• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1300474
審判番号 不服2013-24517  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-13 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2010-534162「多層ターイオノマーカプセル材層およびそれを含む太陽電池ラミネート」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月22日国際公開、WO2009/064863、平成23年 1月27日国内公表、特表2011-503903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月16日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年6月5日付けで手続補正がなされたものの、同年8月6日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、同年12月13日に請求された拒絶査定不服審判である。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年6月5日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ターイオノマー多層フィルムまたはシートと、1つまたは複数の電子相互接続太陽電池で形成された太陽電池コンポーネントとを含む太陽電池プレラミネーションアセンブリであって、
前記太陽電池コンポーネントは、光源に向いた受光側と、前記光源とは反対の裏側とを有し、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートは、第1の表面副層、第2の表面副層を含み、前記第1と第2の表面副層間に挟まれた1つ以上の内側副層を含んでいてもよく、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートの前記第1の表面副層及び第2の表面副層が、それぞれターイオノマーを含み、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートの任意選択的な内側副層の少なくとも1つが、高融点ポリマーを含み、
前記ターイオノマーが、酸ターポリマーの合計カルボン酸含量を基準として、1つ以上の金属イオンで約5%?約90%中和され、α-オレフィン、酸ターポリマーの総重量を基準として、約5?約15重量%の3?8個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、および約15?約40重量%の4?12個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルから誘導された繰り返し単位を含む酸ターポリマーから誘導され、
前記高融点ポリマーの融点が少なくとも約80℃である、アセンブリ。」

3 引用刊行物
(1)引用刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である2006年7月27日に頒布された米国特許出願公開第2006/0165929号明細書(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(日本語訳として引用例1のファミリーである特表2008-522877号公報の記載事項を採用する。また、下線は当審で付した。)
a 明細書の記載
「[0003]本発明は、一般に、包装に有用な積層フィルム、特に、光電池モジュール内の封止材として有用な積層フィルムに関する。本発明は、詳細には、エチレン酸コポリマーのアイオノマーを含む透明な包装フィルムに関する。」
「[0029]一実施形態においては、本発明は、(a)アイオノマーポリマーを含む外層と、(b)外層の間に置かれ、非アイオノマーポリマーを含むコア層ユニットとを有する積層物品である。本発明の積層体では、積層体の測定された光学および/または寸法の安定性を、積層体の個々の層に対する上記特性のいずれかまたはその両方の期待値を超えて向上させることができる。」
「[0032]本発明の外層は、本発明の積層体の構造層であり、これらの構造層は、上記コア層ユニットの少なくとも1つの面上のコア層ユニットと直接接触するように位置付けられている。本発明の積層体の外層は、本発明の積層体の良好な光学特性に寄与する。本発明の積層体の外層は、アイオノマーポリマー(アイオノマー)を含んでいる。外層はそれぞれ、互いに同一のアイオノマー組成を含むことができ、または互いに異なったアイオノマー組成であってもよい。本発明の実施に有用なアイオノマーは、エチレンとエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸との共重合によって得られたコポリマーである。好ましくは、不飽和カルボン酸は、アクリル酸またはメタアクリル酸のいずれかである。酸性コポリマーは、好ましくは、コポリマーの総重量を基準にして、約8重量%?約25重量%の酸を含んでいる。本発明の実施において光学層として有用なアイオノマーは、好ましくは約11重量%?約25重量%の酸、より好ましくは約14重量%?約19重量%の酸、最も好ましくは約15重量%?約19重量%の酸を含んでいる。
[0033]本明細書で使用するのに好適なアイオノマーは、エチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステルである第3のコモノマー成分を含むことができる。エステルのアルキル置換基は、好ましくは、C_(1)?C_(12)のアルコールから得られることができる。しかし、本明細書で記載した光学特性を与えることが可能な任意の不飽和エステルが、本発明の実施で使用するのに適し得る。第3のコモノマーを含む従来のアイオノマーは、例えば、イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー(E.I.du Pont de Nemours and Company)から市販されており、光学的および物理的特性が本発明の用途に適切である限り、本発明の実施で使用するのに適し得る。
[0034]本発明のコア層ユニットは、本発明の積層体内の構造成分であって、この構造成分は、少なくとも1つの外層の少なくとも1つの面上の少なくとも1つの外層と直接接触している。本発明のコア層ユニットは、外層だけでは与えられない特性をこの積層体に与える。例えば、コア層は、より高い弾性率またはより低い弾性率、バリア特性、強度、吸光度、浸透率、または包装もしくは他の物品に望ましい他の特性を与えることができる。
[0035]コア層ユニットは、それ自体が単一のポリマー層、または積層ポリマー構造、またはフィルムおよび/またはシートの多層堆積層であり得る。本発明のコア層ユニットに含まれるまたはコア層ユニットで用いられるいかなる層も、本明細書の目的のために、コア層と見なされる。本明細書での使用に適したコア層は、この積層体に望ましい特性を付与する任意のポリマーを含むことができる。例えば、このコア層は、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル、ポリアセタール、(エチレン酸ターポリマーまたはより高次のコポリマーを含み得る)エチレン酸コポリマー、(ターポリマーまたはより高次のコポリマーを含み得る)エチレンアクリル酸コポリマーまたは好適な物理的特性を有し、アイオノマーに積層されて、直接または連結もしくは接着層を介して、多層フィルムを生ずることができる他のポリマー層であり得る。本発明の積層体には、2つ以上のコア層ユニットを含むことができる。」
「[0049]好適な実施形態においては、本発明は、少なくとも1つの太陽電池を備えた太陽電池モジュールであり、太陽電池の少なくとも1つの面に隣接して位置付けられた透明な封止材料を含む太陽電池モジュールである。封止材料は、積層材料を含み、積層材料は、
[0050](i)第1のアイオノマーを含む第1の外層と、
[0051](ii)コア層ユニットであって、コア層ユニットの第1の面が、第1の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた少なくとも1つのポリマー層を含むコア層ユニットと、
[0052](iii)第2の外層であって、コア層ユニットの第2の面が、第2の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた第2のアイオノマーを含む第2の外層と、をさらに含み、少なくとも1つのコア層ポリマーは非アイオノマーポリマーであり、第1のアイオノマー層と、第2のアイオノマー層と、コア層ユニットと、積層体のそれぞれに対する、同じ波長での個々の光透過率が、それぞれ測定可能であり、積層体の測定透過率は、積層体における各厚さで加重した、積層されていない状態での3つの個々の層の透過率から算出された透過率の期待値よりも大きい。
[0053]本発明のモジュールは、封止材料の前面に隣接して配置された光透過材料で形成された前方支持層と、封止材料の背面に隣接して配置されたバックスキン層とをさらに含んでいる。
[0054]
太陽電池モジュールは、少なくとも1つの太陽電池をさらに備えることができ、太陽電池は次に相互接続された複数の太陽電池を備えている。」

b 引用例1記載の発明
上記aの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「太陽電池の少なくとも1つの面に隣接して位置付けられた透明な封止材料を含む太陽電池モジュールであって、
封止材料は、積層材料を含み、積層材料は、
(i)第1の外層と、
(ii)コア層ユニットであって、コア層ユニットの第1の面が、第1の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた少なくとも1つのコア層ユニットと、
(iii)第2の外層であって、コア層ユニットの第2の面が、第2の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた第2の外層とを含み、
第1の外層及び第2の外層は、それぞれ互いに同一のアイオノマー組成を含み、
アイオノマーは、エチレンとエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸とエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステルとの共重合によって得られたコポリマーであり、
コア層ユニットは、ポリエステルである、
太陽電池モジュール。」

(2)引用刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である2006年9月14日に頒布された国際公開第2006/095762号(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
a 明細書の記載
「[0001]本発明は、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の封止材及びそれを用いた太陽電池モジュールに関する。さらに詳しくは、太陽電池モジュールの形成が容易で、透明性、耐熱性、柔軟性、接着性等に優れた太陽電池封止材に関する。」
「[0019]本発明はまた、前記太陽電池封止材を、接着・耐熱層(A)側を保護材に、また緩衝層(B)を太陽電池素子に、それぞれ当接するようにして太陽電池素子を封止してなる太陽電池モジュールを提供する。この際、接着・耐熱層(A)と保護材の接着強度が、3N/10mm以上である太陽電池モジュールはその好ましい態様である。
発明の効果
[0020]本発明の封止材は、透明性、耐熱性、柔軟性、接着性などに優れており、薄肉の太陽電池素子に対しても充分使用することができる。また太陽電池モジュールの使用時に温度上昇しても、封止材が流動したり変形したりするトラブルを回避することが可能であり、太陽電池の外観を損なうことも無い。さらに有機過酸化物の使用を省略する処方においては、太陽電池モジュール製造工程における生産性を著しく高めることが可能であり、太陽電池モジュールの製造コストを大幅に低減させることが可能である。また本発明の封止材を用いた太陽電池モジュールを使用し終えた後や部材が故障して交換を行うときに、太陽電池素子をモジュールから容易に分離することができ、再使用に供することも可能である。
発明を実施するための最良の形態
[0021]本発明の太陽電池封止材は、接着・耐熱層(A)と緩衝層(B)とからなり、接着・耐熱層(A)と緩衝層(B)の曲げ弾性率の差が少なくとも30MPa以上ある積層構造を有している。
[0022][接着・耐熱層(A)]
本発明の封止材における接着・耐熱層(A)は、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂のような保護材に良好な接着性を示すと共に、高温で容易に変形しない材料で構成されるものであり、耐熱性を考慮すると、融点(JIS K7121-1987に準拠)75℃以上、150℃の貯蔵弾性率が10^(3)Pa以上のオレフィン重合体(a)を用いるのが好ましい。とくに太陽電池モジュール作製における生産性を考慮すると、前者のオレフィン重合体(a)を用いるのが好ましい。接着・耐熱層(A)を構成する材料は0.5mm厚みにおけるHAZEが10%以下のものが好ましい。」
「[0029][緩衝層(B)]
緩衝層(B)を構成する材料は、柔軟性、透明性に優れたものが好ましく、曲げ剛性率が100MPa以下のオレフィン重合体(d)が好適である。
[0030]オレフィン重合体(d)の例としては、下記要件(イ)?(ハ)を満たす非晶性α-オレフィン重合体(e)50?100重量部と結晶性α-オレフィン重合体(f)と50?0重量部(両者の合計で100重量部)を含有する、融点(又は軟化点)が75℃以上、150℃の貯蔵弾性率が10^(3)Pa以上の樹脂組成物(g)である。
(イ)炭素数3?20のα-オレフィンに基づく重合単位が20モル%以上であること。
(ロ)示差走査熱量計に基づく融解ピークが実質的に観測されないこと。
(ハ)Mw/Mnが5以下であること。」
「[0041]接着・耐熱層層(B)を構成するオレフィン重合体として、架橋剤を含むオレフィン重合体を用いることができる。架橋剤を含むオレフィン重合体の好ましい例として、架橋剤を含むエチレン共重合体組成物(h)を挙げることができる。エチレン共重合体組成物(h)に使用されるエチレン共重合体(h-1)としては、架橋したものの150℃の貯蔵弾性率が10^(3)Pa以上となるものが好ましく、また透明性、接着性等を考慮すると、エチレンと極性モノマーの共重合体(i)を使用するのが好ましい。該共重合体(i)の極性モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸、これら不飽和カルボン酸の塩、一酸化炭素、二酸化硫黄などの一種又は二種以上などを例示することができる。不飽和カルボン酸の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの多価金属の塩などを挙げることができる。
[0042]好適なエチレン・極性モノマー共重合体(i)としてより具体的には、エチレン・酢酸ビニル共重合体のようなエチレン・ビニルエステル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・アクリル酸n-ブチル共重合体のようなエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル・メタクリル酸共重合体のようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体及びそのアイオノマーなどを代表例として例示することができる。とくに好適なエチレン・極性モノマー共重合体(i)はエチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体である。
[0043]エチレン・極性モノマー共重合体における好適な極性モノマー単位含有量は、その種類によっても若干異なる。例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体やエチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の場合には、耐熱性、接着性、柔軟性、成形性、耐久性、絶縁性などを考慮すると、酢酸ビニル又は不飽和カルボン酸エステルの単位含有量が10?40重量%、好ましくは15?30重量%のものが好ましく、またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーにおいては、エチレン単位含有量が65?95重量%、好ましくは70?90重量%、不飽和カルボン酸単位含有量が2?20重量%、好ましくは5?20重量%、任意共重合成分である酢酸ビニルや不飽和カルボン酸エステルなどの単位含有量が0?40重量%、好ましくは0?30重量%であって、中和度が90%以下、好ましくは80%以下のものが好ましい。」

4 対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「アイオノマー」は、「エチレンとエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸とエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステルとの共重合によって得られたコポリマーであ」って、3種の成分を含むものであるから、本願発明の「ターイオノマー」に相当する。
そうすると、引用発明の「積層材料」は本願発明の「ターイオノマー多層フィルムまたはシート」に相当する。
(2)引用発明の「太陽電池」は、本願発明の「太陽電池コンポーネント」に相当する。
また、引用発明の「太陽電池モジュール」は、本願発明の「太陽電池プレラミネーションアセンブリ」に相当する構成を含むものである。
そして、引用発明の「封止材料は、積層材料を含」むものであるから、引用発明の「太陽電池の少なくとも1つの面に隣接して位置付けられた透明な封止材料を含む太陽電池モジュール」は、本願発明の「ターイオノマー多層フィルムまたはシートと、1つまたは複数の電子相互接続太陽電池で形成された太陽電池コンポーネントとを含む太陽電池プレラミネーションアセンブリ」に相当する構成を含むものである。
(3)技術常識からみて、引用発明の「太陽電池」は、本願発明の「光源に向いた受光側と、前記光源とは反対の裏側とを有」することは明らかである。
(4)引用発明の「第1の外層」、「第2の外層」、「コア層ユニット」は、本願発明の「第1の表面副層」、「第2の表面副層」、「内側副層」にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明の「積層材料は、(i)第1の外層と、(ii)コア層ユニットであって、コア層ユニットの第1の面が、第1の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた少なくとも1つのコア層ユニットと、(iii)第2の外層であって、コア層ユニットの第2の面が、第2の外層の少なくとも1つの面と直接接触するように位置付けられた第2の外層とを含」む構成は、本願発明の「ターイオノマー多層フィルムまたはシートは、第1の表面副層、第2の表面副層を含み、前記第1と第2の表面副層間に挟まれた1つ以上の内側副層を含んでいてもよ」い構成に相当する。
(5)引用発明の「アイオノマー」は、「エチレンとエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸とエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステルとの共重合によって得られたコポリマーであ」るものの、通常、アイオノマーは、酸ポリマーを金属イオンで中和することによって得られるものであるから、引用発明の「アイオノマー」は、本願発明の「1つ以上の金属イオンで」「中和され」、「酸ターポリマーから誘導され」るものに相当する。
そうすると、引用発明の「第1の外層及び第2の外層は、それぞれ互いに同一のアイオノマー組成を含み、アイオノマーは、エチレンとエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸とエチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステルとの共重合によって得られたコポリマー」である構成と、本願発明の「ターイオノマー多層フィルムまたはシートの前記第1の表面副層及び第2の表面副層が、それぞれターイオノマーを含み、」「前記ターイオノマーが、酸ターポリマーの合計カルボン酸含量を基準として、1つ以上の金属イオンで約5%?約90%中和され、α-オレフィン、酸ターポリマーの総重量を基準として、約5?約15重量%の3?8個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、および約15?約40重量%の4?12個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルから誘導された繰り返し単位を含む酸ターポリマーから誘導され」る構成とは、「ターイオノマー多層フィルムまたはシートの前記第1の表面副層及び第2の表面副層が、それぞれターイオノマーを含み、前記ターイオノマーが、1つ以上の金属イオンで中和され、α-オレフィン、3?8個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、および4?12個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルから誘導された繰り返し単位を含む酸ターポリマーから誘導され」る構成で共通する。
(6)ポリエステルは、一般的に融点が200℃以上であることが知られているから、引用発明の「コア層ユニットは、ポリエステルである」構成は、本願発明の「ターイオノマー多層フィルムまたはシートの任意選択的な内側副層の少なくとも1つが、高融点ポリマーを含み、」「前記高融点ポリマーの融点が少なくとも約80℃である」構成に相当する。

上記(1)乃至(6)から、本願発明と引用発明は、
「ターイオノマー多層フィルムまたはシートと、1つまたは複数の電子相互接続太陽電池で形成された太陽電池コンポーネントとを含む太陽電池プレラミネーションアセンブリであって、
前記太陽電池コンポーネントは、光源に向いた受光側と、前記光源とは反対の裏側とを有し、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートは、第1の表面副層、第2の表面副層を含み、前記第1と第2の表面副層間に挟まれた1つ以上の内側副層を含んでいてもよく、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートの前記第1の表面副層及び第2の表面副層が、それぞれターイオノマーを含み、
前記ターイオノマー多層フィルムまたはシートの任意選択的な内側副層の少なくとも1つが、高融点ポリマーを含み、
前記ターイオノマーが、1つ以上の金属イオンで中和され、α-オレフィン、3?8個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、および4?12個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステルから誘導された繰り返し単位を含む酸ターポリマーから誘導され、
前記高融点ポリマーの融点が少なくとも約80℃である、アセンブリ。」
で一致し、以下a及びbの点で相違する。

(相違点)
a 1つ以上の金属イオンで中和されるターイオノマーが、酸ターポリマーの合計カルボン酸含量を基準として、本願発明は、約5%?約90%であるのに対し、引用発明は、どの程度中和されるか不明である点。
b 酸ターポリマーの「3?8個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸」及び「4?12個の炭素を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル」がそれぞれ、「酸ターポリマーの総重量を基準として」、本願発明は、「約5?約15重量%」及び「約15?約40重量%」であるのに対し、引用発明は、これらの含有量が不明である点。

5 当審の判断
以下、上記a及びbの相違点について検討する。
(aの相違点について)
太陽電池の封止材として用いる、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(本願発明の「ターイオノマー」、引用発明の「アイオノマー」に相当。)の中和度を90%以下とすることが、引用文献2([0043])に記載されている。
そして、イオノマーの中和度は当業者が適宜設定できるものであり、本願発明のターイオノマーの中和度に格別の意義が認められないことも考慮すれば、引用発明のアイオノマーの中和度を約5%?約90%として、本願発明の上記aの相違点に係る発明特定事項を構成することは、当業者が容易になし得たことである。
(bの相違点について)
太陽電池の封止材として用いる、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体のアイオノマー(本願発明の「ターイオノマー」、引用発明の「アイオノマー」に相当。)において、耐熱性、接着性、柔軟性、成形性、耐久性、絶縁性などを考慮して、不飽和カルボン酸単位含有量が5?20重量%、不飽和カルボン酸エステルの単位含有量が0?30重量%とすることが引用文献2([0043])に記載されている。
そして、「耐熱性、接着性、柔軟性、成形性、耐久性、絶縁性」はいずれも太陽電池の封止材における周知の課題であって、引用発明の封止材料において求められる課題であるといえるから、これらの周知の課題を考慮しながら、引用発明の封止材料のアイオノマーを形成する共重合体における「エチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸」及び「エチレン性不飽和C_(3)?C_(8)カルボン酸のエステル」の含有量を設定することは、当業者が適宜なし得たことであって、これらの値をそれぞれ約5?約15重量%及び約15?約40重量%とすることに格別の困難性はない。
よって、本願発明の上記bの相違点に係る発明特定事項を構成することは、当業者が容易になし得たことである。

上記a及びbの相違点については上記のとおりであり、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2記載の事項及び周知の事項から当業者が予測できる範囲内のものと認められる。
よって、本願発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2記載の事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-26 
結審通知日 2014-12-01 
審決日 2014-12-12 
出願番号 特願2010-534162(P2010-534162)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 多層ターイオノマーカプセル材層およびそれを含む太陽電池ラミネート  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 辻居 幸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ