• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01R
管理番号 1311853
異議申立番号 異議2015-700221  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-26 
確定日 2016-02-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5727976号「プリント基板の絶縁検査装置及び絶縁検査方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5727976号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5727976号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成24年7月31日に特許出願され、平成27年4月10日に特許の設定登録がされ、同年11月26日にその特許に対し、特許異議申立人宇佐美貴史により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「プリント基板の回路パターン間に直流電圧を印加し、印加した電圧値と前記回路パターン間に流れる電流値とから算出される絶縁抵抗値に基づいて前記回路パターン間の絶縁状態の良否を判定するプリント基板の絶縁検査装置において、印加電圧を制御する印加電圧制御部と、電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内に、前記回路パターン間に発生するスパークに起因して前記回路パターン間に流れる電流値が所定値以上増加したか否かを検出する電流増加検出部と、該電流増加検出部により前記所定値以上の電流増加が検出された場合に前記プリント基板が不良品であると判定するスパーク判定部と、前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部とを有することを特徴とするプリント基板の絶縁検査装置。」

第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証?甲第6号証を提出し、請求項1ないし9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、主たる証拠として甲第2号証及び従たる証拠として甲第1号証、甲第3号証?甲第6号証を提出し、請求項1ないし9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、請求項1ないし9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特許第4059291号公報
甲第2号証:特許第3546046号公報
甲第3号証:特開2010-175339号公報
甲第4号証:特開2008-139036号公報
甲第5号証:特開2011-247788号公報
甲第6号証:特開2010-66050号公報

第4 甲第1号証?甲第6号証の記載事項

1 甲第1号証(特許第4059291号公報)には、以下のように記載されている。(下線は当審で付与した。)

「【0001】
本発明は、絶縁検査装置及び絶縁検査方法に関し、より詳しくは、複数の配線パターンが形成されている回路基板の絶縁検査を迅速に且つ正確に行うことができる絶縁検査装置及び絶縁検査方法に関する。」

「【0031】
絶縁検査装置1の実行する検査の基本原理は、回路基板10のパターンPを所定の規則に従って第一検査部T1と第二検査部T2として選出し、第二検査部T2に対し所定電圧を印加して第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定電位差を生じさせた状態で第一検査部T1に流れる電流を検出することにより、スパーク関連して一層正確な検査を実行するものである。ここで、第一検査部は、回路基板10が有する複数の配線パターン(図では、P1?P5)から選出された検査対象となる一つの(単一の)配線パターン(「被検査パターン」ともいう。)からなる。第二検査部T2は、第一検査部T1以外の検査対象となる残り全ての配線パターン(「被検査パターン以外の全パターン」ともいう。)からなる。検査は、回路基板10が有する複数の配線パターンを第一検査部として順次選出してその都度第二検査部との間で絶縁検査を行い、全ての配線パターンを第一検査部として選出して検査したときに終了する。」

「【0039】
電源手段3は、第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定の電位差を設定するために、第二検査部T2に各SW1を介して所定電圧を印加することができるよう接続されている。この電源手段3により第二検査部T2の電位を変化させることになり、第二検査部T2は第一検査部T1と相違する電位を有することになる。
【0040】
この電源手段3は、所定の電位差を第一検査部T1と第二検査部T2との間に発生されることができればよく、直流電源であっても交流電源であっても特に限定されるものではない。しかし、後述する第一電流検出手段4に於ける電流値の変化をより正確に検出するために、可変直流電源であることが好ましい。」

「【0043】
このため、第一電流検出手段4に於いて測定される電流値が、所定値以上の電流値又は所定値以上の電流値の変化を示した場合、第一検出部T1と第二検出部T2間にスパークが発生したことを示すことになる。つまり、この第一電流検出手段4が測定する電流値により、両検査部間のスパークを検出が可能となる。」

「【0048】
この第二電流検出手段5を有することによって、第一検査部T1と第二検査部T2間に流れる電流値を確実に測定することができるので、後述する電圧検出手段6を利用して第一検査部T1及び第二検査部T2間の抵抗値を算出することができる。」

「【0052】
判定手段7は、第一電流検出手段4及び第二電流検出手段5からの測定電流値、並びに電圧検出手段6からの測定電圧値を夫々受け取り、これらの測定値を基に当該回路基板が不良品であるか判定する。図3は判定手段7の機能を示す概略構成図である。判定手段7は、スパーク検出部71と、電力算出部73と、抵抗算出部74と、絶縁判定部75と、送信部72とを有している。」

「【0067】
また、この判定手段7は抵抗算出部74を備え、第二電流検出手段5と電圧検出手段6より第一検査部T1と第二検査部T2と間の抵抗値を算出する。抵抗算出部74は、例えば、第二電流検出手段5からの測定電流値と電圧検出手段6からの測定電圧値とを、適当なA-D変換器(図示せず。)によりデジタル電流値とデジタル電圧値に変換し、除算回路(図示せず。)を利用して、抵抗値データを求めることが出来る。」

「【0077】
この状態で、第一検査部T1に接続されている第一電流検出手段4、第二電流検出手段5及び電圧検出手段6は、第一検査部T1の電流及び電圧を夫々測定する(S4)。これら第一電流検出手段4、第二電流検出手段5及び電圧検出手段6が測定する電流値及び電圧値は判定手段7へ送られる。
【0078】
判定手段7のスパーク検出部71は、第一電流検出手段3により測定される電流値と所定基準値とに基づき、その差分データを算出する(S5)。
【0079】
その差分データが許容範囲Cデータに存在しているか否が判定される(S6)。
【0080】
この差分データが許容範囲Cデータ内である場合、スパークなし(スパーク検出せず)として判定され(S7)、一方、差分データが許容範囲Cデータ外である場合、スパークが検出されたと判定される(S8)。
【0081】
ステップS8で、スパーク有ると判定された場合、当該回路基板は不良品として判定される(S10)。スパーク発生の場合には、送信部72により表示手段8上で表示されることになる。
【0082】
スパークが検出されない場合には、第二電流検出手段5と電圧検出手段6からの電流値と電圧値を利用して、判定手段7の抵抗算出部74によって、第一検査部T1と第二検査部T2間の抵抗が算出される。尚、このフローチャートでは、スパーク検査の終了毎に絶縁検査を行う検査工程を示しているが、絶縁検査をスパーク検査の前に行ってもよいし、スパーク検査と絶縁検査と同時に行う検査工程でもよい。
【0083】
この抵抗算出部74により算出された抵抗値データが絶縁判定部75へ送られる。この絶縁判定部75は、算出された抵抗値データと予め設定される基準抵抗値データの比較を行い、絶縁状態の判定を行う(S9)。算出された抵抗値データが基準抵抗値データ以上であれば絶縁状態であると判定し、当該回路基板は良品と判定され(S11)、算出された抵抗値データが基準抵抗値データ未満であれば絶縁状態でないと判定され(S12)、当該回路基板を不良品として判定する(S10)。」

上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。なお、参考までに括弧内に引用した段落番号を示す。)

「(【0001】)複数の配線パターンが形成されている回路基板の絶縁検査を行う絶縁検査装置であって、
(【0031】)回路基板10のパターンPを所定の規則に従って第一検査部T1と第二検査部T2として選出し、第二検査部T2に対し所定電圧を印加して第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定電位差を生じさせた状態で第一検査部T1に流れる電流を検出することにより、スパーク関連して検査を実行し、
(【0083】)スパーク検査の終了毎に絶縁検査を行うものであり、
(【0039】)電源手段3は、第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定の電位差を設定するために、第二検査部T2に各SW1を介して所定電圧を印加することができるよう接続され、
(【0040】)この電源手段3は、可変直流電源であり、
(【0078】-【0081】)判定手段7のスパーク検出部71は、第一電流検出手段3により測定される電流値と所定基準値とに基づき、その差分データを算出し、その差分データが許容範囲Cデータに存在しているか否を判定し、この差分データが許容範囲Cデータ内である場合、スパークなし(スパーク検出せず)として判定し、一方、差分データが許容範囲Cデータ外である場合、スパークが検出されたと判定し、スパーク有ると判定された場合、当該回路基板は不良品として判定し、
(【0067】)また、この判定手段7は抵抗算出部74を備え、第二電流検出手段5と電圧検出手段6より第一検査部T1と第二検査部T2と間の抵抗値を算出し、
(【0083】)この抵抗算出部74により算出された抵抗値データが絶縁判定部75へ送られ、この絶縁判定部75は、算出された抵抗値データと予め設定される基準抵抗値データの比較を行い、絶縁状態の判定を行い、算出された抵抗値データが基準抵抗値データ以上であれば絶縁状態であると判定し、当該回路基板は良品と判定され、算出された抵抗値データが基準抵抗値データ未満であれば絶縁状態でないと判定され、当該回路基板を不良品として判定する、
(【0001】)絶縁検査装置。」

2 甲第2号証(特許第3546046号公報)には、以下のように記載されている。
「【請求項1】
順次選択される一対の配線パターン間に所定の直流電圧を印加し、前記配線パターン間の電圧が安定する所定のタイミングで、その配線パターン間の電圧値と前記電圧印加により前記配線パターン間に流れる電流値とを検出し、それらの電圧値及び電流値からこの配線パターン間の抵抗値を算出し、この抵抗値に基づいて回路基板の良否判定を行う回路基板の絶縁検査装置において、
前記電圧印加によって生じる前記配線パターン間の電圧を、その電圧印加開始から前記所定のタイミングまでの間検出する電圧検出手段と、
前記配線パターン間の電圧について、前記電圧印加により前記配線パターン間に発生したスパークに起因する電圧降下の発生の有無を検出する電圧降下検出手段と、
前記電圧降下検出手段により電圧降下が検出されると、当該回路基板が不良品であると判定する判定手段と
を備えることを特徴とする回路基板の絶縁検査装置。」

「【0006】
配線パターンP1,P2間に可変電圧源101の出力電圧を印加した後、直ちに絶縁状態の良否判定を行わないのは、図5に示すように、配線パターンP1,P2間に電圧Vが印加された直後は、配線パターン間の電圧が不安定である(図5(a)の電圧が上昇している区間)とともに、配線パターンP1,P2間に瞬間的に大きな過渡電流が流れるため、配線パターンP1,P2間の電圧が印加電圧Vに安定し、且つ、電流が安定する所定のタイミングt2で絶縁状態の良否判定を行うものである。」

「【0029】
可変電圧源2は、検査対象の配線パターン間に、所定の電圧(以下、試験電圧という)を印加するためのもので、D/A変換器8によりD/A変換された制御部6の制御信号により、その出力電圧が制御される。」

「【0048】
判定部63は、カウンタ63aを有し、このカウンタ63aにより、試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0からの経過時間をカウントして、配線パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻t2(図5参照)で算出された絶縁抵抗値Rと予め設定された閾値Rrefとの大小を比較することにより、絶縁状態の良否判定を行う。すなわち、算出された抵抗値Rが閾値Rref以上のとき、配線パターン間の絶縁状態が良好であると判定し、小さいときには、配線パターン間の絶縁状態が不良であると判定する。」

「【0057】
すなわち、図3に示すように、上記実施形態のステップ♯1?♯4の処理と略同様のステップ♯21?♯24の処理後、スパークが発生したか否かを判定し(ステップ♯25)、スパークが発生したとき(ステップ♯25でNO)には、当該回路基板が不良品であると判定する(ステップ♯33)。
【0058】
一方、スパークが発生しなかった場合(ステップ♯25でYES)、所定のカウント値がカウントされたとき(ステップ♯26)に、電圧値V及び電流Iの測定を行い(ステップ♯27)、この電圧値V及び電流Iとから抵抗値Rを算出する(ステップ♯28)。そして、算出された抵抗値Rが閾値Rref以上であるかを判定し(ステップ♯29)、上記抵抗値Rが閾値Rref以上のとき(ステップ♯29でYES)には、配線パターン間が絶縁良好であると判定し(ステップ♯30)、すべての回について上記処理が終了する(ステップ♯31でYES)と、回路基板は良品であると判定し(ステップ♯32)、絶縁検査を終了する。一方、閾値Rref未満のとき(ステップ♯29でNO)には、当該回路基板は不良品であると判定する(ステップ♯33)。
【0059】
ところで、スパークは、電圧印加直後の過渡期(電圧が上昇している区間)にのみ発生するものではなく、電圧が安定する安定期にも発生し得ることが確認されている。その場合に、上記タイミングt2までの安定期にスパークが発生した回路基板については、上述のように不良品と判定されることになるが、仮にタイミングt2以降も電圧の印加を継続した場合にタイミングt2以降でスパークが発生する回路基板については、上記判定タイミングt2での絶縁判定をパスすれば良品と判定されることになる。このように良品と判定された回路基板の中には、例えば当該回路基板の出荷先の検査者が、上記判定タイミングt2より遅いタイミングで再度基板の絶縁検査を行ったときに、不良品と判定されるものが含まれており、良品の数量に対してその不良品の数量の割合が大きいと、製品(回路基板)の信頼性を損ねることになる。そこで、当該絶縁検査装置の判定タイミングを遅らせれば、その遅らせた分だけスパークの有無をより長い期間監視することになるから、製品の信頼性を向上することができるが、この場合、1回あたりの絶縁検査に要する時間が増加するため、検査効率が低下することになる。
【0060】
この相反する問題に鑑みて、上記実施形態の構成に加えて、図1の点線で示すように、検査者が判定タイミングを変更するための操作部11と、制御部6内に、上記操作部11の操作情報を取り込んで上記判定タイミングを変更するタイミング設定部64とを設け、検査者が、操作部11を用い、要求される検査精度(製品の信頼性)と検査効率とのバランスを考えて判定タイミングを変更できるようにするとより好ましい。操作部11は、例えば、上記タイミングt2を基準として判定タイミングを早める指示及び遅らせる指示を行うための一対のボタンで構成し、ボタンの押圧毎に、判定タイミングをタイミングt2から所定の単位時間ずつ早める又は遅らせるように構成すればよい。
【0061】
これによれば、図5に示すように、タイミングt2より所定時間遅らせたタイミングt3で判定するように設定した場合、上記実施形態では検出できなかった、タイミングt2からタイミングt3間にスパーク(点線Eで示す)が発生する回路基板を不良品と判定することができるから、上記のように回路基板の出荷先の検査者等が再度基板の絶縁検査を行ったときに不良品と判定されるものが低減され、製品の信頼性を向上することができる。」


上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。なお、参考までに括弧内に引用した段落番号を示す。)。

「(【請求項1】)順次選択される一対の配線パターン間に所定の直流電圧を印加し、前記配線パターン間の電圧が安定する所定のタイミングで、その配線パターン間の電圧値と前記電圧印加により前記配線パターン間に流れる電流値とを検出し、それらの電圧値及び電流値からこの配線パターン間の抵抗値を算出し、この抵抗値に基づいて回路基板の良否判定を行う回路基板の絶縁検査装置において、
前記電圧印加によって生じる前記配線パターン間の電圧を、その電圧印加開始から前記所定のタイミングまでの間検出する電圧検出手段と、
前記配線パターン間の電圧について、前記電圧印加により前記配線パターン間に発生したスパークに起因する電圧降下の発生の有無を検出する電圧降下検出手段と、
前記電圧降下検出手段により電圧降下が検出されると、当該回路基板が不良品であると判定する判定手段とを備え、
(【0029】)可変電圧源2は、検査対象の配線パターン間に、所定の電圧(以下、試験電圧という)を印加するためのもので、D/A変換器8によりD/A変換された制御部6の制御信号により、その出力電圧が制御され、
(【0048】)判定部63は、カウンタ63aを有し、このカウンタ63aにより、試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0からの経過時間をカウントして、配線パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻t2(図5参照)で算出された絶縁抵抗値Rと予め設定された閾値Rrefとの大小を比較することにより、絶縁状態の良否判定を行うものであり、
(【0060】)上記判定タイミングを変更するタイミング設定部64とを設け、判定タイミングをタイミングt2から所定の単位時間ずつ早める又は遅らせるように構成した、
(【請求項1】)回路基板の絶縁検査装置。」

3 甲第3号証(特開2010-175339号公報)には、以下のように記載されている。
「【請求項1】
複数の導体配線パターンが形成された回路基板の配線パターン間の絶縁性を検査する装置であって、
前記複数の導体配線パターンから選択された第1の配線パターンに電圧を印加する電圧印加手段、
前記複数の導体配線パターンから選択された第2の配線パターンを流れる電流の高域成分を検出するピーク検出手段、および
少なくとも前記ピーク検出手段の出力信号に従って前記回路基板が正常であるかを判定する判定手段を備える、絶縁検査装置。」

「【請求項3】
前記ピーク検出手段は、通過帯域が変更可能とされるフィルタを備える、請求項1記載の絶縁検査装置。」

「【0005】
この電圧印加時に、電圧が安定状態となる前の過渡時において、電圧および電流波形を検出して不良判定を行なう動的な絶縁検査法が、特許文献1(特許第3546046号公報)に示されている。この特許文献1に示される絶縁検査においては、配線パターン間に、たとえば200Vの高電圧が印加され、この電圧の配線パターン印加シーケンスにおける過渡状態、定常状態および電圧印停止後の過渡状態それぞれにおいて電圧波形を検出する。配線間にスパークが発生した場合、電圧が大きく降下し、その電圧降下を検出してスパークを検出する。スパークが検出された回路基板は、回路基板に損傷が存在するため、不良品として処理される。
【0006】
また、この絶縁検査時、配線パターンを流れる電流の変化を検知する構成が特許文献2(特許第4059291号公報)に示されている。特許文献2に示される構成においては、配線パターンに電圧を印加し、電圧が印加された配線パターンと組をなす配線パターンを流れる電流を検出し、検出電流値が基準値よりも大きくなると、回路基板は不良であると判定する。この特許文献2においては、配線間にスパークが発生すると大きな電流が流れるため、この電流変化を検出して、スパーク発生の有無を検出する。スパーク発生回路基板は、不良であると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3546046号公報
【特許文献2】特許第4059291号公報」

上記の記載事項を総合すると、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「 複数の導体配線パターンが形成された回路基板の配線パターン間の絶縁性を検査する装置であって、
前記複数の導体配線パターンから選択された第1の配線パターンに電圧を印加する電圧印加手段、
前記複数の導体配線パターンから選択された第2の配線パターンを流れる電流の高域成分を検出するピーク検出手段、および
少なくとも前記ピーク検出手段の出力信号に従って前記回路基板が正常であるかを判定する判定手段を備え、
前記ピーク検出手段は、通過帯域が変更可能とされるフィルタを備える、
絶縁検査装置。」

4 甲第4号証(特開2008-139036号公報)には、以下のように記載されている。
「【0001】
本発明は、被検査基板上の検査点間に電位差を生じさせ、前記検査点から検査用の信号を取り出すことにより前記検査点間の配線パターンの電気的特性を検査する基板検査装置やその方法に関する。」

「【0032】
本願発明者らが配線パターン13の絶縁不良の原因について調査、検討を行った結果、絶縁不良の原因には、図3(a)及び図3(b)に示されるような微細短絡部21と、図4に示されるような疑似短絡部22と、図5に示されるようなパターン接近部23とが含まれていることが分かった。
【0033】
ここで、図3(a)及び図3(b)に示す微細短絡部21とは、隣接する配線パターン13a,13b間を橋渡すように連続的に形成された微細な短絡部のことである。このような微細短絡部21は、例えば、配線パターン13a,13bのエッチング処理の際に、除去されるべき不要な配線材料が完全に除去されずに残ったエッチング残等によって生じる。このような微細短絡部21は、例えばミクロンオーダー等の微細な太さであるため、短絡検査の際に配線パターン13に大きな電位をかけると、微細短絡部21を流れる電流により焼損してしまうことがある。このような微細短絡部21の抵抗値は、約100Ω程度以下である場合が多い。
【0034】
また、図4に示す疑似短絡部22とは、隣接する配線パターン13a,13bを疑似的に短絡させて絶縁不良を引き起こすものであり、隣接する配線パターン13a,13b間に橋渡されるように断続的に形成され、その疑似短絡部22にかかる電圧の増大に伴って非導通状態から導通状態に変化するようになっている。このような疑似短絡部22は、例えば、隣接する配線パターン13a,13b間に橋渡されるように断続的に連なって形成された一又は複数の微細導体粒又は微細導体片(例えば、配線パターン13a,13bの材料からなる微細導体粉又は微細導体片)からなっている。そして、このような疑似短絡部22の場合も、短絡検査の際に配線パターン13に大きな電位をかけると、疑似短絡部22を流れる電流により焼損してしまうことがある。このような疑似短絡部22の抵抗値は約10MΩ?約100MΩ程度である場合が多い。
【0035】
また、図5に示すパターン接近部23とは、配線パターン13a,13bの形成時のパターン不良等により生じ、隣接する配線パターン13a,13b同士が異常に接近した部分であり、スパークによる絶縁不良を引き起こす。このパターン接近部23の抵抗値は、スパークが生じる前は実質的に無限大であり、スパークが発生したときはその隙間寸法等に応じた有限の値、例えば約1MΩ程度になる。
【0036】
そして、本願発明者らによるさらなる調査、検討の結果、これらの絶縁不良原因(21?23)に対しては、その絶縁不良原因の種別に応じた検査電圧を配線パターン13に付与して短絡検査を行う必要があることが分かった。
【0037】
図6は、各種別の絶縁不良原因とその絶縁不良が発見可能な検査電圧レンジとの関係を
示す図である。図6中のレンジR1は微細短絡部21を発見するのに適したレンジであり、レンジR2は疑似短絡部22を発見するのに適したレンジであり、レンジR3はパターン接近部23を発見するのに適したレンジである。
【0038】
図6に示すように、レンジR1は、0Vより大きく、約1.2V以下の範囲、より好ましくは、0.1?1.0Vとなっている。このR1の上限が約1.2Vになっているのは、これより大きな電圧が印加されると過電流により微細短絡部21が焼損してしまう危険性があるからである。
【0039】
また、レンジR2は、約0.2V?約20Vの範囲、より好ましくは、1?10Vとなっている。このようにレンジR2の下限が約0.2Vとなっているのは、疑似短絡部22は微細に見ると不連続な構成であるため、それ以下の印加電圧では疑似短絡部22が導通しないためである。また、レンジR2の上限が約20Vとなっているのは、これより大きな電圧が印加されると過電流により疑似短絡部22が焼損してしまう危険性があるからである。
【0040】
また、レンジR3は、約10V以上の範囲、より好ましくは100V以上となっている。このレンジR3の下限が約10Vとなっているのは、これより小さな電圧ではスパークが生じず、絶縁不良を発見できないからである。
【0041】
このように、レンジR1とレンジR2とは、その一部が互いに重なり合う用にしてレンジ2の方がより高電圧の領域に分布している。また、レンジR2とレンジR3とは、その一部が互いに重なり合う用にしてレンジR3の方がより高電圧の領域に分布している。なお、図6中のグラフL1?L3は、微細短絡部21、疑似短絡部22及びパターン接近部23での抵抗値(縦軸の値が抵抗値に対応)の分布を示している。
【0042】
そこで、本実施形態では、このような各種別の絶縁不良原因(21?23)に対応して、短絡検査時の配線パターン13への印加電圧を3段階に切り替えることにより、各種別の絶縁不良原因(21?23)に対する検査を的確に行うようになっている。」

上記の記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「被検査基板上の検査点間に電位差を生じさせ、前記検査点から検査用の信号を取り出すことにより前記検査点間の配線パターンの電気的特性を検査する基板検査装置において、
絶縁不良の原因には、微細短絡部21と、疑似短絡部22と、スパークによる絶縁不良を引き起こすパターン接近部23とが含まれ、
絶縁不良原因の種別に応じた検査電圧を配線パターン13に付与して短絡検査を行う必要があり、
レンジR1(0.1?1.0V)は微細短絡部21を発見するのに適したレンジであり、レンジR2(1?10V)は疑似短絡部22を発見するのに適したレンジであり、レンジR3(100V以上)はパターン接近部23を発見するのに適したレンジであり、
各種別の絶縁不良原因(21?23)に対応して、短絡検査時の配線パターン13への印加電圧を3段階に切り替える
基板検査装置。」

5 甲第5号証(特開2011-247788号公報)には、以下のように記載されている。
「【請求項1】
回路基板における検査対象の導体パターン間に印加する検査用電圧を生成する電圧生成部と、
前記検査用電圧の印加によって生じる前記導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する検査処理を実行する処理部とを備えた回路基板検査装置であって、
前記処理部は、前記電圧生成部を制御して予め決められた高電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理を実行し、当該高圧検査処理において前記絶縁状態が良好であると判別された前記導体パターン間に対して前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行する絶縁検査装置。」

「【0011】
請求項1記載の絶縁検査装置および請求項3記載の絶縁検査方法では、検査対象の導体パターン間に対して、高圧検査処理および低圧検査処理をこの順序で実行する。したがって、この絶縁検査装置および絶縁検査方法によれば、高電圧の検査用電圧の印加によらなければ検査できない導体パターン間の絶縁状態の不良を検査可能としつつ、高電圧の検査用電圧の印加によって不良状態が進行し検査用電圧の印加後に不良箇所と判別すべき状態に至るという現象が導体パターン間の特定部位に発生した場合であっても、この特定部位に発生した絶縁不良を低圧検査処理においてダメージを進行させることなく確実に検出することができる。」

上記の記載事項を総合すると、甲第5号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「回路基板における検査対象の導体パターン間に印加する検査用電圧を生成する電圧生成部と、
前記検査用電圧の印加によって生じる前記導体パターン間の物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する検査処理を実行する処理部とを備えた回路基板検査装置であって、
前記処理部は、
前記電圧生成部を制御して予め決められた高電圧を前記検査用電圧として前記検査対象の前記導体パターン間に印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて当該導体パターン間の絶縁状態を検査する高圧検査処理と、
前記電圧生成部を制御して前記高電圧よりも低い低電圧を前記検査用電圧として印加させたときの当該導体パターン間の前記物理量に基づいて前記絶縁状態を検査する低圧検査処理を実行するものであり、
高圧検査処理および低圧検査処理をこの順序で実行する、
絶縁検査装置。」

6 甲第6号証(特開2010-66050号公報)には、以下のように記載されている。

「【0034】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、本発明における複数の抵抗体の一例として抵抗体R1,R2の2つを備えて電圧供給部3を構成した絶縁検査装置1およ
びその絶縁検査方法について説明したが、本発明に係る絶縁検査装置の構成および本発明に係る絶縁検査方法はこれに限定されない。具体定には、抵抗値がそれぞれ相違する3つ以上の複数の抵抗体(図示せず)を定電圧源11と出力部3aとの間に切替えスイッチ12aによって切替え接続する構成および方法を採用することができる。このような構成および方法を採用することにより、検査環境(ノイズの発生の有無や、ノイズレベル)に応じて所望の抵抗体を接続することで、スパークの発生を確実に検出可能としつつ、検査用電圧Vの供給を開始してから検査処理に適した電圧値V1に達するまでに要する時間を十分に短縮することができる。また、一例として、単一の抵抗体(図示せず)を定電圧源11と出力部3aとの間に接続する構成および方法することができる。このような構成および方法を採用することにより、他の抵抗体や上記の切替えスイッチ12a等を不要にできる分だけ、絶縁検査装置の製造コストを低減することができる。」

上記の記載事項を総合すると、甲第6号証には、次の発明が記載されていると認められる。

「検査環境(ノイズの発生の有無や、ノイズレベル)に応じて所望の抵抗体を接続することで、スパークの発生を確実に検出可能としつつ、検査用電圧Vの供給を開始してから検査処理に適した電圧値V1に達するまでに要する時間を十分に短縮することができる、つまり、所望の抵抗体を接続することで、検査用電圧Vの供給を開始してから検査処理に適した電圧値V1に達するまでに要する時間を設定することができる、
絶縁検査装置。」

第5 当審の判断

1 対比
(1) まず、本件特許発明と甲1発明を対比する。

甲1発明の「複数の配線パターンが形成されている回路基板」は、本件特許発明の「プリント基板」に相当する。

甲1発明において、「所定電圧を印加することができるよう接続され」る「電源手段3は、可変直流電源であ」るから、甲1発明の「回路基板10のパターンPを所定の規則に従って第一検査部T1と第二検査部T2として選出し、第二検査部T2に対し所定電圧を印加して第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定電位差を生じさせ」ることは、本件特許発明の「プリント基板の回路パターン間に直流電圧を印加」することに相当する。

甲1発明の「第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定電位差を生じさせた状態で第一検査部T1に流れる電流を検出することにより、スパーク関連して検査を実行し、スパーク検査の終了毎に絶縁検査を行う」「複数の配線パターンが形成されている回路基板の絶縁検査を行う絶縁検査装置」は、「第二電流検出手段5と電圧検出手段6より第一検査部T1と第二検査部T2と間の抵抗値を算出し、」「算出された抵抗値データと予め設定される基準抵抗値データの比較を行い、絶縁状態の判定を行い、算出された抵抗値データが基準抵抗値データ以上であれば絶縁状態であると判定し、当該回路基板は良品と判定され、算出された抵抗値データが基準抵抗値データ未満であれば絶縁状態でないと判定され、当該回路基板を不良品として判定する」ものであるから、本件特許発明の「印加した電圧値と前記回路パターン間に流れる電流値とから算出される絶縁抵抗値に基づいて前記回路パターン間の絶縁状態の良否を判定するプリント基板の絶縁検査装置」に相当する。

甲1発明において、「電源手段3は、第一検査部T1と第二検査部T2との間に所定の電位差を設定するために、第二検査部T2に各SW1を介して所定電圧を印加することができるよう接続され、この電源手段3は、可変直流電源であ」り、ここで可変直流電源である「電源手段3」を制御する制御部を備えることは常套手段であるから、甲1発明の「絶縁検査装置」は、本件特許発明の「印加電圧を制御する印加電圧制御部」を含むものである。

甲1発明における「判定手段7のスパーク検出部71は、第一電流検出手段3により測定される電流値と所定基準値とに基づき、その差分データを算出し、その差分データが許容範囲Cデータに存在しているか否を判定」することは、本件特許発明の「前記回路パターン間に発生するスパークに起因して前記回路パターン間に流れる電流値が所定値以上増加したか否かを検出する電流増加検出部」を有していることに相当する。
しかしながら、甲1発明が、「測定される電流値と所定基準値とに基づき、その差分データを算出し、その差分データが許容範囲Cデータに存在しているか否を判定」つまり、「電流値が所定値以上増加したか否か」の検出を、本件特許発明のように「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」で行うかは不明であり、また、甲1発明は、本件特許発明の「前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」を有していない点で相違する。

甲1発明の「スパーク検出部71は、第一電流検出手段3により測定される電流値と所定基準値とに基づき、その差分データを算出し、・・・差分データが許容範囲Cデータ外である場合、スパークが検出されたと判定し、スパーク有ると判定された場合、当該回路基板は不良品として判定し」ているから、甲1発明の「スパーク検出部71」は、本件特許発明の「該電流増加検出部により前記所定値以上の電流増加が検出された場合に前記プリント基板が不良品であると判定するスパーク判定部」に相当する。

以上より、本件特許発明と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致するものと認める。
[相違点1]
「電流値が所定値以上増加したか否か」の検出を、本件特許発明は、「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」で行うのに対し、甲1発明は、どの様なタイミングで行うのか不明である点。

[相違点2]
本件特許発明は、「前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」を有するのに対し、甲1発明は、そのようなスパーク検出時間設定部を有していない点。

(2) 次に、本件特許発明と甲2発明を対比する。

甲2発明の「配線パターン間に所定の直流電圧を印加し、前記配線パターン間の電圧が安定する所定のタイミングで、その配線パターン間の電圧値と前記電圧印加により前記配線パターン間に流れる電流値とを検出し、それらの電圧値及び電流値からこの配線パターン間の抵抗値を算出し、この抵抗値に基づいて回路基板の良否判定を行う回路基板の絶縁検査装置」は、本件特許発明の「プリント基板の回路パターン間に直流電圧を印加し、印加した電圧値と前記回路パターン間に流れる電流値とから算出される絶縁抵抗値に基づいて前記回路パターン間の絶縁状態の良否を判定するプリント基板の絶縁検査装置」に相当する。

甲2発明において、「可変電圧源2は、検査対象の配線パターン間に、所定の電圧(以下、試験電圧という)を印加するためのもので、D/A変換器8によりD/A変換された制御部6の制御信号により、その出力電圧が制御され」るから、甲2発明の出力電圧を制御する「制御部6」は、本件特許発明の「印加電圧を制御する印加電圧制御部」に相当する。

甲2発明は、「前記電圧印加によって生じる前記配線パターン間の電圧を、その電圧印加開始から前記所定のタイミングまでの間検出する電圧検出手段」及び「前記配線パターン間の電圧について、前記電圧印加により前記配線パターン間に発生したスパークに起因する電圧降下の発生の有無を検出する電圧降下検出手段」とを備えており、電圧印加開始から前記所定のタイミングまでの間、電圧印加により前記配線パターン間に発生したスパークに起因する電圧降下の発生の有無を検出している。ここで、「前記所定のタイミング」とは、「配線パターン間の電圧が安定する所定のタイミング」であり、「配線パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻t2(図5参照)」のことである。そして、「時刻t2」は、「カウンタ63aにより、試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0からの経過時間をカウントして」求められるから、「時刻t2」の起点は、「試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0」である。
よって、甲2発明における、スパーク検出の「電圧印加開始から前記(配線パターン間の電圧が安定する)所定のタイミングまでの間」とは、「電圧印加開始(試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0)から経過時間をカウントして求められる電圧が安定する所定のタイミング(時刻t2)までの間」を意味するから、本件特許発明の「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」とは、共に「電圧印加開始から規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」で共通する。
また、甲2発明の「上記判定タイミングを変更するタイミング設定部」と、本件特許発明の「前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」(なお、下線は、強調のため当審で付与した。)とは、共に、「規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」で共通する。
しかしながら、規定時間の起点が、本件特許発明では、「電圧上昇完了時」であるのに対し、甲2発明では、電圧印加開始時(試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0)である点で相違する。

甲2発明の「スパークに起因する電圧降下の発生の有無を検出する電圧降下検出手段と、前記電圧降下検出手段により電圧降下が検出されると、当該回路基板が不良品であると判定する判定手段」と、本件特許発明の「前記回路パターン間に発生するスパークに起因して前記回路パターン間に流れる電流値が所定値以上増加したか否かを検出する電流増加検出部と、該電流増加検出部により前記所定値以上の電流増加が検出された場合に前記プリント基板が不良品であると判定するスパーク判定部」とは、共に、「前記回路パターン間に発生するスパークに起因して前記回路パターン間の電気的パラメータが所定値以上変化したか否かを検出する電気的パラメータ検出部と、該電気的パラメータ検出部により前記所定値以上の変化が検出された場合に前記プリント基板が不良品であると判定するスパーク判定部」である点で共通するが、スパーク検出における電気的パラメータ及び所定値以上の変化が、本件特許発明は、電流及び電流値増加であるのに対し、甲2発明は電圧及び電圧降下である点で相違する。

以上より、本件特許発明と甲2発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致するものと認める。
[相違点3]
規定時間の起点が、本件特許発明では、「電圧上昇完了時」であるのに対し、甲2発明では、電圧印加開始時(試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0)である点。

[相違点4]
本件特許発明は、スパーク検出における電気的パラメータ及び所定値以上の変化が、本件特許発明は、電流及び電流値増加であるのに対し、甲2発明は電圧及び電圧降下である点。

2 判断
(1)
本件特許発明と甲1発明との相違点である相違点1について検討する。

相違点1は、「電流値が所定値以上増加したか否か」の検出を、本件特許発明は、「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」で行うのに対し、甲1発明は、どの様なタイミングで行うのか不明である点である。
ここで、「電流値が所定値以上増加したか否か」の検出とは、スパークの検出のことである。
そして、甲1発明と同様に、回路基板の絶縁検査装置におけるスパーク検出に関する甲第2号証に、スパーク検出タイミングについて記載されており、甲1発明に甲第2号証に記載されたスパーク検出タイミングを適用することに困難性は見いだせない。
しかしながら、甲第2号証に記載されたスパーク検出タイミングは、「電圧印加開始から前記(配線パターン間の電圧が安定する)所定のタイミングまでの間」であり、「電圧印加開始(試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0)から経過時間をカウントして求められる電圧が安定する所定のタイミング(時刻t2)までの間」を意味するから、(上記1(2)ウ参照。)、甲1発明に甲第2号証に記載されたスパーク検出タイミングを適用しても、「電流値が所定値以上増加したか否か」の検出を、「電圧印加開始から規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」で行うことにとどまり、規定時間の起点が、本件特許発明の「電圧上昇完了時」とは異なるものになる。
また、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0003】
特許文献1には、回路パターンに電圧を印加し、電圧印加開始から所定のタイミングまでの間回路パターン間の電圧を検出し、その間にスパークにより発生する回路パターン間の電圧降下の有無を検出し、電圧降下が検出されると基板を不良品と判定することが開示されている。
この場合、特許文献1の図2に示されるように、試験電圧が回路パターン間に印加された時点からの経過時間をカウントして、回路パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻で絶縁抵抗値を算出するとともに、その時刻までに回路パターン間にスパークが発生したか否かを検出し、スパークが発生しなかったと判定した場合に、測定した抵抗値と閾値との大小を比較することにより、回路パターン間の絶縁状態の良否判定を行う方法と、電圧印加後にスパークが発生したか否かをまず判定し、スパークが発生したときには、その基板が不良品であると判定し、一方、スパークが発生しなかった場合、所定時間経過後に、電圧値と電流を測定して抵抗値を算出し、その抵抗値により良否判定を行う方法とが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3546046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スパーク発生の有無を検出するためのタイミングの設定が難しく、絶縁抵抗値を算出しつつ、スパーク発生の有無を検出する前者の方法では、電圧が定常状態となった以降にもスパークが発生することがあるため、絶縁抵抗値を算出した後にスパークが発生する場合は不良品判定ができないという問題があり、スパーク発生の有無をまず検出してから絶縁抵抗値を算出する後者の方法でも、スパーク発生の有無の判定から絶縁抵抗値算出までの間に空白時間が生じ、その間に発生したスパークが検出されない不具合がある。」、
「【0018】
本発明によれば、電圧上昇時だけでなく、その後の電圧安定時でのスパーク発生も確実に検出することができるとともに、そのスパーク検出時間をプリント基板の製造ロット等に応じて設定することにより、スパーク発生を確実に検出して、検査精度を向上させることができる。」(なお、下線は、当審が付与した。)

上記記載によれば、上記【特許文献1】特許第3546046号公報、つまり甲第2号証に示されたスパーク発生の有無を検出するためのタイミングとして、試験電圧が回路パターン間に印加された時点からの経過時間をカウントして、回路パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻を設定することが難しいことに鑑み、本件特許発明は、「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」としたものであり、規定時間の起点を「電圧上昇完了時」とすることで、「電圧上昇時だけでなく、その後の電圧安定時でのスパーク発生も確実に検出することができる」との効果を奏するものである。

これに対して、特許異議申立人は、特許異議申立書における「(4)ウ(ア-2)」の欄において、「すなわち、甲第2号証には、「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内に、」直流電圧の印加により生じる配線パターン間の電圧を検出することが記載されている。ここで、甲第1号証における「回路パターン間に流れる電流値が所定値以上変化したか否かにより、回路基板の良否判定を行う」タイミングとして、甲第2号証に記載の「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」を適用して、本件構成要件(C1)「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内に、前記回路パターン間に発生するスパークに起因して前記回路パターン間に流れる電流値が所定値以上増加したか否かを検出する電流増加検出部」に到達することに、当業者にとって、何ら困難性はない。」と主張しているが、上記のとおり、甲第2号証には、スパーク検出のタイミングとして「このカウンタ63aにより、試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0からの経過時間をカウントして、配線パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻t2(図5参照)」(上記第4 2参照。)が記載され、「電圧印加開始から電圧上昇完了時を起点として規定時間が経過するまでのスパーク検出時間内」が記載されているものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
また、
(2)
次に、本件特許発明と甲1発明との相違点である相違点2について検討する。
相違点2は、本件特許発明は、「前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」を有するのに対し、甲1発明は、そのようなスパーク検出時間設定部を有していない点である。
ところで、特許異議申立人は、特許異議申立書における「(4)ウ(ア-3)」の欄において、「甲第2号証の請求項3には、「回路基板の良否判定を行う前記所定のタイミングを変更するための操作手段を備えている」と記載されている。ここで、上述の通り、甲第2号証における「所定のタイミングt2は、電圧が一定になって安定してから所定時間経過した後のタイミング」のことであり、本件特許における「規定時間」とは電圧上昇完了時を起点とした時間のことであるから、甲第2号証において「所定のタイミングを変更」することは、本件特許において「規定時間」を設定することに他ならない。従って、甲第2号証の請求項3に記載の「回路基板の良否判定を行う前記所定のタイミングを変更するための操作手段」は、本件構成要件(E1)「前記規定時間を設定可能なスパーク検出時間設定部」に相当するから、甲第2号証には、相違点2係る本件構成要件(E1)が開示されている。」と主張しているが、上記のとおり、甲第2号証に記載されている、規定時間に対応する「所定のタイミングt2」は、「このカウンタ63aにより、試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0からの経過時間をカウントして、配線パターンの電圧が定常状態となる所定の時刻t2(図5参照)」のことであり(上記第4 2参照。)、その起点は、「試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0」であって、本件特許発明のように「電圧上昇完了時を起点」とするものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
そして、「試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0」から規定時間を設定する場合と、「電圧上昇完了時を起点」から規定時間を設定する場合とでは、前者が、「電圧が一定になって安定してから所定時間経過した後のタイミング」を予測して設定するのに対し、後者は、「電圧上昇完了時を起点」としているから、電圧が定常状態となった以降のタイミングを確実に設定し得るという効果を奏するものである。
よって、甲1発明に、甲第2号証の請求項3に記載されている「回路基板の良否判定を行う前記所定のタイミングを変更するための操作手段を備えている」との構成を適用しても、相違点2に係る構成を得ることはできない。

(3)小括
上記(1)、(2)のとおり、甲1発明に甲第2号証に記載された発明を適用しても、相違点1及び相違点2に係る構成を得ることはできず、また、相違点1及び相違点2ついて、甲第3号証ないし甲第6号証に開示されてはいない。
したがって、本件特許発明は、本件出願前に当業者が甲1発明、甲第2号証に記載された発明ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

また、本件特許発明(請求項1に係る発明)を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は、本件特許発明をさらに減縮したものであるから、本件出願前に当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるとすることはできない。
また、請求項6ないし9に係る絶縁検査方法の発明についても、請求項1ないし4に係る絶縁検査装置にそれぞれ対応する発明であるから、請求項1ないし4に係る発明と同様に、本件出願前に当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるとすることはできない。

(4)
次に、本件特許発明と甲2発明との相違点である相違点3について検討する。
相違点3は、規定時間の起点が、本件特許発明では、「電圧上昇完了時」であるのに対し、甲2発明では、電圧印加開始時(試験電圧が配線パターン間に印加された時点t0)である点である。
この相違点3に係る構成について、甲第1号証、甲第3号証ないし甲第6号証には開示されていない。
また、本件特許発明は、規定時間の起点を「電圧上昇完了時」とする相違点3に係る構成を有することで、上記(1)及び(2)で示したように、電圧が定常状態となった以降のタイミングを確実に設定し得、「電圧上昇時だけでなく、その後の電圧安定時でのスパーク発生も確実に検出することができる」との効果を奏するものである。

(5)小括
したがって、甲2発明に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明を適用しても、本件特許発明の相違点3に係る構成に到達することは当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

よって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明は、本件出願前に当業者が甲2発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

また、本件特許発明(請求項1に係る発明)を直接又は間接的に引用する請求項2ないし5に係る発明は、本件特許発明をさらに減縮したものであるから、本件出願前に当業者が甲2発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるとすることはできない。
また、請求項6ないし9に係る絶縁検査方法の発明についても、請求項1ないし4に係る絶縁検査装置にそれぞれ対応する発明であるから、請求項1ないし4に係る発明と同様に、本件出願前に当業者が甲2発明、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて容易になし得たものであるとすることはできない。

第6 むすび
以上のことから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-02-16 
出願番号 特願2012-170642(P2012-170642)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 森 竜介
清水 稔
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5727976号(P5727976)
権利者 ヤマハファインテック株式会社
発明の名称 プリント基板の絶縁検査装置及び絶縁検査方法  
代理人 飯塚 義仁  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ