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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02G
管理番号 1300389
審判番号 不服2014-7864  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-28 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2012-225093「配線ボックス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月14日出願公開、特開2013- 34376〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
この出願は、平成19年6月27日にした出願(以下、「原出願」という。)の一部を平成24年10月10日に新たな出願としたものであって、平成25年12月16日に拒絶理由が通知され(発送日は同年12月24日)、平成26年1月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月25日付けで拒絶査定が通知され(発送日は同年3月4日)、これに対し、同年4月28日に拒絶査定不服審判請求がされたものであって、当審から同年12月10日に拒絶理由が通知され(発送日は同年12月16日)、平成27年1月28日に意見書が提出されたものである。
そして本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は平成26年1月23日に提出された手続補正書により補正された本願明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された次のとおりのものである。

「 防火性能を有しない遮音性材料により一面に開口部を有する有底箱状に形成されたボックスカバーと、建築物の壁裏に設置されるとともに、底壁及び該底壁の周縁に立設された周壁を備え該周壁によって囲み形成されたボックス開口部を有する箱状のボックスとからなり、
前記ボックスカバーには、前記建築物の壁裏に設置された造営材に固定される固定部と、前記開口部からボックスを収容可能とする大きさに形成された収容部とが設けられ、該収容部が前記ボックスの外形形状と対応する大きさに形成され、且つ、前記ボックスカバーが、前記ボックス開口部を開口させつつボックスの外面全体を覆って該ボックスに一体化されてなり、該ボックスカバーの前記開口部の周縁が壁裏面に圧接するように取り付けられることを特徴とする配線ボックス。」

第2 当審における拒絶の理由について
(1)当審から平成26年12月10日に通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1?4に係る発明は、その原出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

(2)引用文献と記載事項
原出願日前に頒布された刊行物である特開2003-41683号公報(以下、「引用文献1」という。)は、以下の事項が記載されている。(下線は参考のために当審が付したものである。)
(ア)「【0006】
【課題を解決するための手段】 この目的を達成するため本発明は、耐火ボードで構成された中空壁内に配線ボックスが設置され、前記耐火ボードの配線ボックス前面開口部に対応する位置に開口部が形成されている箇所において、前記配線ボックスの外面、内面又は内外両面を、遮音性を有する耐火性材料で覆ったことを特徴とするものである。
【0007】 配線ボックスは穴やスリットが形成されているため、それ自体は防火性能も遮音性能も低いが、上記のような構成にすると、配線ボックス設置箇所の防火性能だけでなく、遮音性能も向上させることができる。遮音性を有する耐火性材料は、配線ボックスの外面又は内面に張り付けられるシートの形態であることが好ましいが、配線ボックスの外面又は内面に塗布された塗料の形態、配線ボックスの外側又は内側に装着できるように予め成形された箱の形態などであってもよい。
【0008】 本発明の遮音・防火構造においては、配線ボックスの前面と耐火ボードの開口部の周りの内面との間の隙間を塞いでおくことが好ましい。これは次のような理由による。
【0009】 中空壁内に配線ボックスを設置するときは一般に、耐火ボードを張り付ける前に所定の位置に配線ボックスを固定し、その後、耐火ボードを張り付けてから、耐火ボードの配線ボックス前面開口部に対応する位置に開口部を形成するという手順がとられる。つまり配線ボックスと耐火ボードは別々に支持部材に取り付けられるため、配線ボックスの前面と耐火ボードの内面との間には若干の隙間ができるのが普通である。この隙間を塞いでおくことにより、防火性能、遮音性能をより向上させることができる。前記の隙間を塞ぐには、耐火性材料で塞ぐこともできるし、配線ボックスの前面を耐火ボードの開口部の周りの内面に接触させる(配線ボックスの位置決めを正確にする)ことで塞いでもよい。
【0010】 本発明において使用する遮音性を有する耐火性材料は、遮音性能を高めるため、ある程度比重の大きいものであることが好ましく、具体的には比重が1.0?4.0の範囲にあることが好ましい。耐火性材料の比重は、耐火性材料に金属粉(タングステン粉等)や各種無機充填材(炭酸カルシウム、金属水和物、タルク等)を加えることにより調整することができる。また耐火性材料の厚さは遮音・防火性能を考慮して設定される。耐火性材料としては、低倍率の発泡体を使用することもできるが、その場合は厚さを厚くすればよい。」
(イ)「【0017】 また本発明に係る遮音・防火処理方法は、好ましくは、配線ボックスの外面、内面又は内外両面をシート状耐熱シール材で覆うと共に、このシート状耐熱シール材の前端縁を配線ボックスの前端縁より前方に張り出させ、この状態で配線ボックスを中空壁の内部となる所定の位置に設置し、その後、耐火ボードを張り付けて中空壁を構成するときに、耐火ボードで前記シート状耐熱シール材の前端縁を押圧変形させることにより、シート状耐熱シール材の前端縁を耐火ボードの内面に接触させ、かつ耐火ボードを張り付けた後又は張り付ける前に耐火ボードの配線ボックス前面開口部に対応する位置に開口部を形成することを特徴とするものである。」
(ウ)「【0021】 図1(A)、(B)は本発明の一実施形態を示す。図において、10は軽量鉄骨12よりなる支柱の両面に石膏ボード等の耐火ボード14を張り付けて構成された中空壁、16は中空壁10の内部に設置された金属製配線ボックス(アウトレットボックス等)、18は耐火ボード14の配線ボックス16に対応する位置に形成された開口部、20は開口部18を外側から塞ぐように取り付けられたコンセント、22は中空壁10内に配管された自己消火性樹脂よりなる電線管、24は電線管22の端部を配線ボックス16に接続するコネクタ、26は電線管22内に配線されて端部が配線ボックス16内に引き出された電線である。電線26の端部はコンセント24に接続されている。
【0022】 配線ボックス16は、その外面(奥壁と周壁の外面)をシート状耐熱シール材28で覆われた状態で、支持金具30にボルトナット32により固定されている。支持金具30は配線ボックス16が所定の位置に設置されるように軽量鉄骨12に取り付けられている。シート状耐熱シール材28の前端縁は開口部18の周りで耐火ボード14の内面に接触している。・・・
(エ)「【0036】 以上の実施形態では、配線ボックスの内面又は外面をシート状耐熱シール材で覆う場合を説明したが、遮音性を有する耐火性材料としてはシート状耐熱シール材以外のものを使用することもできる。例えば図8に示すように、射出成形等により遮音性を有する耐火性材料で箱42を形成し、この箱42を配線ボックス16の外側に被せた状態で、図1と同様に中空壁内に設置するようにしてもよい。また配線ボックスを、遮音性を有する耐火性材料の溶液(塗料)に浸漬し、乾燥させて、配線ボックスの内外両面を遮音性を有する耐火性材料で覆い、これを図1と同様に中空壁内に設置してもよい。」

(3)引用発明の認定
上記した(ア)?(エ)に記載された事項を整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「耐火ボードで構成された中空壁内に配線ボックスが設置され、
前記配線ボックスの外面を、遮音性を有する耐熱シール材で覆い、前記耐火ボードの配線ボックス前面開口部に対応する位置に開口部が形成されている箇所において、耐火ボードで前記耐熱シール材の前端縁を押圧変形させることにより、耐熱シール材の前端縁を耐火ボードの内面に接触させ、
耐熱シール材は、射出成形等により遮音性を有する耐火性材料で箱を形成し配線ボックスの外側に被せた状態で中空壁内に設置し、
配線ボックスは、耐熱シール材で覆われた状態で支持金具により固定され軽量鉄骨に取り付けられた、配線ボックス。」

(4)対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「耐火ボードで構成された中空壁」、「配線ボックス」、「開口部」、「支持金具」及び「軽量鉄骨」は、それぞれ、本願発明1の「建築物の壁」、「配線ボックス」、「開口部」、「固定部」及び「造営材」に相当する。
そして、引用発明の「耐熱シール材」を「射出成形等により遮音性を有する耐火性材料で箱を形成し配線ボックスの外側に被せた状態」にしたことは、本願発明1の「遮音性材料により一面に開口部を有する有底箱状に形成されたボックスカバー」に相当し、「ボックスカバーが、前記ボックス開口部を開口させつつボックスの外面全体を覆って該ボックスに一体化されてな」ることに相当する。
また、引用発明の「配線ボックスの外面を、遮音性を有する耐熱シール材で覆い、前記耐火ボードの配線ボックス前面開口部に対応する位置に開口部が形成されている箇所において」は、本願発明1の「建築物の壁裏に設置されるとともに、底壁及び該底壁の周縁に立設された周壁を備え該周壁によって囲み形成されたボックス開口部を有する箱状のボックス」に相当する。
次に、引用発明の「耐火ボードで前記耐熱シール材の前端縁を押圧変形させることにより、耐熱シール材の前端縁を耐火ボードの内面に接触させ」ることは、本願発明1の「前記開口部からボックスを収容可能とする大きさに形成された収容部とが設けられ、該収容部が前記ボックスの外形形状と対応する大きさに形成され、且つ、ボックスカバーが、前記ボックス開口部を開口させつつボックスの外面全体を覆って該ボックスに一体化されてなり、該ボックスカバーの前記開口部の周縁が壁裏面に圧接するように取り付けられること」に相当する。
さらに、引用発明の「配線ボックスは、耐熱シール材で覆われた状態で支持金具により固定され軽量鉄骨に取り付けられた」ことからみて「支持金具」は、本願発明1の「ボックスカバーには、前記建築物の壁裏に設置された造営材に固定される固定部」に相当することも明らかである。
そうすると、両者は、
「遮音性材料により一面に開口部を有する有底箱状に形成されたボックスカバーと、建築物の壁裏に設置されるとともに、底壁及び該底壁の周縁に立設された周壁を備え該周壁によって囲み形成されたボックス開口部を有する箱状のボックスとからなり、
前記ボックスカバーには、前記建築物の壁裏に設置された造営材に固定される固定部と、前記開口部からボックスを収容可能とする大きさに形成された収容部とが設けられ、該収容部が前記ボックスの外形形状と対応する大きさに形成され、且つ、前記ボックスカバーが、前記ボックス開口部を開口させつつボックスの外面全体を覆って該ボックスに一体化されてなり、該ボックスカバーの前記開口部の周縁が壁裏面に圧接するように取り付けられることを特徴とする配線ボックス。」
で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:遮音性材料に関し、本願発明1は、「防火性能を有しない」ものであるのに対し、引用発明は、「耐火性材料」である点

そこで、相違点aについて検討する。
本願発明1が「防火性能を有しない」とした技術的意義は、本願明細書の「【0006】
ところが、特許文献1に開示の遮音性を向上させた構造においては、遮音性を向上させる機能に加え防火性能も備えるため、シート状耐熱シール材が高価であるという問題があった。・・」というものであって、専ら経済的理由によるものの、技術的な理由は見当たらない。
そして、例えば原査定の拒絶の理由において引用した「住宅や非住宅の建物の壁面に防音、遮音を考慮したスイッチボックスやコンセントを取付けるためのコンセントカバー及びその取付け方法に関する」特開2003-32832号公報には、コンセントカバーの材料として「オレフィンシートに高比重材を充填すること」が記載され、オレフィンシートを構成するポリエチレンやポリプロピレンが耐火性を目的とするものでないことは当業者であれば自明である以上、引用発明において「防火性能を有しない」遮音性材料と特定することは、設置される場所の防火事情に応じて適宜付し得る設計事項と認められる。
また、本願明細書及び図面の記載を検討しても、「耐火性材料」を「防火性を有しない」と設計変更することで、本願発明1により当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

第3 当審の拒絶理由に対する意見書の主張について
請求人は当審の拒絶理由に対して意見書において以下のように主張している。
「審判官殿の『専ら経済的理由によるものの』との認定は、本願明細書第0006段落「しかし、このようなパテ状の耐熱シール材は、配線ボックスの外面を覆った状態で壁内に設置されていると経時とともに硬化し、劣化してしまい、結果として配線ボックスの設置箇所の遮音性が低下してしまう。」を無視したものであり、明らかに誤りです。
引用文献1が本願明細書に挙げた先行技術文献の1つであることからも分かるように、本願発明は、引用発明1の上記技術課題に新たに着目したものである。そして、当該技術課題を解決すべく、本願発明は、「防火性能を有しない遮音性材料」を採用したことにより、経済的な利点はもとより、技術的な側面において、長期に亘って安定的に高い遮音性を維持することを可能としました。これに対し、引用文献1は、経時した耐熱性材料の硬化による遮音性能の低下(材料的特性)の技術課題を開示も示唆もしていません。つまり、引用文献1には、本発明の技術課題を示唆する具体的な証拠が存在しないことから、上記技術課題に着目することは、当業者にとっても容易ではありません。換言すると、引用発明1から本発明への想到を動機付ける証拠が引用文献には存在していないため、引用発明1から本発明に容易想到と判断することは、後知恵の混入によるものと言わざるを得ません。このような事後分析的且つ非論理的な思考は排除されるべきであります。
すなわち、本願発明は、上記構成上の相違点により、引用発明1から予測不可能な顕著な効果を奏するといえます。
他方、引用発明1は、配線ボックス設置箇所を防火性能と遮音性能を兼ね備えた構造にすることを発明の目的としている。つまり、引用発明1では、「遮音性を有する耐火性材料」(すなわち、耐熱パテ材)を採用することが発明の必要条件である。そのため、引用発明1に本願発明の「防火性能を有しない遮音性材料」を適用することにより、引用発明1の技術課題を解決することができなくなります。よって、引用発明1から本願発明に想到するには阻害要因が存在する。
したがって、本願請求項1乃至4に係る発明は進歩性を有していると思料します。」
そこで、当該主張を検討すると、請求人の引用する、本願明細書段落【0006】は、
「 ところが、特許文献1(審決注:当審の拒絶理由の引用文献1である特開2003-41683号公報)に開示の遮音性を向上させた構造においては、遮音性を向上させる機能に加え防火性能も備えるため、シート状耐熱シール材が高価であるという問題があった。また、シート状耐熱シール材は、防火目的のために一般的に使用されるパテ状の耐熱シール材をシート状にしたものである。しかし、このようなパテ状の耐熱シール材は、配線ボックスの外面を覆った状態で壁内に設置されていると経時とともに硬化し、劣化してしまい、結果として配線ボックスの設置箇所の遮音性が低下してしまう。・・・」であり、単に「パテ状の耐熱シール材」の課題を一般的に記載したにすぎず、引用文献1において特許請求の範囲で「パテ状の耐熱シール材」が特定されたわけでもなく、引用文献1の記載事項(エ)「【0036】 以上の実施形態では、配線ボックスの内面又は外面をシート状耐熱シール材で覆う場合を説明したが、遮音性を有する耐火性材料としてはシート状耐熱シール材以外のものを使用することもできる。例えば図8に示すように、射出成形等により遮音性を有する耐火性材料で箱42を形成し、この箱42を配線ボックス16の外側に被せた状態で、図1と同様に中空壁内に設置するようにしてもよい。また配線ボックスを、遮音性を有する耐火性材料の溶液(塗料)に浸漬し、乾燥させて、配線ボックスの内外両面を遮音性を有する耐火性材料で覆い、これを図1と同様に中空壁内に設置してもよい。」を参酌すれば、「パテ状の耐熱シール材」は、耐熱シール材の例示にすぎない記載であることは明らかであって、引用発明1の「必要条件」としては認定していないものである。
そうすると、「耐熱パテ材」を「必要条件」としない引用発明1から本願発明に想到するには阻害要因などなく、経済性という一般的な動機さえあればよく、本願発明1は、引用発明1から予測不可能な顕著な効果を奏すると認めることは到底できない。

第4 むすび
したがって、本願発明1は、原出願前に日本国内において、頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2015-03-04 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2012-225093(P2012-225093)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 毅  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 松本 貢
飯田 清司
発明の名称 配線ボックス  
代理人 特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所  

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