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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G11B
管理番号 1298074
審判番号 無効2010-800238  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-27 
確定日 2012-05-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2943636号発明「信号処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成 6年11月22日:出願(特願平6-288474号)
平成11年 6月25日:特許権の設定登録
(特許第2943636号)
平成22年12月27日:本件無効審判請求
平成23年 3月25日:答弁書提出(被請求人)
平成23年 4月14日:審理事項通知
平成23年 6月16日:口頭審理陳述要領書提出
(請求人及び被請求人)
平成23年 6月30日:口頭審理

第2 本件発明

請求人が無効とすることを求めている請求項1に係る特許は以下のとおりである。
これが「本件発明」である。

[本件発明]
「【請求項1】 データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するとともに、前記外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置において、
発音指示を発生する発音指示手段と、
該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭データとして所定の記憶手段に記憶し、該発音指示の発生に応じて、前記所定の記憶手段に記憶された先頭データに基づいて音信号の発生を開始するとともに前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を開始して、前記先頭データに基づく音信号の発生と平行して前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成する演算手段と
を具備することを特徴とする信号処理装置。」

第3 当事者の主張

1. 請求人の主張
請求人は、特許2943636号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第6号証を提出した。

[無効理由]
本件発明は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用することによって、本件発明に容易に想到することができるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものであって、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされなければならない。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平6-167978号公報
甲第2号証:特開平6-259088号公報
甲第3号証:特開平5-308616号公報
甲第4号証:特開平6-76471号公報
甲第5号証:特開平5-314655号公報
甲第6号証:特開平5-28652号公報
なお、甲第3号証?甲第6号証は、技術水準を示す証拠として提示されている。

2. 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、以下のように反論した。

[無効理由について]
本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

第4 無効理由に対する判断

1. 甲各号証の記載事項

(1)甲第1号証(特開平6-167978号公報)
甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 入力されるディジタル楽音データに圧縮処理を施すデータ圧縮手段と、
録音すべきディジタル楽音データの入力から所定期間経過したか否かを判別する第1の判別手段と、
前記第1の判別手段によって所定期間経過していないと判別された場合には、前記ディジタル楽音データを選択し、前記第1の判別手段によって所定期間経過したと判別された場合には、前記データ圧縮手段により圧縮処理が施されたデータを選択する第1の選択手段と、
書き込み可能な記憶手段と、
前記選択手段によって選択されたデータを前記記憶手段に書き込む書込手段とを具備することを特徴とする電子楽器の音源装置。
【請求項2】 楽音信号の先頭から所定期間までの部分をディジタル・データの状態にて記憶するとともに、前記所定期間以降の部分をディジタル・データに圧縮処理を施したデータの状態にて記憶する記憶手段と、
発音指示があった場合に前記記憶手段に記憶されたディジタル・データおよび圧縮処理を施したデータを読み出す読出手段と、
前記読出手段によって読み出された、圧縮処理を施したデータに展開処理を施して元のディジタル・データに展開するデータ展開手段と、
前記読出手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了したか否かを判別する第2の判別手段と、
前記第2の判別手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了していないと判別された場合には前記読出手段によって読み出されたディジタル・データを選択し、前記第2の判別手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了したと判別された場合には前記データ展開手段によって展開されたディジタル・データを選択する第2の選択手段とを具備し、
前記第2の選択手段によって選択されたディジタル・データに基づいて発音することを特徴とする電子楽器の音源装置。」

(イ)「【0002】
【従来の技術】
従来より、楽音信号をPCM(パルス符号化変調)等を用いてディジタルのPCM・データに変換し、さらに、圧縮処理を施して波形メモリ内に記憶するとともに、再生(発音)時には、この波形メモリ内から圧縮処理を施したデータ(エンコード・データ)を読み出し、このデータにデコード(展開)処理を施して、元のPCM・データに戻し、楽音を発生させる電子楽器の音源装置が知られている。
圧縮処理には、例えば、ADPCM(適応型差分PCM)や、さらに圧縮効率をあげたサブバンドコーディングを用いることできる。圧縮処理を施すことによって、波形メモリ内に記憶する情報量を少なくすることができるので、より少ない容量の記憶装置を用いて効率的に波形メモリを構成することができる。」

(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したような、特に圧縮効率の高いデータのデコード処理にはある程度の時間が必要である。すなわち、オペレータ(操作者)による発音指示によって読み出したエンコード・データを、元のPCM・データへデコードする時間が必要である。このため、図11に示すように、楽音発生が、発音指示後から、デコード処理に要する時間Dだけ遅れるいう問題があった。
この発明は、上記課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、発音指示後、時間遅れを極めて少なくして、直ちに楽音を発生することができる電子楽器の音源装置を提供することにある。」

(エ)「【0004】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために請求項1記載の発明は、入力されるディジタル楽音データに圧縮処理を施すデータ圧縮手段と、録音すべきディジタル楽音データの入力から所定期間経過したか否かを判別する第1の判別手段と、前記第1の判別手段によって所定期間経過していないと判別された場合には、前記ディジタル楽音データを選択し、前記第1の判別手段によって所定期間経過したと判別された場合には、前記データ圧縮手段により圧縮処理が施されたデータを選択する第1の選択手段と、書き込み可能な記憶手段と、前記選択手段によって選択されたデータを前記記憶手段に書き込む書込手段とを具備することを特徴としている。
【0005】
上述した課題を解決するために請求項2記載の発明は、楽音信号の先頭から所定期間までの部分をディジタル・データの状態にて記憶するとともに、前記所定期間以降の部分をディジタル・データに圧縮処理を施したデータの状態にて記憶する記憶手段と、発音指示があった場合に前記記憶手段に記憶されたディジタル・データおよび圧縮処理を施したデータを読み出す読出手段と、前記読出手段によって読み出された、圧縮処理を施したデータに展開処理を施して元のディジタル・データに展開するデータ展開手段と、前記読出手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了したか否かを判別する第2の判別手段と、前記第2の判別手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了していないと判別された場合には前記読出手段によって読み出されたディジタル・データを選択し、前記第2の判別手段によって前記ディジタル・データの読み出しが終了したと判別された場合には前記データ展開手段によって展開されたディジタル・データを選択する第2の選択手段とを具備し、前記第2の選択手段によって選択されたディジタル・データに基づいて発音することを特徴としている。 」

(オ)「 【0007】
請求項2記載の発明によれば、発音指示があった場合に、記憶手段からディジタル・データおよび圧縮処理を施したデータが読み出され、ディジタル・データは、第2の選択手段を介して出力される一方、圧縮処理を施したデータは、さらにデータ展開手段によって元のディジタル・データに戻される。第2の選択手段は、発音指示後からディジタル・データを選択して、すべてのディジタル・データを出力し、この後、データ展開手段によって戻されたディジタル・データを選択して、選択されたデータを出力する。
したがって、発音指示後、直ちに、ディジタル・データが読み出され、この後に、元に戻されたディジタル・データが出力されるので、時間遅れを極めて少なくして、直ちに楽音を発生することができる。」

(カ)「 【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、楽音信号の所定期間までのディジタル・データの長さは、圧縮処理を施したデータの長さに比べて充分短いので、圧縮効率を悪化させなくて済むという利点がある(請求項1)。
また、発音指示後、直ちに、ディジタル・データが読み出され、この後に、元に戻されたディジタル・データが出力されるので、時間遅れを極めて少なくして、直ちに楽音を発生することができる(請求項2)。」

以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。

[甲第1号証発明]
(キ)楽音信号の先頭から所定期間までの部分がディジタル・データの状態にて記憶されるとともに、前記所定期間以降の部分がディジタル・データに圧縮処理を施したデータの状態にて記憶されている記憶手段と、
発音指示があった場合に前記記憶手段に記憶されたディジタル・データおよび圧縮処理を施したデータを読み出す読出手段と、
前記読出手段によって読み出された、圧縮処理を施したデータに展開(デコード)処理を施して元のディジタル・データに展開するデータ展開手段とを備え、
該発音指示の発生に応じて、前記記憶手段に記憶された楽音信号の先頭から所定期間までの部分のディジタル・データに基づいて音信号の発生を開始するとともに当該所定部分以降の圧縮データのデコード処理を開始して、前記先頭ディジタル・データに基づく音信号の発生と平行して前記所定部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭ディジタル・データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データをデコード処理した元のディジタル・データに基づいて音信号を生成する音源装置。

(2)甲第2号証(特開平6-259088号公報)
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(サ)「【請求項10】
音声データをディジタル圧縮形式で記憶した複数の圧縮音声データファイルを有し、表示画面上の音声アイコンウインドウにおける音声アイコンの操作によって選択された圧縮音声データファイルを処理対象とし、編集コマンドの入力によって編集処理を行う音声編集装置において、
圧縮音声データの伸長処理に関するデータを生成し、管理する伸長音声データ管理部と、
音声アイコンの入力を監視し、該音声アイコンに対する操作が行われるたびに、前記伸長音声データ管理部から必要なデータを受け取り、決められた編集画面操作及び編集操作を行うと共に、操作受け付けシグナルを生成する音声編集画面制御及び音声編集部と、
前記操作受け付けシグナルを受け取り、将来編集対象となり伸長処理の必要となる音声データファイルを予測し、伸長優先順位管理テーブルに結果を記録する伸長優先順位判定部と、
前記伸長優先順位管理テーブルの記録に基づいて、前記圧縮音声データの伸長処理を行い、得られた伸長音声データを前記伸長音声データ管理部に格納する伸長処理部とを備えたことを特徴とする音声デ-タ編集装置。 」

(シ)「【0002】
【従来の技術】
近年、文章、静止画、動画、音声等の各種メディアを組み合わせて扱うマルチメディア端末が普及している。このマルチメディア端末において利用されるメディアデータを編集する装置のひとつとして、音声編集装置がある。
【0003】
その中で、ディジタル音声データを対話的に編集する音声データ編集装置は、映像表示装置上に波形等でグラフィカルに表示された音声データを、マウス等の入力手段によって、対話的に操作することで音声データの再生、複製、分割、結合等の編集操作を行うものである。オペレータは、編集可能な複数の音声データをアイコンとして表示した音声アイコンウインドから、編集対象となる音声アイコンを選択し、任意の編集コマンドを入力することでその編集処理を行うことができる。
【0004】
音声データ編集装置では、一般に圧縮音声データを用いているので、編集処理を行うためには、圧縮音声データを伸長する必要がある。」

(ス)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の音声データ編集装置では、オペレータが編集対象となる音声データを選択し、そのデータに対して ″cut″、″波形表示″ 等の編集コマンドを入力して初めて、伸長処理が始まるものであった。このため、コマンド入力後、伸長処理のための時間待たされることが多く、操作の応答性の点で問題があった。
【0006】
また、あらかじめすべての音声データを伸長して格納することは、記録データ量が膨大になってしまう欠点を持ち、さらに編集装置起動時にすべてのデータを伸長する方法では、起動時間が長くなってしまう短所を持つ。
【0007】
本発明の目的は、ディジタル圧縮音声データの編集における、上記のような欠点を最小限に押えた、音声データ編集方法及び装置を提供することにある。」

(セ)「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の特徴は、音声データに対するオペレータの一連の操作から、将来編集対象になるであろう可能性の高い音声データを予測し、実際の編集コマンド入力以前に伸長処理を始めるものである。すなわち、オペレータの編集コマンド入力に対応する処理と並行して、これから編集されるであろうデータを予測し、編集操作に先行して予め伸長処理を行なう音声データ編集方法及び、
予測される編集可能性の程度に応じて各音声データに伸長優先順位を設定する手段と、その優先順位に従って伸長処理を行う手段と、結果を記憶させる手段より構成され、本来の編集制御とは独立して先行的に伸長処理を行う音声データ編集装置に特徴がある。」

(ソ)「【0020】
アイコンウインドウでのアイコンのピック操作(704)の時は、そのピック操作後、ワークエリアへの移動操作が行われる可能性が高いと判断し、優先順位2を設定(712)する。この時の様子を示したものが図10である。マウスカーソル260によってピックされたアイコンに対応するvoice4には、優先順位2が付けられる。
【0021】
アイコンウインドウからワークエリアへの音声アイコンの移動操作(705)の時は、ワークエリアに移動される音声データが直後に編集されるデータであることが確実なので、一番優先順位の高い1を設定(713)する。この様子を示したものが図11である。この時、ワークエリア240のvoice4には一番優先順位の高い1が付けられる。この後、play ボタン等による再生や、cut ボタン等によってvoice4データの編集処理が行われる。」

(タ)「【0024】
図12は、伸長処理部510が伸長処理を行う順番を決める過程を示すフローチャートである。一連の流れのなかで伸長処理部510がどのような作業を行っていようとも、優先順位管理テーブル1000の優先順位が更新されたことを示す優先順位更新シグナルを受信すると(511)、割り込み動作として再スタートを行う(512)。スタートするとまず、その時刻までの伸長処理済みデータサイズを優先順位管理テーブル1000に記録する(513)。伸長処理が終了している場合には、ステップ513を省略する。次に、優先順位管理テーブル1000を参照して、完全に伸長処理の終っていない音声データの中で優先順位が一番高く、かつ更新時刻の最も新しい音声データをピックアップする(514,515,516)。そして、このデータの伸長処理を始める(517)。伸長したデータは、伸長データ管理部430によって伸長データ格納領域150に格納すると共に、優先順位管理テーブル1000の記録を更新する(518)。そして再び始めのステップ514に戻り、同じ動作を繰り返す。なお、前に述べたように、伸長処理中に伸長優先順位管理テーブル1000の優先順位が変更された場合は(優先順位更新シグナル受信)、伸長作業を中断し伸長された部分だけを記録し、新たな優先順位で作業を始める。
【0025】
伸長装置部510から伸長データ格納要求がされると、伸長音声データ管理プログラム130は必要なメモリ領域を伸長データ格納領域150に割り当てるが、もし容量が足りないときは伸長優先順位管理テーブル1000を参照し、優先順位の最も低いデータを消去し、スペースを確保する。なお、伸長データ格納領域150は、できるだけ大きな記憶容量をもたせる。多くの伸長データを蓄えられるようし、一度伸長したデータを記憶容量の不足のため削除し、その後必要となって再び伸長することをなるべく避けるためである。音声編集画面制御及び音声編集部600は、ある音声伸長データが必要になったとき、伸長データ管理プログラム130に問い合わせ、そのデータが格納されている伸長データ格納領域150のアドレスを得る。もし、まだ伸長されていなければ、伸長データが作成されるまで待つ。しかし、音声編集画面制御及び音声編集部600が実際に伸長データを必要とする以前に、その音声データに対しては高い伸長優先順位が付けられている可能性が高いので、すでに伸長されているかあるいは部分的に伸長済みである場合が多いと考えられ、新たに伸長しなければならない量の期待値は低くなる。よって、編集の際に、データ伸長のために待たされる時間は、全体的に少なくなる。」

(チ)「【0026】
図13は、本発明の実施例の効果を示す図である。従来の方法によると、(a)に示すように、編集コマンドボタンを押下した時点T5でこの音声データの伸長処理が始まる。これに対し、本発明の方法によれば(b)に示すように、音声アイコンウインドウに対するオペレータの操作の時点T1?T2、T3?T4で将来編集対象になるであろう音声データを予測し、時点T2、T4で各々先行的に伸長処理を始めることができる。対話操作において、対象データの選択や編集コマンドの入力には通常数秒ないし十数秒程度の時間を要する。本発明の方法において、T1?T2間の1次予測とT3?T4間の2次予測の結果最も優先順位を高く設定した音声データが、その後の編集作業に実際に使われたとすると、従来の方法に比べて最大2つの対話入力操作分、すなわち、十数秒ないし数十秒コマンド入力後の伸長処理を早く終了させることができる。」

(ツ)「【0034】
また、以上の実施例では、音声データごとに伸長優先順位を付け、優先順位の高いデータから、データ全体を伸長するものであったが、ひとつのデータを幾つかに分割し、それぞれに優先順位を付けることもできる。例えば、それぞれの音声データを10秒ごとに分割し、それぞれの先頭10秒間に高い優先順位を付ければ、音声データの先頭10秒間だけの頭だし再生のとき、伸長待ち時間が少なくなる可能性が高くなる。また、音声データの波形表示を行う際も、一画面に表示できる時間はたかだか10秒程度なので、データ先頭の一画面を表示するだけの場合応答性が早くなる可能性が高くなる。よってこの実施例によれば、音声データのブラウジングを行う時などに有効である。 」

(テ)「【0036】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、編集中将来利用されるであろう圧縮データに、その利用可能性に応じ優先順位を付け、優先順位の高いものから先行的に伸長処理を行うことで、実際にその伸長データが必要になったときの伸長処理時間を短縮あるいは省略することができる。」

以上を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されている。

[甲第2号証発明]
(ト)音声圧縮データファイル400に記憶された収録済みのディジタル圧縮音声データを伸張し、その再生を行う音声データ編集装置において、
コマンドボタン群230中に設けられた再生を実行させるコマンドボタンを備え、
該再生コマンドボクン押下に先立って、再生対象の音声アイコンをマウスポインタ等で選択しワークエリア240に移動させて再生対象音声データを確定し、予め伸張して伸張データ格納領域150に格納しておき、
前記再生コマンドボタンの押下により、前記伸張データ格納領域150に格納されたる伸張データを読み出して再生する音声データ編集装置であって、
予め伸張して伸張データ格納領域150に格納される音声再生対象音声データは、一つのデータを幾つかに分割し、優先順位を付して格納領域150に格納されるものであり、 それぞれの音声データを10秒ごとに分割し、それぞれの先頭音声データの該分割された先頭部分に高い優先順位を付けることにより、それぞれの音声データの先頭10秒間だけの頭出し再生を、伸長待ち時間を少なくして再生可能とする音声データ編集装置。

2.対比・判断

(1)本件発明と甲第1号証発明との対比

甲第1号証発明は圧縮処理が施されて記憶されている楽音信号をデコードして音信号を生成するものであり、本件発明と同様、記憶手段、記憶手段に記憶されたデータを読み出す手段、データをデコードして出力すべき元の信号に復号するデータ展開手段(演算手段)を備えた信号処理装置である。

両者を対比すれば、次の点で、一致、あるいは相違する。

[一致点]
(ナ)データを所定の圧縮処理によつて圧縮して記憶手段に記録するとともに、前記記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置において、
発音指示を発生する発音指示手段と、
発音指示の発生に応じて、圧縮されていない所定の開始位置から所定の部分までの先頭データに基づいて音信号の発生を開始するとともに、前記先頭データに基づく音信号の発生と平行して前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成する演算手段と
を具備することを特徴とする信号処理装置。

[相違点]
(ニ)所定の圧縮処理によつて圧縮されたデータを記憶する記憶手段が、本件発明において「外部記憶装置」であるのに対し、甲第1号証発明においては、「外部」とはされていない点。

(ヌ)記憶手段にデータを記憶する際の“所定の圧縮処理”が、本件発明において、生成しようとする楽音の“全てのデータ”を圧縮することであるのに対し、甲第1号証発明においては、楽音の所定の開始位置から“所定の部分までの先頭データを除くデータのみ”を圧縮処理することであって、所定の開始位置から所定の部分までの先頭データは圧縮されていないデータとして記憶することである点。

(ネ)演算手段が、本件発明において、「該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭データとして所定の記憶手段に記憶」する処理を行うことを含むのに対し、甲第1号証発明は、楽音データの所定の開始位置から所定の部分までは圧縮されているものではないので、そのようなデコード処理を行うものではない点。

(2)本件発明と甲第1号証発明との進歩性判断

上記(1)における相違点について検討する。

相違点(ニ)については、記憶装置が外部にあるか、装置内部にあるかは単なる設計的事項にすぎない。
記憶装置が外部にあることをもってのみをもって、進歩性を有する格別な技術的事項とはいえない。

相違点(ヌ)及び(ネ)について検討する。

本件発明が、音信号としてのデータが「所定の圧縮処理によつて圧縮して」記憶手段に記録されているものであり、すなわち楽音信号の“全て”が圧縮されているものに対して発音するものであるのに対し、甲第1号証発明は、「楽音信号の先頭から所定期間までの部分をディジタル・データの状態にて」記憶されている楽音信号と、「ディジタル・データに圧縮処理を施したデータの状態にて」記憶されている“前記所定期間以降の部分”の楽音信号に対して発音するものであることは、楽音信号が記憶されている状態、すなわち発明の基本構成における相違である。

甲第1号証発明は非圧縮データと圧縮データが混在する特殊な記録フォーマットで楽音データが記憶されているものである。
甲第1号証における請求項1(上記(ア))の記載からも明らかなように、甲第1号証発明は、記憶手段に記憶される楽音データは、その一部が圧縮処理されるのであって、「楽音信号の先頭から所定期間までの部分」のデータは、そもそも圧縮されるものではなく、入力信号が圧縮されずにそのまま記憶されるものである。

また、甲第1号証に記載されている発明が「楽音信号の先頭から所定期間までの部分をディジタル・データの状態にて記憶」されているものであることは、本願発明と同様、発音指示時におけるデコーディングによる楽音発生の時間遅れを解消するための解決手段そのものである。

したがって、相違点(ヌ)は、本件発明と同様の課題を既に解消している甲第1号証発明において、“所定の圧縮処理”を、“全て”のデータを圧縮することに変更し、結果として、既に解消している課題を未解決の従来技術に戻すということに他ならない。

そして、相違点(ネ)は、既に解消している課題を未解決とする従来技術に対して、新たに「該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭データとして所定の記憶手段に記憶」することを発明の要件とするものである。

そうすると、相違点(ヌ)及び(ネ)は、甲第1号証発明に対して、その基本構成(前提構成)を変更するとともに、新たな解決手段を付加するという相違に他ならず、甲第1号証発明と基本構成と解決手段の双方において異なる本件発明が、当該甲第1号証発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、相違点(ヌ)は、本件発明と同様の課題を既に解消している甲第1号証発明において、その基本構成である楽音信号が記憶されている状態を楽音信号の“全て”が圧縮されているものに変更するとともに、既に解消している課題を未解決とする従来技術に戻すということであるから、相違点(ヌ)のみについていえば、甲第2号証を引用するまでもなく、容易に想考できることといえる。
しかしながら、そのような従来技術において、「該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭データとして所定の記憶手段に記憶」する処理を行うこと(相違点(ネ))が、容易に想考することができたとはいえない。
そのような従来技術には、「該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭データとして所定の記憶手段に記憶」することへの契機が何ら存在しない。

なお、甲第1号証発明は、そもそも、記憶手段に記憶される楽音データの一部が圧縮処理されて記憶手段に記憶されるるのであって、「楽音信号の先頭から所定期間までの部分」のデータは、そもそも圧縮されるものではなく、入力信号が圧縮されずにそのまま記憶されるものであるから、「楽音信号の先頭から所定期間までの部分」のデータを“デコード”するという概念はそもそも存在しない。

また、甲第2号証発明は、確かに「音声圧縮データファイル400に記憶された収録済みのディジタル圧縮音声データを伸張し、その再生を行う音声データ編集装置」であって、音声信号の全てが圧縮されて音声圧縮データファイルとして記憶されているものではあるが、甲第2号証には、そのような手法を甲第1号証発明に適用することが示唆されているわけではない。
甲第2号証発明にも、甲第2号証発明を甲第1号証発明、あるいは甲第1号証に記載の従来技術に適用することの契機は何ら存在しない。
なお、本件発明が甲第2号証発明から容易に発明をすることができたかについては別途検討する。

ところで、請求人は、本件発明と甲第1号証発明とにおいて、発音指示が出た時点におけるデータの状態が両者とも同じである旨を主張している。
しかしながら、その時点のデータの状態が同じであっても、デコードされたデータの存在する(記憶されている)要素(記憶手段)の位置付けが両者で異なるとともに、その状態になる前の状態も相違する。

データの状態が両者とも同じであることは、単に発明を実施した結果が同じ状態になるということであって、そのようなデータの状態にするためのプロセスが本件発明と甲第1号証発明で相違し(相違点(ネ))、しかも本件発明におけるそのプロセスにおける相違点が本件発明の特徴であるのであるから、データの状態が両者とも同じであることをもって、本件発明が甲第1号証発明に基づいて容易に想考できたということにはならない。

また、仮に、甲第1号証発明に甲第2号証に記載の発明の一部を適用、すなわち甲第1号証発明における外部記憶装置に、甲第2号証発明と同様、全ての圧縮データを記憶したとするならば、その場合は、全てのデータが圧縮されているということになる。そうすると、該適用された構成の発明は、発音指示の時点において、先立ってデコードされたデータは存在しないから、甲第2号証に記載の発明を適用した甲第1号証発明は、所期の目的を達成し得ないことになる。

更に、請求人は、「本件発明の出願当時、記憶手段が高価であるため記憶手段の容量をなるべく節約する必要があったものである」と、甲第1号証に記載されていないメモリのデータ容量を小さくするという課題が甲第1号証発明にはあるとして、そのような新たな課題を提起した上で、「甲第1号証のこのような不徹底な解決手段の改良(記憶手段の記憶容量の節約)のために、甲第2号証の発明に遭遇した当業者は、これを適用して、先頭のデータをディジタル・データの状態ではなく、圧縮データとし、甲第2号証記載の発明のように発音指示の発生に先立って予め伸張処理を施して所定の記憶手段に格納する技術を採用するようにしたはずである」と主張する。
しかしながら、甲第1号証には、メモリのデータ容量を小さくするという課題は記載されていない。また、甲第2号証にも、そのような課題は記載されていない。
甲第2号証発明は、メモリのデータ容量を小さくするという課題を解決する発明ではないのであるから、そのような課題が一般的に存在したとしても、それが甲第1号証発明に甲第2号証発明を適用する契機とはなり得ない。

また、仮に適用したとしても、請求人の主張のように、「これを適用して、先頭のデータをディジタル・データの状態ではなく、圧縮データとし、甲第2号証記載の発明のように発音指示の発生に先立って予め伸張処理を施して所定の記憶手段に格納する技術を採用する」のであれば、そのような技術が採用された発明は、全てのデータが圧縮されて記憶されることにはなるが、先だってデコードされていないデータは発音指示によりすぐに発音することはできないのであるから、甲第1号証発明に甲第2号証発明を適用した発明は本件発明の構成とはならない。

したがって、本件発明が、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用することによって、本件発明に容易に想到することができたとする請求人の主張は、これを採用することができない。

なお、請求人は、甲第3号証?甲第6号証の証拠方法を示しているが、これら証拠方法である各刊行物に記載の発明が周知であるとしても、甲第2号証同様、これら証拠方法に記載の発明を甲第1号証発明に適用する契機は何ら存在しない。

(3)本件発明と甲第2号証発明との対比

上記のとおり、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用することによって、本件発明に容易に想到することができたものではないが、甲第2号証に記載された発明に甲第1号証に記載された発明を適用することによって、本件発明に容易に想到することができたものであるかについて検討をする。

甲第2号証発明は前記のとおりである。
甲第2号証発明における「再生コマンドボタンの押下」は本件発明における「発音指示を発生」することに相当(後述するようにその技術的意義は相違するが、装置の動作において等価である。)し、また、甲第2号証発明における「伸張データ格納領域150」は本件発明における「所定の記憶手段」に相当するから、本件発明と甲第2号証発明とを対比すれば、次の点で、一致、あるいは相違する。

[一致点]

(ハ)外部記憶手段に記録したデータを所定の圧縮処理によって圧縮した圧縮データを所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置において、
発音指示を発生する発音指示手段と、
該発音指示に先立って、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを予めデコード処理して元のデータに戻し、先頭デー夕として所定の記憶手段に記憶し、該発音指示の発生に応じて、前記圧縮データの所定の開始位置から所定の部分までを音信号として生成する演算装置を具備することを特徴とする信号処理装置。

なお、演算手段が、
「該発音指示の発生に応じて、前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成する」ことは甲第2号証に記載された内容に基づくものではないので、審判請求人が口頭審理陳述要領書において甲第2号証に記載の発明の一致する点とする内容は、これを採用することができない。
なお、この点については、相違点として後述する。

[相違点]
(ヒ)本件発明が「データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するとともに、前記外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置」であって、すなわち、信号処理装置自体が「データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録する」ものであるのに対し、甲第2号証発明は、「楽音信号の先頭から所定期間までの部分をディジタル・データの状態にて記憶するとともに、前記所定期間以降の部分をディジタル・データに圧縮処理を施したデータの状態にて記憶する記憶手段」を備えているとされているのみで、装置自体がデータを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するものとはされていない点。

(フ)本件発明が「外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する」ものであり、すなわち、外部記憶手段に記録した圧縮デー夕の“全て”について音信号を生成するものとなるよう演算するものであるのに対し、甲第2号証発明は、「予め伸張して伸張データ格納領域150に格納される再生対象音声データは、ひとつのデータを幾つかに分割し、優先順位を付して格納領域150に格納され」ているものであって、格納領域(所定の記憶手段に相当)に記憶されているデータのみを音信号生成するものであって、「音声データを10秒ごとに分割し、それぞれの先頭10秒間に高い優先順位を付けることにより、音声データの先頭10秒間だけの頭だし再生する」ものである点。

なお、当該相違点(フ)があることから、両者には結果的に次の(フ’)?(フ’’’)なる相違点が存在する。

(フ’)上述したように、甲第2号証発明における「再生コマンドボタンの押下」は本件発明における「発音指示を発生」することに相当するものであはあるが、本件発明における「発音指示」は、「外部記憶手段に記録」した圧縮デー夕の“全て”について音信号を生成することを指示するものであり、甲第2号証発明における「再生コマンドボタンの押下」は、「優先順位を付して格納領域150に格納」されているデータの音信号生成を指示するものであって、「発音指示」の意義が、指示する対象において相違する。

(フ’’)本件発明が「予めデコード処理」するのは目的とするデータの先頭から「所定の部分まで」であるのに対し、甲第2号証発明における「先頭10秒分」は、目的とするデータの全体である点。

(フ’’’)本件発明は「該発音指示の発生に応じて、前記所定の記憶手段に記憶された先頭データに基づいて音信号の発生を開始するとともに前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を開始して、前記先頭データに基づく音信号の発生と平行して前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭 データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成する」のに対し、甲第2号証発明にはそれような構成が存在しない点。
すなわち「該発音指示の発生に応じて、・・音信号の発生を開始するとともに前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を開始し」も、「該発音指示の発生に応じて、・・先頭データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成」のいずれも、甲第2号証にはこれに相応する記載が全くされていない。

なお、請求人は、口頭審理陳述書において、
「先頭データに基づいた音信号の発生と所定部分以降の圧縮データのデコード処理について、本件発明では発音指示の発生に応じて両者が同時に開始し並行して行われるものであるのに対し、甲2発明ではこのような構成を有しない点」
ことを【相違点2】として主張しているが、本件発明は「発音指示の発生に応じて両者が同時に開始し並行して行われるもの」とは認定されないため、これを相違点とすることにはならない。

(4)本件発明と甲第2号証発明との進歩性判断

上記(3)における相違点(ヒ)について検討する。

本件発明は、すなわち請求項1においては、「データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するとともに、前記外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置」とされている。
しかしながら、本件特許の明細書には、「外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する」ことは記載されているものの、信号処理装置自体が「データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録する」ことについては何ら記載されていない。
してみれば、本件発明における「データを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するとともに、前記外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置」とは、単に本件発明の前提を述べたものであって、“データは所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録されたものであって、前記外部記憶手段に記録した圧縮デー夕を所定のデコード処理によって元のデータに戻し、該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置”との意味に解することが自然である。
本件発明の要旨はデコード処理にあるのであって、甲第2号証発明との対比において、装置自体がデータを所定の圧縮処理によつて圧縮して外部記憶手段に記録するものであるか否かは実質的な相違点ではない。
請求人の、「信号処理装置において、エンコード機能によりデータを圧縮する機能をデコード機能と共に合わせ持つことは、本件発明の出願前には当業者には公知(甲第1号証)であったものであり、実質的な相違点ではない。」との主張は容認される。

相違点(フ)?(フ’’’)について検討する。

そもそも、本件発明は「該元のデータに基づいて音信号を生成する信号処理装置」であるのに対し、甲第2号証発明は「編集コマンドの入力によって伸長処理されたデータファイルの編集処理を行う」ものであって、その前提が異なるものである。
すなわち、甲第2号証発明は、ボイス(楽曲)のデータを編集するに際し、その編集対象を選択する作業等の効率化を目的とする発明であることは、【要約】に「音声編集装置において、編集コマンド入力時の応答を早め、操作性を向上させる。」と記載されていることからも明らかである。
すなわち、甲第2号証発明も音データの「再生」が可能になっているが、甲第2号証発明は、音声データ編集方法及び編集装置において、音データの「再生」が、「複製、分割、結合等の編集操作」の一部として位置付けられているにすぎない(【0001】【産業上の利用分野】)。
それ故に、再生すべきデータを分割して優先順位を付し、その優先順位にもとづいて順次再生を行うことになる。

一方、本件発明は「音信号を生成する信号処理装置」であって、当然のことながら次々間をおかずに順次発音されることを前提としており、順次発音されるのであるから、元のデータを分割して優先順位を付与する必要もない。

前記(ト)として認定したように、甲第2号証発明はデータを分割して優先順位を付与するものであるから、「前記再生コマンドボタンの押下により前記確定した音声データについて伸張部510において前記伸張データ格納領域150に格納された先頭の10秒分及びこれに続く残部の音声データの伸張による伸張データを読み出して再生する」(請求人が甲第2号証に記載されているとする内容)ためには、先頭の10秒間に続く10秒間の音声データの優先順位を先頭の10秒間の音声データの次位とする操作が必要となる。
本件発明と同様に「前記再生コマンドボタンの押下により前記確定した音声データについて伸張部510において前記伸張データ格納領域150に格納された先頭の10秒分及びこれに続く残部の音声データの伸張による伸張データを読み出して再生する」のであれば、全てのデータについて時系列(発音順)に優先順位を付与する必要がある。そして、全てのデータについてそのような優先順位を付与するのであれば、そもそもデータを分割して優先順位を付与する必要はないことであるから、データを分割して優先順位を付与する甲第2号証発明において、「前記再生コマンドボタンの押下により前記確定した音声データについて伸張部510において前記伸張データ格納領域150に格納された先頭の10秒分及びこれに続く残部の音声データの伸張による伸張データを読み出して再生する」ものとすることを当業者が容易に想到することであるとすることにはならない。

甲第1号証発明が、前記先頭ディジタル・データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データをデコード処理した元のディジタル・データに基づいて音信号を生成するもの(前述)であり、甲第2号証発明に対して、仮に、先頭ディジタル・データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データに基づく楽音を発生することを想起したとしても、甲第2号証発明において、そのような態様で楽音を発生するためには、ディジタル・データの先頭部分に引き続くデータの優先順位を先頭ディジタル・データの優先順位の次位にするという発明に想到するにとどまる。
さらに、そのような発明は、
“該再生コマンドボクン押下に先立って、再生対象の音声アイコンをマウスポインタ等で選択しワークエリア240に移動させて再生対象音声データを確定し、予め伸張して伸張データ格納領域150に格納しておき、
前記再生コマンドボタンの押下により、前記伸張データ格納領域150に格納された伸張データを読み出して再生する音声データ編集装置であって、
予め伸張して伸張データ格納領域150に格納される再生対象音声データは、ひとつのデータを10秒ごとに分割し、分割されたデータについて先頭から順に優先順位を付して格納領域150に格納されるもの”
となるのであって、本件発明とは上記相違点(フ’’)において依然として相違するものである。

そして、上記相違点(フ’’’)について検討するに、
「発音指示の発生に応じて、圧縮されていない所定の開始位置から所定の部分までの先頭データに基づいて音信号の発生を開始するとともに、前記先頭データに基づく音信号の発生と平行して前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理を行い、前記先頭データに基づいた音信号の発生に引き続いて前記所定の部分以降の圧縮データのデコード処理の結果生成された元のデータに基づいて音信号を生成する演算手段」は甲第1号証発明においても明らかでなく、そのような演算手段を用いることの契機は何れにも存在しない。

したがって、本件発明が、甲2号証に記載された発明に甲第1号証に記載された発明を適用することによって、本件発明に容易に想到することができたとすることができない。 なお、請求人が示す甲第3号証?甲第6号証の証拠方法について、これら証拠方法である各刊行物に記載の発明が周知であるとしても、甲第2号証発明同様、これら証拠方法に記載の発明を甲第1号証発明に適用する契機が何ら存在しない。

3.無効理由に対する判断のまとめ

以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証発明に甲第2号証発明を適用することによっても、甲第2号証発明に甲第1号証発明を適用することによっても、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

4.付記:請求人の主張について

口頭審理陳述書に示されている請求人のいくつかの主張についての審判合議体の見解を付記する。

(1)請求人による甲第2号証発明の解釈について

請求人は、口頭審理陳述書によって、次の主張をしている。

「3 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証記載の技術(音声データを10秒ごとに分割し、それぞれの先頭10秒間に高い優先順位を付け、編集コマンドの発生に先立って予め先頭の10秒をデコードしておく技術)によれば、甲第2号証には、音声圧縮データファイル400に記憶された収録済みのディジタル圧縮音声データを伸張し、その再生などを行う音声データ編集装置が記載されている。
この編集(再生)は、まず編集(再生)対象の音声データを選択するため、アイコンウィンドウに表示された音声データに対応する音声アイコンをマウスポインタ等で選択し(ピック操作)、これをワークエリア240に移動させて編集(再生)対象として確定する。その後、編集の種類を選択するために編集コマンドボクン群230中に設けられた再生コマンドボタン(PLAYボタン)を押下することにより、編集(再生)コマンドを入力する(【0020】【0021】。
この編集(再生)コマンドの入力に先立って、編集(再生)の音声データ選択(ピック操作)・確定(ワークェリアヘの移動操作)による対象音声デタの先頭から10秒分のデータについて最も高い優先順位が与えられ、伸張部510により伸張が行われ、先頭データとして伸張音声データ格納領域150に格納されている(【0034】【0024】)。
編集対象の音声データに対する編集(再生)コマンドの入力により、実際 に伸張データが必要となると、伸張データ管理プログラム130に問い合わせ、そのデータが格納されている伸張データ格納領域150のアドレスを得る。これにより伸張データを読み出して編集(再生)が開始され音声出力装置270から出音される。
ところで、1つの音声データが10秒間ごとに分割されているから、編集対象として最優先の順位が付された音声データについて、先頭の10秒間に限らずこれに続く10秒間、さらにこれに続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は他の音声データより確実に高いことも明らかである。先頭から10秒間の頭出し再生の場合は、これに続く分割された10秒間、さらにこれに続く10秒間を引き続き再生する必要はないかもしれない。 しかし、編集装置において先頭の頭出し再生は、その後の編集対象であることを確認するために行われるはずであり、先頭の頭出し再生により編集対象であることを実際に確認したうえで、当該音声データを対象に編集することが音声編集装置においては通常であるというべきである。そのような編集に対応するために、前記のとおり編集対象として最優先の順位が付された音声データについて、先頭の10秒間に限らずこれに続く10秒間、さらにこれに続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は他の音声デー夕より確実に高いことに基づき、優先順位をその順に付与し、これに基づき引き続き伸張処理を行うことも当然に前提されていると解すべきである。
このことは、甲第2号証に次の記載があることから明らかである。
「音声編集画面制御及び音声編集部600は、ある音声伸長データが必要になったとき、伸長データ管理プログラム130に問い合わせ、そのデータが格納されている伸長データ格納領域150のアドレスを得る。もし、まだ伸長されていなければ、伸長データが作成されるまで待つ。しかし、音声編集画面制御及び音声編集部600が実際に伸長データを必要とする以前に、その音声データに対しては高い伸長優先順位が付けられている可能性が高いので、すでに伸長されているかあるいは部分的に伸長済みである場合が多いと考えられ、新たに伸長しなければならない量の期待値は低くなる。よって、編集の際に、データ伸長のために待たされる時間は、全体的に少なくなる。」(5頁左欄36行?49行)

したがって、甲第2号証には、以下の発明が記載されている(以下「甲2発明」という)。
「音声圧縮データファイル400に記憶された収録済みのディジタル圧縮音声データを伸張し、その再生を行う音声データ編集装置において、
コマンドボタン群230中に設けられた再生を実行させるコマンドボタンと、
該再生コマンドボクン押下に先立って、再生対象の音声アイコンをマウスポインタ等で選択しワークエリア240に移動させて再生対象音声データを確定し、当該選択され移動された音声アイコンに対応する音声データの先頭から10秒分は伸張部510によって予め伸張して伸張データ格納領域150に格納され、前記再生コマンドボタンの押下により前記確定した音声データについて伸張部510において前記伸張データ格納領域150に格納された先頭の10秒分及びこれに続く残部の音声データの伸張による伸張データを読み出して再生する音声データ編集装置。 」(口頭陳述要領書第15?17頁)

しかしながら、当該主張の内、「ところで、1つの音声データが10秒間ごとに分割されているから、編集対象として最優先の順位が付された音声データについて、先頭の10秒間に限らずこれに続く10秒間、さらにこれに続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は他の音声データより確実に高いことも明らかである。」とする主張は失当である。
甲第2号証には、先頭の10秒間に続く10秒間の音声データを引き続き編集対象とするとは全く記載されておらず、先頭の10秒間に続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は無いものとはいえないが、「可能性は他の音声データより確実に高い」とはいえず、先頭の10秒間に続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性が他の音声データより確実に高いということは明らかではない。
仮に甲第2号証発明において先頭の10秒間に続く10秒間の音声データを引き続き編集対象とするのであれば、先頭の10秒間に続く10秒間の音声データの優先順位を先頭の10秒間の音声データの次位とする操作を実行すれば良いことが理解できるだけである。

また、続いて、
「先頭から10秒間の頭出し再生の場合は、これに続く分割された10秒間、さらにこれに続く10秒間を引き続き再生する必要はないかもしれない。しかし、編集装置において先頭の頭出し再生は、その後の編集対象であることを確認するために行われるはずであり、先頭の頭出し再生により編集対象であることを実際に確認したうえで、当該音声データを対象に編集することが音声編集装置においては通常であるというべきである。そのような編集に対応するために、前記のとおり編集対象として最優先の順位が付された音声データについて、先頭の10秒間に限らずこれに続く10秒間、さらにこれに続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は他の音声デー夕より確実に高いことに基づき、優先順位をその順に付与し、これに基づき引き続き伸張処理を行うことも当然に前提されていると解すべきである。」
と主張するが、「先頭の頭出し再生により編集対象であることを実際に確認したうえで、当該音声データを対象に編集すること」が音声編集装置においては実行されることがある可能性はあるものの、これが通常であるとはいえず、前記したように「さらにこれに続く10秒間の音声データが引き続き編集対象である可能性は他の音声データより確実に高い」ことは明らかではないから、明らかでない前提に基づく「これに基づき引き続き伸張処理を行うことも当然に前提されていると解すべきである。」との主張には理由がない。

したがって、甲第2号証に記載された発明を請求人の主張のような、
「前記再生コマンドボタンの押下により(前記確定した音声データについて伸張部510において前記伸張データ格納領域150に格納された先頭の10秒分)及びこれに続く残部の音声データの伸張による伸張データを読み出して再生する」ものとは認めることはできない。

(2)請求人の主張する本件発明と甲第2号証発明との相違点2について

請求人は、本件発明と甲第2号証発明との相違点2について、
「先頭データに基づいた音信号の発生と所定部分以降の圧縮データのデコード処理について、本件発明では発音指示の発生に応じて両者が同時に開始し並行して行われるものであるのに対し、」との主張に誤りがあることは前述のとおりである。
したがって、本来検討をする必要のないものではあるが、甲第1号証発明を甲2号証発明に適用することとしての主張として、一応検討をしておく。

甲第1号証発明が、先頭部分以降の圧縮データのデコード処理について、発音指示の発生に応じて並行して行われるものであることは、請求人の主張のとおりである。
しかしながら、そうであるからといって、甲第2号証発明は先頭部分以降の圧縮データについてこれをデコードするものではないのであるから、デコード処理を発音指示の発生に応じて並行して行われるとすることの契機は存在しない。

また、請求人は、甲第2号証発明の編集(再生)コマンド入力時のデータ状態は甲第1号証発明のデータと同一状態であることを主張している。
しかしながら、甲第2号証発明は先頭部分以降の圧縮データについてこれをデコードする必要性が示唆されていないものであるから、データ状態が同じであるからといって、同じ処理が実行されることにはならない。

加えて、請求人は、「甲2発明も甲第1号証に記載された発明も、圧縮音声データの伸張・再生処理に関する技術分野で同一であり、その技術的課題も同一であり、また、前記のような周知技術のもとにおいては、甲2発明に接した当業者は、相違点1及び相違点2の全部を開示する甲第1号証記載の発明を適用するはずであり、」と主張するが、「適用するはず」ということに何らの根拠もない。
なお、甲第2号証発明に甲第1号証記載の発明を適したものがどのような構成となるかについては前述のとおりであり、適用したからといって、本件発明とならないことも前述のとおりである。

(3)「前記合議体の暫定的見解の論拠について」について

請求人は、次のように主張している。
「 しかしながら、甲第1号証記載のように、データの先頭部分をディジタル・データの状態で記憶手段に記憶する場合、これを圧縮データとする場合に比較して記憶容量の大きな記憶手段を用いなければならないことは明らかである。本件発明の出願当時、記憶手段が高価であるため記憶手段の容量をなるべく節約する必要があったものであることは、周知の事実である。本件明細書の段落番号【0002】に従来の技術として記載されている圧縮技術が用いられる最大の理由でもある。そうすると、甲第1号証記載の発明において、圧縮データの先頭部分の伸張処理時間による発音の遅れの問題を解
決するために、先頭部分をディジタル・データの状態にすることにより解決したといっても、記憶容量の大きな記憶手段を用いなければならないという従来からの課題を一部残存させた解決手段であるという意味において不徹底なものであったと言わざるを得ない。
甲第1号証のこのような不徹底な解決手段の改良(記憶手段の記憶容量の節約)のために、甲第2号証の発明に遭遇した当業者は、これを適用して、
先頭のデータをディジタル・データの状態ではなく、圧縮データとし、甲第2号証記載の発明のように発音指示の発生に先立って予め伸張処理を施して所定の記憶手段に格納する技術を採用するようにしたはずであると言うべきである。
前記したとおり、甲第2号証記載の発明において、編集(再生)コマンドが入力された時点(発音指示の発生時点)に着目すれば、甲第2号証のデータの状態は、まさに甲第1号証のデータの状態と同一であるから、これを適用することに何らの躊躇をする必要はないからである。」(口頭審理陳述要領書第23頁)

しかしながら、本件発明の出願当時、記憶手段が高価であるため記憶手段の容量をなるべく節約する必要があったものであることが周知の事実であったとしても、そのような課題に対して、甲第1号証発明は、データ圧縮するという発明により該課題を一応解消しているものであって、甲第1号証において、甲第1号証発明に対して記憶手段の容量を更に節約するという課題があることが示唆されているわけではなく、「課題が一部残存」している、あるいは「不徹底なもの」という認識があったとすることはできない。

また、「甲第2号証記載の発明において、編集(再生)コマンドが入力された時点(発音指示の発生時点)に着目すれば、甲第2号証のデータの状態は、まさに甲第1号証のデータの状態と同一であるから、」という判断は、最初に編集(再生)コマンドが入力された時点(発音指示の発生時点)のみ、かつ、データの先頭部分のデータのみのデータについていえば、そのとおりではあるが、甲第1号証発明は、データの先頭部分のデータは圧縮されているデータではないのであるから、甲第2号証発明に遭遇した当業者が、これを適用して、甲第1号証発明において先頭のデータをディジタル・データの状態ではなく、圧縮データとし、甲第2号証記載の発明のように発音指示の発生に先立って予め伸張処理を施して所定の記憶手段に格納する技術を採用するようにするという論拠は成り立たない。

(4)「非圧縮データ」の解釈について

請求人は、「第2 甲第1号証記載の発明に基づく進歩性欠如」において、
「甲第2号証に記載の発明は、楽音データの全部が圧縮データであるところ、編集(再生)コマンド入力時のデータ状態は甲第1号証のデータ状態と同一である。楽音データの圧縮データの所定部分を先行デコードして非圧縮データとすることと楽音データの一部を非圧縮データとすることとはそれほど根本的な相違があるのだろうか、大いに疑問であると言わざるを得ない。これが基本的に異なるとする合議体の判断は合理的ではない。」
とし、
「ちなみに、披請求人は甲第1号証に記載された本件発明の非圧縮データには、他の圧縮データに比較して圧縮率が低い圧縮データ(例えばADPCM方式によって圧縮された圧縮データ)を包含しているとして、特許権侵害訴訟を請求人に対して提起している(請求人は、このようなADPCM方式によって圧縮された圧縮データは、圧縮率の高低にかかわらず圧縮データであるから、非圧縮データに相当するということはできないと主張している)。このような、披読求人の権利行使の態度からすれば、合議体が基本構造として掲げる事項は、さほど根本的な相違ではないことがわかる。」
と主張している。

しかし、本件明細書には、他の圧縮データについての記載は存在せず、ADPCM方式によって圧縮された圧縮データに関する記載も存在しない。
したがって、本件審理において当該主張を検討する必要性が存在しない。
なお、本件明細書には圧縮データについての特別な定義も記載されていない。
原理的に(技術的に)、ADPCM方式によって圧縮されたデータが圧縮されたデータであることは明らかである。
一方で、MP3のような高圧縮率の圧縮方式と対比する場合に、ADPCM方式によって圧縮されたデータは、圧縮方式の原理が単純なことから、当業者においては非圧縮データとして扱われ、圧縮データとは分類されないことがあることも事実である。
ADPCM方式によって圧縮されたデータを圧縮データとして分類するか、非圧縮データとして分類するかは、技術内容の全体から捉えるべき事項である。
仮に当該主張を検討する必要性があるとしても、本件明細書には、ADPCM方式によって圧縮されたデータを圧縮データとして分類するか、非圧縮データとして分類するかを論ずるだけの記載が存在しない。

したがって、「楽音データの圧縮データを先行デコードして非圧縮することと楽音データの一部を非圧縮データとすることとはそれほど根本的な相違があるのだろうか」という請求人の主張については判断をすることができない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-07-11 
出願番号 特願平6-288474
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 正  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 溝本 安展
千葉 輝久
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2943636号(P2943636)
発明の名称 信号処理装置  
代理人 山田 徹  
代理人 西山 彩乃  
代理人 飯塚 義仁  
代理人 内藤 義三  
代理人 田中 成志  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 遠山 光貴  
代理人 大友 良浩  
代理人 大橋 厚志  
代理人 森 修一郎  
代理人 船橋 茂紀  
代理人 大場 弘行  
代理人 辻本 恵太  

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