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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1302819
審判番号 不服2013-15419  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-09 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2007-324102「磁場強化型プラズマリアクタにおける磁場成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月31日出願公開、特開2008-177555〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年12月16日(パリ条約による優先権主張2006年12月18日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成22年12月16日付けで手続補正書の提出がなされ、平成24年1月16日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年7月21日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、平成25年4月2日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して平成25年8月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、当審において、同年11月1日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、平成26年5月12日付けで回答書の提出がなされたものである。



第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成25年8月9日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

平成25年8月9日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至13(平成24年7月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至13)を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至13とするものである。
そして、本件補正では、本件補正前の請求項1又は請求項3が本件補正後の請求項1に対応しており、補正前の請求項1及び3と補正前後の請求項1の記載は、各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する方法。

【請求項3】
第1の複数の磁場発生コイルの1つ以上に印加される電流の最大値は、磁場形状の移行の間、ゼロに等しい請求項1又は2記載の方法。」

(補正後)
「【請求項1】
処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しく、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する方法。」

本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1が対応しているとした場合、両者を比較すると、本件補正後の請求項1に係る本件補正には、次の補正事項(以下「補正事項1」という。)が含まれる。

[補正事項1]
補正前の請求項1の「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」を「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しく、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」とする補正。

また、本件補正前の請求項1を引用する請求項3と本件補正後の請求項1が対応しているとした場合、両者を比較すると、本件補正後の請求項1に係る本件補正には、次の補正事項(以下「補正事項2」という。)が含まれる。

[補正事項2]
補正前の請求項1の「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」の発明特定事項において、「第1の複数の磁場発生コイルの1つ以上に印加される電流の最大値は、磁場形状の移行の間、ゼロに等しい」ことを特定したものを、「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しく、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」とする補正。


2 補正の適否

(1)補正事項1について
補正事項1により補正された部分は、当初明細書等に記載されているものと認められるから、補正事項1は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また、補正事項1が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
しかしながら、補正事項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「逆転する極性を有し」という記載が削除され、代わりに「ゼロに等しい」という記載にするものであるため、発明特定事項である「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値」が、「逆転する極性を有し」ない場合を含むことになり、特許請求の範囲を拡張するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。

(2)補正事項2について
補正事項2により補正された部分は、当初明細書等に記載されているものと認められるから、補正事項2は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また、補正事項2が、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすことは明らかである。
しかしながら、補正事項2は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「逆転する極性を有し」という記載が削除されたものであるため、発明特定事項である「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値」が、「逆転する極性を有し」ない場合を含むことになり、特許請求の範囲を拡張するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。

(3)むすび
以上のとおり、上記補正事項1を含む場合とした本件補正、又は、上記補正事項2を含む場合とした本件補正は、いずれも特許法第17条の2第第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3 独立特許要件について

本件補正は、上記2において言及したように却下すべきものであるが、仮に、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するものとした場合について、上記の補正後の請求項1に記載された事項によって特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)についても予備的に検討する。


3.1 補正後の発明
本願の請求項1乃至13に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至13に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しく、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する方法。」


3.2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2004/0182516号明細書(以下、「引用文献」という。)には、下記の事項が記載されている。

A “[0044] As depicted in FIG. 5, for greater control over the shape of the magnetic field in the chamber, sub-magnetic coils 504_(1), 504_(2), 504_(3), 504_(4) (collectively referred to as sub-magnetic coils 504) are strategically placed proximate the main magnetic coils 302. Illustratively, the sub-magnetic coils 504 are placed proximate the overlapping portions of the main magnetic coils 302. The sub-magnetic coils 504 generate a magnetic field and allow "tuning" of the fields produced in the corners (i.e., the overlapping portions). The sub-magnetic coils 504 are used to control the shape of the magnetic field. ”
(当審訳:「[0044] 図5に図示されるように、チャンバ内の磁場の形状をより高度に制御するために、副磁気コイル504_(1)、504_(2)、504_(3)及び504_(4)(副磁気コイル504と総称する)は主磁気コイル302に近接させて巧みに配置されている。図面では、副磁気コイル504は主磁気コイル302の重なり部に近接して位置されている。副磁気コイル504は磁場を発生し、これによりコーナー部(例えば、重なり部で)発生する磁場の「微調整」を可能としている。副磁気コイル504は、磁場の形状を制御するために用いられる。」)

B 図5(FIG.5)には、4つの主磁気コイル(302_(1),302_(2),302_(3),302_(4))がコーナーにおいて相互に重なり部を有してチャンバ5の周囲を取り囲むように配置し、4つの副磁気コイル(504_(1),504_(2),504_(3),504_(4))(審決注:図5の副磁気コイル304_(1)は上記Aの記載から504_(1)の誤記である)のそれぞれが主磁気コイルの重なり部の外側に配置されたコイル構成300が記載されている。

C “[0048] FIGS. 8A-8C together depict transition sequences used to rotate the magnetic field in an etching chamber.”
(当審訳:「[0048] 図8A-8Cは共にエッチングチャンバ内で磁場を回転させるために使用する移行シーケンスを図示している。」)

D “[0050] FIG. 8C depicts using various combinations of coils to achieve a substantially smooth rotation of the magnetic field during a 90[deg.] rotation in accordance with another embodiment of the invention. The currents are indicated as normalized values relative to the high magnetic field coil current and the direction of the current is indicated by a plus or minus. For example, at time to, a magnetic field "BCD" is generated by adjacent magnetic coils 302_(2) and 302_(3) (i.e., the polarity of magnetic coil 302_(3) is opposite to the polarity of magnetic coil 302_(2)). Current also passes through sub-magnetic coils 504_(1) and 504_(3) to provide a magnetic field "A" that helps shape the magnetic field at the ends of the adjacent magnetic coils 302_(2) and 302_(3). Note that the polarity of the current in sub-magnetic coil 504_(1) is opposite to the polarity of the current in sub-magnetic coil 504_(3).
[0051] At t1, current is applied to the respective coils 302 and 504 such that a diminished magnetic field "CD" is generated by adjacent magnetic coils 302_(2) and 302_(3). The numbers and respective polarities depicted represent relative (normalized) magnitude and polarity of the applied currents. For example, the current that passes through magnetic coil 302_(1) has a polarity opposite to sub-magnetic coil 504_(3). As such, the portion of the magnetic field represented by "A" is transitioned between 504_(3) and 302_(1). The sub-magnetic coil 504_(1) causes the portion of the magnetic field represented by "B" to be generated at sub-magnetic coil 504_(1) and main magnetic coil 302_(3). The transitioning process is performed by increasing and decreasing the current between main magnetic coils 302 and sub-magnetic coils 504.
[0052] At t2, current is applied to the sub-magnetic coils 504_(1) and 504_(2) and the current is increased at main magnetic coil 302_(1). As a result, the magnetic field represented by "B" moves vertically between main magnetic coils 302_(1) and 302_(3). The portion of the magnetic field represented by "C" transitions towards sub-magnetic coil 504_(1).
[0053] At t3, no current is applied to main magnetic coil 302_(2), and there is an increase in the current applied to main magnetic coil 302_(1). As a result, the portion of the magnetic field represented by "C" flows vertically between main magnetic coils 302_(1) and 302_(3).
[0054] At t4, the current at main magnetic coil 302_(2) is turned on and the current at 302_(3) is decreased. As a result, the portion of the magnetic field represented by "D" flows between main magnetic coil 302_(2) and sub-magnetic coil 504_(1).
[0055] At t5, the current at sub-magnetic coil 504_(3) is turned off, the current at main magnetic coil 302_(3) is decreased, and the current at main magnetic coil 302_(2) is increased. As a result, the portions of the magnetic fields represented by "A," "B," "C," and "D" flow between the coils as shown.
[0056] Lastly, at t6, the current is increased at main magnetic coil 302_(2) and turned off at main magnetic coil 302_(3). As a result, the magnetic field gradient represented by "A" flows between sub-magnetic coils 504_(2) and 504_(4) and the magnetic field represented by "BCD" flows between main magnetic coils 302_(1) and 302_(2), i.e., the magnetic field has been rotated by 90[deg.] while maintaining a gradient during the transition.
[0057] FIG. 8C should be considered one example of using the invention to rotate the magnetic field. Other current combinations may produce useful magnetic field rotation.”
(当審訳:「[0050] 図8Cは、本発明の別の実施形態による、様々な組合せのコイルを用いることで90度の回転の間に磁場を実質的に円滑に回転させる様子を図示している。電流は高磁場コイル電流に相対させた正規化値として表わされ、電流の方向はプラス又はマイナスで示されている。例えば、t0時で、磁場「BCD」が隣接する磁気コイル302_(2)及び302_(3)により発生する(つまり、磁気コイル302_(3)の極性は磁気コイル302_(2)の極性と反対)。電流は副磁気コイル504_(1)及び504_(3)も通過し、これにより隣接する磁気コイル302_(2)及び302_(3)の端部での磁場の成形の助けとなる磁場「A」が得られる。副磁気コイル504_(1)における電流の極性が副磁気コイル504_(3)を流れる電流の極性とは逆であることに留意しなくてはならない。
[0051] t1時で、電流を各コイル302及び504に印加することで、隣接する磁気コイル302_(2)及び302_(3)により減弱した磁場「CD」が発生する。図示した数字及び各極性は印加した電流の相対(正規化)強度と極性を示す。例えば、磁気コイル302_(1)を通る電流の極性は副磁気コイル504_(3)と反対である。このため、「A」で表わされる磁場の一部は504_(3)と302_(1)との間で変遷する。副磁気コイル504_(1)により副磁気コイル504_(1)と主磁気コイル302_(3)で「B」で表わされる磁場の一部が発生する。移行プロセスは、主磁気コイル302と副磁気コイル504との間の電流を増大又は減少させることで行われる。
[0052] t2時で、電流を副磁気コイル504_(1)、504_(2)に印加し、電流を主磁気コイル302_(1)で増大させる。この結果、「B」で表わされる磁場は主磁気コイル302_(1)とコイル302_(3)との間を垂直に移動する。「C」で表わされる磁場の一部は副磁気コイル504_(1)に向かって移行する。
[0053] t3時では、主磁気コイル302_(2)に電流を印加せず、主磁気コイル302_(1)に印加する電流を増大させる。この結果、「C」で表わされる磁場の一部は主磁気コイル302_(1)と302_(3)の間を垂直に流れる。
[0054] t4時では主磁気コイル302_(2)の電流をオンにし、302_(3)での電流を減弱させる。この結果、「D」で表わされる磁場の一部が主磁気コイル302_(2)と副磁気コイル504_(1)との間に流れる。
[0055] t5時で、副磁気コイル504_(3)の電流をオフにし、主磁気コイル302_(3)での電流を減弱させ、主磁気コイル302_(2)での電流を増大させる。この結果、「A」「B」「C」「D」で表わされる磁場の一部が図示されるようにコイル間を流れる。
[0056] 最後に、t6時で、主磁気コイル302_(2)での電流を増大させ、主磁気コイル302_(3)の電流をオフにする。この結果、「A」で表わされる磁場勾配が副磁気コイル504_(2)と504_(4)との間に流れ、「BCD」で表わされる磁場が主磁気コイル302_(1)と302_(2)との間を流れ、つまり移行中、勾配を維持しながら磁場は90度回転させられる。
[0057] 図8Cは磁場を回転させるための、本発明の実施形態の使用の一例にすぎない。その他の電流組合せでも有用な磁場回転は得られる。」)

E 図8C(FIG.8C)には、t0?t6の時間の間の主磁場コイル及び副磁場コイルにより発生する磁場について、
t0時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(3)と504_(1)により磁場[A]を発生し、
t1時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[C,D]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[B]、副磁気コイル504_(3)と主磁気コイル302_(1)による磁場[A]を発生し、
t2時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[C]、副磁気コイル504_(2)と主磁気コイル302_(2)による磁場[D]を発生し、
t3時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B,C]、副磁気コイル504_(2)とコイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t4時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[C]、主磁気コイル302_(2)と副磁気コイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t5時で、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(4)による磁場[A]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[B]、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[C,D]を発生し、
t6時で、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(2)と504_(4)による磁場「A」を発生することで、
t0時の磁場の形状を90度回転した磁場の形状が、t6時に発生することが記載されている。

ここで、上記引用文献の記載事項について検討する。
F チャンバとコイルの構成について
上記Aには、チャンバ内の磁場の形状をより高度に制御するために、「副磁気コイル504_(1)、504_(2)、504_(3)及び504_(4)(副磁気コイル504と総称する)は主磁気コイル302に近接させて巧みに配置」することが記載され、上記Bには、上記Aの図5のコイル構成として、「4つの主磁気コイル(302_(1),302_(2),302_(3),302_(4))がコーナーにおいて相互に重なり部を有してチャンバ5の周囲を取り囲むように配置し、4つの副磁気コイル(504_(1),504_(2),504_(3),504_(4))のそれぞれが主磁気コイルの重なり部の外側に近接して配置」された構成が記載されている。
よって、引用文献には、「4つの主磁気コイル(302_(1),302_(2),302_(3),302_(4))がコーナーにおいて相互に重なり部を有してチャンバ5の周囲を取り囲むように配置し、4つの副磁気コイル(504_(1),504_(2),504_(3),504_(4))のそれぞれが主磁気コイルの重なり部の外側に近接して配置」されたチャンバとコイルの構成が記載されていると認められる。

G チャンバ内の磁場について
上記Cには、「エッチングチャンバ内で磁場を回転させる」ことが記載され、上記Dには、「図8Cは、本発明の別の実施形態による、様々な組合せのコイルを用いることで90度の回転の間に磁場を実質的に円滑に回転させる様子」が図示されていることが記載されている。
よって、引用文献には、「エッチングチャンバ内で磁場を実質的に円滑に回転させる方法」が記載されていると認められる。

H チャンバ内の磁場の変化について
上記Eには、図BCに時間毎に発生する磁場の形状の変化について、図8Cに、
t0時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(3)と504_(1)により磁場[A]を発生し、
t1時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[C,D]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[B]、副磁気コイル504_(3)と主磁気コイル302_(1)による磁場[A]を発生し、
t2時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[C]、副磁気コイル504_(2)と主磁気コイル302_(2)による磁場[D]を発生し、
t3時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B,C]、副磁気コイル504_(2)とコイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t4時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[C]、主磁気コイル302_(2)と副磁気コイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t5時で、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(4)による磁場[A]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[B]、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[C,D]を発生し、
t6時で、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(2)と504_(4)による磁場「A」を発生すること、
が記載されている。

よって、上記A乃至H及び関連図面の記載から、引用文献には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「4つの主磁気コイル(302_(1),302_(2),302_(3),302_(4))がコーナーにおいて相互に重なり部を有してエッチングチャンバの周囲を取り囲むように配置し、4つの副磁気コイル(504_(1),504_(2),504_(3),5044)のそれぞれが主磁気コイルの重なり部の外側に近接して配置され、
t0時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(3)と504_(1)により磁場[A]を発生し、
t1時に、主磁気コイル302_(3)と302_(2)による磁場[C,D]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[B]、副磁気コイル504_(3)と主磁気コイル302_(1)による磁場[A]を発生し、
t2時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[C]、副磁気コイル504_(2)と主磁気コイル302_(2)による磁場[D]を発生し、
t3時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B,C]、副磁気コイル504_(2)とコイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t4時に、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)による磁場[A,B]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[C]、主磁気コイル302_(2)と副磁気コイル504_(1)による磁場[D]を発生し、
t5時で、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(4)による磁場[A]、副磁気コイル504_(2)と主磁場コイル302_(1)による磁場[B]、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[C,D]を発生し、
t6時で、主磁気コイル302_(2)とコイル302_(1)による磁場[B,C,D]、副磁気コイル504_(2)と504_(4)による磁場「A」を発生して、
エッチングチャンバ内で磁場を実質的に円滑に回転させる方法。」


3.3 対比
(1)本件補正発明と引用発明との対応関係について
ア チャンバの対応関係について
引用発明の「エッチングチャンバ」は、本件補正発明の「処理チャンバ」に相当しているので、引用発明も「処理チャンバ内で磁場を回転させる方法」であるといえる。

イ 磁気を発生させるコイルの対応関係について
引用発明の「4つの主磁気コイル」、「4つの副磁気コイル」は、本件補正発明の「第1の複数の磁場発生コイル」、「第2の複数の磁場発生コイル」に相当しており、引用発明の「4つの副磁気コイル(504_(1),504_(2),504_(3),504_(4))のそれぞれが主磁気コイルの重なり部の外側に近接して配置」されていることから、引用発明も「第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け」た構成であるといえる。

ウ コイルを組合せて磁気を発生させる点について
引用発明では、例えば、t1時において、主磁気コイル302_(3)と副磁気コイル504_(1)による磁場[B]、副磁気コイル504_(3)と主磁気コイル302_(1)による磁場[A]を発生させていることから、主磁気コイルのサブセットと主磁気コイルのサブセットを組み合わせてエッチングチャンバ内に磁場を形成しているといえる。

エ 本件補正発明の磁場形状について
本件補正発明の磁場形状については、本願明細書の段落【0065】に、
「(1)通常、磁場がその時間のほぼ全てに亘りとっている磁場形状(以下、「形状」又は「1次形状」と称する)及び(2)次の磁場形状への移行形状(又は複数の移行形状)(以下、「移行形状」と称する)。」、「1次磁場形状は図面では0度と称される任意の方向から開始される。ハードウェアを制御することで、移行磁場形状、続いて90度回転した1次磁場形状が再度得られる。」、「形状(0度)→移行(0-90度)→形状(90度)→移行(90-180度)→形状(180度)→移行(180-270度)→形状(270度)→移行(270-0度)→形状(0度)に戻る。」、「従って、0度での形状及び0度から90度への移行形状を規定することで、全回転を説明することができる。」
ことが記載されている。
これらの記載から、本件補正発明の「1次形状」とは、磁場が「0度」のときの形状であり、「少なくとも2つの連続移行形状」とは、磁場が「0度」から複数の段階で「90度」へ移行するまでの間の磁場の形状であり、「回転された1次形状」とは、磁場が「90度」のときの形状であると認められる。

オ 磁場形状の対応関係について
引用文献の図8Cには、t6時の磁場形状が、t0時の磁場形状を90度回転したものとなっていること、引用文献の上記Dに、t0時からt6時までの間で磁場の変化させることにより、「つまり移行中、勾配を維持しながら磁場は90度回転させられる。」ことが記載されていることを踏まえると、引用発明のt0時の磁場形状は「0度」の磁場形状、t6時の磁場形状は「90度」の磁場形状、t1時からt5時まで磁場形状は磁場が「0度」から複数の段階で「90度」へ移行するまでの間の磁場の形状であるということができる。
してみると、本件補正発明の磁場形状について検討した上記エの事項を踏まえれば、引用発明のt0時の磁場形状、t1時からt5時まで磁場形状、t6時の磁場形状は、本件補正発明の「1次形状」、「少なくとも2つの連続移行形状」、「回転された1次形状」に相当していると認められるので、引用発明も「チャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、この一連の磁場形状が、1次形状と、少なくとも2つの連続移行形状と、回転された1次形状を含」むものと認められる。

カ 引用発明の磁気コイルの電流がゼロになる場合について
引用文献の図8Cに記載された時間毎の数値については、引用文献の上記Dに「電流は高磁場コイル電流に相対させた正規化値として表わされ、電流の方向はプラス又はマイナスで示」したものであることが記載されているところ、主磁気コイル302_(2)に流れる電流をみると、t0時に「-1」であった電流が、徐々に減少してt3時に「0」になり、その後、方向を変えて徐々に増加し、t6時に「+1」になることが記載されている。
即ち、引用文献では、主磁気コイル(302_(2))に流される電流の最大値は、t0時の「0度」とした場合の磁場形状からt6時の「90度」とした場合の磁場形状への移行の間において、ゼロに等しくなることが図8Cに記載されているといえるので、引用発明も「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しくする方法」であると認められる。

(2)本件補正発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。

「処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しくする方法。」

(3)本件補正発明と引用発明の相違点について
本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

(相違点)
本件補正発明は、「一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか定かではない点で相違する。


3.4 当審の判断
(1)相違点について
最初に、図8Cに記載された時間毎の各コイルに流れる電流の数値が、どのコイルに流れる電流により正規化されたものであるかを検討し、次に、時間毎に各コイルに流れる電流の大きさから磁場の強度の変化を検討する。
(1-1)各コイルの流れる電流の数値
引用文献の上記Dには、t3時?t6時の間、主磁気コイル302_(2)の電流を増大させる一方、主磁気コイル302_(3)の電流を減弱させることが記載されているものの、主磁気コイル302_(1)の電流を変化させることは記載されておらず、そのことは、引用文献の図8Cにおいて、主磁気コイル302_(2)の電流の大きさを「+0.000」→「+0.220」→「+0.780」→「+1」のように増大させ、主磁気コイル302_(3)の電流の大きさを「+1」→「+0.780」→「+0.220」→「+0.000」のように減弱させ、主磁気コイル302_(1)は「+1」を維持したものとして記載されている。
これらのことから、図8Cに記載された時間毎の数値が「電流は高磁場コイル電流に相対させた正規化値」であることを踏まえて、引用発明におけるコイルに流れる電流について検討すると、主磁気コイル302_(1)には、一定の高磁場コイル電流がt3時?t6時の間に流れ、他のコイルに流れる電流の大きさは、主磁気コイル302_(1)に流れる一定電流に相対する正規値として、図8Cに記載されていると認められる。同様に、t0時?t3時の期間では、主磁気コイル302_(3)には一定の高磁場コイル電流が流れ、他のコイルに流れる電流の大きさは、主磁気コイル302_(3)に流れる一定電流に相対する正規値として、図8Cに記載され、t3時では、主磁気コイル302_(3)とコイル302_(1)に流れる電流の方向は反対であるが大きさは同じであると認められる。
よって、図8Cの記載では、各時間の「+1」及び「-1」と記載された数値の電流の大きさは同じであり、各時間の数値はそれら「+1」及び「-1」とされた電流に基づいた共通の正規化された値であるといえる。

(1-2)磁場の強度の変化について
磁場の強度は、コイルに流れる電流の大きさに比例するものであるから、時間毎の複数のコイルに流れる電流の大きさを加算することで磁場の強度を推定することができる。
そして、上記(1-1)で検討したように、時間毎に各コイルに流れる電流の大きさは、共通の正規化された値として図8Cに記載されていると認められるので、図8Cに記載された時間毎のプラスあるいはマイナスの電流値を加算することで、時間毎の磁場の強度を推定できることになる。
そこで、t0時の磁場の強度をプラスの電流を加算して求めるとすると、主磁気コイル302_(3)の「+1」と副磁気コイル504_(3)の「+0.220」を加算した「+1.220」の値となり、同様にt1時?t6時の時間毎の加算値を求めると、全て同じ「+1.220」の値となる。このことは、t0時?t6時の各時間において、磁場の強度は一定であることを意味していると解される。

よって、引用発明においても、「一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」ことが行われているものと認められるので、上記相違点は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に実質的な相違点があるとしても、引用文献の上記Dには、図8Cに記載された磁場の発生が、「様々な組合せのコイルを用いることで90度の回転の間に磁場を実質的に円滑に回転させる」ものであること、「移行中、勾配を維持しながら磁場は90度回転させられる」ものであることが記載されているので、引用発明では、チャンバ内で発生する磁場は、t0時の磁場の形状と強度を維持しながら90度回転させることであると認められるので、引用文献に接した当業者であれば、引用発明において、「一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」ように磁場を発生させる必要があることは、容易に推考できたものである。

(1-3)本件補正発明の作用効果について
審判請求人は、平成25年8月9日付け審判請求書の「5.特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に関する主張」において、
「引用文献1のFig.8Cでは、例えば時間t3において、2つのコイル(コイル302_(2)と302_(4))に印加される電流がゼロであり、本願発明の条件には該当しない。」
と主張している。
しかしながら、本件補正発明の「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等しく」では、「ゼロに等しく」なる電流が印加される「第1の複数の磁場発生コイル」は、「1つ又はそれ以上」とされ、1つに限定されていないため、「引用文献1のFig.8C」における「時間t3において、2つのコイル(コイル302_(2)と302_(4))に印加される電流がゼロ」である場合も、本件補正発明の構成要件に含まれることになるので、上記審判請求人の主張を採用することはできない。
そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

よって、本件補正発明は引用発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本件補正発明は、引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


3.5 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 補正却下の決定を踏まえた検討

1.本願発明
平成25年8月9日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年7月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至13に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」「1」の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し、一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する方法。」


2.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、上記「第2」「3」「(2)」に記載したとおりである。


3.対比
本願発明と本件補正発明とは、「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値」について、本願発明が「いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し」ているのに対し、本件補正発明は「いずれの2つの隣り合う形状の移行の間、ゼロに等し」い点のみが異なるため、この点について以下に検討する。
上記「第2」「3」「3.3」「(1)」の「カ 引用発明の磁気コイルの電流がゼロになる場合について」に、
「引用文献の図8Cに記載された時間毎の数値については、引用文献の上記Dに『電流は高磁場コイル電流に相対させた正規化値として表わされ、電流の方向はプラス又はマイナスで示』したものであることが記載されているところ、主磁気コイル302_(2)に流れる電流をみると、t0時に『-1』であった電流が、徐々に減少してt3時に『0』になり、その後、方向を変えて徐々に増加し、t6時に『+1』になることが記載されている。」
と記載したように、引用文献では、主磁気コイル(302_(2))に流される電流の最大値は、t0時の「0度」とした場合の磁場形状からt6時の「90度」とした場合の磁場形状への移行の間において、電流の極性が負から正に逆転することが図8Cに記載されているといえるので、引用発明も「第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有し」たものであると認められる。
よって、本願発明と引用発明は、下記の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「処理チャンバ内で磁場を回転させる方法であり、
第1の複数の磁場発生コイルとその周囲に配置された第2の複数の磁場発生コイルを有する処理チャンバを設け、
第1の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットを第2の複数の磁場発生コイルの少なくともサブセットと組み合わせて使用することでチャンバ内に一連の磁場形状のそれぞれを形成することを含み、
この一連の磁場形状が、
1次形状と、
少なくとも2つの連続移行形状と、
回転された1次形状を含み、
第1の複数の磁場発生コイルの1つ又はそれ以上に印加される1つの電流の最大値は、いずれの2つの隣り合う形状の移行の間に逆転する極性を有する方法。」

(相違点)
本願発明は、「一連の磁場形状の各々の磁場の全体の強度を、ほぼ一定の強度に維持する」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか定かではない点で相違する。


4.判断
上記相違点は、本件補正発明と引用発明との相違点と同じである。
そうすると、上記「第2」「3」「3.4」に記載したとおり、上記相違点は実質的な相違点とはいえない。また、仮に実質的な相違点があるとしても、引用文献に接した当業者であれば、容易に推考できたものである。
よって、本願発明は引用発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
また、本願発明は、引用発明及び引用文献に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


5.むすび
本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明及び引用文献に記載された事項にづき、当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから、特許法第29条第2項の規定によっても特許を受けることができない。
したがって、本件は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-04 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-24 
出願番号 特願2007-324102(P2007-324102)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 由美子  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 松本 貢
飯田 清司
発明の名称 磁場強化型プラズマリアクタにおける磁場成形方法  
代理人 安齋 嘉章  

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