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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1300894
審判番号 不服2014-6197  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-04 
確定日 2015-05-14 
事件の表示 特願2010- 5401「複合基板及びそれを用いた弾性波デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月26日出願公開、特開2010-187373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成22年1月14日(優先権主張 平成21年1月19日 日本)を出願日とする出願であって,平成25年8月13日付けで拒絶理由が通知され,同年10月2日付けで意見書の提出がなされ,同年12月27日付けで拒絶査定され,平成26年4月4日に拒絶査定不服審判の請求と同時に,手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年4月4日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
平成26年4月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1の記載を,次のように変更することを含むものである。
(下線は請求人が付与。)

[本件補正前]
【請求項1】
弾性波を伝搬可能な圧電基板と、
方位(111)面で前記圧電基板の裏面に有機接着層を介して接合され、該圧電基板よりも熱膨張係数の小さなシリコン製の支持基板と、
を備えた複合基板。

[本件補正後]
【請求項1】
弾性波を伝搬可能な圧電基板と、
方位(111)面で前記圧電基板の裏面に有機接着層を介して接合され、該圧電基板よりも熱膨張係数の小さなシリコン製の支持基板と、
を備え、
前記支持基板の厚さが100?500μmである、
複合基板。

本件補正は,本件補正前の「支持基板」に対し,その厚さが「100?500μmである」との限定を附したものであるといえる。

よって,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は,本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ,本件補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(本件補正が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するか否か)について検討する。

2.引用発明等

(1) 引用発明

原査定の理由に「引用文献1」として引用された特開2008-301066号公報(平成20年12月11日公開)には,次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

ア 【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイス等に用いられる複合基板に関するものであり、特に熱による反りが小さく、生産性に優れた複合基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO_(3))単結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶は、圧電性酸化物単結晶として知られ、弾性表面波(SurfaceAcoustic Wave:以下SAWと略す)フィルタ(SAWフィルタ)の圧電基板等に使用されている。また、両単結晶は、非線形光学結晶として、大容量高速通信網の基幹部品である光変調器、波長変換素子等の光応用製品にも使用されている。
【0003】
例えば、SAWフィルタは、携帯電話機等のような通信機器におけるバンドパスフィルタとして幅広く使用されている。近年、携帯電話の高機能化や、周波数バンド数の増加などにより、デバイスの小型化や低背化が進んでいる。またセンサー等の検知感度の向上要求により、同様にセンサー等の小型化、薄板化が進んでいる。それに伴い、単結晶基板には薄板化の要求が厳しくなってきている。
【0004】
しかしながら、LT単結晶基板、LN単結晶基板は、加工性が悪く、単結晶特有のヘキ開割れが起こり、少しの応力衝撃によって基板全体が割れてしまうという欠点を持つ。またLT単結晶、LN単結晶は、熱膨張係数が大きいため、温度変化によって周波数特性が変化し、周波数通過帯域が移動してしまうという問題を有する。また方位によって熱膨張係数が著しく異なるという特性を持つため、熱変化にさらされると内部に応力歪みが生じ、一瞬のうちに割れてしまうことがある。
【0005】
この問題を解決し、温度安定性に優れた薄板化された圧電基板等を開発することは近年の課題である。
【0006】
上記した特性を改善し、優れた温度安定性を備えた圧電材料を実現するために、さまざまな方法が提案されている。
【0007】
例えば以下に示す特許文献1においては、LN或いはLT基板に、前記基板よりも熱膨張係数が低い材料であるシリコンで形成した基板を直接結合で結合した基板が提案されている。
【0008】
また、以下に示す特許文献2においては、LTで構成した圧電基板とサファイアで構成した支持基板とをそれぞれの基板厚をT,tとした場合に基板厚の比T/t値が1/3より小さくなるように構成された接合基板とすることで、周波数温度特性を安定して向上させることが可能となることが提案されている。
【0009】
又以下に示す特許文献3においては、LT又はLNで構成した圧電基板と、接着層を介して圧電基板に積層された珪素または酸化珪素を主成分とする圧電基板より熱膨張係数の小さい補助基板(例えば低熱膨張ガラス基板)と、から構成される良好な温度特性を有する弾性表面波素子が提案されている。
【特許文献1】特開2004-96677号公報
【特許文献2】特開2004-186868号公報
【特許文献3】特開2001-53579号公報
【0010】
特許文献1、2、3でLT又はLN圧電基板にシリコン、低熱膨張ガラス、サファイア等の低熱膨張材料基板を貼り合わせる方法が提案されているが、更に温度安定性に優れた、より薄板化出来る複合基板が望まれている。
【0011】
また複合基板は異なる膨張係数を持つ材料を組み合わせているので、温度変化により基板の反りが生じる。この反りは製造不良の原因となり、生産性を低下させる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、温度変化による反りが少なく、熱膨張を抑えた、優れた温度安定性を示し、更なる薄板化が可能なタンタル酸リチウム(LT)又はニオブ酸リチウム(LN)単結晶薄板を用いた複合基板を提供することを目的とする。

イ 【0069】
<低熱膨張基板>
次に低熱膨張基板としてシリコン単結晶基板、窒化珪素セラミックス基板、サファイア単結晶基板を用意した。シリコン単結晶基板としては直径100mm、厚さ480μm、抵抗率2650Ω・cmの片面鏡面の4インチシリコンウェーハを用いた。窒化珪素セラミックス基板としては直径100mm、厚さ330μmの4インチウェーハを用いた。サファイア単結晶基板としては直径100mm、厚さ330μmの4インチウェーハを用いた。
【0070】
各低熱膨張基板及びLT単結晶薄板の熱膨張係数、ヤング率を表4に示す。
【0071】
【表4】


【0072】
<複合基板>
次に複合基板を作製した。単結晶薄板として厚み250μmの直径4インチのウェーハ形状である鉄を0.01wt%含有し還元処理を行ったLT単結晶薄板を用い、低熱膨張基板として上記したシリコン単結晶基板、窒化珪素セラミックス基板、サファイア単結晶基板を用いた。
【0073】
上記のように準備されたシリコン単結晶基板の鏡面側、窒化珪素セラミックス基板の片側、サファイア単結晶基板の片側に高Tg紫外線硬化型接着剤をスピンコートして塗布した。上記低熱膨張基板の接着剤を塗布した側にLT単結晶薄板を重ね、室温でプレス機のプレスヘッドで30秒70kPaで押さえつけて密着させた。プレス後、密着させた上記低熱膨張基板とLT単結晶薄板とを室温で紫外線照射装置に入れ、60分紫外線照射した。
【0074】
これで厚み250μmの鉄を0.01wt%含有し還元処理を行ったLT単結晶薄板に厚み480μmのシリコン単結晶基板が接合された複合基板、厚み250μmの鉄を0.01wt%含有し還元処理を行ったLT単結晶薄板に厚み330μmの窒化珪素セラミックス基板が接合された複合基板及び厚み250μmの鉄を0.01wt%含有し還元処理を行ったLT単結晶薄板に厚み330μmのサファイア単結晶基板が接合された複合基板が作製された。次に作製された上記複合基板のLT単結晶薄板表面側をGC#2500でラップ研磨し、さらにコロイダルシリカで鏡面加工して、LT単結晶薄板を厚み40μm以下にした。

以上より,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

弾性表面波デバイス等に用いられる複合基板に関するものであり,
単結晶薄板として厚み250μmの直径4インチのウェーハ形状である鉄を0.01wt%含有し還元処理を行ったLT単結晶薄板を用い,低熱膨張基板としてシリコン単結晶基板を用い,
シリコン単結晶基板としては直径100mm,厚さ480μm,抵抗率2650Ω・cmの片面鏡面の4インチシリコンウェーハを用い,
シリコン単結晶基板の鏡面側に高Tg紫外線硬化型接着剤をスピンコートして塗布し,上記低熱膨張基板の接着剤を塗布した側にLT単結晶薄板を重ねた
複合基板。

(2) 周知技術
ア 周知例1
原査定の理由に「引用文献2」として引用された特開2004-214400号公報(平成16年7月29日公開)(以下「周知例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、半導体基板の製造方法、詳しくは所定深さ位置に軽元素がイオン注入された単結晶ウェーハを熱処理し、そのイオン注入領域内から単結晶ウェーハを剥離する技術に関する。

(イ) 【0008】
【発明の目的】
この発明は、ウェーハの剥離面のラフネスが抑えられ、その結果、剥離後のウェーハの厚さの面内均一性が高まるとともに、後にその剥離面を平坦化処理するときのウェーハ加工量を低減することができ、しかも軽元素のドーズ量を低減することができる半導体基板の製造方法を提供することを、その目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、劈開面を表面とする単結晶ウェーハの所定深さ位置に軽元素をイオン注入する工程と、その後、この単結晶ウェーハを熱処理することにより、このイオン注入領域内に単結晶ウェーハの表面と平行な劈開面に沿って軽元素バブルを形成し、前記単結晶ウェーハのイオン注入側の部分を剥離する工程とを備えた半導体基板の製造方法である。
単結晶ウェーハの種類は限定されない。例えば単結晶シリコンウェーハなど、劈開面を有する単結晶のウェーハを採用することができる。単結晶シリコンウェーハとしては、(111)ウェーハおよび(110)ウェーハを採用することができる。(111)ウェーハは、(111)面の表面を有する単結晶ウェーハである。(110)ウェーハは、(110)面の表面を有する単結晶ウェーハである。(110)ウェーハにあっては、その(110)シリコン単結晶の育成時、(111)双晶およびスリップ転位面が(110)成長面に対して直交する。これにより、無転位のシリコン単結晶の育成が難しい。そのため、現在は(111)ウェーハの方が工業的に利用しやすい。劈開面の表面を有する単結晶ウェーハの場合、ウェーハ表面からの深さ位置に関係なく、ウェーハ表面と平行な面はすべ
て劈開面となる。
単結晶ウェーハとしては、軽元素バブルを利用した剥離処理が施されるウェーハであれば、単枚使用の各種の半導体ウェーハでもよいし、SOI構造を有する貼り合わせウェーハ用のウェーハでもよい。例えば、スマートカット法を利用したユニボンドウェーハの活性層用ウェーハなどを採用することができる。

イ 周知例2
本件出願の優先権主張日前に頒布された特開平3-88406号公報(平成3年4月12日公開)(以下「周知例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア) 2.特許請求の範囲
(1) シリコン単結晶層と、該シリコン単結晶層上に形成される単結晶もしくはC軸配向窒化アルミニウム圧電膜と、所定位置に形成される電極とを備える弾性表面波素子であって、弾性表面波の伝播方向軸と前記シリコン単結晶層表面の法線軸とを含む投影面への前記窒化アルミニウム圧電膜のC軸の投影軸が前記伝播方向軸に対して所定の傾斜角(θ)を有することを特徴とする弾性表面波素子。
(2) 前記シリコン単結晶層は(001)結晶面もしくはそれと等価な面からなり、前記伝播方向軸は前記シリコン単結晶層の(100)軸であることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
(3) 前記C軸は前記投影面内にあり、前記傾斜角(θ)が0゜<θ≦60゜の範囲にあり、かつ前記窒化アルミニウム圧電膜の膜厚(h)が2πh/λ≧1.8(ただし、λは弾性表面波の波長を示す)の範囲にあることを特徴とする請求項2記載の弾性表面波素子。
(4) 前記シリコン単結晶層は(110)結晶面もしくはそれと等価な面からなり、前記伝播方向軸は前記シリコン単結晶層の(001)軸であることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
(5) 前記C軸は前記投影面内にあり、前記傾斜角(θ)が0゜<θ≦60゜の範囲にあり、かつ前記窒化アルミニウム圧電膜の膜厚(h)が2πh/λ≧1.8(ただし、λは弾性表面波の波長を示す)の範囲にあることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波素子。
(6) 前記シリコン単結晶層は(111)結晶面もしくはそれと等価な面からなり、前記伝播方向軸は前記シリコン単結晶層の(112)軸であることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
(7) 前記C軸は前記投影面内にあり、前記傾斜角(θ)が20゜≦θ≦60゜の範囲にあり、かつ前記窒化アルミニウム圧電膜の膜厚(h)が2πh/λ≧2.5(ただし、λは弾性表面波の波長を示す)の範囲にあることを特徴とする請求項6記載の弾性表面波素子。

(イ) (イ)産業上の利用分野
本発明は窒化アルミニウム圧電膜を用いた弾性表面波素子に関するものである。

(ウ) さらに、第5図はシリコン単結晶層(1)が(111)結晶面もしくはそれと等価な面からなり、弾性表面波の伝播方向軸がシリコン単結晶層(1)の[112^]軸であり、かつ窒化アルミニウム圧電膜(2)のC軸(2a)が投影面内にあるとき(すなわち、C軸(2a)が投影軸(2a’)に等しいとき)の電気機械結合係数の特性曲線である。(F)は2πh/λ=2.5、(G)は2πh/λ=2.6の場合である。第5図より、傾斜角(θ)が20?60度の範囲にある時、電気機械結合係数(K^(2))は約1%を超える高い値となっていることがわかる。

(当審注 上記における「[112^]」のうち「2^」は,「2」に上線(いわゆる「アッパーライン」)を附した表記を意味する。)

ウ 周知技術
上記周知例1及び2等は,次の技術が本件出願の優先権主張日前に周知であったことを裏付けるものであるといえる。

「半導体基板等の基板として,方位(111)面であるシリコン単結晶基板」が使用される技術。

(以下「周知技術」という。)は,本件出願の優先権主張日前に周知であったといえる。

3.対比
本件補正発明と引用発明を比較すると,次のことがいえる。

(1) 引用発明における「高Tg紫外線硬化型接着剤」に関して,
「高Tg」が「ガラス転移温度」が「高い」こと,つまり「高耐熱性」を意味することは周知である。つまり,該「高Tg紫外線硬化型接着剤」とは「高耐熱性」の「紫外線硬化型接着剤」であることを意味していると解される。
ここで,「紫外線硬化型接着剤」として「エポキシ樹脂」を主成分とする接着剤が周知である。
このことは,引用発明において,「シリコン単結晶基板」と「LT単結晶薄板」を,「エポキシ樹脂」を主成分とする接着剤,つまり「有機接着剤」を介して接合することを示している。また,このような接合によって,塗布された「高Tg紫外線硬化型接着剤」が「層」を構成すること,つまり「有機接着層」を成すことは明らかである。

(2) 引用発明における「LT単結晶薄板」に関して,
該「LT単結晶薄板」が,<ア>「タンタル酸リチウム(LiTaO_(3))単結晶」の薄板を意味すること,<イ>また,弾性表面波フィルタ,つまり「弾性表面波デバイス」の「圧電基板」として使用されるものであることは,引用文献1【0002】における記載を参酌すると明らかであるといえる。
そして,弾性表面波フィルタにおいて,「圧電基板」が「弾性波を伝搬可能」なものであることは技術常識である。
つまり,引用発明は,「弾性波を伝搬可能な圧電基板」を開示しているといえる。

(3) 引用発明における「シリコン単結晶基板」に関して,<ア>引用文献1【0008】における記載を参酌すると,上記「シリコン単結晶基板」は,「LT単結晶薄板」で構成した「圧電基板」を支持する「支持基板」に相当し,該「支持基板」は「シリコン単結晶」で構成された,「シリコン製」のといえることは明らかであり,<イ>上記「シリコン単結晶基板」の厚さは「480μm」であり,ここで,上記<ア>に述べたことを踏まえると,引用発明は「支持基板の厚さが480μmである」こと開示しているといえる。
そうすると,引用発明における「シリコン単結晶基板」の厚さ「480μm」が本件補正発明における「支持基板」の厚さ「100?500μm」に含まれることは明白である。<ウ>引用文献1【0071】における【表4】には,熱膨張係数が,「LT」で「16.1x10^(-6)/℃」,「Si」(当審注 「シリコン」)で「4.2x10^(-6)/℃」と記載されている。つまり,該「シリコン単結晶基板」は「LT単結晶薄板」よりも「熱膨張係数の小さな」ものであるといえる。

(4) 以上によれば,本件補正発明と引用発明は,次の点で一致し,相違するといえる。

[一致点]
弾性波を伝搬可能な圧電基板と,
前記圧電基板に有機接着層を介して接合され,該圧電基板よりも熱膨張係数の小さなシリコン製の支持基板と,
を備え,
前記支持基板の厚さが100?500μmである,
複合基板。

[相違点]
本件補正発明において,「有機接着層を介して接合され」る「圧電基板」の「面」と「シリコン製の支持基板」の「面」に関して,「圧電性基板」の「面」は「裏面」であり,「シリコン製の支持基板」の「面」は「方位(111)面」であるのに対して,引用発明において,「高Tg紫外線硬化型接着剤」で接合される「LT単結晶薄板」の「面」と「シリコン単結晶基板」の「面」に,本件補正発明のような特定がない点。

4.検討
(1) 「圧電基板」の「裏面」について
本件出願の発明の詳細な説明には次の記載(下線は当審が付与。)がある。

【0020】
[実施例1]
図1は、本実施例の複合基板10の斜視図である。この複合基板10は、弾性表面波デバイスに利用されるものであり、1箇所がフラットになった円形に形成されている。このフラットな部分は、オリエンテーションフラット(OF)と呼ばれる部分であり、弾性表面波デバイスの製造工程において諸操作を行うときのウエハ位置や方向の検出などに用いられる。本実施例の複合基板10は、弾性表面波を伝搬可能なタンタル酸リチウム(LT)からなる圧電基板12と、方位(111)面で圧電基板12に接合されたシリコンからなる支持基板14と、両基板12,14を接合する接着層16とを備えている。圧電基板12は、直径が100mm、厚さが30μm、熱膨張係数が16.1ppm/Kである。この圧電基板12は、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に42°回転した、42°YカットX伝搬LT基板である。支持基板14は、直径が100mm、厚さが350μm、熱膨張係数が3ppm/Kである。したがって、両者の熱膨張係数差は13.1ppm/Kである。接着層16は、熱硬化性のエポキシ樹脂接着剤が固化したものであり、厚さが0.3μmである。
【0021】
こうした複合基板10の製造方法について、図2を用いて以下に説明する。図2は、複合基板10の製造工程を模式的に示す説明図(断面図)である。まず、支持基板14として、OFを有し、直径が100mm、厚さが350μm、面方位が(111)のシリコン基板を用意した。また、研磨前の圧電基板22として、OFを有し、直径が100mm、厚さが250μmの42°YカットX伝搬LT基板を用意した(図2(a)参照)。次いで、圧電基板22の裏面にスピンコートにより熱硬化性のエポキシ樹脂接着剤26を塗布し、支持基板14の表面に重ね合わせたあと180℃で加熱することによりエポキシ樹脂接着剤26を硬化させ、貼り合わせ基板(研磨前複合基板)20を得た。この貼り合わせ基板20の接着層16は、エポキシ樹脂接着剤26が固化してできたものである(図2(b)参照)。このときの接着層16の厚さは0.3μmであった。
【0022】
次いで、研磨機にて圧電基板22の厚さが30μmとなるまで研磨した(図2(c)参照)。研磨機としては、まず圧電基板22の厚みを薄くし、その後鏡面研磨を行うものを用いた。厚みを薄くするときには、研磨定盤とプレッシャープレートとの間に貼り合わせ基板20を挟み込み、その貼り合わせ基板20と研磨定盤との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給し、このプレッシャープレートにより貼り合わせ基板20を定盤面に押し付けながらプレッシャープレートに自転運動を与えて行うものを用いた。続いて、鏡面研磨を行うときには、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、プレッシャープレートに自転運動及び公転運動を与えることによって、圧電基板22の表面を鏡面研磨した。まず、貼り合わせ基板20の圧電基板22の表面を定盤面に押し付け、自転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として研磨した。続いて、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、貼り合わせ基板20を定盤面に押し付ける圧力を0.2MPa、自転運動の回転速度を100rpm、公転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として鏡面研磨した。この結果、研磨前の圧電基板22が研磨後の圧電基板12になり、複合基板10が完成した。
【0023】
複合基板10は、この後、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて、多数の弾性表面波デバイスの集合体としたあと、ダイシングにより1つ1つの弾性表面波デバイス30に切り出される。このときの様子を図3に示す。弾性表面波デバイス30は、フォトリソグラフィ技術により、圧電基板12の表面にIDT電極32、34と反射電極36とが形成されたものである。得られた弾性表面波デバイス30は、次のようにしてプリント配線基板60に実装される。即ち、図4に示すように、IDT電極32,34とセラミック基板40のパッド42,44とを金ボール46,48を介して接続したあと、このセラミック基板40上で樹脂50により封入する。そして、そのセラミック基板40の裏面に設けられた電極52,54とプリント配線基板60のパッド62,64との間に鉛フリーのはんだペーストを介在させたあと、リフロー工程によりプリント配線基板60に実装される。なお、図4には、はんだペーストが溶融・再固化したあとのはんだ66,68を示した。
【0024】
なお、複合基板10から、弾性表面波デバイス30の代わりに、図5(a)に示すラム波素子70を作製してもよい。ラム波素子70は、圧電基板12の表面にIDT電極72を有し、支持基板14にキャビティ74を設けて圧電基板12の裏面を露出させた構造を持つ。こうしたラム波素子70は、図5(b)に示すように圧電基板12の裏面にアルミニウム製の金属膜76を有していてもよい。この場合には、図6に示すように、圧電基板12の裏面に金属膜76を有する複合基板80を用いることになる。この複合基板80は、上述した複合基板10の製造方法(図2)において、圧電基板12の代わりに裏面に金属膜76を有する圧電基板12を用いれば製造することができる。
【0025】
また、図7に示すように、図5(a)と同じ構造で電極のみ、圧電基板12の表面及び裏面に作成した薄膜共振子90にも図6に示す複合基板80が適用できる。
【0026】
さらに、図8に示す薄膜共振子100を作成してもよい。薄膜共振子100は、圧電基板12の表面に電極102を有し、支持基板14と圧電基板12の裏面電極としての役割を果たす金属膜76との間にキャビティ104を設けた構造を持つ。キャビティ104は、絶縁膜106と接着層16を酸性液(例えば、フッ硝酸、フッ酸など)でエッチングして得られる。また、絶縁膜106の材質としては、例えば、二酸化ケイ素やリンシリカガラス、ボロンリンシリカガラスなどが挙げられる。ここでは、二酸化ケイ素を用いるものとする。更に、絶縁膜106の厚さは、特に限定するものではないが、0.1?2μmである。この薄膜共振子100は、図9に示すように、圧電基板12の裏面に金属膜76及び絶縁膜106を有する複合基板110を用いて製造することができる。

以上によれば,圧電基板12の「表面」は,鏡面研磨され,定盤面に押し付けられ,IDT電極32、34と反射電極36とが形成され,薄膜共振子90が作成され,薄膜共振子100の電極102を有する「面」である。
一方,圧電基板12の「裏面」は,スピンコートにより熱硬化性のエポキシ樹脂接着剤26を塗布され,アルミニウム製の金属膜76を有することができ,金属膜76を有する複合基板80を用いることができ,薄膜共振子90が作成され,金属膜76及び絶縁膜106を有することができる「面」である。
これらのことは,本件出願の発明の詳細な説明において,圧電基板に関しては,IDT電極と反射電極とが形成され,薄膜共振子が作成される「面」が「表面」と呼ばれ,支持基板等に接着されるなど薄膜共振子が作成されない「面」が「裏面」と呼ばれていると解される。

そして,本件補正発明における「圧電基板の裏面」も,支持基板と接合される面である。要するに,本件補正発明において,「圧電基板」に関して支持基板と接合される「面」を「圧電基板の裏面」と呼んだにすぎないと解される。

これを前提に,引用発明における「LT単結晶薄板」をみると,該「LT単結晶薄板」と「シリコン単結晶基板」とが接着剤を介して密着,つまり接合されることが記載されている。
このような「板」と「板」との密着,接合が,面により形成されることは当然である。
したがって,引用発明においても,「LT単結晶薄板」の「裏面」に有機接着層を介して,「シリコン多結晶基板」と接合される構成が開示されているといえる。
よって,本件補正発明における「圧電基板」の「裏面」との特定が,引用発明にないことは実質的な相違には当たらない。

(2) 「シリコン製の支持基板」の「方位(111)面」について
方位(111)面のシリコン単結晶基板は周知であり,このようなシリコン単結晶基板が,弾性表面波素子に使用されることは格別なこととはいえない(例えば,周知例2等参照。)。
そして,引用発明における「シリコン単結晶基板」として「方位(111)面」のものを適用することを妨げる技術的理由も発見しない。
そうすると,引用発明における「シリコン単結晶基板」として,周知技術を適用することは当業者が適宜なしえたことであるといえる。

(3) 上記(1),(2)に述べたことを踏まえると,引用発明に周知技術を適用することにより,「方位(111)面で圧電基板の裏面に有機接着層を介して接合され,該圧電基板よりも熱膨張係数の小さなシリコン製の支持基板」のように構成することは,当業者が適宜なしえたものであるといえる。

そして,本件補正発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から予測できる程度のものである。

したがって,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおりであるから,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明

上記「第2」に述べたとおり,平成26年4月4日付けの手続補正は却下された。
したがって,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの,つまり,上記「第2」の「1.本件補正の概要」の[本件補正前]における請求項1として記載されたとおりのものである。

第4 当審の判断

1.引用発明等及び対比
引用発明,周知技術及び対比は,上記「第2」の「2.引用発明等」及び「3.対比」に記載のとおりである。

2.検討
本件補正発明は,本願発明を特定する事項に限定を附したものである。
そして,上記「第2」の述べとおり,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると,本件補正発明を特定する事項全てを含み,附された限定を省いたものに相当する本願発明も,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたといえる。

第5 むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-04 
結審通知日 2015-03-17 
審決日 2015-03-30 
出願番号 特願2010-5401(P2010-5401)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
P 1 8・ 575- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 江口 能弘
近藤 聡
発明の名称 複合基板及びそれを用いた弾性波デバイス  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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