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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1307955
審判番号 不服2015-5091  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2015-11-27 
事件の表示 特願2010-141285「シリンダボア壁の保温部材、内燃機関及び自動車」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開、特開2012- 7479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年6月22日の出願であって、平成25年2月18日に手続補正書が提出され、平成26年5月28日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年8月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成26年10月3日に意見書が提出されたが、平成26年12月12日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成26年7月24日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックのシリンダボア壁の溝状冷却水流路側の壁面に接するための接触面を有するシリンダボア壁の保温部材であり、
該接触面を形成する部位の材質が、エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴムであり、
該保温部材の内部又は接触面とは反対の裏面に補強材を有しており、
対壁接触部を有する固定部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定されること、
を特徴とするシリンダボア壁の保温部材。」

第3 引用文献
第3-1 引用文献1
本願の出願前に頒布され、原査定の理由に引用された刊行物である特開2004-19472号公報(以下、「引用文献1」という。)には図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

(1)引用文献1の記載
ア 「【要約】
【課題】シリンダボア壁から奪われる熱量を抑えることができるシリンダブロック用スペーサ及びスペーサを設けたシリンダブロックの提供。
【解決手段】(1)クローズドデッキ型のシリンダブロックに用いられ、シリンダブロックに形成された孔からウォータジャケット11に挿入されることにより、ウォータジャケットに組み付けられるシリンダブロック用スペーサ1であって、ウォータジャケットへの挿入後、シリンダボア壁に対向する面がシリンダボア壁に密着若しくは近接するよう変形可能に構成されたシリンダブロック用スペーサ1。(2)ウォータジャケットにスペーサが設けられるクローズドデッキ型のシリンダブロック10であって、スペーサ1の寸法に応じて加工が施され、スペーサの寸法に応じた孔がウォータジャケットにつながるように形成されているシリンダブロック10。」(【要約】欄)

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックのウォータジャケットに設けられるスペーサ(挿入物、インサート等と呼んでもよい)と、スペーサが設けられたシリンダブロックに関する。
【0002】
【従来の技術】
シリンダブロックでは、シリンダボア壁まわりにウォータジャケットが形成され、そこにエンジン冷却水が循環されて、燃焼熱やピストンの摺動によって加熱されるシリンダボア壁を冷却している。燃焼室に近いシリンダボア壁上部の温度は、シリンダボア壁下部の温度よりも高くなる傾向にある。このため、ウォータジャケットに一様に冷却水を供給してシリンダボア壁上部の温度が高くなるのを防止すると、シリンダボア壁下部が過冷却となり、ピストンとの摺動部に発生する摩擦損失が大きくなるといった不具合を招く。
シリンダボア壁の温度分布を改善するために、実開昭57-43338号では、ウォータジャケットにスペーサを設けることが提案されている。ウォータジャケットにスペーサを設けることで、シリンダボア壁から奪われる熱量を調整することができ、スペーサを設けた部分では水流が低減されシリンダボア壁の温度を維持することができることから、シリンダボア壁の温度分布を改善することができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
スペーサをウォータジャケットに挿入し組み付ける方法については、クローズドデッキ型のシリンダブロックにあっては、スペーサをシリンダブロックの上面に形成された水孔から挿入し組み付けることが考えられる。
しかし、クローズドデッキ型のシリンダブロックは、通常、製造過程における中子の構成上、水孔が狭く、ウォータジャケット伸長方向に水孔が非連続である。このため、スペーサのサイズが小さくなり、スペーサとシリンダボア壁との隙間が大きくなってしまう。ま
た、スペーサがウォータジャケット伸長方向に非連続となってしまう。そのため、シリンダボア壁から奪われる熱量が多くなり、つまり、シリンダボア壁から奪われる熱量を抑える効果が小さくなり、シリンダボア壁の過冷却を十分に抑制することができなくなるという問題があった。
本発明の目的は、シリンダボア壁から奪われる熱量を抑えることができるシリンダブロック用スペーサ及びスペーサを設けたシリンダブロックを提供することにある。」(段落【0001】ないし【0003】)

ウ 「【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) クローズドデッキ型のシリンダブロックに用いられ、シリンダブロックに形成された孔からウォータジャケットに挿入されることにより、ウォータジャケットに組み付けられるシリンダブロック用スペーサであって、ウォータジャケットへの挿入後、シリンダボア壁に対向する面がシリンダボア壁に密着若しくは近接するよう変形可能に構成されたシリンダブロック用スペーサ。
(2) ウォータジャケットへの挿入後、シリンダボア壁に対向する面がシリンダボア壁に密着若しくは近接するよう変形することに加え、幅方向に拡がるよう変形可能に構成された(1)のシリンダブロック用スペーサ。
(3) ウォータジャケットにスペーサが設けられるクローズドデッキ型のシリンダブロックであって、スペーサの寸法に応じて加工が施され、スペーサの寸法に応じた孔がウォータジャケットにつながるように形成されているシリンダブロック。
(4) スペーサの寸法に応じてシリンダブロックの上面に形成される水孔に加工が施されている(3)のシリンダブロック。
(5) スペーサの寸法に応じてシリンダブロックのウォータジャケット壁部に加工が施され、シリンダブロックのウォータジャケット壁部にスペーサの寸法に応じた孔がウォータジャケットにつながるように形成されている(3)のシリンダブロック。
【0005】
上記(1)のシリンダブロック用スペーサでは、スペーサとシリンダボア壁との隙間を無くすか若しくは小さくすることができ、スペーサを設けた部位のシリンダボア壁部分から奪われる熱量を抑える効果を高めることができる。
上記(2)のシリンダブロック用スペーサでは、シリンダブロック上面に形成された水孔からウォータジャケットにスペーサを挿入する場合にスペーサがウォータジャケット伸長方向に細切れとなるのが改善され、シリンダボア壁から奪われる熱量を抑える効果をより高めることができる。
上記(3)のシリンダブロックでは、スペーサの寸法の自由度が増し、シリンダボア壁との隙間を無くすか若しくは小さくすることができ、スペーサを設けた部位のシリンダボア壁部分から奪われる熱量を抑える効果を高めることができる。
上記(4)のシリンダブロックでは、シリンダブロックの上面に形成された水孔に加工を施すことで、スペーサの寸法に応じた孔を形成することができることから、シリンダブロックを製造するに際し、大きな変更を加える必要がない。
上記(5)のシリンダブロックでは、幅方向に広いスペーサを用いることができるようになり、ウォータジャケット伸長方向にスペーサが細切れの配置となるのを改善することができ、シリンダボア壁から奪われる熱量を抑える効果をより一層高めることができる。」(段落【0004】及び【0005】)

エ 「【0006】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のシリンダブロック用スペーサ及びそれを装着したシリンダブロックを図面を参照して説明する。
図中、図1?図3は本発明のシリンダブロック用スペーサ及びそれを装着したシリンダブロックの実施例1を示し、図4は本発明の実施例2を示し、図5は本発明の実施例3を示し、図6は本発明の実施例4を示し、図7は本発明の実施例5を示し、図8は本発明の実施例6を示し、図9は本発明の実施例7を示し、図10は本発明の実施例8を示し、図11は本発明の実施例9を示し、図12は本発明の実施例10を示す。
そして、請求項1は本発明の実施例1?6に対応し、請求項2は本発明の実施例5、6に対応し、請求項3は本発明の実施例7?10に対応し、請求項4は本発明の実施例7、8に対応し、請求項5は本発明の実施例9、10に対応する。
【0007】
本発明の全実施例にわたって共通または類似する部分には、本発明の全実施例にわたって同じ符合を付してある。
まず、本発明の全実施例にわたって共通または類似する部分を、たとえば図1?図3を参照して、説明する。
【0008】
本発明のシリンダブロック用スペーサ1(スペーサはインサート、挿入物等と呼ばれてもよい)は、クローズドデッキをもつシリンダブロック10のウォータジャケット11に挿入、配置されるスペーサである。シリンダブロック10は、クローズドデッキ型とされているから、シリンダブロック上面の水孔12は、シリンダブロックの鋳造後の素材段階で、ウォータジャケット11の伸長方向に非連続になっている。ウォータジャケット11はシリンダボア13に沿ってシリンダブロック長手方向に連続している。シリンダブロック上面の水孔12は、シリンダブロック10内のウォータジャケット11とシリンダヘッド内のウォータジャケットとの間にエンジン冷却水を流すための孔であり、ウォータジャケット11とつながっている。本発明のスペーサ1はシリンダボア壁14のうち過度に冷却されることを防止したい部分(燃焼室まわりから下方に離れた部分)の外周に密着または間隙を置いて配置され、スペーサ配置部のシリンダボア壁14から熱が過度に奪われないように水流、水量を調整するものであり、ウォータジャケット11への挿入後、シリンダボア壁14に対向する面がシリンダボア壁14に密着もしくは近接するよう変形可能に構成されている。
本発明のシリンダブロック10は、シリンダボア壁14まわりに連続して延びるウォータジャケット11を有し、ウォータジャケット11にスペーサ1が挿入、配置された、クローズドデッキ型のシリンダブロックである。本発明のシリンダブロック10では、スペーサ1をウォータジャケット11内に挿入するのに用いる孔が、スペーサ1の寸法に応じて機械加工されているか、あるいは特別に設けられてスペーサ1の挿入後に閉塞されるようになっている。
【0009】
クローズドデッキ型のシリンダブロックにおいては、水孔を通してウォータジャケット内にスペーサを挿入、配置することが考えられるが、その場合に必然的に存在するスペーサとシリンダボア壁間の間隙に比べて、本発明のシリンダブロック用スペーサ1及びシリンダブロック10では、スペーサ1とシリンダボア壁14間の間隙が小さくなっている。スペーサ1とシリンダボア壁14間の間隔が小さくなっている構成による作用については、スペーサ配置部分のシリンダボア壁14まわりを流れる水量が低減し、スペーサ配置部分のシリンダボア壁14から奪われる熱量が低減し、スペーサ配置部分のシリンダボア壁14が過冷却されることが防止される。
【0010】
また、スペーサ1とシリンダボア壁14間の間隔が小さくなっていることに加えて、水孔を通してウォータジャケット内にスペーサを挿入、配置していた場合に必然的に存在していたウォータジャケット伸長方向のスペーサ間の間隔も、本発明では小さくなるようにしている。すなわち、スペーサ配置部分がウォータジャケット伸長方向にも拡がるようにし、これにより、スペーサ1がウォータジャケット伸長方向に細切れとなるのが改善され、シリンダボア壁14から奪われる熱量をより低減することができ、シリンダボア壁14が過冷却されることが、より一層防止される。
【0011】
ところで、単に水孔を通してスペーサを挿入、配置するだけではスペーサとシリンダボア壁間隙やウォータジャケット伸長方向のスペーサ間の間隔を小さくすることはできないが
、本発明では各実施例において、以下の構造をとることにより、スペーサ1とシリンダボア壁14間の間隙を小さくするか、かつ、ウォータジャケット伸長方向のスペーサ間の間隔を小さくしている。」(段落【0006】ないし【0011】)

オ 「【0012】
以下に、本発明の各実施例の特有な部分の構成、作用を説明する。
本発明の実施例1はシリンダブロック用スペーサ1に関するもので、図1?図3に示すように、スペーサ1に、組み付け後に変形する機能が付加されている。すなわち、スペーサ1は、ウォータジャケット11への挿入後、シリンダボア壁14に対向する面がシリンダボア壁に密着若しくは近接するよう変形可能に構成されている。
【0013】
本発明の実施例1では、スペーサ1の一部、または全部が、水膨潤性あるいはLLC(不凍液)膨潤性を有するものとされており、これにより、エンジン組立工場出荷時のベンチテストでの水注入、または車両工場でのLLC注入によって膨潤し、所定の寸法となる。こうしたスペーサ1として、たとえば、スペーサ1の一部に発泡性ゴムを用い、この発泡性ゴムをバインダを入れて圧縮しておく。このようにスペーサ1を構成すれば、水注入によってバインダが溶けてゴムが非圧縮の状態になり、スペーサ1の一部が図2で組み付け時のAの状態(スペーサ厚さが水孔より小の状態)から変形後のBの状態(スペーサ厚さが水孔より大の状態)に膨潤、膨張する。図は膨潤後、スペーサ1がシリンダボア壁14に密着してスペーサ1とシリンダボア壁14間の隙間が無くなっている場合を示す。
また、2は発泡性ゴムを取り付けたステンレス製の支持具であり、スペーサ1は、支持具2に持たされた弾性(上部アーム2aと下部アーム2bの弾性)によりシリンダブロック10に着脱可能に支持される。この支持により、エンジン冷却水の流れの力がかかってもスペーサ1は所定位置に保持される。
【0014】
本発明の実施例1の作用については、スペーサ1を寸法を小さくしておいて水孔12に通すので、挿入性がよく、また、ウォータジャケット11への挿入後は膨潤するので、固定性がよい。また、誤組み付け時など脱着したい時も、スペーサ1を治具で引っ掛けて引っ張ればよく、その時もスペーサ1が発泡性ゴムなど変形性があるので、水孔12を通して出すことができる。これらにより、挿入性、誤組み付け時の脱着性に優れたスペーサを提供できる。
【0015】
本発明の実施例2はシリンダブロック用スペーサ1に関するもので、図4に示すように、スペーサ1に、組み付け後に変形する機能が付加されている。実施例2では、スペーサ1の一部、または全部が、感熱膨張型発泡ゴム(感熱膨張部材はバイメタルまたは形状記憶合金であってもよい)からなり、エンジン組立工場出荷時のベンチテストでの水温または壁温などによって膨張し、所定の寸法となって、図4の左の状態から右の状態になる。温水でゴムが膨張し、ボア壁に押し付けられることにより、スペーサ1がウォータジャケット11内で固定される。
【0016】
本発明の実施例2の作用については、スペーサ1を寸法小の状態で水孔12に通すので、ウォータジャケット11への挿入性がよく、また、ウォータジャケット11への挿入後はスペーサ1が熱で膨潤するので、固定性がよい。また、誤組み付け時など脱着したい時も、スペーサ1を治具で引っ掛けて引っ張ればよく、その時もスペーサ1が変形性があるので、水孔12を通して出すことができる。これらにより、挿入性、誤組み付け時の脱着性に優れたスペーサを提供できる。
【0017】
本発明の実施例3はシリンダブロック用スペーサ1に関するもので、図5に示すように、スペーサ1の一部が支持具2に対して弾性支持されており、スペーサ1は組み付け時?車両出荷状態までにシリンダボア壁14に密着または近接するように拡がる。弾性支持機構は、たとえばばね機構3からなる。スペーサ1の挿入前はばね機構3を接着剤などで縮めておき(図5の左の図)、スペーサ1の挿入後は接着剤が水やLLCで溶けて拡がり(図5の右の図)、ばね機構3が拡がってスペーサ1の一部が支持具2から離れる方向に拡がり、スペーサ1はシリンダボア壁14およびスペーサ1を挟んでシリンダボア壁14と対向する壁に密着または近接し、ウォータジャケット内に固定される。」(段落【0012】ないし【0017】)

カ 「【0019】
本発明の実施例4はシリンダブロック用スペーサ1に関するもので、図6に示すように、スペーサ1の支持具2にばね機構3が設けられており、スペーサ1は組み付け時?車両出荷状態までにシリンダボア壁14に密着または近接するように拡がる。ばね機構3は、たとえば支持具2を支点まわりに開閉可能としている。スペーサ1の挿入前はばね機構3を縮めておき(図6の中央の図)、スペーサ1の挿入後ばね機構3を解放して開き(図6の左の図)、スペーサ1はシリンダボア壁14およびスペーサ1を挟んでシリンダボア壁14と対向する壁に密着または近接し、ウォータジャケット11内に固定される(図6の右の図)。
【0020】
本発明の実施例4の作用については、ばね機構3を閉じておいてスペーサ1を水孔12に通すので、ウォータジャケット11への挿入性がよく、また、ウォータジャケット11への挿入後はばね機構3が拡開して壁に密着するので、ウォータジャケット11内でのスペーサ1の固定性がよい。また、誤組み付け時など脱着したい時も、支持具2を引っ張ればよく、その時はスペーサ1が弾性変形して、水孔12を通して出すことができる。これらにより、挿入性、誤組み付け時の脱着性に優れたスペーサを提供できる。」(段落【0019】及び【0020】)

キ 「【0033】
【発明の効果】
請求項1のシリンダブロック用スペーサによれば、スペーサとシリンダボア壁との隙間を無くすか若しくは小さくすることができ、スペーサを設けた部位のシリンダボア壁部分から奪われる熱量を抑える効果を高めることができる。
請求項2のシリンダブロック用スペーサによれば、シリンダブロック上面に形成された水孔からウォータジャケットにスペーサを挿入する場合にスペーサがウォータジャケット伸長方向に細切れとなるのが改善され、シリンダボア壁部分から奪われる熱量を抑える効果をより高めることができる。
請求項3のシリンダブロックによれば、スペーサの寸法の自由度が増し、シリンダボア壁との隙間を無くすか若しくは小さくすることができ、スペーサを設けた部位のシリンダボア壁部分から奪われる熱量を抑える効果を高めることができる。
請求項4のシリンダブロックによれば、シリンダブロックの上面に形成された水孔に加工を施すことで、スペーサの寸法に応じた孔を形成することができることから、シリンダブロックを製造するに際し、大きな変更を加える必要がない。
請求項5のシリンダブロックによれば、幅方向に広いスペーサを用いることができるようになり、ウォータジャケット伸長方向にスペーサが細切れの配置となるのを改善することができ、シリンダボア壁から奪われる熱量を抑える効果をより一層高めることができる。」(段落【0033】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

サ 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、引用文献1には、内燃機関のシリンダブロック10のウォータージャケット11に設けられるスペーサ1が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、引用文献1に記載されたスペーサ1は、シリンダブロック10のシリンダボア壁14のウォータージャケット11側の壁面に密着若しくは近接するように設けられ、シリンダボア壁14から奪われる熱量を抑えるものであることが分かる。

ス 上記(1)オ(特に段落【0013】)の記載から、引用文献1に記載されたスペーサ1は、例えばスペーサ1の一部に発泡性ゴムが用いられて、スペーサ1がシリンダボア壁14に密着するものであることが分かる。

セ 上記(1)オ(特に段落【0013】)及び図3の記載から、引用文献1に記載されたスペーサ1は、例えばステンレス製の支持具2によって支持されてもよいことが分かる。

ソ 上記(1)エ(特に段落【0007】)及び図面の記載から、図1ないし3の実施例は、他の実施例とも共通又は類似するものであることが分かる。

タ 上記(1)カ及び図6の記載から、引用文献1の実施例4のスペーサ1は、接触面とは反対の裏面に支持具2を有していることが分かる。段落【0007】の「本発明の全実施例にわたって共通または類似する部分を、たとえば図1?図3を参照して、説明する。」という記載及び図3の記載、並びに段落【0020】の「ウォータジャケット11への挿入後はばね機構3が拡開して壁に密着するので、ウォータジャケット11内でのスペーサ1の固定性がよい。」という記載から、図6に記載された支持具2は、スペーサ1を壁に密着させることができる面積を有する板状の支持具2であることが分かる。

チ 上記(1)カ及び図6の記載から、引用文献1の実施例4のスペーサ1は、反対側の壁に接触するスペーサ1及び支持具2並びにばね機構3により、シリンダボア壁14に押しつけられて壁に密着し、ウォータージャケット11内に固定されることが分かる。

(3)引用発明
以上の(1)及び(2)並びに図1ないし6の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関のシリンダブロック10のシリンダボア壁14のウォータージャケット11側の壁面に接するための接触面を有するシリンダボア壁14から奪われる熱量を抑えるスペーサ1であり、
該接触面を形成する部位の材質が、発泡性ゴムであり、
奪われる熱量を抑えるスペーサ1の接触面とは反対の裏面に板状の支持具2を有しており、
反対側の壁に接触するスペーサ1及び支持具2並びにばね機構3により、シリンダボア壁14に押し付けられて固定される、
シリンダボア壁14から奪われる熱量を抑えるスペーサ1。」

第3-2 引用文献2
本願の出願前に頒布され、原査定の理由に引用された刊行物である特開2007-162473号公報(以下、「引用文献2」という。)には図面とともに次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

(1)引用文献2の記載
ア 「【0001】
本発明は、エンジンのウォータージャケットに内装されるウォータージャケットスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水冷式のエンジンのシリンダブロックにはシリンダの外周部にウォータージャケットと呼ばれる水路が形成され、このウォータージャケット内を流通する冷却水によってエンジンが冷却されている。ウォータージャケットは、例えば円筒状のシリンダに対しその筒面の外周側を囲うように隣接して円筒軸方向に延設されており、シリンダ外周の略全体を冷却しうる形状をなしている。このようなエンジンの冷却構造は、特許文献1に記載されたものが公知である。
【0003】
ところで、一般的なエンジンでは、シリンダブロックの下部側にクランクシャフトを覆うクランクケースが設けられるとともに、シリンダブロックの上部側に隣接して取り付けられるシリンダヘッドに吸気弁や排気弁,点火プラグ等が設置される。そして、エンジンの燃焼行程に着目すると、シリンダ内へ導入される混合気は筒内のシリンダヘッド側で燃焼を開始し、ピストンをクランクケース側へ押し下げながら膨張するようになっている。
【0004】
このため、燃焼によって発生する熱量は、シリンダ筒面においてシリンダの円筒軸方向に均一には分布せず、上部側(上死点側)の方が下部側(下死点側)よりも高温になりやすい特性がある。したがって、ウォータージャケット内を流通する冷却水に要求される冷却能力(例えば冷却水温や流量等)をシリンダで発生する全熱量に基づいて算定したとしても、円筒軸方向に冷却ムラが生じてシリンダ筒面の上部側を十分に冷却できないことや、シリンダ筒面の下部側が過冷却されてしまうおそれがある。
【0005】
このような課題に対し、例えば、図6に示すような冷却構造が提案されている。すなわち、シリンダ26を備えた水冷式のエンジンのシリンダブロック24の内部において、シリンダ26の外周部に冷却水の流路としてのウォータージャケット23を設け、ウォータージャケット23の下部側(下死点側,クランクケース側)の端部にオープンセル式のスポンジ材21を挿入した構造のものである。オープンセル式のスポンジ材21とは、空孔が互いに連結した多孔質形状のスポンジであり、ウォータージャケット23の下部側における冷却水の流通を滞らせるように機能するものである。これにより、シリンダ26の下部側の過冷却を抑えることができ、上部側を効果的に冷却できるようになっている。
【特許文献1】特開2003-262155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、冷却水の流通が抑制されることによって熱量が移動しにくくなり、シリンダ26の下部側が冷えすぎなくなる一方、一旦昇温するとその熱が冷めにくくなる。そのため、例えばエンジンの高負荷状態が継続したような場合には十分な冷却効果が得られなくなり、シリンダ26の下部側の温度が徐々に上昇してしまうおそれがある。
このように、従来の冷却構造では、ウォータージャケット23の内部における上部側と下部側とでの暖まりやすさや冷めやすさの特性(換言すれば、熱容量)の相違により、均一な冷却性能が得られにくくなり、温度制御が難しいという課題がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、簡素な構成で、良好な冷却性能を得ることができ、耐久性,出力及び燃費を向上させることができるウォータージャケットスペーサを提供することを目的とする。」(段落【0001】ないし【0007】)

イ 「【0008】
上記目的を達成するため、本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項1)は、ピストンを内周面に往復摺動させるシリンダの外周部に冷却水の流路として設けられたウォータージャケットに内装されるウォータージャケットスペーサであって、該ウォータージャケットの内部において、該ピストンの下死点側の端部に挿入され、冷却水が流通可能な多孔質部材(スポンジ)と、該ウォータージャケットの内壁面に対し間隙を有して該多孔質部材へ一端部を内挿されるブラケットとを備えたことを特徴としている。
【0009】
ここで、該多孔質部材は該ピストンの上死点側(クランクケース側)における該冷却水による過冷却を抑制するよう機能する。また、該ブラケットは該多孔質部材の熱を該下死点側(シリンダヘッド側)へ伝導するよう機能する。
なお、該多孔質部材とは、隣接する空孔同士が互いに繋がっているオープンセル式の多孔質材料であって、例えばゴム系スポンジ、合成樹脂系スポンジ等を含む。また、該ブラケットは、熱伝導性を備えた材質の固定具であって、例えば金属製や熱伝導セラミックス製のもの等を含む。
【0010】
また、該ブラケットは、他端部を該ウォータージャケットの内部において該ピストンの上死点側の端部(すなわち、シリンダヘッド側)に固定されていることが好ましい(請求項2)。この場合、該ブラケットは、該多孔質部材を固定しうる剛性,強度を備えるものである。
また、該ブラケットは、該ウォータージャケット内の該冷却水を整流するガイド部材を有することが好ましい(請求項3)。
【0011】
この場合、該ウォータージャケットは、複数の該シリンダの外周部を包囲するように連続して形成されるとともに、該ガイド部材は、該ウォータージャケットの内部において該複数の該シリンダ間の隔壁との隣接部(気筒間部)へ該冷却水の流れを導く向きに配向されていることが好ましい(請求項4)。換言すれば、該ガイド部材は、該ガイド部材とシリンダ外壁との間隙が、該隣接部に近づくほど狭くなる配向を有している。
【0012】
さらに、該ガイド部材は、該ウォータージャケットの内部において該複数の該シリンダ間の隔壁との隣接部側からの該冷却水の流れを、シリンダ外壁から離隔する向きに配向されていることが好ましい(請求項5)。換言すれば、該ガイド部材は、該ガイド部材と該ウォータージャケットのシリンダ外壁との間隙が、該隣接部から遠ざかるほど広くなる配向を有している。」(段落【0008】ないし【0012】)

ウ 「【0013】
本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項1)によれば、ウォータージャケット内に多孔質部材が挿入されているため、エンジンの燃焼,膨張行程におけるピストンの下死点側(下部側)の端部の過冷却を抑制することができる。また、多孔質部材に一端部を内挿されたブラケットにより多孔質部材内部の熱が上部側の冷却水へと熱伝導されるため、ピストンの下死点側の端部の過昇温を抑制できる。これにより、シリンダ外周において上部側から下部側にかけての温度分布を略均一にすることが容易となる。
【0014】
特に、ブラケットがウォータージャケットの内壁面に接していないため、伝達された多孔質部材の熱を冷却水へ直接伝達させることができ、熱量を効率的に分散することができる。このように、簡素な構成で良好な冷却性能を得ることができ、耐久性,出力及び燃費を向上させることができる。
また、本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項2)によれば、ブラケットの位置を容易に固定することができ、ウォータージャケット内における多孔質部材の位置ズレ及びブラケット自身の位置ズレを効果的に防止することができる。
【0015】
また、本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項3)によれば、ウォータージャケット内における冷却水の流通経路を任意に変更して設定することができ、ガイド部材の配置,配向に応じて冷却効率を調節することができる。
また、本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項4)によれば、複数のシリンダ同士が隣接して熱がこもりやすい気筒間部における冷却性能を上昇させることができる。これにより、シリンダブロックの耐久性を向上させることができるとともに、エンジン出力及び燃費を確保することができる。
【0016】
また、本発明のウォータージャケットスペーサ(請求項5)によれば、気筒間部以外の部分では冷却水をシリンダ外壁から離隔させて冷却性能を抑制することにより、熱がこもりやすい気筒間部と気筒間部以外との温度分布を略均一にすることができる。」(段落【0013】ないし【0016】)

エ 「【0017】
以下、図面により、本発明の一実施形態について説明する。図1?図4は、本発明の一実施形態としてのウォータージャケットスペーサを示すものであり、図1は本ウォータージャケットスペーサを内装するシリンダブロックの構成を模式的に示す縦断面構成図、図2は本シリンダブロックの水平断面図〔図1のA-A断面図〕、図3は本ウォータージャケットスペーサのブラケットの断面構成図、図4は本ブラケットの模式的斜視図である。
【0018】
[構成]
(1)全体構成
本発明に係るウォータージャケットスペーサは、図1に示す水冷式のエンジン15に適用されている。このエンジン15は、シリンダブロック4及びその上部側に隣接して取り付けられるシリンダヘッド5とを備えて構成されている。また、シリンダブロック4の下部側には、クランクシャフトを支持するクランクケース(共に図示せず)が設けられている。
(中略)
【0020】
シリンダブロック4には、シリンダ6の外周部に、エンジン15を冷却するための冷却水の流路としてのウォータージャケット3が形成されている。ここでは、ウォータージャケット3がシリンダ6に対しその筒面の外周側を囲うように隣接して円筒軸方向に延設されており、シリンダ6外周の略全体を冷却しうる形状をなしている。つまり、ウォータージャケット3は、シリンダ外壁7を介してシリンダ6に隣接する冷却水通路として穿孔された空洞として形成されている。
なお、本エンジン15は、図2に示すように、三つのシリンダ6を直列に配置された構造を備えている。」(段落【0017】ないし【0020】)

オ 「【0021】
(2)ウォータージャケットスペーサ構成
本発明のウォータージャケットスペーサは、ウォータージャケット3に内装されている。まず、図1に示すように、ウォータージャケット3の内部において、ピストン14の下死点側、すなわち、シリンダブロック4の下部側(クランクケース側)の端部には、多孔質部材としてスポンジ1が挿入されている。このスポンジ1は、空孔同士が互いに繋がっているオープンセル式の材料であって、例えばNBR(ニトリルゴム)製スポンジやその他のゴム系スポンジ、合成樹脂系スポンジ等である。スポンジ1内部の空孔を冷却水が通り抜けようとしても、その冷却水の流通が滞って水の流れが鈍るようになっている。これにより、スポンジ1が挿入されたウォータージャケット3の下部側では、上部側よりも温度が変動しにくい(熱量が移動しにくい)性質が与えられることになる。つまり、スポンジ1はシリンダブロック4の下部側における冷却水による過冷却を抑制するよう機能する。
【0022】
また、ウォータージャケット3の内部には、ウォータージャケット3の内壁面3aに対し所定の間隙を有した状態で、スポンジ1の内部へ一端部2aを内挿されたブラケット2が設けられている。つまりブラケット2は、その板面を内壁面3aに沿って略平行(なお、図4に示すように、内壁面3aの筒面形状に倣って円弧状に曲成されている)に配置されており、内壁面3aに接触していない。
【0023】
このブラケット2は、熱伝導性を備えた材質の板状の固定具であって、例えば金属製や熱伝導セラミックス製のものである。なお、ブラケット2の他端部2bは冷却水に浸漬されるとともにウォータージャケット3の上端部に固定部材9を介して固定されている。これにより、ブラケット2の位置を容易に固定することができるとともに、ウォータージャケット3内におけるスポンジ1の位置ズレ及びブラケット2自身の位置ズレを効果的に防止することができるようになっている。
【0024】
なお、本実施形態では、図1に示すように、板状の一枚のスポンジ1がブラケット2の一端部2aの先端で折り返された状態でウォータージャケット3の下部側に挿入固定されている。
図2に示すように、ウォータージャケット3は、並んだ三つのシリンダ6の外周部を包囲するように連続して形成されている。各シリンダ6の外周を囲うシリンダ外壁7は、互いに接合して一体形成されている。以下、シリンダ外壁7のうち、両壁面がシリンダ6の筒内に面している壁体をシリンダ6間の隔壁7aと呼び、片壁面のみがシリンダ6の筒内に面している(すなわち、他方の面がウォータジャケット3の内周面を構成している)壁体を側壁7bと呼ぶ。
なお、図2において、ウォータジャケット3の内部における冷却水の流通方向は、図2中下部から上部へ向かう方向となっており、ブラケット2は、図2中において、各シリンダ6を左右側方から挟むように対をなして左右対称に配置されている。」(段落【0021】ないし【0024】)

カ 「【0028】
[作用]
本ウォータージャケットスペーサは上記のように構成されて、以下のように作用する。
(1)エンジンの通常運転時
エンジン15は、その上部側に点火プラグ8を有しており、燃焼,膨張行程においてはピストン14を下部側へ押し下げるように作用する。このため、シリンダ外壁7の上部側は、下部側と比較して高温になりやすい特性が与えられている。
【0029】
一方、ウォータージャケット3の内部の下部側にはスポンジ1が挿入されており、スポンジ1が挿入されたウォータージャケット3の下部側では、上部側よりも温度が変動しにくい(熱量が移動しにくい)性質が与えられている。
このため、比較的直ちに温度が上昇するウォータージャケット3の上部側においては、冷却水によって効果的に冷却が行われ、一方、比較的温度が上昇しにくいウォータージャケット3の下部側においては、より過剰に冷やされることなく穏やかに冷却が行われる。つまり、ウォータージャケット3の上部側の冷却効果が損なわれることなく、下部側の過冷却が抑制される。
(中略)
【0033】
[効果]
本ウォータージャケットスペーサによれば、以下のような効果を奏する。
(1)エンジンの通常運転時
ウォータージャケット3の上部側及び下部側のそれぞれの部位に適した冷却が行われるため、シリンダ6外周において冷却ムラが生じず、温度分布を略均一にすることが容易となる。
(中略)
【0037】
(4)その他の効果
なお、ウォータージャケット3内において、ブラケット2の下端部がピストン14の上死点側の端部に固定されているため、スポンジ1の位置ズレやブラケット2自身の位置ズレを効果的に防止することができる。
また、このブラケット2の表面には、二種類のガイド部材2c,2dが設けられているため、ウォータージャケット3内における冷却水の流通経路を任意に変更して設定することができる。これにより、上述の通り、ガイド部材2c,2dの配置,配向に応じて冷却効率を調節することができる。」(段落【0028】ないし【0037】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
サ 上記(1)アないしカ及び図面から、引用文献2には、エンジンのウォータージャケット3に内装されるウォータージャケットスペーサが記載されていることが分かる。

シ 上記(1)イ、ウ、オ及びカ並びに図面から、引用文献2に記載されたウォータージャケットスペーサは、多孔質部材であるスポンジ1と、ブラケット2からなることが分かる。

ス 上記(1)イ、ウ、オ(特に段落【0021】を参照。)及びカ並びに図面から、引用文献2に記載されたウォータージャケットスペーサのスポンジ1は、例えばNBR(ニトリルゴム)製スポンジやその他のゴム系スポンジからなり、シリンダブロック4の下部側における冷却水による過冷却を抑制するよう機能する(つまり、保温部材である)ことが分かる。なお、NBR(ニトリルゴム)は、技術常識に照らすと、ニトリルブタジエンゴムと呼ばれることが明らかである。

(3)引用文献2記載の技術
以上の(1)及び(2)並びに図1ないし6の記載を総合すると、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「エンジンのウォータージャケット3に内装されるウォータージャケットスペーサにおいて、ウォータージャケットスペーサを構成するスポンジ1の材質を、NBR(ニトリルゴム)製スポンジやその他のゴム系スポンジとする技術。」

第4 対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
引用発明における「奪われる熱量を抑えるスペーサ1」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、本願発明における「保温部材」に相当し、同様に、「ウォータージャケット11側の壁面」は「溝状冷却水路側の壁面」に、「シリンダボア壁14から奪われる熱量を抑えるスペーサ1」は「シリンダボア壁の保温部材」に相当する。
また、引用発明における「発泡性ゴム」は、「ゴム」という限りにおいて、本願発明における「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」に相当する。
また、第3-1(2)タ において述べたように、引用発明における「支持具2」は、スペーサ1を裏面から支持する支持具であるから、「補強材」であるといえ、したがって、引用発明における「奪われる熱量を抑えるスペーサ1の接触面とは反対の裏面に支持具2を有しており」は、「保温部材の接触面とは反対の裏面に補強材を有しており」という限りにおいて、本願発明における「保温部材の内部又は接触面とは反対の裏面に補強材を有しており」に相当する。
また、引用発明における「反対側の壁に接触するスペーサ1及び支持具2並びにばね機構3により、シリンダボア壁14に押し付けられて固定される」は、「(反対側の)スペーサ1及び支持具2並びにばね機構3」を「所定の部材」とみなして、「対壁接触部を有する所定の部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される」という限りにおいて、本願発明における「対壁接触部を有する固定部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される」に相当する。

したがって、本願発明と、引用発明とは、
「内燃機関のシリンダブロックのシリンダボア壁の溝状冷却水流路側の壁面に接するための接触面を有するシリンダボア壁の保温部材であり、
該接触面を形成する部位の材質が、ゴムであり、
該保温部材の接触面とは反対の裏面に補強材を有しており、
対壁接触部を有する所定の部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される、
シリンダボア壁の保温部材。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「接触面を形成する部位の材質」が、本願発明においては、「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」であるのに対して、引用発明においては、「発泡性ゴム」である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「保温部材の接触面とは反対の裏面に補強材を有しており」に関して、本願発明においては「保温部材の内部又は接触面とは反対の裏面に補強材を有しており」であるのに対して、引用発明においては「奪われる熱量を抑えるスペーサ1の接触面とは反対の裏面に支持具2を有しており」である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)「対壁接触部を有する所定の部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される」に関して、本願発明においては「対壁接触部を有する固定部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される」であるのに対して、引用発明においては「反対側の壁に接触するスペーサ1及び支持具2並びにばね機構3により、シリンダボア壁14に押し付けられて固定される」点(以下、「相違点3」という。)。

第5 判断
上記相違点について判断する。
(1)相違点1について
シリンダブロック用スペーサ(本願発明における「シリンダボア壁の保温部材」)において、接触面を形成する部位の材質を、シリンダブロックの冷却水に対して耐久性のある「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」とする技術は、本件出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、引用文献2記載の技術、特開2007-71039号公報(例えば、段落【0018】並びに図1及び3を参照。)、特開2007-107426号公報(例えば、段落【0015】及び図3を参照。)、及び特開2008-128133号公報(例えば、段落【0026】、【0041】、【0054】、【0061】及び【0062】並びに図7、11及び21を参照。)等の記載を参照。)である。
そうすると、引用発明に接した当業者は、引用発明には、「スペーサ」の材質として、シリンダブロックの冷却水に対して耐久性のある「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」を選択したものが開示されていると理解するものといえる。
してみれば、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、スペーサ1の材質を、周知技術1である「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」とすることにより、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
本願発明において、「補強材」がどのような形状であるかについて特に限定されていない。
一方、引用発明における「支持具2」は、保温部材であるスペーサ1を裏面から支持し、スペーサ1を壁に密着させることができるものである(上記第3-1(2)タを参照。)から、補強材としての役割を果たしていることは明らかである。
そうすると、本願発明における「保温部材の内部又は接触面とは反対の裏面に補強材を有しており」という事項は、引用発明における「奪われる熱量を抑えるスペーサ1の接触面とは反対の裏面に支持具2を有しており」という事項を包含するものであるといえる。
つまり、相違点2は、実質的な相違点ではないといえる。

また、仮に、引用発明における「支持具2」が、請求人が主張するように(平成26年10月3日提出の意見書の3.(B)(3)(1)ないし(4)を参照。)、細長い板状のものであって、本願発明における「補強材」と実質的に相違するとしても、スペーサの材質が柔軟である場合に補強材が必要となることは自明であり、引用文献1に記載された図3の実施例には、支持具2をスペーサ1の平面形状外形部を超えて設ける例(すなわちその場合支持具2がスペーサ1全体を保持する補強材として機能することは自明)も開示されているのであるから、スペーサ1の材質として周知技術1の「エチレンプロピレンジエンゴム又はニトリルブタジエンゴム」を選択することに伴い、スペーサ1の支持具2について、(例えば引用文献1の図3のような形状として、)スペーサ1の形状を保持するための機能を持たせて、支持具2を補強材とすることは容易である。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
本願発明における「対壁接触部を有する固定部材」について、本願明細書には、「なお、これらの固定部材は、あくまでも形態例であり、保温部材の接触面がシリンダボア壁の壁面に接するように、保温部材をシリンダボア壁に固定できるものであればよい。」(段落【0028】)と記載され、固定部材がどのようなものであるかについては特に限定されていない。
そうすると、引用発明における「反対側の壁に接触するスペーサ1及び支持具2並びにばね機構3」は、対壁接触部(反対側の壁に接触するスペーサ1)を有し、保温部材(スペーサ1)の接触面がシリンダボア壁の壁面に接するように、保温部材をシリンダボア壁に固定できるものであるから、本願発明における「対壁接触部を有する固定部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定される」に相当するものということができ、上記相違点3は、実質的な相違点ではないと認められる。
また、仮に、上記相違点3が実質的な相違点であるとしても、保温部材であるスペーサを、対壁接触部を有する固定部材により、シリンダボア壁に押し付けられて固定する技術は、内燃機関のシリンダブロックに関する技術分野において、本件出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2005-256661号公報(例えば、段落【0032】、【0039】、図7、8及び11を参照。)及び特開2007-71039号公報(例えば、段落【0018】ないし【0020】及び図1ないし3を参照。)等を参照。)である。
よって、上記相違点3は、実質的な相違点でないか、仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明において、周知技術2を適用することにより、相違点3に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-28 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2010-141285(P2010-141285)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 シリンダボア壁の保温部材、内燃機関及び自動車  
代理人 赤塚 賢次  

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