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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1308317 |
審判番号 | 不服2014-12215 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-26 |
確定日 | 2015-12-04 |
事件の表示 | 特願2010-102182「光電変換素子、有機太陽電池及びそれらを用いた光電変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月17日出願公開、特開2011-233692〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年4月27日の出願であって、平成26年4月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年6月26日に審判請求がなされたものである。 その後、当審において、平成27年7月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年9月11日に意見書が提出され、同時に手続補正がなされた。 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年9月11日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「基板上に、少なくとも一方が透光性を有する第1及び第2の電極と、 この第1及び第2の電極間に、第1の電極側から、正孔輸送性材料と金属酸化物からなる第1の有機化合物層と、電子輸送性材料からなる第2の有機化合物層とを有し、 前記第1の有機化合物層が、金属酸化物を、第1の有機化合物層中に層として含み、 前記金属酸化物層が、前記第2の有機化合物層との界面又は前記第1の有機化合物層の内部にあり、 前記正孔輸送性材料が、N,N’-ビス(3-トリル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)、又は4,4’,4’’-トリス(フェニル-3-トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)であり、 前記金属酸化物が、モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物の少なくとも一種であり、 前記正孔輸送性材料と金属酸化物のモル比が、100:4?12であることを特徴とする光電変換素子。」 第3 当審の拒絶理由 当審で通知した平成27年7月9日付けの拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という。)は以下のとおりである。 「本出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1には、「正孔輸送性材料と金属酸化物のモル比が、100:4?12である」構成が記載されている。 また、本願明細書には、【0051】に「mTPD層30nmと三酸化モリブデン層1nmは、mTPD:三酸化モリブデンのモル比100:12に相当する」ことが、【0065】に「mTPD層30nmと三酸化モリブデン層0.3nmは、mTPD:三酸化モリブデンのモル比100:4に相当する」ことが記載されている。 しかしながら、本願明細書には、mTPD層と三酸化モリブデン層の組合せ以外の正孔輸送性材料と金属酸化物の組合せについて、モル比100:4ないしモル比100:12とすることで、高効率のエネルギー変換特性を示す有機太陽電池が得られることの具体的な説明やそれらの実証データの記載はされていない。 mTPD層及び三酸化モリブデン層と異なる正孔輸送性材料と金属酸化物の組合せとし、mTPD層と三酸化モリブデン層の組合せと同様にモル比100:4ないしモル比100:12とした場合に、層の厚みがmTPD層と三酸化モリブデン層の組合せとは異なるものとなり、有機太陽電池素子の構成が異なることは明らかであるが、上述のように本願明細書には、このような異なる構成の素子について高効率のエネルギー変換特性を示すことが示されていないため、一般に、有機光学素子においては、具体的な材料が異なると、変換効率が異なるものとなるという技術常識に照らせば、mTPD層と三酸化モリブデン層のモル比が100:4?100:12であるもの以外のものまで、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。 ・・・(省略)・・・ よって、請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 ・・・(省略)・・・ 」 第4 請求人の反論(意見書の内容) 平成27年9月11日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)による請求人の主張の概要は以下のとおりである。 「・・・(省略)・・・ 3.記載不備(特許法第36条第6項第1号) 平成27年7月9日ご起案の拒絶理由通知書におきまして「mTPD層と三酸化モリブデン層の組み合わせ以外の正孔輸送性材料と金属酸化物の組み合わせについて、モル比100:4ないしモル比100:12とすることで、高効率のエネルギー変換特性を示す有機太陽電池が得られることの具体的な説明やそれらの実証データの記載はされていない」とのご指摘をいただいております。 当該ご指摘について、補正後請求項1では、正孔輸送性材料がN,N’-ビス(3-トリル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)、及び4,4’,4’’-トリス(フェニル-3-トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)のアミン化合物であり(本願段落0031)、金属酸化物がモリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物の少なくとも一種です(本願段落0037)。 本願実施例では、正孔輸送性材料としてmTPDを用い、金属酸化物としてMoO_(3)、WO_(3)及びV_(2)O_(5)のそれぞれを用いて有機薄膜太陽電池を製造し(例えば本願段落0051、0056及び0057)、優れた電池性能が得られていることを確認しています。補正後請求項1の正孔輸送性材料は、実施例で効果を確認しているmTPDと同じアミン化合物であり(本願段落0031)、補正後請求項1の金属酸化物は、実施例で効果を確認しているMoO_(3)、WO_(3)及びV_(2)O_(5)と同じ酸化数が多い金属酸化物です(本願段落0036?0037)。mTPD以外のアミン化合物を正孔輸送材料として用いることができること、並びに三酸化モリブデン以外の金属酸化物を用いることができることは明細書に示されています。補正後請求項1の正孔輸送材料及び金属酸化物を用いて有機太陽電池を構成した場合に、例えば実施例のmTPDと三酸化モリブデンを用いた有機太陽電池と構成が異なるようなことは生じず、mTPDと三酸化モリブデンを用いた有機太陽電池と同様の効果が得られることは明らかです。 ・・・(省略)・・・ 以上から、本発明は、発明の詳細な説明に記載したものであると思料します。 ・・・(省略)・・・ 」 第5 当審の判断 1.mTPD層と三酸化モリブデン層の組み合わせ以外の正孔輸送性材料と金属酸化物の組み合わせが発明の詳細な説明に記載されたものか否かについて (1)発明の詳細な説明の記載 正孔輸送性材料と金属酸化物の組合せについて、発明の詳細な説明には次の事項が記載されている。 (a)「【0030】 2.正孔輸送性材料、電子輸送性材料 正孔輸送性材料は、正孔の移動度が高い材料が好ましい。正孔輸送性材料を含む第1の有機化合物層の典型的な膜厚は10?150nmである。材料にも依存するが、好ましくは20?100nm、さらに好ましくは30?60nmである。 【0031】 正孔輸送性材料としい、例えば、N,N’-ビス(3-トリル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)、4,4’,4’’-トリス(フェニル-3-トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等に代表されるアミン化合物、フタロシアニン(Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZNPc)、チタニルフタロシアニン(TiOPc)等のフタロシアニン類、オクタエチルポルフィリン(OEP)、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(ZNTPP)等に代表されるポルフィリン類が挙げられる。また、溶液による塗布プロセスを用いる高分子化合物であれば、メトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)、ポリヘキシルチオフェン(P3HT)、シクロペンタジチオフェン‐ベンゾチアジアゾール(PCPDTBT)等の主鎖型共役高分子類、ポリビニルカルバゾール等に代表される側鎖型高分子類等が挙げられる。」 (b)「【0036】 3.金属酸化物材料 pドーパントとして用いる金属酸化物は、とり得る酸化数が多いものが望ましい。例えば3酸化モリブデンMoO_(3)はMoの酸化数は6であるが、蒸着時には5、4或いは3等の酸化数に対応する酸化物が混入していると考えられる。これらがp材料上に蒸着されると、より安定な6或いは5へ変化するために電子を下地のp材料から取り去り自身は安定化する。このように金属酸化物は自身が強アクセプターであるので、p材料は電子を抜き取られカチオンラジカル即ち、正孔が生成される。 【0037】 このようなpドーピングとなる金属酸化物の例としてはモリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物、亜鉛酸化物等から選ぶことができる。」 (c)「【0051】 実施例1:p-ドーパントMoO_(3)の例 25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板をイソプロピルアルコール、純水、イソプロピルアルコールの順で各5分間超音波洗浄を行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極パターン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに下面が、透明電極がパターンされた側となるように装着し、真空蒸着装置を真空排気した。真空度が5.0×10^(-4)Paとなったところで、下部電極である透明電極パターンが形成されている側の面上に、正孔輸送性であるp材料のmTPDを0.5Å/sで15nm形成した。次にpドーパントとして、三酸化モリブデンMoO_(3)を0.5Å/sで1nm蒸着形成した。さらにこの上にp材料のmTPDを0.5Å/sで15nm形成し、次に電子輸送性であるn材料C60を0.5Å/sで60nm蒸着形成した。続けてこの上にバッファー層として、10nmのバソクプロイン(BCP)を抵抗加熱蒸着により0.5Å/sで10nm成膜した。最後に対向電極として金属Alを膜厚100nm蒸着し、有機薄膜太陽電池を形成した。素子面積は0.6cm^(2)であった。 尚、mTPD層30nmと三酸化モリブデン層1nmは、mTPD:三酸化モリブデンのモル比100:12に相当する。」 (d)「【0056】 実施例2:p-ドーパントWO_(3)の例 p-ドーパントとしてWO_(3)を用いた以外は実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を形成し評価した。結果を表1に示す。 【0057】 実施例3:p-ドーパントV_(2)O_(5)の例 p-ドーパントとしてV_(2)O_(5)を用いた以外は実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を形成し評価した。結果を表1に示す。」 (e)「【0065】 実施例8:ドーピング量の変化 三酸化モリブデン層の厚みを0.3nmにした以外は実施例4と同様にして有機薄膜太陽電池を形成し評価した。mTPD層30nmと三酸化モリブデン層0.3nmは、mTPD:三酸化モリブデンのモル比100:4に相当する。結果を表1に示す。」 (2)mTPD層と三酸化モリブデン層の組み合わせ以外の正孔輸送性材料と金属酸化物の組み合わせが発明の詳細な説明に記載されたものか否かの判断 上記(a)?(b)の記載事項によると、明細書に、一般的記載として、正孔輸送性材料として「mTPD」以外の「NPD」、「MTDATA」が記載されており、金属酸化物として「モリブデン酸化物」以外の「バナジウム酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物」が記載されていることは認められるものの、それらを組み合わせるモル比については何ら記載されていない。 上記(c)?(e)の記載事項によると、明細書に、正孔輸送性材料としての「NPD」と「MTDATA」のそれぞれと金属酸化物としての「モリブデン酸化物、バナジウム酸化物、タングステン酸化物、ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物」のそれぞれとの組合せ、及び、正孔輸送性材料としての「mTPD」と金属酸化物としての「ルテニウム酸化物、レニウム酸化物、インジウム酸化物、スズ酸化物及び亜鉛酸化物」のそれぞれとの組合せについては、モル比100:4ないしモル比100:12とすることで、高効率のエネルギー変換特性を示す有機太陽電池が得られることの具体的な説明やそれらの実証データが記載されているとは認められない。 本願発明は「光電変換素子」の発明であり、明細書の【0010】に「本発明の目的は、簡易な作製プロセスにより製造可能であり、しかも、エレクトロニクス素子として有用な素子構成を提供することにあり、特に有機太陽電池に用いたときに高効率の光電変換特性を示す光電変換素子を提供するものである。」と記載されているように、高効率の光電変換特性を目的とするものである。 そして、本願発明は、「正孔輸送性材料と金属酸化物からなる第1の有機化合物層」を有し、「正孔輸送性材料と金属酸化物のモル比が、100:4?12である」構成を備えているところ、正孔輸送性材料及び金属酸化物が異なれば、モル比を同様にした場合であっても、第1の有機化合物層の層構造や第1の有機化合物層内の正孔輸送性材料と金属酸化物の厚みといった光電変換素子における構成が異なること、及び、一般に、有機光学素子においては、具体的な材料が異なると、変換効率が異なるものとなるという技術常識を考慮すると、上記具体的な説明やそれらの実証データの記載がない正孔輸送性材料と金属酸化物の組合せについて、本願発明が目的する高効率の光電変換特性を示すことが明細書の発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。 すなわち、上記(c)?(e)によって検証された正孔輸送性材料と金属酸化物の組み合せ(モル比)以外の正孔輸送性材料と金属酸化物の組み合せを含む本願発明が、発明の詳細な説明によってサポートされているということはできない。 (3)請求人の反論について 請求人は、「補正後請求項1の正孔輸送性材料は、実施例で効果を確認しているmTPDと同じアミン化合物」であること、「補正後請求項1の金属酸化物は、実施例で効果を確認しているMoO_(3)、WO_(3)及びV_(2)O_(5)と同じ酸化数が多い金属酸化物」であることをもって、「補正後請求項1の正孔輸送材料及び金属酸化物を用いて有機太陽電池を構成した場合に、例えば実施例のmTPDと三酸化モリブデンを用いた有機太陽電池と構成が異なるようなことは生じず、mTPDと三酸化モリブデンを用いた有機太陽電池と同様の効果が得られることは明らかです。」と主張している。 しかしながら、上記(2)で述べたように、本願発明は、「正孔輸送性材料と金属酸化物のモル比が、100:4?12である」構成を備えているため、正孔輸送性材料及び金属酸化物が異なれば、光電変換素子の構成が異なることは明らかであるところ、上記主張では、当該「モル比が、100:4?12である」構成のもとでは正孔輸送性材料及び金属酸化物が異なれば光電変換素子の構成が異なることに対応した反論になっていない。 そのため、上記「特定事項1」に対する審判請求人の意見は採用できない。 (4)小活 したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 2.結論 よって、本願の平成27年9月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものであり、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。すなわち、上記手続補正によって当審で通知した拒絶理由は解消されない。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-30 |
結審通知日 | 2015-10-06 |
審決日 | 2015-10-19 |
出願番号 | 特願2010-102182(P2010-102182) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小濱 健太 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
山口 剛 伊藤 昌哉 |
発明の名称 | 光電変換素子、有機太陽電池及びそれらを用いた光電変換装置 |
代理人 | 佐藤 猛 |
代理人 | 田中 有子 |
代理人 | 渡辺 喜平 |