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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F15B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F15B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F15B
管理番号 1309959
審判番号 不服2014-19573  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-30 
確定日 2016-01-12 
事件の表示 特願2010- 35168「アクチュエーター」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開,特開2011-169425〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件審判に係る出願(以下,「本願」と言う。)は,平成22年2月19日の特許出願であって,平成25年12月3日付けの拒絶理由通知に対して,平成26年2月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,当該拒絶の理由を覆すに足りる根拠が見いだせないとして平成26年6月30日付けで拒絶査定がされ(これの送達日は平成26年7月2日),これに対して,平成26年9月30日に本件審判が請求されるとともに同日付けの手続補正書が提出された。
当審において,平成27年8月24日付けで,平成26年9月30日付けの手続補正書による補正の却下の決定をするとともに最後の拒絶理由を通知したところ,これに対して平成27年10月16日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2.平成27年10月16日付けの手続補正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年10月16日付けの手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1.特許請求の範囲の記載は,平成27年10月16日付けの手続補正書による補正(以下,「本件補正」と言う。)により,次のように補正された。
(1)本件補正前
「 【請求項1】
流体の流入量の変動により動作する可動部と,
前記可動部に前記流体を供給するシリンダと,
前記シリンダ内の前記流体に圧力を印加するピストンと,
前記ピストンを動作させるモーターと,
を備え,
前記可動部は,
前記流体が流入する流入部と,先端部と,前記流体の流入量の変動に応じて膨張または収縮する側面部と,を有し,
前記先端部が,前記流体が流入する方向に沿って,前記流体の流入量に応じて変位することを特徴とする,
アクチュエーター。
【請求項2】
前記可動部に加えられた力により前記流体に圧力が印加されたときに前記流体の一部を取り込み可能に構成された安全装置をさらに備える,
請求項1に記載のアクチュエーター。
【請求項3】
前記安全装置は,前記可動部と前記シリンダとの間に設けられており,かつ膨張可能に構成されている,
請求項2に記載のアクチュエーター。
【請求項4】
前記流体に印加されている圧力を測定する圧力センサーと,
前記圧力センサーで測定された圧力に基づいて前記モーターで発生させる回転力を制御するモーター制御部と,をさらに備える,
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアクチュエーター。」
(平成26年2月3日付けの手続補正書参照。)
(2)本件補正後
「【請求項1】
流体の流入量の変動により動作する可動部と,
前記可動部に前記流体を供給するシリンダと,
前記シリンダ内の前記流体に圧力を印加するピストンと,
前記ピストンを動作させるモーターと,
を備え,
前記可動部と前記シリンダとの間にはさらに前記流体を保持する流体管を備え,
前記流体管は,当該流体管に接して設けられた安全装置を外側に備え,
前記可動部は,
前記流体が流入する流入部と,先端部と,前記流体の流入量の変動に応じて膨張または収縮する側面部と,を有し,
前記先端部が,前記流体が流入する方向に沿って,前記流体の流入量に応じて変位し,
前記可動部は,第1の可動部と,前記第1の可動部が膨張する際に収縮し前記第1の可動部が収縮する際に膨張する第2の可動部と,を含み,
前記シリンダは,前記第1の可動部に対して前記流体を供給する第1のシリンダと,前記第2の可動部に対して前記流体を供給する第2のシリンダと,を含み,
前記流体管は,前記第1の可動部と前記第1のシリンダとの間に設けられた第1の流体管と,前記第2の可動部と前記第2のシリンダとの間に設けられた第2の流体管と,を含み,
前記ピストンは,前記第1のシリンダ内において前記流体に接する面と,前記第2のシリンダ内において前記流体に接する面と,を有し,
前記安全装置は,前記第1の流体管に設けられた第1の安全装置と,前記第2の流体管に設けられた第2の安全装置と,を含み,
前記安全装置は,前記流体に対する圧力が一定以上になる場合に前記流体の一部が内部に取り込まれて膨張すること,
を特徴とするアクチュエーター。
【請求項2】
前記流体に印加されている圧力を測定する圧力センサーと,
前記圧力センサーで測定された圧力に基づいて前記モーターで発生させる回転力を制御するモーター制御部と,をさらに備える,
請求項1に記載のアクチュエーター。」
(下線部は,当審が請求項1についての補正による変更個所を示すために付したもの。)
2.目的要件について
(1)請求人は,本件補正につき,次のように説明する(平成27年10月16日付け意見書)。
「上記手続補正書は,以下のような根拠で改められました。
補正後の請求項1は,補正前の請求項2および請求項3,出願当初の明細書段落0034?0036,0042,0043,0045?0048,および図5の記載等に基づき改められました。
補正前の請求項2および3が削除されました。
補正前の請求項4が請求項2に繰り上がり,引用する請求項番号が改められました。
明細書が,上記特許請求の範囲の補正事項に整合するように,段落0007-0008が変更され,段落0009-0011,0014,および0015が削除されました。
上記手続補正書による補正はあくまでも特許請求の範囲の限定的な減縮を目的とするものであり,かつ,いずれも当初明細書および図面に記載された事項の範囲内でされたものでありますので,適法なものです。」
(2)この請求人の説明を踏まえれば,本件補正後の請求項1の記載は,本件補正前の請求項3の記載を前提として,流体管を備えること,可動部,シリンダ,流体管,安全装置がそれぞれ2つあること等を特定したものと考えることができる。
本件補正前の各請求項の記載においては,可動部,シリンダ,ピストン,安全装置の数につき何ら限定がないので,それらが2つずつあるものが含まれると言う解釈をすることが可能であり,また,流体管が備えられることもいわば当業者にとって自明の技術的事項と言うことができることから,本件補正のうちの可動部,シリンダ,流体管,安全装置がそれぞれ2つあることを特定する点については,特許請求の範囲を限定的に減縮するものと評価することができる。
しかし,本件補正は,請求項1の記載において,可動部についてそれが2つあることのみならず,「第1の可動部と,前記第1の可動部が膨張する際に収縮し前記第1の可動部が収縮する際に膨張する第2の可動部と,を含み,」という両者の関連構成に関して特定することをも含むものである。この特定は,特許請求の範囲を限定的に減縮するものには当たらない。
(3)また,請求項1についての補正事項は,誤記の訂正にも,明りょうでない記載の釈明にも当たらないことは,明らかである。
(4)したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するから,特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本件補正について,その目的の観点から,上記のように判断するものであるが,請求人の主張に沿って本件補正が,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると扱うとした場合に,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,次に検討する。
(1)引用例
ア.当審より通知した最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」と言う。)において,引用例2として示した,本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2005-524802号公報(以下,「引用例2」と言う。)には,図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0045】
図5に示す本発明の第3の実施例において,各フレキシブルな壁60,62は,単一方向性のフレキシブルな壁として構成され,中央ベース68の対向する側に接続され,かつそれぞれは端部ハウジング74,76にさらに接続されている。これにより中央ベース68の対向する側に配置された2つの拡張可能な流体収納セル64,66を形成する。この2つの拡張可能な流体収納セルは,流体通路70を含む導管と流通状態にあり,この流体通路70が,拡張可能な流体収納セル64と流体移送チューブ16とポンプ14と流体通路72に接続され,この流体通路72が拡張可能な流体収納セル66に接続される。ベースは更にベース結合要素78を含む。ベースはベース結合要素として構成することもできる。端部ハウジング74は結合要素80を含み,同様に端部ハウジング76は結合要素82を含む。同図に示すように,流体が拡張可能な流体収納セル64内にポンプで駆動されると,フレキシブルな壁60が移動して拡張可能な流体収納セル64を拡張させ,端部ハウジング74とそれに伴う結合要素80を,中央ベース68と結合要素78から離れる方向に移動させる。同時に,フレキシブルな壁62が移動して,拡張可能な流体収納セル66が収縮し,これにより端部ハウジング76と結合要素82が中央ベース68と結合要素78の方向に移動する。
【0046】
図6は図5の逆動作を示す。即ち流体は拡張可能な流体収納セル64からポンプで排出駆動され,フレキシブルな壁60が移動することにより,拡張可能な流体収納セル64を収縮させ,端部ハウジング74とそれに伴う結合要素80を中央ベース68と結合要素78の方向に移動させる。同時に流体が拡張可能な流体収納セル66内にポンプで駆動されると,フレキシブルな壁62が移動するにつれて,拡張可能な流体収納セル66が拡張し,端部ハウジング76と結合要素82は,中央ベース68と結合要素78から離れる方向に移動する。2つの拡張可能な流体収納セルがそれぞれ拡張と収縮を行なうことにより,2つのエンドハウジングとそれに伴う2つの結合要素は,中央ベース68と結合要素78に対し,同一方向に,それらの間の距離を一定に維持しながら,移動する。この中央ベースに対する相対的な移動は,例えば(これに限定される訳ではないが),固定した中央ベースと移動可能な結合要素80,82,あるいは固定した結合要素80,82と移動可能な中央ベースで利用できる。この拡張可能な流体収納セルの配置は,図に示すように,ベースの対向する側に限定する必要はない。他の実施例としては,限定的列挙ではなく,互いに直交する側にセルを配置すること,あるいはベースの同一側にセルを配置することも含まれる。」
(イ)「【0042】
図3は,本発明の教示により構成され動作する液圧アクチュエータの第2実施例を表わす。この実施例においては,拡張可能な流体収納内側セル30は,シリンダ32とピストン34との組立て体として構成されている。拡張可能な流体収納外側セル38は,シリンダとピストンの組立て体を取り巻き(包囲し),シリンダ42とピストン44とフレキシブルな壁40により構成されている。ピストンは,拡張可能な流体収納内側セル30を流体移送チューブ16に接続する流体通路38を有し,次に流体移送チューブ16がポンプ14を通過して通路46に接続され,この通路46がシリンダハウジングを介して拡張可能な流体収納外側セル38内に入る。この構成により導管が構成され,これによりポンプ14は,拡張可能な流体収納内側セル30と拡張可能な流体収納外側セル36の間で必要に応じて流体を双(二)方向に移送する。同図に示すように,流体は,拡張可能な流体収納外側セルから拡張可能な流体収納内側セルにポンプで駆動され,これによりシリンダとピストンの組み立て体は軸方向に拡張し,拡張可能な流体収納外側セルは収縮し,これによりアクチュエータが軸方向に拡張する。アクチュエータの両端にある非限定的な例示としての結合要素48は、アクチュエータをアプリケーションデバイスに取り付けるものであるが,アクチュエータの拡張に伴って互いに離れる方向に移動する。
【0043】
図4は,図3の第2実施例が収縮した状態を示す。同図に示すように,流体は拡張可能な流体収納内側セル30から,通路38と流体移送チューブと通路46を介して,拡張可能な流体収納外側36内にポンプで駆動される。拡張可能な流体収納内側セル30から拡張可能な流体収納外側36へのこの流体の移送により,拡張可能な流体収納外部セルの拡張と,シリンダとピストン組立て体の収縮とを同時に発生させ,これによりアクチュエータの軸方向の収縮引き起こし,結合要素は互いに近づく方向に移動させる。」
(ウ)「【0022】
本発明のさらなる教示によると,前記流体は,非圧縮性流体である。」
イ.引用例2は,2つの流体収納セルを備えた流体圧アクチュエータを開示するものである。
図5,6の記載内容も併せると,流体収納セル64,66は,流体が流入する流入部と,先端部と,当該流体の流入量の変動に応じて膨張または収縮する側面部とを有し,当該先端部が,当該流体が流入する方向に沿って,当該流体の流入量に応じて変位するものと把握することができる。
また,流体収納セル64,66は,一方が膨張する際に他方が収縮するものであって,それらの先端部は,流体が流入する方向に沿って,流体の流入量に応じて変位するものと理解することができる。
さらに,流体移送チューブ16は,一方の流体収納セルとポンプ14との間に設けられたものと,他方の流体収納セルとポンプ14との間に設けられたものとを含むものである。
ウ.これらを踏まえ,本願補正発明の表現にならって整理すると,引用例2には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「第2引用発明」と言う。)。
「流体の流入量の変動により動作する流体収納セルと,
前記流体収納セルに前記流体を供給するポンプと,
を備え,
前記流体収納セルと前記ポンプとの間にはさらに前記流体を保持する流体移送チューブを備え,
前記流体収納セルは,
前記流体が流入する流入部と,先端部と,前記流体の流入量の変動に応じて膨張または収縮する側面部と,を有し,
前記先端部が,前記流体が流入する方向に沿って,前記流体の流入量に応じて変位し,
前記流体収納セルは,第1の流体収納セルと,前記第1の流体収納セルが膨張する際に収縮し前記第1の流体収納セルが収縮する際に膨張する第2の流体収納セルと,を含み,
前記流体移送チューブは,前記第1の流体収納セルと前記ポンプとの間に設けられた第1の流体移送チューブと,前記第2の流体収納セルと前記ポンプとの間に設けられた第2の流体移送チューブと,を含む,
流体圧アクチュエータ。」
(2)対比・判断
ア.本願補正発明と第2引用発明とを対比する。
・第2引用発明の「流体収納セル」,「流体移送チューブ」,「流体圧アクチュエータ」は,それぞれ,本願補正発明の「可動部」,「流体管」,「アクチェーター」に相当する。
・第2引用発明の「ポンプ」と,本願補正発明の「シリンダ」及び「ピストン」を組み合わせたものとは,「可動部(流体収納セル)に流体を供給する手段」である点で,共通する。
イ.そうすると,本願補正発明と第2引用発明の一致点,相違点は,次のとおりである。
《一致点》
「流体の流入量の変動により動作する可動部と,
前記可動部に前記流体を供給する手段と,
を備え,
前記可動部と前記可動部に前記流体を供給する手段との間にはさらに前記流体を保持する流体管を備え,
前記可動部は,
前記流体が流入する流入部と,先端部と,前記流体の流入量の変動に応じて膨張または収縮する側面部と,を有し,
前記先端部が,前記流体が流入する方向に沿って,前記流体の流入量に応じて変位し,
前記可動部は,第1の可動部と,前記第1の可動部が膨張する際に収縮し前記第1の可動部が収縮する際に膨張する第2の可動部と,を含み,
前記流体管は,前記第1の可動部と前記第1のシリンダとの間に設けられた第1の流体管と,前記第2の可動部と前記第2のシリンダとの間に設けられた第2の流体管と,を含む,
アクチュエーター。」
《相違点1》
可動部に流体を供給する手段が,本願補正発明では,「シリンダ」及び「前記シリンダ内の前記流体に圧力を印加するピストン」を組み合わせたものであって,「可動部とシリンダとの間」に流体管を備え,「前記シリンダは,前記第1の可動部に対して前記流体を供給する第1のシリンダと,前記第2の可動部に対して前記流体を供給する第2のシリンダと,を含」み,「前記ピストンは,前記第1のシリンダ内において前記流体に接する面と,前記第2のシリンダ内において前記流体に接する面と,を有」するものとされているのに対して,第2引用発明はそのように特定されるものではない点。
《相違点2》
本願補正発明では,「ピストンを動作させるモーター」を備えているものとされているのに対して,第2引用発明ではそのように特定されていない点。
《相違点3》
本願補正発明では,「流体管は,当該流体管に接して設けられた安全装置を外側に備え」,「安全装置は,第1の流体管に設けられた第1の安全装置と,第2の流体管に設けられた第2の安全装置と,を含み,前記安全装置は,流体に対する圧力が一定以上になる場合に前記流体の一部が内部に取り込まれて膨張する」とされているのに対して,第2引用発明はそのような構成を備えていない点。
ウ.以下,相違点について検討する。
(ア)相違点1,2について
流体圧を用いたアクチェータの技術分野において,2つの可動部を動作させようとする場合に,可動部に流体を供給する手段として,シリンダとその内の流体に圧力を印加するピストンを組み合わせたものを用いることは,当審拒絶理由において引用例3として示した特開昭58-180802号公報や特開2003-161303号公報,実公昭46-30810号公報にみられるように,周知の技術的事項である。また,可動部に流体を供給する手段をモーターで動作させることも,それらの公報等にみられるように,周知の技術的事項である。
そうすると,第2引用発明において,可動部に流体を供給するポンプとして,シリンダとその内の流体に圧力を印加するピストンを組み合わせたものを用い,そのピストンをモーターで動作させる構成とすることは,当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことである。そして,そのような構成とすれば,「可動部とシリンダとの間」に流体管を備え,「シリンダは,第1の可動部に対して流体を供給する第1のシリンダと,第2の可動部に対して流体を供給する第2のシリンダと,を含」み,「ピストンは,第1のシリンダ内において流体に接する面と,前記第2のシリンダ内において流体に接する面と,を有」するものとなることは,当業者にとって自明である。
したがって,引用例3等に記載される周知の技術的事項を考慮すれば,第2引用発明において,相違点1,2に係る本願補正発明の構成を採用することは,当業者が格別の創作能力を要することなくなし得たことである。
(イ)相違点3について
流体圧を用いたアクチェータの技術分野において,可動部とそこに流体を供給する手段との間の流体管に流体に対する圧力が一定以上になる場合に流体の一部が内部に取り込まれて膨張する装置を設けることは,当審拒絶理由において引用例4として示した特開昭62-184207号公報等にみられるように,周知の技術的事項である。
そして,2つの可動部を動作させようとする場合に,2つの可動部に対応して存在する2つの流体管のそれぞれにそのような装置を設けることは,当業者が適宜なし得ることである(そのような構成を採用した例として,特開昭57-47047号公報(液圧作動手段(12)(13),アキュムレータ(48')(49')等を参照。),特開昭50-13785号公報(液圧モータ(12)(13),流体式アキュムレータ(48')(49')等を参照。),特公昭44-28610号公報(油圧シリンダー1,2,蓄圧器20,21等を参照。)を挙げることができる。)。
そうすると,引用例4等に記載される周知の技術的事項を考慮すれば,第2引用発明において,相違点3に係る本願補正発明の構成を採用することにも,当業者にとっての格別の創意工夫を見いだすことはできない。
エ.以上を踏まえれば,本願補正発明の構成は,第2引用発明,引用例3等に記載される周知の技術的事項,引用例4等に記載される周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に導き出せたものである。
しかも,本願補正発明の構成によって,第2引用発明,引用例3等に記載される周知の技術的事項,引用例4等に記載される周知の技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されるということもできない。
よって,本願補正発明は,第2引用発明,引用例3等に記載される周知の技術的事項,引用例4等に記載される周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3)まとめ
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものと扱ったとしても,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成26年2月3日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「第2.1.(1)」参照。以下,この発明を「本願発明」という。)。

2.引用例
(1)当審拒絶理由において,引用例1として示した,本願出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2006/080088号には,図面とともに次の記載がある。
ア.「【発明を実施するための最良の形態】
[0038]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアクチュエータ10を用いた駆動装置1を示し、この駆動装置1は、流体である空気の供給及び吸引が繰り返されることで図中の黒矢印方向に回動部材2を回動し、特に少量の空気の供給でも回動部材2を線形的な応答性で回動できることを特徴にしている。
[0039]
図2(a)(b)は、第1実施形態のアクチュエータ10を示し、アクチュエータ10は膨張体15と、この膨張体15を被覆する被覆体12と、被覆体12に添う添部材11を備えている。膨張体15は、図3(a)(b)に示すようにチューブ状であり、一端15aを閉鎖し、他端15bを空気供給用のホース14を差し込むために開口しており、材料には厚みが0.3mmの柔らかい合成ゴムを用いている。空気が供給されていない場合、膨張体15は偏平な形状になっており、空気の供給が開始されると、膨張体15は最初、長手方向(図中の白矢印方向)へ主に膨張し、それから長手方向に膨張に追従して径方向(図中の黒矢印方向)へ膨張変形し、図3(b)に示す状態になる。」
イ.「[0044]
また、被覆体12の一端部12aに取り付けられた係止具16の係止部16bには、線材18が係止され、その線材18は、添部材11の表面11aに固定した案内具17(近接手段に相当)の軸17bの端部に設けられたリング部17a内を挿通されている。なお、線材18の端部(図示せず)は、アクチュエータ10で作動させる作動対象に取り付けられる(本実施形態では、図1に示す回動部材2)。
[0045]
図4(a)は、上述した構成のアクチュエータ10にホース14より流体の一例として空気Kの供給を開始した状態を示している。空気Kの供給が開始されると、膨張体15は自身の膨張特性に従い、長手方向(図中の白矢印方向)を主に膨張変形し、一端15aが被覆体12の閉鎖端12cの内部12dに当接する。なお、膨張体15の一端15aが当接する内部12dには係止具16の抜け止め部16cの端面も含むものとする。」
ウ.「[0049]
一方、図4(b)に示す状態より、膨張体15に供給した空気をホース14を通じて吸引すると、アクチュエータ10は、図2(a)(b)に示す状態に戻るので、アクチュエータ10への空気の供給及び吸引を繰り返すことで、アクチュエータ10の作動も図2(a)(b)に示す状態と図4(b)に示す状態との間で連続的に行える。」
エ.「[0052]
空気供給装置30は、注射器32をベースにした空気供給手段であり、ホース14に手動切替バルブ35を介して注射器32の先端ノズル33aを接続している。注射器32のシリンダ筒部33は、細長のベース板31の一端側の上面31aに水平姿勢でホルダ36により固定され、シリンダ筒部33内を長手方向で摺動するピストン部34はロッド部34aがベース板31から立設するホルダ36に形成された穴36aに挿通され、ピストン部34及びロッド部34aが摺動自在になっている。
[0053]
また、ピストン部34の円板状のエンド部34bには円柱状の動作変換部材37が取り付けられている。動作変換部材37は、中心軸に添ってネジ穴37aが形成されており、このネジ穴37aにネジ棒38が螺入されている。ネジ棒38は、ベース板31の他端側の上面31aより立設するモータホルダ39に取り付けられたモータ40のモータ軸40aに中間部材41を介して取り付けられている。さらに、モータ40はリード線dでモータ制御器42と接続され、モータ制御器42によりモータ40の回転は制御されている。
[0054]
よって、モータ40が時計回転方向へ所要量回転すること、及び反時計回転方向へ所要量回転することを繰り返すことで(図1中、黒矢印で示す)、シリンダ筒部33の内部でピストン部34は軸方向で往復移動し(図1中、白矢印で示す)、アクチュエータ10への空気の供給及び供給した空気の吸引を行う。」
(2)膨張体15は,閉鎖された一端15aと,空気を供給するために開口した他端15bとを備え,両端の間に側面部が形成されているものと把握できる。
また,膨張体15の閉鎖された一端15aは,空気が流入する方向に沿って,前記空気の流入量に応じて変位するものと理解できる。
(3)上述した事項を踏まえ,特に図1の記載内容を参酌すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」と言う。)が記載されていると認めることができる。
「空気の流入量の変動により動作する膨張体と,
前記膨張体に前記空気を供給するシリンダ筒部と,
前記シリンダ筒部内の前記空気に圧力を印加するピストン部と,
前記ピストン部を動作させるモータと,
を備え,
前記膨張体は,
前記空気が供給される開口した他端と,閉鎖された一端と,側面部と,を有し,
前記閉鎖された一端が,空気が流入する方向に沿って,前記空気の流入量に応じて変位するように構成されてなる,
駆動装置。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「膨張体」は,本願発明の「可動部」に相当し,また,引用発明の「前記空気が供給される開口した他端」,「閉鎖された一端」は,それぞれ,本願発明の「前記流体が流入する流入部」,「先端部」に相当する。
引用発明の「空気」,「シリンダ筒部」,「ピストン部」,「モータ」,「駆動装置」は,それぞれ,本願発明の「流体」,「シリンダ」,「ピストン」,「モーター」,「アクチェーター」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明は,発明特定事項として異なるところがない。
したがって,本願発明は,引用発明と同一と言うべきであるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-18 
結審通知日 2015-11-19 
審決日 2015-12-01 
出願番号 特願2010-35168(P2010-35168)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (F15B)
P 1 8・ 113- WZ (F15B)
P 1 8・ 121- WZ (F15B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 一  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 松永 謙一
新海 岳
発明の名称 アクチュエーター  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  

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