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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16J |
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管理番号 | 1304941 |
審判番号 | 不服2014-18573 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-17 |
確定日 | 2015-09-03 |
事件の表示 | 特願2010-117667号「シーリングシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日出願公開、特開2011-247283号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成22年5月21日の出願であって、平成26年7月15日付けで拒絶査定(発送日:同年7月22日)がされ、これに対し、平成26年9月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後当審において平成27年4月24日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成27年6月9日に意見書が提出された。 そして、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年9月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 相対的に往復移動するハウジングと該ハウジングの軸孔内に挿通されたロッドとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、 前記軸孔の内周に設けられた環状溝内に配置されるロッドパッキンと、 前記環状溝内であって該ロッドパッキンよりも低圧側に配置され、該ロッドパッキンにおける低圧側の内周端部分が前記ロッドと軸孔との間の微小隙間にはみ出すことを抑制するバックアップリングと、 を備えるシーリングシステムにおいて、 前記ロッドパッキンの素材はニトリルゴムであり、 前記バックアップリングの素材はロックウェル硬さが90HRR以上110HRR以下のポリアミドであり、かつ該バックアップリングはワッシャ形状であることを特徴とするシーリングシステム。」 2 引用文献及びその記載事項 (1) 当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2008-51285号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0002】 従来の密封構造として、図9に示すようなOリング(弾性シール)31とバックアップリング32を凹周溝33に装着した構成のものが広く使用されている。特に、バックアップリング32は横断面1文字型(縦一文字型ということもある)であり、主部材34と相手部材35との間の微小クリアランス36に、受圧状態下で(比較的柔らかい)Oリング31が侵入する(食い込む)ことを上記バックアップリング32にて防止していた。 Uパッキンから成る弾性シールを背面から受持する1文字型バックアップリングを用いた密封構造のものも広く知られている。(例えば、特許文献1参照)。 【特許文献1】特開2006-057834号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 ところで、1文字型(縦一文字型)の従来のバックアップリング32では、材料が変形し易い材料(ゴム系やPTFE系の柔らかい材料)の場合、高圧力Pが作用すると、図10に示すように、Oリング31が弾性変形しつつバックアップリング32を凹周溝33の側面33aに強く押圧し、微小クリアランス36内へバックアップリング32が侵入するはみ出し37を発生する。 このようなはみ出し37が発生すると、主部材34と相手部材35の相対的運動の摩擦抵抗力が増加してスムーズな運動ができなくなり、あるいは、はみ出し37の破損を生じて、バックアップリング32の機能をはたせなくなるという問題があった。 【0004】 他方、バックアップリング32の材料が変形し難い材料(ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、PEEK、高充填材入りPTFE等の硬い材料では、図11に示すように、高圧力Pが作用しても、バックアップリング32自体はほとんど変形せず、前記微小クリアランス36の凹周溝33への開口部位を埋める(閉塞する)ことができず、Oリング31の一部は、高圧力Pー受けつつ、侵入してはみ出し31aを生じる。即ち、バックアップリング32と相手部材35との間のクリアランス38に圧縮変形したOリング31の一部が侵入し、このはみ出し31aによって、主部材34と相手部材35の相対的移動の摩擦抵抗が増加してスムーズに相対的移動しなくなったり、Oリング31の一部が破損する等の問題を生じる。 ・・・(後略) 」 イ 「【0008】 この密封構造は、凹周溝3が形成された主部材10と、この主部材10に対して微小クリアランスCを介して対面する相手部材20との間に介装される。 凹周溝3には、弾性シール1と、この弾性シール1を低圧側Eから受持するバックアップリング2が、装着されている。図1では右方向が低圧側Eであり、左方向が高圧側Hが相当し、弾性シール1は、ニトリルゴムやアクリルゴムやシリコンゴム等の各種ゴム材から成るOリングを例示する。 バックアップリング2は、ポリアセタール,ポリアミド,ポリイミド,PEEK,高充填材入りPTFE等の硬い材質とし、その横断面形状がラジアル方向に偏平細長状のホームベース型であって、弾性シール(Oリング)1に接触する側をストレート状(平坦面状)として弾性シール1を受持し、凹周溝3の低圧側の側面3aに接触する側を未受圧状態でV字山型に形成される。」 ウ 「【0010】 図8は流体シリンダ7の一例を示し、シリンダチューブ8内をピストン9が往復作動し、ピストン9に連結されたピストンロッド11が同図の左右方向に往復作動する。ここで、ピストン9に於て、図1に示したような密封構造を適用可能である。図1に於て、Lは軸心を示し、ピストン9・ピストンロッド11・シリンダチューブ7の軸心Lに相当する。 【0011】 ところで、流体シリンダ7が単動の場合は、図1の構造のものを単数個、ピストン9に用いればよいが、往復作動用の場合は、図1とその左右対称形のものを、一対として、ピストン9に用いればよい。このように、図1では外径用として、ピストン9の外周面に形成した凹周溝3に、弾性シール1とバックアップリング2とを、装入した場合を示し、主部材10がピストン9に相当し、相手部材20がシリンダチューブ8に相当している。 なお、図8のピストンロッド11とシリンダヘッド部12との間の密封に図1に示した本発明の密封構造を適用することも可能である。つまり、内径密封用とすることもできる。また、このような運動用に適用する他に、固定用(静止用)として、図1の構造のものを適用しても自由である。」 エ 前記「ウ」及び図8?9を参照すると、密封構造をピストンロッド11とシリンダヘッド部12との間の密封に適用したものとして、シリンダヘッド部12のピストンロッド11が挿通された部分である主部材34と、シリンダヘッド部12に挿通されたピストンロッド11である相手部材35との間の環状の微小クリアランス36を密封する構造が示されている。 また、図9を参照すると、主部材34に設けられた環状の凹周溝33内に弾性シール31が配置されており、該環状の凹周溝33内であって弾性シール31より低圧側に、バックアップリング32が配置したものが記載されている。 オ 前記「ア」?「エ」及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、従来の密封構造(図8?11)として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「シリンダヘッド部12のピストンロッド11が挿通された部分である主部材34と、シリンダヘッド部12に挿通されたピストンロッド11である相手部材35との間の環状の微小クリアランス36を密封する構造で、 主部材34に設けられた環状の凹周溝33内に弾性シール31が配置されており、該環状の凹周溝33内であって弾性シール31より低圧側に、バックアップリング32が配置されており、 該バックアップリング32は、主部材34と相手部材35との間の微小クリアランス36に、受圧状態下で弾性シール31が侵入する(食い込む)ことを防止する、 密封構造。」 カ 引用文献1(前記「イ」を参照。)には、その実施形態に関するものではあるが、弾性シールの材料としてニトリルゴムが例示され、また、バックアップリングの材料としてポリアミドが例示されている。 また、引用文献1(前記「ア」を参照。)には、バックアップリングの材料が変形し易い材料(柔らかい材料)の場合、微小クリアランス内へバックアップリングが侵入するはみ出しが発生すること、また、バックアップリングの材料が変形し難い材料(硬い材料)では、バックアップリングと相手部材との間のクリアランスに圧縮変形した弾性シールの一部が侵入し、はみ出しが発生することが、記載されている。 (以下「引用文献1記載の事項」という。) (2) 当審の拒絶の理由に引用され、本願出願日前に頒布された刊行物である特開2002-276814公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0007】一方、バックアップリング110がポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂からなるものは、比較的硬質であることから、耐圧性に優れており、したがって、ハウジング120とロッド130との間の隙間δ_(2)を大きくすることができるが、その反面、圧力導入空間S_(H)が高圧になった時の変形性に乏しいため、シール本体100に押圧されてバックアップリング110が伸長することによる隙間δ_(1)の縮小が僅かであり、特に、シール本体100が例えば耐油性に優れたNBR(ニトリルゴム)等からなるものである場合、NBRは変形性に富むため、シール本体100の角部103が隙間δ_(1)にはみ出してしまい、「食われ」を生じることがある。その対策としては、バックアップリング110を、圧力導入空間S_(H)の圧力が作用しない初期状態から隙間δ_(1)を可能な限り小さくしておくことも考えられるが、この場合は取付溝121とバックアップリング110の径方向の寸法公差を厳しくする必要があり、加工コストや生産性の点から限界があった。」 イ 「【0026】したがって、この実施の形態によれば、バックアップリング2がポリアミド樹脂等のような比較的硬質の熱可塑性樹脂からなることによって、軸方向圧縮荷重を受けても径方向へ伸長変形しにくいものであるにも拘らず、高圧時にロッド4の外周面との隙間δ_(1)を著しく縮小させることができる。このため、シール本体1が例えばNBR(ニトリルゴム)等からなるものであっても、このシール本体1の背面における内周側の角部13が、高圧時に隙間δ_(1)にはみ出して「食われ」と呼ばれる破損を生じるのを防止することができる。」 ウ 前記「ア」及び「イ」から、引用文献2には、シール本体の材料をニトリルゴムで、バックアップリングの材料をポリアミドとすることが記載されている。 (以下「引用文献2記載の事項」という。) 3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「主部材34」は、本願発明の「ハウジング」に相当する。 以下、同様に、「相手部材35」は「ロッド」に、「環状の凹周溝33」は「環状溝」に、「環状の微小クリアランス36」は「環状隙間」及び「微小隙間」に、「密封構造」は「シーリングシステム」に、「弾性シール31」は「ロッドパッキン」に、「バックアップリング32」は「バックアップリング」に、それぞれ相当する。 引用発明は、「シリンダヘッド部12のピストンロッド11が挿通された部分である主部材34と、シリンダヘッド部12に挿通されたピストンロッド11である相手部材35との間の微小クリアランス36を密封する構造」であるから、引用発明は本願発明の「相対的に往復移動するハウジングと該ハウジングの軸孔内に挿通されたロッドとの間の環状隙間を封止するシーリングシステム」に相当する構成を備える。 引用発明では、「主部材34に設けられた環状の凹周溝33内に弾性シール31が配置され」ているから、引用発明は本願発明の「軸孔の内周に設けられた環状溝内に配置されるロッドパッキン」に相当する構成を備える。 引用発明では、「環状の凹周溝33内であって弾性シール31より低圧側に、バックアップリング32が配置されており、該バックアップリング32は、主部材34と相手部材35との間の微小クリアランス36に、受圧状態下で弾性シール31が侵入する(食い込む)ことを防止する」ものであるから、引用発明は本願発明の「環状溝内であって該ロッドパッキンよりも低圧側に配置され、該ロッドパッキンにおける低圧側の内周端部分が前記ロッドと軸孔との間の微小隙間にはみ出すことを抑制するバックアップリング」に相当する構成を備える。 また、引用発明では、バックアップリング32の形状は、リング状であると解されるから、本願発明でいうところの「ワッシャ形状」であるといえる。すると、引用発明は本願発明の「バックアップリングはワッシャ形状である」に相当する構成を備える。 以上のことから、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。 「相対的に往復移動するハウジングと該ハウジングの軸孔内に挿通されたロッドとの間の環状隙間を封止するシーリングシステムであって、 前記軸孔の内周に設けられた環状溝内に配置されるロッドパッキンと、 前記環状溝内であって該ロッドパッキンよりも低圧側に配置され、該ロッドパッキンにおける低圧側の内周端部分が前記ロッドと軸孔との間の微小隙間にはみ出すことを抑制するバックアップリングと、 を備えるシーリングシステムにおいて、 該バックアップリングはワッシャ形状であるシーリングシステム。」 一方で、両者は次の点で相違する。 [相違点] ロッドパッキンおよびバックアップリングに関して、本願発明では「ロッドパッキンの素材はニトリルゴムであり、前記バックアップリングの素材はロックウェル硬さが90HRR以上110HRR以下のポリアミド」であるのに対して、引用発明では、弾性シール31の素材、並びにバックアップリング32の素材及び硬さは、明らかでない点。 4 判断 上記相違点について検討する。 前記引用文献1記載の事項には、弾性シール(本願発明の「ロッドパッキン」に相当。)の材料(素材)としてニトリルゴムが、バックアップリング(本願発明の「バックアップリング」に相当。)の材料(素材)としてポリアミドが、それぞれ例示されており、また、前記引用文献2記載の事項には、シール本体(本願発明の「ロッドパッキン」に相当。)の材料(素材)をニトリルゴムで、バックアップリング(本願発明の「バックアップリング」に相当。)の材料(素材)をポリアミドとすることが記載されている。 すると、引用発明において、「ロッドパッキンの素材はニトリルゴム」とし、「バックアップリングの素材」は「ポリアミド」とすることは、引用発明において、それらの組合せを阻害する事由もないことから、引用文献1記載の事項及び引用文献2記載の事項から、当業者が容易になし得たことである。 また、前記引用文献1記載の事項には、バックアップリングの材料が、変形し易い材料(柔らかい材料)、変形し難い材料(硬い材料)の、いずれの材料でもはみ出しが発生することが記載されているから、バックアップリングの材料については、はみ出しが発生しないように、硬さの最適化が必要であるといえる。 ところで、一定の課題を解決するために数値範囲の最適化は、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないから、当業者が、引用発明において、前述のように「ロッドパッキンの素材はニトリルゴム」とし、「バックアップリングの素材」は「ポリアミド」とした際には、前記引用文献1記載の事項を参照することにより、バックアップリングの材料の硬さの最適化を行い、本件の数値範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、上記相違点に係る構成を採用することは、引用文献1?2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明及び引用文献1?2記載の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。 以上のことから、本願発明は、引用発明及び引用文献1?2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び引用文献1?2記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-07-02 |
結審通知日 | 2015-07-07 |
審決日 | 2015-07-21 |
出願番号 | 特願2010-117667(P2010-117667) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 塩澤 正和、内田 博之 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 小関 峰夫 |
発明の名称 | シーリングシステム |
代理人 | 川口 嘉之 |
代理人 | 世良 和信 |
代理人 | 金井 廣泰 |
代理人 | 坂井 浩一郎 |