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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24D
管理番号 1311784
審判番号 不服2015-10851  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-09 
確定日 2016-03-03 
事件の表示 特願2012-118489「切断用ブレード及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月9日出願公開、特開2013-244546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年5月24日を出願日とする出願であって、
平成26年2月28日付けで審査請求がなされ、
平成26年11月13日付けで拒絶理由通知(同年同月18日発送)がなされ、
これに対して平成27年1月16日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、
同年3月2日付けで上記平成26年11月13日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年同月10日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願は特許をすべきものである、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成27年6月9日付けで審判請求がなされた。
その後、当審合議体より平成27年9月17日付け拒絶理由通知(同年同月24日発送)がなされ、
これに対して同年11月24日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 本願発明の認定

本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年11月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(下線は、請求人が付したもの)

(本願発明)
「 金属結合相に砥粒が分散された基層を有する円形薄板状のブレード本体を備えた切断用ブレードであって、
前記砥粒の粒径は、6/12μm?40/60μmであり、
前記ブレード本体の厚さ方向を向く側面から前記砥粒が突出される突き出し量が、平均0.5μm?4μmとされており、
前記ブレード本体の厚さ方向に沿う前記基層の外側に、無電解めっき又は電気めっきによりめっき層が形成されることで、前記突き出し量が設定され、
前記ブレード本体の両側面には、該ブレード本体を厚さ方向に貫通しない有底の凹溝が周方向にずらされて形成され、
前記凹溝内にも前記めっき層が形成されており、
前記めっき層が形成された前記凹溝の深さをd、前記ブレード本体の厚さをtとして、比d/tが10?50%であることを特徴とする切断用ブレード。」


第3 引用文献・引用発明の認定
1.引用文献1の記載事項及び引用発明
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年9月17日付けの拒絶理由通知において引用した、特開2004-136431号公報(公開日:平成16年5月13日、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

A 「【0025】
【発明の実施の形態】
〔第一の実施形態〕
以下より、本発明の一実施の形態にかかる電鋳薄刃砥石について、図1から図3を用いて説明する。図1は本実施形態にかかる電鋳薄刃砥石を示す図であって、(a)は平面図、(b)は一部拡大縦断面図、図2及び図3は本実施形態にかかる電鋳薄刃砥石の製造工程を概略的に示す図である。
本実施の形態にかかる電鋳薄刃砥石1は、図1(a)に示すように、円環平板形状の砥石本体2を有している。この砥石本体2の外周縁には、複数のスリット1aが形成されている(スリット1aは形成しなくてもよい)。
この砥石本体2は、NiやNi基合金等からなる金属結合相3内に、ダイヤモンドやcBN等の砥粒4(超砥粒)を分散配置して形成されたものであって、図1(b)に示すように、円環平板形状をなす砥粒層6と、砥粒層6の厚み方向の一面を覆う第一埋め込みめっき層7とによって構成されている。
ここで、第一埋め込みめっき層7も、NiやNi基合金等によって構成されるものである。
【0026】
この電鋳薄刃砥石1は、砥石本体2において径方向外側の領域(図1(a)において二点鎖線よりも径方向外側の領域)がワークの切削に作用する切削作用領域Cとされている。
砥石本体2のうち、少なくとも切削作用領域Cにおいては、厚み方向を向く面2a、2bにおける金属結合相3表面からの砥粒4の突出量Pが砥粒4の平均粒径の1/4以下とされている。本実施の形態では、砥粒4として粒径4/6μmのダイヤモンド粒(平均粒径4.2μm)を用いており、厚み方向を向く面2a、2bからの砥粒4の突出量は、1.0μm以下としている。
【0027】
このように構成される電鋳薄刃砥石1の砥石本体2の製造工程は、砥粒層6を形成する砥粒層形成工程と、砥粒層6上にさらに第一埋め込みめっき層7を形成する埋め込みめっき層形成工程とを有している。」

B 「【0028】
〔砥粒層形成工程〕
砥石本体2の原型となる砥粒層6は、図2に概略的に示す砥石製造装置10を用いて製造される。
砥石製造装置10は、攪拌機が配設されためっき槽11を有している。めっき槽11内には、非導電性の台座12が略水平に配置され、台座12上にはステンレス製の平面基板13(台金)が載置され、めっき槽11内の平面基板13の上方には、平面基板13と平行にしてニッケル製の陽極板14が配置されている。平面基板13の上面には、製造すべき電鋳薄刃砥石1の砥石本体2の原型形状をなす部分を残してマスキングが施されている。
【0029】
この砥石製造装置10により、電解めっきによって電鋳薄刃砥石1の製造を行う場合には、ステンレス製の平面基板13を電源の陰極に、陽極板14を電源の陽極に接続し、めっき液として、砥粒4であるダイヤモンド粉末が分散されためっき液Mを攪拌機によって攪拌しながら通電する。そして、平面基板13のマスキングを施さなかった部分に、図3に実線で示すように、砥粒4を含む所望の厚さの砥粒層6を析出させた後、平面基板13をめっき槽11から取り出す。
ここで、このようにして得られた砥粒層6において、平面基板13に対向する面とは反対側の面であるめっき成長面6aでは、図3に示すように、砥粒4の配置は不規則であって、めっき成長面6aからの砥粒4の突出量は一定ではない。なお、砥粒層6において、平面基板13に対向する面は、砥石本体2の厚み方向の一面2aをなす。
【0030】
〔埋め込みめっき層形成工程〕
次に、この平面基板13上の砥粒層6にめっき処理を施して、図3に二点鎖線で示すように砥粒層6のめっき成長面6a上に第一埋め込みめっき層7を形成する。
このめっき処理は、電解めっきであってもよく、また、無電解めっきであってもよい。ここでは、このめっき処理を、砥粒層形成工程と同じく砥石製造装置10を用いた電解めっきによって行っている。具体的には、砥粒層6の形成された平面基板13を、砥粒層形成工程で用いためっき液Mとは砥粒4が分散されていない以外は同じ組成のめっき液の入っためっき槽に移してめっき処理を行うことで、砥粒4を含まない第一埋め込みめっき層7を砥粒層6上に形成する。
この工程で形成する第一埋め込みめっき層7の厚みDは、砥粒層6のめっき成長面6aから突出する超砥粒4が少なくともその粒径の3/4以上埋め込まれるだけの厚みとされる。本実施の形態では、全ての砥粒4がその粒径の3/4以上埋め込まれるよう、第一埋め込みめっき層7の厚みDは、砥粒4の平均粒径の1/2、すなわち2.1μmとしている。
このようにして得られた第一埋め込みめっき層7の表面が、砥石本体2の厚み方向の他面2bを構成する。」

C 「【0063】
【実施例】
ここで、本発明にかかる電鋳薄刃砥石の切削性能を評価するために、以下の切削性能試験を行った。
まず、本発明の第一の実施の形態にかかる電鋳薄刃砥石1の切削性能試験を行った。この切削性能試験では、第一の実施の形態にかかる電鋳薄刃砥石1として、砥石本体2の厚み方向の両面における砥粒4の突出量Pを砥粒4の平均粒径の1/4としたもの(以下、実施例1とする)と、実施例1と同形状で砥粒4の突出量Pを平均粒径の1/8としたもの(以下、実施例2とする)とを用意し、これらによってシリコン生ウェーハ、リチウムタンタレート、石英ガラスの切断を行った。
【0064】
これら実施例1、2の砥石本体2は、第一の実施の形態で述べた製造方法によって製造されたものであって、前記砥石製造装置10において、めっき液Mとして、ダイヤモンド粒を分散したスルファミン酸ニッケル液を用いてめっき処理を行って円板状の砥粒層6を作成し、この砥粒層6に砥粒4を含まないスルファミン酸ニッケル液中でめっきを施してこの砥粒層6上に第一埋め込みめっき層7を形成し、さらにこの砥粒層6と第一埋め込みめっき層7との積層体をプレスによって整形して内径を所望の径とし、円筒研削盤によって整形して外径を所望の径とすることによって製造した。
【0065】
ここで、これら実施例1、2としては、ワークの種類によってそれぞれ適切な粒径の砥粒4を用いた適切な寸法のものを用意した。実施例1、2において、シリコンの生ウェーハの切断に用いるものでは、砥粒4の粒径を4/6μm(平均粒径4.2μm)とし、砥石本体2は、内径40mm、外径52mm、厚み30μmとしており、実施例1では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは2.0μmとし、実施例2では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは2.5μmとした。この実施例1、2の砥石本体2は、いずれも砥粒4の含有率が25vol%(すなわち集中度100)であった。
【0066】
また、実施例1、2において、リチウムタンタレートの切断に用いるものでは、砥粒4の粒径を6/12μm(平均粒径8.5μm)とし、砥石本体2は、内径40mm、外径54mm、厚み50μmとしており、実施例1では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは4.3μmとし、実施例2では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは5.4μmとした。この実施例1、2の砥石本体2は、いずれも砥粒4の含有率が33vol%(すなわち集中度130)であった。
【0067】
そして、実施例1、2において、石英ガラスの切断に用いるものでは、砥粒4の粒径を20/30μm(平均粒径22.4μm)とし、砥石本体2は、内径40mm、外径56mm、厚み100μmとしており、実施例1では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは11.2μmとし、実施例2では、第一埋め込みめっき層7の厚みDは14.2μmとした。この実施例1、2の砥石本体2は、いずれも砥粒4の含有率が20vol%(すなわち集中度80)であった。」

上記摘記事項A?Cより、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「NiやNi基合金等からなる金属結合層3内に砥粒4が分散配置されて形成された円環平板形状をなす砥粒層6と、砥粒層6の厚み方向の一面を覆う第一埋め込みめっき層7とが、ステンレス製の平面基板13(台金)に設けられた電鋳薄刃砥石であって、
前記砥粒の粒径は、4/6μm(平均粒径4.2μm)、6/12μm(平均粒径8.5μm)、20/30μm(平均粒径22.4μm)のいずれかとされ、
前記第一埋め込みめっき層は、全ての砥粒4がその粒径の3/4以上埋め込まれるよう、第一埋め込みめっき層7の厚みDが決められている、
電鋳薄刃砥石。」

2.引用文献2の記載事項
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年9月17日付けの拒絶理由通知において引用した、実願昭61-9779号(実開昭62-121061号)のマイクロフィルム(公開日:昭和62年7月31日、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

D「この考案は、薄肉の円板状をなし、切断もしくは溝加工用として用いられる電鋳薄刃砥石に関するものである。」(第2ページ第7行?9行)

E「[考案の目的]
この考案は、上記事情に鑑みてなされたもので、高速研削を行っても発熱や目詰まりを発生することのない電鋳薄刃砥石を提供することを目的とするものである。
[問題点を解決するための手段]
この考案の電鋳薄刃砥石は、軸線方向の両側面に、それぞれ外周縁から内方に向けて延びかつ上記軸線方向の深さ寸法が上記軸線方向の全厚さ寸法の1/2以下とされた溝を、円周方向に沿って交互に、かつ一方の側面に形成する溝が他方の側面に形成する溝と互いに上記軸線方向に一致しない位置に形成したものである。」(第3ページ第7行?19行)

3.引用文献3の記載事項
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年9月17日付けの拒絶理由通知において引用した、実願昭61-3855号(実開昭62-117066号)のマイクロフィルム(公開日:昭和62年7月25日、以下、「引用文献3」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

F「さらに、第5図および第6図は、この考案の電鋳薄刃砥石の第四実施例を示すもので、この例の電鋳薄刃砥石においては、第3図に示した溝と同様の傾斜した溝9・・・が両側面5、5にそれぞれ円周方向に沿って交互に、かつ一方の側面5に形成された溝9・・・が他方の側面5に形成された溝9・・・と互いに軸線方向に一致しない位置に形成されている
したがって、この例の電鋳薄刃砥石によれば、上記第一ないし第三実施例に示したものと同様の作用効果が得られるうえ、さらに多数の溝10・・・を形成してもその砥石強度の低下を招く恐れがないといった優れた効果も得ることができる。
[実験例]
第5図および第6図に示す形状の溝を有する3層構造の本考案に係る電鋳薄刃砥石と、単層構造を有する2種類の従来の電鋳薄刃砥石とを用いて研削試験を行った。
第1表は、それぞれの電鋳薄刃砥石の仕様、寸法、並びに研削条件およびその結果を示すものである。」(第11ページ第14行?第12ページ第14行)

G(第13ページ)


4.引用文献4の記載事項
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成27年9月17日付けの拒絶理由通知において引用した、実願昭55-77611号(実開昭57-3562号)のマイクロフィルム(公開日:昭和57年1月9日、以下、「引用文献4」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。)

H「2.実用新案登録請求の範囲
・・・(中略)・・・
(4) 刃先部分の表裏を所定間隔で凹部に削除して凹凸を形成してなる実用新案登録請求の範囲第1項記載の回転砥石刃。」(明細書第1ページ)

I「一般に、切削砥石の一種として、薄い鋼等の円板からなる台金の外周縁に、ダイヤモンド砥粒を電着したり、焼付けによつて接着してなるものがある。これは薄くとも腰が強く、また切味もすぐれているという利点を有する。ところが、単なる板状の台金に砥粒を接着しただけでは、砥粒間が緻密であるため、最初は切味がよくてもすぐに目詰り状態となり、切削焼け、切削割れなどを起こす欠点があつた。
本考案はこのような欠点のないものを得ることを目的とするものである。そのため、刃先部分が表裏交互に実質的な凹凸を有するように形成してなるものである。」(同第2ページ第1行?13行)

J「(1)は、薄い鋼の台金で、この台金(1)の外周縁の刃先部分は、第2図に示すように、表裏交互に凹部(2)と凸部(3)をもつてジグザグに形成する。」(同第2ページ第16行?18行)

K「つぎにこの凹凸部(2)(3)に、ダイヤモンド砥粒(4)を電着の方法で接着する。このダイヤモンド砥粒(4)の接着方法は、電着すなわち電気メツキ法によるニツケルボンドの他、ブロンズボンドなどのメタルボンドで行なうのが超硬金属の加工用回転砥石刃としてはすぐれている。」(同第3ページ第2行?7行)

また、本考案による回転砥石刃の実施例であって、周縁の部分的拡大平面図を図示したとされる第2図には、両面の凹部(2)内に黒く示された電着(電気メッキ)が施されている様を看取できる。


第4 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「NiやNi基合金等からなる金属結合層3」、「砥粒4」は、各々本願発明の「金属結合相」、「砥粒」に相当する。また、これら金属結合層と砥粒は、砥粒が「分散され」ている点も一致しているので、引用発明の「砥粒層6」は、本願発明の「基層」に相当する。
また、引用発明の「ステンレス製の平面基板13(台金)」は、本願発明の「ブレード本体」に相当する。そして、引用発明の「電鋳薄刃砥石」と本願発明の「切断用プレート」とは、外形形状が前者は「円環平板形状」で、後者は「円形薄板状」と一致し、加えて、引用発明の「台金」とされる「平面基板13」に「円環平板形状をなす砥粒層6」が「設けられ」ている様は、本願発明の「基層を有する」とされた「円形薄板状のブレード本体」に相当する。
更に、引用発明の「前記砥粒の粒径は、6/12μm(平均粒径8.5μm)、20/30μm(平均粒径22.4μm)のいずれかとされ」は、本願発明の「前記砥粒の粒径は、6/12μm?40/60μmであり」に相当する実施例が示されている。
また更に、引用発明の「砥粒層6の厚み方向の一面を覆う第一埋め込みめっき層7」は、本願発明の「前記ブレード本体の厚さ方向に沿う前記基層の外側に」、「めっきにより」「形成され」たとする「めっき層」に相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
「金属結合相に砥粒が分散された基層を有する円形薄板状のブレード本体を備えた切断用ブレードであって、
前記砥粒の粒径は、6/12μm、20/30μmであり、
前記ブレード本体の厚さ方向に沿う前記基層の外側に、無電解めっき又は電気めっきによりめっき層が形成された、切断用ブレード。」

(相違点1)
本願発明では、「前記ブレード本体の両側面には、該ブレード本体を厚さ方向に貫通しない有底の凹溝が周方向にずらされて形成され」、かつ「前記凹溝内にも前記めっき層が形成され」ており、「前記めっき層が形成された前記凹溝の深さをd、前記ブレード本体の厚さをtとして、比d/tが10?50%である」ともしているのに対して、引用発明の「電鋳薄刃砥石」の両側面には、有底の凹溝が形成されず、めっきを含んだ溝の深さも不知である点。

(相違点2)
「砥粒」の「突き出し量」に関し、本願発明では、「前記ブレード本体の厚さ方向を向く側面から前記砥粒が突出される突き出し量が、平均0.5μm?4μmとされ」かつ、「前記ブレード本体の厚さ方向に沿う前記基層の外側に、無電解めっき又は電気めっきによりめっき層が形成されることで、前記突き出し量が設定され」たものとしているのに対して、引用発明では「前記第一埋め込みめっき層は、全ての砥粒4がその粒径の3/4以上埋め込まれるよう、第一埋め込みめっき層7の厚みDが決められている」とされている点。


第5 判断

上記相違点1ないし2について検討する。

(相違点1について)
切断ないし研削加工用とされた回転砥石(ブレード)に対する構造上の工夫として、目詰まり防止等のために両面に交互に有底の凹溝を設けるとした技術的特徴は、上記「第3 引用文献・引用発明の認定」の2.ないし4.に示した引用文献2、3、4に記載があるとおり、当業者に周知のものであり、引用発明にこのような有底の凹溝を設けることは必要に応じて適宜選択しうる事項にすぎない。
この前提で、相違点1に挙げた他の事項、すなわち、
-「前記凹溝内にも前記めっき層が形成され」る事項、
-「前記めっき層が形成された前記凹溝の深さをd、前記ブレード本体の厚さをtとして、比d/tが10?50%である」と定める事項、
の双方が容易想到とできるのか否かについて、更に検討を進める。
凹溝を形成する公知の手法は一様ではなく、引用文献2および3に記載のものでは、引用文献2では第2図とされる断面図、引用文献3では同じく第6図からみて、溝内に砥粒層を伴っていないと見てとれる。他方で引用文献4は第2図図示から看取できる事項として上記「第3 引用文献・引用発明の認定」の4.に記したとおり、有底凹部の形成後に電気メッキによる砥粒の接着を施していることから、凹溝内にもめっき層の形成がなされた状況を示している。
とすれば、引用発明に対して引用文献2ないし4のいずれかの両面交互凹溝形成を付加適用させるにあたり、台金への砥粒接着を、引用文献4に記載されたとおりの、凹溝形成後に行わしめる公知態様を選定することにより、当該凹溝内へのめっき層形成は必然的に生じるものとみられ、特段困難な事項ではないと判断される。
次に、凹溝の深さをブレード本体厚さに対して、10?50%の範囲に設定する事項について検討する。
上記「第3 引用文献・引用発明の認定」の2.のE、3.のFに各々示したとおり、本願出願前に、電鋳薄刃砥石へ設ける凹溝の深さは、砥石の剛性からみてある適性範囲の目安があるとした知見が公知とされている。かかる知見は、本願明細書の【0015】に言及された、ブレード本体の強度や剛性の確保と全く同じ観点であるといえる。
そして、引用文献2ではブレード本体の厚さ寸法の1/2以下、すなわち、本願発明が特定している範囲の上限が示され、また、引用文献3の記載事項Gに掲載された実施例の態様では、全体の厚さが0.26mm、溝の深さ40μmであることから、その比は40/260≒15.4%である実例が掲載されている。
そうすると、これら引用文献2ないし3の記載事項を参考として、形成する凹溝15.4%を適値として含みつつ、上限を50%以下と定めることにより、当該相違点1に含まれる比d/tが10?50%を導出することは、当業者にとりさほど困難とはいえない。
以上のことをまとめると、当該相違点1に含まれる凹溝形成に必要な事項は、いずれも引用文献2ないし4に記載の事項を参考とし、引用発明に適宜適用せしめることにより、当業者が容易になし得た程度といえる。

(相違点2について)
本願発明も引用発明も、基層(引用発明では砥粒層6)上にめっき層(引用発明では第一埋め込みめっき層7)が設けられていること、そのめっき層の厚みが砥粒の突き出し量を特定値にするよう選ばれていることで、両者は構造上違いは無い。
そして、本願発明では、砥粒の突き出し量を「平均0.5μm?4μm」の範囲として絶対量で示し、引用発明では「全ての砥粒4がその粒径の3/4以上埋め込まれるよう」に定めたとする、砥粒サイズを基準とした相対設定がなされている点で、記載形式上の相違は存在する。
ところで、引用発明において、砥粒のサイズが「6/12μm」の実施例が示されているところ、「砥粒4がその粒径の3/4以上埋め込まれる」ことは、粒径の1/4未満の突き出し量になることを意味するから、前述の砥粒サイズに当てはめると、引用発明の突き出し量は、6/12μmの砥粒の平均粒径が8.5μmとされていることから見て、突き出し量はおよそ2.1μm未満ということになる。そして、研磨をする以上ある程度の突き出し量が必要であることは明らかであるので、引用発明において、1μm、2μm程度の突き出し量とすることは十分想到しうる事項である。さらに大きな粒径であればより突き出し量を大きくすることも十分想到しうる。
してみると、砥粒の突き出し量を「平均0.5μm?4μm」とした点に格別の点は認められない。

上記で検討したごとく、当該相違点1ないし2は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び引用文献2ないし4にて公知の技術的事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2ないし4にて公知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものと認められる。


第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その出願に係る出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。従って、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-28 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-19 
出願番号 特願2012-118489(P2012-118489)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 西村 泰英
渡邊 真
発明の名称 切断用ブレード及びその製造方法  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  
代理人 山崎 哲男  

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