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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L 審判 査定不服 判示事項別分類コード:357 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L |
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管理番号 | 1306839 |
審判番号 | 不服2014-2274 |
総通号数 | 192 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-06 |
確定日 | 2015-10-14 |
事件の表示 | 特願2010-548681「拡張制御ホース」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日国際公開、WO2009/108289、平成23年 5月12日国内公表、特表2011-514953〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年2月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2008年2月26日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成24年9月24日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月6日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともにこれと同時に手続補正書が提出され、その後審判合議体において、同年10月9日付けで、平成26年2月6日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され、平成27年4月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?18に係る発明は、平成27年4月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「内側チューブ、繊維補強材及び外側被覆を備え、前記繊維補強材が複数のナイロンヤーンと複数のポリエステルヤーンから実質的に成り、 前記繊維補強材は、平衡状態に、編組され、または螺旋状に巻かれ、あるいは巻き付けられ補強層を構成するとともに、単一の前記補強層内において、前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンが交互に配置され、 6.9MPa?20.7MPaの範囲の内部圧力で、13%よりも大きい容積拡張を行い、 前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンの交互の配置が、(1)複数キャリア編組機における1つおきのブレーダーキャリアにポリエステルヤーン、その他のキャリアにナイロンヤーンを適用したもの、または(2)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、多数のナイロンエンドが、他の多数のポリエステルエンドと交互に配置されたもの、または(3)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、1つおきのヤーンのエンドが、ナイロンヤーンと交互にあるポリエステルヤーンとして配置されたものの何れかである ことを特徴とする拡張ホース。」 第3 審判合議体が通知した拒絶の理由 平成26年10月9日付けで、審判合議体が通知した拒絶の理由は、以下の2つの理由を含むものである。 [理由1]本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 [理由2]本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであって、その刊行物1、2として、 刊行物1:実願昭60-119271号(実開昭62-27276号)のマイクロフィルム 刊行物2:特開2000-193151号公報 が示されたものである。 第4 当審の判断 1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について ア 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って検討する。 イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明は、「パワーステアリング用途に適した高圧拡張制御ホース」(段落【0001】)に関するものであって、「耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化する」(段落【0017】)という課題を解決するために、少なくとも、 (i)「前記繊維補強材は、平衡状態に、編組され、または螺旋状に巻かれ、あるいは巻き付けられ補強層を構成するとともに、単一の前記補強層内において、前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンが交互に配置され」ること、 (ii)「6.9MPa?20.7MPaの範囲の内部圧力で、13%よりも大きい容積拡張を行」うこと、及び、 (iii)「前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンの交互の配置が、(1)複数キャリア編組機における1つおきのブレーダーキャリアにポリエステルヤーン、その他のキャリアにナイロンヤーンを適用したもの、または(2)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、多数のナイロンエンドが、他の多数のポリエステルエンドと交互に配置されたもの、または(3)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、1つおきのヤーンのエンドが、ナイロンヤーンと交互にあるポリエステルヤーンとして配置されたものの何れかである」ことを発明特定事項として特定したものと理解することができる。 ウ そして、本願明細書の段落【0032】には、確かに上記(i)及び(iii)の事項を具備する発明の一実施形態について記載されているが、かかる事項によって、上記イで述べた「耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化する」(段落【0017】)という課題が解決できると解すべき合理性はない。 すなわち、本願明細書の段落【0042】?段落【0053】には、ナイロン補強層とポリエステル補強層とを具備するホース構造の実施例が、比較例A?Cとともに記載されているが(段落【0046】の表1には、その試験結果が示されている)、上記実施例は、あくまでもナイロン補強層とポリエステル補強層とを具備するホース構造のものであって、上記(i)及び(iii)の事項を具備するホース構造のもではない。 また、本願明細書の段落【0049】には、上記実施例について「一方、ナイロン補強層と、ポリエステル補強層を使用した実施例ホースは、特性ターゲットに合致し又は上回った。特に、衝撃試験寿命は予想を遥かに上回り、1、882、789サイクルの平均寿命を示した。実施例は、より少ない合計補強ヤーンを有していたにもかかわらず、比較例Aと比較例Bの間くらいで機能する代わりに、衝撃寿命及び破裂圧力の両方が、比較例よりも良好であることを示した。」と記載され、耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化できたとする結果について記載されているが、そのような結果(特に、耐衝撃疲労性(平均衝撃寿命)の評価)が上記(i)及び(iii)の事項を具備するホース構造のものにおいても得られると解すべき合理性はない。 エ ところで、請求人は、平成27年4月13日付けの意見書で、段落【0042】?【0053】に記載の実施例は、内側繊維層12にナイロンフィラメント、外側繊維層14にポリエステルフィラメントを用いた実施形態に対応するもののみに関し、本発明に対応する実施形態に関する開示はない旨を認めながらも、所定の条件の下、所望の作用・効果を発揮する特定の機能・特性(物性)を備える素材、またはその組み合わせを一旦見出せば、それらの幾つかの配置、構成においても同様の効果が得られるであろうことは当業者であれば容易に推認できる、旨主張する(意見書の「4.」)。 しかし、上記(i)及び(iii)で特定されるホース構造のものは、単一の補強層内にいくつかの高い伸びのナイロンヤーンといくつかの低い伸びのポリエステルヤーンが内側と外側に交互に配置されて構成されるものであるから、補強層として、ナイロン補強層とポリエステル補強層とを使用した構造、すなわち、高い伸びのナイロン補強層を内側に配置し、低い伸びのポリエステル補強層を外側に配置する構造のものとは、補強層自体の構造が異なることが明らかであり、したがって、補強層自体の機能・特性(特に、耐衝撃疲労性(平均衝撃寿命))が同一視できるものとはいえない。 また、上記(i)及び(iii)で特定されるホース構造のものにおいて、ナイロン補強材のみを使用した比較例A(段落【0047】)及びポリエステル補強材のみを使用した比較例B(段落【0048】)等の比較結果を参酌することで、上記(ii)で特定する「6.9MPa?20.7MPaの範囲の内部圧力で、13%よりも大きい容積拡張を行」うことが推認し得るとしても、耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化できたとする作用・効果(特に、耐衝撃疲労性(平均衝撃寿命))が、比較例よりも良好になるという作用・効果までをも推認し得るものではないから、上記(i)及び(iii)で特定されるホース構造のものが、本願発明の課題を解決できると解すべき合理性はない。 したがって、出願人の主張は採用できない。 オ よって、上記(i)?(iii)の事項は、本願発明の課題、すなわち、「耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化する」という課題を解決できると認識できる範囲のものと認めることはできないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 以上のとおりであるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえない。 2 理由2(特許法第29条第2項)について (1)刊行物の記載事項 ア 刊行物1の記載事項 (1a)「2.実用新案登録請求の範囲 内面ゴム、補強層及び外面ゴムからなるパワーステアリング用ホースにおいて、該内面ゴムの層上に高伸度の補強材を編組した第1補強層を設けると共に、その補強層上にスポンジ状中間層を設け、更にそのスポンジ状中間層と外面ゴムとの間に伸びの小さい補強材を編組した第2補強層を介設したことを特徴とするパワーステアリング用ホース。」(明細書1頁4?12行) (1b)「〔考案の目的〕 そこで本考案は、・・・安定した内容積膨張量が得られると共に、耐衝撃圧力性能の良いパワーステアリング用ホースを提供することを目的としたものである。」(明細書2頁13?18行) (1c)「〔実施例〕 以下図面を参照して本考案の実施例を説明するが、第1図は本考案の一実施例におけるパワーステアリング用ホースの一部切断断面であり、第2図は第1図のホースの加圧時における状態を示す図である。 まず、このパワーステアリング用ホースは内面ゴム1の層上に・・・高伸度の補強材を・・・編組した第1補強層3Aを設けると共に、その第1補強層3Aの層上にスポンジ状中間層2を設け、更にそのスポンジ状中間層2と外面ゴム4との間に、・・・伸びの小さい鋼線、芳香族ポリアミド等のごとき補強材・・・で編組した第2補強層3Bを設けている。 ・・・ そこで、上記の構成からなるパワーステアリング用ホースで90kgf/cm^(2)の加圧時の内容積膨張量が18cc/m以上で135℃、105kgf/cm^(2)の衝撃圧力試験で50万回異常のない要求性能のものとして、内面ゴム1の層上に高伸度の6・6ナイロン糸を第1補強層3Aとして設け、その外周に・・・中間層を設け、更にその上に第2補強層3Bとして・・・鋼線を編組し、外面ゴム4の層を施行した・・・ものを試作した」(明細書3頁8行?5頁7行) イ 刊行物2の記載事項 (2a)「【0011】図1は本発明の一実施の形態にかかるブレーキホース10を長手方向に切断した半断面図・・・である。・・・すなわち、ブレーキホース10は、内管ゴム層12と、下補強糸層13と、中間ゴム層14と、上補強糸層15と、外管ゴム層16とを備えており、さらに外管ゴム層16の外周に保護層17が積層されている。・・・ ・・・ 【0014】下補強糸層13は、ポリエステル・ナイロン、ビニロンなどの繊維糸を内管ゴム層12上に螺旋状に巻回することにより形成されている。・・・さらに、上補強糸層15は、ポリエステル、ビニロンなどの繊維糸を中間ゴム層14上に螺旋状に巻回することにより形成されている。これらの下補強糸層13、中間ゴム層14及び上補強糸層15は、補強層(中間層)を構成し、主にホース自体の耐膨張性を高めている。」 (2b)「【0033】なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。 【0034】(1)上記実施の形態では、高圧ホースとして、ブレーキホースについて説明したが、これに限らず、外力から保護するための保護層を必要とするものであれば、例えば、車両にあっては、軽いハンドル操作での車両の操舵を図るためのパワーステアリング装置・・・等におけるオイルの圧送に用いられるものであってもよい。」 (2)刊行物1に記載された発明 刊行物1の実用新案登録請求の範囲の記載(摘示(1a))によれば、刊行物1には、 「内面ゴム、補強層及び外面ゴムからなるパワーステアリング用ホースにおいて、該内面ゴムの層上に高伸度の補強材を編組した第1補強層を設けると共に、その補強層上にスポンジ状中間層を設け、更にそのスポンジ状中間層と外面ゴムとの間に伸びの小さい補強材を編組した第2補強層を介設した、パワーステアリング用ホース」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比・判断 ア.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「内面ゴム」、「外面ゴム」及び「パワーステアリング用ホース」は、その技術的意義において、本願発明の「内側チューブ」、「外側被覆」及び「拡張ホース」に、それぞれ相当する。 (イ)引用発明の「高伸度の補強材」及び「伸びの小さい補強材」は、繊維補強材をなすことが明らかであるから、本願発明の「複数のナイロンヤーンと複数のポリエステルヤーンから実質的に成」る「繊維補強材」とは、「繊維補強材」の限度で共通するものといえる。 (ウ)引用発明の「補強層」は、「高伸度の補強材を編組した第1補強層」と「伸びの小さい補強材を編組した第2補強層」とを備えるものであるところ、上記補強材は補強層を構成することが明らかであるから、本願発明の「繊維補強材は、平衡状態に、編組され、または螺旋状に巻かれ、あるいは巻き付けられ補強層を構成する」とは、「繊維補強材は、補強層を構成する」限度で共通するものといえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「内側チューブ、繊維補強材及び外側被覆を備え、前記繊維補強材は、補強層を構成する、拡張ホース。」の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 繊維補強材及び補強層に関し、 本願発明は、「前記繊維補強材が複数のナイロンヤーンと複数のポリエステルヤーンから実質的に成り、 前記繊維補強材は、平衡状態に、編組され、または螺旋状に巻かれ、あるいは巻き付けられ補強層を構成するとともに、単一の前記補強層内において、前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンが交互に配置され、 6.9MPa?20.7MPaの範囲の内部圧力で、13%よりも大きい容積拡張を行い、 前記ナイロンヤーン及び前記ポリエステルヤーンの交互の配置が、(1)複数キャリア編組機における1つおきのブレーダーキャリアにポリエステルヤーン、その他のキャリアにナイロンヤーンを適用したもの、または(2)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、多数のナイロンエンドが、他の多数のポリエステルエンドと交互に配置されたもの、または(3)キャリアがマルチエンド機能を有する場合、1つおきのヤーンのエンドが、ナイロンヤーンと交互にあるポリエステルヤーンとして配置されたものの何れかである」構成であるのに対して、 引用発明は、「該内面ゴムの層上に高伸度の補強材を編組した第1補強層を設けると共に、その補強層上にスポンジ状中間層を設け、更にそのスポンジ状中間層と外面ゴムとの間に伸びの小さい補強材を編組した第2補強層を介設」するものである点。 イ.相違点についての判断 (ア)本願明細書の記載によれば、本願発明は、例えばパワーステアリングホースのような拡張ホースを対象として、耐衝撃疲労性及び容積拡張制御を同時に最適化することを解決課題とし(段落【0017】)、かかる課題を解決するために、ナイロンのような相対的に高い伸び材料の繊維と、ポリエステルのような相対的に低い伸び材料の繊維を備えて補強層を構成し(段落【0032】)、6.9MPa?20.7MPaの範囲の動作圧力において、13%よりも大きい容積拡張を行うように形成したものと理解することができる(段落【0036】)。 (イ)他方、引用発明は、本願発明と同様に「パワーステアリング用ホース」を対象とするものであって、「安定した内容積膨張量が得られると共に、耐衝撃圧力性能の良いパワーステアリング用ホースを提供すること」を解決課題とするものであるから(摘示(1b))、本願発明と引用発明とは、技術分野のみならず、その解決課題の点で多分に共通するものといえる。 (ウ)ところで引用発明は、上記課題を解決するために、高伸度の補強材を編組した第1補強層と伸びの小さい補強材を編組した第2補強層とを備えて補強層を構成するものである。 そして、かかる補強層を構成する繊維補強材として、刊行物1には、高伸度の「6・6ナイロン糸」を用いること、及びそれに比して伸びの小さい「鋼、芳香族ポリアミド等のごとき補強材」を用いることが記載されているところ(摘示(1c))、繊維補強材としてポリエステルを用いることは例えば刊行物2にも記載されているように慣用技術であり(摘示(2a)(2b)、さらに必要ならば、特開2004-150458号:段落【0001】、段落【0021】)、ポリエステルがナイロンに比べて伸びの小さい素材であることは技術常識であるといえるから、引用発明に接した当業者は、かかる慣用技術をも参考の上、高伸度の補強材としてナイロンヤーンを用いるとともに、伸びの小さい補強材としてポリエステルヤーンを選択して採用し得るものといえる。 (エ)また、引用発明は、高伸度の補強材を編組して第1補強層を形成するとともに、伸びの小さい補強材を編組して第2補強層を形成し、それら伸び特性の異なる第1補強層と第2補強層を用いて補強層を構成するものではあるものの、所要の加圧時膨張量を備えたパワーステアリング装置に用いられるホースを得るために、或いは圧力流体を搬送する高い破裂強さの可撓性ホースを得るために、伸び特性の異なる各繊維を、各繊維ごとに編組して第1の補強層と第2の補強層とを構成し、それら伸び特性の異なる第1の補強層と第2の補強層を用いて補強層を構成することも、または、それぞれ伸び特性の異なる各繊維を編組して、単一の補強層として構成することとも、適宜選択的に採用し得る周知技術といえるから(必要ならば、実願昭53-75777号(実開昭54-176113号)のマイクロフィルム:明細書2頁7行?3頁18行、4頁下から5?末行、図1?3、実願昭51-123952号(実開昭53-41725号)のマイクロフィルム:明細書1頁3?15行、3頁11行?4頁3行、5頁7?12行、など参照)、安定した内容積膨張量が得られると共に、耐衝撃圧力性能の良いパワーステアリング用ホースを提供することを解決課題とする引用発明において(上記(イ))、繊維補強材の構成として、高伸度の補強材としてナイロンヤーンを用いるとともに、伸びの小さい補強材としてポリエステルヤーンを選択して採用し(上記(ウ))、それらの各繊維を編組して単一の補強層として構成することの動機付けも十分存在する。 (オ)そして引用発明は、本願発明と同様に、パワーステアリングホースのような拡張ホースを対象とし、かかる拡張ホースに要求される容積拡張を行うように形成され得ることが明らかであるから(摘示(1c))、引用発明の拡張ホースを、6.9MPa?20.7MPaの範囲の動作圧力において、13%よりも大きい容積拡張を行うように形成することは、当業者が適宜設定する設計事項にすぎず、格別困難なことではないし、また、各繊維を編組して単一の補強層として構成するに際し、所要機能を具備する編組機にて各繊維を交互に配置して補強層を編組することも想定の範囲といえる。 (カ)したがって、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明及び上記周知・慣用技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものといえ、また、本願発明の作用効果も、引用発明及び上記周知・慣用技術から当業者が予測し得る範囲のものといえる。 ウ.まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知・慣用技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-13 |
結審通知日 | 2015-05-19 |
審決日 | 2015-06-01 |
出願番号 | 特願2010-548681(P2010-548681) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16L)
P 1 8・ 357- WZ (F16L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 豊島 ひろみ |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
平田 信勝 氏原 康宏 |
発明の名称 | 拡張制御ホース |
代理人 | 小倉 洋樹 |
代理人 | 藤 拓也 |
代理人 | 松浦 孝 |