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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1305523
審判番号 不服2014-12147  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-25 
確定日 2015-09-08 
事件の表示 特願2012- 57317「半導体素子のための緩衝化基板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-142594〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年5月22日(パリ条約による優先権主張1996年5月31日、アメリカ合衆国)に出願した特願平9-148652号の一部を平成20年10月22日に新たな特許出願とした特願2008-272411号の一部をさらに平成24年3月14日に新たな特許出願としたものであって、平成25年7月31日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年2月6日に手続補正書が提出されるとともに、意見書が提出され、同年2月21日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年6月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正書が提出され、同年8月22日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.平成26年6月25日に提出された手続補正書による手続補正ついて
平成26年6月25日に提出された手続補正書による手続補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1における「約2以下の粒径バラツキ」を補正後の請求項1における「2以下の粒径バラツキ」に補正するものであり、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、当該補正が、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしていることは明らかである。
したがって、当該手続補正は、適法になされたものである。

3.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年6月25日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも、二酸化シリコン、ガラス、石英及び金属の一つを含む基板と、
前記基板上のゲート電極と、
前記ゲート電極上のバッファ層であって、前記バッファ層は、ゲート絶縁層及び前記基板の保護層として機能し、前記バッファ層は、前記基板の融点よりも高い融点を有する、バッファ層と、
前記バッファ層の上に形成された多結晶シリコン層であって、前記多結晶シリコン層は、2以下の粒径バラツキを有する、多結晶シリコン層と、
を含む構造。」

4.原審における拒絶の理由の概要
原審における拒絶の理由は、平成25年7月31日付けの拒絶理由通知書に記載されたとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

「発明の詳細な説明には、多結晶シリコン層の作成のために、従来からレーザ結晶化法などの技術が用いられているが、このようなレーザ結晶化技術により作製された多結晶層は、巨大な粒径並びに粒径バラツキに加えて望ましくない粗な多結晶シリコン膜表面を有するという課題が生じた旨の記載がある(特に段落【0004】参照)。
そこで、発明の詳細な説明には、a),b),c)の製造方法により、上記課題を解決した旨の記載がある。
a)基板上に、基板の融点より高い融点を有するバッファ層を形成する工程
b)前記バッファ層上にアモルファスシリコン層を形成する工程と
c)アモルファスシリコン層をレーザ結晶化し、多結晶シリコン層を形成する工程
しかしながら、請求項1-8に係る発明は、上記a),b),c)の製造方法の記載が記載されていないので、請求項1-8に係る発明は、課題を解決するための手段が反映しておらず、発明の詳細な説明に実質的に記載されていないと認められる。
(発明の詳細な説明に記載の発明は、本質的に方法の発明であると認められる。」

5.本願明細書の記載事項
本願明細書には、図2とともに、以下の事項が記載されている。
(記載事項a)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多結晶シリコン層の作成のために、従来からレーザ結晶化法などの技術が用いられている。しかしながら、このようなレーザ結晶化技術により作製された多結晶層は、巨大な粒径並びに粒径バラツキに加えて望ましくない粗な多結晶シリコン膜表面を有するという問題があった。レーザ結晶化法においては、レーザビームによってアモルファスシリコン層が融解され、次いで融解したシリコンが冷却することにより多結晶シリコン層が形成される。一般にレーザ結晶化法では10%の出力バラツキをもつパルスレーザが使用される。しかし、このバラツキは多結晶シリコン層中に1000%の粒径バラツキの発生をもたらす。このため従来のパルスレーザ結晶化法で作製されたTFT構成中の粒子数は著しく変動する。
【0005】
従来のレーザ結晶化法はシリカ、ガラスあるいはシリカ緩衝化基板(buffered substrate)を用いて行われていた。この方式においては多結晶シリコンの粒径はレーザ出力(laser fluence)依存性がきわめて高い。この現象についていくつかの理論付けがなされている。
(省略)」

(記載事項b)
「【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、製造時間および製造価格を増加することなく多結晶シリコン粒径の微小化と均一化を行なうための技術を提案することを目的とする。」

(記載事項c)
「【0025】
図2(a)?図2(e)に微小で均一な粒径をもつ多結晶シリコン層の形成方法を示す。図2(a)は石英あるいはガラス等の材料で形成された基板100を示すものである。この基板100の材料としては、例えばSiO_(2)、コーニング7059または1731などがある(コーニング7059または1731は一般的な基板材料であり、コーニンググラスワークス社(ニューヨーク コーニング、14830)から容易に入手できる)。基板100は他の構成、例えばボトムゲート素子のゲート誘電体やゲート電極などを含んでいてもよい。
【0026】
図2(b)に基板100上に形成されたバッファ層102を示す。基板100上へのバッファ層102の形成は物理気相成長、化学気相成長(CVD)あるいはゾルゲル法などの技術により行われる。物理気相成長法として、電子ビーム蒸着、スパッタ、加熱蒸着、パルスレーザ蒸着等がある。薄膜バッファ層102は単層でよく、場合によっては基板100表面を必ずしも完全に覆う必要はない。バッファ層102が基板100表面を部分的に覆ってアイランド状になる場合は、アイランドの密度が当該多結晶シリコン層に必要な粒子の密度にほぼ一致することが必要である。
【0027】
図2(c)に示す工程で、アモルファスシリコン層104が約100nm以下の厚さのバッファ層102上に形成される。他の厚さのバッファ層も適用可能である。課題に即した素子としては約100nm以下の厚さのアモルファスシリコン層がパルスレーザ結晶化処理用として適する。またシリコン層は非晶質でなくてもよい。この理由はレーザビームがシリコン層を融解し、融解前の結晶構造をすべて解消するためである。
【0028】
アモルファスシリコン層はレーザビーム106によって融解され、次いで冷却されることにより結晶化し、多結晶層108が形成される。各々の工程を図2(d)、図2(e)に示す。レーザビーム106はYAGレーザあるいはエキシマレーザ等のレーザ装置から発振される。多くの場合エキシマレーザが好適である。この理由は同レーザは照射範囲が広いため処理速度が早いことによる。」

(記載事項d)
「【0029】
従来のレーザ結晶化法で形成された約100nm厚さの多結晶シリコン層についての実験結果から、約540±20mJ/cm^(2)あるいは全レーザ出力域の約10%の狭いレーザ出力域で側方粒成長が生じることが判明している。この狭いレーザ出力域はレーザ結晶化の施工に必要なレーザ出力分布のほぼ中央に位置するものである。したがって巨大粒径を防止するためには、狭いレーザ出力域内でのレーザ出力の変動を抑制する必要がある。しかし素子作製に用いる工業用レーザの出力制御は困難であるため、工業用レーザでのレーザ出力においては側方成長が生じる出力域を避ける必要がある。このため結晶化処理に適用可能な工業用レーザの出力域は著しく制限される。
【0030】
一方、バッファ層を用いた時には工業用レーザの出力制御に必要な条件が緩和される。バッファ層によって生起されるシリコン粒子の核生成の作用により側方粒成長が抑制される。基本的には、バッファ層が存在する時には100nm厚さのシリコン膜を貫通溶融(約300mJ/cm^(2))から融除(約600mJ/cm^(2))するまでの全レーザ出力範囲が適用可能である。すなわちバッファ層を用いる事で著しく広範囲のレーザ出力が適用可能になる。
【0031】
図2(a)?2(e)の工程で作製した多結晶シリコン層108における平均粒径バラツキは概ね2以下である。これに対し従来技術による粒径バラツキは約10である。つまりバッファ層102により粒径バラツキが5分の1以下に減少する。
【0032】
多結晶層108では粒径の均一性もまた著しく改善され、結果的にこの多結晶層108に形成される素子の特性の均一性が著しく向上する。TFT、キャパシタおよび抵抗などの素子の信頼性が高まり、その結果優れた性能の製品が得られる。
【0033】
さらに、約100nm厚さの多結晶シリコン層における同シリコン層108のrms表面粗度は概ね6nm以下である。この値は側方成長を伴う従来のレーザ結晶化技術でのrms表面粗度が60nmであるのに対して1桁向上している。」

6.当審における判断
(6-1)(記載事項a)には、多結晶シリコン層の作成のために、従来用いられてきたレーザ結晶化技術により作製された多結晶層は、巨大な粒径並びに粒径バラツキに加えて望ましくない粗な多結晶シリコン膜表面を有するという問題があったことが記載されている。

(6-2)(記載事項b)には、本願発明は、製造時間および製造価格を増加することなく多結晶シリコン粒径の微小化と均一化を行なうための技術を提案することを目的とすることが記載されている。

(6-3)(記載事項c)には、微小で均一な粒径をもつ多結晶シリコン層の形成方法について、
図2(b):石英あるいはガラス等の材料で形成された基板100上へ、物理気相成長、化学気相成長(CVD)あるいはゾルゲル法などの技術により、バッファ層102を形成すること、
図2(c):バッファ層102上にアモルファスシリコン層104を形成すること、
図2(d)、図2(e):アモルファスシリコン層をレーザビーム106によって融解し、次いで冷却することにより結晶化し、多結晶層108が形成すること、
が記載されている。

(6-4)(記載事項d)には、その効果について、図2(a)?2(e)の工程で作製した多結晶シリコン層における平均粒径バラツキは概ね2以下であるのに対し、従来技術による粒径バラツキは約10であり、本願発明では、バッファ層102により粒径バラツキが従来技術に比べて5分の1以下に減少し、また粒径の均一性もまた著しく改善され、結果的にこの多結晶層108に形成される素子の特性の均一性が著しく向上することにより、TFT、キャパシタおよび抵抗などの素子の信頼性が高まり、その結果優れた性能の製品が得られることが記載されている。

(6-5)以上から、本願明細書には、上記(6-3)のプロセス工程を用いて、多結晶シリコン層を形成することより、上記(6-4)の平均粒径バラツキは概ね2以下で、粒径の均一性が改善された多結晶シリコン層が得られたことが記載されているものと認められる。
一方、【請求項1】に係る発明は、「少なくとも、二酸化シリコン、ガラス、石英及び金属の一つを含む基板と、前記基板上のゲート電極と、前記ゲート電極上のバッファ層であって、前記バッファ層は、ゲート絶縁層及び前記基板の保護層として機能し、前記バッファ層は、前記基板の融点よりも高い融点を有する、バッファ層と、前記バッファ層の上に形成された多結晶シリコン層であって、前記多結晶シリコン層は、2以下の粒径バラツキを有する、多結晶シリコン層と、を含む構造。」というものであって、上記(6-3)のプロセス工程を用いて形成された「物」であることを特徴づけることは何ら特定されておらず、上記(6-1)の課題を解決するものと認めることはできない。また、当該請求項の記載では、上記(6-3)のプロセス工程を用いることなく、基板上に形成されたバッファ層の上に、別の基板に形成された2以下の粒径バラツキを有する多結晶シリコン層を貼り合わせることにより形成された構造まで含みうるものと認められるので、出願時の技術常識に照らしても、【請求項1】に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、【請求項1】に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(6-6)なお、この点に関し、請求人は、平成26年8月22日に提出された手続補正書(方式)において、
「本願明細書の段落0031、0032には、それぞれ、
『図2(a)?2(e)の工程で作製した多結晶シリコン層108における平均粒径バラツキは概ね2以下である。これに対し従来技術による粒径バラツキは約10である。つまりバッファ層102により粒径バラツキが5分の1以下に減少する。』
『多結晶層108では粒径の均一性もまた著しく改善され、結果的にこの多結晶層108に形成される素子の特性の均一性が著しく向上する。TFT、キャパシタおよび抵抗などの素子の信頼性が高まり、その結果優れた性能の製品が得られる。』
と記載され『前記多結晶シリコン層は、約2以下の粒径バラツキを有する』とすることで素子の特性の均一性が改善されることが記載されており、このことが課題(素子特性の均一性改善)を解決するための手段であることが理解できる。」と主張する。
しかしながら、上記(6-1)、(6-2)に記載したように、従来用いられてきたレーザ結晶化技術により作製された多結晶層は、巨大な粒径並びに粒径バラツキに加えて望ましくない粗な多結晶シリコン膜表面を有するという問題があり、本願発明は、そのような問題点を解決し、製造時間および製造価格を増加することなく多結晶シリコン粒径の微小化と均一化を行なうための技術を提案することを目的とするものであって、 「前記多結晶シリコン層は、約2以下の粒径バラツキを有する」とすることで素子の特性の均一性が改善されることについては、それを裏付けるデータも含めて、何ら記載されていない。
よって、請求人の上記主張は首肯できない。

(6-7)以上、検討したとおり、本願の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-13 
結審通知日 2015-03-19 
審決日 2015-03-27 
出願番号 特願2012-57317(P2012-57317)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴山 将隆  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小野田 誠
加藤 浩一
発明の名称 半導体素子のための緩衝化基板  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 鮫島 正洋  

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