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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L |
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管理番号 | 1308774 |
審判番号 | 不服2014-20962 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-16 |
確定日 | 2015-12-17 |
事件の表示 | 特願2010-213823「乗用型芝刈り車両及びその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日出願公開,特開2012- 70554〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件に係る出願は,平成22年9月24日の特許出願であって,平成26年4月18日付けで通知された拒絶の理由に対して,同年6月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,同年7月14日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年10月16日に本件拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出された。 そして,当審より平成27年7月13日付けで拒絶の理由を通知したところ,同年9月11日付けで意見書及び手続補正書が提出された。 2.当審より通知した拒絶の理由の概要 当審において平成27年7月13日付けで通知した拒絶の理由のうち,理由IIの概要は,次のとおりである。 「【理由II】 本願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法36条4項並びに6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1に「前記推定部は,前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2センサの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する」という事項が記載され,また,請求項5に「前記第3ステップは,前記第1ステップの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2ステップの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生する回生電力の電力量を推定する」という事項が記載されている。 この“推定”作業に関し,明細書の段落【0042】で,「演算手段53は,テーブルT1を用いて求められた慣性エネルギーと演算手段52の演算結果とを乗算する演算を行う。」と説明され,さらに演算手段52について「演算手段52は,演算手段51の演算結果に対して予め設定された係数(k1)を乗算する演算を行う。」と説明され,演算手段51について「演算手段51は,テーブルT2を用いて求められた勾配抵抗に対し,3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配の角度が俯角(下向きの角度)である場合には正符号を付し,仰角(上向きの角度)である場合には負符号を付す演算を行う。」と説明されている。 しかし,【図3】を参酌しても,技術的に見て合理的な演算がなされているとは把握できず,“推定”作業の技術的な内容は明確であるとはいえない。 そもそも各数値の単位(物理量)からして明確とは言えないし(例えば,勾配抵抗なるものが物理的にどのようなことを意味しているのか,また,なぜその単位がkgであるのか,さらには,勾配抵抗のkgと慣性エネルギーのkJの積(kJ・kg)がどのような意味合いの物理量であるのか(はたしてエネルギー,電力量と観念できるものであるのか否か),といったことが不明。),慣性エネルギーと勾配抵抗をどのように関係づけて用いれば回生電力量が【図4】のR1,R2のいずれの領域に属するか判定できるのか明確に把握できない。 以上を踏まえると,本願の請求項1?5に係る発明は,いずれも明確でない。」 3.当審の判断 (1)当審より通知した拒絶の理由に対して提出された平成27年9月11日に提出された手続補正書は,特許請求の範囲の記載を以下のように補正するものである。 「 【請求項1】 電力を供給するバッテリと,該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータとを備える乗用型芝刈り車両において, 車両の速度を検出する第1センサと, 車両の姿勢を検出する第2センサと, 前記第1,第2センサの検出結果に基づいて,前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する推定部と, 前記推定部の推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する制御部と を備えており, 前記推定部は,前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2センサの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する ことを特徴とする乗用型芝刈り車両。 【請求項2】 前記推定部は,車両の速度と車両の慣性エネルギーとの関係を示す第1テーブルと,車両の姿勢と車両に対する勾配抵抗との関係を示す第2テーブルとを有しており, 前記第1テーブルを用いて前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求め,前記第2テーブルを用いて前記第2センサの検出結果に応じた車両に対する勾配抵抗を求める ことを特徴とする請求項1記載の乗用型芝刈り車両。 【請求項3】 前記制御部は,前記バッテリの充電状態が予め設定された目標充電状態を超えないように,前記バッテリの充電量を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乗用型芝刈り車両。 【請求項4】 前記モータで発生する回生電力を前記バッテリに回収することで制動をかける第1制動装置と, 車両が備える車輪に機械的な力を作用させることで制動をかける第2制動装置とを備えており, 前記制御部は,前記推定部で推定される前記回生電力の電力量に応じて,前記第1,第2制動装置の制動量を調整することにより前記バッテリの充電量を制御する ことを特徴とする請求項3記載の乗用型芝刈り車両。 【請求項5】 電力を供給するバッテリと,該バッテリからの電力によって走行用の駆動力を発生するモータとを備える乗用型芝刈り車両の制御方法であって, 車両の速度を検出する第1ステップと, 車両の姿勢を検出する第2ステップと, 前記第1,第2ステップの検出結果に基づいて,前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する第3ステップと, 前記第3ステップの推定結果に応じて前記バッテリの充電量を制御する第4ステップと を有しており, 前記第3ステップは,前記第1ステップの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2ステップの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する ことを特徴とする乗用型芝刈り車両の制御方法。」 これによれば,請求項1に「前記推定部は,前記第1センサの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2センサの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する」という事項が記載され,また,請求項5に「前記第3ステップは,前記第1ステップの検出結果に応じた車両の慣性エネルギーを求めるとともに,前記第2ステップの検出結果に応じて,上り勾配では車両を減速させる方向に作用する一方で,下り勾配では車両を加速させる方向に作用する勾配抵抗を求め,該慣性エネルギーと該勾配抵抗とを用いて前記モータで発生し得る回生電力の電力量を推定する」という事項が記載されている。 これらの事項(以下,「本件発明特定事項」と言う。)は,いずれも,慣性エネルギーと勾配抵抗とを用いて電力量を“推定”する,ということに係るものである。 (2)本件発明特定事項は,それだけでは,電力量の推定がどのようにして実現し得るのかが明らかではない。 そこで,明細書及び図面の記載において,この本件発明特定事項の内容を開示する個所をさがすと,図3とともに明細書の発明の詳細な説明に次の説明がある。 「【0037】 また,制御装置38は,回生電力量推定部38a(推定部)及び充電制御部38b(制御部)を備えており,モータ41で発生する回生電力を用いたバッテリBの充電制御を行う。回生電力量推定部38aは,速度センサ36及び3Dジャイロセンサ37の検出結果に基づいて,モータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。具体的には,速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーと,3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗とを求め,これらを用いてモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。 【0038】 図3は,本発明の一実施形態による乗用型芝刈り車両で行われる回生電力の電力量を推定する処理を説明するための図である。図3に示す通り,回生電力量推定部38aは,乗用型芝刈り車両1の速度と慣性エネルギーとの関係を示すテーブルT1(第1テーブル)と,勾配(乗用型芝刈り車両1の前後方向の姿勢)と乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗との関係を示すテーブルT2(第2テーブル)とを有している。 【0039】 一般的に物体の運動エネルギーは,物体の質量と物体の速度の2乗との積に比例する。乗用型芝刈り車両1の質量が一定(例えば,800kg)であるとした場合には,テーブルT1は,図3に示す通り,乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーが車速の2乗に比例するものとなる。また,乗用型芝刈り車両1の質量が一定(例えば,800kg)であるとした場合には,テーブルT2は,図3に示す通り,乗用型芝刈り車両1の重量にSIN(勾配角度)を乗じたものとなる。つまり,乗用型芝刈り車両1の重量をWとし,勾配をθとすると,勾配抵抗Reは,Re=W・sinθなる式で表される。 【0040】 回生電力量推定部38aは,図3に示すテーブルT1を用いて速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーを求め,テーブルT2を用いて3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗を求める。例えば,速度センサ36によって検出された乗用型芝刈り車両1の車速が10[km/h]である場合には,図3に示すテーブルT1から乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーとして約2.5[kJ]を求める。また,例えば3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配(乗用型芝刈り車両1の前後方向の姿勢)が30[度]である場合には,図3に示すテーブルT2から乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗として約400[kg]を求める。 【0041】 また,回生電力量推定部38aは,図3に示す演算手段51?54を備えており,テーブルT1,T2を用いて求めた慣性エネルギー及び勾配抵抗に対して各種演算を施すことによりモータ41で発生する回生電力の電力量を推定する。尚,演算手段51?54は,例えば論理回路等のハードウェアにより実現されていても良く,ソフトウェアにより実現されていても良い。 【0042】 演算手段51は,テーブルT2を用いて求められた勾配抵抗に対し,3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配の角度が俯角(下向きの角度)である場合には正符号を付し,仰角(上向きの角度)である場合には負符号を付す演算を行う。演算手段52は,演算手段51の演算結果に対して予め設定された係数(k1)を乗算する演算を行う。演算手段53は,テーブルT1を用いて求められた慣性エネルギーと演算手段52の演算結果とを乗算する演算を行う。また,演算手段54は,演算手段53の演算結果に対して予め設定された係数(k2)を乗算する演算を行う。このような演算が行われることによって回生電力の電力量が推定される。」 これらの記載事項及び図3の記載内容からは,“推定”は,概ね次のように演算が行われることにより実現できるものとされている。 ・テーブルT1を用いて速度センサ36の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1の慣性エネルギーを求める。 ・テーブルT2を用いて3Dジャイロセンサ37の検出結果に応じた乗用型芝刈り車両1に対する勾配抵抗を求める。 ・演算手段51により,テーブルT2を用いて求められた勾配抵抗に対し,3Dジャイロセンサ37によって検出された勾配の角度が俯角(下向きの角度)である場合には正符号を付し,仰角(上向きの角度)である場合には負符号を付す演算を行う。 ・演算手段52により,演算手段51の演算結果に対して予め設定された係数(k1)を乗算する演算を行う。 ・演算手段53により,テーブルT1を用いて求められた慣性エネルギーと演算手段52の演算結果とを乗算する演算を行う。 ・演算手段54により,演算手段53の演算結果に対して予め設定された係数(k2)を乗算する演算を行う。 しかし,これらからでは,モータで発生し得る回生電力の電力量が推定し得るものとは考えられない。 より具体的に述べると,テーブルT2を用いて勾配抵抗が求められたとしても,何故,演算手段51,52のような演算を行うのか不明であり,さらに,勾配抵抗について演算処理51,52を施されたものとテーブルT1を用いて求められた慣性エネルギーを演算手段53により乗算する理由も不明であり,最終的に得られたものが,モータで発生し得る回生電力の電力量に対応したものとは考えられない。 とりわけ,勾配抵抗に関する演算については,位置エネルギーの観点から行われるものではないかと一応推察することはできるのであるが,求められた勾配抵抗に対して演算手段51?52を施したものが位置エネルギーに対応したものであるとは解せず,最終的に演算手段53を経た時点で得られたもの自体が勾配がある場所を走行している乗用型芝刈り車両1が有しているエネルギーに応じたものとは考えられない。 したがって,本件発明特定事項は,明細書及び図面の記載を考慮しても,その技術的内容が明確であるとは言えない。 (4)以上のとおりであるから,特許請求の範囲の請求項1の記載及びそれを引用する請求項2?4の記載並びに請求項5の記載は,特許を受けようとする発明を明確に表現したものとは言えないから,本願は,依然として,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 また,明細書の発明の詳細な説明の記載は,請求項1?5に係る発明を当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載したものとは言えないから,本願は,依然として,特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。 さらに,明細書の発明の詳細な説明の記載は,請求項1?5に係る発明自体を明確に記載したものとは言えないから,本願は,依然として,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 (5)請求人は,当審より通知した拒絶の理由に対して平成27年9月11日に提出した意見書において,明細書及び図面中に誤記があったことや勾配抵抗をエネルギーに換算する必要があること等を述べるのであるが,それらの主張中に明細書及び図面の記載に即しない点があることを置いても,どのようにして,勾配抵抗(に起因するエネルギー)と慣性エネルギーを用いてモータで発生し得る回生電力の電力量を推定できるのかは,明確に理解し得るものではない。 したがって,当該意見書を考慮しても,本願の明細書,特許請求の範囲及び図面の記載上の不備がないと言うことはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから,本願は,特許法36条4項並びに6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-10-16 |
結審通知日 | 2015-10-20 |
審決日 | 2015-11-05 |
出願番号 | 特願2010-213823(P2010-213823) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(B60L)
P 1 8・ 536- WZ (B60L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 相羽 昌孝、高田 基史 |
特許庁審判長 |
藤井 昇 |
特許庁審判官 |
松永 謙一 新海 岳 |
発明の名称 | 乗用型芝刈り車両及びその制御方法 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高橋 久典 |
代理人 | 寺本 光生 |