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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1307964
審判番号 不服2014-10915  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-10 
確定日 2015-11-26 
事件の表示 特願2008- 41063「広角レンズ、これを有する撮像装置及び結像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日出願公開、特開2009-198854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成20年2月22日の出願であって、平成25年10月23日付けの拒絶理由の通知に対し、同年12月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月10日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
(1)平成26年6月10日に提出された手続補正書によりなされた補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲である、
「 【請求項1】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとしたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項2】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズとの接合からなる接合正レンズと、接合負レンズとを有するとともに、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に正レンズと負レンズとを有し、前記接合負レンズの像側に正レンズを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとしたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項3】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズとの接合からなる接合正レンズと、接合負レンズとを有するとともに、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に正レンズと負レンズとを有し、前記接合負レンズの像側に正レンズを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとし、前記後群において、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に設けられた前記負レンズのd線に対する屈折率をN25としたとき、次式
0.0100<Np-Nn<0.4000
1.450<N25<1.600
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項4】
前記後群において、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に設けられた前記正レンズのd線に対する屈折率をN24としたとき、次式
1.850<N24<2.100
の条件を満足することを特徴とする請求項2又は3に記載の広角レンズ。
【請求項5】
前記反射防止膜は多層膜であり、
前記多層膜の最表面層は、前記ウェットプロセスを用いて形成された層であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項6】
前記ウェットプロセスを用いて形成された層のd線における屈折率をndとしたとき、次式
nd≦1.30
の条件を満足することを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項7】
前記後群は、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に、開口絞りを有することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項8】
前記反射防止膜が設けられた光学面は、前記開口絞りから見て凹面であることを特徴とする請求項7に記載の広角レンズ。
【請求項9】
前記後群における前記接合正レンズの光軸上の総厚をD223とし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.100<D223/f0<0.800
の条件を満足することを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項10】
前記後群における前記接合負レンズの接合面の曲率半径をRaとし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
5.02<Ra/f0<18.00
の条件を満足することを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項11】
前記後群における前記接合負レンズ中の前記正レンズの光軸上の厚さをD27とし、レンズ系全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.22<D27/f0<0.50
の条件を満足することを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項12】
前記後群において前記接合負レンズは、非球面を備えていることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項13】
前記後群において最も物体側に位置する前記負レンズは、非球面を備えていることを特徴とする請求項1?12のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項に記載の広角レンズを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項15】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなる広角レンズの結像方法において、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとか
らなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとしたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズの結像方法。」
を、
「 【請求項1】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとし、
前記後群における前記接合正レンズの光軸上の総厚をD223とし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
0.100<D223/f0<0.800
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項2】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズとの接合からなる接合正レンズと、接合負レンズとを有するとともに、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に正レンズと負レンズとを有し、前記接合負レンズの像側に正レンズを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとしたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項3】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズとの接合からなる接合正レンズと、接合負レンズとを有するとともに、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に正レンズと負レンズとを有し、前記接合負レンズの像側に正レンズを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとし、前記後群において、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に設けられた前記負レンズのd線に対する屈折率をN25としたとき、次式
0.0100<Np-Nn<0.4000
1.450<N25<1.600
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズ。
【請求項4】
前記後群において、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に設けられた前記正レンズのd線に対する屈折率をN24としたとき、次式
1.850<N24<2.100
の条件を満足することを特徴とする請求項2又は3に記載の広角レンズ。
【請求項5】
前記後群における前記接合正レンズの光軸上の総厚をD223とし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.100<D223/f0<0.800
の条件を満足することを特徴とする請求項2?4のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項6】
前記反射防止膜は多層膜であり、
前記多層膜の最表面層は、前記ウェットプロセスを用いて形成された層であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項7】
前記ウェットプロセスを用いて形成された層のd線における屈折率をndとしたとき、次式
nd≦1.30
の条件を満足することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項8】
前記後群は、前記接合正レンズと前記接合負レンズとの間に、開口絞りを有することを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項9】
前記反射防止膜が設けられた光学面は、前記開口絞りから見て凹面であることを特徴とする請求項8に記載の広角レンズ。
【請求項10】
前記後群における前記接合負レンズの接合面の曲率半径をRaとし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
5.02<Ra/f0<18.00
の条件を満足することを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項11】
前記後群における前記接合負レンズ中の前記正レンズの光軸上の厚さをD27とし、レンズ系全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.22<D27/f0<0.50
の条件を満足することを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項12】
前記後群において前記接合負レンズは、非球面を備えていることを特徴とする請求項1?11のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項13】
前記後群において最も物体側に位置する前記負レンズは、非球面を備えていることを特徴とする請求項1?12のいずれか一項に記載の広角レンズ。
【請求項14】
請求項1?13のいずれか一項に記載の広角レンズを有することを特徴とする撮像装置。
【請求項15】
物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなる広角レンズの結像方法において、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとし、前記後群における前記接合正レンズの光軸上の総厚をD223とし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
0.100<D223/f0<0.800
の条件を満足し、
前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されていることを特徴とする広角レンズの結像方法。」
へと補正することを含むものである(下線は、補正箇所として当審が付した。)。

(2)補正の目的
上記(1)からみて、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項9のうち本件補正前の請求項1を引用する部分を本件補正後の請求項1とする補正を含むものであり、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
よって、当該補正は適法である。

(3)本願発明の認定
上記(2)によれば、本願の請求項1に係る発明は、本件補正後の請求項1(上記(1))に記載されたとおりのものであると認められ、以下、この発明を「本願発明」という。

3 引用例
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-35974号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「物体側より順に、合焦時に固定で負の屈折力を有する第1レンズ群と、合焦時に移動する正の屈折力を有する第2レンズ群とを備え、
前記第1レンズ群は物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群第1ユニットと正の屈折力を有する第1レンズ群第2ユニットとを有し、
前記第2レンズ群は物体側より順に、負の屈折力を有する第2レンズ群第1ユニットと正の屈折力を有する第2レンズ群第2ユニットと、負の屈折力を有する第2レンズ群第3ユニットと、正の屈折力を有する第2レンズ群第4ユニットとを有し、
前記第2レンズ群第3ユニットは、負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズを有し、
前記第2レンズ群中に開口絞りが設けられ、
前記第1レンズ群の焦点距離をf1とし、レンズ全系の焦点距離をf0とし、前記第2レンズ群第1ユニットと前記第2レンズ群第2ユニットとの合成焦点距離をf_(2A)とし、前記第2レンズ群第3ユニットと前記第2レンズ群第4ユニットとの合成焦点距離をf_(2B)としたとき、
2 ≦ -f1/f0 ≦ 9
0 < f_(2B) /f_(2A) < 0.9
の条件を満足することを特徴とするレンズ。」(【請求項1】)

(イ)「【実施例】」(段落【0035】)、
「本発明による大口径広角レンズは、物体側より順に、合焦時に固定で負の屈折力を有する第1レンズ群G1と、合焦時に移動する正の屈折力を有する第2レンズ群G2とを備え、前記第1レンズ群G1は物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群第1ユニットG11と正の屈折力を有する第1レンズ群第2ユニットG12とからなり、前記第2レンズ群G2は物体側より順に、負の屈折力を有する第2レンズ群第1ユニットG21と正の屈折力を有する第2レンズ群第2ユニットG22と、負の屈折力を有する第2レンズ群第3ユニットG23と、正の屈折力を有する第2レンズ群第4ユニットG24とからなり、前記第2レンズ群第3ユニットG23は、負の屈折力を有するレンズと正の屈折力を有するレンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズを有し、前記第2レンズ群G2中に開口絞りSが設けられている。」(段落【0035】)、
「以下、本発明の各実施例を、添付図面に基づいて説明する。」(段落【0036】)、
「〔実施例4〕」(段落【0049】)、
「図11は、本発明の第4実施例にかかる大口径広角レンズの構成を示す図である。図示の大口径広角レンズは、物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる第1レンズ群G1と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22と、開口絞りSと、両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズおよび物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズからなる第2レンズ群第4ユニットG24とから構成されている。」(段落【0049】)、
「実施例4の大口径広角レンズは、上述した実施例1の大口径広角レンズと同様な基本的構成を有するが、各レンズ群の屈折力および形状等が異なっている。次の表(4)に、本発明の実施例4の諸元の値を掲げる。表(4)において、fは焦点距離を、F_(NO)はFナンバーを、2ωは画角を、Bfはバックフォーカスを表す。さらに、左端の数字は物体側からの各レンズ面の順序を、rは各レンズ面の曲率半径を、dは各レンズ面間隔を、nはd線(λ=587.6nm)に対する屈折率を、νはd線(λ=587.6nm)に対するアッベ数を示している。」(段落【0050】、当審注:「実施例3の諸元の値」との記載は文脈に照らして「実施例4の諸元の値」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正して摘記した。)、
「【表4】
f=24.7
F_(NO)=1.43
2ω=84°


(条件対応値)
(1)-f1/f0 =6.07
(2)f_(2B) /f_(2A) =0.50
(3)-f1/f2 =4.96
(4)f凸/f2 =0.709
(5)|AS-S|/f0=0.0446(面番号14の有効径φ28.8)
(6)|AS-S|/f0=0.0238(面番号6の有効径φ26.9)
(7)q凹 =-2.94
(8)-f2凹/f2 =1.82
(9)d1 /(-f1) =0.110」(段落【0051】)

(ウ)図11は次のとおりである。


イ 上記アの各事項によれば、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる第1レンズ群G1と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22と、開口絞りSと、両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズおよび物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズからなる第2レンズ群第4ユニットG24とから構成されている大口径広角レンズであって、
第1レンズ群G1は合焦時に固定で負の屈折力を有し、第2レンズ群G2は合焦時に移動する正の屈折力を有するものであって、
諸元の値が以下のとおりである大口径広角レンズ。

上記において、fは焦点距離を、F_(NO)はFナンバーを、2ωは画角を、Bfはバックフォーカスを表す。さらに、左端の数字は物体側からの各レンズ面の順序を、rは各レンズ面の曲率半径を、dは各レンズ面間隔を、nはd線(λ=587.6nm)に対する屈折率を、νはd線(λ=587.6nm)に対するアッベ数を示している。」

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された国際公開第2006/030848号(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の記載がある。
「【背景技術】」、
「カメラレンズや顕微鏡の対物レンズなどの光学系を構成する個々のレンズ表面には、反射を低減するために反射防止膜がコーティングされている。一般に、反射防止膜などの光学薄膜は乾式法(ドライプロセス)で製造され、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法(Chemical Vapor Deposition)などが用いられている。」(段落【0002】)、
「広い波長帯域あるいは広い角度帯域において低い反射率を有する高性能な光学薄膜を得るには、異なる屈折率を有する複数のコーティング材料を組み合わせて多層膜を形成すれば良いことが知られている。ドライプロセスで反射防止膜を成膜する場合、通常は最高屈折率材料としてTiO_(2)(屈折率:2.4?2.7 於500nm)が利用され、最低屈折率材料としてMgF_(2)(屈折率:1.38 於500nm)が利用されている。」(段落【0003】)、
「多層膜は、使用するコーティング材料の屈折率差が大きいほど、あるいは最上層に低屈折率膜を使用することにより光学性能が向上したり、同じ光学性能でもコーティング層の数を減らせることが知られている。特に、最上層だけを屈折率が1.30以下の低屈折率膜にすることによって、光学性能を極めて高くできることがシュミレ-ションにより明らかになっている。即ち、最上層の屈折率を1.30以下にした低屈折率膜は、広い波長域にわたって反射率を低く抑えることができる広帯域化に有効であり、直入射光だけでなく広い角度範囲から入射する光に対して反射率を低く抑えることができる広入射化に対しても極めて効果が高い。従って、屈折率が1.30以下の光学薄膜を製造できる技術が求められている。」(段落【0004】)、
「膜の屈折率を低くするには、膜の構造を緻密ではなく多孔質にすることが有効である。一般に、膜は堆積した固体物質を隔てる複数の微小孔構造を有すると定義されるので、膜の充填密度と屈折率の関係は次のようになる。」(段落【0005】)、
「 n_(f) =n_(o)×_(P)+ n_(p)×(1-P)
ここでn_(p)は微小孔を充たす物質(例えば、空気或いは水)の屈折率であり、n_(f)とn_(o)はそれぞれ現実の屈折率(充填密度に依存する)と堆積した固体材料の屈折率であり、Pは膜の充填率である。更に充填率は以下のように定義される。」(段落【0006】)、
「 P=(膜の固体部分の体積)/(膜の総体積(固体部分+微小孔部分))
かくして、充填密度の高低はそれぞれ屈折率の高低を意味する。」(段落【0007】)、
「一般的に、緻密な膜を得るには蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスが適しているが、多孔質な膜を得るには湿式法(ウェットプロセス)が適している。ウェットプロセスとは、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、ロールコート法などにより、液体を基板に塗布して乾燥・熱処理することにより成膜する方法である。特長としては、ドライプロセスと異なり大型の装置が不要で、しかも大気中で成膜できるのでコストを大幅に低下できることが挙げられる。また、曲率半径の小さいレンズ等の場合、真空蒸着法やスパッタ法などのドライプロセスでは均一に光学薄膜をコーティングすることが困難であるが、スピンコート法などのウェットプロセスでは比較的容易に行え、大面積や曲率半径の小さい曲面にも均一に成膜できる。」(段落【0008】)

イ 上記アの各記載によれば、引用例2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「カメラレンズを構成する個々のレンズ表面には、反射を低減するために反射防止膜がコーティングされているところ、最上層の屈折率を1.30以下にした低屈折率膜は、広い波長域にわたって反射率を低く抑えることができる広帯域化に有効であり、直入射光だけでなく広い角度範囲から入射する光に対して反射率を低く抑えることができる広入射化に対しても極めて効果が高く、膜の屈折率を低くするには、膜の構造を緻密ではなく多孔質にすることが有効であり、多孔質な膜を得るには湿式法(ウェットプロセス)が適していること。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明1とを以下に対比する。
ア(ア)引用発明1の「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21と、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22と、開口絞りSと、両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23と、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズおよび物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズからなる第2レンズ群第4ユニットG24」は「第2レンズ群G2」を構成していると認められる。
そうすると、引用発明1では、「第1レンズ群G1」と「第2レンズ群G2」が、「物体側より順に」並んでいることになる。
よって、引用発明1の「負の屈折力を有」する「第1レンズ群G1」及び「正の屈折力を有する」「第2レンズ群G2」は、それぞれ、「負の屈折力を持つ前群」と「正の屈折力を持つ後群」に該当し、さらに、「物体側から順に並んだ」ものである。

(イ)また、引用発明1の諸元の値からみて、引用発明1の「大口径広角レンズ」は、「第1レンズ群G1」及び「第2レンズ群G2」の2個のレンズ群からなるものと認められる。

(ウ)以上によれば、引用発明1は、本願発明の「物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり」との特定事項を備えている。

イ 引用発明1の「第2レンズ群G2は合焦時に移動する」ものであるから、引用発明1は、本願発明の「前記後群を移動させることによって合焦を行い」との特定事項を備えている。

ウ 引用発明1の「第1レンズ群G1」は「物体側より順に、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズおよび物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズからなる」ものであるから、引用発明1は、本願発明の「前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり」との特定事項を備えている。

エ(ア)引用発明1の「第2レンズ群G2」は、「物体側より順に」並んだ、
「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21」と、
「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22」と、
「開口絞りS」と、
「両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23」と、
「物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズおよび物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズ」とから構成されているものであるところ、
「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21」が本願発明の「負レンズ」に相当し、「両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23」は、その諸元(レンズ面の番号12?14)からみて、負の屈折力を有していると認められるから、本願発明の「接合負レンズ」に該当する。
また、引用発明1の上記「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22」のうち、「両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズ」は、その諸元(レンズ面の番号9?11)からみて、正の屈折力を有していると認められるとともに、「両凸レンズ」と「両凹レンズ」が物体側からこの順に配列しているから、本願発明の「正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズ」に該当する。

(イ)さらに、引用発明1では、
「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第1ユニットG21」(本願発明の「負レンズ」に相当。)と、
「物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズ、および両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズからなる第2レンズ群第2ユニットG22」における「両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズ」(本願発明の「正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズ」に該当。)と、
「両凹レンズと両凸レンズとの貼合わせレンズであって全体として像側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズ群第3ユニットG23」(本願発明の「接合負レンズ」に該当。)とが、
「物体側より順に」並んでいる。

(ウ)以上によれば、引用発明1は、「前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し」との特定事項を備えている。

オ 引用発明1の「第2レンズ群第2ユニットG22」における「両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズ」(本願発明の「正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズ」に該当。)の「d線(λ=587.6nm)に対する屈折率」は、その諸元からみて、「両凸レンズ」が「1.84042」であって、これが、本願発明の「前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率」「Np」に相当し、「両凹レンズ」が「1.58913」であって、これが、本願発明の「前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率」「Nn」に相当する。
そして、引用発明1において、「Np-Nn」を計算すると、0.25129となるから、引用発明1は、本願発明の「0.09296≦Np-Nn<0.4000」との数値限定を満たしている。

カ 引用発明1の「第2レンズ群第2ユニットG22」における「両凸レンズと両凹レンズとの貼合わせレンズ」(本願発明の「接合正レンズ」に該当。)の光軸上の総厚は、その諸元からみて、レンズ面の番号9から同11までの間の距離に対応し、10.0000+5.0000=15.0000であると認められ、この値が、本願発明の「D223」に相当する。
また、引用発明1の「大口径広角レンズ」の焦点距離は、「24.7000」であり、この値が、本願発明の「f0」に相当する。
そうすると、引用発明1において、「D233/f0」を計算すると、0.607となるから、引用発明1は、本願発明の「0.100<D223/f0<0.800」との数値限定を満たしている。

キ 引用発明1の「大口径広角レンズ」は、本願発明の「広角レンズ」に相当する。

(2)上記(1)の各事項によれば、本願発明と引用発明1とは、
「物体側から順に並んだ、負の屈折力を持つ前群と、正の屈折力を持つ後群とにより実質的に2個のレンズ群からなり、
前記後群を移動させることによって合焦を行い、
前記前群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、物体側に凸面を向けた正レンズとからなり、
前記後群は、物体側から順に並んだ、負レンズと、正レンズと負レンズを物体側からこの順に配列して接合した接合正レンズと、接合負レンズとを有し、
前記後群における前記接合正レンズ中の前記正レンズのd線に対する屈折率をNpとし、前記後群における前記接合正レンズ中の前記負レンズのd線に対する屈折率をNnとし、
前記後群における前記接合正レンズの光軸上の総厚をD223とし、レンズ全系の焦点距離をf0としたとき、次式
0.09296≦Np-Nn<0.4000
0.100<D223/f0<0.800
の条件を満足する、
広角レンズ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「前記前群及び前記後群における光学面のうち少なくとも1面は、ウェットプロセスを用いて形成された層を少なくとも1層含んだ反射防止膜が施されている」のに対し、引用発明1はそうなっているのか明らかでない点。

5 相違点の判断
(1)上記相違点について検討する。
ア カメラレンズを構成する個々のレンズ表面に、反射を低減するために反射防止膜をコーティングすることは例示するまでなく周知である。
他方、引用例2には、カメラレンズを構成する個々のレンズ表面には、反射を低減するために反射防止膜がコーティングされているところ、最上層の屈折率を1.30以下にした低屈折率膜は、広い波長域にわたって反射率を低く抑えることができる広帯域化に有効であり、直入射光だけでなく広い角度範囲から入射する光に対して反射率を低く抑えることができる広入射化に対しても極めて効果が高く、膜の屈折率を低くするには、膜の構造を緻密ではなく多孔質にすることが有効であり、多孔質な膜を得るには湿式法(ウェットプロセス)が適しているとの技術的事項が記載されている(上記3(2)イ)。
そうすると、引用発明1の「大口径広角レンズ」(本願発明の「広角レンズ」に相当。)において、レンズ表面の反射を低減するために、引用例2に記載された技術的事項を採用し、上記[相違点]のように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願発明のようにしたことによる効果は、引用発明1及び引用例2の技術的事項に基づいて、当業者が予測し得たことである。

(2)上記(1)によれば、本願発明は、引用発明1及び引用例2の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-15 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2008-41063(P2008-41063)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 571- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小倉 宏之  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
山村 浩
発明の名称 広角レンズ、これを有する撮像装置及び結像方法  
代理人 大西 正悟  

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