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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200719763 | 審決 | 特許 |
平成24行ケ10299審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1298539 |
審判番号 | 不服2013-855 |
総通号数 | 185 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-01-17 |
確定日 | 2015-03-12 |
事件の表示 | 特願2008-552134号「グリコーゲンを含む食品とその用途」拒絶査定不服審判事件〔2008年7月10日国際公開、WO2008/081834〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年12月26日(優先権主張 2006年12月28日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年8月29日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成24年10月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年1月17日に拒絶査定不服審判が請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 その後、平成26年1月30日付けで、請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、平成26年3月14日に回答書が提出された。 第2 本願発明 本願に係る発明は、平成25年1月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。 「酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む低インスリン食品。」(以下「本願発明」という。) 第3 原査定の理由 拒絶査定における拒絶理由3の概要は、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。 刊行物1:国際公開第2006/035848号 第4 刊行物1に記載された事項(なお、下線は当審にて付与した。) (刊1-1)「発明が解決しようとする課題 [0032] 本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、高分岐かつ高分子量のα-グルカン、特にグリコーゲンの製造方法を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0033] 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ブランチングエンザイム活性/低分子化活性の比が500以下であるBEが、グリコーゲンを合成する能力を有することを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。 [0034] 本発明の製造方法は、グリコーゲンの製造方法であって、グリコーゲンを合成する能力を有するBEを基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質は、主にα-1,4-グルコシド結合で連結された重合度4以上のα-グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量(Mn)が180より大きく150,000以下である。」(明細書第10頁第11?22行) (刊1-2)「[0173] (グリコーゲンの用途) 本発明の方法によって製造されたグリコーゲンは、従来のグリコーゲンと同様に、免疫賦活剤、健康食品素材、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途に利用され得る。」(明細書第46頁第5?8行) (刊1-3)「産業上の利用可能性 [0284] 本発明により、天然のグリコーゲンと同様の性質を有する高分岐かつ高分子量のα-グルカンを安価に製造する方法が提供される。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、従来の天然由来のグリコーゲンと同様に幅広い分野で利用され得る。天然のグリコーゲンは、産業上種々の分野で利用されている。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、例えば、免疫賦活剤、健康食品素材などとして用いられ得る。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンはまた、化粧品素材、食品素材(調味料)、その他産業用素材としての用途が期待できる。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンの用途としては、例えば、以下が挙げられる:微生物感染症治療剤、保湿剤(例えば、皮膚の保湿性向上に有効な化粧料、口唇の荒れを防ぐ口唇用化粧料)、複合調味料(例えば、ホタテ貝柱の味を有する複合調味料)、抗腫瘍剤、発酵乳の生成促進剤、コロイド粒子凝集体、毛髪の櫛通り性および毛髪のツヤに影響する毛髪表面の耐摩耗性を改善する物質、細胞賦活剤(表皮細胞賦活剤、線維芽細胞増殖剤など)、ATP産生促進剤、しわなどの皮膚の老化症状改善剤、肌荒れ改善剤、蛍光体粒子表面処理剤、環状四糖(CTS;cyclo{→6)-α-D-glcp-(1→3)-α-D-glcp-(1→6)-α-D-glcp-(1→3)-α-D-glcp-(1→})の合成の際の基質。本発明の方法によって製造されるグリコーゲンは、皮膚外用剤(例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなど)中、眼用溶液中などで用いられ得る。」(明細書第78頁第11行?第79頁第9行) (刊1-4)「請求の範囲 [1] グリコーゲンの製造方法であって、 グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させて、グリコーゲンを生産する工程を包含し、該基質が、主にα-1,4-グルコシド結合で連結された重合度4以上のα-グルカンであり、反応開始前の該溶液中の糖の数平均分子量が180より大きく150,000以下である、方法。」(明細書第80頁第1?6行) 第5 刊行物1に記載された発明 1 刊行物1の摘示(刊1-4)の「ブランチングエンザイム」は酵素であるから、結局、上記グリコーゲンは、「酵素合成グリコーゲン」であるといえる。 2 刊行物1の摘示(刊1-2)及び摘示(刊1-3)の記載によると、刊行物1に記載されたグリコーゲン、すなわち「酵素合成グリコーゲン」は、「健康食品素材」として用いられるものである。 3 ところで、「健康食品素材」は、「健康食品」を生成することを当然に前提とするものであるから、「酵素合成グリコーゲン」を「健康食品素材」として用いた生成物は、「健康食品」である。 4 したがって、刊行物1には、 「酵素合成グリコーゲンを含む健康食品」(以下「引用発明」という。) という発明が記載されているに等しいといえる。 第6 対比・判断 1 対比 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明に係る「酵素合成グリコーゲン(ESG)」は、本願の発明の詳細な説明の、 「【0020】 本発明で使用するグリコーゲンとしては、酵素合成されたグリコーゲン(Enzymatically Synthesized Glycogen; ESG)が好ましい。」との記載に照らし、酵素合成されたグリコーゲンであれば好ましいのであるから、引用発明に係る「酵素合成グリコーゲン」に対応し、これらに相違するところはない。 (2)引用発明の「健康食品」は、本願発明における「食品」の範疇に含まれることは明らかである。 (3)したがって、本願発明と引用発明とは、「酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む食品」で一致し、 ただ、「食品」が、本願発明では「低インスリン(食品)」であるのに対し、引用発明では「低インスリン」との特定がない点で一応相違する。 2 判断 (1)上記「一応の相違点」について検討する。 本願発明に係る「低インスリン」とは、本願の発明の詳細な説明の、 「【0011】 グリコーゲンは生体内では筋肉や肝臓におけるエネルギー貯蔵の意味を有しているが、グリコーゲンを経口或いは非経口(特に経皮)摂取することで、生命および健康の維持に必要なカロリーを摂取しながら、血糖値、インスリン分泌、体脂肪(特に内臓脂肪)、血中総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、中性脂肪などを低下させ、善玉のHDLコレステロールの比率を高めることで、糖尿病、動脈硬化に起因する循環器系疾患を含む生活習慣病を予防し、さらに乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌の絶対数および比率を改善することで腸内フローラを改善することができる。」及び 「【0014】 本発明で使用するグリコーゲンを長期間摂取することにより、食後の血糖値、インスリン分泌の上昇を緩やかに且つ持続的に低下させることができ、低血糖の危険性を伴うことなく、血糖値、インシュリンレベルを低下させることができるので、血糖値が正常であるか高め或いは糖尿病との境界付近の被験者が摂取しても安全である。」との記載に照らし、酵素合成グリコーゲンを摂取することにより、インスリンの分泌を低下させることと解するのが相当である。 (2)したがって、上記相違点に係る本願発明の「低インスリン」は、「インスリンの分泌を低下させる」という機能を特定したものであるが、当該機能が特定されたとしても、それにより「食品」としての構成に差異がもたらされるものではない。よって、「物」の発明の観点から、本願発明は、引用発明と、その構成において相違するところはない。 (3)そして、本願発明が、「低インスリン」という未知の属性の発見に基づく発明であるとしても、「酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む低インスリン食品」も「酵素合成グリコーゲンを含む健康食品」も食品として利用されるものであるので、「酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む低インスリン食品」が食品として新たな用途を提供するものであるとはいえない。したがって、本願発明は引用発明により新規性が否定される。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-01-07 |
結審通知日 | 2015-01-13 |
審決日 | 2015-01-26 |
出願番号 | 特願2008-552134(P2008-552134) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高原 慎太郎 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 佐々木 正章 |
発明の名称 | グリコーゲンを含む食品とその用途 |
代理人 | 斎藤 健治 |
代理人 | 林 雅仁 |
代理人 | 三枝 英二 |
代理人 | 中野 睦子 |