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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1308820
審判番号 不服2014-10347  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-03 
確定日 2015-12-09 
事件の表示 特願2010-511211「カーボンブラック、トナー、及び複合材料、並びにこれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月18日国際公開、WO2008/153972、平成22年 8月26日国内公表、特表2010-529502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2008年(平成20年)6月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成19年6月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成25年5月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年1月31日付けで拒絶査定され、これを不服として、同年6月3日に審判請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年6月3日に提出された手続補正書による補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年6月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成25年5月27日に提出された手続補正書によって補正された本件補正前(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は、以下のとおりである。

(1)本件補正前の請求項1
「 樹脂と着色剤とを含むトナー組成物であって、該着色剤が、
式:-Ar、-Ar-Alk_(x)、
【化1】

のうちの1つを有する少なくとも1つの有機基が結合された顔料を含む改質顔料である(該有機基は、該顔料に直接に結合されており、そしてArはアリール又はアリーレン基であり、Alkはアルキル又はアルキレン基であり、又は少なくとも1つのフルオロ基で置換された炭素数1?5のアルキル又はアルキレン基であり、xは1?5の整数であり、nは1?5の整数であり、そしてxが2以上である場合には、置換基のそれぞれは同じであるか又は異なっており、並びにArが、独立して、H、R、及びORのうちの1つ以上で置換されており、Rは、独立して、分枝状または非分枝状で炭素数1?20の飽和または不飽和アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、またはアルカリルである)か、
b)該着色剤の表面上に少なくとも1種のフェニル含有ポリマーが吸着された顔料を含む改質顔料であるか、或いは
c)4-フルオロアニリンによる顔料のジアゾニウム処理の反応生成物を含む改質顔料である、
トナー組成物。」

(2)本件補正により補正された請求項1(下線は補正箇所を示す。)
「 樹脂と着色剤とを含むトナー組成物であって、該着色剤が、
a)
式:-Ar、-Ar-Alk_(x)、
【化1】

のうちの1つを有する少なくとも1つの有機基が結合された顔料を含む改質顔料である(該有機基は、該顔料に直接に結合されており、そしてArはアリール又はアリーレン基であり、Alkはアルキル又はアルキレン基であり、又は少なくとも1つのフルオロ基で置換された炭素数1?5のアルキル又はアルキレン基であり、xは1?5の整数であり、nは1?5の整数であり、そしてxが2以上である場合には、置換基のそれぞれは同じであるか又は異なっており、並びにArが、独立して、H、R、及びORのうちの1つ以上で置換されており、Rは、独立して、分枝状または非分枝状で炭素数1?20の飽和または不飽和アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、またはアルカリルである)か、
b)該着色剤の表面上に少なくとも1種のフェニル含有ポリマーが物理吸着された顔料を含む改質顔料であるか、或いは
c)4-フルオロアニリンによる顔料のジアゾニウム処理の反応生成物を含む改質顔料である、
トナー組成物。」

2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
(1)上記請求項1に対する補正のうち、「a)」を加える補正は、特許法17条の2第5項3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、また、特許法184条の12第2項の規定により本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面とされる国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面中の説明に限る)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日おける国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く)(以下「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてした補正であって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

(2)上記請求項1に対する補正のうち、「吸着」を「物理吸着」とする補正は、翻訳文等の【0041】ないし【0043】の記載を根拠にして、本件補正前の「吸着」の種類を限定するものである。
したがって、上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記補正は、翻訳文等に記載された事項の範囲内においてした補正であって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

3 独立特許要件の検討
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由で「引用例1」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-43751号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(ア)「【請求項15】 少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該着色剤の粒子が、一分子内に親水性部位、疎水性部位、及びその間に反応性部位を有する表面改質性化合物により表面改質されていることを特徴とするトナー。」
(イ)「【請求項28】 該表面改質が、該表面改質性化合物を開始剤として重合性単量体を重合することにより行われたことを特徴とする請求項15乃至27のいずれかに記載のトナー。」
(ウ)「【0056】次に本発明における着色剤の表面改質方法について説明する。
【0057】着色剤の表面改質は溶媒中で表面改質剤によって着色剤を分散することにより、着色剤の表面に重合開始基を導入し、その重合開始基を起点に重合性単量体を反応させて、着色剤の表面をコートする。このような手法によれば、着色剤の表面に反応活性基がなくても、着色剤に対して簡便に重合開始基を導入することができる。
【0058】具体的には、表面改質剤を溶解又は分散させた溶媒中で該表面改質剤を分散剤として着色剤を分散させる。この分散においてはボールミルやペイントシェーカーの如き顔料分散装置を用いることもできる。
【0059】ここで該媒体が水のように着色剤を分散しにくい媒体の場合には以下のような手法を用いる方が、より着色剤を微細に分散することができ、効率的に着色剤の表面改質を行うことができる。その手法とは、着色剤をトルエンのごとき、水に難溶性の有機媒体に分散する。このとき、一般的な着色剤の分散の手法のように、分散剤を用いたり、ボールミル、ペイントシェーカーの如き顔料分散装置を用いたりすることもむろん可能である。
【0060】次に、この着色剤の分散液を水中に乳化する。このとき、乳化剤として一分子内に親水性部位、疎水性部位、及びその間に反応性部位を有する前記表面改質剤を用いる。そうすると、表面改質剤で覆われた着色剤の分散液の乳化滴が調製される。この乳化液をしばらく撹拌すると、着色剤の分散液に用いた水に難溶性の溶媒は揮発または水中にわずかに溶け出すことにより乳化滴は消滅し、結果として表面改質剤によって分散された着色剤の水分散液が調製される。
【0061】ついで、該水分散液に着色剤の表面にコートしたい重合性単量体を水中に投入し、必要に応じて加熱すると表面改質剤の反応開始剤が反応し、着色剤の表面に樹脂がコートされ着色剤の表面が改質される。」
(エ)「【0071】重合性単量体としては、前記反応性部位の基の開裂により重合を開始できる単量体が挙げられる。例えば、ビニル単量体が挙げられる。ビニル単量体としては、芳香族ビニル単量体[例えば、スチレン、アルキルスチレン(例えば、ビニルトルエンなど)、α-アルキルスチレン(例えば、α-メチルスチレンなど)]・・(略)・・が挙げられる。」
(オ)「【0137】実施例1
着色剤の表面改質
イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー17)30質量部をトルエン300質量部にボールミルによって十分分散させて顔料分散液を調製した。イオン交換水30000質量部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム6質量部、表面改質剤の合成例1で合成した表面改質剤(化合物1)60質量部を溶解させた水溶液に、上記顔料分散液を超音波ホモジナイザーで分散し、顔料分散液の乳化液を調製した。ついで、水分散液にスチレン2100質量部を加え、70℃で17時間重合を行った。この反応液をろ過、水洗浄を繰り返し、表面改質されたイエロー顔料を得た。この顔料のSEM観察を行ったところ、40?170nmの球状粒子が観察され、イエロー顔料は、約5質量%のスチレン重合体によって被覆されていることが確認された。
【0138】
トナーの製造
・プロポキシ化ビスフェノールとフマル酸を縮合 100質量部
して得られたポリエステル樹脂
・ジ-tert-ブチルサリチル酸のクロム錯体 2質量部
・前記表面改質イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー17)5質量部
上記材料を、高速ヘンシェルミキサーにより予備混合を行ない、その後、150℃に温度設定した3本ロールを通過せしめ、溶融混練した。
【0139】次いで該混練組成物をスピードミルにより2mm粒径に粗砕し、さらに、前記ポリエステル樹脂532質量部、及び含クロム錯体22質量部を該組成物に加え二軸押出し機により溶融混練を行なった。この最終混練物を粉砕、分級を施こし、体積平均粒径8.0μmのイエロートナー粒子を得た。イエロートナー粒子100質量部に疎水性酸化チタン微粒子2質量部を外添し、イエロートナーを調製した。このイエロートナーと、スチレンアクリル樹脂をコートした平均粒径45μmのコーティングフェライトキャリアを混合し、トナー濃度5%の現像剤を調製した。この現像剤の帯電量を測定したところ、-25.6μC/gであった。」
(カ)「【0146】実施例2
着色剤の表面改質
実施例1においてイエロー顔料をキナクリドン顔料(C.I.PigmentRed 122)に変えた以外は同様にして、顔料の表面改質を行った。この顔料のSEM観察を行ったところ、40?170nmの球状粒子が観察され、キナクリドン顔料が約5質量%のスチレン重合体によって被覆されていることが確認された。
【0147】トナーの製造
高速撹拌装置TK-ホモミキサーを備えた四つ口フラスコ中に、イオン交換水910質量部とポリビニルアルコール100質量部とを添加し、回転数1200rpmにて撹拌しながら、55℃に加熱して水系分散媒とした。
【0148】
モノマー分散液の組成
・スチレン単量体 90質量部
・n-ブチルアクリレート単量体 30質量部
・前記表面改質キナクリドン顔料 6質量部
・ジ-tert-ブチルサリチル酸のクロム錯体 2質量部
【0149】一方、上記材料をアトライターを用いて3時間分散させた後、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)3質量部を添加してモノマー分散液を調製した。
【0150】次に、得られた分散液を、上記の四つ口フラスコ内の分散媒中に投入し、上記の回転数を維持しつつ10分間の造粒を行なった。続いて、50rpmの撹拌下において、55℃で1時間、次に、65℃で4時間、更に、80℃で5時間の重合を行った。上記の重合の終了後、スラリーを冷却し、精製水で洗浄を繰り返すことにより分散剤を除去した。更に洗浄、乾燥を行なうことにより、体積平均径6.5μmのマゼンタトナー粒子を得た。このマゼンタトナー粒子100質量部に疎水性酸化チタン微粒子2質量部を外添し、マゼンタトナーを調製した。」

(キ)上記(ア)?(カ)から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「少なくとも結着樹脂と着色剤を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
前記着色剤の粒子が、一分子内に親水性部位、疎水性部位、及びその間に反応性部位を有する表面改質性化合物を開始剤として重合性単量体を重合することにより表面改質されており、
前記着色剤の表面改質は、具体的には、重合性単量体及び着色剤として、スチレン及び顔料を用い、顔料がスチレン重合体によって被覆されたものである、
トナー。
ここで、着色剤の表面改質とは、溶媒中で表面改質剤によって着色剤を分散することにより、着色剤の表面に重合開始基を導入し、その重合開始基を起点に重合性単量体を反応させて、着色剤の表面を被覆するものであり、具体的には、溶媒が水のように着色剤を分散しにくい媒体の場合以下のような手法を用いる。(a)まず、着色剤をトルエンのごとき、水に難溶性の有機媒体に分散する。(b)次に、この着色剤の分散液を水中に乳化する。このとき、乳化剤として一分子内に親水性部位、疎水性部位、及びその間に反応性部位を有する表面改質剤を用いる。そうすると、前記表面改質剤で覆われた着色剤の分散液の乳化滴が調製される。この乳化液をしばらく撹拌すると、着色剤の分散液に用いた水に難溶性の溶媒は揮発または水中にわずかに溶け出すことにより乳化滴は消滅し、結果として表面改質剤によって分散された着色剤の水分散液が調製される。(c)ついで、水分散液に着色剤の表面に被覆したい重合性単量体を水中に投入し、必要に応じて加熱すると表面改質剤の反応開始剤が反応し、着色剤の表面に樹脂が被覆され着色剤の表面が改質される。」
(以下「引用発明1」という。)

イ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「結着樹脂」及び「着色剤」はそれぞれ本願補正発明の「樹脂」及び「着色剤」に相当する。
b 引用発明1の「トナー」は、「結着樹脂」及び「着色剤」を含むから、本願補正発明の「トナー組成物」に相当する。
c 引用発明1の「スチレン重合体」は、本願補正発明の「少なくとも1種のフェニル含有ポリマー」に相当し、引用発明1の「顔料」は「スチレン重合体によって被覆された」ものであるから、表面上にポリマーを有する顔料であり、本願補正発明の「改質顔料」に相当する。

(イ)したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
「樹脂と着色剤とを含むトナー組成物であって、該着色剤が、
b)該着色剤の表面上に少なくとも1種のフェニル含有ポリマーを有する改質顔料である、
トナー組成物。」
である点で一致し、次の点で一応相違している。

相違点:前記「改質顔料」が、
本願補正発明は、少なくとも1種のフェニル含有ポリマーが「物理吸着された顔料を含む」ものであるのに対し、
引用発明1では、スチレン重合体によって「被覆された顔料」であり、該被覆が、物理吸着であるかどうか明らかでない点。

ウ 上記相違点について検討する。
(ア)引用発明1における表面改質の具体的手法の(b)で調製された、表面改質剤によって分散された着色剤の水分散液では、表面改質剤の疎水性部位が着色剤表面側になり、親水性部位が水側になるように、水中に分散しているものと解される。したがって、着色剤表面と表面改質剤とは、疎水結合、すなわち物理吸着しているといえる。そして(c)では、該表面改質性化合物中の反応性部位を開始剤としてスチレンが重合していることから、引用例1の着色剤表面とスチレン重合体とは、物理吸着により結合しているといえる。
(イ)したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由で「引用例2」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平9-324134号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 ラジカル重合性単量体をラジカル重合し、ラジカル重合過程における重合体を得、該重合体の成長ラジカルが失活しないうちに該重合体とカーボンブラックを接触処理することで得られた処理カーボンブラック顔料。
【請求項2】 カーボンブラックを接触処理する重合体の重量平均分子量が、500から10万である請求項1記載の処理カーボンブラック顔料。
【請求項3】 カーボンブラックを表面活性化処理してから用いる、請求項1または2記載の処理カーボンブラック顔料。
【請求項4】 ラジカル重合性単量体が酢酸ビニル、スチレンおよびその誘導体よりなる群から選ばれた単量体を少なくとも1種は含有することを特徴とする請求項1、2または3記載の処理カーボンブラック顔料。
【請求項5】 請求項1、2、3または4記載の処理カーボンブラック顔料を、重合性単量体成分に分散し懸濁重合または乳化重合することで得られた静電荷像現像用トナー。」
(イ)「【0008】本発明でカーボンブラックの処理の際のラジカル重合に使用する重合性単量体は、酢酸ビニル、もしくは、スチレンもしくはその誘導体を含むことが望ましい。スチレンの誘導体や酢酸ビニルは、二重結合上の相対的な荷電の尺度を示す値であるe値が負であり、そうでないものに比べて、カーボンブラックにグラフト化しやすいからである。・・(略)・・」
(ウ)「【0014】【実施例】以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【0015】実施例1
撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却管及び温度計を備えたフラスコにスチレン100重量部、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)1重量部を加え、撹拌しながら窒素ガスを吹き込み、系内の酸素を置換した後、70℃の水浴につけ重合し、重量平均分子量23000のポリスチレンを得た。そこに、あらかじめUVオゾン照射装置により、オゾンを室温で照射して処理したカーボンブラック(三菱化学製 MA100)20重量部を加え、更に撹拌を続け、処理カーボンブラック顔料を得た。カーボンブラックの大きな2次凝集体が見られなくなった。」

(エ)上記(ア)?(ウ)から、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。
「処理カーボンブラック顔料を、重合性単量体成分に分散し懸濁重合または乳化重合することで得られた静電荷像現像用トナーであって、
前記処理カーボンブラック顔料は、ラジカル重合性単量体をラジカル重合し、ラジカル重合過程における重合体を得、該重合体の成長ラジカルが失活しないうちに該重合体とカーボンブラックを接触処理することで得られたものであり、
前記カーボンブラックは、表面活性化処理してから用いられ、
前記ラジカル重合性単量体は、酢酸ビニル、スチレンおよびその誘導体よりなる群から選ばれた単量体を少なくとも1種は含有し、
具体的には、ラジカル重合性単量体はスチレンであり、ラジカル重合性単量体をラジカル重合した重合体は、ポリスチレンである、
静電荷像現像用トナー。」
(以下「引用発明2」という。)

イ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明2とを対比する。
a 引用発明2の「重合性単量体成分」が「懸濁重合または乳化重合」したものは、本願補正発明の「樹脂」に相当する。
b 引用発明2の「カーボンブラック顔料」、「処理カーボンブラック顔料」及び「静電荷像現像用トナー」は、本願補正発明の「着色剤」、「改質顔料」及び「トナー組成物」に相当する。
c 引用発明2では、重合体(具体的にはポリスチレン)の成長ラジカルが失活しないうちにカーボンブラックを接触処理しているから、ポリスチレンとカーボンブラック顔料は結合している。したがって、引用発明2のカーボンブラック顔料と結合している「ポリスチレン」は、本願補正発明の「

を有する有機基」に相当する。
なお、本願補正発明の記載は、
「a)
式:-Ar、-Ar-Alk_(x)、
【化2】

のうちの1つを有する少なくとも1つの有機基が結合された顔料を含む改質顔料」
であるから、「有機基」は、上記「式」及び「【化2】」に係る構造そのものに限定されず、上記構造に他の構造が加わったものを含むと解される。

(イ)したがって、本願補正発明と引用発明2とは、
「樹脂と着色剤とを含むトナー組成物であって、該着色剤が、
a)式:-Ar、-Ar-Alk_(X)、
【化1】

のうちの1つを有する少なくとも1つの有機基が結合された顔料を含む改質顔料である(該有機基は、該顔料に直接に結合されており、そしてArはアリール又はアリーレン基であり、Alkはアルキル又はアルキレン基であり、又は少なくとも1つのフルオロ基で置換された炭素数1?5のアルキル又はアルキレン基であり、xは1?5の整数であり、nは1?5の整数であり、そしてxが2以上である場合には、置換基のそれぞれは同じであるか又は異なっており、並びにArが、独立して、H、R、及びORのうちの1つ以上で置換されており、Rは、独立して、分枝状または非分枝状で炭素数1?20の飽和または不飽和アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、またはアルカリルである)
トナー組成物。」
である点で一致し、相違点はない。

(3)引用例3
ア 原査定の拒絶の理由で「引用例3」として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2004-277626号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項2】
少なくとも顔料と顔料分散剤と分散媒を含有する組成物であって、該顔料分散剤がポリマー骨格に化式1または2で表される官能基を少なくとも有することを特徴とする組成物。
【化2】

(*はポリマーへの結合点を示す。)
【請求項3】
顔料と樹脂とを少なくとも含有し、製造工程において該顔料と顔料分散剤を混合する工程を少なくとも有するトナーにおいて、該顔料分散剤がポリマー骨格に化式1または2で表される官能基を少なくとも有し、顔料に対する前記顔料分散剤の質量比が1.0質量%乃至20質量%であることを特徴とするトナー。
【化3】

(*はポリマーへの結合点を示す。)」
(イ)「【0027】
また、本発明の組成物は、分散媒と顔料と上述した本発明の顔料分散剤とを少なくとも含有するものである。すなわち、本発明の組成物は、上述の本発明の顔料分散剤を含有すること以外は公知の組成、すなわち、顔料、分散媒とを少なくとも有し、その他樹脂、添加剤、溶媒等を有するものである。分散媒および顔料は、上述したものを好適に用いることができる。
【0028】
上記本発明の組成物の製造方法も公知の方法を用いることができる。例えば、分散媒中に顔料分散剤および、必要に応じて樹脂を溶かし込み、撹拌しながら顔料粉末を徐々に加え十分に溶媒になじませる。さらにボールミル、ペイントシェーカー、ディゾルバー、アトライター、サンドミル、ハイスピードミル等の分散機により機械的剪断力を加えることで顔料粒子表面に顔料分散剤を吸着させ、顔料を安定に微分散、すなわち均一な微粒子状に分散することができる。」
(ウ)「【0049】
[実施例1]
<顔料分散剤の製造例1>
以下に示す方法により顔料分散剤aの合成を行った。
【0050】
300mlの反応容器にポリスチレン(Mw=10700、Mw/Mn=1.50)30.0g、2-ナフトール3.0g、ニトロベンゼン210mlを仕込み撹拌溶解させる。そこへ塩化アルミニウム10.0g、塩化チオニル7.5ml、ピリジン3滴を加え、20℃以下に冷却しながら1hr撹拌した。反応液を4.5リットルのメタノール中に滴下し、再沈精製を行った。さらにメタノールで洗浄濾過を繰り返し、室温で12時間減圧乾燥を行い、目的の顔料分散剤a27.0gを得た。H-NMRによりナフトールのOHが観察され、さらに高分解能質量分析によりチオニル基が確認され、化式1と化式2の構造を有する混合物が得られていることがわかった。」
(エ)「【0055】
[実施例2]
<顔料ペーストの作製例1>
・スチレンモノマー 340部
・顔料分散剤a 2部
・モノアゾイエロー(C.I.Pigment Yellow 74)20部
を容器中でよくプレミクスした後に、それを20℃以下に保ったままビーズミルで約5時間分散し、顔料分散ペーストAを作製した。得られた顔料分散ペーストAをガラス板上にワイヤーバーを用いて均一に塗布し、自然乾燥した後、光沢値を測定したところ123であり、良好な平滑性を示した。光沢度の測定は、ハンディ光沢計グロスチェッカーIG-310(堀場製作所社製)を使用した。また、アルミ箔上に同様に塗布したものをSEM観察したところ、粒径は約70nm?120nmであり、顔料が細かく均一に分散されていることがわかった。」

(オ)上記(ア)?(エ)から、引用例3には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「顔料と樹脂とを少なくとも含有し、製造工程において該顔料と顔料分散剤を混合する工程を少なくとも有するトナーにおいて、該顔料分散剤がポリマー骨格に化式1または2で表される官能基を少なくとも有し、顔料に対する前記顔料分散剤の質量比が1.0質量%乃至20質量%であるトナーであり、
【化3】

(*はポリマーへの結合点を示す。)
前記顔料と顔料分散剤を混合する工程において、顔料粒子表面に顔料分散剤を吸着させることにより、顔料を安定に微分散するものであり、
前記顔料分散剤は、具体的には、300mlの反応容器にポリスチレン(Mw=10700、Mw/Mn=1.50)30.0g、2-ナフトール3.0g、ニトロベンゼン210mlを仕込み撹拌溶解させ、そこへ塩化アルミニウム10.0g、塩化チオニル7.5ml、ピリジン3滴を加え、20℃以下に冷却しながら1hr撹拌し、反応液を4.5リットルのメタノール中に滴下し、再沈精製を行い、さらにメタノールで洗浄濾過を繰り返し、室温で12時間減圧乾燥を行うことにより、合成されたものである、
トナー。」
(以下「引用発明3」という。)

イ 対比
(ア)本願補正発明と引用発明3とを対比する。
a 引用発明3の「顔料」及び「樹脂」は、本願補正発明の「着色剤」及び「樹脂」に相当し、引用発明3の「トナー」は顔料と樹脂を少なくとも含有するから、本願補正発明の「トナー組成物」に相当する。
b 引用発明3の顔料分散剤の合成におけるポリスチレンに対する2-ナフトールの仕込み量から、顔料分散剤には、化式1または2で表される官能基が導入されていない、スチレン部分が存在すると解される。したがって、引用発明3の「ポリマー骨格に化式1または2で表される官能基を有する」「顔料分散剤」は、本願補正発明の「フェニル含有ポリマー」に相当する。
そして、引用発明3の「顔料と顔料分散剤を混合する工程」によって、「顔料粒子表面に顔料分散剤を吸着」させているから、引用発明3において「顔料と顔料分散剤を混合する工程」を経た顔料は、本願補正発明の「着色剤の表面上に少なくとも1種のフェニル含有ポリマーが物理吸着された顔料を含む改質顔料」に相当する。

(イ)したがって、本願補正発明と引用発明3とは、
「樹脂と着色剤とを含むトナー組成物であって、該着色剤が、
b)該着色剤の表面上に少なくとも1種のフェニル含有ポリマーが物理吸着された顔料を含む改質顔料である、
トナー組成物。」
である点で一致し、相違点はない。

(5)まとめ
上記(2)?(4)から、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2又は引用発明3と同一の発明であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成25年5月27日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?13によって特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1ないし3の記載事項は、上記第2の[理由]3(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記第2[理由]2(1)及び(2)のとおり、本願発明の誤記を訂正するとともに発明特定事項を限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3のとおり、引用発明1、引用発明2又は引用発明3と同一の発明であるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2又は引用発明3と同一の発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-03 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-27 
出願番号 特願2010-511211(P2010-511211)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 大瀧 真理
山村 浩
発明の名称 カーボンブラック、トナー、及び複合材料、並びにこれらの製造方法  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 高橋 正俊  
代理人 河野上 正晴  
代理人 永坂 友康  

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