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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1303239
審判番号 不服2014-9556  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-22 
確定日 2015-07-16 
事件の表示 特願2011-159916「プラズマ処理装置及び成膜方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月10日出願公開、特開2011-225999〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成18年 8月 8日に出願された特願2006-216135号の一部を平成23年 7月21日に新たな特許出願としたものであって、平成25年 5月17日付けの拒絶理由が通知され、同年 7月16日付けの手続補正がされたが、同年12月16日付けの拒絶理由が通知され、平成26年 4月 9日付けの拒絶査定がされたものであり、これに対し、この査定を不服として、同年 5月22日付けで本件審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

2.補正の却下の決定

結 論:
平成26年 5月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

理 由:
(1)補正の内容

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、次の補正事項を有する。

-補正前-
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にDLC成膜用の処理ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に50?500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にDLC膜を成膜するプラズマ処理装置であり、
前記基材は、金型、機械部品及び工具のいずれかであることを特徴とするプラズマ処理装置。

-補正後-(下線部が補正箇所)
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にDLC成膜用の処理ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内の前記基材に50?500kHzの高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内に前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にDLC膜を成膜するプラズマ処理装置であり、
前記基材は、金型、機械部品及び工具のいずれかであることを特徴とするプラズマ処理装置。

(2)補正の目的

上記補正事項は、発明特定事項である「50?500kHzの高周波出力を供給する」対象を、補正前の「チャンバー内」から補正後の「チャンバー内の前記基材」へと限定するものであり、補正前後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものといえる。

(3)独立特許要件

次に、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(3-1)引用例の記載

本願出願前に日本国内において、頒布された刊行物である、
特表2004-501793号公報(以下、「引用例」という。)
には、次の記載がある。

【請求項1】
摩耗保護、腐食保護、および滑り特性の向上などのための層システムであって、基板の上に配置される接着層と、接着層の上に配置される遷移層と、DLCまたはダイヤモンド層とを有しており、層システムは、DLCまたはダイヤモンド層の上に、DLCまたはダイヤモンド層の組成とは異なる化学組成を有する滑り層が配置されることを特徴とする、層システム。

【請求項17】
基板の上に層システム、特に請求項1?16のいずれかに記載の層システムを生成するためのプロセスであって、以下のプロセスステップ、すなわち、
a) 基板を真空チャンバ内へ導入し、10^(-3)mbar未満、好ましくは10^(-5)mbar未満の圧力が得られるまでチャンバを排気するステップと、
b) 基板表面を洗浄するステップと、
c) 基板の上に接着層をプラズマ支援堆積させるステップと、
d) 接着層の上に遷移層を、接着層成分のプラズマ支援堆積と気相からのカーボンの堆積とを同時に行なうことによって堆積させるステップと、
e) 遷移層の上にDLCまたはダイヤモンド層を、気相からのカーボンのプラズマ支援堆積によって被着させるステップと、
f) DLCまたはダイヤモンド層の上に滑り層を、気相からのカーボンの堆積によって被着させるステップとを含み、
基板バイアス電圧は少なくともプロセスステップc)、d)、e)、およびf)の間に基板に印加され、プラズマは少なくともプロセスステップd)およびe)の間に磁場によって安定化されることを特徴とする、プロセス。
【請求項18】
少なくともプロセスステップb)?f)のうちの1つの間、バイポーラまたはユニポーラのバイアス電圧は基板に印加され、正弦波であっても他の形状であってもよい前記バイアス電圧は、1?10,000kHz、好ましくは20?250kHzの中間周波数範囲でパルス化されることを特徴とする、請求項17に記載のプロセス。

【請求項23】
DLCまたはダイヤモンド層は、気相からのカーボンのプラズマCVD堆積によって生成され、カーボン含有ガス、好ましくは炭化水素ガス、特にアセチレンが反応ガスとして用いられることを特徴とする、請求項17?22に記載のプロセス。

【請求項25】
1つまたはそれ以上の基板をコーティングし、特に特色17?24に記載のコーティングプロセスを実行するための装置であって、真空チャンバ(1)を有し、真空チャンバ(1)は、真空チャンバ(1)内に真空を生成するためのポンプシステム(9)と、コーティングされる基板を受ける基板保持装置(3)と、プロセスガスの供給を投与するための少なくとも1つのガス供給ユニット(8)と、堆積用のコーティング材を利用可能にする少なくとも1つの気化装置(14)と、低電圧d.c.アークを点火するアーク生成装置(10、13)と、基板バイアス電圧を生成するための装置(16)と、遠距離場を形成するための少なくとも1つまたはいくつかの磁場生成装置(17)とを有する、装置。
※審決注:下線部は「請求項17?24」の誤記と解される。

【0040】
前述の特性を有するこの発明に従った層システムの利点は、大きな層厚と優れた接着性との第1の成功した組合せを、工業生産において比較的単純なプロセス手順を可能とするのに依然として十分なコンダクタンスで補足することによって構成される。
【0041】
実質的な硬度が>15GPa、好ましくは≧20GPaであるにもかかわらず、この層は、この発明に従ったその構造およびプロセスステップのため、明らかに向上した接着性を示す。従来の層システムはここでは層の応力を減少させるために機能層(DLC)におけるドーピングを必要とするが、ドーピングは硬度も減少させる。
【0042】
部分的に貝殻状の窪みがある脆いアモルファス層の典型的な破壊を有する、以前から公知のDLC層とは異なり、この発明に従った層の破壊面のREM写真は、粒子が細かく真直ぐな破壊面を明らかにしている。上述の特性プロファイルを備える層は、機械組立における用途、たとえば自動車の内燃エンジンおよびギヤに用いられるような多大な負荷のかかるポンプまたはダイホルダピストンおよびバルブ駆動装置、カムおよび/またはカムシャフトをコーティングするためだけでなく、滑り特性が良好である特に硬く滑らかな表面を有することが要求される、多大な負荷のかかるギヤホイール、プランジャ、ポンプスピンドル、および他の構成要素を保護するためにも、特に好適である。
【0043】
工具の分野では、これらの層は、その非常に硬い硬度と非常に滑らかな表面とを考慮すると、非切削動作(圧搾、穿孔、深絞り、…)用および射出成形金型用の工具に有利に使用でき、さらに、鉄材加工時、特にその用途が非常に硬い硬度と小さな摩擦係数との組合せを要する場合にある制限を受けるが、切削工具にも有利に使用できる。

【0078】
接着層、遷移層、および被覆層を堆積させるためのプロセスステップの間、特に遷移層および被覆層の形成中に基板に印加されるバイアス電圧は、直流電圧(DC)であってACまたはパルスを重畳したもの、または変調された直流電圧、特に1?10,000kHz、好ましくは20?250kHzの中間周波数範囲でパルス化されたユニポーラ(負)またはバイポーラ基板バイアス電圧であってもよい。この目的のために用いられるパルスの形は、対称的-たとえば、正弦波、矩形、または鋸歯状-であっても、または、負が長く正が短いパルス周期もしくは負が大きく正が小さい振幅を印加するような方法で非対称的であってもよい。

【0109】
さまざまなプロセスガス、特にアルゴンおよびアセチレンを、ガス注入口8および図面には示されていない適切な調整装置を通し、プロセスチャンバ内へ送ることができる。

【0137】
勾配層
この時間が経過した後、正弦波オシレータをスイッチオンすることによってプラズマが点火される。アセチレンが50sccmの初期圧力でチャンバ内に導入され、その流れは次に毎分10sccmずつ増加される。
【0138】
正弦波プラズマ発生器は、40kHzの周波数で2400Vの振幅電圧に設定される。発生器は基板ホルダとチャンバの壁との間でプラズマ放電を点火する。受容体に取付けられたヘルムホルツコイルは両方とも一定の電流量で活性化され、電流は下部コイルで3A、上部コイルで10Aとなる。アルゴン流が230sccmに到達すると、クロムターゲットは不活性化される。
【0139】
DLCコーティング
アセチレン流が350sccmの値に達すると、アルゴン流は50sccmの値にまで削減される。

(3-2)引用発明の認定

引用例には、【請求項1】に、基板の上に配置される接着層、遷移層、DLC層とを有する層システム、【請求項17】に、当該層システムを生成するためのプロセスであって、遷移層の上にDLC層を、気相からのカーボンのプラズマ支援堆積によって被着させるステップを含み、当該ステップの間、基板バイアス電圧が基板に印加されるプロセス、【請求項25】に、当該プロセスを実行するための装置であって、真空チャンバを有し、該真空チャンバが、基板を受ける基板保持装置とプロセスガスの供給をするガス供給ユニットと基板バイアス電圧を生成する装置とを有するものが記載されている。さらに、【請求項23】に、前記気相として、特にアセチレンが用いられること、【0109】に、前記ガス供給ユニットとして、アセチレンをチャンバ内に送るガス注入口が記載されている。
してみると、引用例には、DLC層を基板に被着させる装置として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「真空チャンバを有し、
前記真空チャンバが、基板を受ける基板保持装置と、
アセチレンを前記真空チャンバ内に送るガス注入口と、
前記基板に印加する基板バイアス電圧を生成する装置と、
を有し、
前記基板バイアス電圧を印加し、DLC層をアセチレンからのカーボンのプラズマ支援堆積によって前記基板に被着させる装置。」

(3-3)発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「真空チャンバ」「基板」「アセチレン」「DLC層」は、それぞれ本願補正発明の「チャンバー」「基材」「DLC成膜用の処理ガス」「DLC膜」に相当する。また、引用発明の「基板を受ける基板保持装置」が前記真空チャンバ内に配置され、「ガス注入口」が前記真空チャンバに繋げられているのは明らかだから、これらは、それぞれ本願補正発明の「基材を保持する基材ホルダー」「ガス導入経路」に相当する。そして、引用発明の「DLC層をアセチレンからのカーボンのプラズマ支援堆積によって前記基板に被着させる装置」は、本願補正発明の「DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にDLC膜を成膜するプラズマ処理装置」に相当するといえる。
してみると、本願補正発明のうち、
「チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内にDLC成膜用の処理ガスを導入するガス導入経路と、
を具備し、
前記チャンバー内に前記DLC成膜用の処理ガスのプラズマを発生させて前記基材にDLC膜を成膜するプラズマ処理装置。」
の点は、引用発明と一致し、両者は次の点で相違する。

相違点1:本願補正発明が、「前記基材に50?500kHzの高周波出力を供給する高周波電源を具備し、前記高周波電源から供給された高周波出力によりプラズマを発生させる」のに対し、引用発明は、「前記基板に印加する基板バイアス電圧を生成する装置を有し、前記基板バイアス電圧を印加し、プラズマ支援堆積」をする点。

相違点2:本願補正発明において、「前記基材は、金型、機械部品及び工具のいずれかである」のに対し、引用発明において、基板の用途は明らかでない点。

(3-4)相違点の判断

相違点1について
引用例には、引用発明の「基板バイアス電圧」について、【請求項18】に、20?250kHzの中間周波数範囲でパルス化されたものが好ましく、【0078】に、この「パルス化された基板バイアス電圧」について、対照的な正弦波等により変調された直流電圧であることが記載されており、【0137】?【0139】には、具体例において、正弦波オシレータにより振幅電圧を発生させ、これによって基板ホルダとチャンバの壁との間でプラズマ放電を点火し、DLCコーティングをしたことも記載されている。
してみると、「基板に印加する20?250kHzの対照的な正弦波により変調された直流電圧を生成する装置」が、「基板に20?250kHzの高周波出力を供給する高周波電源」に相当することは明らかだから、引用発明において、基板バイアス電圧を生成する装置として、本願補正発明と重複する「50?250kHz」の高周波出力を供給する高周波電源を使用し、該高周波出力よりプラズマを発生させること、すなわち、相違点1を解消することは、引用例の上記記載から、当業者が容易になし得たことである。
なお、請求人は審判請求書で、「パルス化された基板バイアス電圧」が、プラスのみの電圧を断続的に印加するものであると主張しているが、そのようなことは、引用例に記載も示唆もされていない。

相違点2について
引用例には、【0040】?【0043】に、引用発明により生成される層システムが、カムなどの機械要素や切削工具に有利に使用できることが記載されている。
してみると、引用発明において、基板の用途を機械部品や工具とすること、すなわち、相違点2を解消することは、引用例の上記記載から、当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ

よって、上記補正事項を有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.原査定の理由について

本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、 平成25年 7月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(「2.(1)」の「-補正前-」参照)により特定されるとおりのものと認める。
これに対し、原査定の理由の一つは、
「本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。
そこで検討するに、「2.(2)(3)」にて述べたとおり、本願発明を減縮した本願補正発明でさえ、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるのだから、本願発明が、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の理由について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2011-159916(P2011-159916)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C23C)
P 1 8・ 572- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 大橋 賢一
後藤 政博
発明の名称 プラズマ処理装置及び成膜方法  
代理人 柳瀬 睦肇  
代理人 柳瀬 睦肇  

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