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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 判示事項別分類コード:757 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1306046
審判番号 不服2013-25583  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-26 
確定日 2015-10-01 
事件の表示 特願2010-507710号「選択された非病原性微生物による天然ポリサッカライドの加工、並びにその作製方法及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/141240、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-526539号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年5月11日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月27日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年12月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。


第2 平成25年12月26日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成25年12月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成25年1月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1の
「バイオリアクターシステム内で、事前にプロバイオティクス細菌とともにインキュベートされた天然ポリサッカライドから製造されるサプリメントを含む健康補助サプリメントであって、前記細菌が前記ポリサッカライドを加工し、その結果得られた加工ポリサッカライドが前記サプリメントにおいて提供され、
前記天然ポリサッカライドが、アロエベラ由来のアセチル化マンナン、並びに、アロエグルコマンナン、コンニャクグルコマンナン、ガラクトマンナン、カラマツアラビノガラクタン、藻類ポリサッカライド、フコイダン、真菌グルコマンナン、トラガカントガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、及びアカシアガムの少なくとも1つを含み、
前記プロバイオティクス細菌が、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、アセトバクター属、カンジダ属、クルベロマイセス属、サッカロマイセス属、トルラ属、トルラスポラ属、デバリオマイセス属、チゴサッカロマイセス属、バクテリオイデス属、ビフィドバクテリウム属、ユーバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属、ルミノコッカス属、及びペディオコッカス属の少なくとも1つに属する細菌である、
サプリメント。」を、
「バイオリアクターシステム内で、事前にプロバイオティクス細菌とともにインキュベートされた天然ポリサッカライドから製造されるサプリメントを含む健康補助サプリメントであって、前記細菌が前記ポリサッカライドを加工し、その結果得られた加工ポリサッカライドが前記サプリメントにおいて提供され、
前記天然ポリサッカライドが、アロエベラ由来のアセチル化マンナン、並びに、アロエグルコマンナン、コンニャクグルコマンナン、ガラクトマンナン、カラマツアラビノガラクタン、藻類ポリサッカライド、フコイダン、真菌グルコマンナン、トラガカントガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、及びアカシアガムの少なくとも1つを含み、
前記プロバイオティクス細菌が、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、アセトバクター属、カンジダ属、クルベロマイセス属、サッカロマイセス属、トルラ属、トルラスポラ属、デバリオマイセス属、チゴサッカロマイセス属、バクテリオイデス属、ビフィドバクテリウム属、ユーバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属、ルミノコッカス属、及びペディオコッカス属の少なくとも1つに属するヒト胃腸細菌である、
サプリメント。」へと補正する事項を含むものである。

そして、この補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「プロバイオティクス細菌」について、「ヒト胃腸細菌」のものに限定するものであり、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。

よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。

(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであるところ、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、もしそのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載並びに当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができ、かつ、使用できる必要がある。
よって、以下、この観点に立って実施可能要件の適否について検討する。

ア 本件補正発明について
本件補正発明は、上記1 の補正後の請求項1のとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

(ア)「【0013】
一態様では、本発明は、バイオリアクターシステム内でプロバイオティクス細菌とともに事前にインキュベートされた1又は複数の天然ポリサッカライドから製造されるサプリメントを含む健康補助サプリメントであり、前記細菌がポリサッカライドを加工し、その結果得られた加工ポリサッカライドがこの栄養サプリメントにおいて提供される。一実施形態では、バイオリアクターから得られる加工ポリサッカライドは、食品又は健康補助サプリメントに適合しており、例えば単一剤形に適合している。本発明で使用するためのポリサッカライドは、グルコマンナン、アロエグルコマンナン、コンニャクグルコマンナン、ガラクトマンナン、アラビノガラクタン、カラマツアラビノガラクタン、藻類ポリサッカライド、フコイダン、真菌ポリサッカライド、真菌グルコマンナン、トラガカントガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、及びアカシアガムの少なくとも1つを含んでよい。一実施形態では、ポリサッカライド及び生存微生物細胞は、単一剤形で別々に提供される。別の実施形態では、ポリサッカライド及び生存微生物細胞は、バイオリアクターでインキュベートされる。ポリサッカライド及び生存微生物細胞は、徐放性形態でも提供することができる。ポリサッカライドの例には、ヘテロポリサッカライド、ホモポリサッカライド、又はその両方が含まれる。健康補助サプリメントの1つの例では、ポリサッカライドは微生物細胞から単離され、単離されたポリサッカライドは、散剤、カプセル剤、ジェルキャップ剤、錠剤、発泡錠剤、液剤、又はガム剤(gummy)から選択される剤形とされる。」

(イ)「【0047】
選択ポリサッカライド基質で増殖が増強されたプロバイオティクス培養物の選択
ヒトGI管内に存在する異なる種及び菌株の細菌は、異なるポリサッカライド基質を使用する能力を有する。例えば、ビフィドバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ルミノコッカス属、コプロコッカス属、ユーバクテリウム属、及びフゾバクテリウム属の22の異なる種に由来する154の菌株に関する研究では、それらの菌株が21の異なる複合炭水化物を発酵させる能力について調査した。一般的な食品ポリサッカライドデンプン(アミロース)及びアミロペクチンは、この調査では、ほとんど細菌株により発酵された。調査された22種のうちの7種の少なくともいくつかの菌株は、アミロース及び/又はアミロペクチンを利用することができた。D-ガラクトサミン、デキストラン、カラヤガム、フコイダン、アルギン酸塩、カラゲナン、硫酸コンドロイチン、ヒアルロン酸塩、ヘパリン、オボムコイド、及びウシ顎下ムチンなどの他のポリサッカライドは、試験された菌株のいずれによっても発酵されなかった。この調査に含まれていた他のポリサッカライド、グルコサミン、フコース、キシラン、カラマツアラビノガラクタン、グアーガム、イナゴマメガム、アラビアガム、ガティガム、トラガカントガム、ペクチン、ポリガラクツロ酸塩、及びラミナリンは、特定の細菌株により選択的に発酵されたが、他の細菌株では発酵されなかった。この研究により、発酵による選択ポリサッカライドの選択的加工について、ヒトGI管由来の細菌株を選択することが可能であることが示される。
【0048】
・・・
【0049】
多種多様な細菌種及び酵母種が、これらの食料製品の生産で安全に使用されている。ヒト用食品に安全に使用されてきた長い歴史をもつこれらの微生物は、精製された長鎖ポリサッカライド化合物を、より短鎖のポリサッカライド、オリゴサッカライド、ジサッカライド、及びモノサッカライドなどの生物学的に活性なより小さな化合物に加工するそれらの微生物の能力についてスクリーニングするための優れた候補である。そのような加工は、天然ポリサッカライドとこれらの微生物の1又は複数を、両成分がヒト又は他の動物に同時に経口投与される形態に混合することにより、いずれのインビボでも生じるように操作することができる。この第1の実施例では、微生物によるポリサッカライドの加工は、GI管を通って通過する間に起こる。或いは、微生物及びポリサッカライドを、制御された物理的条件下(つまり、栄養素、温度、水素イオン濃度、酸化/還元電位、酸素利用率、水分活性、塩濃度など)で、機械的発酵システム中で混合し、所望の最終産物(つまり、より短鎖のポリサッカライド、オリゴサッカライド、ジサッカライド、及びモノサッカライドの許容される比率)が産生されるまでインキュベートしてもよい。」

(ウ)「【0059】
免疫調節ポリサッカライド(IP)は、インビトロで、マクロファージを活性化し、T細胞及びB細胞の増殖を刺激し、補体活性を抑制し、サイトカイン放出を調節し、腸免疫系を刺激することができる。より高い分子量(MW,molecular weight)のポリサッカライドは、より強力な免疫調節効果を示す。下記の経口摂取IPは、癌患者の生存を延長し、生活の質を向上するためのアジュバント療法として使用することができる。複合植物ポリサッカライド(CPP,complex plant polysaccharide)は、摂取されると、典型的には大部分がそのまま腸に進入し、その後、腸の複雑な微生物叢によって様々な大きさに分解され得る。これらの物質は、それにより細菌叢の組成及び密度に影響を与え、モノサッカライド、短鎖脂肪酸、CPP断片、及び代謝産物、並びにガスを生成することができる。その後、これらのCPP分解産物は、GI免疫系に影響を与え、吸収又は排泄され得る。下記に記載されているインビトロでの実証は、免疫系支援用に製剤された混合サッカライド健康補助サプリメント(MSS,mixed-saccharide dietary supplement)及びそのCPP成分の2つ:アラビノガラクタン(LAG,arabinogalactan)及び高分子量アロエベラゲルポリサッカライド(AVP,aloe vera gel polysaccharide)のヒト結腸細菌性利用を例示する。この実証により、エネルギー源として、及びより多くの細菌を製造するための材料として、CPPを最も良好に競合できる結腸細菌が選択された。
【0060】
以下の調製物は、本発明で使用のするための典型的なポリサッカライドである。
【0061】
計量したCPP試料(カラマツアラビノガラクタン);高分子量アロエベラゲルポリサッカライド;混合サッカライド健康補助サプリメント(LAG、AVP、シクンシ科ガティノキ幹ガム(Anogeissus latifolia stem gum)、トラガントガムノキ幹ガム(Astragalus gummifer stem gum)、グルコサミンHCl、及びウンダリス・ピナティフィダ(Undaris pinnatifida)抽出物を含むAdvancedAmbrotose(商標))を、200rpmの回転式振とう器で4時間脱イオン水で完全に混合した。懸濁液は、7.63?7.9g/Lだった。その後、100mlの各懸濁液を、4℃で20時間6,000?8,000MWCOチューブで、およそ10L容量のdiH2Oに対して透析した。20時間の期間中にdiH2Oを2回取り換えた。透析した試料は、まず0℃で1時間凍結させた後で凍結乾燥した。
【0062】
4名の健康なヒトが、糞便試料を提供した。被験者は、45歳未満で、ファーストフードが全食事の25%未満であり、過去12カ月以内に抗生物質を摂取しておらず、過去5年でGIに関する問題がなく、不規則な排便をしておらず、便秘、胃若しくは腸痙攣、又は下痢にためにOTC薬を使用せず、過去6カ月に食中毒を罹患しておらず、気分不良を危惧しない人を選んだ。糞便試料は、以下の病原体に陰性であることを確認した:クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)、サルモネラ(Salmonella)、シゲラ(Shigella)、カンピロバクター(Campylobacter)、ビブリオ(Vibrio)、エルシニア(Yersinia)、及び大腸菌(E. coli)O157。10グラムの糞便試料を750mlのブレインハートインフュージョンと混合し、ブレンダーを用いて4回の30秒パルスで混合した後、6時間37℃でインキュベーションした。使用に先立ち、1ml等量を20%グリセロールに80℃で保管した。実証の1日目に、1等量を温水中で迅速に解凍し、次いで2mlの嫌気性E培地(0.2重量/体積%のクエン酸、1重量/体積%のK2HPO4、0.35重量/体積%のNaNH4HPO4・4H2O、及び0.002重量/体積%のMgSO4・7H2O)に添加し、48時間インキュベートした後で、CPPを含有するE培地に添加した。diH2O中で2時間攪拌することによりCPPを懸濁させ、次いで最終組成が1重量/体積%になるように嫌気性E培地に添加した。嫌気性条件下で、20μlの糞便懸濁液を2mlのE培地懸濁液中のCPPに添加し、嫌気性条件下(CO2ガスパック)で3日間37℃でインキュベートしておいた。E培地におけるCPPの効果を評価するために、無CPPのE培地に添加された糞便懸濁液で構成された1つの対照例セットが含まれており、別の対照例セットは、培養条件下で9日間E培地にCPPを有していた。3日間のインキュベーション後(つまり3日目)に、20μlの培養液を2mlの新しいE培地中のCPPに添加した。6日目にこれを再び繰り返した。9日目の終わりに、遠心分離により細菌を収集し、ドライアイス-エタノールスラリーで瞬間凍結した。上清を保存し、HPLC屈折検出により化学的組成を評価した。糞便で接種しなかったという点を除いて、同一の方法で対照例セットを処理した。9日目の細菌を回収し、16s rDNA同定用に処理した。」

(エ)「【0066】
下記の表1は、特定のCPP培地で増殖した糞便試料から培養したエンテロコッカス種単離物の生化学的特徴を表す。数値は、各実証の陽性パーセントを表す。
【0067】
【表1】


【0068】
エンテロコッカス属は、エンテロコッカス・フェシウム(46)、エンテロコッカス・フェカリス(2)、エンテロコッカス・デュランス(1)、及びエンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)(2)だった。既に公開されている情報によると、単離されたエンテロコッカス種はすべて、グラム陽性、カタラーゼ陰性、オキシダーゼ陰性であり、エスクリン加水分解には陽性であった。E.フェシウム及びE.デュランスの100%、及びE.フェシウムの50%は、アラビノガラクタン加水分解に必要な酵素であるベータ-ガラクトシダーゼに陽性であった。E.フェシウムの100%、及びE.フェカリスの50%は、アラビノガラクタンの主要なモノサッカライドであるアラビノースを発酵させることができた。E.デュランスは、アラビノースを発酵させることができなかった。
【0069】
大腸菌単離物(4)は、LAGを使用した培養物にのみ見出された。1つのクレブシエラ・ニューモニエ単離物が、AVP培養物から回収された。表2は、大腸菌及びクレブシエラ・ニューモニエ単離物からの代謝プロファイリングの結果を表す。これらの腸内細菌は、カタラーゼ陽性及びオキシダーゼ陰性のグラム陰性バチルス属である。大腸菌単離物は1つだけが、ベータ溶血性であると識別された。
【0070】
下記の表2は、CPP培地で増殖した糞便試料から単離された腸内細菌の生化学的特徴を列挙している。数値は、各々の陽性パーセントを表す。
【0071】
【表2】




(オ)「【0072】
上清。細菌培養に使用された条件と同一の条件下で9日間インキュベートした対照と比較して、すべての分子量範囲でCPPの顕著な喪失があった。しかしながら、喪失には差異があり、CPP及び糞便試料に依存した。4名の被験者の糞便培養物はすべて、800,000?およそ12,000MWの範囲でLAGポリマーを同様に十分消費した。しかしながら、12,000MW未満のポリマーは、様々な量で消費された(図2)。図2は、4名の被験者のヒト結腸細菌で72時間インキュベーションした後のカラマツアラビノガラクタン(LAC)最終産物を示す図である。LAG対照(実線)は、結腸細菌を用いないプロトコルに供されていた。y軸はmRIUであり、x軸は単位が分の滞留時間である。
【0073】
およそ1,000,000からおよそ50,000MWのAVPのポリマー成分は、すべての被験者に由来する糞便細菌によってほとんど完全に消費されたが、特に1,000,000MW範囲でいくらかの差異があった。10,000未満のポリマーは、異なる糞便培養物によって非常に異なる様式で消費された(図3)。図3は、4名の被験者のヒト結腸細菌で72時間インキュベーションした後のアロエベラゲルポリサッカライド(AVP)最終産物を示す。AVP対照(実線)は、結腸細菌を用いないプロトコルに供されていた。y軸はmRIUであり、x軸は単位が分の滞留時間である。
【0074】
およそ1,000,000のMSSのポリマー成分は、MSSにより選択された異なる培養物によっては消費されなかったが、800,000?1,000,000MWのポリマーは、様々な程度に消費された。興味深いことには、3名の被験者では、AVP又はLAGではなくMSSの糞便培養物分解が、対照MSSには見い出されない低分子量ポリマー約1,000MWの蓄積という結果になり、親分子からCPPの小部分を切取るグリコシド酵素の搬出を示唆した(図4)。図4は、4名の対象体者のヒト結腸細菌で72時間インキュベーションした後の混合サッカライドサプリメント(MSS)最終産物を示す。MSS対照(実線)は、結腸細菌を用いないプロトコルに供されていた。」

(カ)「【0075】
考察。ヒト腸微生物相は、500?1,000種を含むと考えられており、約1.5kgの生物体量に寄与する。インビボのヒトGI管におけるポリサッカライドの細菌性利用は、疑いなく高度に複雑な過程である。ポリマー分解は、この過程に寄与する様々な細菌に由来する酵素との協調的活性である。ここでは、利用可能な炭素源としてCPPのみを含有していた新しい培地で糞便細菌を反復継代する過程により、最も良好にCPPを競合及び使用できる細菌が選択された。これらの糖を効率的に使用できる細菌は、それほど効率的でない他の種より多くの子孫を産生する傾向があるであろう。時間と共に、これらの種は培養物において優占性を示すであろう。これは、エンテロコッカス(Enteroccus)種がLAGを使用することを示す初めての実証である(表1)。
【0076】
LAGは、より低いMW(約10,000)部分(図2、矢印)を分解するそれらの能力に被験者間で差異があったが、すべての被験者で分解が不完全であった。経口アロエベラゲルは腸機能を改善することが示されたが、これは、ヒト結腸細菌によるアロエベラゲルポリサッカライドの使用を例示する最初の実証である。1つの知見は、高分子量(1,000,000を超える)成分を使用するAVPの能力に関して個体間でより大きな差異があるということである(図3、矢印)。溶解度に限りがある非常に大きな分子が消費されていることは、エンテロコッカス種がこれらの大きな分子を使用できることを例示する。大きなCPP粒子が内部移行され、その後より小さな成分へと分解されることを含む、いくつかの使用され得る経路が存在する。別の経路は、いくつかの細菌がグリコシダーゼを分泌し、大きな分子のより低分子量成分への分解が導かれることである。最後になるが、使用には、これらの過程の組合せが伴っていてもよい。エンテロコッカス・フェカリスは、21種のグリコシルヒドロラーゼをコードすることが知られている。これは、ヒト結腸細菌がこの混合サッカライド健康補助サプリメント(MSS)を使用することの最初の実証である。E.フェシウムにMSSを摂食させると、上清に比較的小さな(約1,000)ポリマーの大量産生が導かれるということは、特筆すべき例示である(図4、矢印)。MSS対照は5,000を超えているため、より低MW物質の産生は、より大きな分子の分解から発生しなければならない。これは、E.フェシウムにより上清に搬出された酵素による大きな分子の分解、又は細菌自体による小さなポリマーの分泌のいずれかから生じる可能性がある。非常に驚くべきことは、この現象がLAG又はAVPのいずれにも個々には認められないということである。バクテロイデス及びビフィドバクテリウム種は優占的だったが、エンテロコッカス種は、システムの最も低いステージ(the lowest stage of the system)で存在量を増加させた。MSSの他の成分のヒト結腸分解を調査した。他には、U.ピンナーフィダ(U. pinnatifida)由来の精製された繊維(α及びβ結合硫酸化フカン)及び全藻類繊維(α及びβ結合アルギン酸塩)のヒトインビトロ発酵を調査した。精製された硫酸化フカンは分解されなかった。アルギン酸塩の47?62パーセントは、短鎖フリ酸(fury acid)に完全に代謝された。アルギン酸塩の60%が「非通常性で未知の発酵経路」により分解されると考えられると結論を下した者もいる。
【0077】
エンテロコッカスは、生態学的に用途が広く、広範囲の温度及びpH条件に耐えることができる。この細菌は、ヒト小腸及び大腸にコロニーを形成する。ヒトプロバイオティクス栄養補助研究により、両種は免疫系を刺激できることが報告されている。E.フェシウムサプリメントは、血清コレステロールを減少させ、炎症応答に関与する細胞受容体の発現を低減させることも示されている。腸の培養可能な細菌集団の99.9%超は偏性嫌気性菌であり、GI管に住む細菌の概算で80%は、いかなる条件下でも培養することができない。本発明者らの9日目の培養物に存在する細菌種は、これらのCPPを使用できる比較的数少ない種を代表し、いくつかの種はインビボで容易にCPPを使用することができるが、本明細書で使用された手法などの手法を使用して同定することができない。
【0078】
この実証は、ヒトGI細菌が、アロエベラゲル及び混合サッカライド健康補助サプリメント由来の免疫調節ポリサッカライドを使用することを初めて例示するものである。エンテロコッカス種は、本研究で使用した他の種よりCPPを効率的に使用し、反復継代後の培養物におけるそれらの優占性が導かれた。CPP最終産物のMW解析により、異なる個体から回収された細菌生物群系がCPPを使用する能力には差異があることが示されている。インビボで、被験者は高MWのAVP成分を完全に分解することができ、より低MWの成分の消費は様々であった。結腸細菌にMSSを摂食させると、比較的小さな(約1,000)ポリマーの大量産生が導かれるという現象は、MSSの2つの主要成分であるLAG又はAVPのいずれでも認められていない。より緊密にインビボGI管に近似した系を用いた、これら及び他のCPPに関する研究も、本発明により実施することができる。」

ウ 判断
(ア)本件補正発明は、バイオリアクターシステム内で、事前に特定のプロバイオティクス細菌とともに特定の天然ポリサッカライドをインキュベートすることで、前記細菌が前記天然ポリサッカライドを加工し、その結果得られた加工ポリサッカライドを含む健康補助サプリメントである。

(イ)そこで、本件補正発明の健康補助サプリメントに含まれる前記加工ポリサッカライドについて、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるかどうか、すなわち、バイオリアクターシステム内で、事前に特定のプロバイオティクス細菌とともに特定の天然ポリサッカライドをインキュベートして、前記細菌が前記天然ポリサッカライドを加工することで加工ポリサッカライドを製造することが、明細書及び図面の記載並びに当業者の技術常識に基づき、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なくできたものであるかどうか、以下検討する。

(ウ)本願明細書の発明の詳細な説明の上記イ(イ)?(カ)に、天然ポリサッカライドをヒト胃腸細菌のプロバイオティクス細菌により加工できることを示唆する記載がある。
しかし、本件補正発明に係る特定の天然ポリサッカライドは、「アロエベラ由来のアセチル化マンナン」と「アロエグルコマンナン、コンニャクグルコマンナン、ガラクトマンナン、カラマツアラビノガラクタン、藻類ポリサッカライド、フコイダン、真菌グルコマンナン、トラガカントガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、及びアカシアガム」から選択されたものとを含むものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明において、プロバイオティクス細菌により加工されることが具体的に示唆された上記特定の天然ポリサッカライドは、上記イ(ウ)及び(エ)に「アロエベラ由来のアセチル化マンナン」である高分子量アロエゲラベルポリサッカライド(AVP)とアラビノガラクタン(LAG)を主要成分として含む「混合サッカライド健康補助サプリメント(MSS)」が記載されるのみである。

(エ)一方、バイオリアクターシステム内で、特定のプロバイオティクス細菌とともに特定の天然ポリサッカライドをインキュベートした場合に、前記細菌が前記天然ポリサッカライドを加工し得るかについては、実験等による具体的裏付けをもって確認する必要がある。
このことは、本願明細書の以下(a)?(c)の記載からも明らかである。
(a)本願明細書の「D-ガラクトサミン、デキストラン、カラヤガム、フコイダン、アルギン酸塩、カラゲナン、硫酸コンドロイチン、ヒアルロン酸塩、ヘパリン、オボムコイド、及びウシ顎下ムチンなどの他のポリサッカライドは、試験された菌株のいずれによっても発酵されなかった。」(【0047】)及び「この調査に含まれていた他のポリサッカライド、グルコサミン、フコース、キシラン、カラマツアラビノガラクタン、グアーガム、イナゴマメガム、アラビアガム、ガティガム、トラガカントガム、ペクチン、ポリガラクツロ酸塩、及びラミナリンは、特定の細菌株により選択的に発酵されたが、他の細菌株では発酵されなかった。」(【0047】)等の記載を参酌すると、天然ポリサッカライドとプロバイオティクス細菌との組合せによっては、天然ポリサッカライドがプロバイオティクス細菌により加工されず、加工ポリサッカライドを得ることができない場合がある。
(b)本願明細書の段落【0067】の【表1】は、エンテロコッカス・フェリカス、エンテロコッカス・フェシウス、エンテロコッカス・デュランス及びエンテロコッカス・アビウムのヒト胃腸細菌を含む糞便試料を、LAG、AVP及びMSSそれぞれのポリサッカライドの培地でインキュベートした結果、各培地で培養された細菌が記載されたものであるから、【表1】で前記ヒト胃腸細菌(【表1】の列)が、培養されたポリサッカライドの培地(【表1】の「CPP」の行)以外の培地においては、前記ヒト胃腸細菌が当該培地で培養されなかったことを意味している。
したがって、【表1】より、LAGでエンテロコッカス・アビウムが、AVPでエンテロコッカス・フェリカス及びエンテロコッカス・デュランスが、MSSでエンテロコッカス・フェリカス、エンテロコッカス・デュランス及びエンテロコッカス・アビウムが培養されなかったことが示されていることになるから、同じ属のプロバイオティクス細菌であっても、選択された天然ポリサッカライドによっては加工できない場合がある。
(c)本願明細書の「E.フェシウムにMSSを摂食させると、上清に比較的小さな(約1,000)ポリマーの大量産生が導かれるということは、特筆すべき例示である(図4、矢印)。MSS対照は5,000を超えているため、より低MW物質の産生は、より大きな分子の分解から発生しなければならない。これは、E.フェシウムにより上清に搬出された酵素による大きな分子の分解、又は細菌自体による小さなポリマーの分泌のいずれかから生じる可能性がある。非常に驚くべきことは、この現象がLAG又はAVPのいずれにも個々には認められないということである。」(【0076】)及び「結腸細菌にMSSを摂食させると、比較的小さな(約1,000)ポリマーの大量産生が導かれるという現象は、MSSの2つの主要成分であるLAG又はAVPのいずれでも認められていない。」(【0078】)との記載を参酌すると、E.フェシウムは、MSSを加工して比較的小さな(約1,000)ポリマーの大量産生したが、MSSの主要な成分であるLAG又はAVPそれぞれでは、同様のことが起きなかったといえる。

(オ)また、本願明細書の段落【0067】の【表1】及び段落【0071】の【表2】には、MSSでエンテロコッカス・フェシウムが培養された一方、エンテロコッカス・フェリカス、エンテロコッカス・デュランス、エンテロコッカス・アビウム、大腸菌及びクレブシエラ・ニューモニエは培養されなかったことが示されており、本件補正発明に係る特定の天然ポリサッカライドであるMSSについて、本件補正発明の範囲に含まれる「プロバイオティクス細菌」によって加工ポリサッカライドが製造されないことが示されている。

(カ)結局、本願明細書の発明の詳細な説明において、本件補正発明の特定の天然ポリサッカライドを特定のプロバイオティクス細菌により加工し、加工ポリサッカライドを製造することができることを具体的裏付けをもって確認しているのは、MSSとエンテロコッカス・フェシウムの組合せのみであり、同じエンテロコッカス属の細菌であっても加工ポリサッカライドが製造されないなど、本件補正発明で列挙される「プロバイオティクス細菌」と「天然ポリサッカライド」との組合せの中には、加工ポリサッカライドが製造されない組合せが含まれているから、実際に加工ポリサッカライドが製造される組合せであるかどうかは、実験等による具体的裏付けを持って確認しなければならない。

(キ)そして、本件補正発明は、「アロエベラ由来のアセチル化マンナン」と「アロエグルコマンナン、コンニャクグルコマンナン、ガラクトマンナン、カラマツアラビノガラクタン、藻類ポリサッカライド、フコイダン、真菌グルコマンナン、トラガカントガム、ガティガム、キサンタンガム、グアーガム、及びアカシアガム」から選択される天然ポリサッカライドと、「ヒト胃腸細菌」のうち「ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、アセトバクター属、カンジダ属、クルベロマイセス属、サッカロマイセス属、トルラ属、トルラスポラ属、デバリオマイセス属、チゴサッカロマイセス属、バクテリオイデス属、ビフィドバクテリウム属、ユーバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属、ルミノコッカス属、及びペディオコッカス属」から選択されるプロバイオティクス細菌との組合せを、バイオリアクターシステム内でインキュベートして、加工ポリサッカライドを得るものであるところ、本願明細書及び図面には、上記(ウ)のとおりの「アロエベラ由来のアセチル化マンナン」である高分子量アロエゲラベルポリサッカライド(AVP)とアラビノガラクタン(LAG)を主要成分として含む「混合サッカライド健康補助サプリメント(MSS)」と「エンテロコッカス属」のプロバイオティクス細菌である「エンテロコッカス・フェシウム」の組合せが示唆されるのみであり、上記(オ)のとおり本件補正発明に係る「プロバイオティクス細菌」と「天然ポリサッカライド」との組合せ中には加工ポリサッカライドを製造できない組合せも含まれていること、上記(エ)(b)のとおり同じエンテロコッカス属の細菌であっても選択された天然ポリサッカライドによっては加工ポリサッカライドが製造されないなど、加工ポリサッカライドが製造される組合せであるかは、それぞれ実験等により具体的裏付けをもって確認する必要があること、まして、本件補正発明で特定されるエンテロコッカス属以外の属のプロバイオティクス細菌について、加工ポリサッカライドを製造するための指針及び一般則が示されておらず、また、そのような技術常識もないことから、本件補正発明で特定される広範な属のプロバイオティクス細菌と天然ポリサッカライドの無数の組合せが加工ポリサッカライドが製造される組合せであるかは、やはりそれぞれ実験等により具体的裏付けをもって確認する必要があり、当業者に過度の試行錯誤や複雑高度な実験を強いるものであることは明らかである。

(ク)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本件補正発明に係る加工ポリサッカライドを製造すること、ひいては、本件補正発明の加工ポリサッカライドを含む健康補助サプリメントを製造することについて、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 本件補正発明について
本件補正発明は、上記1.の補正後の請求項1のとおりである。

イ 発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、上記(1)のイの記載がある。

ウ 判断
上記(1)ウ(ウ)のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明に、本件補正発明に係る天然ポリサッカライドとして具体的に記載されたものは、「混合サッカライド健康補助サプリメント(MSS)」のみである。
また、発明の詳細な説明に、MSSを加工し、加工ポリサッカライドを製造することが示唆されたプロバイオティクス細菌は、健康なヒトの糞便試料に含まれていたエンテロコッカス・フェシウムが記載されるのみである。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明の加工ポリサッカライドが製造される組合せとして、MSSとエンテロコッカス・フェシウムのヒト胃腸細菌の組合せが記載されているが、上記(1)ウ(エ)にのとおりバイオリアクターシステム内で、特定のプロバイオティクス細菌とともに特定の天然ポリサッカライドをインキュベートした場合に、前記細菌が前記天然ポリサッカライドを加工し得るかについては、実験等による具体的裏付けをもって確認する必要があり、また、本件補正発明で特定されるエンテロコッカス属以外の属のプロバイオティクス細菌について、加工ポリサッカライドを製造するための指針及び一般則が示されておらず、また、そのような技術常識もないから、MSSとエンテロコッカス・フェシウムのヒト胃腸細菌の組合せ以外の本件補正発明に係る天然ポリサッカライドとプロバイオティクス細菌との組合せについてまで、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、本件補正発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
したがって、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

(3)独立特許要件のまとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、いわゆる実施可能要件を満たすように記載されているとはいえないから、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしておらず、また、本件補正発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない。

3 補正却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定により違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本願の請求項1乃至24に係る発明は、平成25年1月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至24に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1のとおりのものである。


第4 原査定の拒絶の理由
平成25年8月27日付けの原査定には、「この出願は、平成24年10月31日付拒絶理由通知書に記載した理由3,4によって,拒絶をすべきものです。」と記載され、平成24年10月31日付けの拒絶理由通知書の理由3、4は「3.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」、「4.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであって、下記として以下の記載がある。
「(理由3,4)
請求項1?10に記載のサプリメント,請求項11?17に記載の製剤,請求項18?23,24に記載の健康補助サプリメント,請求項25?33に記載の健康補助サプリメントを作製するための方法及び請求項34?35に記載の製品は,いずれも,プロバイオティクス細菌を天然ポリサッカライドと組み合わせて加工し,食品又は健康補助サプリメントに供する点に特徴を有するものと認められる。
これに対して,発明の詳細な説明には,選択ポリサッカライド基質で増殖が増強されたプロバイオティクス培養物の選択において,調査された22種のうちの7種の少なくともいくつかの菌株がアミロース及び/又はアミロペクチンを利用することができたが,他のポリサッカライドはいずれによっても発酵されなかったこと(段落47以下実施例1),プロバイオティクス生物の増殖及びポリサッカライド利用を増強するための追加的作用物質を包含させること(段落52実施例2),プロバイオティクス加工ポリサッカライドを選択及び作製するための組成物及び方法において,免疫調節ポリサッカライド(IP)ないし複合植物ポリサッカライド(CPP)の典型例としてアラビノガラクタン(LAG),アロエベラゲル由来のアセチル化マンナン(AVP)及びその混合サプリメント(MSS)が示されるとともに,これら3つと良好に競合できたものはエンテロコッカス・フェシウムのみであったこと(段落53以下実施例3,段落67表1,段落71表2)が記載されるに止まる。
そして,プロバイオティクス細菌や天然ポリサッカライドには,いずれも種々のものが含まれるが,具体的裏付けをもって加工ポリサッカライドの作製を確認できたのは前記特定の細菌-ポリサッカライドの組合せのみであり,その余の組合せについては,発明を実施するための指針も一般則も示されておらず,またそのような技術常識があるわけでもない。そうすると,広範なプロバイオティクス細菌を無数の天然ポリサッカライドと組み合わせて,加工の可能性及びサプリメント提供の当否を選抜するため,当業者は過度の試行錯誤を要するものと解される。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?35に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず,また,請求項1?35に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。」

そして、平成25年8月27日付けの原査定の備考欄には以下の記載がある。
「・理由3,4/請求項1?24
出願人は,前記意見書において,実施例1及び2並びに当初明細書において,発明を実施するための指針又は一般則が示されているので,それに当業者の技術常識を合わせることにより,本発明を実施することは十分に可能である旨主張する。
そこで検討するに,実施例1には,種々の最近(当審注:「細菌」の誤記と思われる。)及び酵母の安定した混合培養物であるケフィア粒に見出される典型的な微生物(段落50),及び,野菜及び乳製品の発酵に使用されるいくつかの典型的な細菌(段落51)が列挙されるだけであり,また,実施例2にも,プロバイオティクス生物の増殖及びポリサッカライド利用を増強するための追加的作用物質(段落52)が列挙されるに止まる。そして,当初明細書の記載をみても,アロエベラ由来のアセチル化マンナンを含む天然ポリサッカライドを加工できる細菌種として確認したのは,エンテロコッカス・フェシウムに限られる(段落67表1)。そうすると,エンテロコッカス属の中での選抜ですら相当の試行錯誤を伴うものであり,まして,補正後の特許請求の範囲に特定される広範な属の各々について有用な細菌を選抜することは,過度の試行錯誤を伴うものであるといわざるを得ない。
したがって,出願人の前記主張は採用の限りでなく,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?24に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず,また,請求項1?24に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。」

第5 当審の判断
当審は、原査定のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。その理由は以下のとおりである。
本願発明は、本件補正発明の「プロバイオティクス細菌」について「ヒト胃腸細菌」のものとする限定を省いたものである。
そして、上記第2の2(1)ウ及び(2)ウの検討は、第4で示した原査定の理由を詳述したものであるが、上記限定が省かれた本願発明においては、本願発明に係る特定の天然ポリサッカライドと特定のプロバイオティクス細菌の組合せがさらに増大するものであるから、それらの組合せを含めて加工ポリサッカライドを製造し得るかどうかを確認することは、当業者に過度の試行錯誤や複雑高度な実験を強いることが明らかである。
また、MSSとエンテロコッカス・フェシウムのヒト胃腸細菌の組合せ以外の本願発明に係る天然ポリサッカライドとプロバイオティクス細菌との組合せについてまで、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、いわゆる実施可能要件を満たすように記載されているとは認められず、また、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない。


第6 Aむすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。

なお、審判長は、本件審理終結後の平成27年4月7日に提出された上申書について検討したが、審理を再開する必要性を認めなかった。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-02 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-05-14 
出願番号 特願2010-507710(P2010-507710)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A23L)
P 1 8・ 536- Z (A23L)
P 1 8・ 757- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 佐々木 正章
小野 孝朗
発明の名称 選択された非病原性微生物による天然ポリサッカライドの加工、並びにその作製方法及び使用方法  
代理人 堀内 真  
復代理人 山村 昭裕  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  

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