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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D |
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管理番号 | 1310145 |
審判番号 | 不服2014-25995 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-19 |
確定日 | 2016-02-09 |
事件の表示 | 特願2010-245314「車両用駆動力制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日出願公開、特開2012- 97647、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年11月1日の出願であって、平成26年3月3日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年4月22日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成26年4月25日に手続補正書が提出されたが、平成26年9月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年12月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において平成27年9月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成27年11月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成27年11月24日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1及び請求項2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。また、請求項1ないし12に係る発明をまとめて「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 走行用駆動源、及び制動装置で発生する制動力を調整するために乗員により操作されるブレーキ操作部を有する車両に適用され、前記走行用駆動源の出力を自動制御する車両用駆動力制御装置であって、 前記ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段と、 乗員により操作される操作部と、 前記操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力(以下、必要出力という。)を決定し、前記走行用駆動源の出力が前記必要出力となるように前記走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部と、 前記微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段と、 前記操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段と、 車両の現実の移動量を検出するための移動量検出手段と、 乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に前記微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段とを備え、 前記制御部は、前記モード判定手段により前記微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、前記ブレーキ操作判定手段により前記ブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、前記微量出力モードを実行し、前記移動量検出手段が検出した現実の移動量(以下、実移動量という。)が前記移動量決定手段が決定した車両移動量(以下、目標移動量という。)に到達したときに前記微量出力モードを停止させ、 前記操作部は、少なくとも前記微量出力モードが選択されたときには、前記選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、前記対応する方向と逆向きの方向は操作不可となることを特徴とする車両用駆動力制御装置。 【請求項2】 走行用駆動源、及び制動装置で発生する制動力を調整するために乗員により操作されるブレーキ操作部を有する車両に適用され、前記走行用駆動源の出力を自動制御する車両用駆動力制御装置であって、 前記ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段と、 乗員により操作される操作部と、 前記操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力(以下、必要出力という。)を決定し、前記走行用駆動源の出力が前記必要出力となるように前記走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部と、 前記微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段と、 前記操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段と、 車両の現実の移動量を検出するための移動量検出手段と、 乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に前記微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段とを備え、 前記制御部は、前記モード判定手段により前記微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、前記ブレーキ操作判定手段により前記ブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、前記微量出力モードを実行し、前記移動量検出手段が検出した現実の移動量(以下、実移動量という。)が前記移動量決定手段が決定した車両移動量(以下、目標移動量という。)に到達したときに前記微量出力モードを停止させ、 前記操作部は、少なくとも前記微量出力モードが選択されたときには、前記選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、前記対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されないことを特徴とする車両用駆動力制御装置。」 第3 原査定の理由について 1.原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (1)特開2008-149853号公報(以下、「引用文献1」という。) (2)特開2003-205808号公報(以下、「引用文献2」という。) (3)特開平9-48263号公報(以下、「引用文献3」という。) 引用文献1では、ユーザにより操作される入力手段(本願の「操作部」に相当)により希望駐車位置等の必要な情報を入力することにより予め設定された位置へ自動的に車両を移動させるように制御する自動駐車モードにおいて、制御部は入力手段を介して受け付けたユーザの入力に従って自動駐車モードによる運転中の出力クリープトルクを決定しており(特に、【0030】-【0050】等参照)、ユーザが希望駐車位置を入力手段により入力することにより、ユーザは現在位置と希望駐車位置との関係から前進又は後退の意思表示をしていることは明らかである。 また、引用文献2には、運転者がブレーキペダルを踏み込むことを条件の一つとして、駐車支援装置はエンジンをトルクアップするよう指示すること、及びそれにより、アクセル操作を行うことなく、ブレーキペダルのみで調整できる車速範囲が拡大し、車両のコントロール性が向上することが記載されている(【0020】等参照)。 。 引用文献3には、移動距離の設定方法として、一回の操作で単位距離だけ動き、数回の操作により目標移動距離の延長を行うこと、が記載されている。 前進、後進をシフトレバー等により決定することは文献を提示するまでもなく車両の分野における一般的事項であることから、引用文献1に記載の車両において、自動駐車支援の前進、後進をシフトレバー等により決定し、移動距離を操作量に応じて設定する入力手段を用いて設定することは当業者が容易に想到し得るものである。 そして、引用文献1に記載された発明において、引用文献2及び引用文献3記載の技術を適用することによって本願発明を発明することは、当業者が容易に想到し得たものである。 2.原査定の理由に対する当審の判断 2.1 引用文献1 2.1.1 引用文献1の記載 引用文献1には、「運転制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、自動変速機を備える車両に搭載される運転制御装置に関し、特に、車両の出力クリープトルクを制御する運転制御装置に関する。 【背景技術】 【0002】 自動変速機を備える車両では、自動変速機が走行レンジに設定され、アクセル及びブレーキが踏まれていない状態で、車両が低速走行するクリープ走行が実現される。液体式トルクコンバータを有する自動変速機を備える車両においては、エンジンのアイドル回転による微小トルクが車輪に伝達されることでクリープ走行が実現される。また、摩擦クラッチによって変速比を変化させる自動変速機を備える車両においては、一般に、摩擦クラッチを半クラッチ状態に制御することでクリープ走行が実現される。クリープ走行によると、車両のユーザは、坂道発進や、渋滞時及び車庫入れ時などの低速走行を容易に行うことができる。 …(中略)… 【0006】 一方、近年、車両の運転支援システムの1つとして、ユーザが設定した位置に車両を自動的に駐車させる自動駐車支援システムが開発されている。自動駐車支援システムには、クリープ走行によって車両を移動させ、自動的にステアリング操作を行い、ユーザがアクセル操作及びステアリング操作を行うことなく自動的に車両を駐車させるような制御を行うものがある。このような自動駐車支援システムによると、車両の駐車においてユーザに要求される動作は、周囲の安全確認及びブレーキ操作のみであるため、車両の駐車におけるユーザの負荷が軽減される。(段落【0001】ないし【0006】) (イ)「【0018】 以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。 【0019】 図1は、本発明の1つの実施形態の運転制御装置を搭載する車両におけるシステムの概略構成の例を示すブロック図である。 【0020】 図1を参照すると、車両は、エンジン10、自動変速機12、車輪14、ECU(Electronic Control Unit)16、アクセルペダル22、ブレーキペダル24、入力手段26、出力手段28、及びカメラ30を備える。図1では、上記の要素以外の、車両に搭載される要素は省略して図示している。 【0021】 図1に示す車両では、エンジン10からの駆動力は自動変速機12によって車輪14に伝達される。自動変速機12は、一般的な自動変速機であり、液体式トルクコンバータを備えるものであっても良いし、摩擦クラッチを備えるものであっても良い。 【0022】 ECU16は、車両に搭載され、各センサの情報を基にエンジン10などの動作を制御する制御装置である。ECU16は、制御部18及び記憶部20を備える。 【0023】 制御部18は、車両の運転に関する各種制御を行い、本実施形態では、自動駐車支援システムによる制御及び出力クリープトルクの制御に関する後述の処理を行う。制御部18は、マイクロコンピュータのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置によって実現できる。 【0024】 記憶部20は、制御部18で行われる処理の流れを記述したプログラム及び制御部18で行われる処理に必要な数値などを記憶する。記憶部20は、RAM(Random Access Memory)などの記憶媒体によって実現できる。 【0025】 制御部18で行われる後述の処理の流れを記録したプログラム及びその処理に必要な数値などを記憶部20に記憶させておき、制御部18にそのプログラムを読み出しさせて実行させることで、本発明の1つの実施形態の運転制御装置としてECU16を機能させることができる。 【0026】 アクセルペダル22及びブレーキペダル24は、それぞれ一般的な車両用のアクセルペダル及びブレーキペダルである。 【0027】 入力手段26は、車両内の運転席付近に設置され、自動駐車支援システムに関するユーザの設定の入力を受け付ける。例えば、入力手段26は、駐車位置や乗車人数などのユーザによる入力を受け付け、受け付けた入力内容を表す信号をECU16の制御部18に送信する。入力手段26は、例えば一般的なカーナビゲーションシステムの入力装置として用いられるタッチパネルや、リモートコントローラなどを用いて実現できる。 【0028】 出力手段28は、車両内の運転席付近に設置され、制御部18から送信される制御信号に従って、カメラ30によって撮像された映像や、制御部18による処理の結果などを表示する。出力手段28は、例えば液晶ディスプレイなどを用いて実現できる。 【0029】 カメラ30は、車両の後方に設置され、撮像した映像をECU16の制御部18に送信する。カメラ30は、一般的な車両搭載用のカメラであって良い。 【0030】 図2は、図1に示す車両において、ECU16の制御部18が行う自動駐車支援システムによる制御に関する処理の流れの例を示すフローチャートである。制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車支援システムによる自動駐車運転開始の指示を受けると、図2に示すフローチャートの処理を開始する。 【0031】 まず、ステップS1で、制御部18は、自動駐車運転のための初期設定を行う。例えば、制御部18は、カメラ30によって撮像された車両後方の映像を取得し、取得した映像を出力手段28に表示させるとともに、希望駐車位置、車両の乗員数、及びその他に自動駐車運転のために必要な情報を入力することをユーザに促す旨のメッセージを出力手段28に表示させる。ユーザは、この出力手段28の表示を受け、入力手段26を用いて、希望する駐車位置、車両の乗員数、及びその他の必要な情報を入力する。例えば、ユーザは、出力手段28に表示された車両後方の映像を示す画像上で、入力手段26を用いて希望駐車位置の範囲を指定することができる。制御部18は、入力手段26を介して受け付けたユーザの入力に従って、自動駐車運転に必要な各種パラメータを記憶部20に記憶させる。 【0032】 次に、ステップS2で、制御部18は、自動駐車運転中の出力クリープトルクを決定する。」(段落【0018】ないし【0032】) (ウ)「【0041】 図2のステップS3では、制御部18は自動駐車運転を開始する。制御部18は、ステップS2で決定された、出力クリープトルクのマップに従って自動駐車運転中の出力クリープトルクを制御し、初期設定(ステップS1)において設定された駐車位置に車両を駐車させるように、ステアリング操作を行う。 …(中略)… 【0044】 ステップS6では、制御部18は、車両の駐車が終了したか否かを判定する。例えば、カメラ30によって撮像された車両後方の映像の画像データを処理することで車両の現在位置を検出し、ステップS1の初期設定でユーザにより設定された駐車位置に車両が到達したか否かを判定する。また、例えば、カメラ30から得られる画像データを処理することで、設定された駐車位置までの距離を算出し、車両が設定された駐車位置に到達したか否かを判定しても良い。車両が設定された駐車位置に到達したか否かの判定は、例えばGPS(Global Positioning System)を利用して得られる位置情報に基づいて行っても良い。車両が設定された駐車位置に到達していれば車両の駐車が終了したと判断し、車両が設定された駐車位置に到達していなければ車両の駐車が終了していないと判断する。ステップS6で、車両の駐車が終了していないと判定されると、処理はステップS4に戻り、終了したと判定されると、処理はステップS7に進み、制御部18は自動駐車支援システムによる制御を解除して自動駐車支援システムによる制御を終了する。 【0045】 なお、自動駐車運転中(ステップS3?ステップS7)において、ブレーキ操作は、通常の運転時と同様、ユーザによるブレーキペダル24の操作に従って行われる。制御部18は、ユーザによるブレーキペダル24の操作を検知して、検知したブレーキペダル24の操作に応じて、図示しない制動装置に制御信号を送信し、車両の制動及び制動解除を行う。」(段落【0041】ないし【0045】) 2.1.2 引用文献1記載の事項 上記2.1.1(ア)ないし(ウ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)2.1.1(ア)及び(イ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、エンジン10、及び制動装置で発生する制動力を調整するためにユーザにより操作されるブレーキペダル24を有する車両に搭載され、エンジン10の出力クリープトルクを制御する運転制御装置が記載されていることが分かる。 (キ)2.1.1(イ)及び(ウ)並びに図1及び図2の記載から、特に、図1において、「ブレーキペダル24」がECU16に接続していることからみて、「ブレーキペダル24」の操作を検出し、ECU16に出力する手段を有することが明らかであるから、引用文献1に記載された運転制御装置は、ブレーキペダル24の操作を検知する手段と、ユーザにより入力される入力手段26と、ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の必要な情報を入力したときに、自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定し、エンジン10を出力クリープトルクを制御して自動駐車運転を行う制御部18とを備えることが分かる。 (ク)2.1.1(イ)及び(ウ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1に記載された運転制御装置において、制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車運転開始の指示を受けると自動駐車運転の制御を開始し、入力手段26を用いて指定された希望駐車位置までの距離を算出し、車両が設定された駐車位置に車両が到達したか否かを判定し、到達していれば車両の駐車が終了したと判断し、自動駐車支援運転の制御を終了するものであることが分かる。 2.1.3 引用文献1記載発明 上記2.1.1及び2.1.2並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載発明」という。)が記載されているといえる。 「エンジン10、及び制動装置で発生する制動力を調整するためにユーザにより操作されるブレーキペダル24を有する車両に搭載され、エンジン10の出力クリープトルクを制御する運転制御装置であって、 ブレーキペダル24の操作を検知する手段と、 ユーザにより入力される入力手段26と、 ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の必要な情報を入力したときに、自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定し、エンジン10を出力クリープトルクを制御して自動駐車運転を行う制御部18とを備え、 制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車運転開始の指示を受けると自動駐車運転の制御を開始し、入力手段26を用いて指定された希望駐車位置までの距離を算出し、車両が設定された駐車位置に車両が到達したか否かを判定し、到達していれば車両の駐車が終了したと判断し、自動駐車支援運転の制御を終了する運転制御装置。」 2.2 引用文献2 2.2.1 引用文献2の記載 引用文献2には、「駐車支援装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は自車両の目標位置への駐車操作を支援する駐車支援装置に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0020】運転者がブレーキペダル37を踏み込んで、シフトレバーを操作して後退にセットすると、駐車支援ECU1の走行制御部10は、エンジンECU21にエンジン22をトルクアップするよう指示する。これにより、エンジン22は通常のアイドル時より高い回転数で回転することにより、駆動力の高いトルクアップ状態に移行する。このため、アクセル操作を行うことなく、ブレーキペダル37のみで調整できる車速範囲が拡大し、車両のコントロール性が向上する。」(段落【0020】) 2.2.2 引用文献2記載技術 上記2.2.1の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。 「駐車支援装置において、運転者がブレーキペダル37を踏み込むことを条件の一つとして、駐車支援ECU1の走行制御部10は、エンジンECU21にエンジン22をトルクアップするよう指示し、これにより、エンジン22は通常のアイドル時より高い回転数で回転することにより、駆動力の高いトルクアップ状態に移行し、アクセル操作を行うことなく、ブレーキペダル37のみで調整できる車速範囲が拡大し、車両のコントロール性が向上するという技術。」 2.3 引用文献3 2.3.1 引用文献3の記載 引用文献3には、「車両用駆動力制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【請求項1】 スロットルアクチュエータを有する車両を、運転者が希望する距離だけ移動させる車両用駆動力制御装置において、 運転者が希望の移動距離を入力する入力手段と、 前記スロットルアクチュエータにスロットル開度値を入力させるスロットル制御手段と、 前記車両の実走距離を検出する実走距離検出手段と、 前記実走距離検出手段の検出信号が前記移動距離に達した時点で前記車両を停止させる制動力発生手段と、 を備えることを特徴とする車両用駆動力制御装置。」(【特許請求の範囲】の請求項1) 2.3.2 引用文献3記載技術 上記2.3.1の記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されているといえる。 「車両を運転者が希望する距離だけ移動させる車両用駆動力制御装置において、 運転者が希望の移動距離を入力する入力手段と、 前記スロットルアクチュエータにスロットル開度値を入力させるスロットル制御手段と、 前記車両の実走距離を検出する実走距離検出手段と、 前記実走距離検出手段の検出信号が前記移動距離に達した時点で前記車両を停止させる制動力発生手段とを備える技術。」 2.4 本願発明1についての対比・判断 2.4.1 本願発明1と引用文献1記載発明との対比 本願発明1と引用文献1記載発明とを対比すると、引用文献1記載発明における「エンジン10」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1における「走行用駆動源」に相当し、以下同様に、「制動装置」は「制動装置」に、「ユーザ」は「乗員」に、「ブレーキペダル24」は「ブレーキ操作部」に、「車両」は「車両」に、「搭載され」は「適用され」に、「出力クリープトルク」は「出力」に、「制御」は「自動制御」に、「運転制御装置」は「車両用駆動力制御装置」に、「ブレーキペダル24の操作を検知する手段」は「ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段」に、「入力される」は「操作される」に、「入力手段26」は「操作部」に、それぞれ相当する。 また、引用文献1記載発明において「ユーザが希望する駐車位置等の必要な情報を入力した」ことは、その技術的意義からみて、本願発明1において「操作部が操作された」ことに相当し、以下同様に、「自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定」することは「車両を移動させるために必要とする出力を決定」することに、「エンジン10を出力クリープトルクを制御して自動駐車運転を行う」ことは「走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させる」ことに、「制御部18」は「制御部」に、それぞれ相当する。 したがって、「操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定し、走行用駆動源の出力が必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部」という限りにおいて、引用文献1記載発明における「ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の必要な情報を入力したときに、自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定し、エンジン10を出力クリープトルクを制御して自動駐車運転を行う制御部18」は、本願発明1における「微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段と、操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段と、車両の現実の移動量を検出するための移動量検出手段と、乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段とを備え、操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力(以下、必要出力という。)を決定し、走行用駆動源の出力が必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部」に相当する。 そして、引用文献1記載発明における「自動駐車運転の制御」は、その技術的意義からみて、本願発明における「微量出力モード」に相当するから、「制御部は、微量出力モードが選択されていると判定されたことを条件の一つとして、微量出力モードを実行し、実際移動量が目標移動量に到達したときに微量出力モードを停止させ」るという限りにおいて、引用文献1記載発明において「制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車運転開始の指示を受けると自動駐車運転の制御を開始し、入力手段26を用いて指定された希望駐車位置までの距離を算出し、車両が設定された駐車位置に車両が到達したか否かを判定し、到達していれば車両の駐車が終了したと判断し、自動駐車運転の制御を終了す」るは、本願発明1において「制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、微量出力モードを実行し、移動量検出手段が検出した現実の移動量が移動量決定手段が決定した車両移動量に到達したときに微量出力モードを停止させ」ることに相当する。 よって、本願発明1と引用文献1記載発明とは、 「 走行用駆動源、及び制動装置で発生する制動力を調整するために乗員により操作されるブレーキ操作部を有する車両に適用され、前記走行用駆動源の出力を自動制御する車両用駆動力制御装置であって、 ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段と、 乗員により操作される操作部と、 操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定し、走行用駆動源の出力が必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部とを備え、 制御部は、微量出力モードが選択されていると判定されたことを条件の一つとして、微量出力モードを実行し、実際移動量が目標移動量に到達したときに微量出力モードを停止させる車両用駆動力制御装置。」 である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。 <相違点> (a)「操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定し、走行用駆動源の出力が必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部」に関し、本願発明1においては「操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定し、走行用駆動源の出力が必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部」であるのに対し、引用文献1記載発明においては「ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の必要な情報を入力したときに、自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定し、エンジン10を出力クリープトルクを制御して自動駐車運転を行う制御部18」である点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明1においては、「微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段と、操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段と、車両の現実の移動量を検出するための移動量検出手段と、乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に前記微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段とを備え」るのに対して、引用文献1記載発明においては、「制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車運転開始の指示を受け、入力手段26を用いて指定された希望駐車位置までの距離を算出」する点(以下、「相違点2」という。)。 (c)「制御部は、微量出力モードが選択されていると判定されたことを条件の一つとして、微量出力モードを実行し、実際移動量が目標移動量に到達したときに微量出力モードを停止させ」ることに関し、本願発明1においては、「制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、微量出力モードを実行し、移動量検出手段が検出した現実の移動量が前記移動量決定手段が決定した車両移動量に到達したときに微量出力モードを停止させ」るのに対し、引用文献1記載発明においては、「制御部18は、入力手段26を介してユーザからの自動駐車運転開始の指示を受けると自動駐車運転の制御を開始し、入力手段26を用いて指定された希望駐車位置までの距離を算出し、車両が設定された駐車位置に車両が到達したか否かを判定し、到達していれば車両の駐車が終了したと判断し、自動駐車運転の制御を終了す」る点(以下、「相違点3」という。)。 (d)本願発明1においては、「操作部は、少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となる」のに対し、引用文献1記載発明においては、入力手段26は同様の構成を有しない点(以下、「相違点4」という。)。 2.4.2 本願発明1に対する判断 上記相違点1ないし4について検討する。 まず、相違点1に関し、引用文献1記載発明において、ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の情報を入力する際に、該情報に自動駐車運転を前進又は後退によって行うことが含まれているか否かは不明である。 しかし、たとえユーザが直接的に前進又は後退することを入力しなかった場合には、制御部18が入力した駐車位置から前進又は後退することを決定し、それにしたがって自動駐車運転をすることになるから、少なくとも、前進又は後退の決定とともに自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定していることになる。 そして、本願発明1における「操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定する」ことに関し、「操作部が前進又は後退を示す方向に操作された」ことは、「車両を移動させるために必要とする出力を決定する」ことの契機にすぎない。 したがって、引用文献1記載発明において「ユーザが入力手段26を用いて希望する駐車位置等の必要な情報を入力したときに、自動駐車運転を行うための出力クリープトルクを決定」することと、本願発明において「操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定」することの間に、実質的な差はない。 よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 次に、相違点2に関し、引用文献1記載発明において、制御部18は、自動駐車運転がユーザによって選択されたことを判定し、希望する駐車位置までの距離を算出するものである。また、引用文献1記載発明における制御部18は、希望する駐車位置までの距離を算出する以上、設定された駐車位置に車両が到達したかを判定するために、車両の現実の移動量を検出する機能を有すると考えられる。 しかし、引用文献1記載発明は、本願発明1における「乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に前記微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段」に相当する手段を備えていない。 一方、引用文献3記載技術は、「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を備えるものではあるが、該「運転者が希望の移動距離を入力する手段」は、運転者が前進又は後退のいずれの方向に移動するかを入力するものではない。 したがって、引用文献1記載発明において、たとえ引用文献3記載技術における「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を適用することが容易であったとしても、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、相違点3に関し、引用文献2記載技術は、引用文献1記載発明と同様に駐車支援装置に係る技術であって、運転者がブレーキペダル37を踏むことを条件の一つとして駐車支援を開始するものである。 したがって、引用文献1記載発明において、引用文献2記載技術を適用することによって、ブレーキペダル24の操作を検知する手段によりブレーキペダル24が操作された判定されたときに、自動駐車運転を行うよう構成することによって、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 最後に、相違点4に関し、引用文献1記載発明は、本願発明1における「少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となる」「操作部」に相当する手段を備えていない。 一方、引用文献3記載技術は、「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を備えるものではあるが、該「運転者が希望の移動距離を入力する手段」は、選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となるものではない。 したがって、引用文献1記載発明において、たとえ引用文献3記載技術における「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を適用することが容易であったとしても、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 2.5 本願発明2についての対比・判断 2.5.1 本願発明2と引用文献1記載発明との対比 本願発明2と引用文献1記載発明とを対比すると、両者は、上記2.4.1に記載した相当関係を有するから、上記相違点1ないし3のほか、次の相違点4’で相違又は一応相違し、その余の点で一致する。 (e)本願発明2においては、「操作部は、少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されない」のに対し、引用文献1記載発明においては、入力手段26は同様の構成を有しない点(以下、「相違点4’」という。)。 2.5.2 本願発明2に対する判断 上記相違点1は、上記2.4.2に記載した理由と同様の理由により、実質的な相違点ではない。 次に、相違点2に関し、上記2.4.2に記載した理由と同様の理由により、引用文献1記載発明において、上記相違点2に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 また、相違点3に関し、上記2.4.2に記載した理由と同様の理由により、引用文献1記載発明において、引用文献2記載技術を適用することによって、上記相違点3に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 最後に、相違点4’に関し、引用文献1記載発明は、本願発明2における「少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されない」「操作部」に相当する手段を備えていない。 一方、引用文献3記載技術は、「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を備えるものではあるが、該「運転者が希望の移動距離を入力する手段」は、選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されないものではない。 したがって、引用文献1記載発明において、たとえ引用文献3記載技術における「運転者が希望の移動距離を入力する手段」を適用することが容易であったとしても、上記相違点4’に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 3.小活 したがって、本願発明1及び2は、当業者が引用文献1記載発明並びに引用文献2及び3記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願の請求項3ないし12に係る発明は、本願発明1又は2をさらに限定したものであるので、本願発明1及び2と同様に、当業者が引用文献1記載発明並びに引用文献2及び3記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 本願の請求項1ないし4及び7ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (1)特開2005-178627号公報(以下、「引用文献4」という。特に、段落【0034】、【0035】、【0044】、【0104】ないし【0135】及び【0136】ないし【0140】並びに図1及び図7ないし11等参照。) (2)特開平9-48263号公報(上記「引用文献3」。特に、【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項3】及び【請求項4】並びに段落【0036】ないし【0038】等参照。) (3)特開2008-149853号公報(上記「引用文献1」。特に、段落【0048】等参照。) 引用文献4には、次の発明及び技術が記載されている。 「 エンジン140、及びブレーキ560で発生する制動力を調整するために運転者により操作されるブレーキペダル580を有する車両に適用され、前記エンジン140の出力を自動制御する車両の統合制御システムであって、 前記ブレーキペダル580の操作を検知する手段と、 運転者により操作される移動距離設定デバイスと、 移動距離設定デバイスを介して操作信号が入力されたときに、目標駆動力を算出し、前記エンジン140の出力が前記目標駆動力となるように前記エンジン140を自動運転する目標距離移動制御を実行させるための制御手段と、 前記目標距離移動制御の作動スイッチが運転者によりONにされたかを判定する判定手段と、 前記移動距離設定デバイスの操作回数を加算し、1操作あたりの移動距離に操作回数を乗算することにより目標距離を算出する手段とを備え、 前記制御手段は、車両が停止していること判定し、かつ、前記判定手段により前記目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定したときに、前記目標距離移動制御を実行する車両の統合制御システム。」(以下、「引用文献4記載発明」という。) 引用文献4には、上記引用文献4記載発明のほか、「車両の統合制御システムにおいて、目標移動位置を設定する際に、車載カメラが車両の前方及び後方を撮像して、車内のモニタに映し出し、運転者が画面に手を接触させることにより、その画面上で手が接触された位置を目標移動位置として設定するという技術。」(以下、「引用文献4記載技術」という。引用文献4の段落【0136】ないし【0140】及び図11等を参照。)が記載されている。 そして、上記引用文献4記載技術は、目標移動位置を車両の前方及び後方に設定できるものであるから、引用文献4記載発明において、引用文献4記載技術を適用することによって、移動距離設定デバイスを前進及び後退を示す方向に操作できるように構成することは、当業者が容易に想到することができたことである。 また、「車両の実走距離を検出する実走距離検出手段を設け、該実走距離検出信号の検出信号が運転者が入力した移動距離に達した時点で車両を停止させるように制御すること」は、車両の微小移動を自動的に行う車両用駆動力制御装置を設計するに際して、普通に採用される程度の設計的事項(以下、「設計的事項」という。例えば、設計例として、引用文献3の【特許請求の範囲】の【請求項1】等参照。)にすぎないから、引用文献4記載発明において、車両の現実の移動距離を検出するための手段を設け、該手段により検出した車両移動距離が目標距離に達した時点で目標距離移動制御を終了するように構成することは、単なる設計事項にすぎない。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献4記載発明及び引用文献4記載技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 2.当審拒絶理由に対する判断 2.1 引用文献4 2.1.1 引用文献4の記載 引用文献4には、「車両の統合制御システム」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0034】 以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。 【0035】 図1を参照して、本発明の実施の形態に係る車両の統合制御システムのブロック図を説明する。この車両の統合制御システムは、内燃機関(エンジン)を駆動源とする車両に搭載されている。なお、駆動源は、エンジンなどの内燃機関に限定されず、電気モータのみやエンジンと電気モータとの組合せであってもよく、電気モータの動力源は、二次電池や燃料電池であってよい。」(段落【0034】及び【0035】) (イ)「【0044】 各車輪100には、その回転を抑制するために作動させられるブレーキ560が設けられている。各ブレーキ560は、運転者によるブレーキペダル(車両の制動に関して運転者が操作する対象の一例である)580の操作量に応じて電気的に制御され、また、必要に応じ、自動的に各車輪100ごとに個別に制御される。」(段落【0044】) (ウ)「【0104】 図7は、車両の統合制御システムにおける目標距離移動制御を実行するメインプログラムのフローチャートである。目標距離移動制御は、たとえば、エージェントユニットが有する自動運転機能の1つとしてとらえることができる。すなわち、以下に示すフローチャートは、エージェントユニットを実現するECU(Electronic Control Unit)で実行されるプログラムの制御構造および主制御系(1)(駆動制御ユニット)を実現するECUまたは主制御系(2)(制動制御ユニット)を実現するECUで実行されるプログラムの制御構造を示すことになる。なお、主制御系(1)(駆動制御ユニット)を実現するECUは、たとえばエンジンECUであって、主制御系(2)(制動制御ユニット)を実現するECUは、たとえばブレーキECUである。 【0105】 ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、エージェントユニットのECUは、この目標距離移動制御の制御前提条件処理を実行する。この制御前提条件処理の詳細については後述する。 【0106】 S200にて、エージェントユニットのECUは、指示距離または指示位置までの目標距離を算出する演算処理を実行する。この目標距離演算処理の詳細については後述する。 【0107】 S300にて、エージェントユニットのECUは、車両の周囲の状況に基づいてアドバイザユニットで算出されたリスクを表わす環境情報を用いて、目標距離移動制御の実行可否を判断する。すなわち、環境情報に基づいてリスクが大きいと判断される場合、環境情報に基づくガード(規制)が作用して、目標距離移動制御の実行が許可されなくなる。 【0108】 アドバイザユニットにおいては、通信機能を有するナビゲーション装置から現在の車両の位置における天候、気温などの情報や、周辺監視センサである、車両の外部を撮像する車戴カメラや車両の周囲の障害物を検知するクリアランスセンサからの情報が入力される。この周囲監視センサからは、車両の進行方向に障害物が検知されたことなどの情報が入力される。アドバイザユニットは、このような入力された情報に基づいて、エージェントユニットにおいて用いられるリスク情報を生成して出力する。さらに詳しくは、アドバイザユニットは、車両の周囲の環境情報として、現在の車両の位置における天候などから路面の摩擦抵抗値(μ値)や、車両の進行方向に存在する障害物(路面上の凹凸部)や、路面勾配を認識する。これらは、たとえば、車両が微小移動距離を移動する制御を実行することが困難であることを示す場合がある。このような場合には、目標距離移動制御に対するリスクの度合いが高いことを表わす情報を生成する。この目標距離移動制御リスクの度合いが大きいことを表わす情報が、エージェントユニットや、主制御系(1)(駆動制御ユニット)または主制御系(2)(制動制御ユニット)に出力される。なお、この急加減速リスクの度合いを表わす情報は、どのユニットおよび主制御系でも使用できるようにアドバイザユニットで処理されている。 【0109】 S400にて、算出された目標駆動力を発現できるように、車両の制御演算処理を実行する。これは、主として、制駆動力分配演算処理である。この制駆動力分配演算処理の詳細については後述する。 【0110】 図8を参照して、図7のS100における制御前提条件処理について説明する。 【0111】 S102にて、エージェントユニットのECUは、車両が停止しているか否かを判断する。この判断は、車輪速センサにより検知された値や、トランスミッション240の出力軸回転数センサにより検知された値に基づいて行なわれる。車両が停止していると(S102にてYES)、処理はS104へ移される。もしそうでないと(S102にてNO)、この目標距離移動制御処理は終了する。 【0112】 S104にて、エージェントユニットのECUは、目標距離移動制御の作動スイッチがONされたか否かを判断する。この判断は、車室内に設けられた運転者が操作する目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたか、またナビゲーション装置のタッチパネル画面に設けられた目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたかなどにより行なわれる。目標距離移動制御の作動スイッチがONされると(S104にてYES)、処理は図7のS200へ移される。もしそうでないと(S104にてNO)、この目標距離移動制御処理は終了する。 【0113】 図9を参照して、図7のS200における目標距離演算処理について説明する。 【0114】 S202にて、エージェントユニットのECUは、距離または速度の設定モードが選択されたか否かを判断する。この判断は、車室内に設けられた運転者が操作する目標距離移イッチの近傍に設けられた設定モードスイッチがONにされたか、またナビゲーション装置のタッチパネル画面に設けられた設定モードスイッチがONにされたかなどにより行なわれる。距離または速度の設定モードが選択されると(S202にてYES)、処理はS204へ移される。もしそうでないと(S202にてNO)、処理はS208へ移される。 【0115】 S204にて、エージェントユニットのECUは、1操作あたりの移動距離の入力を検知して、検知された値を、後述する移動距離設定デバイスが運転者により1操作された場合の移動距離としてメモリに記憶する。S206にて、エージェントユニットのECUは、目標距離移動制御における目標車速の入力を検知して、検知された値を、目標距離移動制御における目標車速としてメモリに記憶する。このとき、目標車速の上限値が定められていて、この上限値以上の車速を入力することはできない。 【0116】 S208にて、エージェントユニットのECUは、メモリに記憶された、移動距離設定デバイスの1操作あたりの移動距離および目標距離移動制御における目標車速を初期値に設定する。この初期値は、メモリに記憶されている。 【0117】 S210にて、エージェントユニットのECUは、トランスミッション240のポジションがD(ドライブ)ポジションであるか否かを判断する。この判断は、トランスミッション240から出力されるポジション信号に基づいて行なわれる。トランスミッション240のポジションがD(ドライブ)ポジションであると(S210にてYES)、処理はS212へ移される。もしそうでないと(S210にてNO)、処理はS214へ移される、 S212にて、エージェントユニットのECUは、ステアリング上のスイッチ(移動距離設定デバイス)を介して操作信号が入力されたか否かを判断する。この判断は、たとえばステアリング上に設けられたスイッチ(シーケンシャルシフトの「+/-」ボタンと兼用してもよい)から入力される信号に基づいて行なわれる。ステアリング上のスイッチ(移動距離設定デバイス)を介して操作信号が入力されると(S212にてYES)、処理はS216へ移される。もしそうでないと(S212にてNO)、この目標距離移動制御処理は終了する。 【0118】 S214にて、エージェントユニットのECUは、フロアシフト横のスイッチ(移動距離設定デバイス)を介して操作信号が入力されたか否かを判断する。この判断は、たとえばフロアシフト横に設けられたスイッチ(シーケンシャルシフトの「+/-」ボタンと兼用してもよい)から入力される信号に基づいて行なわれる。フロアシフト横のスイッチ(移動距離設定デバイス)を介して操作信号が入力されると(S214にてYES)、処理はS216へ移される。もしそうでないと(S214にてNO)、この目標距離移動制御処理は終了する。 【0119】 S216にて、エージェントユニットのECUは、移動距離設定デバイス(ステアリング上のスイッチやフロアシフト横のスイッチ)の操作時間が、予め設定された規定時間以上になったか否かを判断する。この判断は、加算タイマをS212にてYESまたはS214にてYESのときに計測開始して、その加算タイマのカウント値を操作時間として、規定時間と比較することにより行なわれる。操作時間が、予め設定された規定時間以上になると(S216にてYES)、処理はS220へ移される。もしそうでないと(S216にてNO)、処理はS218へ移される。 【0120】 S218にて、エージェントユニットのECUは、移動距離設定デバイス(ステアリング上のスイッチやフロアシフト横のスイッチ)からの操作回数を加算する。S220にて、エージェントユニットのECUは、目標距離を演算する。このとき、1操作あたりの移動距離に操作回数を乗算することにより、目標距離移動制御における目標距離が算出される。その後、処理は図7のS300へ移される。 【0121】 図10を参照して、図7のS400における制駆動力分配演算処理について説明する。 【0122】 S402にて、主制御系(1)(アクセル)のECUおよび主制御系(ブレーキ)のECUのいずれかまたは双方(以降、双方とする)は、目標車速および目標距離に基づいて目標駆動力を算出する。このとき、ドライバのアクセル操作に基づいて駆動基本ドライバモデルを用いて算出された目標前後加速度Gx^(*)(DRV0)や、ドライバのブレーキ操作に基づいて制動基本ドライバモデルを用いて算出された目標前後加速度Gx^(*)(BRK0)などに基づいて目標駆動力が算出されるのではなく、エージェントユニットで生成された目標車速および目標距離に基づいて、目標駆動力が算出される。なお、このS400の処理の前に実行されるS300の処理においてアドバイザユニットからの環境情報に基づいてリスクが大きいと判断される場合、環境情報に基づくガード(規制)が作用して、目標距離移動制御の実行が許可されなくなるので、S400における処理も行なわれないことになる。 【0123】 S404にて、主制御系(1)(アクセル)のECUおよび主制御系(ブレーキ)のECUの双方は、目標駆動力を発現するように制駆動力分配演算を実行する。これは、分配機能ユニットにて、主制御系(1)側では、主制御系(2)との間で駆動トルクと制動トルクが分配されて、駆動側の目標駆動トルクτx^(*)(DRV0)が算出され、主制御系(2)側では、主制御系(1)との間で駆動トルクと制動トルクとが分配されて制動側の目標制動トルクτx^(*)(BRK0)が算出される。 【0124】 以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る車両の統合制御システムを搭載した車両の動作について説明する。 【0125】 車両が、たとえばエレベータ式の駐車場に進入して、車輪止めを乗り越えて即座に停止してければならない場合を想定する。また、渋滞中の前方停車車両との車間距離を詰めるような場合であってもよい。 【0126】 車両が停止しており(S102にてYES)、運転者がカーナビゲーション装置の画面に表示された目標距離移動制御の作動スイッチを、画面に触れることにより、ONにすると(S104にてYES)、目標距離移動制御の前提条件が成立する。 【0127】 運転者が、目標距離移動制御の設定値を初期値から変更したい場合には、運転者がカーナビゲーション装置の画面に表示された設定モードスイッチを、画面に触れることにより、ONにする(S202にてYES)、1操作あたりの移動距離を入力して(S204)、目標移動距離を入力する(S206)。運転者が、目標距離移動制御の設定値を初期値から変更しない場合には、初期値が用いられる。 【0128】 D(ドライブ)ポジションである場合には(S210にてYES)、ステアリング上のシーケンシャルシフトスイッチの「+/-」ボタン、D(ドライブ)ポジションでない場合には(S210にてNO)、フロアシフト横のシーケンシャルシフトスイッチの「+/-」ボタンが、規定時間に到達するまでに操作された回数を加算する(S218)。規定時間が経過すると(S216にてYES)、操作回数に1操作あたりの移動距離を乗算して目標距離が算出される(S220)。 【0129】 アドバイザユニットからの環境情報として、車輪止めの高さが高過ぎたり、目標距離移動制御の障害になる物が検知されると、目標距離移動制御に対するリスクの度合いが高いことを表わす情報が出力される。この目標距離移動制御リスクの度合いが大きいことを表わす情報に基づいて、この目標距離移動制御が実行されない場合もある。 【0130】 主制御系(1)(アクセル)のECUおよび主制御系(ブレーキ)のECUの双方により、目標車速および目標距離に基づいて、目標駆動力が算出される(S402)。この目標駆動力を、エンジン100およびトランスミッション240の駆動系と、ブレーキ620の制動系とで、どのように分配するのかが決定される(S404)。このとき、駆動側の目標駆動トルクτx^(*)(DRV0)と、制動側の目標制動トルクτx^(*)(BRK0)とが算出される。算出された目標駆動トルクτx^(*)(DRV0)と目標制動トルクτx^(*)(BRK0)とに基づいて、パワートレーンやブレーキ装置が制御される。このとき、駆動側の目標駆動トルクτx^(*)(DRV0)は、エンジン100のみで発現されてもよいし、図1には示されないモータにより発現されもよいし、エンジン100とモータとで発現されるようにしてもよい。この場合、よりエネルギ効率が高くなるようにどのアクチュエータが用いられるのかが決定される。 【0131】 以上のようにして、本実施の形態に係る車両の統合制御システムによると、駆動系制御ユニットである主制御系(1)においては、運転者の要求であるアクセルペダル操作を検知して、駆動基本ドライバモデルを用いてアクセルペダル操作に対応する駆動系の制御目標が生成されて、駆動アクチュエータであるパワートレーンが制御される。制動系制御ユニットである主制御系(2)においては、運転者の要求であるブレーキペダル操作を検知して、制動基本ドライバモデルを用いてブレーキペダル操作に対応する制動系の制御目標が生成されて、制動アクチュエータであるブレーキ装置が制御される。操舵系制御ユニットである主制御系(3)においては、運転者の要求であるステアリング操作を検知して、操舵基本ドライバモデルを用いてステアリング操作に対応する操舵系の制御目標が生成されて、アクチュエータであるステアリング装置が制御される。これらの制御ユニットは自律的に動作する。 【0132】 このような自律的に動作するこれらの駆動系制御ユニットと制動系制御ユニットと操舵系制御ユニットとに加えて、アドバイザユニット、エージェントユニットおよびサポータユニットをさらに備えた。アドバイザユニットは、車両の周囲の環境情報または運転者に関する情報に基づいて、制御ユニットにおいて用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力する。アドバイザユニットは、車両の周囲の環境情報として車両が走行中路面の摩擦抵抗や外気温などに基づいて車両の動作特性に対するリスクの度合いを表わす情報や、運転者を撮像して運転者の疲労状況に基づく運転者の操作に対するリスクの度合いを表わす情報を、各制御ユニットで共通して使用できるように加工して生成したりする。エージェントユニットは、予め定められた挙動を車両に実現させるために各制御ユニットにおいて用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力する。エージェントユニットは、車両を自動的に運転する自動運転機能を実現するための情報を生成する。その自動運転機能を実現するための情報が、各制御ユニットに出力される。サポータユニットは、現在の車両の動的状態に基づいて、各制御ユニットにおいて用いられる情報を生成して、各制御ユニットに出力する。サポータユニットは、現在の車両の動的状態を把握して、各制御ユニットにおける目標値を修正するための情報を生成する。 【0133】 各制御ユニットにおいては、アドバイザユニット、エージェントユニットおよびサポータユニットからそれぞれ出力された情報を車両の運動制御に反映させるか否か、反映させるのであればどの程度まで反映させるのかなどの調停処理が行なわれる。これらの制御ユニットや、アドバイザユニット、エージェントユニットおよびサポータユニットは、自律的に動作する。最終的には、それぞれの制御ユニットで、アドバイザユニット、エージェントユニットおよびサポータユニットから入力された情報、各制御ユニット間で通信された情報により算出された最終的な駆動目標、制動目標および操舵目標に基づいて、パワートレーン、ブレーキ装置およびステアリング装置が制御される。 【0134】 このように、車両の基本動作である「走る」動作に対応する駆動系制御ユニット、「止まる」動作に対応する制動系制御ユニット、「曲がる」動作に対応する操舵系制御ユニットを、それぞれが独立して作動可能なように設けた。これらの制御ユニットに対して、車両の周囲の環境情報や運転者に関する情報に対するリスクや安定性に関する情報、車両を自動的に運転させるための自動運転機能を実現するための情報および各制御ユニットの目標値を修正するための情報を生成して各制御ユニットに出力できる、アドバイザユニット、エージェントユニットおよびサポータユニットを付加している。このため、高度の自動運転制御に容易に対応可能な、車両の統合制御システムを提供することができる。 【0135】 より具体的には、車両が立体駐車場において車輪止めを乗り越えるための微小距離だけ移動するときや、見通しの悪い交差点において少しだけ前方に移動するときなどにおいては、エージェントユニットの自動運転機能である目標距離移動制御機能が、運転者がアクセルペダル操作やブレーキペダル操作ではない操作により入力された目標移動距離を車両が移動して停止するように、駆動系と制動系とが統合的に制御される。移動距離は、たとえばシーケンシャルシフトの「+/-」のボタンが規定時間内に押された回数に1操作あたりの規定距離を乗算して算出する。このため、1操作あたりの規定距離を短くすることにより微小距離を正確に移動させることができる。その結果、運転者の操作をなくして駐車時の急加速を回避できる。」(段落【0104】ないし【0135】) (エ)「【0136】 以下、本実施の形態の第1の変形例について説明する。 …(中略)… 【0140】 以上のように、本変形例によると、運転者が画面に映し出された車両の周囲の画像を用いて、車両の移動距離を設定することができる。なお、モニタに接触して位置を設定(マッチング)させるのではなく、このようなモニタに映し出された画像に、他のデバイス(たとえばジョグダイヤルなど)を併用して、移動位置を設定するようにしてもよい。」(段落【0136】ないし【0140】) 2.1.2 引用文献4記載の事項 上記2.1.1(ア)ないし(エ)並びに図1及び図7ないし11の記載から、引用文献4には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)2.1.1(ア)ないし(エ)並びに図1及び図7ないし11の記載から、引用文献4には、エンジン140、及びブレーキ560で発生する制動力を調整するために運転者により操作されるブレーキペダル580を有する車両に適用され、前記エンジン140の出力を自動運転制御する車両の統合制御システムが記載されていることが分かる。 (キ)2.1.1(イ)及び(ウ)並びに図1及び図7ないし11の記載から、引用文献4に記載された車両の統合制御システムは、ブレーキペダル580の操作を検知する手段と、運転者により操作される移動距離設定デバイスと、移動距離設定デバイスを介して操作信号が入力されたときに、目標駆動力を算出し、前記エンジン140の出力が前記目標駆動力となるように前記エンジン140を自動運転する目標距離移動制御を実行させるための制御手段と、目標距離移動制御の作動スイッチが運転者によりONにされたかを判定する判定手段と、移動距離設定デバイスの操作回数を加算し、1操作あたりの移動距離に操作回数を乗算することにより目標距離を算出する手段とを備えるものであることが分かる。 (ク)2.1.1(イ)及び(ウ)並びに図1及び図7ないし11の記載から、引用文献4に記載された車両の統合制御システムにおいて、制御手段は、車両が停止していることを判定し、かつ、判定手段により目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定したときに、目標距離移動制御を実行するものであることが分かる。 2.1.3 引用文献4記載発明及び引用文献4記載技術 引用文献4には、次の発明及び技術が記載されている。 「 エンジン140、及びブレーキ560で発生する制動力を調整するために運転者により操作されるブレーキペダル580を有する車両に適用され、前記エンジン140の出力を自動運転制御する車両の統合制御システムであって、 前記ブレーキペダル580の操作を検知する手段と、 運転者により操作される移動距離設定デバイスと、 移動距離設定デバイスを介して操作信号が入力されたときに、目標駆動力を算出し、前記エンジン140の出力が前記目標駆動力となるように前記エンジン140を自動運転する目標距離移動制御を実行させるための制御手段と、 前記目標距離移動制御の作動スイッチが運転者によりONにされたかを判定する判定手段と、 前記移動距離設定デバイスの操作回数を加算し、1操作あたりの移動距離に操作回数を乗算することにより目標距離を算出する手段とを備え、 前記制御手段は、車両が停止していることを判定し、かつ、前記判定手段により前記目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定したときに、前記目標距離移動制御を実行する車両の統合制御システム。」(以下、「引用文献4記載発明」という。) 「 車両の統合制御システムにおいて、目標移動位置を設定する際に、車載カメラが車両の前方及び後方を撮像して、車内のモニタに映し出し、運転者が画面に手を接触させることにより、その画面上で手が接触された位置を目標移動位置として設定するという技術。」(以下、「引用文献4記載技術」という。) 2.2 本願発明1についての対比・判断 2.2.1 本願発明1と引用文献4記載発明との対比 本願発明1と引用文献4記載発明とを対比すると、引用文献4記載発明における「エンジン140」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明1における[走行用駆動源」に相当し、以下同様に、「ブレーキ560」は「制動装置」に、「運転者」は「乗員」に、「ブレーキペダル580」は「ブレーキ操作部」に、「車両」は「車両」に、「自動運転制御」及び「自動運転」は「自動制御」に、「車両の統合制御システム」は「車両用駆動力制御装置」に、「ブレーキペダル580の操作を検知する手段」は「ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段」に、「移動距離設定デバイス」は「操作部」に、「目標駆動力」は「車両を移動させるために必要とする出力」及び「必要出力」に、「算出し」は「決定し」に、「目標距離移動制御」は「微量出力モード」に、「制御手段」は「制御部」に、それぞれ相当する。 また、「操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定」するという限りにおいて、引用文献4記載発明において「移動距離設定デバイスを介して操作信号が入力されたときに、目標駆動力を算出」することは、本願発明1において「操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定」することに相当する。 そして、引用文献4記載発明において「目標距離移動制御の作動スイッチが運転者によりONにされたかを判定する判定手段」は、その機能からみて、本願発明1における「微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段」に相当し、同様に、「移動距離設定デバイスの操作回数を加算し、1操作あたりの移動距離に操作回数を乗算することにより目標距離を算出する手段」は「操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段」に相当する。 さらに、引用文献4記載発明において「判定手段により目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定」することは、その技術的意義からみて、本願発明1において「モード判定手段により前記微量出力モードが選択されていると判定」することに相当し、「制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定されたことを条件として微量出力モードを実行」するという限りにおいて、引用文献4記載発明において「制御手段は、車両が停止していることを判定し、かつ、判定手段により目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定したときに、前記目標距離移動制御を実行」することは、本願発明1において「制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、微量出力モードを実行」することに相当する。 よって、本願発明1と引用文献4記載発明とは、 「 走行用駆動源、及び制動装置で発生する制動力を調整するために乗員により操作されるブレーキ操作部を有する車両に適用され、走行用駆動源の出力を自動制御する車両用駆動力制御装置であって、 ブレーキ操作部が操作されたか否かを判定するブレーキ操作判定手段と、 乗員により操作される操作部と、 操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定し、走行用駆動源の出力が前記必要出力となるように走行用駆動源を自動制御する微量出力モードを実行させるための制御部と、 微量出力モードが乗員により選択されたか否かを判定するモード判定手段と、 操作部の操作量を検出し、その検出された操作量に対応した車両移動量を決定する移動量決定手段と、 乗員により操作され、前進方向及び後退方向のうちいずれの方向に微量出力モードで車両を移動させるかを選択するための選択手段とを備え、 制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定されたことを条件として微量出力モードを実行し、 操作部は、少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となることを特徴とする車両用駆動力制御装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)「操作部が操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定」することに関し、本願発明1においては、「操作部が前進又は後退を示す方向に操作されたときに、車両を移動させるために必要とする出力を決定」するのに対し、引用文献4記載発明においては、「移動距離設定デバイスを介して操作信号が入力されたときに、目標駆動力を算出」する点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明1においては、「車両の現実の移動量を検出するための移動量検出手段を備え、移動量検出手段が検出した現実の移動量が移動量決定手段が決定した車両移動量に到達したときに微量出力モードを停止させ」るのに対し、引用文献4記載発明においては、どのように目標距離移動制御を停止させるのか不明である点(以下、「相違点2」という。)。 (c)「制御手段が、判定手段により目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定されたことを条件として微量出力モードを実行」することに関し、本願発明1においては、「制御部は、モード判定手段により微量出力モードが選択されていると判定され、かつ、ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作部が操作されたと判定されたときに、微量出力モードを実行」するのに対し、引用文献4記載発明においては、「制御手段は、車両が停止していることを判定し、かつ、判定手段により目標距離移動制御の作動スイッチがONにされたことを判定したときに、前記目標距離移動制御を実行」するとして、「車両が停止していることを判定」されたことを目標距離移動制御を実行するための条件に加えている点(以下、「相違点3」という。)。 (d)本願発明1においては、「操作部は、少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となる」のに対し、引用文献4記載発明においては、移動距離設定デバイスは同様の構成を有しない点(以下、「相違点4」という。)。 2.2.2 本願発明1に対する判断 上記相違点1ないし4について検討する。 まず、相違点1に関し、「車両の統合制御システムにおいて、目標移動位置を設定する際に、車載カメラが車両の前方及び後方を撮像して、車内のモニタに映し出し、運転者が画面に手を接触させることにより、その画面上で手が接触された位置を目標移動位置として設定するという技術。」という引用文献4記載技術は、目標移動位置を車両の前方及び後方に設定できるものであることを前提としている。 そして、引用文献4には、移動距離設定デバイスをシーケンシャルシフトの「+/-」ボタンと兼用してもよい旨が記載されており(上記2.1.1(ウ)の段落【0117】及び【0118】参照)、前進及び後進をそれぞれ+及び-に対応させるという程度のことは、設計上当然に検討されることであるから、引用文献4記載発明において、移動距離設定デバイスに引用文献4記載技術を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討すれば、「車両の実走距離を検出する実走距離検出手段を設け、該実走距離検出信号の検出信号が運転者が入力した移動距離に達した時点で車両を停止させるように制御すること」は、車両の微小移動を自動的に行う車両用駆動力制御装置を設計するに際して、普通に採用される程度の設計的事項(以下、「設計的事項」という。例えば、設計例として、引用文献3の【特許請求の範囲】の【請求項1】(上記第3の2.3.1の(ア))等参照。)にすぎないから、引用文献4記載発明において、車両の現実の移動距離を検出するための手段を設け、該手段により検出した車両移動距離が目標距離に達した時点で目標距離移動制御を終了するように構成することは、単なる設計事項にすぎない。 したがって、引用文献4記載発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、相違点3に関し、本願の明細書の段落【0048】及び【0049】の記載からみて、本願発明1において微量出力モードを実行するための条件として、ブレーキ操作判定手段によりブレーキ操作部が操作されたと判定されることを有しているのは、安全性の確保のためであると認められる。 一方、引用文献4記載の発明は、オートマチックトランスミッションを備えるものであるところ(例えば、2.1.1の(ウ)の段落【0117】の「D(ドライブ)ポジション」等参照。)、オートマチックトランスミッション車において、急な発進等を避けて安全性を確保するために、始動時や、パーキングからドライブポジションへのシフトチェンジ等の際に、ブレーキペダルが操作されていることを条件とすることは常套手段である。 したがって、引用文献4記載の発明において、目標距離移動制御を実行するための条件として、安全性確保のためにブレーキペダル580が操作されていることを加えることにより、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 最後に相違点4に関し、引用文献4記載発明は、本願発明1における「少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となる」「操作部」に相当する手段を備えていない。 そして、引用文献4記載発明において、移動距離設定手段を「選択された車両を移動させる方向に対応する方向のみに操作可能となり、対応する方向と逆向きの方向は操作不可となる」構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、引用文献4記載発明において、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 2.3 本願発明2についての対比・判断 2.3.1 本願発明2と引用文献4記載発明との対比 本願発明2と引用文献4記載発明とを対比すると、両者は、上記2.2.1に記載した相当関係を有するから、上記相違点1ないし3のほか、次の相違点4’で相違又は一応相違し、その余の点で一致する。 (e)本願発明2においては、「操作部は、少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されない」のに対し、引用文献4記載発明においては、移動距離設定手段は同様の構成を有しない点(以下、「相違点4’」という。)。 2.3.2 本願発明2に対する判断 上記相違点1ないし3については、上記2.2.2に記載した理由と同様のにより、引用文献4記載発明において、上記相違点1ないし3に係る本願発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 しかし、相違点4’に関し、引用文献4記載発明は、本願発明2における「少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されない」「操作部」に相当する手段を備えていない。 そして、引用文献4記載発明において、移動距離設定手段を「少なくとも微量出力モードが選択されたときには、選択手段により選択された車両を移動させる方向に対応する方向の操作のみが有効となり、対応する方向と逆向きの方向の操作は反映されない」構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、引用文献4記載発明において、上記相違点4’に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 3.小活 したがって、本願発明1及び2は、当業者が引用文献4記載発明及び引用文献4記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえなくなった。 また、本願の請求項3ないし12に係る発明は、本願発明1又は2をさらに限定したものであるので、本願発明1及び2と同様に、当業者が引用文献4記載発明並びに引用文献1、3及び4記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえなくなった。 そうすると、もはや、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-01-25 |
出願番号 | 特願2010-245314(P2010-245314) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F02D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山村 和人 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
梶本 直樹 中村 達之 |
発明の名称 | 車両用駆動力制御装置 |
代理人 | 大庭 弘貴 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |
代理人 | 中村 広希 |