緯は以下のとおりである。
平成23年 1月21日 手続補正書
平成24年12月21日 拒絶理由通知(平成25年1月8日発送)
平成25年 3月27日 意見書・手続補正書
平成25年 7月 5日 拒絶査定(同年7月9日送達)
平成25年11月 8日 審判請求書
平成26年 3月18日 拒絶理由通知(同年3月25日発送、以下「当審拒絶理由」という。)
平成26年6月20日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成26年6月20日付け手続補正により補正された請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1は以下のとおりである。

「基板上に直接形成され、前記基板を均一に覆うアモルファスのInGaNを固体エピタキシープロセスで結晶化させたInGaNからなる核形成層と、
前記核形成層上に成長させた厚さ0.5μm以上100μm以下のInGaN層と、
前記InGaN層上に形成され、Inの含有量が20%以上である活性層と、
を含む半導体構造。」(以下「本願発明」という。)

第3 引用発明
当審拒絶理由通知で引用した刊行物(特開平9-283799号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている(当審注:下線は、当審が付加した。)。

1 「【請求項1】 ダブルヘテロ接合構造を発光部として有し、前記ダブルヘテロ接合構造を構成するp型クラッド層、活性層、n型クラッド層が、全てInGaN系半導体材料によって形成されたものであることを特徴とする半導体発光素子。・・・
【請求項4】 当該半導体発光素子の積層構造が、結晶基板上にバッファ層を介してダブルヘテロ接合構造を成長させてなる積層構造であって、結晶基板の材料が、サファイア、6H-SiC、MgAl_(2) O_(4) (スピネル)、LiAlO_(2) 、LiGaO_(2) のいずれかであり、バッファ層の材料が、AlN、GaN、InGaN、AlGaNのいずれかである請求項1?3記載の半導体発光素子。」

2 「【0011】【作用】発光素子のダブルヘテロ接合構造において、活性層の材料だけでなく、これを挟むp型・n型の両クラッド層の材料としてInGaN系材料を用いることによって、活性層に用いられるInGaN系材料を、高いInの組成比として、かつ、良好な結晶性で成長させることも可能となる。これによって、InGaN系材料を活性層の材料として用いたものでありながら、赤色(波長約653nm付近)の領域の光を発する発光素子を製造することも可能となる。
【0012】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の発光素子の構造の一例を示す模式図である。同図に示すように、本発明の発光素子は、ダブルヘテロ接合構造3を発光部として有し、このダブルヘテロ接合構造3を構成するn型クラッド層31、活性層32、p型クラッド層33が全てInGaN系材料によって形成されるものである。同図の例は、結晶基板に絶縁体であるサファイア結晶を用いた場合の構造例である。また、ダブルヘテロ接合構造3は結晶基板1上にバッファ層2を介して形成されている。ダブルヘテロ接合構造における伝導型は、p型・n型のいずれを結晶基板側としてもよい。図1の例では、結晶基板側をn型として示している。このような構造の発光素子とすることによって、活性層の結晶品質を良好な状態に維持しながら、Inの組成比を所望の値まで高く設定できる。
【0013】結晶基板に用いられる材料は、上記サファイア結晶の他に、6H-SiC、MgAl_(2) O_(4 )(スピネル)、LiAlO_(2) 、LiGaO_(2) などが挙げられる。サファイア結晶は、α-Al_(2) O_(3) を結晶構造とするものであればよく、従来よりGaN単結晶などを成長させるための基板として利用されているものを利用してよい。特に(0001)面が基板の上面となるように形成されたサファイアC面基板が、成長層表面の平坦性および成長層の結晶性を向上させる点で好ましく用いられる。
【0014】バッファ層の材料としては、AlN、GaN、InGaN、AlGaNが好ましいものとして挙げられる。これらの材料のいずれかを結晶基板上に成膜しバッファ層とすることによって、さらにその上には、良好な結晶性でありながら十分に厚いInGaN単結晶からなるクラッド層を成長させることができる。
【0015】バッファ層の膜厚は限定されるものではないが、0.001μm?5μm程度、好ましくは0.005μm?0.5μmが適当な厚みである。結晶基板上へのバッファ層の成膜方法は特に限定されず、従来のバッファ層形成に用いられるMOVPE、MBE、CBE、GS-CBE、スパッタリングなども利用できるが、バッファ層上に結晶成長させるInGaNクラッド層の成長方法と同一であることが特に好ましい。
【0016】ダブルヘテロ接合構造に用いられるInGaN系材料は、In_(x) Ga_(1-x)N、0≦x≦1、で表される化合物半導体であればよい。また、本発明がInGaN系材料を活性層に用い、さらにInの組成比の高いものまでの利用を可能とすることを目的とする点からは、活性層に用いられるInGaN系材料は、In_(x)Ga_(1-x)Nにおける組成比を、0<x≦1とすることが好ましい。また、黄色の波長域付近で十分な輝度を示す発光素子を提供する点では0.7≦x≦1とすることが好ましい。またさらに、赤色で十分な輝度を示す発光素子を提供する点では0.9≦x≦1とすることが好ましい。
【0017】ダブルヘテロ接合構造の各層の厚みは限定されず、公知の発光素子における厚みのとおりであってもよい。例えば、p型・n型の両クラッド層の厚みは、0.1μm?5μm程度、活性層の厚みは、0.01μm?0.1μm程度が例示される。活性層は、InGaN系材料からなる単純な薄層であってもよいが、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造としてもよい。」

3 上記2【0012】段落の記載をふまえて、図1をみると、InGaNからなるバッファ層2は結晶基板1上に直接形成され、前記結晶基板1を均一に覆っていることが見て取れる。

4 図1は、次のものである。


5 以上によれば、刊行物には、
「ダブルヘテロ接合構造を発光部として有し、前記ダブルヘテロ接合構造を構成するp型クラッド層、活性層、n型クラッド層が、全てInGaN系半導体材料によって形成された半導体発光素子において、
当該半導体発光素子の積層構造が、結晶基板上にバッファ層を介してダブルヘテロ接合構造を成長させてなる積層構造であって、
結晶基板の材料が、サファイア、6H-SiC、MgAl_(2)O_(4) (スピネル)、LiAlO_(2) 、LiGaO_(2) のいずれかであり、バッファ層の材料が、InGaNであり、
前記InGaNからなるバッファ層は、前記結晶基板上に直接形成され、前記結晶基板を均一に覆うものであり、前記結晶基板上へのバッファ層の成膜方法は特に限定されないものであり、
p型・n型の両クラッド層の厚みが、0.1μm?5μm程度であり、活性層に用いられるInGaN系材料は、In_(x)Ga_(1-x)Nにおける組成比を、0<x≦1とする半導体発光素子。」(以下「引用発明」という)
が記載されていると認められる。

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「結晶基板」、「InGaNからなるバッファ層」、「結晶基板上にバッファ層を介して」「成長させてなる」「ダブルヘテロ接合構造」の「InGaN系半導体材料によって形成された」「n型クラッド層」は、それぞれ本願発明の「基板」、「InGaNからなる核形成層」、「核形成層上に成長させた・・・InGaN層」に相当する。

2 上記第3、1?4及び1、2に照らせば、請求項1に係る発明と引用発明とは、
「基板上に直接形成され、前記基板を均一に覆うInGaNからなる核形成層と、
前記核形成層上に成長させたInGaN層と、
前記InGaN層上に形成された、活性層と、
を含む半導体構造。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「核形成層」が、本願発明では「アモルファスのInGaNを固体エピタキシープロセスで結晶化させたInGaNからなる」のに対し、引用発明ではそのようなものからなるのか否か不明である点。

相違点2:核形成層上に成長させたInGaN層の厚さが、本願発明では「厚さ0.5μm以上100μm以下」であるのに対して、引用発明では「0.5μm以上5μm以下」である点。

相違点3:活性層のIn含有量が、本願発明では「20%以上」であるのに対し、引用発明では、「活性層に用いられるInGaN系材料は、In_(x)Ga_(1-x)Nにおける組成比を、0<x≦1」である点。

第5 判断

1 相違点1について
以下、上記相違点について検討すると、上記固体エピタキシープロセスは、薄膜結晶を作成する方法として周知の方法[例えば「白川 二、化合物半導体-プロセスと科学、日本、大日本図書(株)、1994年6月20日、123-127頁」(以下「刊行物2」という。)の127頁には、薄膜結晶を作成する方法であるエピタキシーの一つとして固相エピタキシー(本願発明の「固体エピタキシー」に相当する。)が記載されている。]である。
そして、引用発明は、結晶基板上へのバッファ層の成膜方法が特に限定されないものであるから、上記周知の技術手段を適用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項と為すことに困難性は無い。

2 相違点2について
引用文献には、「【0011】【作用】発光素子のダブルヘテロ接合構造において、活性層の材料だけでなく、これを挟むp型・n型の両クラッド層の材料としてInGaN系材料を用いることによって、活性層に用いられるInGaN系材料を、高いInの組成比として、かつ、良好な結晶性で成長させることも可能となる。・・・
【0014】・・・良好な結晶性でありながら十分に厚いInGaN単結晶からなるクラッド層を成長させることができる。・・・ 」(上記第3、2を参照) と記載されていることに照らせば、引用文献は活性層に用いられるInGaN系材料を、高いInの組成比として、かつ、良好な結晶性で成長させるために、十分に厚いInGaN単結晶からなるクラッド層を設けることが示唆されているといえる。
他方、クラッド層の厚さを不必要に厚くすることは経済的でないことも当業者にとって自明である。
よって、引用発明において、「n型クラッド層」の厚さを適宜に定め、その値を0.5μm以上100μm以下とすること、すなわち相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なしえた程度のことである。

3 相違点3について
本願発明の「含有量」は、その用語が発明の詳細な説明に記載されておらず、組成比における含有量なのかあるいは、質量における含有量なのか必ずしも明確ではない。
一方、引用発明は、「活性層に用いられるInGaN系材料は、In_(x)Ga_(1-x)Nにおける組成比を、0<x≦1とする」ものである。
そうすると本願発明の「含有量」をいずれの意味に解しても、引用発明のInの含有量は20%以上のものを含むと解される。
また、引用文献には、「【0016】・・・また、黄色の波長域付近で十分な輝度を示す発光素子を提供する点では0.7≦x≦1とすることが好ましい。またさらに、赤色で十分な輝度を示す発光素子を提供する点では0.9≦x≦1とすることが好ましい。」と記載されていることに照らせば、発光素子の発光色をどのように設定するかによって、活性層のIn含有量は定められるものと解される。
よって、引用発明において、活性層のIn含有量を20%以上とすること、すなわち相違点3に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

4 請求人の主張に対して
請求人は、平成26年6月20日付け意見書において、「固体エピタキシープロセスは、アモルファスを結晶化させる他のプロセスに比べて結晶化に要するエネルギーが少なく、さらに結晶化に掛る時間も短い。すなわち、低い温度において少ないエネルギーで高速にアモルファスのInGaNを予め形成し、他の層をエピタキシャル成長させるときに必要な加熱によってアモルファスInGaNを固体エピタキシープロセスにより結晶化させることができる。」旨主張するので、以下、検討する。
請求人が主張する作用効果は、固体(固相)エピタキシープロセスを採用することにより奏するものにすぎない。また、固体(固相)エピタキシープロセスを核形成層の形成法に採用することにより、当業者の予測を超えるような格別の効果があるものとも認められない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

5 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献の記載事項及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献の記載事項及び周知の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-08 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-25 
出願番号 特願2010-292773(P2010-292773)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 畑井 順一
星野 浩一
発明の名称 半導体およびその製造方法  
代理人 吉田 研二  
代理人 石田 純  

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