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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B26B
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B26B
管理番号 1301820
審判番号 訂正2015-390026  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2015-03-23 
確定日 2015-05-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5611392号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5611392号に係る明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 経緯
特許第5611392号に係る発明は、平成25年3月1日(国内優先権 平成25年2月6日)を出願日とする出願であって、平成26年9月12日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成27年3月23日付けで本件審判が請求されたものである。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
平成27年3月23日付けでなされた本件訂正審判の請求は、特許第5611392号の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)における明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであって、具体的には、訂正事項1ないし訂正事項2のとおりにすること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものである。(以下、下線部は訂正箇所を示すものであって、請求人が付したものである。)

1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項9に「前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の鋏。」とあるのを、「前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上であり、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものであり、刃片の刃裏面に凹陥部を設けている請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の鋏。」に訂正する。

2.訂正事項2
明細書の段落【0015】に「刃先側領域において切断に要する荷重を極度に大きくすることなく切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにするための具体的な構成として、前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上であるものが挙げられる。」とあるのを、「刃先側領域において切断に要する荷重を極度に大きくすることなく切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにするための具体的な構成として、前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上であるものが挙げられる。また、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものとし、刃片の刃裏面に凹陥部を設けるようにしてもよい。」に訂正する。

第3 当審の判断
1.訂正の目的について
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項9に記載された発明の「鋏」に対して「一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものであり、刃片の刃裏面に凹陥部を設けている」との特定を付すものであるから、当該訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものである。
そうすると、当該訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

2.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
(1)訂正事項1
訂正事項1における「一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものであり」との訂正について、本件特許明細書の【0007】には、「・・・この刃元側領域の刃先側に隣接するとともに当該刃線の刃先側の端に達し前記交差角度が略変化しないか又は切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が大きくなる刃先側領域とが設定されている。」と記載されており、また、同【0036】には、「・・・刃先31e、32e近傍の領域をも段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する目的に使用できる構成を好適に実現できる。」と記載されている。また図2、7からは、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差することが看取できる。さらに、同【0018】には、本願発明の効果として、「本発明によれば、刃元側で交差角度が従来の鋏と同様に大きなものとなる従来の鋏の特性は維持しつつ、刃先近傍においても段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を容易に切断できるようにする要望に対応することができる。」と記載されており、本願発明は刃元から刃先までの切断性能の向上を狙ったものであることを鑑みれば、訂正事項1における「一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものであり」との訂正については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。
訂正事項1における「刃片の刃裏面に凹陥部を設けている」との訂正について、本件特許明細書の【0058】には、「加えて、上述した第一及び第二実施形態では刃裏面を平坦なものとしているが、粘着剤を塗布した紙葉類等のシートを切断する際に刃線近傍に粘着剤が付着する不具合の発生を防ぐべく刃裏面に凹陥部や段部を設けるようにしてもよい。・・・」と記載されており、図11からは、刃片の刃裏面に凹陥部を設けることが看取できることから、訂正事項1における「刃片の刃裏面に凹陥部を設けている」との訂正については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。

したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、上記2.(1)と同様の理由により、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。

3.訂正が実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであるか否かについて
(1)訂正事項1
訂正事項1は、請求項9の記載において発明特定事項を付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、上記3.(1)と同様の理由により、当該訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に適合するものである。

4.訂正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて
上記のとおり、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後の請求項9に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件訂正発明9」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
本件審判請求書の甲1号証(実用新案登録第3151253号公報)においては、その解決課題として、同明細書の【0005】に「本考案の万能鋏は、他の鋏に変えることなく、対向する一対の凸状円弧の裁断刃によって、直線裁断は勿論のこと、裁断方向の指向性を皆無にして、利き手のインコーナー、アウトコーナいずれの曲線裁断も、任意の湾曲方向と湾曲度で、自由自在に容易に実施できると共に凸状円弧の裁断刃の後部に直線刃を連設すれば直線裁断と曲線裁断を自由自在に実施することができる優れた万能鋏を提供するものである。」と記載されている。この点、甲1号証は、刃元から刃先までの切断性能の向上を狙ったものではなく、さらにその図2からは、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差することを見てとることはできない。してみると、甲1号証においては、「一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差する」との構成を有していないと解される。
また、本件審判請求書の甲1号証、甲2号証(実公平1-25556号公報)、甲3号証(実公昭63-10145号公報)は、「刃片の刃裏面に凹陥部を設けている」との構成を有していないと解される。
したがって、甲1号証ないし甲3号証によって本件訂正発明9を容易に発明することができたとは解されず、他に本件訂正発明9が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから、当該訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

第4 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスや家庭で好適に用いられる鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
従来オフィスや家庭で好適に用いられる鋏の刃線は略直線状をなすものが多い。しかし、近年、このような形状の刃線を有する鋏においては、以下に述べるような不具合が存在することが判明してきている。すなわち、オフィスや家庭においても、段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する要望が存在するが、このような形状の刃線を有する鋏においては、図5のグラフの破線bに示すように、切断操作に伴って切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度が漸次小さくなり、刃先近傍においては前記交差角度が小さくなる。そのため、同図に示すように、刃先近傍においては切断に要する荷重が大きく、このような要望に対応することが困難である。
【0003】
一方、刃線の形状を全域にわたって従来の鋏よりも曲率半径が小さな円弧状とし、切断操作に伴って切断位置が刃先近傍に達した際の両刃線がなす交差角度を従来のものよりも大きくするとともに、刃線の略全域に亘って前記交差角度を略一定に設定している鋏が考えられている(例えば、特許文献1を参照)。このような構成の鋏では、図5のグラフの二点鎖線cに示すように、両刃線がなす交差角度は、切断位置に関わらず約18?30°の範囲で略一定となるように設定されている。
【0004】
ところで、刃線が略直線状をなす従来の鋏においては、切断位置が刃線の軸に近い側の端部である場合は、前記図5に示すように、前記交差角度は90°近くの大きな角度となり、刃元近傍において切断に要する荷重を小さなものにできるのに対して、前段で述べた刃線の形状を有する鋏では、両刃線がなす交差角度は、切断位置に関わらず18?30°で略一定であることから、刃元側を利用してプラスチック製シートや梱包バンド等を切断する使用態様等には十分対応することができないという別の不具合が発生しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭48-86482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に着目し、刃元側で交差角度が従来の鋏と同様に大きなものとなる従来の鋏の特性は維持しつつ、刃先近傍においても切断に要する荷重が大きくなることなく段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を容易に切断できるようにする要望に対応することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る鋏は、以下に述べるような構成を有する。すなわち本発明に係る鋏は、柄部、及び刃線を有する刃片をそれぞれ備えた対をなす鋏身と、これら対をなす鋏身を回動自在に結合する軸とを有する鋏であって、少なくとも一方の刃線に、切断操作に伴って切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度が漸次小さくなる曲線状の刃元側領域と、この刃元側領域の刃先側に隣接するとともに当該刃線の刃先側の端に達し前記交差角度が略変化しないか又は切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が大きくなる刃先側領域とが設定されている。
【0008】
このようなものであれば、刃元側領域においては交差角度を従来の鋏と同様に大きなものとしつつ、刃先側領域においては前記交差角度が略変化しないか又は切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が大きくなるので、刃先側領域においても切断に要する荷重が極度に大きくなることがない構成を実現しやすい。
【0009】
このような鋏において、刃先近傍において切断に要する荷重をより小さくするための構成として、前記刃先側領域が、前記刃元側領域との境界付近に切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分を有するものが挙げられる。
【0010】
上述したような効果を得るための具体的な鋏の構成の一例として、前記柄部が使用者の指を所定の指掛け領域内に掛けておくための指掛け部を有し、少なくとも一方の刃線に前記刃元側領域と前記刃先側領域とが設定されており、前記刃先側領域が、前記交差角度が全域に亘って前記刃元側領域との境界における前記交差角度よりも大きくなるものであるものが挙げられる。
【0011】
前記刃先側領域において切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにするための具体的な構成として、前記刃先側領域が、それぞれ曲率半径の異なる複数の小径曲線部分を含むものが挙げられる。
【0012】
切断操作に伴って切断位置が刃先近傍の領域で前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度を急激に変化させることなく刃先近傍においても段ボール等を切断する使用態様に対応できるようにするための構成として、前記複数の小径曲線部分のうち、刃元側領域に最も近い小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さく、この小径曲線部分が、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分であるものや、前記刃先側領域が前記小径曲線部分を3つ以上含むものであって、刃元側領域に近い側から数えて第2番目の小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さく、この小径曲線部分が、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分であるものが挙げられる。
【0013】
上述した効果をより好適に得るには、双方の刃線に、前記刃元側領域及び刃先側領域が設定されているものが望ましい。
【0014】
刃元側領域において従来の鋏と同様の使用感を得ることができるようにするための具体的な構成として、前記交差角度の最大値が90°以上であるものが挙げられる。
【0015】
刃先側領域において切断に要する荷重を極度に大きくすることなく切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにするための具体的な構成として、前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上であるものが挙げられる。また、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものとし、刃片の刃裏面に凹陥部を設けるようにしてもよい。
【0016】
切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度を大きくするための好適な構成として、前記小径曲線部分の一つの曲率半径が、該小径曲線部分を含む刃線の全長よりも小さいものが挙げられる。
【0017】
なお、本発明において、「曲線状」とは、単一の円弧や複数の円弧を繋ぎ合わせたものに限らず、二次曲線や三次曲線等、他の形状の曲線全般をも含む概念である。また、「曲率半径」とは、円弧状の部分においては該円弧の半径、円弧状以外の形状をなす部分については当該部分の形状を円弧により近似した場合の円弧の半径をそれぞれ示す概念である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、刃元側で交差角度が従来の鋏と同様に大きなものとなる従来の鋏の特性は維持しつつ、刃先近傍においても段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を容易に切断できるようにする要望に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る鋏を示す斜視図。
【図2】同実施形態に係る鋏を示す平面図。
【図3】同実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図4】同実施形態に係る鋏の静刃を示す平面図。
【図5】同実施形態に係る鋏の刃線間角度と切断荷重との関係を示す図。
【図6】本発明の第二実施形態に係る鋏を示す斜視図。
【図7】同実施形態に係る鋏を示す平面図。
【図8】同実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図9】同実施形態に係る鋏の静刃を示す平面図。
【図10】同実施形態に係る鋏の刃線間角度と切断荷重との関係を示す図。
【図11】本発明の他の実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図12】本発明の他の実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図13】図12におけるA-A断面図。
【図14】本発明の他の実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図15】図14におけるB-B断面図。
【図16】本発明の他の実施形態に係る鋏の動刃を示す平面図。
【図17】本発明の他の実施形態に係る鋏の刃の横断面図。
【図18】本発明の他の実施形態に係る鋏の刃の横断面図。
【図19】本発明の他の実施形態に係る鋏を示す斜視図。
【図20】本発明の他の実施形態に係る鋏を示す斜視図。
【図21】本発明の他の実施形態に係る鋏を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一実施形態を図1?図5を参照しつつ以下に示す。
【0021】
本実施形態に係る鋏Hは、図1及び図2に示すように、第1の刃片たる動刃31を有する第1の鋏身11と、前記動刃31と対をなす第2の刃片たる静刃32を有する第2の鋏身12とを、支軸4を中心に回動自在に結合してなる。
【0022】
前記第1の鋏身11は、前記図1及び図2に示すように、第1の柄部21と、この第1の柄部21の前端側に基端側を挿入して取り付けられる前記動刃31とから構成される。
【0023】
前記第1の柄部21は、使用者が親指を挿入するための所定の指掛け領域たる第1の指掛環21b内に掛けておくための指掛け部21aを備えている。そして、上述したように、この第1の柄部21の前端側に前記動刃31の基端側を挿入して取り付けるようにしている。
【0024】
前記動刃31は、鋏Hを用いて紙葉類等を切断する際に、紙葉類等の下方に挿入されるものである。この動刃31は、ステンレスにより構成した金属板を素材とし、全体を一体的にプレス成形することにより形成してなる板状のものである。この金属板の厚さ寸法は任意であり、本実施形態では1.8mmに設定している。また本実施形態では、この動刃31は、図1?図3に示すように、前記静刃32と摺動可能かつ平坦な刃裏面31aと前記静刃32と反対側に向かう面である外面すなわち刃表面31bとの間に、刃線31cを形成している。この刃線31cの全長は、本実施形態では70mmに設定している。これら刃裏面31aと刃表面31bとの間の前記刃線31cにおける刃角度θは、本実施形態では40°に設定している。さらに、この動刃31は、前記刃線31cと反対側の側端縁に形成した刃峰31dと、先端部に位置する刃先31eと、基端部すなわち支軸4近傍に位置する刃元31fとを具備する。そして、前述したように、この動刃31に、支軸4を介して前記第2の鋏身12を構成する静刃32を取り付けている。
【0025】
一方、第2の鋏身12は、前記図1及び図2に示すように、第2の柄部22と、この第2の柄部22の前端側に基端側を挿入して取り付けられる第2の刃片たる前記静刃32とから構成される。
【0026】
前記第2の柄部22は、使用者の人差し指、中指、又は薬指を所定の指掛け領域たる第1の指掛環22b内に掛けておくための指掛け部22aを備えている。そして、上述したように、この第2の柄部22の前端側に前記静刃32の基端側を挿入して取り付けるようにしている。
【0027】
前記静刃32は、前記動刃31と対をなし、鋏Hを用いて紙葉類等を切断する際に、紙葉類等の上方に位置するものである。この静刃32も、前記動刃31と同様に、ステンレスにより構成した金属板を素材とし、全体を一体的にプレス成形することにより形成してなる板状のものである。また本実施形態では、この静刃32は、図1、図2及び図4に示すように、前記動刃31と摺動可能かつ平坦な刃裏面32aと前記動刃31と反対側に向かう面である外面すなわち刃表面32bとの間に、刃線32cを形成している。この刃線32cの全長も、本実施形態では70mmに設定している。これら刃裏面32aと刃表面32bとの間の前記刃線32cにおける刃角度θも、本実施形態では50°に設定している。さらに、この静刃32は、前記刃線32cと反対側の側端縁に形成した刃峰32dと、先端部に位置する刃先32eと、基端部すなわち支軸4近傍に位置する刃元32fとを具備する。なお、前記刃角度θは、40°?50°の範囲で任意に設定してよいが、前記刃角度θを40°より小さくすると刃こぼれと呼ばれる現象が発生しやすくなる。
【0028】
しかして本実施形態では、これら動刃31及び静刃32に、切断操作に伴って切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線31c、32cがなす交差角度が漸次小さくなる曲線状の刃元側領域31c1、32c1と、この刃元側領域の刃先側に隣接し前記交差角度が略変化しないか又は切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が大きくなる刃先側領域31c2、32c2とをそれぞれ設定している。換言すれば、前記動刃31及び前記静刃32双方の刃線31c、32cに、切断操作に伴って切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って両刃線31c、32cがなす交差角度が漸次小さくなる曲線状の刃元側領域31c1、32c1と、この刃元側領域31c1、32c1の刃先31e、32e側に隣接し前記交差角度が全域に亘って前記刃元側領域31c1、32c1との境界における前記交差角度よりも大きい刃先側領域31c2、32c2とを設定している。以下、動刃31の刃線31c及び前記静刃32の刃線32cは全く同一の形状を有するので、動刃31の刃線31cのみについて説明する。
【0029】
前記刃元側領域31c1の曲率半径は、本実施形態では4366mmである。そして、この刃元側領域31c1の刃先31e側には、前記刃先側領域31c2が隣接している。
【0030】
前記刃先側領域31c2は、前記刃元側領域31c1に近い側から順に、それぞれ曲率半径の異なる複数、より具体的には第1?第5の小径曲線部分31ca?31ceを含んでいる。これら第1?第5の小径曲線部分31ca?31ceの曲率半径はいずれも前記刃元側領域31c1の曲率半径よりも小さい。さらに詳述すると、第1の小径曲線部分31caの曲率半径は170mmであり、第2の小径曲線部分31cbの曲率半径は40mmである。以下、第3?第5の小径曲線部分31cc?31ceの曲率半径は、第3の小径曲線部分31ccから順に、それぞれ114mm、282mm、2000mmである。すなわち本実施形態では、第2の小径曲線部分31cbの曲率半径は刃線31cの全長よりも小さく、また、他の小径曲線部分すなわち第1の小径曲線部分31ca及び第3?第5の小径曲線部分31cc?31ceの曲率半径よりも小さい。なお、以下の説明において、静刃32の各部には、上述した動刃31における対応する部位と同一の名称及び先頭の「31」を「32」に変更した符号を付している。
【0031】
本実施形態において、刃線31c、32c間の交差角度及び切断に要する荷重は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って、図5を参照しつつ以下に述べるように変化する。
【0032】
両刃線31c、32cの軸4に近い側の端すなわち刃元31f、32f側の端同士が交差している状態では、刃線31c、32c間の交差角度は、図5のグラフの実線aに示すように、90°である。以下、切断操作に伴って切断位置は刃元側領域31c1、32c1内を前記軸4から遠ざかる方向に移動する。両刃線31c、32cがなす交差角度は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って漸次小さくなり、刃先側領域31c2、32c2との境界で極小値、具体的には約23度となる。また、切断に要する荷重は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って漸次大きくなる。
【0033】
それから、切断位置が刃先側領域31c2、32c2内に移動すると、切断位置が前記第1?第3の小径曲線部分31ca?31cc、32ca?32cc内にある際には、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って、前記図5のグラフの実線aに示すように、両刃線がなす交差角度は前記極小値から漸次大きくなる。特に、切断位置が前記第2の小径曲線部分31cb、32cbに位置する際には、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って、両刃線がなす交差角度が急速に大きくなる。すなわち、前記第2の小径曲線部分31cb、32cbは、請求項中の交差角度急変部分である。この第2の小径曲線部分31cb、32cb(交差角度急変部分)は、本実施形態では、刃線31c、32cの基端(刃元側の端)から41.4?44.8mmの位置すなわち刃線の全長の約59%?約64%の位置に設定している。より具体的には、第1の小径曲線部分31ca、32caと第2の小径曲線部分31cb、32cbとの境界では前記交差角度が約24度であるのに対し、第2の小径曲線部分31cb、32cbと第3の小径曲線部分31cc、32ccとの境界では前記交差角度が約32度である。そして、切断位置が前記第3の小径曲線部分31cc、32ccと第4の小径曲線部分31cd、32cdとの境界に達した際に、前記交差角度が極大値、具体的には約35度となる。その後、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って、両刃線がなす交差角度は30度以上を保ちつつ漸次小さくなる。一方、切断に要する荷重は、切断位置が刃先側領域31c2、32c2にある場合には、前記図5のグラフの実線aに示すように、切断位置にかかわらず略一定となる。なお、切断に要する荷重の測定は、以下に述べるような方法により測定している。すなわち、切断対象物である段ボールが動刃31及び静刃32とそれぞれなす距離が等しくなるように切断対象物である段ボールを配した状態で、第1及び第2の柄部21、22の指掛け部21a、22aに図示しない荷重測定装置の入力端を、前記軸4及び前記両入力端を頂点とする三角形が二等辺三角形となる状態にそれぞれセットし、これら荷重測定装置の両入力端を相寄る方向に移動させて切断対象物を切断しつつ、換言すれば前記三角形が二等辺三角形となる状態を保ったまま前記両入力端をそれぞれ移動させて切断対象物を切断しつつ、切断に要する荷重を測定するようにしている。
【0034】
以上に述べたように、本実施形態によれば、刃元側領域31c1、32c1においては交差角度を従来の鋏と同様に大きなものとしつつ、刃先側領域31c2、32c2においては前記交差角度を全域に亘って前記刃元側領域31c1、32c1との境界における前記交差角度よりも大きくし、さらに切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにしていることで、刃先側領域31c2、32c2のどの領域においても切断に要する荷重が刃元側領域31c1、32c1との境界における前記荷重と略等しくなる。従って、刃先31e、32e近傍の領域をも段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する目的に使用できる。
【0035】
また、前記刃先側領域31c2、32c2を、それぞれ曲率半径の異なる第1?第5の小径曲線部分31ca?31ce、32ca?32ceを含むものとしているので、前記刃先側領域31c2、32c2において切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となる。
【0036】
さらに、前記第2の小径曲線部分31cb、32cbの曲率半径が前記第1?第5の小径曲線部分31ca?31ce、32ca?32ceのうちで最小であるので、切れ味を急変させることなく、また、切断操作に伴い切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って刃先31e、32e近傍の領域で両刃線がなす交差角度を急激に変化させることなく、刃先31e、32e近傍の領域をも段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する目的に使用できる構成を好適に実現できる。
【0037】
加えて、双方の刃線31c、32cに前記刃元側領域31c1、32c1及び刃先側領域31c2、32c2を設定しているので、各刃線の刃先側領域31c2、32c2の曲率半径を極端に小さくすることなく上述した効果を得ることができ、刃片すなわち動刃31及び静刃32の幅を小さく収めることができる。
【0038】
その上、前記刃元側領域31c1、32c1と前記刃先側領域31c2、32c2との境界における刃線間の交差角度を約23°としているので、従来の鋏と比較して、刃先側領域31c2、32c2において切断に要する荷重を十分小さくすることができる。
【0039】
そして、前記交差角度の最大値が90°であるので、刃元側領域31c1、32c1においては従来の鋏と同様の使用感を得ることができる。
【0040】
次いで、本発明の第二実施形態を図6?図10を参照しつつ以下に示す。なお、前述した第一実施形態におけるものに対応する各部位には、同一の名称及び符号を付している。
【0041】
本実施形態に係る鋏H2は、図6及び図7に示すように、第1の刃片たる動刃31を有する第1の鋏身11と、前記動刃31と対をなす第2の刃片たる静刃32を有する第2の鋏身12とを、支軸4を中心に回動自在に結合してなる。以下、第一実施形態に係る鋏Hとの相違点について述べるが、以下に述べる相違点に係る箇所以外、本実施形態に係る鋏H2は、前述した第一実施形態に係る鋏Hと同様の構成を有する。
【0042】
本実施形態では、図8及び図9に示すように、前記動刃31及び前記静刃32双方の刃線31c、32cに、切断操作に伴って切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って両刃線31c、32cがなす交差角度が漸次小さくなる曲線状の刃元側領域31c1、32c1と、この刃元側領域31c1、32c1の刃先31e、32e側に隣接し前記交差角度が全域に亘って前記刃元側領域31c1、32c1との境界における前記交差角度よりも大きい刃先側領域31c2、32c2とを設定している。以下、動刃31の刃線31c及び前記静刃32の刃線32cは全く同一の形状を有するので、動刃31の刃線31cのみについて説明する。
【0043】
前記刃元側領域31c1の曲率半径は、本実施形態では1372.5mmである。そして、図8に示すように、この刃元側領域31c1の刃先31e側には、前記刃先側領域31c2が隣接している。
【0044】
前記刃先側領域31c2は、図8に示すように、前記刃元側領域31c1に近い側から順に、それぞれ曲率半径の異なる複数、より具体的には第1及び第2の小径曲線部分31cx、31cyを含んでいる。これら第1及び第2の小径曲線部分31cx、31cyの曲率半径はいずれも前記刃元側領域31c1の曲率半径よりも小さい。さらに詳述すると、第1の小径曲線部分31cxの曲率半径は50mmであり、第2の小径曲線部分31cyの曲率半径は100mmである。なお、以下の説明において、静刃32の各部には、上述した動刃31における対応する部位と同一の名称及び先頭の「31」を「32」に変更した符号を付している。
【0045】
本実施形態において、刃線31c、32c間の交差角度は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って、図10を参照しつつ以下に述べるように変化する。
【0046】
両刃線31c、32cの軸4に近い側の端すなわち刃元31f、32f側の端同士が交差している状態では、刃線31c、32c間の交差角度は、図10のグラフの実線a2に示すように、90°である。以下、切断操作に伴って切断位置は刃元側領域31c1、32c1内を前記軸4から遠ざかる方向に移動する。両刃線31c、32cがなす交差角度は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って漸次小さくなり、刃先側領域31c2、32c2との境界で極小値、具体的には約18°となる。
【0047】
それから、切断位置が刃先側領域31c2、32c2内に移動すると、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って、前記図10のグラフの実線a2に示すように、両刃線がなす交差角度は前記極小値から漸次大きくなる。特に、切断位置が前記第1の小径曲線部分31cx、32cxに位置する際には、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って、両刃線がなす交差角度が急速に大きくなる。すなわち、前記第1の小径曲線部分31cx、32cxは、請求項中の交差角度急変部分である。この第1の小径曲線部分31cx、32cx(交差角度急変部分)は、本実施形態では、刃線31c、32cの基端(刃元側の端)から41.4?44.6mmの位置すなわち刃線の全長の約59%?約64%の位置に設定している。より具体的には、刃元側領域31c1、32c1と刃先側領域31c2、32c2との境界すなわち刃元側領域31c1、32c1と第1の小径曲線部分31cx、32cxとの境界では前記交差角度が約18°であるのに対し、第1の小径曲線部分31cx、32cxと第2の小径曲線部分31cy、32cyとの境界では前記交差角度が約25°である。それから、切断位置が前記第2の小径曲線部分31cy、32cyに達した際も、両刃線31c、32cがなす交差角度は、切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って漸次大きくなる。
【0048】
以上に述べたように、本実施形態によっても、刃元側領域31c1、32c1においては交差角度を従来の鋏と同様に大きなものとしつつ、刃先側領域31c2、32c2においては切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って前記交差角度は大きくなる。換言すれば、前記交差角度は刃先側領域31c2、32c2の全域に亘って前記刃元側領域31c1、32c1との境界における前記交差角度よりも大きくなる。従って、刃先側領域31c2、32c2において切断に要する荷重を切断位置にかかわらず略一定となるようにし、刃先31e、32e近傍の領域をも段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する目的に使用できる。
【0049】
また、前記第1の小径曲線部分31cx、32cxの曲率半径を前記第2の小径曲線部分31cy、32cyよりも小さくしているので、切断操作に伴い切断位置が前記軸4から遠ざかるに従って刃先31e、32e近傍の領域すなわち前記第2の小径曲線部分31cy、32cyで両刃線がなす交差角度を急激に変化させることなく、刃先31e、32e近傍の領域をも段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する目的に使用できる構成を好適に実現できる。
【0050】
さらに、双方の刃線31c、32cに前記刃元側領域31c1、32c1及び刃先側領域31c2、32c2を設定しているので、各刃線の刃先側領域31c2、32c2の曲率半径を極端に小さくすることなく上述した効果を得ることができ、刃片すなわち動刃31及び静刃32の幅を小さく収めることができる。
【0051】
加えて、前記刃元側領域31c1、32c1と前記刃先側領域31c2、32c2との境界における刃線間の交差角度を約18°としているので、従来の鋏と比較して、刃先側領域31c2、32c2において切断に要する荷重を十分小さくすることができる。
【0052】
そして、前記交差角度の最大値が90°であるので、刃元側領域31c1、32c1においては従来の鋏と同様の使用感を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限らない。
【0054】
例えば、上述した第一実施形態では、前記刃先側領域を、それぞれ曲率半径の異なる第1?第5の小径曲線部分を含むものとし、また、第二実施形態では、前記刃先側領域を、それぞれ曲率半径の異なる第1及び第2の小径曲線部分を含むものとしているが、小径曲線部分の数及び配列は任意に設定してよく、また、各小径曲線部分の曲率半径も、刃元側領域の曲率半径よりも小さいものであれば任意に設定してよい。加えて、刃線の形状を、二次曲線や三次曲線等、円弧状以外の形状を有する曲線や、このような曲線を繋ぎ合わせたものに設定してももちろんよく、円弧と円弧以外の形状を有する曲線とを繋ぎ合わせたものに設定してももちろんよい。換言すれば、前記刃先側領域の各部の曲率半径が連続的に変化する形状に設定してももちろんよい。但し、刃元側領域に最も近い小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さい、換言すれば刃元側領域に最も近い小径曲線部分を交差角度急変部分としているもの、又は前記刃先側領域が前記小径曲線部分を3つ以上含むものであって、刃元側領域に近い側から数えて第2番目の小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さい、換言すれば刃元側領域に近い側から数えて第2番目の小径曲線部分を交差角度急変部分としているものであれば、切断操作に伴って切断位置が刃先近傍の領域で前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度を急激に変化させることなく刃先近傍においても段ボールやプラスチック製シート、或いはプラスチック製の梱包バンド等を切断する使用態様に対応できるようにすることができるため、より望ましい。加えて、上述した第一及び第二実施形態では、いずれも刃線の全長の約59%?約64%の位置に交差角度急変部分を設けているが、刃線の全長の55%?70%の位置に交差角度急変部分を設けているものであれば、この交差角度急変部分より先端側においても前記交差角度を十分大きくすることができるという効果は得られる。特に、交差角度急変部分を刃先寄りに設ければ、刃先近傍における前記交差角度をより大きく保つことができる。
【0055】
また、上述した第一及び第二実施形態では、双方の刃線に前記刃元側領域及び刃先側領域を設定しているが、一方の刃線のみに前記刃元側領域及び刃先側領域を設定してももちろんよい。
【0056】
加えて、上述した第一実施形態では前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における刃線間の交差角度を約23°、第二実施形態では前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における刃線間の交差角度を約18°にそれぞれ設定しているが、前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における刃線間の交差角度は20°以上であれば、上述した実施形態に係るものと同様の効果を得ることができる。
【0057】
そして、上述した第一及び第二実施形態において、刃線間の交差角度の最大値がいずれも90°であるが、刃線間の交差角度の最大値が90°を上回るものであっても上述した第一及び第二実施形態に係るものと同様の効果を得ることができる。一方、刃線間の交差角度の最大値が90°を下回るものであっても、刃元側領域においては切断操作に伴って切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度が漸次小さくなり、刃元側領域と刃先側領域との境界で両刃線がなす交差角度が最小となるものであれば、刃元側領域においては前記交差角度を従来の鋏と同様に大きなものとし、刃先側においても前記交差角度をある程度大きく保ち刃先側領域において切断に要する荷重が切断位置にかかわらず略一定となるようにすることはできる。
【0058】
加えて、上述した第一及び第二実施形態では刃裏面を平坦なものとしているが、粘着剤を塗布した紙葉類等のシートを切断する際に刃線近傍に粘着剤が付着する不具合の発生を防ぐべく刃裏面に凹陥部や段部を設けるようにしてもよい。このような鋏の例として、以下に述べるようなものが挙げられる。なお、以下の説明において、前述した第一及び第二実施形態におけるものに対応する各部位には、同一の名称及び符号を付している。
【0059】
例えば、動刃31を図11の(a)に示すように、刃裏面31aに、刃線31cに沿って延びる1本の有底溝状の凹陥部31xを設けてもよく、同図の(b)に示すように、刃裏面31aの略全域に凹陥部31yを設けてもよい。さらに、同図の(c)に示すように、凹陥部31zが刃峰31d側及び刃先31e側に開口する、換言すれば刃線31c近傍の部位が他の部位よりも静刃32に接近した形状のものであってもよく、同図の(d)に示すように、複数本の溝状の凹陥部31xを設けてもよい。また、図12及び図13に示すように、動刃31の刃線31c近傍の部位に動刃31を貫通する貫通孔31hを設けてももちろんよい。さらに、図14及び図15に示すように、動刃31の刃裏面31aに平面視円形をなす多数の凹陥部31kを設けてももちろんよい。なお、図11?図15には動刃31のみを示しているが、静刃32にも同様に凹陥部や貫通孔を設けてもよいのはもちろんである。また、図11に示す態様において、刃裏面31aの刃線31c近傍の部位と凹陥部31x、31yの底面とは平行であってもよく、また、動刃31及び静刃32を幅方向中央部に向かって漸次他方の刃身から厚さ方向に離間する形状とすることにより幅方向中央部を凹陥部として形成してもよい。
【0060】
さらに、本発明に係る他の鋏として、以下に述べるようなものが挙げられる。なお、以下の説明においても、前述した第一及び第二実施形態におけるものに対応する各部位には、同一の名称及び符号を付している。
【0061】
例えば、図16の(a)に示すように、刃線31cの刃先側領域31c2の一部を鋸歯状に形成してもよく、同図の(b)に示すように、刃線31cの刃元側領域31c1の一部を鋸歯状に形成してもよい。もちろん、静刃32の刃線32cも同様に構成してもよく、刃元側領域31c1、32c1と刃先側領域31c2、32c2との双方に鋸歯状に形成した部位を設ける態様や、刃線31c、32cの全体を鋸歯状に形成する態様を採用してもよい。なお、本発明では、このように刃線31cの一部を鋸歯状に形成した鋏において、刃線31cが鋸歯状をなす部位の「両刃線がなす交差角度」は、鋸歯の山同士を滑らかに結んだ線分同士がなす角度である。
【0062】
加えて、図17に示すように、刃裏面32aと刃表面32bとの間の前記刃線32cにおける刃角度を第一の所定角度θ1、例えば50°とした上で、刃表面32b側に、刃裏面32aとなす角度が前記第一の所定角度θ1よりも小さな第二の所定角度θ2となる領域を設けてもよい。
【0063】
また、図18に示すように、動刃31及び静刃32の刃線31c、32c近傍は互いに対向するとともに、動刃31及び静刃32が、それぞれ刃峰31d、32d側に向かうにつれ他方の刃から厚さ方向に離間する形状を採用してもよい。
【0064】
加えて、図19に示すように、第1及び第2の柄部21、22を、以下に示すように構成してもよい。すなわち、支軸4から動刃31又は静刃32と反対側に延び内面の一部が指掛け部である柄本体211、221と、この柄本体211、221に収納された収納状態及び前記柄本体211、221から突出し前記指掛け部とともに指掛け環を形成する使用状態をとり得る紐状の指掛け部材212、222と、この指掛け部材212、222の自由端に接続され前記指掛け部材212、222を柄本体211、221内に収納させる収納位置と前記指掛け部材212、222を柄本体211、221から突出させる使用位置との間で移動可能な操作部材213、223とを具備する構成を採用してもよい。
【0065】
そして、図20に示すように、第1及び第2の柄部21、22がそれぞれ角柱を半分に割った形状をなしているとともに、動刃31及び静刃32を重ね合わせた状態でこれら動刃31及び静刃32を鞘5に収納可能であり、さらに第1の柄部21にストラップ210を設けている態様のものを採用してもよい。また、この鋏には、動刃31及び静刃32を鞘から取り出した状態で刃線同士が互いに離間する方向に動刃31及び静刃32を付勢すべく、動刃31及び静刃32に付勢手段たるねじりコイルばね6を接続する構成を採用している。
【0066】
加えて、上述した第一及び第二実施形態では、柄部のうち指掛け環近傍の部位を他の部位と比較して軟質な樹脂により形成しており、柄部全体を二色成形により形成しているが、図21に示すように、柄部21、22全体を単一の材料により形成してもよい。
【0067】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0068】
H…鋏
11、12…(第1、第2の)鋏身
21、22…(第1、第2の)柄部
21a、22a…指掛け部
31…刃片(動刃)
32…刃片(静刃)
31c、32c…刃線
31c1、32c1…刃元側領域
31c2、32c2…刃先側領域
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柄部、及び刃線を有する刃片をそれぞれ備えた対をなす鋏身と、これら対をなす鋏身を回動自在に結合する軸とを有する鋏であって、
少なくとも一方の刃線に、切断操作に伴って切断位置が前記軸から遠ざかるに従って両刃線がなす交差角度が漸次小さくなる曲線状の刃元側領域と、この刃元側領域の刃先側に隣接するとともに当該刃線の刃先側の端に達し前記交差角度が略変化しないか又は切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が大きくなる刃先側領域とが設定されていることを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記刃先側領域が、前記刃元側領域との境界付近に切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分を有する請求項1記載の鋏。
【請求項3】
前記柄部が使用者の指を所定の指掛け領域内に掛けておくための指掛け部を有し、少なくとも一方の刃線に前記刃元側領域と前記刃先側領域とが設定されており、前記刃先側領域が、前記交差角度が全域に亘って前記刃元側領域との境界における前記交差角度よりも大きくなるものである請求項1又は2記載の鋏。
【請求項4】
前記刃先側領域が、それぞれ曲率半径の異なる複数の小径曲線部分を含む請求項1、2又は3記載の鋏。
【請求項5】
前記複数の小径曲線部分のうち、刃元側領域に最も近い小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さく、この小径曲線部分が、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分である請求項4記載の鋏。
【請求項6】
前記刃先側領域が前記小径曲線部分を3つ以上含むものであって、刃元側領域に近い側から数えて第2番目の小径曲線部分の曲率半径が他の小径曲線部分の曲率半径よりも小さく、この小径曲線部分が、切断位置が前記軸から遠ざかるに従って前記交差角度が急激に大きくなる交差角度急変部分である請求項4記載の鋏。
【請求項7】
双方の刃線に、前記刃元側領域及び刃先側領域が設定されている請求項1、2、3、4、5又は6記載の鋏。
【請求項8】
前記交差角度の最大値が90°以上である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の鋏。
【請求項9】
前記刃元側領域と前記刃先側領域との境界における前記交差角度が18°以上であり、一方の刃片の刃線と他方の刃片の刃線とがそれらの刃先側の端まで交差するものであり、刃片の刃裏面に凹陥部を設けている請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の鋏。
【請求項10】
前記小径曲線部分の一つの曲率半径が、該小径曲線部分を含む刃線の全長よりも小さい請求項4記載の鋏。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2015-05-13 
出願番号 特願2013-40424(P2013-40424)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (B26B)
P 1 41・ 853- Y (B26B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 亀田 貴志中野 裕之  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 渡邊 真
原 泰造
登録日 2014-09-12 
登録番号 特許第5611392号(P5611392)
発明の名称 鋏  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  
代理人 青山 高明  
代理人 青山 高明  
代理人 宮澤 岳志  
代理人 赤澤 一博  

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