• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B02C
管理番号 1309905
審判番号 不服2015-6293  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-03 
確定日 2016-01-15 
事件の表示 特願2010- 55344「粉末製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月29日出願公開、特開2011-189226〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年3月12日の出願であって、平成26年2月7日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年4月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年12月24日付けで拒絶査定がされ、平成27年4月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年4月11日に提出された補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
(1)少なくとも1個の合成樹脂製ポットと、前記ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、前記ポットの内径が前記ボールの直径の2.5?4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、
(2)前記ポットに、原料として表面が丸味を帯びた粒状の硬い穀類の実または豆類またはその両方を前記ボールとともに封入し、
(3)前記ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ前記自転運動の回転速度が前記公転運動の回転速度の3.5?4.5倍になるように遊星運動させ、それによって、前記原料を粗粉砕して、前記原料の粉末を製造することを特徴とする粉末製造法。」

3.引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開第2006/106964号(以下、「引用文献1」という。)には、「粉茶の製造方法および粉茶製造用ボールミル装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「[0001] 本発明は、ボールミル装置を使用して粉茶を製造する方法および粉茶製造用ボールミル装置に関するものである。」(段落[0001])

(イ)「[0005] したがって、本発明の課題は、ボールミル装置を使用して、石臼を使用した場合と同様の品質を有する粉茶を製造することができ、食品衛生上の問題もクリアし得る粉茶の製造方法を提供することにある。
また、本発明の課題は、上記粉茶の製造方法を使用するのに適したボールミル装置を提供することにある。 」(段落[0005])

(ウ)「[0016] 以下、本発明の好ましい実施例について添付図面を参照して説明する。本発明の好ましい実施例による粉茶の製造方法によれば、まず最初、合成樹脂製のポットと合成樹脂製のボールを備え、かつ、ポットを公転および自転運動させることが可能なボールミル装置が準備される。
図1は、このボールミル装置の回転テーブル上にポットがセットされた状態を示す斜視図である。なお、図1においては、ボールミル装置の操作パネル部、および運転中に回転するポットを保護する保護カバー等は省略してある。
[0017] 本発明による方法に使用されるボールミル装置は、ポットおよびボールを除き、公知のボールミル装置と同じ構成を有している。したがって、以下では、ボールミル装置のポットおよびボール以外の構成要素に関する詳細な説明は省略する。
図1を参照して、ボールミル装置は、円盤状の回転テーブル1と、回転テーブル1上に配置されたポット回転台2を備えている。回転テーブル1は、その中心軸のまわりに回転駆動され、ポット回転台2は、それぞれ、その中心軸のまわりに、回転テーブル1に対して回転駆動されるようになっている。ポット回転台2には、内部にボールおよび粉茶の原料が封入されたポット3が、起立状態で強固に固定され、回転テーブル1の回転駆動によって公転運動せしめられ、また、ポット回転台2の回転駆動によって自転運動せしめられるようになっている。」(段落[0016]及び[0017])

(エ)「[0019] ポット3およびボール8は、合成樹脂から形成されている。合成樹脂は、人体に対する毒性がなく、耐摩耗性に優れたものであればいずれも使用可能であるが、特に、ポリアセタール、テフロン(登録商標)、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリメチルペンテン、ポリエーテルスルホンおよびポリエチレンテレフタレートからなるグループより選ばれたポリマーであることが好ましく、あるいは、これらのポリマーを配合したものよりなる混合物であってもよいし、あるいは、これらのポリマーの構成モノマーからなるコポリマーであってもよい。
なお、同一種類の合成樹脂から形成されたポット3およびボール8を常に組み合わせて使用する必要はなく、異なる種類の合成樹脂から形成されたポット3およびボール8を組み合わせて使用してもよい。
ポット3は、内壁面が合成樹脂製であればよく、変形防止等のために、内壁面を形成する合成樹脂層の外側に、ステンレスや鉄等の金属からなる外皮を有するポットとしてもよい。 」(段落[0019])

(オ)「[0021] 図3は、ポット内にボールが収容された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。図3を参照して、ポット3の内側空洞部6の周壁面4aから底壁面4bへの移行部分4cの曲率半径rは、ボール8の曲率半径と等しいかまたはそれよりも大きくなっている。
さらに、ポット3の内側空洞部6の径sは、ボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有し、かつ、ポット3には4?8個の同一のボール8が収容されるようになっている。
[0022] 本発明による粉茶の製造方法によれば、粉茶の原料およびボール8が封入されたポット3をボールミル装置に装着し、ポット3を公転および自転運動させる。」(段落[0021]及び[0022])

(カ)「[0024] 次に、ポットおよびボールを実際に作成し、所望の結果が得られるか実証実験を行った。実証実験の内容は次のとおりである。
ボールミル装置のポットとして、次の2種類のものを作成した。
(a)ポットNo.1:内径s=40mm、深さd=40mmのポリアセタール製ポット
(b)ポットNo.2:内径s=40mm、深さd=40mmのステンレス製ポット
また、ボールとしては、次の3種類のものを作成した。
(c)ボールNo.1:鉄球入りナイロン被覆ボール(比重約3.2、直径R=15mm、個数6個)
(d)ボールNo.2:ナイロン製ボール(比重約1.1、直径R=15.89mm、個数6個)
(e)ボールNo.3:ステンレス製ボール(比重約7.9、直径R=15mm、個数6個)
[0025] [実施例1]
ポットNo.1とボールNo.1の組合わせを使用し、粉茶の原料として点茶5gを用い、公転600rpmおよび自転600rpmの回転数で、かつ公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、10分間、ボールミル装置を作動させ、粉茶を製造した。得られた粉茶の光学顕微鏡写真を図7に示した。
[実施例2]
ポットNo.1とボールNo.2の組合わせを使用し、実施例1と同じ点茶を同量用い、公転600rpmおよび自転600rpmの回転数で、かつ公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、20分間、ボールミル装置を作動させ、粉茶を製造した。得られた粉茶の光学顕微鏡写真を図8に示した。
[比較例1]
ポットNo.2とボールNo.3の組合わせを使用し、実施例1と同じ点茶を同量用い、公転600rpmおよび自転600rpmの回転数で、かつ公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、10分間、ボールミル装置を作動させ、粉茶を製造した。得られた粉茶の光学顕微鏡写真を図9に示した。
[比較例2]
石臼を使用し、実施例1と同じ点茶を用いて抹茶を製造した。得られた抹茶の光学顕微鏡写真を図10に示した。
[0026] 実施例1、2の結果と比較例1、2の結果を比較検討した。
実施例1では、葉脈が確実に切断され、点茶が均一に微粉末化され、比較例2で得られた抹茶とほぼ同程度の大きさに粉砕された。得られた粉茶は、手触りもほぼ比較例2で得られた抹茶と同様であった。
実施例2では、実施例1の場合と同様、点茶は均一に微粉末化され、比較例2で得られた抹茶より小さい粒径のものが得られた。
比較例1では、大きな粒径のものが見られ、また、葉脈が押しつぶされたようになっていて、細かく切断されていない。手触りは、比較例2で得られた抹茶より幾分ざらつき感があった。味は幾分渋みがあった。」(段落[0024]ないし[0026])

(キ)「[0030] この実施例では、粉砕過程の初期段階であって、粉砕が進まないうちは、遊星運動するポット3内でボール8が運動するとき、茶葉による粘性が大きいために、ボール8の運動は無秩序となり、ボール8間の衝突、ボール8とポット3内壁の間の衝突が頻繁に生じ(図5(A)参照)、それに起因する衝突音が発生する。そして、この衝突の際に、茶葉がボール8間、およびボール8とポット3内壁の間に入り込み、粉砕される。
[0031] ボール8間、およびボール8とポット3内壁の間の衝突に伴い、茶葉が粉砕されてある程度細かくなると、茶葉による粘性が低下して、ボール8の運動に無秩序さを与える力が弱くなり、ボール8の全体が整然とした運動を開始し、上述のような衝突は生じなくなり(図5(B)参照)、衝突音は消失する。そして、その後、茶葉は、主として、ボール8の集合体とポット3内壁の相対運動による剪断的な力によって粉砕され、微粉化される。
[0032] ボールミル装置の作動開始後、衝突音が消失するまでの時間は、ポット3の公転速度、自転速度、原料茶葉の種類、製造される粉茶の量や粒径に依存する。公転速度、自転速度、原料茶葉の種類、および製造される粉茶の量がすべて同じであれば、粉の粘度が大きくなると長くなり、また、公転速度、自転速度、および原料茶葉の種類が同じであれば、製造される粉茶の量が多くなると長くなる。
[0033] 結果的には、衝突音が発生している間の粉砕過程は粗粉砕過程であり、衝突音が消失した後の粉砕過程はより微細な粒径への粉砕過程である。粉茶をより微粉化するためには、衝突音が消失した後の粉砕過程を継続するとよい。」( 段落[0030]ないし[0033])

(ク)「[0036] この実施例においても、ポットおよびボールを実際に作成し、所望の結果が得られるか実証実験を行った。実証実験の内容は次のとおりである。
(f)ポットNo.3:内径s=110mm、深さd=65mm、周壁面から底壁面および上壁面への移行部分の曲率半径r=20mmのポリアセタール製ポット。
また、ボールとして、次のものを作成した。
(g)ボールNo.4:;ポリアセタール製ボール(比重約1.45、直径R=35mm、個数5個)
[0037] [実施例3]
ポットNo.3とボールNo.4の組合わせを使用し、粉茶の原料として、点茶、玉露、煎茶、茎茶、ほうじ茶を各50gを用い、公転300?320rpmおよび自転600?640rpmの回転数で、かつ公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、20?60分間、ボールミル装置を作動させ、粉茶を製造した。
得られた粉茶の粒度分布を測定したところ、この実証実験の場合にも、図1?図3の実施例と同様の粒度分布であることが確かめられた。
[0038] [実施例4]
さらに、異なる直径のポリアセタール製ボールを5個ずつ用意し、ポットNo.3を用いて、粉茶の原料として茎茶および点茶50gを用い、実施例3と同様に、公転300?320rpmおよび自転600?640rpmの回転数で、かつ公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、ボールミル装置を作動させ、ボールの衝突音が消失するまでの時間を測定した。
測定結果を図6のグラフに示した。図6のグラフにおいて、縦軸は、ボールミル装置の動作開始後、衝突音が消失するまでの時間(分)を、横軸は、ボールの直径(mm)をそれぞれ表している。図6からわかるように、ポットの内径が110mmのとき、ボールの直径が36.7mmであれば、消音時間は約20分と、他の直径のボールと比べて半分程度になる。このことから、粉茶の粉砕過程には、ポットの内径とボールの直径との比率が大きく影響することがわかる。」(段落[0036]ないし[0038])

(ケ)「[0039] 以上、本発明の好ましい実施例について説明してきたが、本発明による方法は、お茶(茎茶、あら茶、煎茶、玉露、点茶)の微粉末化に使用することができるだけでなく、生薬(漢方薬)やキトサンの微粉末化、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)の微粉末化、真珠の微粉末化、薬品の微粉末化にも使用することができる。
[0040] 図11および図12には、本発明による方法を、キトサンの微粉末化に使用して得られた結果を説明した光学顕微鏡写真を示した。図11は、粉砕される前のキトサンの光学顕微鏡写真であり、図12は、本発明による方法によって粉砕されたキトサンの光学顕微鏡写真である。図12と図11との比較から明らかなように、キトサンは、従来、強繊維質であり、微粉砕することは困難であったにもかかわらず、本発明による方法によれば、お茶の場合と同様、極めて容易に、均一に微粉末化することができる。」(段落[0039]及び[0040])

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(ケ)並びに図1ないし5の記載から、以下の事項が分かる。

(サ)上記(1)(ア)及び(ケ)の記載から、引用文献1には、お茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品の微粉末を製造する方法が記載されていることが分かる。

(シ)上記(1)(ウ)ないし(ク)並びに図1ないし4の記載から、引用文献1に記載された微粉末を製造する方法は、合成樹脂製のポット3と、ポット3内に封入される4ないし8個の合成樹脂製のボール8とを備え、ポット3の内側空洞部6の径sがボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有し、ポット3を公転及び自転運動させるボールミル装置を準備する工程を含むものであることが分かる。

(ス)上記(1)(イ)ないし(ケ)の記載から、引用文献1に記載された微粉末を製造する方法は、ポット3に、原料としてお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品をボール8とともに封入する工程を含むものであることが分かる。

(セ)上記(1)(オ)ないし(ク)の記載から、引用文献1に記載された微粉末を製造する方法は、ポット3を、公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、公転600rpmおよび自転600rpm、又は公転300ないし320rpmおよび自転600ないし640rpmの回転数でボールミル装置を作動させ、原料を粉砕して、原料の微粉末を製造する工程を含むものであることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし5の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「合成樹脂製のポット3と、ポット3内に封入される4ないし8個の合成樹脂製のボール8とを備え、ポット3の内側空洞部6の径sがボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有し、ポット3を公転及び自転運動させるボールミル装置を準備する工程と、
ポット3に、原料としてお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品をボール8とともに封入する工程と、
ポット3を、公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、公転600rpmおよび自転600rpm、又は公転300ないし320rpmおよび自転600ないし640rpmの回転数でボールミル装置を作動させ、原料を粉砕して、原料の微粉末を製造する工程を含む
お茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品の微粉末を製造する方法。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ポット3」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「ポット」に相当するから、引用発明における「合成樹脂製のポット3」は、本願発明における「少なくとも1個の合成樹脂製ポット」に相当し、同様に「ボール8」は「ボール」に相当するから、引用発明における「4ないし8個の合成樹脂製のボール8」は、本願発明における「複数個の合成樹脂製ボール」に相当する。
そして、引用発明における「ポット3の内側空洞部6の径s」及び「ボール8の直径R」は、その構成からみて、それぞれ本願発明における「ポットの内径」及び「ボールの直径」に相当するから、「ポットの内径が前記ボールの直径の2.6?4倍の大きさを有する」という限りにおいて、引用発明において「ポット3の内側空洞部6の径sがボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有」することは、本願発明において「ポットの内径がボールの直径の2.5?4倍の大きさを有する」ことに相当する。
また、引用発明における「ポット3を公転及び自転運動させるボールミル装置」は、その構成又は技術的意義からみて、本願発明における「遊星ボールミル装置」に相当する。
さらに、「ポットに、原料をボールとともに封入する」という限りにおいて、引用発明において「ポット3に、原料としてお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品をボール8とともに封入する」ことは、本願発明において「ポットに、原料として表面が丸味を帯びた粒状の硬い穀類の実または豆類またはその両方をボールとともに封入」することに相当する。
そして、引用発明における「公転」及び「自転」は、それぞれその技術的意義からみて、本願発明における「公転運動」及び「自転運動」に相当し、引用発明において「ポット3」を「公転」及び「自転」させることは、やはりその技術的意義からみて、本願発明において「遊星運動させ」ることに相当する。したがって、「ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の所定の倍率になるように遊星運動させ」るという限りにおいて、引用発明において「ポット3を、公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、公転600rpmおよび自転600rpm、又は公転300ないし320rpmおよび自転600ないし640rpmの回転数でボールミル装置を作動させ」ることは、本願発明において「ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の3.5?4.5倍になるように遊星運動させ」ることに相当する。
また、「粗粉砕」することは「粉砕」することの下位概念にあり、また、「微粉末」は「粉末」の下位概念といえるから、「原料を粉砕して、原料の粉末を製造する粉末製造法」という限りにおいて、引用発明における「原料を粉砕して、原料の微粉末を製造する工程を含むお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品の微粉末を製造する方法」は、本願発明における「原料を粗粉砕して、原料の粉末を製造する粉末製造法」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「(1)少なくとも1個の合成樹脂製ポットと、ポット内に封入される複数個の合成樹脂製ボールとを備え、ポットの内径がボールの直径の2.6?4倍の大きさを有する遊星ボールミル装置を準備し、
(2)ポットに、原料をボールとともに封入し、
(3)ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の所定の倍率になるように遊星運動させ、それによって、原料を粉砕して、原料の粉末を製造する粉末製造法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)「ポットの内径が前記ボールの直径の2.6?4倍の大きさを有する」ことに関し、本願発明においては「ポットの内径がボールの直径の2.5?4倍の大きさを有するのに対し、引用発明においては「ポット3の内側空洞部6の径sがボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有」する点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「ポットに、原料をボールとともに封入する」ことに関し、本願発明においては「ポットに、原料として表面が丸味を帯びた粒状の硬い穀類の実または豆類またはその両方をボールとともに封入」するのに対し、引用発明においては「ポット3に、原料としてお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品をボール8とともに封入する」点(以下、「相違点2」という。)。
(c)「ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の所定の倍率になるように遊星運動させ」ることに関し、本願発明においては「ポットを、公転運動および自転運動の向きが逆になり、かつ自転運動の回転速度が公転運動の回転速度の3.5?4.5倍になるように遊星運動させ」るのに対し、引用発明においては「ポット3を、公転および自転の回転方向を互いに逆向きにして、公転600rpmおよび自転600rpm、又は公転300ないし320rpmおよび自転600ないし640rpmの回転数でボールミル装置を作動させ」る点(以下、「相違点3」という。)。
(d)「原料を粉砕して、原料の粉末を製造する粉末製造法」に関し、本願発明においては「原料を粗粉砕して、原料の粉末を製造する粉末製造法」であるのに対し、引用発明においては「原料を粉砕して、原料の微粉末を製造する工程を含むお茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品の微粉末を製造する方法」である点(以下、「相違点4」という。)。

5.判断
まず、相違点1について検討する。
引用発明において「ポット3の内側空洞部6の径s」の範囲は、「ボール8の直径Rの2.6?4倍の大きさを有」するものであり、これに隣接する2.5以上2.6倍未満の範囲は含まれていない。しかし、引用文献1には、同範囲を積極的に排除する旨の記載はない。これに対し、本願の明細書には、ボールの直径に対するポットの内径の範囲の下限を2.5倍とすることについての臨界的意義は示されておらず、ボールの直径に対するポットの内径の範囲として2.5以上2.6未満倍の範囲において格別の作用を奏する旨の記載もない。
そして、引用発明において、ボール8の直径とポット3の内側空洞部6の径sの比率は、例えば、ボールミル装置を作動させたときに公転及び自転によって生じる遠心力の大きさを決めるファクターとなるボール8の質量、公転及び自転の半径並びに公転及び自転の各回転速度を考慮して、当業者が適宜設定し得る程度のものであり、その比率を実験等により、最適化或いは好適化することは当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎないものである。
したがって、引用発明において、「ポット3の内側空洞部6の径s」の範囲が、「ボール8の直径Rの2.5?4倍の大きさを有」するとして、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について検討する。
米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、並びにコーヒー豆等の豆類を乾式粉砕することは、従来から広く行われてきた事項である。
そして、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平10-34000号公報(以下、「引用文献2」という。)の段落【0001】及び【0008】等には、「穀類等の粉粒体を粉砕するために遊星ミルを用いること。」(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されており、該引用文献2の記載事項における「穀類等の粉粒体」が、本願発明における「表面が丸味を帯びた粒状の硬い穀類の実」に相当することは、明らかである。
したがって、お茶、生薬(漢方薬)、キトサン、乾燥食品(鰹節、昆布、キノコ、乾燥アワビ等)、真珠、薬品を原料とし、原料を粉砕して微粉末の製造する方法に係る引用発明を、引用文献2記載事項を参酌して、米、麦の実、蕎麦の実、トウモロコシの実、大豆および小豆等の穀類の実、並びにコーヒー豆等の豆類の粉砕に適用することによって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、相違点3について検討する。
引用発明は、ボールミル装置によりポット3を公転および自転させるにあたり、公転600rpmおよび自転600rpm、すなわち自転と公転の回転数の比を1倍とすること、及び公転300ないし320rpmおよび自転600ないし640rpm、すなわち自転と公転の回転数の比を2倍とすることを、選択的に用いたものであるといえる。
また、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平8-24692号公報(以下、「引用文献3」という。)の段落【0012】には、遊星ミルにおいて、自転回転数と公転回転数を独自に調節すること。」(以下、「引用文献3の記載事項」という。)が記載されている。
そして、引用発明において、ボールミル装置のポット3の自転と公転の回転数の比を1倍及び2倍に設定していることにもみられるように、該回転数の比を実験等により最適化或いは好適化することは当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎないものである。
さらに、本願発明における自転運動の回転速度と公転運動の回転速度の比の範囲である「3.5?4.5」という範囲は、遊星ボールミル装置の自転運動の回転速度と公転運動の回転速度の比として、何ら格別な値ではなく、破砕の対象となる原料に応じた遊星ボールミル装置の運転条件を検討するにあたり、何らの阻害事由もなく、実験することができる範囲である。
したがって、引用発明において、自転及び公転の回転速度の比を3.5?4.5倍とすることにより、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化として、当業者が容易に想到し得たことである。

最後に、相違点4について検討する。
引用文献1の段落[0033]には、「結果的には、衝突音が発生している間の粉砕過程は粗粉砕過程であり、衝突音が消失した後の粉砕過程はより微細な粒径への粉砕過程である。粉茶をより微粉化するためには、衝突音が消失した後の粉砕過程を継続するとよい。」(3.1(1)(キ)参照。)と記載されている。引用文献1には、「粗粉砕」が、その結果得られる粉末の平均粒径についての定義が記載されていないが、その原料の大きさと、最終的な結果として微粉末となることから考えて、途中段階に本願発明における「粗粉砕」の状態及び過程があることは自明である。
したがって、引用発明において、衝突音が消失する前の適当な時期に粉砕を終了させることによって、原料を粗粉砕して、原料の粉末を製造することができることは明らかである。したがって、引用発明において、粉砕時間を適宜設定することによって、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに引用文献2及び3の記載事項から予測できる作用効果以上の格別な作用効果を奏するものではない。

6.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用文献2及び3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
上記6.のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-12 
結審通知日 2015-11-18 
審決日 2015-12-01 
出願番号 特願2010-55344(P2010-55344)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 和幸大塚 多佳子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
中村 達之
発明の名称 粉末製造法  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ