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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1300308
審判番号 不服2014-8682  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-09 
確定日 2015-04-30 
事件の表示 特願2009-106693「エンジンの排気浄化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月11日出願公開、特開2010-255528〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年4月24日の出願であって、平成25年1月21日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月1日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年5月16日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年7月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年2月3日付けで平成25年7月19日付け手続補正についての補正を却下する決定がされるとともに同日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年5月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年5月9日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年5月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成26年5月9日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成25年4月1日に提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし4を、下記(2)に示す請求項1へと補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし4
「【請求項1】
エンジンの排気通路に、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを排気の空燃比がリッチのときに放出するNOx吸蔵還元型触媒を有するエンジンの排気浄化装置において、
エンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部と、
エンジンの燃料量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第2のリッチ化制御部とを備え、
上記NOx吸蔵還元型触媒が吸蔵したNOxを放出させて還元浄化する際に、上記第1のリッチ化制御部の、スロットル開度、排気還流量、及び可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度のいずれかを制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御と、上記第2のリッチ化制御部の、エンジン運転状態に基づく基本量と目標空燃比に収束させるための補正量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御とを同時に開始させ、リッチ化制御開始後の排気中の酸素濃度を上記第2のリッチ化制御部によるリッチ化制御で低下させた後、上記第1のリッチ化制御部によるリッチ化制御を主として排気中の酸素濃度を低下させることを特徴とするエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
上記第1のリッチ化制御部は、上記スロットル開度、上記排気還流量、上記可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度を、リッチ化制御時の目標値となるように制御することを特徴とする請求項1記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
上記第2のリッチ化制御部は、上記基本量がリッチ化制御時の目標噴射量に収束するよう所定の徐変量で徐々に変化させることを特徴とする請求項1又は2記載のエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
上記徐変量を、上記スロットル開度、上記排気還流弁開度、上記可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度の制御による筒内酸素量の応答遅れを考慮して算出することを特徴とする請求項3記載のエンジンの排気浄化装置。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
エンジンの排気通路に、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを排気の空燃比がリッチのときに放出するNOx吸蔵還元型触媒を有するエンジンの排気浄化装置において、
エンジン出力に影響しないタイミングの燃料噴射を行わず、主にエンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部と、
上死点後の多段化された燃料噴射の内、エンジン出力に影響しないタイミングの燃料噴射を制御して排気の空燃比をリッチ化する第2のリッチ化制御部とを備え、
上記NOx吸蔵還元型触媒が吸蔵したNOxを放出させて還元浄化する際に、
上記第1のリッチ化制御部の、スロットル開度、排気還流弁開度、及び可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度のいずれかを制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御と、上記第2のリッチ化制御部の、エンジン運転状態に基づく基本量と目標空燃比に収束させるための補正量とで構成されるリッチ化制御とを同時に開始させ、
上記第1のリッチ化制御部で得られる筒内酸素量に対して、目標空燃比が得られるように予め設定されたエンジン出力に影響しないタイミング以外の燃料噴射の噴射量および噴射時期に、実際の燃料噴射の噴射量および噴射時期を徐変して所定の範囲で収束させた以降で、上記目標空燃比よりリッチ側の空燃比が得られている場合は、上記第1のリッチ化制御部によるリッチ化制御のみを実施することを特徴とするエンジンの排気浄化装置。」
(なお、下線は本件補正箇所を示すために、請求人が付したものである。)

2 本件補正の適否(目的要件について)
本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1に記載されていた「リッチ化制御開始後の排気中の酸素濃度を上記第2のリッチ化制御部によるリッチ化制御で低下させた後、上記第1のリッチ化制御部によるリッチ化制御を主として排気中の酸素濃度を低下させる」という発明特定事項を削除する補正をしており、前記補正は特許請求の範囲の拡張であって特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
さらに、本件補正は、同項第1号の請求項の削除、同項第3号の誤記の訂正あるいは同項第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものでもなく、同項各号に掲げるいずれの事項にも該当するものではない。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成26年5月9日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。
なお、本願発明の発明特定事項である「エンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部」については、「排気の空燃比をリッチ化する」を重複して記載する誤記といえる。したがって、上記発明特定事項は、重複記載を解消した「エンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部」という発明特定事項であると認める。

2 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-322015号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】機関の排気通路中に配置され、排気空燃比がリーンのとき流入する排気中のNOxをトラップし、排気空燃比がリッチのときトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒と、
前記NOxトラップ触媒の所定の再生時期に、吸入空気量を低減することで排気空燃比をリーンからリッチにして前記NOxトラップ触媒を再生する再生制御手段と、
を備えた内燃機関の排気浄化装置において、
機関の筒内に燃料を直接噴射し、主噴射の後に少量の後噴射を行うことを可能とする燃料噴射手段を備え、
前記再生制御手段は、前記所定の再生時期に、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて後噴射を行うことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】前記再生制御手段は、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて前記後噴射の後噴射量を設定することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】前記再生制御手段は、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れが大きいほど前記後噴射量を大きく設定することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

イ 「【0015】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示す内燃機関(ここではディーゼルエンジン)のシステム図である。ディーゼルエンジン1の吸気通路2には、エアフローメータ3、過給機4、吸気絞り弁5が設けられており、これらを通過した吸入空気は、マニホールド部6を経て、各気筒の燃焼室内へ流入する。燃料は、高圧燃料ポンプ(図示せず)により高圧化されてコモンレール7に送られ、各気筒の燃料噴射弁8から燃焼室内へ直接噴射される。燃焼室内に流入した空気と噴射された燃料はここで圧縮着火により燃焼する。尚、上記のようなコモンレール式の燃料噴射手段を用いることで、主噴射(メイン噴射)の後に少量の後噴射(ポスト噴射)を行うことが可能である。
【0016】エンジン1からの排気はマニホールド部9を経て排気通路10へ流出する。ここで排気の一部は、EGRガスとして、EGR通路11によりEGR弁12を介して吸気側へ還流される。排気通路10には、過給機4より下流側に、排気浄化のため、NOxトラップ触媒13を配置してある。
【0017】NOxトラップ触媒13は、排気空燃比がリーンのときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気空燃比がリッチのときにトラップしたNOxを脱離して還元浄化するものである。更に、NOxトラップ触媒13の下流には、排気中のHC、COを浄化可能な酸化触媒14を配置してある。
【0018】コントロールユニット20には、エンジン1の制御のため、吸入空気量Qac検出用のエアフローメータ3の他、エンジン回転数Ne検出用の回転数センサ21、アクセル開度APO検出用のアクセル開度センサ22、エンジン冷却水温Tw検出用の水温センサ23などから、信号が入力されている。コントロールユニット20は、これらの入力信号に基づいて、燃料噴射弁8への燃料噴射量及び噴射時期制御のための燃料噴射指令信号、吸気絞り弁5への開度指令信号、EGR弁12への開度指令信号等を出力する。
【0019】ところで、排気通路10にNOxトラップ触媒13を備える場合、このNOxトラップ触媒13は、排気空燃比がリーンである通常運転中に流入する排気中のNOxをトラップするので、所定の再生時期に排気空燃比をリーンからリッチに切換えることで、トラップしたNOxを脱離浄化させて、再生する必要がある。かかるNOxトラップ触媒13の再生のための制御について説明する。
【0020】・・・
【0021】・・・図3は再生処理制御のフローチャートである。
【0022】S11では、再生フラグFLG=1(すなわち再生時期)か否かを判定し、再生時期の場合に再生処理を行うためS12以降へ進み、再生時期でない場合は本フローを終了する。S12では、排気空燃比リッチ化のため、次式により、リッチ時の目標空気量tQacを演算する。
【0023】
tQac=tLambda×Qfm×14.6
tLambdaはリッチ時の目標空気過剰率、Qfmは現時点での主噴射量である。すなわち、現在の主噴射量Qfmに理論空燃比14.6を乗じて、理論空燃比のときの目標空気量(Qfm×14.6)を求め、これにリッチ時の目標空気過剰率tLambda(<1)を乗じることにより、リッチ時の目標空気量tQacを求める。
【0024】S13では、S12で演算した目標空気量tQacとエアフローメータ3より検出される実際の空気量rQacとの比を取り、空気量比rateQac=rQac/tQacを演算する。この空気量比rateQacは、吸入空気量の実際値(rQac)を目標値(tQac)で除した値であり、これが大きいほど吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れが大きいとみなすことができる。
【0025】S14では、図4に示すようなテーブルを参照し、空気量比rateQacから、後噴射量Qfpostを演算する。すなわち、空気量比rateQacが大きく、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れが大きいほど、後噴射量Qfpostを大きく設定する。
・・・
【0027】再生時間Tが所定の再生時間Trichを経過した場合は、再生終了とみなして、S17からS19へ進む。S19では、目標空気量tQacを通常運転時の目標値に戻し、また後噴射及び主噴射量の増量を終了して、再生処理を終了する。更にS20で再生フラグFLG=0とし、また、S21で再生時間T=0として、本フローを終了する。
【0028】本実施形態によれば、再生のためのリーン→リッチの切換時に、図7に示すような特性が得られ、トルク変動を伴うことなく、目標の排気空燃比を速やかに達成することができる。」(段落【0015】ないし【0028】)

(2)引用文献の記載事項
ア 上記(1)イには、「【0015】・・・主噴射(メイン噴射)の後に少量の後噴射(ポスト噴射)」と記載されており、上記(1)ア及びイの記載及び技術常識から、ポスト噴射が、エンジンの燃料量を制御して排気空燃比をリッチ化するものであることに加え、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御であることは明らかである。

イ 上記アに加え、上記(1)イの記載並びに図7に示された特性図から、吸気絞り弁開度の制御により吸入空気量を低減することと同時にポスト噴射を開始することが分かる。また、前記吸入空気量の低減によるリーンからリッチへの制御は、筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御であることは明らかである。

(3)引用文献に記載された発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「エンジンの排気通路に、排気空燃比がリーンのときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気空燃比がリッチのときにトラップしたNOxを脱離して還元浄化するNOxトラップ触媒を有するエンジンの排気浄化装置において、
吸入空気量を低減することで排気空燃比をリーンからリッチにしてNOxトラップ触媒を再生する再生制御手段と、
エンジンの燃料量を制御して排気空燃比をリッチ化する再生制御手段とを備え、
NOxトラップ触媒がトラップしたNOxを脱離して還元浄化する際に、再生制御手段の、吸気絞り弁開度を制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御と、再生制御手段の、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御とを同時に開始させるエンジンの排気浄化装置。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン」は、その機能又は技術的意義からみて、本願発明におけるに「エンジン」に相当し、以下同様に、「排気通路」は「排気通路」に、「排気空燃比がリーンのときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気空燃比がリッチのときにトラップしたNOxを脱離して還元浄化するNOxトラップ触媒」は「排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを排気の空燃比がリッチのときに放出するNOx吸蔵還元型触媒」に、「排気浄化装置」は「排気浄化装置」に、「吸入空気量を低減することで排気空燃比をリーンからリッチにしてNOxトラップ触媒を再生する再生制御手段」は「エンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部」に、「エンジンの燃料量を制御して排気空燃比をリッチ化する再生制御手段」は「エンジンの燃料量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第2のリッチ化制御部」に、「NOxトラップ触媒がトラップしたNOxを脱離して還元浄化する際」は「NOx吸蔵還元型触媒が吸蔵したNOxを放出させて還元浄化する際」に、「再生制御手段の、吸気絞り弁開度を制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御」は「第1のリッチ化制御部の、スロットル開度、排気還流量、及び可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度のいずれかを制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明における「再生制御手段の、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御」は、本願発明における「第2のリッチ化制御部の、エンジン運転状態に基づく基本量と目標空燃比に収束させるための補正量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御」に、「第2のリッチ化制御部の、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御」という限りにおいて相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「エンジンの排気通路に、排気の空燃比がリーンのときに排気中のNOxを吸蔵し、吸蔵したNOxを排気の空燃比がリッチのときに放出するNOx吸蔵還元型触媒を有するエンジンの排気浄化装置において、
エンジンの空気量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第1のリッチ化制御部と、
エンジンの燃料量を制御して排気の空燃比をリッチ化する第2のリッチ化制御部とを備え、
NOx吸蔵還元型触媒が吸蔵したNOxを放出させて還元浄化する際に、第1のリッチ化制御部の、スロットル開度、排気還流量、及び可変ノズル式ターボ過給機のベーン開度のいずれかを制御して筒内酸素量を低減させることによるリッチ化制御と、第2のリッチ化制御部の、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御とを同時に開始させるエンジンの排気浄化装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
第2のリッチ化制御部の、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御に関して、
本願発明においては、「第2のリッチ化制御部の、エンジン運転状態に基づく基本量と目標空燃比に収束させるための補正量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御」であるのに対し、
引用発明においては、「再生制御手段の、吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量からなり、上死点後の多段化された燃料噴射の内、燃焼に寄与しないタイミングの燃料噴射によるリッチ化制御」である点(以下、「相違点1」という。)。
(相違点2)
2つのリッチ化制御を同時に開始させた後の態様として、
本願発明においては、「リッチ化制御開始後の排気中の酸素濃度を上記第2のリッチ化制御部によるリッチ化制御で低下させた後、上記第1のリッチ化制御部によるリッチ化制御を主として排気中の酸素濃度を低下させる」のに対し、引用発明においては、その構成が不明である点(以下、「相違点2」という。)。

4 判断
(1)相違点1について
引用発明の「吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量」という事項について、技術的に整理すると、次のとおりである。上記2(1)イの段落【0021】ないし【0025】及び図3を参照すると、「吸入空気量の目標値」とは、再生処理におけるリッチ時の目標空気過剰率tLambdaを用いて求められたリッチ時の目標空気量tQacであることが理解できる。そうすると、引用発明における上記事項は、目標空気過剰率に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量といえるものであり、実際値の遅れに応じて設定されるポスト噴射量は、目標の空気過剰率(目標空燃比)に一致すなわち収束させるためのものであることは明らかである。
一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-215096号公報(以下、「参考文献」という。)において、「リッチ化制御部61は、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに基づいて所定のマップ(図示せず)を参照することにより、ポスト噴射の目標燃料噴射量POSTCMDを求める。」(段落【0043】)と記載されるように、ポスト噴射量をエンジン運転状態に基づくものとすることは慣用されているし(以下、「慣用技術」という。)、参考文献の前記記載に続く「該マップにおいて、ポスト噴射の目標燃料噴射量POSTCMDは、主噴射の目標燃料噴射量と併せて所定の目標空燃比を達成するよう規定されている。ここで、目標空燃比は、理論空燃比よりもリッチ側に設定される。」という記載から理解できるように、エンジン運転状態に基づくポスト噴射量という慣用技術を採用する場合においても、主噴射量と併せてリッチ時の目標空燃比を達成するよう構成することが通常である。
他方、引用発明のポスト噴射量に関して上記述べた目標の空気過剰率(目標空燃比)についても、主噴射量を併せるものであることは明らかである(上記2(1)イの段落【0021】ないし【0025】及び図3参照。)。
以上によれば、引用発明において、目標空燃比をリッチとしてNOx触媒が吸蔵したNOxを放出させて還元浄化する際に、主噴射量と併せて制御されるポスト噴射量について、エンジン運転状態に基づくポスト噴射量と目標空燃比に収束させるためのポスト噴射量からなるものとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮というべきものである。
したがって、引用発明及び慣用技術に基づき、相違点1に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用発明の「吸入空気量の目標値に対する実際値の遅れに応じて設定されたポスト噴射量」に関して、引用文献の図7に示された特性図を参照すると、吸入空気量の目標値に対して実際値が遅れている場合にポスト噴射を行い、ポスト噴射量が最小になった後においても吸気絞り弁開度の制御による吸入空気量の低減及び排気空燃比のリッチ化を行っていることが理解できる。
そうすると、引用発明において、リッチ化制御開始後の排気中の酸素濃度をポスト噴射によるリッチ化制御で低下させた後、吸入空気量を低減することによるリッチ化制御を主として排気中の酸素濃度を低下させるべく構成することは、当業者が適宜なし得る設計事項であるといえる。
したがって、引用発明に基づき、相違点2に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

なお、上記「(1)相違点1について」で検討したエンジン運転状態に基づくポスト噴射量という慣用技術を引用発明に採用しても、ポスト噴射後に、吸入空気量を低減することによるリッチ化制御を主とした構成とすることに困難性はないから、相違点1及び相違点2を1つの相違点として検討しても、当該相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び慣用技術に基づき、当業者が容易に想到し得るものである。

(3)作用効果等について
本願発明は、全体として検討しても、引用発明及び慣用技術から、当業者が予測することができる以上の格別顕著な作用効果を奏するものではない。

5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-26 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2009-106693(P2009-106693)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星名 真幸  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 藤原 直欣
槙原 進
発明の名称 エンジンの排気浄化装置  
代理人 篠浦 治  
代理人 伊藤 進  
代理人 長谷川 靖  

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