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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B |
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管理番号 | 1304574 |
審判番号 | 不服2014-9948 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-28 |
確定日 | 2015-08-17 |
事件の表示 | 特願2011-535968「物体の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日国際公開,WO2010/054969,平成24年 4月12日国内公表,特表2012-508869〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は,特許法184条の3第1項の規定により平成21年11月4日(パリ条約による優先権 平成20年11月13日 イタリア)にされたとみなされる特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成25年 7月26日:拒絶理由通知(同年同月30日発送) 平成25年12月27日:意見書 平成26年 1月23日:拒絶査定(同年同月28日送達) 平成26年 5月28日:手続補正書(以下「本件補正」という。) 平成26年 5月28日:審判請求 平成26年 7月 4日:前置報告 平成26年 8月20日:上申書(前置報告に対し) 第2 補正却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 「 外面(16)と,当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)と,を有する物体(2)の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置(1)であって, 所定帯域内で多数の波長を含む低コヒーレンスの放射線ビーム(I)を放射する放射線源(4)と, 前記物体(2)に入り込むことなく前記外面(16)によって反射される放射線ビーム(R1)と,前記物体(2)に入り込んで前記内面(17)によって反射される放射線ビーム(R2)と,の間の干渉の結果であるスペクトルを分析するスペクトル計(5)と, 前記放射線源(4)と前記スペクトル計(5)とに光ファイバ(8,10,11)を介して接続されており,前記物体(2)の前記外面(16)へ向けて前記放射線源(4)によって放射される放射線ビーム(I)を方向付けると共に,前記物体(2)によって反射される放射線ビーム(R)を集積するべく,計測対象の半導体材料のスライス片(2)と向かい合うように配置される光学プローブ(6)と, 前記スペクトル計(5)によって提供されるスペクトルの関数として前記物体(2)の厚さを計算する演算処理装置(18)と, を備え, 前記放射線源(4)は,互いに異なっていて,且つ,同時に活性化される,複数の放射線ビームを放射する少なくとも2つの個別のエミッタ(20)を有する ことを特徴とする装置(1)。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(下線は,当審判体が付した。以下同じ。)。 「 外面(16)と,当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)と,を有する単層の半導体材料で形成された物体(2)の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置(1)であって, 所定帯域内で多数の波長を含む低コヒーレンスの放射線ビーム(I)を放射する放射線源(4)と, 前記物体(2)に入り込むことなく前記外面(16)によって反射される放射線ビーム(R1)と,前記物体(2)に入り込んで前記内面(17)によって反射される放射線ビーム(R2)と,の間の干渉の結果であるスペクトルを分析するスペクトル計(5)と, 前記放射線源(4)と前記スペクトル計(5)とに光ファイバ(8,10,11)を介して接続されており,前記物体(2)の前記外面(16)へ向けて前記放射線源(4)によって放射される放射線ビーム(I)を方向付けると共に,前記物体(2)によって反射される放射線ビーム(R)を集積するべく,計測対象の半導体材料のスライス片(2)と向かい合うように配置される光学プローブ(6)と, 前記スペクトル計(5)によって提供されるスペクトルの関数として前記物体(2)の厚さを計算する演算処理装置(18)と, を備え, 前記放射線源(4)は,互いに異なっていて,且つ,同時に活性化される,複数の放射線ビームを放射する少なくとも2つの個別のエミッタ(20)を有する ことを特徴とする装置(1)。」 2 補正の目的 本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の「物体(2)」の構成を,「単層の半導体材料で形成された物体(2)」と限定して,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正であるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。 そこで,本件補正後発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。 3 独立特許要件違反 (1) 引用例1に記載の事項 本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,特開2004-226178号公報(公開日:平成16年8月12日,発明の名称:「分光式厚さ計測装置。」,出願番号:特願2003-12880号,出願日:平成15年1月21日,出願人:中谷 進(外1名),以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は主にシリコンウエハの厚み計測に最適な分光式厚み計測装置に関する。」 イ 「【0002】 【従来技術】 従来,ハロゲンラップを照射部とした可視光線を照射して0.05ミクロン?0.5ミクロンの極薄シリコンウエハ(主に成長した結晶)の反射光を分光してその厚みを計測する分光式厚み計測装置が知られている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 前述した従来技術は,0.05μ?0.5μの極薄のシリコンウエハの厚みを計測するためにハロゲンランプからの可視光線を該シリコンウエハに照射して,表面及び裏面らかの計測に必要な強さの反射光を得て分光しその分光情報により該シリコンウエハの厚みを計測するものであるが,700μ程度の厚さに切断形成されて裏面に保護テープの張られたシリコンウエハを切削して形成した,100μとか200μなどの保護テープ付きの厚みのあるシリコンウエハの厚みを計測しようとしても,シリコンウエハに照射された前記可視光線がシリコンウエハの裏面にまで到達せず,このため裏面からの反射光が得られず厚みが計測できないものであった。また,ハロゲンランプは2000時間程度の寿命しかなく,ランプの交換を行わなければならず管理が煩雑であるという欠点があった。このため例えば,700ミクロン程度で提供されるシリコンウエハ原盤を切削してその厚みを所望する例えば20μ?50μ程度の厚みのシリコンウエハ板を形成するには,接触式の計測装置で計測しなければならず,保護テープ付きのものは特に正確な厚みが得られないという問題を持つものであった. 【0004】 本発明は以上のような従来技術の欠点に鑑み,略20μ程度以上の厚さで裏面に保護テープが張られてなるシリコンウエハ等の非透明被測定物の厚みを非接触で計測することができ且つ光源が超寿命の分光式厚み計測装置を提供するにある。」 ウ 「【0007】 【発明の実施の形態】 以下,図面に示す実施の形態により,本発明を詳細に説明する。 【図1】 【0008】 図1ないし図5に示す本発明の第1の実施の形態において1は分光式厚み計測装置であって,この分光式厚み測定装置1は900?1200ナノメータ程度の近赤外線2を該2が透過するが可視的には非透明である20μ程度?400μ程度の厚みのシリコンウエハからなる被測定物3に照射する照射部4と,この照射部4に近赤外線2を光ファイバー13により供給する発光ダイオードからなる光源14と,被測定物3からの表面反射光5と裏面反射光12を検出するハーフミラーを有する反射光検出部6と,この反射光検出部6で検出した表面反射光5と裏面反射光12をミラー7に送る光ファイバー22と,ミラー7から反射された表面反射光5と裏面反射光12を受光して分光するグレーティングプリズムからなる分光部8と,この分光部8から放射される分光9を検出するCCD素子などの分光検出部10と,この分光検出部10で検出された分光情報11をFFT計算して被測定部3の厚さdを算出する演算部20とからなっている。被測定物3の裏面には保護テープ21が張られている。本装置1はシリコンウエハの厚さを片面より非接触にて測定するユニットである。1つの光源で表面及び裏面の反射光を利用しウエハの厚さを測る為ため,裏面の保護テ-プ等の影響がなく,屈折率が判明しているものでは絶対的な厚さを測定することが出来る。また,以下の実施の形態に示すようなモジュ-ル化することにより,必要最低限のモジュ-ル部を既存の装置に組み込んで,電源供給により通信コマンドで制御,測定の操作できる。その測定原理および計算方法は図 に示す通りである。本装置1による接触式との比較データを図3ないし図5に示している。」 【図2】 エ 「【0012】 【発明の効果】 以上の説明から明らかなように,本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。 【0013】 略900?1200ナノメータ程度の近赤外線を照射光としたことにより,従来の可視光線では計測不可能であった,従来のものより遥かに厚みのあるシリコンウエハの裏面からの計測可能な反射光を得ることができ,現在出願人が入手できる発光ダイオードの光源強さでは厚さ20μ程度?400μ程度のシリコンウエハの厚みを被接触で計測で,且つ,光源を発光ダイオードにしたので光源の長寿命化を実現した分光式厚さ計測装置を実現するという効果を得ることができる。これにより,例えば700ミクロン程度で提供されるシリコンウエハ原板を400μm以下に切削してその厚みを非接触で正確に計測し,あと何ミクロン切削すると所望する例えば20μm?50μm程度の厚みにできるか計測することが可能となり,のシリコンウエハの切削加工を効率よく且つ高精度に加工することを可能とできるという効果をもたらすものである。当然より強力な近赤外線を照射する強力光源LEDが存在しあるいは開発されるならば,より厚いシリコンウエハの厚み測定も可能となる。例えば,800μm以上を測定できるようになるなら,シリコンウエハの原盤の厚みを測定し,後何ミクロン切削すると所望の厚みを得ることができるかわかるので,一回の切削操作により所望の厚みのシリコンウエハを形成することが可能となり生産性の向上をもたらす。」 (2) 引用発明 これら記載内容からみて,引用例1には,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定のために参考にした引用例1の記載箇所に,下線を引いてある。 「900?1200ナノメータ程度の近赤外線2を,被測定物3に照射する照射部4, 照射部4に近赤外線2を光ファイバー13により供給する発光ダイオードからなる光源14, 被測定物3からの表面反射光5と裏面反射光12を検出するハーフミラーを有する反射光検出部6, 反射光検出部6で検出した表面反射光5と裏面反射光12をミラー7に送る光ファイバー22, ミラー7から反射された表面反射光5と裏面反射光12を受光して分光するグレーティングプリズムからなる分光部8, 分光部8から放射される分光9を検出するCCD素子などの分光検出部10, 分光検出部10で検出された分光情報11をFFT計算して被測定部3の厚さdを算出する演算部20からなり, 被測定物3は,近赤外線2が透過するが可視的には非透明である20μ程度?400μ程度の厚みのシリコンウエハからなり,裏面には保護テープ21が張られていて, 900?1200ナノメータ程度の近赤外線を照射光としたことにより,20μ程度?400μ程度のシリコンウエハの厚みを非接触で計測でき,光源を発光ダイオードにしたので光源の長寿命化を実現し, 例えば,700ミクロン程度で提供されるシリコンウエハ原板を400μm以下に切削してその厚みを非接触で正確に計測し,あと何ミクロン切削すると所望する例えば20μm?50μm程度の厚みにできるか計測することが可能となり,シリコンウエハの切削加工を効率よく且つ高精度に加工することを可能とできる, 分光式厚み計測装置1。」 (3) 引用例2に記載の事項 本件出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である,特開2003-114107号公報(公開日:平成15年4月18日,発明の名称:「膜厚測定装置」,出願番号:特願2001-309172号,出願日:平成13年10月4日,出願人:オムロン株式会社,以下「引用例2」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】測定光として赤外光を使用することを特徴とする光干渉式の膜厚測定装置。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は,例えば,液晶表示パネル用カラーフィルタとして機能するRGB各レジスト膜の膜厚測定等の用途に好適な光干渉式の膜厚測定装置に係り,特に,測定媒体として赤外光を使用することにより,フィルタとしての波長選択特性の影響を受けることなく,RGB各レジスト膜の膜厚を正確に測定可能とした膜厚測定装置に関する。」 ウ 「【0013】他方,小型で寿命が長くかつ発熱しない光源装置を使用したインライン測定も可能な光干渉式の膜厚測定装置としては,先に,本出願人より国際公開公報WO01/01070A1において提案された膜厚センサが知られている。 【0014】しかし,この膜厚センサにあっても,カラーフィルタの各RGBレジスト膜に適用した場合には,光源装置から発せられる約400nm?700nmの波長領域にかけての広い波長領域の白色光は,カラーフィルタのRGBレジスト膜を各波長均一に透過することができないから,依然として,膜厚測定に必要な適正な干渉波形を生成させることができない。」 エ 「【0022】 【課題を解決するための手段】本発明の光干渉式の膜厚測定装置は,測定光として赤外光を使用することを特徴とする。使用可能な赤外光の波長領域としては,干渉波形が明瞭に現れる限りにおいては,その上下限を制限する積極的な理由は存在しない。しかし,波長が短いほど,薄い膜まで測定が可能であること,波長帯域が広いほど,干渉波形から精度良く膜厚を算出することがかのうであること,光電変換素子として使用するCCD素子の受光感度特性は波長が長くなるほど低下すること等を考慮すると,測定光として使用される赤外光としては,約800nm?1000nmの波長領域において連続波長帯域を有するものであることが好ましい。 【0023】本発明の光干渉式の膜厚測定装置に好適な測定対象膜体としては,先ず第1に,液晶表示パネル用カラーフィルタとして機能するRGB各レジスト膜を挙げることができる。すなわち,先に説明したように,RGB各レジスト膜は可視光領域においてはそれぞれ固有の光吸収特性を有するものの,赤外光領域においては殆ど光吸収特性は存在せず,ほぼ透明に近い光透過特性を有する。そのため,光干渉式の膜厚測定装置において,測定光として赤外光が使用されれば,RGBレジスト膜において明瞭な光干渉波形を現出させることができ,これに基づいて,カーブフィッティング法や極値探査法等の公知の演算手法により,それらの膜厚を正確に測定することができる。 【0024】他の好適な測定対象膜体としては,ポリシリコン等のシリコン系の薄膜が挙げられる。このようなシリコン系の膜体も可視光吸収特性を有するため,測定光として可視光を使用する場合には,明瞭な光干渉波形を現出させることができない。本発明の赤外光を使用する光干渉式の膜厚測定装置によれば,シリコン系の膜体にあっても,十分に膜体中に赤外光を透過させて,明瞭な光干渉波形を現出させることにより,その膜厚を正確に測定することができる。」 オ 「【0064】次に,マルチLED方式の光源装置を含むセンサヘッドの光学系の概略構成図が図12に示されている。 【図12】 同図において,第1実施形態と同一構成部分については同符号を付して説明は省略する。 【0065】このマルチLED方式の光源装置の特徴は,出力波形特性の異なる複数の半導体赤外発光素子と,各半導体赤外発光素子からそれぞれ一部波長域の光を取り出す光学素子と,各半導体赤外発光素子の出力パワーを個別に設定する手段とを有し,各半導体赤外発光素子から取り出された光を重ね合わせて出射するようにした点にある。 【0066】すなわち,このセンサヘッド1内には,第1の赤外光LED111と,第2の赤外光LED112と,第3の赤外光LED113と,第1のダイクロイックミラー(DCM)114と,第2のダイクロイックミラー(DCM)115とが含まれている。 【0067】この例では,第1の赤外光LED111としてはLN151L(松下),第2の赤外光LED112としてはL1915-01(浜松ホトニクス)や,第3の赤外光LED113としてはL3989-01(浜松ホトニクス)が使用されている。 【0068】これら3個の赤外光LED(LED1,LED2,LED3)は,それぞれ固有の波長を中心としたピーク波形を有する。そして,2個のダイクロイックミラー(DCM1,DCM2)は,これら3つのピーク波形を合成することによって,約800nm?1000nmの領域において,連続した波長特性が実現されている。 【0069】膜厚光干渉式で高精度に測定するためには,広い波長域の光によって得られた干渉波形を得る必要がある。そこで,この実施形態のように,異なるピーク波長を持つ赤外光LEDを複数用いて途切れることのない広い波長域を得ることにより,膜厚を高精度に測定することが可能となる。」 (4) 引用例2記載技術 これら記載内容からみて,引用例2には,以下の発明が記載されている(以下「引用例2記載技術」という。)。なお,引用例2記載技術の認定のために参考にした引用例2の段落番号等を付記する。 「【0024】好適な測定対象膜体としては,ポリシリコン等のシリコン系の薄膜が挙げられ, 【0065】出力波形特性の異なる複数の半導体赤外発光素子と,各半導体赤外発光素子からそれぞれ一部波長域の光を取り出す光学素子と,各半導体赤外発光素子の出力パワーを個別に設定する手段とを有し,各半導体赤外発光素子から取り出された光を重ね合わせて出射するようにし, 【0069】膜厚光干渉式で高精度に測定するためには,広い波長域の光によって得られた干渉波形を得る必要があり,そこで,異なるピーク波長を持つ赤外光LEDを複数用いて途切れることのない広い波長域を得ることにより,膜厚を高精度に測定することが可能となる, 【請求項1】測定光として赤外光を使用する光干渉式の膜厚測定装置。」 (5) 対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 物体(2) 引用発明の被測定物3は,「近赤外線2が透過するが可視的には非透明である20μ程度?400μ程度の厚みのシリコンウエハからなり,裏面には保護テープ21が張られ」たものである。 したがって,引用発明の被測定物3の「表面」及び「裏面」は,それぞれ,本件補正後発明の「外面(16)」及び「当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)」に相当する。また,引用発明の「近赤外線2が透過するが可視的には非透明である20μ程度?400μ程度の厚みのシリコンウエハ」は,本件補正後発明の「外面(16)と,当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)と,を有する単層の半導体材料で形成された物体(2)」に相当する。 イ 放射線源(4) 引用発明は,「照射部4に近赤外線2を光ファイバー13により供給する発光ダイオードからなる光源14」を有する。ここで,発光ダイオードが「所定帯域内で多数の波長を含む低コヒーレンスの放射線ビーム(I)を放射する」ことは,技術常識である。 引用発明の「光源14」は,本件補正後発明の「所定帯域内で多数の波長を含む低コヒーレンスの放射線ビーム(I)を放射する放射線源(4)」に相当する。 ウ スペクトル計(5) 引用発明は,「反射光検出部6で検出した表面反射光5と裏面反射光12をミラー7に送る光ファイバー22」,「ミラー7から反射された表面反射光5と裏面反射光12を受光して分光するグレーティングプリズムからなる分光部8」及び「分光部8から放射される分光9を検出するCCD素子などの分光検出部10」を有する。 したがって,引用発明の「ミラー7」,「分光部8」及び「分光検出部10」を併せたものは,本件補正後発明の「前記物体(2)に入り込むことなく前記外面(16)によって反射される放射線ビーム(R1)と,前記物体(2)に入り込んで前記内面(17)によって反射される放射線ビーム(R2)と,の間の干渉の結果であるスペクトルを分析するスペクトル計(5)」に相当する。 エ 光学プローブ(6) 引用発明は,「900?1200ナノメータ程度の近赤外線2を,被測定物3に照射する照射部4」,「照射部4に近赤外線2を光ファイバー13により供給する発光ダイオードからなる光源14」,「被測定物3からの表面反射光5と裏面反射光12を検出するハーフミラーを有する反射光検出部6」及び「反射光検出部6で検出した表面反射光5と裏面反射光12をミラー7に送る光ファイバー22」を有する。 ここで,放射線源(4)及びスペクトル計(5)については,前記イ及びウの対比のとおりである。また,引用発明の「反射光検出部6」が,「被測定物3」との間にレンズ等適宜の光学系を備え,被測定物3と向かい合うように配置されていることは,技術常識に鑑みると,自明である(図6からも類推できる事項である。)。 そうしてみると,引用発明の「光ファイバー13」及び「光ファイバー22」は,本件補正後発明の「光ファイバ(8,11)」及び「光ファイバ(10)」に相当する。また,引用発明の「照射部4」は,本件補正後発明の「前記物体(2)の前記外面(16)へ向けて前記放射線源(4)によって放射される放射線ビーム(I)を方向付ける」の要件を満たし,引用発明の「反射光検出部6」は,本件補正後発明の「前記物体(2)によって反射される放射線ビーム(R)を集積する」の要件を満たす。 したがって,引用発明の「照射部4」及び「反射光検出部6」を併せてなるものは,本件補正後発明の「前記放射線源(4)と前記スペクトル計(5)とに光ファイバ(8,10,11)を介して接続されており,前記物体(2)の前記外面(16)へ向けて前記放射線源(4)によって放射される放射線ビーム(I)を方向付けると共に,前記物体(2)によって反射される放射線ビーム(R)を集積するべく,計測対象の半導体材料のスライス片(2)と向かい合うように配置される光学プローブ(6)」に相当する。 オ 演算処理装置(18) 引用発明は,「分光検出部10で検出された分光情報11をFFT計算して被測定部3の厚さdを算出する演算部20」を有する。 また,スペクトル計(5)については前記ウの対比のとおりである。 したがって,引用発明の「演算部20」は,本件補正後発明の「前記スペクトル計(5)によって提供されるスペクトルの関数として前記物体(2)の厚さを計算する演算処理装置(18)」に相当する。 カ 装置(1) 以上の対比結果,並びに,引用発明及び本件補正後発明の全体構成を勘案すると,引用発明の「分光式厚み計測装置1」は,本件補正後発明の「外面(16)と,当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)と,を有する単層の半導体材料で形成された物体(2)の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置(1)」に相当する。 (6) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明の一致点は,以下のとおりである。 「 外面(16)と,当該外面(16)に対して反対側に位置する内面(17)と,を有する単層の半導体材料で形成された物体(2)の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置(1)であって, 所定帯域内で多数の波長を含む低コヒーレンスの放射線ビーム(I)を放射する放射線源(4)と, 前記物体(2)に入り込むことなく前記外面(16)によって反射される放射線ビーム(R1)と,前記物体(2)に入り込んで前記内面(17)によって反射される放射線ビーム(R2)と,の間の干渉の結果であるスペクトルを分析するスペクトル計(5)と, 前記放射線源(4)と前記スペクトル計(5)とに光ファイバ(8,10,11)を介して接続されており,前記物体(2)の前記外面(16)へ向けて前記放射線源(4)によって放射される放射線ビーム(I)を方向付けると共に,前記物体(2)によって反射される放射線ビーム(R)を集積するべく,計測対象の半導体材料のスライス片(2)と向かい合うように配置される光学プローブ(6)と, 前記スペクトル計(5)によって提供されるスペクトルの関数として前記物体(2)の厚さを計算する演算処理装置(18)と, を備える装置(1)。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明の相違点は,以下のとおりである。 (相違点) 本件補正後発明の「前記放射線源(4)は,互いに異なっていて,且つ,同時に活性化される,複数の放射線ビームを放射する少なくとも2つの個別のエミッタ(20)を有する」のに対して,引用発明の「光源14」は,この構成を具備するとはいえない点。 (7) 判断 引用発明の被測定物3は,「近赤外線2が透過するが可視的には非透明である20μ程度?400μ程度の厚みのシリコンウエハからなり,裏面には保護テープ21が張られ」ており,また,引用発明の分光式厚み計測装置1は「900?1200ナノメータ程度の近赤外線を照射光としたことにより,20μ程度?400μ程度のシリコンウエハの厚みを非接触で計測でき,光源を発光ダイオードにしたので光源の長寿命化を実現し」たものであるところ,本件出願の優先日前において,「好適な測定対象膜体としては,ポリシリコン等のシリコン系の薄膜が挙げられ」る「測定光として赤外光を使用する光干渉式の膜厚測定装置」として,「膜厚光干渉式で高精度に測定するためには,広い波長域の光によって得られた干渉波形を得る必要があり,そこで,異なるピーク波長を持つ赤外光LEDを複数用いて途切れることのない広い波長域を得ることにより,膜厚を高精度に測定することが可能となる」という知見に基づいて,「出力波形特性の異なる複数の半導体赤外発光素子と,各半導体赤外発光素子からそれぞれ一部波長域の光を取り出す光学素子と,各半導体赤外発光素子の出力パワーを個別に設定する手段とを有し,各半導体赤外発光素子から取り出された光を重ね合わせて出射する」構成を採用した,引用例2記載技術が知られている。 引用発明は,「例えば,700ミクロン程度で提供されるシリコンウエハ原板を400μm以下に切削してその厚みを非接触で正確に計測し,あと何ミクロン切削すると所望する例えば20μm?50μm程度の厚みにできるか計測することが可能となり,シリコンウエハの切削加工を効率よく且つ高精度に加工することを可能とできる」というものであるから,引用発明の光源14として引用例2記載技術の構成を採用して,「前記放射線源(4)は,互いに異なっていて,且つ,同時に活性化される,複数の放射線ビームを放射する少なくとも2つの個別のエミッタ(20)を有する」ものとすることは,引用発明の効果の延長線上において,当業者が容易にできた事項である。 また,本件補正後発明の効果は,引用発明及び引用例2記載技術から予測される範囲内のものである。 (8) 請求人の主張について 請求人は,上申書において,「引用文献1に記載された光源14は,単一の発光ダイオードである。すなわち,引用文献1には,前記特徴(ii)・・・について何らの記載も示唆もない。」と主張する。 (前記特徴(ii)は,「低コヒーレンスの放射線源(4)は,互いに異なっていて,且つ,同時に活性化される,複数の放射線ビームを放射する少なくとも2つの個別のエミッタ(20)を有すること」である。) しかしながら,引用例1には,光源14について「発光ダイオードからなる光源14」及び「1つの光源」(段落【0008】)と記載されているにとどまり,「1つの発光ダイオードからなる光源14」とまでは記載されていない。 請求人の主張は,引用例1の記載に基づいたものではない。 仮に,引用発明の光源14が「1つの発光ダイオードからなる光源14」からなるとしても,引用例1には,引用発明の発光ダイオードが1つでなければならず,その結果,前記(7)の容易推考が妨げられる,といった特段の記載は存在しない。少なくとも,引用発明において,より高精度な測定を重視する当業者は,積極的に引用例2記載技術を採用する。 請求人は,上申書において,「引用文献2に記載された膜厚測定装置は,領域毎に異なる固有の光吸収特性が存在するレジスト膜を測定対象としている。従って,引用文献2には,補正された本発明が規定するような単層の半導体材料(光学的に均質である)を測定対象とすることについて,それを阻害する要因があったと言うべきである。」と主張する。 しかしながら,引用例2の段落【0024】には,「【0024】他の好適な測定対象膜体としては,ポリシリコン等のシリコン系の薄膜が挙げられる。このようなシリコン系の膜体も可視光吸収特性を有するため,測定光として可視光を使用する場合には,明瞭な光干渉波形を現出させることができない。本発明の赤外光を使用する光干渉式の膜厚測定装置によれば,シリコン系の膜体にあっても,十分に膜体中に赤外光を透過させて,明瞭な光干渉波形を現出させることにより,その膜厚を正確に測定することができる。」と記載されている。 したがって,引用例2には,測定対象としてレジスト膜のみならず,シリコン系の薄膜も挙げられているから,阻害する要因があったとはいえない。 請求人は,上申書において,「引用文献2には,段落0014の記載内容に照らせば,補正された本発明が規定するような低コヒーレンスの光を用いることについても,それを阻害する要因があったと言うべきである。」と主張する。 しかしながら,引用例2の段落【0014】の「しかし,この膜厚センサにあっても,カラーフィルタの各RGBレジスト膜に適用した場合には,光源装置から発せられる約400nm?700nmの波長領域にかけての広い波長領域の白色光は,カラーフィルタのRGBレジスト膜を各波長均一に透過することができないから,依然として,膜厚測定に必要な適正な干渉波形を生成させることができない。」の記載は,引用例2記載技術の従来技術の構成にすぎない。引用例2記載技術は,引用例2の段落【0014】に記載されているような問題点を踏まえて,「測定光として赤外光を使用する光干渉式の膜厚測定装置」の構成を採用し,かつ,「膜厚光干渉式で高精度に測定するためには,広い波長域の光によって得られた干渉波形を得る必要があり,そこで,異なるピーク波長を持つ赤外光LEDを複数用いて途切れることのない広い波長域を得ることにより,膜厚を高精度に測定することが可能となる」という知見に基づいて「出力波形特性の異なる複数の半導体赤外発光素子と,各半導体赤外発光素子からそれぞれ一部波長域の光を取り出す光学素子と,各半導体赤外発光素子の出力パワーを個別に設定する手段とを有し,各半導体赤外発光素子から取り出された光を重ね合わせて出射する」構成を採用したものであるから,請求人が指摘する記載は,阻害要因ではなく,むしろ,「シリコンウエハに照射された前記可視光線がシリコンウエハの裏面にまで到達せず,このため裏面からの反射光が得られず厚みが計測できない」(引用例1の段落【0003】)という【発明が解決しようとする課題】を解決することを目的とした引用発明と,引用例2記載技術の組み合わせを促すものといえる。 請求人は,「低コヒーレンスの光を用いることにより,干渉信号が時間的にも空間的にも局所化されるという利点を得ることができる。また,絶対的な光路差(距離)などを求めることもできる。」と主張する。 しかしながら,本件出願の特許請求の範囲の請求項1には,赤外光がどの程度「低コヒーレンス」なのか,記載されていない。他方,引用発明の光源14は発光ダイオードであるから,「低コヒーレンス」である。 仮に,本件補正後発明の「放射線源(4)」を,「【0025】本発明によれば,赤外線放射源4は,波長帯域幅が100nmより大きく,好ましくは中心値を中心にして約200nmである赤外線放射ビームを放射することができる。」というものに限定解釈するとしても,引用例2記載技術の赤外光は,約200nmの幅を持つものである(段落【0068】)から,本件補正後発明の放射線源(4)の波長帯域幅が200nmであるとしても,引用発明と引用例2記載技術の組み合わせにより,当業者が容易に発明できた構成である。あるいは,引用発明は,赤外光の波長域として,900?1200ナノメータ程度のものが適しているとの前提に立つものであるから,引用発明と引用例2記載技術を組み合わせるに際し,900?1200ナノメータの全帯域を十分にカバーするだけの種類の赤外光LEDを採用することは,引用発明の趣旨に鑑みると,むしろ当然のことである。 (9)小括 本件補正後発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 4 補正の却下の決定についてのまとめ 本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 記載事項等 引用例1及び2に記載の事項,並びに,引用発明及び引用例2記載技術は,前記「第2」3(1)?(4)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,本件補正後発明において「単層の半導体材料で形成された物体(2)」の構成から「単層の半導体材料で形成された」との要件を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成を全て含み,さらに他の限定を付したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」3(5)?(7)で述べたとおり,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであることを考慮すると,本願発明も,同様に,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 第4 まとめ 以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2記載技術に基づいて,その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-03-26 |
結審通知日 | 2015-03-27 |
審決日 | 2015-04-07 |
出願番号 | 特願2011-535968(P2011-535968) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01B)
P 1 8・ 575- Z (G01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲うし▼田 真悟 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 酒井 伸芳 |
発明の名称 | 物体の厚さを干渉分析法によって光学的に計測するための装置及び方法 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |