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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1303243
審判番号 不服2014-16429  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-20 
確定日 2015-07-16 
事件の表示 特願2010-219842「半導体加工用接着フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日出願公開、特開2012- 74623〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成22年9月29日を出願日とする出願であって、
平成25年6月3日付けで審査請求がなされ、
平成26年4月23日付けで拒絶理由通知(同年5月7日発送)がなされ、
これに対して平成26年6月6日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
平成26年7月1日付けで上記平成26年4月23日付けの拒絶理由通知書に記載した理由(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(平成26年7月8日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成26年8月20日付けで審判請求がなされたものである。


第2 本願発明の認定

本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年6月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「突起電極付ウエハのバックグラインド時には突起電極付ウエハを保持し、かつ、突起電極付半導体チップの実装時には接着剤として機能する半導体加工用接着フィルムであって、ポリエステル系基材フィルムと、電極保護層と、接着剤層とがこの順で積層されており、前記接着剤層の厚みが、突起電極付半導体チップの突起電極の平均高さより薄く、かつ、接着剤層及び電極保護層の厚みの和が、前記突起電極の平均高さより厚く、
突起電極付ウエハに貼り合わせた後、25℃、引張り角度180°、引張り速度300mm/分の条件で剥離試験を行ったとき、前記電極保護層と前記接着剤層との間で界面剥離が生じ、前記電極保護層と前記接着剤層とのいずれにも糊残りが観察されず、かつ、剥離強度が5?95gf/25mmである
ことを特徴とする半導体加工用接着フィルム。」


第3 先行技術・引用発明の認定

3-1 引用文献1及び引用発明
本願の出願日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成26年4月23日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2005-28734号公報(平成17年2月3日公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(下線は、当審にて附加した。)

A 「【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の積層シートは、突起電極付ウエハの裏面を研削する工程において、該ウエハの回路面に貼りつけて使用されるものであり、少なくとも、回路面と接する層(A層)が熱硬化性樹脂層であり、A層の上に直接積層された層(B層)が40℃?80℃で1?300MPaの引張り弾性率を有する突起電極を埋め込むための柔軟性の熱可塑性樹脂層であり、かつ最外層(C層)が少なくとも25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層であることに大きな1つの特徴を有する。
【0011】
フリップチップ実装においては、突起電極を形成したウエハを所定の厚さまで研削した後、該ウエハを個々の半導体素子に切断し、得られた半導体素子を配線回路基板上に搭載し、樹脂封止を行う。本発明の積層シートを突起電極が存在する回路面に貼りつけた場合、通常、突起電極はA層を貫通してB層に至ることになるが、B層は突起電極を埋め込み得る柔軟性を有しており、該電極を包み込んで保護するので、ウエハ加工時の突起電極の損傷等が防止される。また、本発明の積層シートは充分に密に回路面上に貼りつけることができるので、突起電極と該シートとの間に実質的にボイドが生ずることはなく、バンプ充填性に優れる。
【0012】
研削されたウエハは外力に対して強度が低いが、一定の強度を示すC層を有する本発明の積層シートをA層を介してウエハの回路面に貼ることで充分に該ウエハの強度を高めることができ、研削後にウエハが割れることが実質的にない。また、研削後のウエハの反りも防止され得る。従って、優れたウエハ加工性が得られる。
【0013】
また、本発明の積層シートは、通常、ウエハの研削後、A層のみを残して他の層を除去(剥離)して用いるが、A層は半導体素子と配線回路基板との間を樹脂封止し得る封止機能を有しており、該シートを用いて半導体装置を製造する場合、樹脂封止はA層により行われる。A層は、通常、突起電極を覆うことなく(通常、突起電極はA層を貫通する)、半導体素子と配線回路基板との間を樹脂封止するのに適度な量の熱硬化性樹脂組成物で構成されることから、チップ搭載後に該チップ周辺に過剰の樹脂がはみ出すことはなく、また、突起電極と配線回路との電気的接続を阻害することもなく、得られる半導体装置は優れた電気接続信頼性を有する。
・・・(中略)・・・
【0016】
中でも、A層を構成する熱硬化性樹脂組成物としては、耐熱性、耐湿性および接着性の向上の観点から、(イ)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(ロ)硬化剤、(ハ)潜在性硬化促進剤、および(ニ)熱可塑性樹脂を含有してなる樹脂組成物が好適に使用される。かかる樹脂組成物の詳細については後述する。」

B 「【0018】
本発明の積層シートにおけるB層は、A層の上に直接積層された層であり、突起電極を埋め込むための柔軟性のある熱可塑性樹脂層である。B層を形成するにあたっては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチルビニルアセテート、ポリエチレンビニルアセテート、ポリエチレンメチルアクリレート、ポリエチレンエチルアセテート、ポリエチレンブチルアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウタレン、ポリエステル系ポリウタレン、ポリエーテル系ポリウタレン、アクリル-ウレタン複合ポリマーなどが用いられる。これらは単独で使用されてもよく、また2種以上併用されてもよい。
【0019】
また、B層は、バンプ充填性およびその剥離性の向上の観点から、40?80℃において、1?300MPa、好ましくは2?250MPa、より好ましくは3?200MPaの引張り弾性率を有する。前記例示した材料を適宜組み合わせてB層を形成することで、所望の引張り弾性率を有するものとすることができる。従って、B層を構成する熱可塑性樹脂層は、本発明の積層シートをウエハの回路面に貼りつけた際に、突起電極が充分に埋め込まれ得る、すなわち、貫入し得る程度の柔軟性を有する。
【0020】
B層の厚さは特に限定されるものではないが、通常、25?200μm、好ましくは50?150μmである。
【0021】
また、本発明の積層シートとしては、突起電極の高さをh、A層の厚さをAt、B層の厚さをBtとした時、以下の式:
At<h
(At+Bt)>h
を満たすものが好適である。なお、hは、通常、10?200μm程度である。
【0022】
本発明の積層シートにおけるC層は、少なくとも25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層である。少なくとも25℃で非可塑性であるので、フリップチップ実装における研削工程で、ウエハの充分な加工性を維持することができる。C層を形成するにあたっては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、2軸延伸ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミドなどが用いられる。これらは単独で使用されてもよく、また2種以上併用されてもよい。」

C 図3から図8には、それぞれ図1の積層シートを、図2の突起電極5が設けられているウエハ4に貼着し(図3)し、ウエハ4の裏面が研削により薄くされ(図4)、ウエハ4の裏面にダイシングテープ6が貼着され(図5)、A層1をウエハ電極面に残しつつ積層シートのB層2とC層3とが取り除かれ(図6)、ウエハ4が個片に分割され(図7)、個片が配線回路基板8上にA層を介して接続された様(図8)として、一連の工程が図示されていると見てとれる。


上記Aには、以下の事項が記載されている。
- 積層シートは、突起電極付ウエハの裏面を研削する工程において、該ウエハの回路面に貼りつけて使用されるものであること
- 積層シートは、回路面と接する熱硬化性樹脂層であるA層、当該熱硬化性樹脂層の上に直接積層されたウエハの突起電極を埋め込むための柔軟性の熱可塑性樹脂層であるB層、最外層である25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層であるC層の積層構造であること
- 積層シートを突起電極が存在する回路面に貼り付けた場合、突起電極はA層を貫通してB層に至ること
- A層を残し、他の層を剥離した際、A層は突起電極を覆っていないこと
- A層を構成する熱硬化性樹脂組成物として、接着性を有するエポキシ樹脂を含有してなる樹脂組成物が好適に使用されること


上記Bには、以下の事項が記載されている。
- B層は、ポリ塩化ビニルなどが用いられること
- C層は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが用いられること
- 積層シートは、突起電極の高さをh、A層の厚さをAt、B層の厚さをBtとした時、At<h、(At+Bt)>h、を満たすこと


以上のことから、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「突起電極付ウエハの裏面を研削する工程において、該ウエハの回路面に貼りつけて使用され、かつ、半導体装置に個片化されたチップを配線回路基板に接続する際にはA層が樹脂封止として機能する積層シートであって、
回路面と接する熱硬化性樹脂層であって、接着性を有するエポキシ樹脂を含有してなる樹脂組成物とされるA層、当該熱硬化性樹脂層の上に直接積層されたウエハの突起電極を埋め込むための柔軟性の熱可塑性樹脂層であって、ポリ塩化ビニルとされるB層、最外層である25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層であるC層が積層されており、
前記C層は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートとされ、
突起電極の高さをh、A層の厚さをAt、B層の厚さをBtとした時、At<h、(At+Bt)>h、を満たすものである
積層シート。」

3-2 引用文献2及びその技術的事項
本願の出願日前に頒布され、原審の上記平成26年4月23日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2008-1822号公報(平成20年1月10日公開、以下、「引用文献2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

D 「【0001】
本発明は、半導体ウェハの加工方法及び該半導体ウェハの加工方法に用いる半導体ウェハ加工用粘着フィルムに関する。更に詳しくは、半導体ウェハの回路非形成面の研削及び研削などの回路非形成面に対する加工処理における半導体ウェハを保護するための半導体ウェハの加工方法及び該加工方法に用いる半導体ウェハ加工用粘着フィルム、並びに、半導体ウェハ加工用粘着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハを加工する方法は、半導体ウェハの回路形成面(以下、半導体ウェハ表面)に半導体ウェハ表面保護用の粘着フィルムを貼り付ける粘着フィルム貼着工程、半導体ウェハの回路非形成面(以下、半導体ウェハ裏面)に切削、研磨などの加工を行うウェハ裏面加工工程、粘着フィルムを剥離する剥離工程、半導体ウェハをチップに分割切断するダイシング工程、分割された半導体チップをリードフレームへ接合するダイボンディング工程を経た後、半導体チップを外部保護のために樹脂で封止するモールド工程等により構成され、これらの加工を行って半導体ウェハが得られる。」

E 「【0023】
本発明の粘着フィルムは、通常、室温近傍の温度、即ち、例えば、18?30℃程度の室内において、半導体ウェハの集積回路形成面(以下、表面という)に粘着剤層を介して貼着した後、半導体ウェハの集積回路非形成面(以下、裏面という)に加工を施し、次いで、半導体ウェハ表面保護用粘着フィルムを剥離する半導体ウェハの裏面加工工程に用いられるものである。」

F 「【0055】
また、粘熱剤層の粘着力、即ち粘着フィルムの粘着力は、ウェハ裏面の研削加工、薬液処理時等におけるウェハの保護性と、ウェハから剥離する際の作業性との双方に影響する。ウェハ裏面の研削加工、薬液処理時等におけるウェハの保護性(研削水、研削屑及び薬液等の浸入防止)を考慮すれば、JIS Z-0237に規定される方法に準拠して、被着体としてSUS304-BA板を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件下で測定した粘着力が、10?700g/25mmであることが好ましい。より好ましくは10?500g/25mmである。」


第4 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「積層シート」を構成するとした「回路面と接する熱硬化性樹脂層であって、接着性を有するエポキシ樹脂を含有してなる樹脂組成物とされるA層」、「当該熱硬化性樹脂層の上に直接積層されたウエハの突起電極を埋め込むための柔軟性の熱可塑性樹脂層であって、ポリ塩化ビニルとされるB層」、及び「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートとされ」た「最外層である25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層であるC層」は、各々、
「回路面と接する熱硬化性樹脂層であって、接着性を有するエポキシ樹脂を含有してなる樹脂組成物とされるA層」が、本件明細書の【0031】にて、好ましい材料とされた「エポキシ樹脂」と、具体的な材料候補とされたものが共通し、
「当該熱硬化性樹脂層の上に直接積層されたウエハの突起電極を埋め込むための柔軟性の熱可塑性樹脂層であって、ポリ塩化ビニルとされるB層」が、本件明細書の【0020】にて、好ましい材料とされた「ポリ塩化ビニル」と、具体的な材料候補とされたものが共通し、
「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートとされ」た「最外層である25℃で非可塑性の熱可塑性樹脂層であるC層」が、本件明細書の【0012】にて、例示された「ポリエチレンテレフタレート」、「ポリブチレンテレフタレート」と、具体的な材料候補とされたものが共通しているので、
本願発明の「半導体加工用接着フィルム」を構成するとした「接着剤層」、「電極保護層」、及び「ポリエステル系基材フィルム」に相当する。

また、引用発明の「突起電極付ウエハの裏面を研削する工程」は、本願発明の「突起電極付ウエハのバックグラインド」に相当する。
同様に、引用発明の「半導体装置に個片化されたチップを配線回路基板に接続する」は、本願発明の「突起電極付半導体チップの実装」に相当する。
加えて、上記「A層」と「接着剤層」との一致を見た過程で、引用発明の「A層」が接着剤として機能することが確認されているので、引用発明の「A層」が有する機能は、本願発明で言う「接着剤として機能」することを内在したものと言える。
以上併せると、引用発明の「積層シート」と、本願発明の「半導体加工用接着フィルム」とは、想定する用途とされた工程が一致し、また基板上の接続時に残存した層が有する機能の面から見ても、引用発明の「積層シート」は、本願発明の「半導体加工用接着フィルム」に相当する。

更に、引用発明の「積層シート」を構成する「A層」及び「B層」と、「突起電極」との、互いの厚み/高さの関係を規定する「突起電極の高さをh、A層の厚さをAt、B層の厚さをBtとした時、At<h、(At+Bt)>h、を満たすものである」は、前記対応関係で示した本願発明の「接着剤層」、「電極保護層」の各々の厚みと、「突起電極」の平均高さとの関係を規定する「前記接着剤層の厚みが、突起電極付半導体チップの突起電極の平均高さより薄く、かつ、接着剤層及び電極保護層の厚みの和が、前記突起電極の平均高さより厚く、」に、「高さ」の扱いに関し、「平均」を付すか否かを除いては、両者は共通する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

「突起電極付ウエハのバックグラインド時には突起電極付ウエハを保持し、かつ、突起電極付半導体チップの実装時には接着剤として機能する半導体加工用接着フィルムであって、ポリエステル系基材フィルムと、電極保護層と、接着剤層とがこの順で積層された
半導体加工用接着フィルム」

(相違点1)
「接着剤層」、「電極保護層」の「厚み」と、「突起電極」の「高さ」との関係に関し、本願発明では、「突起電極」の「高さ」を、「平均高さ」であるとしたうえで、「前記接着剤層の厚みが、突起電極付半導体チップの突起電極の平均高さより薄く、かつ、接着剤層及び電極保護層の厚みの和が、前記突起電極の平均高さより厚く、」としているのに対して、引用発明の対応する箇所では、単に「高さ」として特定したうえで、「突起電極の高さをh、A層の厚さをAt、B層の厚さをBtとした時、At<h、(At+Bt)>h、を満たすものである」とされている点。

(相違点2)
「半導体加工用接着フィルム」に関する特定として、本願発明ではその剥離について「突起電極付ウエハに貼り合わせた後、25℃、引張り角度180°、引張り速度300mm/分の条件で剥離試験を行ったとき、前記電極保護層と前記接着剤層との間で界面剥離が生じ、前記電極保護層と前記接着剤層とのいずれにも糊残りが観察されず、かつ、剥離強度が5?95gf/25mmであること」としているのに対して、引用発明の「積層シート」の剥離は、結果として図6に図示されるように剥離がなされることを示すに留まり、客観的試験特性については不明である点。

第5 判断

上記相違点1-2について検討する。

(相違点1について)
本願発明で、突起電極の高さに関して、単なる高さとせず、平均高さとしている点について、どのような扱いをしているのかを見てみる。
半導体装置のチップに突起電極を備えるとした仕様について、本件明細書の【0002】に、フリップチップ型の半導体チップ実装体の生産が挙げられている。フリップチップ実装とは従来のワイヤーによる端子接続ではなく、チップ表面に突起をつくり、ひっくり返し(=フリップ)て基板と直接接合する方式であり、突起先端で作られる面と、基板面との、面同士の接触を指す。
つまり、一般的には突起の高さは理想的には揃っているという前提でなされる実装形態である。
これを裏付けるように、本件明細書では作成される突起電極が、最初からその高さが不揃いであるとは、どこにも明記されておらず、突起電極と接着剤層の高さの関係を論じた本願明細書の【0080】では、突起電極より接着剤層が低かった場合に接着剤の噛み込みが発生するおそれがあるとしながらも、その高さの比に、噛み込みが生じない程度の余裕は考慮されておらず、「1以上」とされているところから見ても、突起電極の高さの不揃いが、はっきりした違いがないことを窺わせる記述が見受けられる。
そうすると、本件での突起電極の扱いとしては、原則高さ一定としながらも、いわゆる製造公差程度の微差はあると考え、単なる高さという表現を用いず、“平均”を伴う表記をなしたとみるのが相当である。
そして、突起電極の高さに、“平均”を採用していない引用発明と見比べてみると、引用文献1の【0002】にしても、フリップチップ実装を念頭に置いての突起電極であるとされている点で、本願発明と一致した態様であり、電極上に接着剤層が存在することによる接続信頼性を問題視した記述も、【0005】に見てとれる。
とすれば、当該相違点1に係る構成は、両者の突起電極高さに、そもそも顕著な差は無く、単なる記載上の扱いによる微差と言うべきであり、両者に格別の相違は無いと認められる。

(相違点2について)
上記「第3 先行技術・引用発明の認定」の3-2に、引用文献2に記載された技術的事項として示したとおり、半導体ウェハの加工用として、回路形成面に貼着し、後にウェハから剥離する前提で使用される粘着フィルムに関し、その好ましい粘着力の目安として、被着体がSUS304-BA板に対する剥離試験を、JIS Z-0237に準拠して行った場合(注:被着体以外の剥離速度、剥離角度、温度は、元々JISで定められており、本願発明の相違点2で挙げられた条件は、JISの定めに略一致している。)に、10?700g/25mm、より好ましくは10?500g/25mmとされることが、本願出願前に公知である。
当該公知の剥離強度値の好適範囲は、数値範囲上、前記相違点2で本願発明が定める剥離強度の数値範囲と大部分が重複する関係にあることが明らかであり、剥離力の数値上は一致している。
ただし、引用文献2に記載の剥離強度値は、粘着剤(=本願発明では「電極保護層」に相当する)を貼着する相手方、すなわち被着体が、引用文献2ではSUS304-BA板とされた上で呈するものであり、本願発明の剥離強度値は、被着体がSUS304-BA板ではなく、粘着層の表面に僅かに突出電極の頂部が散在した層面である点で、接着条件が不揃いと言うことができ、両者の剥離強度が似かよったものであるか、あるいは相当に異なるものであるかは、直ちに断じえるものではない。
しかしながら、次の3つの点、

(1)本願発明の電極保護層と、引用文献2の粘着剤とが、共にアクリル樹脂の一種同士という共通点が有ること、
(2)被着体をSUS304-BA板に求めた場合であっても、粘着剤が示す剥離強度の大きさが、一般的な再剥離性に富む仮止めテープが示す剥離強度が500gf/25mm程度であることを考えると、相当に軽い数値範囲でも良いとした程度が、引用文献2では示されていることが窺えること、
(3)剥離強度として、5?95gf/25mmの範囲が、再剥離性を有するテープ乃至フィルム材として一般的であること(例えば、特開平3-64385号公報の第1表では、ステンレス板以外の被着体も示されつつ、100gf/25mm以下の接着力(=剥離強度)測定値が記載されている。)、

を考慮すれば、本願発明の被着体に対して示す剥離強度の程度は、ある程度の接着力を有しつつ再剥離性が要求される部材に、通常求められる剥離強度の域を脱するものであるとまでもは、再剥離部材の分野の技術常識から見て考えられるものではなく、引用文献2に記載の粘着剤が有する剥離強度は、被着体が半硬化した樹脂組成物へ変わったとしても、請求人が実質的な相違と主張するほどの違いを示さないとの見通しが十分に成り立つというべきである。

以上のことから、当該相違点2に係る構成は、一般的な再剥離性を有する部材の剥離強度を示しているに過ぎず、その接着力の剥離性の度合いに関して、本願発明が示す接着力の度合いと、引用文献2に記載された粘着テープが有する接着力の度合いとの間で、顕著な相違を形成するに至らず、実質的な相違を与えるものではないと認められる。

上記で検討したごとく、当該相違点1ないし2は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1乃至2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2010-219842(P2010-219842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 石川 好文
西村 泰英
発明の名称 半導体加工用接着フィルム  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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