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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1311807
異議申立番号 異議2015-700126  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-29 
確定日 2016-01-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5708637号「アミド化合物の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5708637号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5708637号の請求項1?3に係る特許についての出願は、2011年3月15日(優先権主張2010年3月15日、同年3月31日、同年7月30日、同年11月10日、日本国)を国際出願日として特許出願され、平成27年3月13日に特許権の設定登録がされ、同年4月30日にその特許公報が発行され、その後、同年10月29日に特許異議申立人エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第5708637号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、
製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)と、
を含むラウロラクタムの製造方法であって、
前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、
前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを特徴とする、ラウロラクタムの製造方法。
【請求項2】前記ベックマン転位触媒がハロゲン原子を含むことを特徴とする請求項1記載のラウロラクタムの製造方法。
【請求項3】前記有機溶媒が芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1または2記載のラウロラクタムの製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2009/069522号
甲第2号証:国際公開第2008/096873号

2 特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された以下の甲第2号証(主引用例)に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本件発明1及び2は、本件優先日前に頒布された以下の甲第3号証(主引用例)に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2009/069522号
甲第2号証:国際公開第2008/096873号
甲第3号証:英国特許第1128178号明細書
甲第4号証:化学大辞典編集委員会編,「化学大辞典1」,縮刷版第30刷,共立出版,1987年2月15日,p.244,p.418

3 特許法第36条第6項第1号(以下「理由3」という。)
本件発明1?3は、以下(i)及び(ii)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0247】の表1、段落【0249】の表2及び段落【0256】の表3において、本件発明1に不純物として規定されるアルドキシム化合物(ベンズアルドキシム)、アミドキシム化合物(ベンズアミドキシム)の存在が、ベックマン転位反応の転化率の低下につながることが示されている。しかしながら、他の不純物、すなわち、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物が0.4モル%を上回る量で存在することの転化率に与える影響については何ら具体的に記載されていない。むしろ、上記表からは、アルデヒド化合物(ベンズアルデヒド)、ニトリル化合物(ベンゾニトリル)等は、直接には影響を及ぼさないことが看取できる。さらにいえば、上記不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下に制限することの技術的意味について、発明の詳細な説明の記載から理解することができない。したがって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1に記載された不純物がシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下なる数値の範囲内であれば、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体例又は説明が記載されていないことから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。
本件発明2及び3についても同様である。

(ii)本件発明1は、溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下であること、並びにオキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを特徴とする、達成すべき結果により規定された発明である。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例A23において、溶媒リサイクル工程において単蒸留を5回繰り返して行うことが具体的に記載されているのみであり、その他、どのような手段により、上記不純物をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることができるのか全く記載されておらず、またその手段を用いるに当たっての具体的な条件等の記載もない。したがって、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。
本件発明2及び3についても同様である。

4 特許法第36条第4項第1号(以下「理由4」という。)
発明の詳細な説明は、以下(i)及び(ii)の点で、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0247】の表1、段落【0249】の表2及び段落【0256】の表3において、本件発明1に不純物として規定されるアルドキシム化合物(ベンズアルドキシム)、アミドキシム化合物(ベンズアミドキシム)の存在が、ベックマン転位反応の転化率の低下につながることが示されている。しかしながら、他の不純物、すなわち、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物が0.4モル%を上回る量で存在することの転化率に与える影響については何ら具体的に記載されていない。むしろ、上記表からは、アルデヒド化合物(ベンズアルデヒド)、ニトリル化合物(ベンゾニトリル)等は、直接には影響を及ぼさないことが看取できる。さらにいえば、上記不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下に制限することの技術的意味について、発明の詳細な説明の記載から理解することができない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
本件発明2及び3についても同様である。

(ii)本件発明1は、溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下であること、並びにオキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを特徴とする、達成すべき結果により規定された発明である。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例A23において、溶媒リサイクル工程において単蒸留を5回繰り返して行うことが具体的に記載されているのみであり、その他、どのような手段により、上記不純物をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることができるのか全く記載されておらず、またその手段を用いるに当たっての具体的な条件等の記載もない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
本件発明2及び3についても同様である。

第4 当審の判断

1 理由1について

(1)甲号各証の記載

ア 甲第1号証
(1a)「[1](a)シクロドデカノンと水溶液中のヒドロキシルアミンとを、有機溶媒(以下、オキシム化溶媒という)の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
(b)前記オキシム化工程後の反応液を油相と水相に分離し、シクロドデカノンオキシムの溶液を油相として取得する工程(以下、油/水分離工程という)と、
(c)前記油/水分離工程により油相として取得した前記シクロドデカノンオキシムの溶液からオキシム化溶媒の一部又は全部と、溶解水分を除去し、下記転位反応に用いる溶媒(以下、転位溶媒という)と前記シクロドデカノンオキシムを含有する溶液を調製する工程(以下、脱水・溶媒調製工程という)と、
(d)芳香環含有化合物を転位触媒として用いて、転位反応により、シクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを生成する工程(以下、転位工程という)と、
(e)前記転位工程後の反応液から、転位溶媒および転位触媒を分離除去し、ラウロラクタムを精製する工程(以下、分離・精製工程という)と
を有することを特徴とするラウロラクタムの製造方法。
[2]転位触媒として用いられる有機化合物が、芳香環含有化合物であって該芳香環が(1)芳香環を構成する原子として脱離基を有する炭素原子を少なくとも1つ含み、(2)芳香環を構成する原子として、電子吸引基を有する炭素原子を少なくとも2つ含み、(3)芳香環を構成する窒素原子または電子吸引基を有する炭素原子のうち3つが(1)記載の脱離基を有する炭素原子のオルトあるいはパラ位に位置する構造を有することを特徴とする請求項1記載のラウロラクタムの製造方法。
[3]芳香環がベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環であって、脱離基としてハロゲン原子を含むことを特徴とする請求項2記載のラウロラクタムの製造方法。」(21頁、請求の範囲の請求項1?3)
(1b)「技術分野
[0001]本発明は、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンから、工業的に有利で簡便なプロセスによりラウロラクタムを製造する方法に関する。」
(1c)「背景技術
[0002]工業的にアミド化合物を製造する方法としては、対応するオキシム化合物をベックマン転位する方法が一般的である。例えば、工業的に有用であるε-カプロラクタムはシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位によって製造される。転位触媒には濃硫酸および発煙硫酸が用いられるが、これら強酸は化学量論量以上に必要であり、中和の際に大量の硫酸アンモニウムが副生する。ナイロン12の原料であるラウロラクタムも同様の方法で製造されるが、中間生成物であるシクロドデカノンオキシムが高融点であるため、製造プロセスはさらに複雑である。ε-カプロラクタムの製造では、シクロヘキサノンオキシム、ε-カプロラクタムとも比較的低融点であるため、無溶媒でオキシム化、転位を行うことができるが、ラウロラクタムの製造では反応溶媒が必要となる。この反応溶媒はシクロドデカノンオキシムの溶解度が高いこと、濃硫酸、発煙硫酸と反応しないことが必須であり、その選択は非常に制約される。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0007]一方、近年、大量の硫酸、発煙硫酸を用いない転位触媒の研究も盛んに行われている。・・・触媒、溶媒が特殊であり、その回収・リサイクル方法等も明確ではなく、工業的プロセスとして完成されてはいない。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0009]・・・実用可能な工業的プロセスを構築するには、オキシム化工程を含め、原料から最終製品に至るまでの各工程を考慮した溶媒及びプロセスの選定が必要である。」
(1d)「発明が解決しようとする課題
[0011]本発明は、シクロドデカノンおよびヒドロキシルアミンから、簡単な工程により効率よくラウロラクタムを製造する方法を提供することを目的とする。また、安価な設備の組み合わせでラウロラクタムを製造するプロセスを提供することを目的とする。」
(1e)「発明の効果
[0023]本発明では、濃硫酸や発煙硫酸を用いないため、硫安等の副生物が生成せず、従来に比べ、中和、抽出分離、蒸留回収工程等の工程が大幅に削減され、簡単なプロセスでラウロラクタムを製造することができる。
[0024]また、オキシム化溶媒、転位溶媒として、それぞれの反応に適した溶媒を選択するため、オキシム化、転位反応を短時間に完結させ、高収率でラウロラクタムを得ることができる。
[0025]さらに、本発明の好ましい態様においては、転位溶媒に熱的、化学的に安定な非極性有機溶媒を用いるため、高収率で容易に溶媒を回収、リサイクルすることができる。」
(1f)「[0028]オキシム化工程は、シクロドデカノンとヒドロキシルアミン水溶液を、等モルずつ反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程である。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0031]生成するシクロドデカノンオキシムは高融点であるため、オキシム化反応には溶媒が必要である。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
[0034]シクロドデカノンオキシムの溶解性に優れる溶媒であってもシクロドデカノン及び/又はヒドロキシルアミンと反応する溶媒は除外される。例えば、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応し、ケトキシム、アルドキシムを生成するため、使用できない。ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成する。アミドもヒドロキシルアミンと付加体を生成する。一方、アミンはシクロドデカノンと反応し、シッフベースを形成する。これらの溶媒はシクロドデカノンオキシムの溶解性が良好であっても、除外される。
[0035]オキシム化溶媒としては、シクロドデカノンオキシムの溶解性に優れ、シクロドデカノン及び/又はヒドロキシルアミンと反応しない溶媒が使用できる。・・・
[0036]従って、オキシム化溶媒としては、好ましくは、例えば脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等が挙げられる。」
(1g)「[0053]オキシム化溶媒と転位溶媒が同一である場合、その溶媒は、芳香族炭化水素、縮合芳香環水添物、側鎖を有する脂環式炭化水素が好ましい。」
(1h)「[0056]転位触媒として使用される芳香環含有化合物は、(1)芳香環を構成する原子として脱離基を有する炭素原子を少なくとも1つ含み、(2)芳香環を構成する原子として、電子吸引基を有する炭素原子を少なくとも2つ含み、(3)芳香環を構成する窒素原子または電子吸引基を有する炭素原子のうち3つが(1)記載の脱離基を有する炭素原子のオルトあるいはパラ位に位置する有機化合物が好ましい。
[0057]芳香環としては・・・特にベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環が好ましい。
[0058]脱離基としては・・・特に、ハロゲン原子が好ましく、中でも塩素原子が好ましい。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0061]特に好ましくは・・・トリクロロトリアジンは高活性で安価であり、特に好適である。
[0062]なお、塩化水素等の酸類を助触媒として添加することによって、転位反応速度を向上させることができる。・・・塩化亜鉛は反応速度向上効果が顕著であり、特に好ましい。」
(1i)「[0063]転位反応は、溶媒の存在下で行われる。上記および下記において、転位反応に使用される溶媒を転位溶媒という。より詳細には、シクロドデカノンオキシム溶液が転位工程に送られるときにシクロドデカノンオキシムを溶解している溶媒である。転位溶媒に必要な要件は(1)シクロドデカノンオキシム及びラウロラクタムの溶解性に優れていること、(2)前記転位触媒を溶解し、転位触媒と反応しないこと、(3)回収、リサイクルが容易で熱的、化学的安定性が高いことである。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0067]・・・転位溶媒は、非極性溶媒が好ましい。非極性溶媒は触媒の分離・除去が容易でラウロラクタムの品質へ悪影響を及ぼさない。また、蒸留回収が容易で回収ロスが小さく好適である。非極性溶媒のなかでも、芳香族炭化水素、縮合芳香環水添物および脂環式炭化水素(特に、側鎖を有する脂環式炭化水素)が好ましい。芳香族炭化水素としては・・・特に、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが好ましい。」
(1j)「実施例
[0078]次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例は本発明の実施態様の一例を示すものであり、本発明は本実施例に限定されるものではない。また、実施例1?4、即ち、オキシム化溶媒と転位溶媒が異なる場合のプロセスフローを図1に示し、実施例5、即ち、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一の場合のプロセスフローを図2に示す。
[0079][実施例1]
(オキシム化・油/水分離工程)
内部が4室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積30Lの枕型オキシム化第1反応器に、ヒドロキシルアミン硫酸塩(和光純薬工業社製)の15重量%水溶液を3kg/h及びオキシム化第2反応器から送液される油相をフィードした。反応温度を80℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を63g/hでフィードしオキシム化反応を行った。反応液には1kg/hでトルエンを加えた後分液し、シクロドデカノン、2-プロパノール、トルエンからなる油相は脱水・溶媒調製工程へ送り、水相はオキシム化第2反応器へフィードした。オキシム化第2反応器は15Lで内部が4室に分割された枕型反応器で、前記オキシム化反応液水相と25重量%のシクロドデカノンの2-プロパノール溶液4kg/h(第1反応器へのヒドロキシルアミン硫酸塩と等モル量)を同反応器にフィードし、反応温度を80℃に設定し、各室に25重量%アンモニア水を31g/hでフィードしオキシム化反応を行った。得られた反応液は分液し、油相はオキシム化第1反応器にフィードした。水相には650g/hでトルエンを加え、向流抽出で水中に溶解している2-プロパノール、シクロドデカノンオキシムを回収し、脱水・溶媒調製工程へ送った。
[0080]2-プロパノール、シクロドデカノンオキシムを回収した水相は濃縮し、析出する硫酸アンモニウムを取得後、廃水として処理した。
[0081](脱水・溶媒調製工程)
本工程は2つの蒸留装置から構成される。前記油/水分離工程で得られたシクロドデカノンオキシムを第1蒸留装置に送り、2-プロパノール及び溶解している水を留去した。留出液はシクロドデカノンの溶媒としてオキシム化工程にリサイクルした。第1蒸留装置残液は第2蒸留装置に送り、塔頂より微量の水及び2-プロパノールを含むトルエンを留出させ、第1蒸留装置にリサイクルした。残液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、2-プロパノールは検出されなかった。また、カールフィシャー法で水分濃度測定した結果50ppmであった。残液は転位工程にフィードした。
[0082](転位工程)
内部が3室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積10Lの枕型反応容器に、前工程で取得したシクロドデカノンオキシムのトルエン溶液および3重量%のトリクロロトリアジンのトルエン溶液をそれぞれ2700g/h、1000g/hでフィードし、90℃で転位反応を行った(平均滞留時間1.9時間)。流出液の一部を採取しガスクロマトグラフィーで分析した結果、ラウロラクタムの生成量は1039g/hであり、シクロドデカノンを基準にしたラウロラクタムの収率は96.2%であった。
[0083](触媒除去工程)
転位工程で得られた反応液を攪拌槽型洗浄槽に導き、転位液の0.2倍量(重量比)の水を加え水洗、分液後、さらに10重量%の水酸化ナトリウム水溶液を0.5倍量(重量比)加えて洗浄し、油/水分離を行った。
[0084](シクロドデカノン回収・ラウロラクタム精製工程)
分離された油相を連続式減圧蒸留装置に導き、まず水、軽質副生物および溶媒のトルエンを除去した。釜残は第2の蒸留装置に導き、ラウロラクタムを留出させた。釜残は第3蒸留装置に導き、ラウロラクタムからなる留出は第2の蒸留装置にリサイクルし、釜残は一部を切捨て、大部分は触媒除去工程にリサイクルした。8時間の連続運転を行い、純度99.5%のラウロラクタムを取得した。消費したシクロドデカノンに対する収率は94.5モル%であった。
[0085][実施例2]
転位工程における3重量%トリクロロトリアジンのトルエン溶液フィード量を330g/hに変え、新たに10重量%塩化亜鉛のトルエン、ラウロラクタム溶液(トルエンとラウロラクタムの比率は1/1(重量/重量))を75g/hフィードした以外は実施例1と同様に反応を行った。転位工程までのラウロラクタム収率は97.5%、蒸留後のラウロラクタム収率は96.0%、純度は99.98%であった。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0089][実施例5]
オキシム化溶媒としてアルコールを用いず、トルエンを溶媒としてオキシム化を行った。シクロドデカノンのトルエン溶液、硫酸ヒドロキシルアミン水溶液及びアンモニア水のフィード量は全て実施例2の1/2とし、反応温度を95℃とした。反応終了後約650g/hの留出速度でトルエンを抜き出すことで溶液中の溶解水分を除いた。脱水後の水分濃度は50ppmであり、シクロドデカノンの残存率は1.0モル%だった。転位反応槽へのシクロドデカノンオキシム溶液、トリクロルトリアジン溶液及び塩化亜鉛溶液のフィード量を全て実施例2の1/2とし、転位反応を行い、水洗、水酸化ナトリム水溶液洗浄を行った。転位反応後のラウロラクタム収率は95.1%、蒸留後のラウロラクタム収率は94.0%、純度は99.3%であった。」
(1k)「

」(図面2/2頁、図2)

イ 甲第2号証
(2a)「[1](a)シクロドデカノンと水溶液中のヒドロキシルアミンとを、過剰のシクロドデカノンの存在下または溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
(b)前記オキシム化工程後の反応液を油相と水相に分離し、シクロドデカノンオキシムの溶液を油相として取得する工程(以下、油/水分離工程という)と、
(c)前記油/水分離工程により油相として取得した前記シクロドデカノンオキシムの溶液から溶解水分を除去する工程(以下、脱水工程という)と、
(d)芳香環含有化合物を転位触媒として用いて、転位反応により、シクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを生成する工程(以下、転位工程という)と、
(e)前記転位工程後の反応液から、生成したラウロラクタムを分離し、精製する工程(以下、分離・精製工程という)と
を有することを特徴とするラウロラクタムの製造方法。
[2]前記芳香環含有化合物の芳香環が、(1)芳香環を構成する原子として脱離基を有する炭素原子を少なくとも1つ含み、(2)芳香環を構成する原子として、電子吸引基を有する炭素原子を少なくとも2つ含み、(3)芳香環を構成する窒素原子または電子吸引基を有する炭素原子のうち3つが(1)記載の脱離基を有する炭素原子のオルトおよびパラ位に位置する構造を有することを特徴とする請求項1記載のラウロラクタムの製造方法。
[3]前記芳香環が、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環またはトリアジン環であって、前記脱離基としてハロゲン原子を含むことを特徴とする請求項2記載のラウロラクタムの製造方法。」(26頁、請求の範囲の請求項1?3)
(2b)「技術分野
[0001]本発明は、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンから、工業的に有利で簡便なプロセスによりラウロラクタムを製造する方法に関する。」
(2c)「[0002]工業的にアミド化合物を製造する方法としては、対応するオキシム化合物をベックマン転位する方法が一般的である。例えば、工業的に有用であるε-カプロラクタムはシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位によって製造される。転位触媒には濃硫酸および発煙硫酸が用いられるが、これら強酸は化学量論量以上に必要であり、中和の際に大量の硫酸アンモニウムが副生する。ナイロン12の原料であるラウロラクタムも同様の方法で製造されるが、中間生成物であるシクロドデカノンオキシムが高融点であるため、製造プロセスはさらに複雑である。ε-カプロラクタムの製造では、シクロヘキサノンオキシム、ε-カプロラクタムとも比較的低融点であるため、無溶媒でオキシム化、転位を行うことができるが、ラウロラクタムの製造では反応溶媒が必要となる。この反応溶媒はシクロドデカノンオキシムの溶解度が高いこと、濃硫酸、発煙硫酸と反応しないことが必須であり、その選択は非常に制約される。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0007]一方、近年、大量の硫酸、発煙硫酸を用いない転位触媒の研究も盛んに行われている。・・・触媒、溶媒が特殊であり、その回収・リサイクル方法等も明確ではなく、工業的プロセスとして完成されてはいない。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0009]・・・実用可能な工業的プロセスを構築するには、オキシム化工程を含め、原料から最終製品に至るまでの各工程を考慮した溶媒及びプロセスの選定が必要である。」
(2d)「発明が解決しようとする課題
[0011]本発明は、シクロドデカノンおよびヒドロキシルアミンから、簡単な工程により効率よくラウロラクタムを製造する方法を提供することを目的とする。また、安価な設備の組み合わせでラウロラクタムを製造するプロセスを提供することを目的とする。」
(2e)「発明の効果
[0025]本発明では、濃硫酸や発煙硫酸を用いないため、硫安等の副生物が生成せず、従来に比べ、中和、抽出分離、蒸留回収工程等の工程が大幅に削減され、簡単なプロセスでラウロラクタムを製造することができる。
[0026]また、オキシム化反応、転位反応を同一の溶媒で行うため、製造プロセスが簡素化され、容易に溶媒をリサイクルすることができる。」
(2f)「[0029]ラウロラクタムの製造方法においては、転位触媒の選定が重要である。本発明に使用される転位触媒は芳香環含有化合物が好適に用いられる。転位触媒として使用される芳香環含有化合物は、(1)芳香環を構成する原子として脱離基を有する炭素原子を少なくとも1つ含み、(2)芳香環を構成する原子として、電子吸引基を有する炭素原子を少なくとも2つ含み、(3)芳香環を構成する窒素原子または電子吸引基を有する炭素原子のうち3つが(1)記載の脱離基を有する炭素原子のオルトおよびパラ位に位置する有機化合物が好ましい。
[0030]芳香環としては・・・特にベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環が好ましい。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0034]特に好ましくは・・・トリクロロトリアジンは高活性で安価であり、特に好適である。」
(2g)「[0035]本発明の製造方法において、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンが、原料として使用される。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
[0037]生成するシクロドデカノンオキシムが高融点であるため、オキシム化反応および転位反応には、シクロドデカノンオキシムを溶解する溶媒が必要である。そのため本発明では、原料のシクロドデカノンをヒドロキシルアミンに対して過剰の割合で供給して、反応にあずからない過剰のシクロドデカノンを溶媒として使用するか、原料以外の化合物を溶媒として使用して反応を行う。
[0038]以下の説明で、用語「溶媒」には、明示しないかぎり、シクロドデカノンを含まないものとする。
[0039]本発明で、好適に使用される溶媒は、オキシム化反応の溶媒(オキシム化溶媒という)として好ましく、且つ転位反応の溶媒(転位溶媒という)として好ましいものである。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0043]シクロドデカノンオキシムの溶解性に優れる溶媒であってもシクロドデカノン及び/又はヒドロキシルアミンと反応する溶媒は除外される。例えば、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応し、ケトキシム、アルドキシムを生成するため、使用できない。ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成する。アミドもヒドロキシルアミンと付加体を生成する。一方、アミンはシクロドデカノンと反応し、シッフベースを形成する。これらの溶媒はシクロドデカノンオキシムの溶解性が良好であっても、除外される。
[0044]シクロドデカノンオキシムの溶解性に優れ、シクロドデカノン及び/又はヒドロキシルアミンと反応しなければ、オキシム化溶媒として使用でき、例えば脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等が挙げられる。
・・・・・・・・・・・・・・・
[0046]・・・特に好ましいものは、適度の親水性を有する中高級アルコール、エーテル類、グライム類(エチレングリコールを縮合して得られるポリエーテル)、エステル類等がオキシム化溶媒として好適と考えられる。」
(2h)「[0047]一方、転位溶媒としては、(1)シクロドデカノンオキシム及びラウロラクタムの溶解性に優れていること、(2)前記転位触媒を溶解し、転位触媒と反応しないこと、(3)回収、リサイクルが容易で熱的、化学的安定性が高いこと、が必要である。
[0048]オキシム化溶媒として挙げた脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類およびエステル類等は、転位触媒との反応性が小さいものであれば、一般に転位溶媒としても使用できる。オキシム化溶媒として好ましい中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類の中では、次のとおり特にエステル類、3級アルコールが好ましい。」
(2i)「[0082]以上のように、触媒と分離されたラウロラクタムは、次のように精製される。まず、触媒分離として、「(1)触媒を失活させる方法」または「(2-1)蒸留により触媒を回収する方法」を採用した場合は、好ましくは、触媒を回収または分離した反応液から、シクロドデカノン(過剰に使用した場合)または溶媒を蒸留により回収し、ラウロラクタムをさらに蒸留精製する方法が一般的である。回収されたシクロドデカノンまたは溶媒は、好ましくはオキシム化工程にリサイクルされる。」
(2j)「[0085]図1のフローチャートに、「(1)触媒を失活させる方法」を採用したときの態様の1例を示す。図中、*1)「回収溶媒」、「溶媒追加分」は、溶媒を使用した場合であり、*2)「回収シクロドデカノン」は、シクロドデカノン過剰の条件でオキシム化反応を行った場合である。
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例
[0089]次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例は本発明の実施態様の一例を示すものであり、本発明は本実施例に限定されるものではない。
[0090]{実施形態A}
実施形態Aでは、ヒドロキシルアミンに対して過剰のシクロドデカノンを使用した例を説明する。
[0091][実施例A-1]
(オキシム化工程、油/水分離工程、脱水工程)
内部が4室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積10Lの枕型反応容器に、80℃に加温、溶融したシクロドデカノン(東京化成社製)と後述する回収シクロドデカノンとを合わせ1kg/h、ヒドロキシルアミン硫酸塩(和光純薬工業社製)の15.2%水溶液を1.2kg/h、でフィードし、25%アンモニア水を加えながら、水相pHを6に調整しながら、97℃で反応を行った(平均滞留時間4時間)。反応器からの流出液を冷却することなく油相と水相に分液した。
[0092]得られた油相に窒素ガスを吹き込み、油相中の水分を脱水した。脱水後の油相中の水分濃度をカールフィシャー法で測定した結果、60ppmであった。また、油相の一部を採取しガスクロマトグラフィーで分析した結果、シクロドデカノンオキシムの生成量は0.428kg/hであり、フィードしたヒドロキシルアミンを基準にした収率は97.5%であった。なお、反応および窒素吹込みの際に昇華したシクロドデカノンはサブリメーターで採取し、溶融してオキシム化反応槽にリサイクルした。
[0093](転位工程)
内部が3室に分割され、各室毎に攪拌翼が設けられた液相部容積1.5Lの枕型反応容器に、前工程で取得したシクロドデカノンオキシムのシクロドデカノン溶液および後述する回収シクロドデカノンに溶解した10重量%トリクロロトリアジン溶液をそれぞれ1.03kg/h、0.13kg/hでフィードし、92℃で転位反応を行った(平均滞留時間1.5時間)。流出液の一部を採取しガスクロマトグラフィーで分析した結果、ラウロラクタムの生成量は0.411kg/hであり、転位収率は96.0%であった。
[0094](触媒分離除去)
転位工程で得られた反応液を攪拌槽型中和槽に導き、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液を0.1kg/hの速度で加えて中和後、分離槽(滞留時間10分)で油/水分離を行った。
[0095](シクロドデカノン回収・ラウロラクタム精製工程)
分離された油相を連続式減圧蒸留装置に導き、まず水、軽質副生物、シクロドデカノンを除去した。この微量の水分を含むシクロドデカノンはオキシム化工程にリサイクルした。釜残は第2の蒸留装置に導き、シクロドデカノンおよびラウロラクタムを留出させた。ラウロラクタムを含む釜残は触媒除去工程にリサイクルした。第2の蒸留装置の留出分を第3の蒸留塔に送り、シクロドデカノンとラウロラクタムを分離した。塔頂から留出したシクロドデカノンは転位工程にリサイクルしてトリクロロトリアジンの溶解に用いた。8時間の連続運転を行い、消費したシクロドデカノンに対し、92モル%のラウロラクタムを取得した。」
(2k)「

」(図面1/3頁、図1)

(2)甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明

ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンからラウロラクタムを製造する方法について記載した特許文献であり(摘示(1a)?(1e))、請求項1には、オキシム化工程と転位工程を含む(a)?(e)の5つの工程を有するラウロラクタムの製造方法の発明が記載されている(摘示(1a))。オキシム化工程の溶媒(オキシム化溶媒)、転位工程の溶媒(転位溶媒)、転位触媒の説明がされ(摘示(1f)?(1i))、転位溶媒の要件の一つとして、回収、リサイクルが容易であることが挙げられ(摘示(1i))、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であってよく、その場合、芳香族炭化水素が好ましいことが記載されている(摘示(1g))。そして、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一である場合の実施例である実施例5に関し、プロセスフローを示す図2には、転位工程の後、後処理を経て、回収した溶媒を、オキシム化工程にリサイクルすることが記載されている(摘示(1j)(1k))。
してみると、甲第1号証には、その請求項1に係る発明の一態様として、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程を含む、以下の
「(a)シクロドデカノンと水溶液中のヒドロキシルアミンとを、有機溶媒(以下、オキシム化溶媒という)の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
(b)前記オキシム化工程後の反応液を油相と水相に分離し、シクロドデカノンオキシムの溶液を油相として取得する工程(以下、油/水分離工程という)と、
(c)前記油/水分離工程により油相として取得した前記シクロドデカノンオキシムの溶液からオキシム化溶媒の一部又は全部と、溶解水分を除去し、下記転位反応に用いる溶媒(以下、転位溶媒という)と前記シクロドデカノンオキシムを含有する溶液を調製する工程(以下、脱水・溶媒調製工程という)と、
(d)芳香環含有化合物を転位触媒として用いて、転位反応により、シクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを生成する工程(以下、転位工程という)と、
(e)前記転位工程後の反応液から、転位溶媒および転位触媒を分離除去し、ラウロラクタムを精製する工程(以下、分離・精製工程という)と
を有するラウロラクタムの製造方法であって、
オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程を含む、上記製造方法。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証は、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンからラウロラクタムを製造する方法について記載した特許文献であり(摘示(2a)?(2e))、請求項1には、オキシム化工程と転位工程を含む(a)?(e)の5つの工程を有するラウロラクタムの製造方法の発明が記載されている(摘示(2a))。オキシム化工程の溶媒(オキシム化溶媒)、転位工程の溶媒(転位溶媒)、転位触媒の説明がされ(摘示(2f)?(2i))、転位溶媒の要件の一つとして、回収、リサイクルが容易であることが挙げられ(摘示(2h))、過剰のシクロドデカノンを溶媒として使用できること(摘示(2g))、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であってよく、その場合、エステル類、3級アルコールが好ましいことが記載されている(摘示(2g)(2h))。そして、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり過剰のシクロドデカノンである場合の実施例である実施例A-1に関し、プロセスフローを示す図1には、転位工程の後、後処理を経て、回収した溶媒を、オキシム化工程にリサイクルすることが記載されている(摘示(2j)(2k))。図1は、溶媒が過剰のシクロドデカノンである場合のみならず、シクロドデカノンでない溶媒を用いる場合にも適用できるプロセスフローとして記載されている(摘示(2g)(2j)(2k))。
してみると、甲第2号証には、その請求項1に係る発明の一態様として、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程を含む、以下の
「(a)シクロドデカノンと水溶液中のヒドロキシルアミンとを、過剰のシクロドデカノンの存在下または溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
(b)前記オキシム化工程後の反応液を油相と水相に分離し、シクロドデカノンオキシムの溶液を油相として取得する工程(以下、油/水分離工程という)と、
(c)前記油/水分離工程により油相として取得した前記シクロドデカノンオキシムの溶液から溶解水分を除去する工程(以下、脱水工程という)と、
(d)芳香環含有化合物を転位触媒として用いて、転位反応により、シクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを生成する工程(以下、転位工程という)と、
(e)前記転位工程後の反応液から、生成したラウロラクタムを分離し、精製する工程(以下、分離・精製工程という)と
を有するラウロラクタムの製造方法であって、
オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程を含む、上記製造方法。」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本件発明1について

ア 甲1発明との対比

(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者とも「ラウロラクタムの製造方法」に関するものであって、
甲1発明の「(a)シクロドデカノンと水溶液中のヒドロキシルアミンとを、有機溶媒(以下、オキシム化溶媒という)の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)」は本件発明1の「シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)」に相当し、
甲1発明の「(d)芳香環含有化合物を転位触媒として用いて、転位反応により、シクロドデカノンオキシムからラウロラクタムを生成する工程(以下、転位工程という)」は本件発明1の「ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)」に相当し、
甲1発明の「(e)前記転位工程後の反応液から、転位溶媒および転位触媒を分離除去し、ラウロラクタムを精製する工程(以下、分離・精製工程という)」と「回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程」を合わせたものが本件発明1の「製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、
製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)と、
を含むラウロラクタムの製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1においては、「前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とする」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのような特定がされていない点

(イ)相違点についての検討
相違点1について検討する。
甲第1号証には、甲1発明における回収したリサイクルする溶媒中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。そして、甲1発明における回収したリサイクルする溶媒について、相違点1に係る「ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下」とすること、又はそのような含有量であることが、当業者の技術常識であったともいえない。
また、甲第1号証には、オキシム化工程の反応液中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。そして、甲1発明におけるオキシム化工程の反応液について、相違点1に係る「アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下」とすること、又はそのような含有量であることが、当業者の技術常識であったともいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(エ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、概略以下の主張をしている。
(i)相違点1は、達成すべき結果であって、技術的手段ではない。
(ii)本件特許明細書の段落【0252】の実施例A23では、溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物、アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量の何れも0.4モル%を大きく下回っているから、転位工程後の溶媒は何らかの手段により溶媒中に含まれる不純物の量を制御しなくとも、そもそもオキシム化工程にリサイクルすべき溶媒についての上記要件を満たしているものと考えられる。
(iii)甲第1号証の段落[0035]には、オキシム化工程において、ヒドロキシルアミンと反応する物質を溶媒から排除すべきとの教示があり、一方、アルドキシム化合物、アミドキシム化合物がニトリル、アルデヒド等の不純物とヒドロキシルアミンとの反応により生成されることが技術常識であること(甲第4号証)も考慮すれば、甲第1号証にオキシム化工程にリサイクルされるべき溶媒中の不純物に関する記載はなくとも、相違点1に係る要件が満たされている蓋然性が高い。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、何れも採用できない。
(i)の主張について
相違点1は達成すべき結果であって技術的手段ではないとする理由が示されておらず、根拠のある主張ではない。本件特許明細書には、各種不純物の量をシクロドデカノンに対し0.4モル%以下とすることの技術的意味が、段落【0059】?【0062】に記載されており、段落【0245】?【0251】の実施例及び比較例では、ベンズアミドキシムとベンズアルドキシムが転位反応に与える影響が評価され、最も影響の大きいベンズアミドキシムについて、シクロドデカノンオキシムに対し0.36モル%のときのオキシム転化率は高いが0.80モル%のときのオキシム転化率が低いことが明らかにされていることからも、特許異議申立人の主張は、根拠がない。
(ii)の主張について
根拠のない推測であり、証拠が示されていない。本件特許明細書の実施例A23と、甲第1号証の実施例に記載されている方法は、工程や条件も異なっているので、本件特許明細書の実施例A23における不純物量は、甲1発明における不純物量を推定する根拠にはならない。
(iii)の主張について
根拠のない推測であり、証拠が示されていない。甲第1号証の段落[0034]の記載は、その前後の段落の記載も併せてみると(摘示(1f))、オキシム化溶媒として好ましいものとして脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから使用できない、としているのであり、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。甲第4号証の記載は、後記2(1)エに示すが、甲第4号証は「化学大辞典」であって、そこに記載されているのは、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること、といった、一般的事項に過ぎない。

イ 甲2発明との対比

(ア)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを、上記ア(ア)と同様にして対比すると、本件発明1と甲2発明とは、
「シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、
製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)と、
を含むラウロラクタムの製造方法」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明1においては、「前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とする」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのような特定がされていない点

(イ)相違点についての検討
相違点2について検討する。
甲第2号証には、甲2発明における回収したリサイクルする溶媒中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。そして、甲2発明における回収したリサイクルする溶媒について、相違点2に係る「ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下」とすること、又はそのような含有量であることが、当業者の技術常識であったともいえない。
また、甲第2号証には、オキシム化工程の反応液中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。そして、甲2発明におけるオキシム化工程の反応液について、相違点2に係る「アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下」とすること、又はそのような含有量であることが、当業者の技術常識であったともいえない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(エ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、概略以下の主張をしている。
(i)相違点2は、達成すべき結果であって、技術的手段ではない。
(ii)本件特許明細書の段落【0252】の実施例A23では、溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物、アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量の何れも0.4モル%を大きく下回っているから、転位工程後の溶媒は何らかの手段により溶媒中に含まれる不純物の量を制御しなくとも、そもそもオキシム化工程にリサイクルすべき溶媒についての上記要件を満たしているものと考えられる。
(iii)甲第2号証の段落[0043]には、オキシム化工程において、ニトリル等のヒドロキシルアミンと反応する物質を溶媒から排除すべきとの教示があり、アルドキシム化合物、アミドキシム化合物がニトリル、アルデヒド等の不純物とヒドロキシルアミンとの反応により生成されることが記載されていることも考慮すれば、甲第2号証にオキシム化工程にリサイクルされるべき溶媒中の不純物に関する記載はなくとも、相違点2に係る要件が満たされている蓋然性が高い。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、何れも採用できない。
(i)の主張について
相違点2は達成すべき結果であって技術的手段ではないとする理由が、示されおらず、根拠のある主張ではない。上記ア(エ)bに示したとおりである。
(ii)の主張について
根拠のない推測であり、証拠が示されていない。本件特許明細書の実施例A23と、甲第2号証の実施例に記載されている方法は、工程や条件も異なっているので、本件特許明細書の実施例A23における不純物量は、甲2発明における不純物量を推定する根拠にはならない。
(iii)の主張について
根拠のない推測であり、証拠が示されていない。甲第2号証の段落[0043]の記載は、その前後の段落の記載も併せてみると(摘示(2g))、オキシム化溶媒として好ましいものとして中高級アルコール、エーテル類、グライム類(エチレングリコールを縮合して得られるポリエーテル)、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから除外される、としているのであり、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を、さらに限定したものであるから、本件発明2及び3も、本件発明1と同様に、本件優先日前に頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(5)理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

2 理由2について

(1)甲号各証の記載

ア 甲第1号証の記載事項は、上記1(1)アに記載したとおりである。

イ 甲第2号証の記載事項葉、上記1(1)イに記載したとおりである。

ウ 甲第3号証
訳文により示す。
(3a)「1.ω-ラウロラクタムを有機溶媒中の溶液から回収する方法であって、蒸留の条件においてω-ラウロラクタムの沸点と分離すべき溶媒の沸点の中間の沸点を有する追加の液体を存在させて蒸留を行うことを含む、上記方法。
2.追加の液体の沸点がω-ラウロラクタムの融点より高い、請求項1に記載の方法。
3.追加の液体がシクロドデカノンである、請求項1又は2に記載の方法。
・・・・・・・・・・・・・・・
6.追加の液体がリサイクルされる、請求項1?5の何れかに記載の方法。
7.追加の液体が蒸留カラム中間部にラクタム溶液とは別に供給される、請求項1?6の何れかに記載の方法。
8.追加の液体の量がラクタム100重量部に対し5?30重量部である、請求項1?7の何れかに記載の方法。
9.追加の液体の量がラクタム100重量部に対し5?15重量部である、請求項8に記載の方法。
10.ラクタム溶液が特許第1,088,812号に記載される方法により得られたものである、請求項1?9の何れかに記載の方法。」(4頁、請求の範囲の請求項1?3、6?10)
(3b)「ω-ラウロラクタムの製造においては、通常、適当な有機溶媒中の溶液として得られ、ω-ラウロラクタムを単離するために、その溶液は水洗され、蒸留される。
液相中で硫酸又は発煙硫酸を用いてシクロドデカノンオキシムのベックマン転位反応を行うことにより、ω-ラウロラクタムを連続的に生成する一つの方法が、英国特許第1,088,812号明細書(出願番号4530/66)に記載され、かつ特許請求されており、それは以下の工程含む:
(a)抽出工程において、溶媒中のオキシムの溶液(この溶媒は硫酸又は発煙硫酸と不混和性である)と濃硫酸又は発煙硫酸とを、0℃?60℃の温度、特に20℃?50℃の温度で、付加された熱及びオキシムと硫酸との組合せにより形成された熱を除去しながら混合し;
(b)溶媒不含でオキシムを含む液体の硫酸相を、オキシム不含の溶媒相と分離し;
(c)オキシム-硫酸相を転位工程に移し、オキシムを60℃?140℃の温度、特に90℃?120℃の温度でラクタムに転位させ;
(d)ラクタムと硫酸との混合物を、水と溶媒(この溶媒は、抽出工程において使用されたものと同じ溶媒であってもよい)とを同時に添加しながら加水分解工程に移し;
(e)ラクタム含有溶媒相を、ラクタム不含の希硫酸相から分離し;かつ
(f)ラクタム含有溶媒相を洗浄し、かつこれを分画蒸留により後処理する。
上述の方法又は他の方法により得られたラクタムを含有する溶媒相を洗浄したものを蒸留するに際して、かなりの困難があることがわかった。カラム底部の温度をできるだけ低く保つために(なぜならボトム温度で重合損失が急速に起こる)、溶媒の分離はかなりの減圧で行わなければならない。この減圧は、ラクタム溶媒混合物の沸点がラクタムの融点(152℃)より低くなることを引き起こし、溶媒の蒸発に際してカラムの中で固体結晶の分離が起こる。」(1頁9?64行)
(3c)「我々は、洗浄したラクタム含有溶媒相の蒸留を、その沸点が、ω-ラウロラクタムの沸点と分離すべき溶媒の沸点の中間にあり、有利にはラクタムの融点(152℃)より上にある追加の液体を存在させることにより、より有利に行うことができることを見出した。
この追加の液体の機能は:
(1)それはラクタムよりかなり低い沸点であるために、ボトム温度を下げて重合を減らすか、同じボトム温度でより高いカラム内圧での蒸留を可能にする;
(2)それを加えることで、より高圧及び高沸点で蒸留され、ラクタムの溶媒への溶解度が増すので、カラム内での結晶化を防ぐ。
(3)それを加えることで、ブラインを使わなくとも溶媒がカラムのトップで濃縮されるように蒸留条件が変わる。
適した追加の液体は、中間沸点物質ともいうが、高沸点溶媒又はそれらの混合物、つまり、ラクタムの融点である152℃より高温で蒸留条件下で沸騰するもので、例えばジイソプロピルシクロヘキサン、シクロドデカン及びシクロドデカノンであり;シクロドデカノンは、粗ラクタムが合成からの少量のこの物質を含むことがあり、後で追加の液体と共に直接回収できるので、特に適している。
中間沸点物質として用いられる溶媒は、好ましくはリサイクルされる。追加の液体は、蒸留プラントに、例えば蒸留カラムの中間部に、ラクタム合成工程からのラクタム含有溶媒相とは別に供給される。しかし、ラクタム溶液中に、又は合成の加水分解工程後のどの時点でも混合して蒸留されるべき製品と均一な混合物として蒸留プラントに供給してもよい。つまり、追加の液体の追加は、ラクタムの製造とは独立である。追加の液体の量は、様々である;一般には、ラクタム100重量部に対し5?30重量部、好ましくは5?15重量部である。」(1頁65行?2頁37行)
(3d)「しかし、このプロセスは、上述の特許の単一溶媒のサイクルを用いる態様で特に適しており、以下に述べる。」(2頁38?42行)
(3e)「すでに説明したように、シクロドデカノンオキシムは溶液の形で使用される;この溶液は溶媒の存在下でケトンをオキシムにオキシム化することによって得ることができるが、さらに引き続いてオキシム化混合物を溶媒で抽出するか、あるいは場合によっては適当な方法で単離されたオキシムを溶媒に溶解することによって得ることもできる。」(2頁43?52行)
(3f)「溶媒は、少なくとも高温で、適当なオキシム及びラクタムの溶解度を有するべきである;抽出工程で用いられる温度で硫酸又は発煙硫酸に安定であるべきである;抽出工程で用いられる温度で硫酸又は発煙硫酸に不混和であるべきである。
好適な溶媒は、脂環式炭化水素、特にヒドロクメンであるが、適した沸点の範囲を有する脂肪族炭化水素も使用することができる。」(2頁53?65行)
(3g)「任意の適した溶媒が、加水分解により遊離したラクタムを取り込むのに使用できるように思われるが、第1の分離容器中で分離された純粋な溶媒を、さらなる精製工程において溶媒をラクタムのためのキャリアとする目的で、直接、加水分解容器に返送し、そして、ラクタムを蒸留により分離した後にオキシム化工程に返送してもよい。
特に適した態様では、2つの溶媒サイクルが用いられ、つまり、第1の分離容器からの溶媒は、次にオキシム化工程へ戻される。」(3頁94?107行)
(3h)「実施例
ヒドロクメン中のシクロドデカノンオキシムの約30%溶液を、2.3kg/hで、約90℃の供給温度で連続的に、加熱された計量レシーバーを介して、抽出プラントとして使用される2Lの攬絆容器中に装入する。 同時に、0.87kg/hの96%硫酸を、別の計量レシーバーを介して、激しく攪拌しながら加え、抽出容器の温度を冷却により40℃に保つ。
内容物の体積は、約1.0Lに、有利にはオーバーフローにより、調節し、滞留時間は約20分とする。
ヒドロクメンとオキシム-硫酸の混合物を約3.2kg/hで抜き出し、分離フラスコ中で40℃で約30分の時間で2相に分離させる。
オキシム不含のヒドロクメンを、以下に述べる加水分解場所に直接送り、1.6kg/hのオキシム-硫酸(特に溶媒不含)は、転位プラントとしての別の2L攪拌容器であって内容物がオーバーフローパイプにより1.2Lに保たれている容器に、流入させる。転位容器の温度は冷却により115?117℃に保たれる。この供給条件での滞留時間は60分である。
ラクタム-硫酸からなる混合物は、約1.6kg/hで転位容器のオーバーフローパイプから抜き出され、加水分解工程のための攪拌容器中で、約2.5kg/hの水と激しく攪拌され、ヒドロクメンと共にが約90?100℃で抜き出される。滞留時間は約30分である。
加水分解混合物は、約5.7kg/hでオーバーフローパイプを介して次の分離フラスコに導入される。ここで、約90?100℃及び約30分の滞留時間で、分離が起こり、約2.3kgの約30%ラクタムのヒドロクメン中の溶液と、約3.3kgの約25%硫酸とに分かれる。熱い廃酸は約0.3%の溶解ラクタムを含む。これは、熱い酸をラクタムが晶出するように冷却して回収してもよいし、ヒドロクメンを加水分解工程の前に適当な容器中で廃酸を洗浄するのに用いてもよい。
第2の分離フラスコから抜き出されたラクタム溶液は、公知の方法で、1段又は多段の洗浄プロセスにかけられ、次に、蒸留プラントに供給される。
溶媒の分離のための第1のカラムに、0.10kgのシクロドデカノンを、有利にはカラムの中間部にラクタム溶液と共に導入する。ヒドロクメンは、このカラムの塔頂から約62℃及び約60torrで抜き出され、ラクタムとシクロドデカノンからなるボトム製品は、第2のカラムに供給し、ここでシクロドデカノンが塔頂から約118℃及び約3torrで分離され、これは再び第1のカラムに追加の液体として供給される。第2カラムのボトル製品として得られる粗ラクタムは、次に第3のカラムで蒸留精製される。
1時間当たり0.70kgの98%シクロドデカノンオキシムの供給量で、1時間当たり0.656kgの蒸留された融点151?152℃、ハーセン色数5?10の純粋なラクタムが得られる。
これは、理論値の約95.5%の収率に相当する。」(4頁21?107行)

エ 甲第4号証
(4a)「アミドキシム,オキシアミジン[^(英)amidoxime,oxamidine ^(独)Amidoxim,Oxamidin]
・・・・・・・・・・・・・・・
左の一般式で表わされる化合物.互変異性体が考えられる.
製法 1)ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させる.
・・・・・・・・・・・・・・・
2)イミノエーテル,またはチオアミドにヒドロキシルアミンを作用させる.3)ヒドロキシム酸クロリド,またはオキシイミノエーテルにアンモニアを作用させる.4)ニトロソオキシムを硫化水素で還元する. 性質 不安定な結晶性物質.容易に分解してヒドロキシルアミンと相当する酸アミド,または酸になる.例.ホルムアミドキシム^(*),アセトアミドキシム^(*) などがある.」(244頁右欄「アミドキシム」の項)
(4b)「アルドオキシム,アルドキシム[^(英)aldoxime ^(独)Aldoxim] アルデヒドのオキシム.製法 アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させる.
・・・・・・・・・・・・・・・
性質 低融点の結晶または液体(→オキシム). 例 アセトアルドキシム,ホルムアルドキシム,ベンズアルドキシムなど.」(418頁右欄「アルドオキシム」の項)

(2)甲第1号証?甲第3号証に記載された発明

ア 甲第1号証に記載された発明は、上記1(2)アに記載したとおりである。

イ 甲第2号証に記載された発明は、上記1(2)イに記載したとおりである。

ウ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証は、ω-ラウロラクタム溶液から蒸留によりω-ラウロラクタムを回収することについて記載した特許文献であり(摘示(3a)?(3d))、請求項1?3には、該溶液にシクロドデカノンのような追加の液体を存在させて蒸留を行う方法の発明が記載されている。請求項10には、ラクタム溶液が特許第1,088,812号に記載される方法により得られたものであると特定された発明が記載されている(摘示(3a))。該特許は、シクロドデカノンオキシムを液相中で硫酸又は発煙硫酸を用いてベックマン転位してオキシムの溶液を得て蒸留することについて(a)?(f)の6つの工程によるものであると説明され(摘示(3b))、甲第3号証に係る発明は、この方法での蒸留における欠点を、シクロドデカノンのような追加の液体を存在させることにより解決するものであると説明されている(摘示(3c)(3d))。甲第3号証には、オキシム溶液はケトンのオキシム化により得られたものでよいこと(摘示(3e))、オキシム溶液の好適な溶媒がヒドロクメンであること(摘示(3f))、ラクタムの蒸留により分離される溶媒をオキシム化工程へ戻してよいこと(摘示(3g))が記載されている。そして、実施例には、ヒドロクメン中のシクロドデカノンオキシムの溶液から出発して、上記特許の(a)?(f)の6つの工程を行い、その蒸留の際にシクロドデカノンを蒸留プラントの第1カラム中間部に導入したこと、溶媒のヒドロクメンはその第1のカラムの塔頂から抜き出されたことが記載されているが、オキシム化工程へリサイクルすることについては具体的に記載されていない(摘示(3h))。
してみると、甲第3号証には、その請求項10に係る発明として、以下の
「ω-ラウロラクタムを有機溶媒中の溶液から回収する方法であって、以下の(a)?(f)の工程によりラクタム溶液を得て蒸留するに当たり、蒸留の条件においてω-ラウロラクタムの沸点と分離すべき溶媒の沸点の中間の沸点を有する追加の液体を存在させて蒸留を行うことを含む、上記方法;
(a)抽出工程において、溶媒中のオキシムの溶液(この溶媒は硫酸又は発煙硫酸と不混和性である)と濃硫酸又は発煙硫酸とを、0℃?60℃の温度、特に20℃?50℃の温度で、付加された熱及びオキシムと硫酸との組合せにより形成された熱を除去しながら混合し;
(b)溶媒不含でオキシムを含む液体の硫酸相を、オキシム不含の溶媒相と分離し;
(c)オキシム-硫酸相を転位工程に移し、オキシムを60℃?140℃の温度、特に90℃?120℃の温度でラクタムに転位させ;
(d)ラクタムと硫酸との混合物を、水と溶媒(この溶媒は、抽出工程において使用されたものと同じ溶媒であってもよい)とを同時に添加しながら加水分解工程に移し;
(e)ラクタム含有溶媒相を、ラクタム不含の希硫酸相から分離し;かつ
(f)ラクタム含有溶媒相を洗浄し、かつこれを分画蒸留により後処理する。」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本件発明1について

ア 甲1発明との対比・判断

(ア)本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記1(3)アに記載したとおりである。

(イ)相違点についての検討
相違点1について検討する。
甲第1号証には、甲1発明における回収したリサイクルする溶媒中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。甲第1号証には、摘示(1f)によれば、オキシム化溶媒として好ましいものとして脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから使用できない、とする記載があるが、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。また、甲第1号証には、オキシム化工程の反応液中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。
甲第4号証には、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること(摘示(4a))、及び、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること(摘示(4b))が、記載されているが、一般的事項に過ぎない。
したがって、甲1発明に、甲第4号証に記載された事項を組み合わせても、甲1発明において、その、回収したリサイクルされる溶媒について、相違点1に係る「ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすること、及び、そのオキシム化工程の反応液について、相違点1に係る「アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
本件特許明細書の段落【0044】には、発明の効果として「本発明によれば、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる副生物およびその前駆物質を溶媒から除去することにより、少量の触媒を用いて高収率でアミド化合物を得ることができる。さらに本発明によれば、簡便な方法で、高い純度を有する高品質のアミド化合物を得ることができる」と記載され、続く段落【0045】には「本発明により、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる不純物、光透過率差の上昇に繋がる不純物、およびアミド化合物の重合率の低下に繋がる不純物が明らかとなり、これら不純物の除去方法も見出された。本発明は下記第1?第3の態様により、より高品質なアミド化合物、特にラクタムを製造する方法に関する」と記載されている。
段落【0050】?【0067】の記載によれば、相違点1に係る特定の不純物は、ベックマン転位反応を阻害する不純物である。各種不純物の量をシクロドデカノンに対し0.4モル%以下とすることの技術的意味が、段落【0059】?【0062】に記載されている。
そして、段落【0236】?【0252】の実施例Aを参照すると、以下のように具体的に試験がされている。
段落【0245】?【0251】の実施例及び比較例では、ベンズアミドキシムとベンズアルドキシムが転位反応に与える影響が評価され、最も影響の大きいベンズアミドキシムについて、シクロドデカノンオキシムに対し0.36モル%のときのオキシム転化率は高いが0.80モル%のときのオキシム転化率が低いことが明らかにされている。
段落【0237】?【0243】の参考例A1及び段落【0252】の実施例A23では、ベックマン転位触媒が塩化チオニル触媒の場合について、転位反応液を水洗及び触媒除去して得たラウロラクタムのトルエン溶液の不純物を分析し(参考例A1)、また、このラウロラクタムのトルエン溶液から、エバポレーターでトルエン回収を行った後、単蒸留して留出液を取得して、これをオキシム化工程にリサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行うことを、5回繰り返したときの、ラウロラクタムのトルエン溶液の不純物を分析し(実施例A23)、リサイクルする1回目の留出液の分析及び5回目の留出液の分析を行っており(実施例A23)、回収トルエンを単蒸留することでリサイクルする留出液中のアルデヒド、ニトリル、ハロゲン化物、アルコールの量を低くでき、単蒸留した留出液をオキシム化工程リサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行うことを5回繰り返したときに、触媒活性の低下や顕著な副生物の蓄積が認められなかったことが確認されている。
段落【0244】の参考例A2では、ベックマン転位触媒がトリクロロトリアジン触媒の場合について、参考例A1と同様の分析がされている。
以上によれば、本件発明1は、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる副生物及びその前駆物質をリサイクルする溶媒から除去することにより、少量の触媒を用いて高収率でアミド化合物を得ることができるという、効果を奏するものである。
そして、この効果は、リサイクルされる溶媒中の不純物に何ら着目するものではない甲第1号証及び甲第4号証の記載から、当業者が予測することができないものである。

(エ)したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、概略以下の主張をしている。
(i)シクロドデカノンオキシムをトルエン等の芳香族炭化水素中でベックマン転位させた場合に、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物が生成され得ること、さらにこれらの不純物がヒドロキシルアミノと反応することは当業者によく知られており技術常識であり(甲第4号証)、甲第1号証にはオキシム化溶媒としてヒドロキシルアミノと反応する溶媒を避けるべきことが教示されており(段落[0035])、溶媒をリサイクルするに当たり前工程において生成した不純物を可能な限り排除すべきことも当業者に一般的に知られた事項であり技術常識であるから、甲第1号証には、転位溶媒を回収してオキシム化工程にリサイクルするに当たり、蒸留によりハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物を取り除くことが教示されているといえる。上記不純物の含有量をシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とすることも、当業者が目的に応じて設定し得るものであり、設計的事項に過ぎない。
(ii)アルドキシム、アミドキシムは、それぞれアルデヒドやニトリルとヒドロキシルアミノとの反応によって生成することは当業者によく知られており技術常識である(甲第4号証)から、リサイクルされるべき溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の含有量を制限することにより、オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を制限できることは自明である。上記不純物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることも、当業者が目的に応じて設定し得るものであり、設計的事項に過ぎない。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、何れも採用できない。
(i)の主張について
特許異議申立人は、シクロドデカノンオキシムをトルエン等の芳香族炭化水素中でベックマン転位させた場合に、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物が生成され得ることが技術常識であることの証拠を示していない。
甲第4号証に記載されているのは、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること、また、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること、といった、一般的事項に過ぎない。
甲第1号証の段落[0034]の記載は、その前後の段落の記載も併せてみると(摘示(1f))、オキシム化溶媒として好ましいものとして脂環式炭化水素、縮合芳香環水添物、芳香族炭化水素、中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから使用できない、としているのであり、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。
そして、甲第1号証には、転位工程の後、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルすることについては、図2に概念的に記載されているが、リサイクルする溶媒の不純物に着目したり精製すべきことについて何の記載も示唆もない。
また、溶媒をリサイクルするに当たり前工程において生成した不純物を可能な限り排除すべきであるという技術常識が存在するともいえない。
よって、上記不純物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ii)の主張について
甲第4号証に記載されているのは、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること、また、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること、といった、一般的事項に過ぎないから、甲1発明において、リサイクルされるべき溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の含有量を制限することにより、オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

イ 甲2発明との対比・判断

(ア)本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、上記1(3)イに記載したとおりである。

(イ)相違点についての検討
相違点2について検討する。
甲第2号証には、甲2発明における回収したリサイクルする溶媒中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。甲第2号証には、摘示(2g)によれば、オキシム化溶媒として好ましいものとして中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから使用できない、とする記載があるが、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。また、甲第2号証には、オキシム化工程の反応液中に、どのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。
甲第4号証には、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること(摘示(4a))、及び、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること(摘示(4b))が、記載されているが、一般的事項に過ぎない。
したがって、甲2発明に、甲第4号証に記載された事項を組み合わせても、甲2発明において、その、回収したリサイクルされる溶媒について、相違点2に係る「ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすること、及び、そのオキシム化工程の反応液について、相違点2に係る「アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
本件発明1の効果は、上記ア(ウ)に記載したとおりである。
そして、この効果は、リサイクルされる溶媒中の不純物に何ら着目するものではない甲第2号証及び甲第4号証の記載から、当業者が予測することができないものである。

(エ)したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、概略以下の主張をしている。
(i)シクロドデカノンオキシムをトルエン等の芳香族炭化水素中でベックマン転位させた場合に、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物が生成され得ることは当業者によく知られており技術常識であり(甲第4号証)、甲第2号証にはオキシム化溶媒としてヒドロキシルアミノと反応する溶媒を避けるべきことが教示されており(段落[0043])、溶媒をリサイクルするに当たり前工程において生成した不純物を可能な限り排除すべきことも当業者に一般的に知られた事項であり技術常識であるから、甲第2号証には、転位溶媒を回収してオキシム化工程にリサイクルするに当たり、蒸留によりハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物を取り除くことが教示されているといえる。上記不純物の含有量をシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とすることも、当業者が目的に応じて設定し得るものであり、設計的事項に過ぎない。
(ii)アルドキシム、アミドキシムは、それぞれアルデヒドやニトリルとヒドロキシルアミノとの反応によって生成することが知られている(甲第4号証)から、リサイクルされるべき溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の含有量を制限することにより、オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を制限できることは自明である。上記不純物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることも、当業者が目的に応じて設定し得るものであり、設計的事項に過ぎない。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、何れも採用できない。
(i)の主張について
特許異議申立人は、シクロドデカノンオキシムをトルエン等の芳香族炭化水素中でベックマン転位させた場合に、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の不純物が生成され得ることが技術常識であることの証拠を示していない。
甲第4号証に記載されているのは、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること、また、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること、といった、一般的事項に過ぎない。
甲第2号証の段落[0043]の記載は、その前後の段落の記載も併せてみると(摘示(2g))、オキシム化溶媒として好ましいものとして中高級アルコール、エーテル類、グライム類、エステル類等を挙げるとともに、ケトン、アルデヒドはヒドロキシルアミンと反応しケトキシム、アルドキシムを生成し、ニトリルはヒドロキシルアミンと反応しアミドキシムを生成するから使用できない、としているのであり、リサイクルされる溶媒中に含まれるアルデヒドやニトリルの量に関し、何ら示唆するものではない。
そして、甲第2号証には、転位工程の後、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルすることについては、図1に概念的に記載されているが、リサイクルする溶媒の不純物に着目したり精製すべきことについて何の記載も示唆もない。
また、溶媒をリサイクルするに当たり前工程において生成した不純物を可能な限り排除すべきであるという技術常識が存在するともいえない。
よって、上記不純物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを当業者が容易に想到できたとはいえない。
(ii)の主張について
甲第4号証に記載されているのは、アミドキシムの製法の一つが、ニトリルにヒドロキシルアミンを作用させることであること、また、アルドキシムの製法が、アルデヒドにヒドロキシルアミンを作用させることであること、といった、一般的事項に過ぎないから、甲2発明において、リサイクルされるべき溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物等の含有量を制限することにより、オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量をシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

ウ 甲3発明との対比・判断

(ア)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「ω-ラウロラクタム」は、本件発明1の「ラウロラクタム」に相当するから、両者は、「ラウロラクタムの製造方法」に関するものである点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明1においては、ラウロラクタムの製造方法が、以下の工程を含むと特定されているのに対し、甲3発明においては、これらの工程を含むと特定されたものではない点
「シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、
製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)」
(相違点4)
本件発明1においては、「前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とする」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのような特定がされていない点

(イ)相違点についての検討

a 相違点3について検討する。
甲第3号証には、具体例の記載はないものの、オキシム溶液はケトンのオキシム化により得られたものでよいことが記載されている(摘示(3e))。また、甲第3号証には、具体例の記載はないものの、ラクタムの蒸留により分離される溶媒をオキシム化工程へ戻してよいことが記載されている(摘示(3g))。
一方、甲第1号証及び甲第2号証には、何れにも、本件発明1のオキシム化工程、転位工程及び溶媒リサイクル工程に相当する工程を有するラウロラクタムの製造方法であって、オキシム化溶媒と転位溶媒が同一であり、回収した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程を含む、ラウロラクタムの製造方法の発明が記載されている。
しかし、甲3発明の方法は、その(a)?(f)の工程により、オキシム溶液に濃硫酸又は発煙硫酸を混合して、オキシム含有硫酸相を溶媒相と分離し、オキシム含有硫酸相を転位工程でラクタムに転位させ、これに水と有機溶媒を添加して加水分解し、ラクタム含有溶媒相を得て、これを洗浄、蒸留してラウロラクタムを得るものであるのに対し、甲第1号証及び甲第2号証に記載された方法は、その(b)?(e)の工程により、オキシム含有溶液は油相すなわち有機溶媒溶液として、芳香環含有化合物を転位触媒として用いてラクタムに転位させ、この反応液から転位溶媒及び転位触媒を分離除去して、ラウロラクタムを精製するものであって、甲3発明の方法と、甲第1号証及び甲第2号証に記載された方法は、両立し得ないものである。
してみると、甲3発明において、オキシム溶液としてケトンのオキシム化により得られたものを用い、ラクタムの蒸留により分離される溶媒をオキシム化工程へ戻すこととすることまでは、当業者が容易に想到できるとしても、甲3発明に甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明を組み合わせる動機付けとなるものが存在しないから、相違点3に係る
「シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と、
ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、
製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)」
の工程を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

b 次に、相違点4について検討する。
甲第3号証には、ラクタムの蒸留により分離される溶媒をオキシム化工程へ戻してよいことが記載されているが(摘示(3g))、一般的な記載にとどまり、実際に戻したことは記載されていない。上記溶媒にどのような不純物がどのような量で含まれているのかも記載されていない。また、甲第3号証には、オキシム化工程の反応液中にどのような種類の不純物がどのような量で含まれているのかは、記載されていない。
そして、甲3発明に甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明を組み合わせる動機づけとなるものが存在しない。
したがって、甲3発明において、オキシム化工程に戻す溶媒について、相違点4に係る「ハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすること、及びそのオキシム化工程の反応液について、相違点4に係る「アルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下」とするという構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到できたとはいえない。

(ウ)発明の効果について
本件発明1の効果は、上記ア(ウ)に記載したとおりである。
そして、この効果は、リサイクルされる溶媒中の不純物に何ら着目するものではない甲第3号証、甲第1号証及び甲第2号証の記載から、当業者が予測することができないものである。

(エ)したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(オ)特許異議申立人の主張について

a 特許異議申立人は、甲第3号証には以下の甲3発明(特許異議申立書14頁)が記載されているとし、以下の一致点(同23?24頁)並びに相違点5及び6(同24頁)があるとして、その相違点5及び6は以下のように想到容易であると主張している。
甲3発明:
「ケトンからヒドロクメン等の溶媒の存在下でシクロドデカノンオキシムを生成するオキシム化工程と、
ベックマン転位触媒を用いて、前記溶媒の存在下でオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程と、
製造されたラウロラクタムと前記溶媒とを蒸留により分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程とを含む、
ラウロラクタムの製造方法において、
前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のアルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量が、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下であり、
前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量が、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下である、
前記方法。」
一致点:
「B:ベックマン転位触媒を用いて、シクロドデカノンオキシムをベックマン転位させることによりラウロラクタムを製造する工程(以下、転位工程という)と、C:製造されたラウロラクタムと溶媒とを分離し、分離した溶媒をオキシム化工程にリサイクルする工程(以下、溶媒リサイクル工程という)とを含む、D:ラウロラクタムの製造方法であって、E:前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のアルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、F:前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすることを特徴とする、ラウロラクタムの製造方法」
相違点5:
オキシム化工程について、本件発明1は「A:シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを、有機溶媒の存在下で反応させ、シクロドデカノンオキシムを生成する工程(以下、オキシム化工程という)と」と規定するのに対して、甲3発明は、シクロドデカノンオキシムを生成するにあたり、シクロドデカノンとヒドロキシルアミンとを反応させることが明らかでない点
相違点6:
Eの構成のうち、本件発明1は「E:溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のアルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし」と規定するのに対して、甲3発明は、ハロゲン化物の含有量についての具体的な記載がない点
相違点5について:
工業的にシクロドデカノンオキシムを生成するに当たりシクロドデカノンとヒドロキシルアミンとの反応により生成することは一般的であり、甲第1号証、甲第2号証及び本件特許明細書にも記載されているから、相違点5は想到容易である。
相違点6について:溶媒をリサイクルするに当たり蒸留等の手段により可能な限りハロゲン化物等の不純物を取り除くことは技術常識であり、その含有量を原料に対して0.4モル%以下とすることは当業者が任意に設定し得る事項であるから、相違点6は想到容易である。

b しかし、特許異議申立人が甲第3号証に記載されているとする甲3発明は、甲第3号証に記載されたまとまりのある技術思想を表したものではなく、具体的に記載されてもいない工程を都合良く列挙し、具体的に記載されてもいない不純物量を根拠なく証拠も示さずに記載したものであって、甲第3号証にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
特許異議申立人がいう一致点も、特許異議申立人が甲第3号証に記載されているとする甲3発明が誤っているから、誤っている。
そして、仮に、特許異議申立人がいう相違点5及び6について判断するとしても、特許異議申立人の主張は、甲第3号証に記載された発明について、それらの相違点に係る構成を備えたものとすることが想到容易であると、根拠及び証拠を示さずに主張するものであって、採用することができない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を、さらに限定したものであるから、本件発明2及び3も、本件発明1と同様に、本件優先日前に頒布された甲第1号証及び項第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件優先日前に頒布された甲第2号証及び項第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、本件発明2は、本件優先日前に頒布された甲第3号証、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、本件発明1及び2は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由2によって取り消されるべきものではない。

3 理由3について

(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。

(2)特許異議申立人の主張
上記第3の3(i)及び(ii)に記載したとおりである。

(3)本件発明1について

ア 本件発明1の課題について
本件特許明細書の段落【0002】?【0013】の、背景技術の記載、段落【0015】の、発明が解決しようとする課題についての「本発明は、オキシムをベックマン転位させアミド化合物を製造する方法であって、硫酸アンモニウムなどの副生物を大量に副生せず、より高品質のアミド化合物およびその製造方法を提供することを目的とする」との記載、段落【0044】の、発明の効果についての「本発明によれば、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる副生物およびその前駆物質を溶媒から除去することにより、少量の触媒を用いて高収率でアミド化合物を得ることができる。さらに本発明によれば、簡便な方法で、高い純度を有する高品質のアミド化合物を得ることができる」との記載、段落【0045】の「本発明により、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる不純物、光透過率差の上昇に繋がる不純物、およびアミド化合物の重合率の低下に繋がる不純物が明らかとなり、これら不純物の除去方法も見出された」との記載、及び段落【0050】?【0067】の、ベックマン転位反応を阻害する不純物についての記載によれば、本件発明1において「前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とする」と特定されている不純物は、後段がベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる副生物(ベックマン転位反応を阻害する不純物)で、前段がその前駆物質である。
そうすると、本件発明1の課題は、オキシムをベックマン転位させラウロラクタムを製造する方法であって、硫酸アンモニウムなどの副生物を大量に副生せず、より高品質のラウロラクタムを得ることができる製造方法であって、ベックマン転位触媒の活性の低下に繋がる副生物及びその前駆物質を溶媒から除去することにより、少量の触媒を用いて高収率でアミド化合物を得ることができる製造方法を提供することであると認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載

(ア)本件特許明細書の段落【0050】?【0067】には、ベックマン転位反応を阻害する不純物の種類、成因、該不純物の前駆物質、それらの量の許容範囲、許容範囲になるように除去する方法が、記載されている。
段落【0052】には、アルドキシム、アミドキシム及びアルコールがベックマン転位反応を阻害すること、段落【0058】には、ニトリル、アルデヒド、R-CH_(2)ClやR-CHCl_(2) のような塩素化物が、アルドキシム、アミドキシムの前駆物質であることが、それぞれ記載されている。
許容範囲については、段落【0062】に
「転位反応への影響を避けるため、溶媒リサイクル工程によりリサイクルされる溶媒中の塩化物、アルデヒド、アルコール、ニトリルの含有量をそれぞれ、オキシム化に与る原料ケトンの使用量に対し、0.4mol%以下に抑えることが好ましく、0.1mol%以下に抑えることがより好ましい」
と記載され、段落【0059】?【0061】に
「オキシム化工程から転位工程に送られるオキシム溶液中に含まれる副生物であるアミドキシムの量は、原料ケトンの使用量に対して0.4mol%以下であることが好ましく、0.1mol%以下であることがより好ましい。
転位工程において、転位反応液中のアミドキシム含有量が多すぎると、少量の触媒量では転位反応が完結せず、オキシムが残存してしまう。なお、ベックマン転位触媒の増量によって、ベックマン転位反応を完結することは可能であるが、大量の触媒が必要になるため好ましくない。
アルドキシムやアルコールの転位反応への影響はアミドキシムと比較して軽微であるため、これらの含有量は、上記アミドキシムの許容量と同程度の範囲であればよい。」
と記載されている。
上記許容範囲になるように除去する方法については、段落【0063】?【0067】に
「上記副生物は以下の方法により、許容範囲内になるよう除去することができる。
ベックマン転位反応後の反応液(以下、転位液と称する)は、通常、ろ過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらの組合せの方法による「後処理」が施されるが(詳しくは後述する)、上記副生物の一部はこの後処理によって除去される。また、前述の副生物の加水分解・抽出除去の目的で水洗、アルカリ洗浄、酸処理を行ってもよい。例えば、ニトリルは硫酸や水酸化ナトリウム等の強酸、強塩基を用いて加水分解することで、カルボン酸に転換することができる。
転位液は、上記後処理を施された後、溶媒リサイクル工程で、溶媒とアミド化合物とに分離され、溶媒はオキシム化工程にリサイクルされる。溶媒リサイクル工程では、転位工程で生成され、反応液中に溶解しているベックマン転位触媒の脱離基由来の成分、ベックマン転位触媒の残渣、および副生物等が除去される。
溶媒リサイクル工程において、溶媒と目的生成物であるアミド化合物を分離する方法としては、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の方法が挙げられるが、通常、蒸留が用いられる。ここで、溶媒リサイクル工程によりリサイクルされる溶媒中の不純物の含有量が、前述の許容範囲内に抑制される。
溶媒リサイクル工程において、蒸留により溶媒の回収と不純物の除去を行う場合、一般的に反応原料であるケトンから生じる前記副生物(例えば、ケトンがシクロドデカノンの場合、1-クロロドデカン、ラウロニトリル、12-クロロドデカンニトリル等)より、溶媒から生じる前記副生物(例えば、溶媒がトルエンの場合、塩化ベンジル、塩化ベンザル、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコール、ベンゾニトリル等)の方が溶媒と沸点が近接している為、溶媒起源の副生物の混入を避けることが重要である。溶媒の蒸留回収は一回の蒸留操作で行うこともできるが、複数の蒸留操作を組合せて、副生物を含む留分は前段の蒸留工程に戻して溶媒の回収ロスを防ぐと共に、その一部を排出して副生物の蓄積を防ぐことにより溶媒を精製することは、さらに好ましい。なお、分離除去を容易にするために、前記の転位液の後処理において、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、還元処理等によって、副生物を転位反応に影響を与えない物質に転換したり、分離が容易な化合物に転換したりすることも好ましい。例えば、酸処理、アルカリ処理によって、ニトリルをカルボン酸に加水分解することやアルデヒドをアルコールに還元すること等が挙げられる。」
と記載されている。

(イ)本件特許明細書の段落【0128】?【0165】には、オキシム化工程について、詳細に記載されている。
段落【0166】?【0167】には、オキシム化工程の反応液を油相と水相に分離する工程である、油/水分離工程について、記載されている。
段落【0168】?【0234】には、転位工程及びその後の工程について、詳細に記載されている。その段落【0231】には、「ベックマン転位液は、上記後処理を施した後、溶媒が留去される。その際、分離された溶媒は、上述したように溶媒リサイクル工程により、オキシム化工程にリサイクルされてもよい」と記載されている。

(ウ)本件特許明細書の段落【0236】?【0252】には、実施例Aが記載されている。
そのうちの段落【0245】?【0251】の実施例及び比較例において、ベンズアミドキシムやベンズアルドキシム等の副生物が転位反応に与える影響が評価され、その結果をまとめた表1?表3が記載されている(副生物の種類と成因については本件特許明細書の段落【0053】?【0058】に記載され、段落【0237】?【0244】の参考例A1及び参考例A2においても存在が確認されている。)。
表1及び表2は、ベックマン転位触媒が塩化チオニル触媒である場合の試験である。
表1は、各副生物をシクロドデカノンオキシムに対してそれぞれ1モル%となるように添加し、触媒添加量は塩化チオニルをシクロドデカノンオキシムに対し0.7モル%として、オキシムの転化率をみたもので、以下のとおりであり、この表1からは、最も悪影響が大きいのはベンズアミドキシムであることが理解できる。

表2は、このベンズアミドキシムについて、添加量を、表1の1モル%より減らし、触媒添加量は、一部、表1の0.7モル%より増やし、オキシムの転化率をみたもので、以下のとおりであり、この表2からは、最も影響の大きいベンズアルドキシムについて、シクロドデカノンオキシムに対し0.36モル%のときのオキシム転化率は高いが0.80モル%のときのオキシム転化率が低いことが理解できる。

表3は、ベックマン転位触媒がトリクロロトリアジン触媒である場合の、表1に対応する表で、以下のとおりであり、この表3と表1の比較から、最も悪影響が大きいのはベンズアミドキシムであるが、表1よりも影響が小さかったことが理解できる。

これらの表からは、最も影響の大きいベンズアミドキシムでも、シクロドデカノンオキシムに対し0.36モル%のときに高い転化率が得られること、他のベンズアルドキシム、ベンジルアルコールは、悪影響はあるが小さいことが理解できる。
また、段落【0237】?【0243】の参考例A1及び段落【0252】の実施例A23では、ベックマン転位触媒が塩化チオニル触媒の場合について、転位反応液を水洗及び触媒除去して得たラウロラクタムのトルエン溶液の不純物を分析し(参考例A1)、また、このラウロラクタムのトルエン溶液から、エバポレーターでトルエン回収を行った後、単蒸留して留出液を取得して、これをオキシム化工程にリサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行うことを、5回繰り返したときの、ラウロラクタムのトルエン溶液の不純物を分析し(実施例A23)、リサイクルする1回目の留出液の分析及び5回目の留出液の分析を行っており(実施例A23)、回収トルエンを単蒸留することでリサイクルする留出液中のアルデヒド、ニトリル、ハロゲン化物、アルコールの量を低くでき、単蒸留した留出液をオキシム化工程リサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行うことを5回繰り返したときに、触媒活性の低下や顕著な副生物の蓄積が認められなかったことが確認されている。ここで、ラウロラクタムのトルエン溶液中のベンズアルドキシム及びアミドキシム化合物の量は、順に、初回2ppm(ラウロラクタムに対し0.0007モル%)及び0(参考例A1)、リサイクルして5回後2ppm(ラウロラクタムに対し0.0007モル%)及び0(実施例A23)であり、また、リサイクルする留出液中のベンズアルデヒド、ベンゾニトリル、ベンジルクロライド、ベンジルアルコールの量は、順に、1回目6ppm、18ppm、12ppm、2ppm(それぞれシクロドデカノンに対し0.0013モル%、0.0041モル%、0.0022モル%、0.0004モル%)であったのが、5回目20ppm、27ppm、12ppm、2ppmである。
段落【0244】の参考例A2では、ベックマン転位触媒がトリクロロトリアジン触媒の場合について、参考例A1と同様の分析がされている。

ウ 判断

(ア)本件発明1は、「前記溶媒リサイクル工程により分離され、オキシム化工程にリサイクルされる溶媒中のハロゲン化物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、ニトリル化合物の含有量を、それぞれ原料であるシクロドデカノンに対して0.4モル%以下とし、前記オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とする」と特定された発明であるが、上記イによれば、オキシム化工程の反応液中に存在すると想定されるアルドキシム化合物、アミドキシム化合物、アルコール化合物の含有量を、シクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とすれば、上記アに記載した本件発明1の課題を解決できると、当業者は認識できる。
そして、ハロゲン化物、アルデヒド化合物、ニトリル化合物は、上記イによれば、それ自体では転位反応に対する悪影響がないが、アルドキシム、アミドキシムの前駆物質であるので、オキシム化工程の反応液中のアルドキシム化合物、アミドキシム化合物の含有量が上記の範囲を超えないように、リサイクルされる溶媒中の含有量を十分に低くすれば、上記アに記載した本件発明1の課題を解決できると、当業者は認識できる。
また、アルコール化合物は、オキシム化工程で副生するのではないから、オキシム化工程の反応液中のアルコール化合物の含有量が上記の範囲を超えないように、リサイクルされる溶媒により持ち込まれるアルコール化合物の量を少なくすることで、上記アに記載した本件発明1の課題を解決できると、当業者は認識できる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、明細書のサポート要件に適合している。

(イ)特許異議申立人は、(i)の主張において、本件発明1の発明特定事項である各不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下に制限することの技術的意味について、発明の詳細な説明の記載から理解することができず、出願時の技術常識に照らしても本件発明1の上記不純物がシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下なる数値の範囲内であれば本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体例又は説明が記載されていないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張している。
しかし、上記(ア)に示したとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)特許異議申立人は、(ii)の主張において、本件特許明細書の発明な詳細な説明に、本件発明1の発明特定事項である各不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とするための手段や具体的な条件等が記載されていないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではないと主張している。
しかし、上記イ(ア)に示したとおり、段落【0063】?【0067】には、不純物量をその許容範囲になるように除去する方法として、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の方法があることが記載されている。上記イ(ウ)に示した実施例A23でも、ラウロラクタムのトルエン溶液から、エバポレーターでトルエン回収を行った後、単蒸留して留出液を取得するという操作を行って、オキシム化工程にリサイクルするための不純物量の少ない留出液を得ている。この蒸留の具体的条件は記載されていないが、当業者が適宜決定し得る事項であると認められ、この条件の記載がないからといって、本件発明1が発明の詳細な説明に記載した発明でないとはいえない。特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において「ベックマン転位触媒がハロゲン原子を含む」と特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において「有機溶媒が芳香族炭化水素である」と特定したものである。上記(3)で本件発明1について示したのと同様であって、これらも、明細書のサポート要件に適合するものである。

(5)理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由3によって取り消されるべきものではない。

4 理由4について

(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
「特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法36条4項実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。」(平成24年12月5日言渡平成23年(行ケ)第10445号判決)

(2)特許異議申立人の主張
上記第3の4(i)及び(ii)に記載したとおりである。

(3)本件発明1について

ア 発明の詳細な説明の記載
上記3(3)イに記載したとおりである。

イ 判断

(ア)上記アによれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0050】?【0067】に、ベックマン転位反応を阻害する不純物の種類、成因、該不純物の前駆物質、それらの量の許容範囲、許容範囲になるように除去する方法について記載され、段落【0128】?【0234】には、オキシム化工程、油/水分離工程、転位工程及びその後の工程、溶媒リサイクル工程について記載され、段落【0236】?【0252】の実施例Aでは、不純物が転位反応に与える影響が評価され、その実施例A23では溶媒リサイクル工程ではリサイクルされる溶媒中の不純物の量を単蒸留により少なくしてオキシム化工程にリサイクルして、オキシム化、ベックマン転位反応を行うことを5回繰り返して本件発明1の方法によりラウロラクタムを製造し、触媒活性の低下や顕著な副生物の蓄積が認められなかったことが確認されている。
そうすると、本件特許明細書には、本件発明1の方法によりラウルラクタムを製造する方法についての具体的な記載があるといえる。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。

(イ)特許異議申立人は、(i)の主張において、本件発明1の発明特定事項である各不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下に制限することの技術的意味について、発明の詳細な説明の記載から理解することができず、出願時の技術常識に照らしても本件発明1の上記不純物がシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下なる数値の範囲内であれば本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体例又は説明が記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張している。
しかし、上記(ア)及び上記3(3)ウ(ア)に示したとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)特許異議申立人は、(ii)の主張において、本件特許明細書の発明な詳細な説明に、本件発明1の発明特定事項である各不純物の含有量をシクロドデカノン又はシクロドデカノンオキシムに対して0.4モル%以下とするための手段や具体的な条件等が記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張している。
しかし、上記3(3)イ(ア)に示したとおり、段落【0063】?【0067】には、不純物量をその許容範囲になるように除去する方法として、蒸留、抽出、晶析、再結晶等の方法があることが記載されている。上記(ア)に述べた実施例A23でも、ラウロラクタムのトルエン溶液から、エバポレーターでトルエン回収を行った後、単蒸留して留出液を取得するという操作を行って、オキシム化工程にリサイクルするための不純物量の少ない留出液を得ている(上記3(3)イ(ウ)参照)。この蒸留の具体的条件は記載されていないが、当業者が適宜決定し得る事項であると認められ、この条件の記載がないからといって、発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において「ベックマン転位触媒がハロゲン原子を含む」と特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2において「有機溶媒が芳香族炭化水素である」と特定したものである。上記(3)で本件発明1について示したのと同様であって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2及び3についても、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。

(5)理由4についてのまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1項の規定に違反していない。
よって、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由4によって取り消されるべきものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-08 
出願番号 特願2012-505705(P2012-505705)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C07D)
P 1 651・ 537- Y (C07D)
P 1 651・ 121- Y (C07D)
P 1 651・ 113- Y (C07D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 谷尾 忍  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
登録日 2015-03-13 
登録番号 特許第5708637号(P5708637)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 アミド化合物の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 小野 暁子  
代理人 神谷 雪恵  
代理人 伊藤 克博  

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