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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1309200
審判番号 不服2014-26296  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-24 
確定日 2015-12-28 
事件の表示 特願2012- 43648「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-182905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年2月29日の出願であって、平成26年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月24日に審判請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月24日に提出された手続補正書によりなされた手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成26年12月24日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本願の明細書及び特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち、特許請求の範囲の補正は、本件補正前の請求項1を補正するとともに、前記請求項1を引用する本件補正前の請求項2を削除し、当該請求項2の削除に伴って、前記請求項1を引用する本件補正前の請求項3?11について、それぞれ一項づつ繰り上げるとともに、引用していた請求項の項番を補正するものである。
そして、本件補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。
<本件補正前>
「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分を有する第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」

<本件補正後>
「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分と、第2部分と、を有し、前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている第1半導体領域と、
前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の一部の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」

2.本件補正の内容
請求項1についてした本件補正の内容は以下のとおりである。
(1)補正事項1
本件補正前の「第1部分を有する第1半導体領域」との記載を、本件補正後は「第1部分と、第2部分と、を有し、前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている第1半導体領域」と補正する。

(2)補正事項2
本件補正前の「前記第1半導体領域の上側」に「設けられ」る「第2半導体領域」との記載を、本件補正後は「前記第2部分の上側」の「設けられ」る「第2半導体領域」と補正する。

(3)補正事項3
本件補正前の「前記第2半導体領域の上側」に「設けられ」る「第3半導体領域」との記載を、本件補正後は「前記第2半導体領域の一部の上側」に「設けられ」る「第3半導体領域」と補正する。

(4)補正事項4
本件補正前の「前記第2半導体領域の上側に設けられ」る「第4半導体領域」との記載を、本件補正後は「前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ」る「第4半導体領域」と補正する。

(5)補正事項5
本件補正前の「前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く」との記載を、本件補正後は「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く」と補正する。

(6)補正事項6
請求項1に、本件補正後は「前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され」との事項を追加する。

(7)補正事項7
本件補正前の「前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる」との記載を、本件補正後は「前記第2領域は、前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる」と補正する。

3.新規事項の追加の有無及び補正目的の適否
(1)補正事項1について
ア 補正事項1は、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)における明細書の段落【0012】の「第1半導体領域10は、第1部分11と、第2部分12と、を有する。第1部分11は、第2部分12の一部の上に設けられる。」という記載に基づくものと認められる。

イ したがって、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ウ また、補正事項1は、本件補正前の「第1半導体領域」が「第1部分」に加えてさらに「第2部分」を有し、「前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている」ことを限定するものである。

エ したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2について
ア 補正事項2は、当初明細書等における明細書の段落【0013】の「すなわち、第2半導体領域20は、第2部分12の上で第1部分11が設けられた一部以外の部分に設けられる。」という記載に基づくものと認められる。
したがって、補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ また、補正事項2は、「第2半導体領域」が、第1半導体領域の一部である「第2部分」の上側に「設けられ」ることを限定するものである。
したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)補正事項3について
ア 補正事項3は、当初明細書等における明細書の段落【0014】の「第3半導体領域30は、第2半導体領域20の上側に設けられる。」という記載、同段落【0031】の「第2半導体領域20の一部表面には、n形不純物の不純物濃度1×10^(20)cm^(-3)程度のn形の第3半導体領域30(ソース領域)が形成されている。」という記載、及び、図1(a)に基づくものと認められる。
したがって、補正事項3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ また、補正事項3は、「第3半導体領域」が、第2半導体領域の「一部」の上側に「設けられ」ることを限定するものである。
したがって、補正事項3は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(4)補正事項4について
ア 補正事項4は、当初明細書等における明細書の段落【0016】の「第4半導体領域40は、第2半導体領域20の上側であって第3半導体領域30のチャネル部21とは反対側に設けられる。」という記載、同段落【0032】の「また、第2半導体領域20の一部表面であって、第3半導体領域30の側方に、p形不純物の不純物濃度1×10^(19)cm^(-3)以上1×10^(20)cm^(-3)以下程度のp形の第4半導体領域(p形ウェルコンタクト領域)が形成されている。」という記載、及び、図1(a)に基づくものと認められる。
したがって、補正事項4は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ また、補正事項4は、「第4半導体領域」が、第2半導体領域の「別の一部」の上側に「設けられ」ることを限定するものである。
したがって、補正事項4は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(5)補正事項5について
ア 補正事項5は、「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」が「前記第2半導体領域のうちの」領域であることを限定し、「前記第1部分と接する側の領域」も「前記第2半導体領域のうちの」領域であることを限定するとともに、「前記第2半導体領域のうちの」、前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く」なっているとの事項を追加するものである。

イ 補正事項5は、当初明細書等における明細書の段落【0017】の「 第2半導体領域20は、第3半導体領域30及び第4半導体領域40と接する側の領域であって、第1部分11と接する側の領域よりも不純物濃度の高い高濃度領域50を有する。すなわち、第2半導体領域20は、チャネル部21の不純物濃度(第1の不純物濃度)よりも高い第2の不純物濃度を有する第2導電形(p^(+)形またはp^(++)形)のSiCを含む。高濃度領域50は、第1領域51と、第2領域52と、を有する。」という記載、同段落【0019】の「第2領域52は、Z方向にみて第3半導体領域30の高抵抗領域31の下側に設けられる。」という記載、及び、図1(a)に基づくものと認められる。
したがって、補正事項5は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ウ 補正事項5のうち、「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」が「前記第2半導体領域のうちの」領域であることを限定し、「前記第1部分と接する側の領域」も「前記第2半導体領域のうちの」領域であることを限定する補正は、前記「接する側の領域」及び前記「前記第1部分と接する側の領域」が「前記第2半導体領域のうちの」領域であることを、より明確にするものである。
また、補正事項5のうち、「前記第2半導体領域のうちの」、前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く」なっているとの事項を追加する補正は、本願補正前の「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」は、「不純物濃度」が「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く」なっているということを限定する補正である。
したがって、補正事項5は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明、及び、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(6)補正事項6について
ア 補正事項6は、当初明細書等における明細書の段落【0017】の「第2半導体領域20は、第3半導体領域30及び第4半導体領域40と接する側の領域であって、第1部分11と接する側の領域よりも不純物濃度の高い高濃度領域50を有する。……高濃度領域50は、第1領域51と、第2領域52と、を有する。」という記載、及び、図1(a)に基づくものと認められる。
したがって、補正事項6は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ また、補正事項6は、本件補正前の「前記第4半導体領域」と「前記第1部分」と「前記第1領域」及び「前記第3半導体領域」の、相互の「配置」位置関係を限定するものである。
したがって、補正事項6は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(7)補正事項7について
ア 補正事項7は、当初明細書等における明細書の段落【0019】の「具体的には、第2領域52は、Z方向にみて第3半導体領域30の高抵抗領域31の下側に設けられる。」という記載、及び、図1(a)に基づくものと認められる。
したがって、補正事項7は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。よって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ また、補正事項7は、本件補正前の「前記第2領域」は、「前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上」において「設けられ」ことを限定するものである。
したがって、補正事項7は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(8)請求項2の削除とこれに伴う補正について
ア 本件補正においては、さらに、請求項1を引用する本件補正前の請求項2を削除し、当該請求項2の削除に伴って、前記請求項1を引用する本件補正前の請求項3?11について、それぞれ一項づつ繰り上げるとともに、引用していた請求項の項番を補正する補正がなされている。

イ 上記の各補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。よって、請求項2の削除とこれに伴う補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ウ 上記の各補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

(9)新規事項の追加の有無及び補正目的の適否についての検討のまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たす。

3.独立特許要件
以上のとおり、請求項1についてする本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含んでいる。
そこで、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正が、いわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かを、請求項1に係る発明について検討する。

(1)補正発明
本件補正後の請求項1?10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、再掲すると次のとおりである。

「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分と、第2部分と、を有し、前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている第1半導体領域と、
前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の一部の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」

(2)引用例及び引用発明
(2-1)引用例1の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2007-242925号公報(以下「引用例1」という。)には、「炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法」(発明の名称)について、図1?図20とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付加。以下同じ。)。

a.「【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置、および炭化珪素半導体装置の製造方法に係る発明であり、特に、ドリフト層の表面上に、濃度の異なる2つのウエル領域が形成される炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の高耐圧低損失スイッチング素子として、縦型高耐圧炭化珪素電界効果型トランジスタが期待されている。本素子は、たとえば特許文献1に示されているように、炭化珪素基板上に存在するドリフト層の基板表面近傍に、高濃度ウエル領域、当該高濃度ウエル領域内に形成されるソース領域、低濃度ウエル領域、および一対の低濃度ウエル領域に挟まれたゲート電極下に存在するJFET領域を具備している。」

b.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の炭化珪素半導体装置では、高濃度ウエル領域がチャネル領域に存在していないので、装置自体を小型化するとリーク電流が増えるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、装置自体を小型化してもリーク電流を抑制することが可能な炭化珪素半導体装置、およびその炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。」

c.「【0012】
<実施の形態1>
図1は、本実施の形態に係わる製造方法の結果形成される、炭化珪素電界効果型トランジスタ(以下、炭化珪素半導体装置と称する)の構成を示す断面図である。
【0013】
図1に示すように、第一の導電型を有する炭化珪素半導体基板1の第一の主面上に、第一の導電型を有するドリフト層2が形成されている。また、ドリフト層2の表面内には、第二の導電型を有する、比較的不純物濃度の高い(つまり、後述する低濃度ウエル領域3a(第1のウエル領域)よりも不純物濃度の高い)高濃度ウエル領域3b(第2のウエル領域)が形成されている。
【0014】
また、ドリフト層2の表面内には、断面視において高濃度ウエル領域3bに隣接して低濃度ウエル領域3aが形成されている。ここで、当該低濃度ウエル領域3aは、高濃度ウエル領域3bよりも不純物濃度が低い。また、当該低濃度ウエル領域3a内には、チャネルが形成される。なお当該低濃度ウエル領域は、第二の導電型を有する。
【0015】
また、所定の高濃度ウエル領域3bの上面内には、第一の導電型を有するソース領域5が形成されている。ここで、断面視において、二つのソース領域5の間には、ウエルコンタクト領域6が形成されている。
【0016】
また、図1に示すように、断面視において、ソース領域5の端部と低濃度ウエル領域3aとの間には、高濃度ウエル領域3bが形成されている。当該構成からも分かるように、チャネルは、低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3bの上面近傍に形成される。なお、後述するように、断面視において、ソース領域5と低濃度ウエル領域3aとが直接接続されている場合には、チャネルは、低濃度ウエル領域3aの上面近傍のみに形成される。
【0017】
また、ドリフト層2の上面内には、高耐圧を保持する領域として、JTE(Junction Termination Extension)またはガードリング(以下、総称して高耐圧保持可能領域4と称する)が、形成されている。ここで、高耐圧保持可能領域4は、第二の導電型を有する。また高耐圧保持可能領域4は、素子(すなわち、炭化珪素半導体装置)の外周部(周縁部)において当該素子を囲繞するように形成されている。
……(中略)……
【0020】
また、ゲート絶縁膜8上に所望の形状のゲート電極9が形成されている。ここで、当該ゲート電極9は、平面視において、ソース電極の一部、高濃度ウエル領域3b、低濃度ウエル領域3a、およびJFET領域2aに渡って形成されている。
【0021】
ここで、JFET領域2aは、断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている。また、当該JFET領域2aは、ゲート絶縁膜8を介してゲート電極9の下方に形成されている。また、当該JFET領域2aに分布している不純物の導電型は、第一の導電型である。つまり、JFET領域2aは、第一の導電型を有する。
【0022】
また、当該ゲート電極9を覆うように、ゲート絶縁膜8上に層間絶縁膜14が形成されている。ここで、層間絶縁膜14は開口部を有しており、当該開口部からはウエルコンタクト領域6およびソース領域5の一部が臨まれる。そして、当該開口部の底部において、ウエルコンタクト領域6上面およびソース領域5の一部の上面と接するように、ソース電極11が形成されている。なお、炭化珪素半導体基板1の第二の主面上には、ドレイン電極10が形成されている。」

d.「【0023】
次に、本実施の形態に係わる炭化珪素半導体装置の製造方法について、説明する。
【0024】
まず、図2を参照して、エピタキシャル結晶成長法などにより、第一の導電型を有する炭化珪素半導体基板1上に、第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2を形成する。
【0025】
ドリフト層2の厚さは5?50μmあれば良く、第一の導電型の不純物濃度としては、1×10^(15)?1×10^(18)cm^(-3)あれば良い。こうすることで、数100V?3kV以上の耐圧を持つ縦型電界効果型トランジスタが実現できる。なお、より好ましくは、ドリフト層2の厚さを10?20μm、第一の導電型の不純物濃度として1×10^(15)?5×10^(16)cm^(-3)とする。
……(中略)……
【0033】
さて図2を用いた製造方法の説明に話を戻す。
【0034】
次に、図2を参照して写真製版とイオン注入(第一のイオン注入と把握できる)によって、前記ドリフト層2の表面内の所定の領域に、第二導電型を有する低濃度ウエル領域3aと第二の導電型を有する高耐圧保持可能領域4とを、同一の工程にて形成する。
【0035】
低濃度ウエル領域3aの深さおよび高耐圧保持可能領域4の深さは、ドリフト層2の深さを越えないようにし、これらの深さはたとえば0.4?1.5μmあれば良い。第二の導電型の不純物濃度は、ドリフト層2中の第一の導電型の不純物濃度を超えるようにし、たとえば1×10^(17)?1×10^(19)cm^(-3)(好ましくは1×10^(17)?1×10^(18)cm^(-3)、より好ましくは1×10^(17)?5×10^(17)cm^(-3))あれば良い。
【0036】
ここで上述したように、第二導電型を有する低濃度ウエル領域3aの表面近傍には、チャネルが形成される。また、低濃度ウエル領域3aと高耐圧保持可能領域4とが同一の工程にて形成されるので、低濃度ウエル領域3aの不純物分布(不純物濃度分布)と高耐圧保持可能領域4の不純物分布(不純物濃度分布)とは、ほぼ同じとなる。
【0037】
ここで、低濃度ウエル領域3aは、図2で示したように、比較的広範囲の領域に渡って形成しても良く、図4に示すように、比較的狭い範囲に分割して、低濃度ウエル領域3aを形成しても良い。
【0038】
さて次に、図5に示すように、写真製版とイオン注入(第二のイオン注入および第三のイオン注入等を含む)によって、第二の導電型を有する高濃度ウエル領域3b、ウエルコンタクト領域6、第一の導電型を有するソース領域5、フィールドストッパー領域7を、各々所望の領域に形成する。
【0039】
低濃度ウエル領域3aの所定の箇所に対して、イオン注入処理(第二のイオン注入処理)を施すことにより、高濃度ウエル領域3bを形成する。ここで上述の通り、高濃度ウエル領域3bは、第二の導電型を有している。また、高濃度ウエル領域3bの不純物濃度は、低濃度ウエル領域3aの不純物濃度よりも高い。
【0040】
また、高濃度ウエル領域3bの所定の箇所に対して、イオン注入処理(第三のイオン注入処理)を施すことにより、第一の導電型を有するソース領域5を形成する。
【0041】
図5から分かるように、平面視した場合、高濃度ウエル領域3bは、低濃度ウエル領域3aの形成領域内に含まれている。
【0042】
当該高濃度ウエル領域3bの深さは、ドリフト層2の深さを越えないようにし、当該高濃度ウエル領域3bの深さは、たとえば0.4?2.0μmあれば良い。また高濃度ウエル領域3bの深さは、低濃度ウエル領域3aの深さを超えることが望ましい。
【0043】
さらに、第二の導電型の不純物濃度は、低濃度ウエル領域3a中の第二の導電型の不純物濃度を超えるようにし、たとえば2×10^(17)?2×10^(19)cm^(-3)あれば良い。また当該第二の導電型の不純物濃度は、基板表面側に向かって不純物濃度が減少するように分布していても良い。
【0044】
ここで、図4に示す態様にて低濃度ウエル領域3aを形成した場合には、図4の点線にて示されているように、高濃度ウエル領域3bを形成すれば良い。ここで、図4において、低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3bとは、50nm?5um程度重なるように形成しても良い。
【0045】
また、ソース領域5の深さは、高濃度ウエル領域3bの深さを超えないようにし、その深さはたとえば10nm?0.5μmあれば良い。また、ソース領域5中の第一の導電型の不純物濃度は、高濃度ウエル領域3bの第二の導電型の不純物濃度を超えるようにし、たとえば1×10^(18)?1×10^(21)cm^(-3)あれば良い。
【0046】
さらに、ソース領域5は、図5に示すように高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるように形成することが望ましい。つまり、上述したように、図5の断面視において、ソース領域5の端部と低濃度ウエル領域3aとの間に、高濃度ウエル領域3bが形成されていることが望ましい。
【0047】
なお、上記のように、ソース領域5の端部と低濃度ウエル領域3aとの間に、高濃度ウエル領域3bが形成されている場合には、チャネルは、ソース領域5の端部から高濃度ウエル領域3b、低濃度ウエル領域3aの各表面部分に渡って形成される。当該場合において、たとえば微細なチャネル長を持つ素子を作製するとき、図5の断面視における低濃度ウエル領域3aの幅は(より具体的には、表面近傍の当該低濃度ウエル領域3aの幅は)、0.1?2.0um(より好ましくは0.3?1.0um)であることが望ましい。また、図5の断面視におけるソース領域5と低濃度ウエル領域3aとの間に存する、高濃度ウエル領域3bの幅は(より具体的には、表面近傍の当該高濃度ウエル領域3bの幅は)、1.0um以下(より好ましくは0.5um以下)であることが望ましい。
……(中略)……
【0049】
当該熱処理以降は、通常の手法に基づいて、酸化珪素や酸化窒化珪素や金属酸化膜や金属窒化膜などからなるゲート絶縁膜8形成、多結晶珪素や高融点金属からなるゲート電極9形成、酸化珪素や窒化珪素からなる層間絶縁膜14堆積、ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなるソース電極11とドレイン電極10の形成等を形成した後、保護膜を形成するなどによって、図1に示した炭化珪素半導体装置が完成する。」

e.「【0054】
以上のように、本実施の形態に係わる炭化珪素半導体装置の製造方法では、低濃度ウエル領域3aと高耐圧保持可能領域4とが同一の工程にて形成している。したがって、一の工程で、低濃度ウエル領域3aおよび高耐圧保持可能領域4を効率良く形成できる。よって、低濃度ウエル領域3aと高耐圧保持可能領域4とを別々に形成する場合よりも、本実施の形態に係わる方法の方が製造コストの削減を図ることができる。
【0055】
なお、低濃度ウエル領域3aと高耐圧保持可能領域4とが同一の工程にて形成されるので、低濃度ウエル領域3aの不純物分布(不純物濃度分布)と高耐圧保持可能領域4の不純物分布(不純物濃度分布)とは、ほぼ同じとなる(より具体的には、深さ方向の分布がほぼ同一となる)。
【0056】
また、本実施の形態に係わる炭化珪素半導体装置では、図1に示すように、断面視において、ソース領域5と低濃度ウエル領域3aとの間には、高濃度ウエル領域3bが形成されている。したがって、当該炭化珪素半導体装置の短チャネル化を図ったとしても、リーク電流が抑制されるので、短チャネル効果を抑制することができる。」

f.「実施の形態1に係わる炭化珪素半導体装置の要部構成を示す断面図である」(「図面の簡単な説明」における記載)図1には、JFET領域2aが、ドリフト層2の上部に、前記ドリフト層2と連続して形成されている、ことが図示されている。
また、同図には、高濃度ウエル領域3b内には、その上面側に、二つの前記ソース領域5と、その間のウエルコンタクト領域6が形成されている、ことが図示されている。
そして、同図には、ゲート絶縁膜8が、前記JFET領域2aと、低濃度ウエル領域3aと、及び、ソース領域5の一部の上側に形成されている、ことが図示されている。

(2-2)引用発明
前項のa?fの特に下線部の記載を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「第一の導電型を有する炭化珪素半導体基板1の第一の主面上に形成される、第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2であって、前記ドリフト層2は、その上部に断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている第一の導電型を有するJFET領域2aを有し、
前記ドリフト層2の表面内にそれぞれイオン注入により形成される、それぞれ第二の導電型を有する前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3bであって、断面視において前記高濃度ウエル領域3bに隣接して当該高濃度ウエル領域3bよりも不純物濃度が低い前記低濃度ウエル領域3aが形成され、
所定の前記高濃度ウエル領域3bの上面内に、当該高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるようにイオン注入により形成される、第一の導電型を有するソース領域5と、
前記高濃度ウエル領域3b内に、断面視において二つの前記ソース領域5の間にイオン注入により形成される、第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6と、
断面視において、前記JFET領域2aと、前記低濃度ウエル領域3aと、及び、前記ソース領域5の一部との上側に形成されるゲート絶縁膜8と、
前記ゲート絶縁膜8上に所望の形状で形成されるゲート電極9と、
ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記ウエルコンタクト領域6上面及び前記ソース領域5の一部の上面と接するように形成されるソース電極11と、
ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記炭化珪素半導体基板1の第二の主面上に形成されるドレイン電極10と、
を備え、
平面視した場合、前記高濃度ウエル領域3bは、前記低濃度ウエル領域3aの形成領域内に含まれており、
前記高濃度ウエル領域3bの深さは、前記ドリフト層2の深さを越えないようにされ、
断面視において、前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間に、前記高濃度ウエル領域3bが形成されていることで、炭化珪素半導体装置の短チャネル化を図ったとしても、リーク電流が抑制されることを特徴とする炭化珪素半導体装置。」

(2-3)引用例2の記載事項
ア 原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2007-13087号公報(以下「引用例2」という。)には、「電界効果トランジスタおよびサイリスタ」(発明の名称)について、図1?図46とともに、次の事項が記載されている。

a.「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、耐圧の低下を可及的に防止することのできる電界効果トランジスタおよびサイリスタを提供することを目的とする。」

b.「【0030】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるSiC絶縁ゲートトランジスタ(電界効果トランジスタ)を図1(a)乃至図8を参照して説明する。本実施形態のSiC絶縁ゲートトランジスタは、n型ドリフト層に対して主接合を形成するp型ベース領域がアルミとボロンの2元素を含んでいるSiC半導体層からなっており、主にアルミを含むアルミ領域の少なくとも底面がボロンを含む領域によって覆われた構成となっている。すなわち、アルミの深さ方向の濃度プロファイルがボロンの深さ方向のプロファイルと同じかまたは浅くなるように形成されている。
【0031】
本実施形態のSiC絶縁ゲートトランジスタの構成を、製造工程を示す図1(a)乃至7を参照して説明する。まず、図1(a)に示すように、低抵抗のn型のSiC基板2を準備し、このSiC基板2上に、ドリフト領域となる不純物濃度が1×10^(16)cm^(-3)のn型エピタキシャル層4を10μm成長させる(図1(b)参照)。
……(中略)……
【0036】
次に、反応性スパッタやCVD(Chemical Vapor Deposition)などを用いて、上記犠牲酸化膜上にイオン注入マスクとなる酸化膜を2μm成膜する。その後、この酸化膜上にレジストを塗布し、レジストをパターニングすることにより、レジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとしてRIE(Reactive Ion Etching)を用いて酸化膜をパターニングすることにより、エピタキシャル層4のp型コンタクト領域形成部分上に開口7を有する酸化膜マスク6を形成する(図1(c)参照)。この酸化膜マスク6を用いて、エピタキシャル層4の表面に最大加速エネルギー100keV?500keV、例えば300keVでAlイオンの多段注入をし、p型コンタクト領域8を形成する(図1(c)参照)。このp型コンタクト領域8は、深さが0.5μm程度でAl濃度は1×10^(18)cm^(-2)?1×10^(21)cm^(-3)程度、例えば1×10^(20)cm^(-3)のボックスプロファイルを有するように形成する。
……(中略)……
【0039】
次に、酸化膜マスク10を用いて、ボロンイオンの多段注入を行い、ボロン注入領域12を形成する(図2(b)参照)。このボロン注入領域12はイオン注入濃度1×10^(16)?1×10^(20)cm^(-3)、例えば1×10^(18)cm^(-3)で、最大加速エネルギー200keV?800keV、例えば400keVで1μm程度の深さまでボックスプロファイルを有するように形成する。なお、ボロン注入領域12は基板表面から1μm程度の深さまでボックスプロファイルを有しても良いが、ボロンは後工程の活性化アニールにより熱拡散をすることから、基板表面から0.3μm?0.5μm程度の領域にはイオン注入をする必要はない。基板表面から0.3μm?0.5μmのボロンがイオン注入されない領域を形成することにより、後の工程でn型ソース領域形成の際(図4(a)参照)に、基板表面に高濃度のn型ソース領域を形成することができ、オン抵抗を軽減させることができる。また、ボロンの熱拡散を考慮に入れ、拡散後にアルミ注入領域よりも深くボロン領域が達すればよいことから、ボロンのイオン注入の最大加速エネルギーは320keV程度でもかまわない。
【0040】
次に、酸化膜マスク10を用いてアルミイオンの多段注入を行い、ボロン注入領域12の底部に高濃度アルミ注入領域14を形成する(図3(a)参照)。高濃度アルミ注入領域14はイオン注入濃度1×10^(16)cm^(-3)?1×10^(20)cm^(-3)、例えば1×10^(20)cm^(-3)で、加速エネルギー100keV?800keV、例えば300keV?400keVで0.5μm?0.7μm程度の深さまでボックスプロファイルを有するように形成する。この高濃度アルミ注入領域14はp型コンタクト領域8の部分と接続している(図3(a)参照)。ここでアルミはボロンよりも浅い領域にイオン注入されているが、相対的な深さ位置はこれに限定されない。最終的にボロンの拡散領域の方がアルミよりも深くなればよい。また、この工程により形成された高濃度アルミ領域14は、後の工程で形成されるソースコンタクト領域となる高濃度n型領域18(図4(a)参照)の底部を保護するように配置されている。これは、p型領域の形成に用いたボロンがダイナミックパンチスルーにより、p型の機能を果たさなくなってしまった場合に起きてしまう、ソース-ドレイン短絡を防ぐためである。
……(中略)……
【0042】
次に、アルミ膜マスク16aを用いて、n型不純物イオン(例えばリンイオン)の多段注入を行い、n型ソース領域18を形成する(図4(a)参照)。n型ソース領域18は、イオン注入濃度1×10^(16)cm^(-3)?1×10^(21)cm^(-3)、例えば1×10^(20)cm^(-3)、最大加速エネルギー100keV?400keV、例えば200keVで0.4μm程度の深さまでボックスプロファイルを有するように形成する。続いて、基板2の裏面にリンイオンを注入し、n型ドレインコンタクト領域20を形成する(図4(a)参照)。なお、n型不純物はリンの他に窒素(N)を用いてもよい。
【0043】
次に、基板を、硫酸と過酸化水素水の混酸で洗浄し、アルミ膜マスク16a、16bや基板に付着したレジストを除去した後、純水によりリンスする。ついで、希塩酸と過酸化水素水の混酸で基板に付着した微量の金属不純物を除去し、純水によりリンスする。そし
て、最後に希フッ酸により基板表面の酸化膜マスク10を除去し、純水によりリンスする。なお、酸化膜マスク10が酸化膜マスク6の開口を広げたものである場合は、酸化膜マスクの除去の際に、エピタキシャル層4の表面に形成された犠牲酸化膜も同時に除去される。このようにして洗浄が終了した基板を誘導加熱型の活性化アニール炉に導入し、到達真空度1×10^(-4)Paまで真空にした後、不活性ガスであるArで満たし、1500℃?1800℃、5分?2時間の活性化アニールを行う。ここでは、1600℃、5分間の活性化アニールを行う。これによりボロン注入領域12からボロンが熱拡散され、アルミ注入領域14を覆う低抵抗のボロン拡散領域12aと、アルミ注入領域14とからなるp型ベース領域15が形成される(図4(b)参照)。このとき、n型ソース領域18の側部にも、ボロン注入領域12からボロンが熱拡散されてボロン拡散領域12bが形成され、このボロン拡散領域12bが後述するようにチャネル領域13となる。
【0044】
次に、再び基板表面を熱酸化した後に、図4(c)に示すように、CVDにより基板表面にシリコン酸化膜(SiO_(2))膜22を成膜し、Ar雰囲気中1000℃でシリコン酸化膜22をシンターする。その後、シリコン酸化膜22上にソース領域上に開口24aを有するレジストパターン24を形成する(図4(c)参照)。
【0045】
次に、このレジストパターン24をマスクとしてバッファードフッ酸によりシリコン酸化膜をエッチングし、レジストパターン24の開口24aよりも大きな開口22aをシリコン酸化膜22に形成する(図5(a)参照)。エッチングにより残存したシリコン酸化膜22は絶縁ゲート膜として機能する。絶縁ゲート膜22下のボロン拡散領域12b、すなわちソース領域18の側部のボロン拡散領域12bがチャネル領域13となる
次に、電子銃蒸着、スパッタなどによりNi膜26を40nm成膜した後(図5(b)参照)、アセトンによりレジストパターン24を除去し、これと同時にレジストパターン24上に成膜されたNi膜をリフトオフすることにより、ソース領域に選択的にソース電極となるNi膜26を形成する(図5(c)参照)。その後、Ar雰囲気中1000℃、1分間のシンターを行い、ソース領域をオーミックコンタクトさせる。
【0046】
次に、リソグラフィー技術を用いて、絶縁ゲート膜22上にのみTiからなるゲート電極28を形成する。(図6参照)。続いて、基板表面をレジストで保護し、基板裏面のn型コンタクト領域20に接するようにTi/Ni/Auからなる裏面電極30を形成する(図7参照)。その後、パッシベーション膜(図示せず)で保護することにより、SiC絶縁ゲートトランジスタを完成する。なお、図7においては、1つのソース電極26と2つのゲート電極28しか示していないが、ソース電極26とゲート電極28が交互に形成された構成となっている。すなわち、図7の右側のゲート電極28の右側には図7の中央に示すソース電極、p型コンタクト領域、ソース領域、p型ベース領域が形成され、左側のゲート電極28の左側には図7の中央に示すソース電極、p型コンタクト領域、ソース領域、p型ベース領域が形成された構成となっている。」

c.「【0047】
本実施形態においては、p型ベース領域15の形成は、まず、図8(a)に示すようにドリフト領域となるn型エピタキシャル層4にマスク(図示せず)を用いてボロンイオンの注入領域12を形成し、続いて、同じマスクを用いてアルミイオンの注入領域14を形成した後、更に同じマスクを用いてn型不純物を注入し、ソース領域18を形成し(図8(b)参照)、図8(c)に示すように熱処理によりアルミ注入領域14の底部よりも深くボロンイオンを拡散させボロン拡散領域12aを形成している。このため、ボロン拡散領域12aが、アルミイオンの注入による欠陥部32(アルミ注入領域14の底部)を覆うことになり、ドリフト領域4とベース領域15との界面におけるイオン注入による結晶欠陥に集中する電界を緩和することが可能となり、耐圧の劣化を抑制することができる。」

イ 前記bで摘記したように、引用例2には、段落【0039】に「ボロン注入領域12はイオン注入濃度1×10^(16)?1×10^(20)cm^(-3)、例えば1×10^(18)cm^(-3)で……形成する。」と、段落【0040】に「高濃度アルミ注入領域14はイオン注入濃度1×10^(16)cm^(-3)?1×10^(20)cm^(-3)、例えば1×10^(20)cm^(-3)で……形成する。」と、段落【0043】に「1600℃、5分間の活性化アニールを行う。これによりボロン注入領域12からボロンが熱拡散され、アルミ注入領域14を覆う低抵抗のボロン拡散領域12a……が形成される……このとき、n型ソース領域18の側部にも、ボロン注入領域12からボロンが熱拡散されてボロン拡散領域12bが形成され、このボロン拡散領域12bが後述するようにチャネル領域13となる。」と記載されている。
以上の記載から、例示されるアクセプタ濃度が、「1×10^(18)cm^(-3)」であり、「高濃度アルミ注入領域14」の例示されるアクセプタ濃度である「1×10^(20)cm^(-3)」より小さい「ボロン注入領域12」から、「ボロン」を「熱拡散」させることで「ボロン拡散領域12a」及び「ボロン拡散領域12b」を形成することから、前記「ボロン拡散領域12a」及び「ボロン拡散領域12b」のアクセプタ濃度は、前記「高濃度アルミ注入領域14」のそれより小さいと認められる。

ウ そうすると、前記a?cから、引用例2には以下の事項が記載されている。
「SiC基板2上に成長させた、ドリフト領域となるn型エピタキシャル層4と、
前記n型エピタキシャル層4の上側に形成するp型コンタクト領域8と、
ソースコンタクト領域となる高濃度n型ソース領域18の底部を保護する高濃度アルミ注入領域14と、
前記高濃度アルミ注入領域14の上側に形成される前記n型ソース領域18と、
前記高濃度アルミ注入領域14を覆うとともに、n型ソース領域18の側部においてはチャネル領域13となる、ボロン拡散領域12a及び12bと、を備え、
前記ボロン拡散領域12aと、前記高濃度アルミ注入領域14とからp型ベース領域15が形成され、
前記ボロン拡散領域12a及び12bのアクセプタ濃度は、前記高濃度アルミ注入領域14のアクセプタ濃度より小さく、
前記高濃度アルミ注入領域14の底部を、前記ボロン拡散領域12aで覆うことで、前記ドリフト領域4と前記ベース領域15との界面におけるイオン注入による結晶欠陥に集中する電界を緩和して、耐圧の劣化を抑制するSiC絶縁ゲートトランジスタ。」

(2-4)引用例3の記載事項
ア 原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2004-146465号公報(以下「引用例3」という。)には、「炭化珪素半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)について、図1?図6とともに、次の事項が記載されている。

a.「【0019】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、しきい値電圧の増大ならびにパンチスルーを防止し、かつチャネル抵抗の低下を達成し得る炭化珪素半導体装置及びその製造方法を提供することにある。」

b.「【0044】
図3は本発明の第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。図3において、この第2の実施形態の炭化珪素半導体装置の特徴とするところは、前述した第1の実施形態の構成に比べて、N+ 型ソース領域105の直下に形成されるP+ 型高濃度ウエル領域301が、P- 型低濃度ウエル領域302に覆われている点である。すなわち、P+ 型高濃度ウエル領域301は、
N- 型エピタキシャル領域102に形成されたP- 型低濃度ウエル領域302内に形成されている。他の構成は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0045】
次に、この第2の実施形態の半導体装置の動作について説明する。なお、基本的な動作は、図1に示す第1の実施形態のそれと同様である。
【0046】
ドレイン電極111とソース電極110との間に電圧が印加された状態で、ゲート電極108に正の電圧が印加されると、ゲート電極108に対向するP- 型低濃度ウエル領域302の表層に、反転型チャネルが形成される。その結果、ドレイン電極111からP- 型低濃度ウエル領域302、N+ 型ソース領域105を経て、ソース電極110へと電流が流れる。一方、ゲート電極108に印加された電圧を取り去ると、P- 型低濃度ウエル領域302の表層に形成されたチャネルは消失する。その結果、ドレイン電極111とソース電極110との間は電気的に絶縁され、スイッチング機能を示すことになる。
【0047】
そして、素子の耐圧は、P- 型低濃度ウエル領域302を介して形成される
P+ 型高濃度ウエル領域301とN- 型エピタキシャル領域102間のPN接合のアバランシェブレークダウンで決まるため、P+ 型高濃度ウエル領域301が無い場合に比べてドレイン耐圧が高くなる。」

c.「【0048】
次に、図3に示す第2の実施形態の半導体装置の製造方法の一例を、図4(a)?同図(g)の工程断面図を用いて説明する。
【0049】
まず、図4(a)の工程においては、N+ 型SiC基板101上に例えば不純物濃度が1E14?1E18cm-3、厚さが1?100μmのN- 型SiCエピタキシャル領域102を形成する。
【0050】
次に、図4(b)の工程においては、エピタキシャル領域102に対して犠牲酸化を行い、その犠牲酸化膜を除去した後(犠牲酸化はしなくても構わない)に、同時に形成した2つのマスク材、すなわちマスク材401とマスク材402を用いて、例えば100?1000℃の高温で燐イオン403を10k?1MeVの加速電圧で多段注入し、N+ 型ソース領域105を形成する。総ドーズ量は、例えば1E14?1E16/cm2 である。なお、N型不純物としては燐の他に窒素、ヒ素などを用いてもよい。
……(中略)……
【0052】
次に、図4(d)の工程においては、感光材(フォトレジスト)404を除去した後に、マスク材401を用いて例えば100?1000℃の高温でほう素イオン405を10k?3MeVの加速電圧で多段注入し、P+ 型高濃度ウエル領域301を形成する。総ドーズ量は、例えば1E14?1E16/cm2 である。このような工程において、マスク材401を用いることで、N+ 型ソース領域105に対してP+ 型高濃度ウエル領域301が自己整合的に形成される。
【0053】
なお、この後、図4(f)に示す工程にて行う熱処理により、不純物を拡散させて、P- 型低濃度ウエル領域302を形成する。そのためには、P+ 型高濃度ウエル領域301を形成するP型不純物は、ほう素が好ましい。SiCを熱処理した時に、ほう素はSiC中を拡散しやすいためである。ほう素を用いることで拡散により容易にP- 型低濃度ウエル領域302を形成できる。なお、ほう素とアルミニウムを共に注入して、熱処理時にほう素を拡散させることで、P- 型低濃度ウエル領域302を形成してももよい。
【0054】
次に、図4(e)の工程においては、マスク材406を用いて、例えば100?1000℃の高温でアルミニウムイオン407を10k?1MeVの加速電圧で多段注入し、P+ 型コンタクト領域106を形成する。総ドーズ量は、例えば1E14?1E16/cm2 である。なお、P型不純物としてはアルミニウムの他にほう素、ガリウムなどを用いてもよい。
【0055】
なお、各領域を形成するイオン注入を行う順番については、本例で示す限りではない。
【0056】
次に、図4(f)の工程においては、例えば1000?1800℃で熱処理を行い、注入した不純物を活性化させる。熱処理時、図4(d)に示す工程でP+ 型高濃度ウエル領域301を形成するために導入した不純物を拡散させて、P- 型低濃度ウエル領域302を形成する。N+ 型ソース領域105とP+ 型高濃度ウエル領域301は、自己整合的に形成されるため、N+ 型ソース領域105に対してP- 型低濃度ウエル領域302も自己整合的に形成される。」

イ 前記a?cから、引用例3には以下の事項が記載されている。
「N+型SiC基板101上に形成するN-型SiCエピタキシャル領域102と、
前記エピタキシャル領域102に対して形成するN+型ソース領域105と、
前記N+型ソース領域105の直下に形成されるP+型高濃度ウエル領域301と、
前記P+型高濃度ウエル領域301を覆うように形成されるP-型低濃度ウエル領域302と、
P+型コンタクト領域106と、を備え、
前記P-型低濃度ウエル領域302を介して形成される前記P+型高濃度ウエル領域301と前記N-型エピタキシャル領域102間のPN接合のアバランシェブレークダウンで決まる素子のドレイン耐圧が、前記P+型高濃度ウエル領域301が無い場合に比べて高くなることを特徴とする、炭化珪素半導体装置。」

(3)対比
(3-1)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明において、「ドリフト層2」が有する「第一の導電型を有するJFET領域2a」は、前記「ドリフト層2」の「上部に断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている」。そして、前記「低濃度ウエル領域3a」は「前記ドリフト層2の表面内にそれぞれイオン注入により形成される」から、結果として、前記「低濃度ウエル領域3a」は「ドリフト層2」の「上部」に形成されている。
そうすると、前記「ドリフト層2」は、「低濃度ウエル領域3aに隣接して形成」されている前記「JFET領域2a」と、前記「低濃度ウエル領域3a」の下部の領域を有すると認められる。
したがって、引用発明の「ドリフト層2」において、前記「低濃度ウエル領域3aに隣接して形成」されている「JFET領域2a」の部分は補正発明の「第1導電形の炭化珪素」を含む「第1半導体領域」の「第1部分」に相当し、前記「低濃度ウエル領域3a」の下部の領域の部分は補正発明の「第2部分」に相当する。
以上から、引用発明の「その上部に断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている第一の導電型を有するJFET領域2aを有し」ている「第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2」は、補正発明の「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分と、第2部分と、を有し、前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている第1半導体領域」に相当する。

イ 補正発明において、「前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」は、「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」と「前記第1部分と接する側の領域」と「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側」の領域とを併せた「半導体領域」であることが、本件補正後の請求項1には記載されている。
したがって、補正発明の「前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」とは、当該「第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」が「前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ」る領域を有していることを特定していると解される。

さて、引用発明の「それぞれ第二の導電型を有する前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」のうち、「前記低濃度ウエル領域3a」は「炭化珪素から成るドリフト層2」の「表面内にそれぞれイオン注入により形成される」から、「炭化珪素」を含んでおり、かつ、前記「ドリフト層2」における前記「低濃度ウエル領域3a」の下部の領域の部分の、上側に「形成」されている。
そして、前記「低濃度ウエル領域3a」は、前記「JFET領域2a」に「隣接」しているから、補正発明の「前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ」る領域に相当する。
以上から、引用発明の「前記ドリフト層2の表面内にそれぞれイオン注入により形成される、それぞれ第二の導電型を有する前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域は、補正発明の「前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」に相当する。

ウ 引用発明の「第一の導電型を有するソース領域5」は、「イオン注入により形成される」から、「炭化珪素」を含むことは明らかである。
そして、前記「ソース領域5」は、「前記高濃度ウエル領域3bの上面内に、当該高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるように」形成されるから、「断面視において」、「前記高濃度ウエル領域3bの上」側であって、前記「JFET領域2a」に「隣接」する「前記低濃度ウエル領域3a」にさらに「隣接」する「前記高濃度ウエル領域3b」を介して形成されていると認められる。
この、「前記高濃度ウエル領域3bの上」側であって、前記「JFET領域2a」に「隣接」する「前記低濃度ウエル領域3a」の隣に「前記高濃度ウエル領域3b」を介して形成されている引用発明の「ソース領域5」は、補正発明の「前記第2半導体領域の一部の上側であって前記第1部分と離間して設けられ」る「第3半導体領域」に相当する。
したがって、引用発明の「所定の前記高濃度ウエル領域3bの上面内に、当該高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるようにイオン注入により形成される、第一の導電型を有するソース領域5」は、補正発明の「前記第2半導体領域の一部の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域」に相当する。

エ 引用発明の「第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」は、「イオン注入により形成される」から、「炭化珪素」を含むことは明らかである。
また、前記「ウエルコンタクト領域6」は、「前記高濃度ウエル領域3b内に、断面視において二つの前記ソース領域5の間」に「形成される」から、「前記高濃度ウエル領域3b」の上側であって、前記「ソース領域5」が「形成」される部分とは別の部分に「形成される」ものである。
したがって、引用発明の「前記高濃度ウエル領域3b内に、断面視において二つの前記ソース領域5の間にイオン注入により形成される、第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」は、補正発明の「前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域」に相当する。

オ 引用発明の「断面視において、前記JFET領域2aと、前記低濃度ウエル領域3aと、及び、前記ソース領域5の一部との上側に形成されるゲート絶縁膜8」は、補正発明の「前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜」に相当する。

カ 引用発明の「前記ゲート絶縁膜8上に所望の形状で形成されるゲート電極9」は、補正発明の「前記絶縁膜の上に設けられた制御電極」に相当する。

キ 引用発明において、「ソース電極11」は、「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物」からなるとともに、前記「炭化珪素」を含む「前記ウエルコンタクト領域6」及び「前記ソース領域5」の各「上面」に「形成」されているから、「前記ウエルコンタクト領域6」及び「前記ソース領域5」と電気的に導通していることは明らかである。
したがって、引用発明の「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記ウエルコンタクト領域6上面及び前記ソース領域5の一部の上面と接するように形成されるソース電極11」は、補正発明の「前記第3半導体領域と導通する第1電極」に相当する。

ク 引用発明において、「ドレイン電極10」は、「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物」からなるとともに、「第一の導電型を有する炭化珪素半導体基板1」の「第二の主面上」に「形成」されているから、前記「炭化珪素半導体基板1」と電気的に導通しており、その結果、「第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2」とも電気的に導通していることは明らかである。
したがって、引用発明の「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記炭化珪素半導体基板1の第二の主面上に形成されるドレイン電極10」は、補正発明の「前記第1半導体領域と導通する第2電極」に相当する。

ケ 前記ウ、エで指摘したように、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」は、「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含む。すなわち、引用発明の「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域は、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含んでいる。
この「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域における「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域は、補正発明の「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」に相当する。
また、引用発明の前記「低濃度ウエル領域3a」は、「JFET領域2a」に「隣接して形成されている」領域であるから、補正発明の「前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域」に相当する。
したがって、引用発明において、「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域のうちの、前記「前記低濃度ウエル領域3a」が「当該高濃度ウエル領域3bよりも不純物濃度が低い」ことと、補正発明において、「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高」いこととは、「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高」い点で共通する。

コ 引用発明の「高濃度ウエル領域3b」は、「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含むとともに、前記「高濃度ウエル領域3b」は「断面視において、前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」にも「形成されている」。
したがって、前記「高濃度ウエル領域3b」は、「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域と、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域とを有する。
そして、引用発明においては、「低濃度ウエル領域3a」に「隣接」して「JFET領域2a」が形成されている。
よって、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」における、「前記ソース領域5の端部」と、「JFET領域2a」に「隣接」している「前記低濃度ウエル領域3a」との間に「形成されている」領域は、補正発明の「前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ」る「前記第1領域」に相当する。

一方、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域と、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域とは、いずれも、前記「高濃度ウエル領域3b」の一部であるから、「ウエルコンタクト領域6」と同様に、「第二の導電型」を有する。
そうすると、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域によって、前記「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域と「ウエルコンタクト領域6」とが電気的に導通されることは明らかである。
よって、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」における前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域と、補正発明の「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域」のうちの「前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通」させる「第2領域」とは、「前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通」させる「第2領域」である点で共通する。

以上から、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」が「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域と、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域とを有することと、補正発明の「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み」、「前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ」、かつ「前記第2領域は、前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる」こととは、補正発明の「第2領域」が「前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において」位置していることを除き、一致する。

サ 引用発明において、「平面視した場合、前記高濃度ウエル領域3bは、前記低濃度ウエル領域3aの形成領域内に含まれており」、また、「前記高濃度ウエル領域3b内に、断面視において二つの前記ソース領域5の間」に「第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」が形成される。
そうすると、引用発明において、「平面視した場合」、前記「第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」と「JFET領域2a」との間には、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に形成されている「前記高濃度ウエル領域3b」の領域と、「前記ソース領域5」とが配置されると認められる。
そして、引用発明における上記の構成は、補正発明において、「前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され」ることに相当する。

シ 引用発明の「炭化珪素半導体装置」は、補正発明の「半導体装置」に相当する。

(3-2)一致点と相違点
以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、
(一致点)
「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分と、第2部分と、を有し、前記第2部分の一部の上に前記第1部分が設けられている第1半導体領域と、
前記第2部分の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の一部の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ、前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
補正発明の「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度」は「前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域から離れた部分の側よりも高く」設定されるのに対して、引用発明の前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」とに下側で接する「高濃度ウエル領域3b」はそのような特定を有していない点。

(相違点2)
補正発明の「前記第2領域」は「前記第3半導体領域の下であって前記第2半導体領域のうちの前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と離れた前記部分の上において」設けられるのに対して、引用発明の前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」とに下側で接する「高濃度ウエル領域3b」はそのような特定を有していない点。

(4)各相違点についての当審の判断
以下、相違点1及び2について、まとめて検討する。
ア 第2.3.(2)(2-3)及び(2-4)より、n型の炭化珪素層からなるドリフト層と、当該ドリフト層の表面に離間して設けられた2つのn型ソース領域、及び上記ドリフト層の表面の上記ソース領域間に設けられたp型コンタクト領域、並びに上記ソース領域の側部のドリフト層上に設けられた絶縁ゲートとを備えた縦型炭化珪素電界効果型トランジスタにおいて、上記ソース領域、及び上記コンタクト領域と下側で接するようにp型の高濃度ウエル領域を形成し、当該高濃度ウエル領域の下側にp型の低濃度ウエル領域を形成することで、耐圧の向上を図ることは、引用例2及び3にみられるように、本願の出願日前、当該技術分野では周知の技術と認められる。

イ ところで、引用例1の記載(【0006】、第2.3.(2)(2-1)b.参照。)より、引用発明は、「装置自体を小型化してもリーク電流を抑制すること」を解決課題とするものと認められる。
そして、引用例1の記載(【0056】、第2.3.(2)(2-1)e.参照。)より、引用発明は、「断面視において、前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間に、前記高濃度ウエル領域3bが形成されている」との構成により、上記の課題を解決したものと認められる。
すなわち、引用発明は、断面視における「ソース領域5」の端部と「低濃度ウエル領域3a」との間、言い換えれば、「ドリフト層2」の表面に平行な方向における「ソース領域5」の端部と「低濃度ウエル領域3a」との間に、「高濃度ウエル領域3b」を形成するとの構成により、上記の課題を解決したものということができる。
また、引用発明は、断面視において、二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で、言い換えれば、「ドリフト層2」の表面に垂直な方向において、二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で、「高濃度ウエル領域3b」が接している構成も備える。
そして、引用例1には、引用発明における、二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で、「高濃度ウエル領域3b」が接しているとの構成について、「高濃度ウエル領域3bの深さは、低濃度ウエル領域3aの深さを超えることが望ましい」(【0042】、第2.3.(2)(2-1)d.参照。)との記載はあるが、その理由は記載されておらず、当該構成において、「高濃度ウエル領域3b」の深さと「低濃度ウエル領域3a」の深さの関係を引用例1の上記記載のようにすることと、上記の課題の解決との間に因果関係があることは、引用例1の記載からは認められない。
そうすると、引用例1の記載より、引用発明において、「装置自体を小型化してもリーク電流を抑制する」との課題の解決のためには、「ドリフト層2」の表面に平行な方向における「ソース領域5」の端部と「低濃度ウエル領域3a」との間に、「高濃度ウエル領域3b」を形成するとの構成(補正発明における「前記第4半導体領域と前記第1部分との間に前記第1領域と前記第3半導体領域とが配置され」との構成に相当。)を備えていればよいと認められるから、当該構成を備えていれば、「ドリフト層2」の表面に垂直な方向において、二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で接している「高濃度ウエル領域3b」の深さと、上記「低濃度ウエル領域3a」の深さの関係を、引用例1の記載に限定されず変更することについて、これを妨げる阻害要因が存在するとは認められない。

ウ 引用発明において解決しようとする課題は、上記イのとおりであるが、引用例1における「次世代の高耐圧低損失スイッチング素子として、縦型高耐圧炭化珪素電界効果型トランジスタが期待されている。」(【0002】、第2.3.(2)(2-1)a.参照。)との記載にみられるように、縦型炭化珪素電界効果型トランジスタの発明である引用発明において、耐圧を向上するとの課題が存在することは自明であり、当該課題の解決を図ることは、当業者が当然に考慮するものといえる。
そして、上記アのとおり、縦型炭化珪素電界効果型トランジスタにおいて、ソース領域、及びコンタクト領域と下側で接するようにp型の高濃度ウエル領域を形成し、当該高濃度ウエル領域の下側にp型の低濃度ウエル領域を形成することで、耐圧の向上を図ることは、本願の出願日前、当該技術分野では周知の技術と認められ、また、上記イのとおり、引用発明において、二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で接している「高濃度ウエル領域3b」の深さと、「低濃度ウエル領域3a」の深さの関係を、引用例1の記載に限定されず変更することについて、これを妨げる阻害要因が存在するとは認められない。
そうすると、引用発明において、耐圧の向上のために、「高濃度ウエル領域3b」の下側にp型の低濃度ウエル領域を形成することは、上記周知技術に接した当業者が容易に想到し得るものと認められ、その際に、上記「高濃度ウエル領域3b」の下部も「低濃度ウエル領域3a」で覆うようにすることは、当業者が適宜なし得たものと認められる。
そして、その結果、引用発明の前記二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で接している「高濃度ウエル領域3b」の不純物濃度は、前記「高濃度ウエル領域3b」の下部を覆う「低濃度ウエル領域3a」の不純物濃度よりも高い(相違点1に係る構成)と認められる。
また、引用発明の前記二つの「ソース領域5」及び「ウエルコンタクト領域6」と下側で接している「高濃度ウエル領域3b」は、前記「高濃度ウエル領域3b」の下部を覆う「低濃度ウエル領域3a」の上に設けられる(相違点2に係る構成)と認められる。

エ 以上のとおりであるから、相違点1ないし2は、引用例2及び引用例3を参酌すれば、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
したがって、補正発明は、引用例1に記載された発明、及び、引用例2及び引用例3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(5)独立特許要件についてのまとめ
よって、補正発明は、引用例1に記載された発明、及び、引用例2及び引用例3に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.小括
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成26年12月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成26年6月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであり、その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、再掲すると次のとおりのものである。

「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分を有する第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」

2.引用例及び引用発明
引用例1ないし3の記載事項は、第2.3.(2)(2-1)、同(2-3)ア及び同(2-4)アで摘記したとおりである。
また、引用発明は、第2.3.(2)(2-2)で認定したとおりのものである。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明において、「ドリフト層2」が有する「第一の導電型を有するJFET領域2a」は、前記「ドリフト層2」の「上部に断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている」。そして、前記「低濃度ウエル領域3a」は「前記ドリフト層2の表面内にそれぞれイオン注入により形成される」から、結果として、前記「低濃度ウエル領域3a」は「ドリフト層2」の「上部」に「形成」されている。
そうすると、前記「ドリフト層2」は、「低濃度ウエル領域3aに隣接して形成」されている前記「JFET領域2a」と、前記「低濃度ウエル領域3a」の下部の領域を有すると認められる。
そして、引用発明の「ドリフト層2」における前記「JFET領域2a」の部分は、本願発明の「第1導電形の炭化珪素」を含む「第1半導体領域」の「第1部分」に相当する。
以上から、引用発明の「その上部に断面視において低濃度ウエル領域3aに隣接して形成されている第一の導電型を有するJFET領域2aを有し」ている「第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2」は、本願発明の「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分を有する第1半導体領域」に相当する。

イ 本願発明において、「前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」は、「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」と「前記第1部分と接する側の領域」とを併せた「半導体領域」であることが、請求項1には記載されている。
したがって、本願発明の「前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」とは、当該「第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」が「前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ」る領域を有していることを特定していると解される。

さて、引用発明の「それぞれ第二の導電型を有する前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」は、「炭化珪素から成るドリフト層2」の「表面内にそれぞれイオン注入により形成される」から、いずれの「領域」も、「炭化珪素」を含んでおり、かつ、前記「ドリフト層2」の上側に「形成」されている。
そして、このうち、前記「低濃度ウエル領域3a」は、前記「JFET領域2a」に「隣接」しているから、本願発明の「前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ」る領域に相当する。
以上から、引用発明の「前記ドリフト層2の表面内にそれぞれイオン注入により形成される、それぞれ第二の導電型を有する前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域は、本願発明の「前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域」に相当する。

ウ 引用発明の「第一の導電型を有するソース領域5」は、「イオン注入により形成される」から、「炭化珪素」を含むことは明らかである。
そして、前記「ソース領域5」は、「前記高濃度ウエル領域3bの上面内に、当該高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるように」形成されるから、「断面視において」、「前記高濃度ウエル領域3bの上」側であって、前記「JFET領域2a」に「隣接」する「前記低濃度ウエル領域3a」にさらに「隣接」する「前記高濃度ウエル領域3b」を介して形成されていると認められる。
したがって、引用発明の「所定の前記高濃度ウエル領域3bの上面内に、当該高濃度ウエル領域3bの内部に含まれるようにイオン注入により形成される、第一の導電型を有するソース領域5」は、本願発明の「前記第2半導体領域の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域」に相当する。

エ 引用発明の「第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」は、「イオン注入により形成される」から、「炭化珪素」を含むことは明らかである。
また、前記「ウエルコンタクト領域6」は、「前記高濃度ウエル領域3b内」に「形成される」から、「前記高濃度ウエル領域3b」の上側に「形成される」ものである。
したがって、引用発明の「前記高濃度ウエル領域3b内に、断面視において二つの前記ソース領域5の間にイオン注入により形成される、第二の導電型を有するウエルコンタクト領域6」は、本願発明の「前記第2半導体領域の別の一部の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域」に相当する。

オ 引用発明の「断面視において、前記JFET領域2aと、前記低濃度ウエル領域3aと、及び、前記ソース領域5の一部との上側に形成されるゲート絶縁膜8」は、本願発明の「前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜」に相当する。

カ 引用発明の「前記ゲート絶縁膜8上に所望の形状で形成されるゲート電極9」は、本願発明の「前記絶縁膜の上に設けられた制御電極」に相当する。

キ 引用発明において、「ソース電極11」は、「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物」からなるとともに、前記「炭化珪素」を含む「前記ウエルコンタクト領域6」及び「前記ソース領域5」の各「上面」に「形成」されているから、「前記ウエルコンタクト領域6」及び「前記ソース領域5」と電気的に導通していることは明らかである。
したがって、引用発明の「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記ウエルコンタクト領域6上面及び前記ソース領域5の一部の上面と接するように形成されるソース電極11」は、本願発明の「前記第3半導体領域と導通する第1電極」に相当する。

ク 引用発明において、「ドレイン電極10」は、「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物」からなるとともに、「第一の導電型を有する炭化珪素半導体基板1」の「第二の主面上」に「形成」されているから、前記「炭化珪素半導体基板1」と電気的に導通しており、その結果、「第一の導電型を有する炭化珪素から成るドリフト層2」とも電気的に導通していることは明らかである。
したがって、引用発明の「ニッケルやチタン、アルミニウムの珪化物からなり、前記炭化珪素半導体基板1の第二の主面上に形成されるドレイン電極10」は、本願発明の「前記第1半導体領域と導通する第2電極」に相当する。

ケ 前記ウ、エで指摘したように、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」は、「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含む。すなわち、引用発明の「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域は、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含んでいる。
この「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域における「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域は、本願発明の「前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域」に相当する。
また、引用発明の前記「低濃度ウエル領域3a」は、「JFET領域2a」に「隣接して形成されている」領域であるから、本願発明の「前記第1部分と接する側の領域」に相当する。
したがって、引用発明において、「前記低濃度ウエル領域3aと高濃度ウエル領域3b」を併せた領域のうちの、前記「前記低濃度ウエル領域3a」が「当該高濃度ウエル領域3bよりも不純物濃度が低い」ことは、本願発明において、「前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高」いことに相当する。

コ 引用発明の「高濃度ウエル領域3b」は、「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を含むとともに、前記「高濃度ウエル領域3b」は「断面視において、前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」にも「形成されている」。
したがって、前記「高濃度ウエル領域3b」は、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域を有する。
そして、引用発明においては、「低濃度ウエル領域3a」に「隣接」して「JFET領域2a」が形成されている。
よって、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」における、「前記ソース領域5の端部」と、「JFET領域2a」に「隣接」している「前記低濃度ウエル領域3a」との間に「形成されている」領域は、本願発明の「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域」が含む「第1領域」に相当するとともに、本願発明の「前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ」る「前記第1領域」に相当する。

サ 引用発明の「高濃度ウエル領域3b」は、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を有している。
そして、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域は、「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域とともに、前記「高濃度ウエル領域3b」をなす領域であるから、「第二の導電型」を有する。
そうすると、前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域によって、前記「前記ソース領域5の端部と前記低濃度ウエル領域3aとの間」に「形成されている」領域と、同様に「第二の導電型」を有する「ウエルコンタクト領域6」とが電気的に導通されることは明らかである。
よって、引用発明の「高濃度ウエル領域3b」が前記「二つの前記ソース領域5」と「ウエルコンタクト領域6」に下側で接する領域を有することは、本願発明の「前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域」は「第2領域と、を含」むことに相当するとともに、「前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる」ことに相当する。

シ 引用発明の「炭化珪素半導体装置」は、本願発明の「半導体装置」に相当する。

ス 以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「第1導電形の炭化珪素を含み、第1部分を有する第1半導体領域と、
前記第1半導体領域の上側であって前記第1部分と隣接して設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第2半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側であって前記第1部分と離間して設けられ、第1導電形の炭化珪素を含む第3半導体領域と、
前記第2半導体領域の上側に設けられ、第2導電形の炭化珪素を含む第4半導体領域と、
前記第1半導体領域、前記第2半導体領域及び前記第3半導体領域の上側に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜の上に設けられた制御電極と、
前記第3半導体領域と導通する第1電極と、
前記第1半導体領域と導通する第2電極と、
を備え、
前記第2半導体領域のうち前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の領域の不純物濃度は、前記第1部分と接する側の領域の不純物濃度よりも高く、
前記第3半導体領域及び前記第4半導体領域と接する側の前記領域は、第1領域と、第2領域と、を含み、
前記第1領域は、前記第2半導体領域のうちの前記第1部分に隣接する部分と、前記第3半導体領域と、の間に設けられ、
前記第2領域は、前記第1領域と前記第4半導体領域との間に設けられ前記第1領域と前記第4半導体領域とを電気的に導通させる半導体装置。」
である点で一致し、相違点がない。

4.判断
ア 以上のとおり、本願発明と引用発明とは相違点がないから、本願発明は引用例1に記載された発明である。

イ また、仮に相違するところがあるとしても、平成26年9月19日付けの拒絶査定において指摘したように、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。


第4.結言
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮にそうでないとしても、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-05 
結審通知日 2015-11-06 
審決日 2015-11-17 
出願番号 特願2012-43648(P2012-43648)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 須原 宏光  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 綿引 隆
鈴木 匡明
発明の名称 半導体装置  
代理人 日向寺 雅彦  

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