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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1311882
異議申立番号 異議2015-700332  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-21 
確定日 2016-03-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5743665号「ナビゲーション装置、ナビゲーションシステム、ナビゲーションサーバ、端末装置、ナビゲーション方法、およびプログラム」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5743665号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5743665号の請求項1ないし8に係る特許(以下、「請求項1ないし8に係る特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年4月13日に特許出願され、平成27年5月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成27年12月21日に特許異議申立人特許業務法人 にじいろ特許事務所(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明
請求項1ないし8に係る特許に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、それぞれ、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されている出力部を備えたナビゲーションシステムであって、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索手段と、
上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索手段で探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定手段と、
上記特定手段で特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定手段において用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力手段と、
を備えたことを特徴とするナビゲーションシステム。
【請求項2】
制御部と出力部とを備えたナビゲーション装置であって、
上記出力部には、経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されており、
上記制御部は、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索手段と、
上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索手段で探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定手段と、
上記特定手段で特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定手段において用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力手段と、
を備えたこと、
を特徴とするナビゲーション装置。
【請求項3】
経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されている出力部を備えた端末装置と通信可能に接続された、制御部を備えたナビゲーションサーバであって、
上記制御部は、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索手段と、
上記端末装置から予め取得された上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索手段で探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定手段と、
上記特定手段で特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定手段において用いられた上記再探索経路に関する経路情報を含む出力制御情報を上記端末装置に送信することにより、当該再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力手段と、
を備えたこと、
を特徴とするナビゲーションサーバ。
【請求項4】
ナビゲーションサーバと通信可能に接続された、制御部と出力部とを備えた端末装置であって、
上記出力部には、経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されており、
上記制御部は、
再探索要求を上記ナビゲーションサーバに対して行なう要求手段と、
上記再探索要求を受け付けた上記ナビゲーションサーバから送信された、上記ナビゲーションサーバが予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて再び探索した上記所定の探索条件を満たす経路である再探索経路を受信する受信手段と、
上記出力部に出力されている上記経路と上記受信手段で受信された上記再探索経路との分岐箇所を特定する特定手段と、
上記特定手段で特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定手段において用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力手段と、
を備えたこと、
を特徴とする端末装置。
【請求項5】
経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されている出力部を備えたナビゲーションシステムにおいて実行されるナビゲーション方法であって、
上記ナビゲーションシステムは、再探索手段と特定手段と経路出力手段とを備え、
上記再探索手段が、予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索ステップと、
上記特定手段が、上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索ステップで探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定ステップと、
上記経路出力手段が、上記特定ステップで特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定ステップにおいて用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力ステップと、
を含むことを特徴とするナビゲーション方法。
【請求項6】
制御部と出力部とを備えたナビゲーション装置において実行させるためのプログラムであって、
上記出力部には、経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されており、
上記制御部において実行させるための、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索ステップと、
上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索ステップで探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定ステップと、
上記特定ステップで特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定ステップにおいて用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力ステップと、
を含むこと、
を特徴とするプログラム。
【請求項7】
経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されている出力部を備えた端末装置と通信可能に接続された、制御部を備えたナビゲーションサーバにおいて実行させるためのプログラムであって、
上記制御部において実行させるための、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索ステップと、
上記端末装置から予め取得された上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索ステップで探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定ステップと、
上記特定ステップで特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定ステップにおいて用いられた上記再探索経路に関する経路情報を含む出力制御情報を上記端末装置に送信することにより、当該再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力ステップと、
を含むこと、
を特徴とするプログラム。
【請求項8】
ナビゲーションサーバと通信可能に接続された、制御部と出力部とを備えた端末装置において実行させるためのプログラムであって、
上記出力部には、経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されており、
上記制御部において実行させるための、
再探索要求を上記ナビゲーションサーバに対して行なう要求ステップと、
上記再探索要求を受け付けた上記ナビゲーションサーバから送信された、上記ナビゲーションサーバが予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて再び探索した上記所定の探索条件を満たす経路である再探索経路を受信する受信ステップと、
上記出力部に出力されている上記経路と上記受信ステップで受信された上記再探索経路との分岐箇所を特定する特定ステップと、
上記特定ステップで特定された上記分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合には、上記特定ステップにおいて用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力ステップと、
を含むこと、
を特徴とするプログラム。」


第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証である特開2009-14597号公報及び甲第2号証である特開2003-172628号公報を提出し、次の理由1及び2を主張している。

1 理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当する。

2 理由2(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。


第4 当審の判断
1 理由1について
(1)甲第1及び2号証の記載等
ア 甲第1号証の記載等
(ア)甲第1号証の記載
本件出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第1号証には、「車両用ナビゲーション装置」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1h」という。)がある。

1a 「【0001】
本発明は、目的地までの経路を案内する車両用ナビゲーション装置に関し、特に渋滞を回避するための経路を設定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の走行に伴ってGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)等により現在位置を検出し、その現在位置を表示装置上に道路地図と共に表示して、出発地から目的地までの適切な経路を設定し、表示装置や音声出力装置などによって案内する車両用ナビゲーション装置は、ユーザの効率的で安全な運転に貢献している。
【0003】
車両用ナビゲーション装置では、VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム,登録商標)センタなど車両外部から送られてくる渋滞情報を基に、渋滞区間を避ける迂回路を探索し、渋滞を避けることができる。例えば、目的地までの案内経路を設定している際に、車両外部からの情報により現在位置から目的地の間で渋滞が発生していれば、これを避ける迂回路を探索することができる。また、道路の状況は、突然の事故や朝晩の通勤時間など時間とともに変化するため、最初に案内経路を探索した際には案内経路上に渋滞がなくても、走行開始後に渋滞が発生することがある。この場合には、渋滞が発生している区間のみを避ける迂回路を探索し、この迂回路を通行することで渋滞を避けることができる。
【0004】
しかし、迂回路は最初の案内経路に比べ距離が長くなることが多く、渋滞の度合いによっては元の案内経路をそのまま通行した方が目的地まで早く到達する場合も起こりうる。このため、画面上に双方の経路情報を表示してユーザにいずれかの経路を手動で選択させる方法があるが、この方法ではユーザが毎回走行中に短時間に自分で判断を行い、選択操作をしなければならないという煩わしさがあった。
【0005】
これに対し、渋滞の迂回路を探索した時間帯や地域と、ユーザが迂回路を選択したか否かと、を関連付けて“ユーザの好み”として記憶しておき、次に迂回路を探索する場面に遭遇した際には、“ユーザの好み”に応じて迂回路の探索を行わないようにしたり、自動的に迂回路を選択することができる車載用ナビゲーション装置のルート案内方法が考案されている(特許文献1参照)。これにより、ユーザは迂回路を毎回選択する必要がなくなり煩雑な操作から解放される。
【0006】
【特許文献1】特開2002-90167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
同じような状況でも、一時的にユーザのとりたい行動が変わることがある。例えば、いつもは渋滞に遭遇したときにはそのまま通過しているような場所や時間帯であっても、目的の場所へ早く着く必要があれば迂回路を選択する場合もある。また、案内経路上に立ち寄る場所等がある場合には、迂回路を案内すべきではない。よって、特許文献1のように、過去のユーザの行動を基にユーザの好みを判別して自動で渋滞を迂回するか否かを判定することは非常に有効ではあるが、場合によっては、逆にユーザが目的の場所へ着くのが遅れたり、目的の場所を通過してしまうなど、ユーザに不利益を与えてしまう問題点がある。
【0008】
上記問題を背景として、本発明の課題は、ユーザが状況に応じて適切な迂回路を選択することが可能な車両用ナビゲーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
上記課題を解決するための車両用ナビゲーション装置は、車両の現在位置を検出する位置検出手段と、道路地図データを記憶する道路地図データ記憶手段と、車両の現在位置と道路地図データとに基づき、予め設定された目的地までの案内経路を探索する案内経路探索手段と、道路地図と車両の現在位置および案内経路とを表示画面上に重畳して表示する表示器と、渋滞情報を取得する渋滞情報取得手段と、案内経路上に渋滞区間がある場合に、当該渋滞区間を迂回する迂回路を探索する迂回路探索手段と、案内経路から迂回路が分岐する分岐点から該迂回路の案内経路へ合流する合流点に至る、案内経路上の渋滞区間を含む区間を基本経路とし、ユーザが走行を希望する走行希望経路を迂回路と基本経路との間で切り替える切り替えコマンドを実行するための経路切り替え操作を受け付ける操作受付手段と、切り替えコマンドの実行に伴い、表示画面上に表示される経路切り替えアイコンの表示態様を、走行希望経路として迂回路が選択されている状態を示す第一表示態様と、第一表示態様と異なる基本経路が選択されている状態を示す第二表示態様との間で切り替える経路切り替えアイコン表示制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
従来技術では、一旦走行希望経路が決定されると、それ以外の迂回路の候補等は通常表示に戻ってしまい、別の経路に変更したい場合は、再度迂回路の探索を行う必要がある。しかし、上記構成によって、案内経路上の渋滞区間を含む区間である基本経路と迂回路とを切り替え可能とし、かつどちらを走行経路として選択しているかが常に表示されることにより、ユーザの都合で走行経路を変更したい場合の利便性が向上する。」(段落【0001】ないし【0010】)

1b 「【0035】
以下、本発明の車両用ナビゲーション装置を、図面を参照しながら説明する。図1に車両用ナビゲーション装置(以下、ナビゲーション装置と略称)100の構成を示す。ナビゲーション装置100は、位置検出器1,地図データ入力器6,操作スイッチ群7,メモリ9,表示器10,リモートコントロール(以下リモコンと称する)センサ11,音声案内などを行う音声合成回路24,スピーカ15,送受信機13,ハードディスク装置(HDD)21,LAN I/F(インターフェース)26,これらの接続された制御回路8,リモコン端末12等を備えている。
【0036】
位置検出器1は、周知の地磁気センサ2,車両の回転角速度を検出するジャイロスコープ3,車両の走行距離を検出する距離センサ4,および衛星からの電波に基づいて車両の位置を検出するGPS受信機5を有している。 ・・・中略・・・
【0039】
制御回路8は通常のコンピュータとして構成されており、 ・・・中略・・・ なお、制御回路8が本発明の案内経路探索手段,迂回路探索手段,経路切り替えアイコン表示制御手段,接続経路探索手段,走行希望経路特定手段に相当する。
・・・中略・・・
【0044】
表示器10は周知のカラー液晶表示器で構成され、ドット・マトリックスLCD(Liquid Crystal Display)およびLCD表示制御を行うための図示しないドライバ回路を含んで構成されている。ドライバ回路は、例えば、周知のアクティブマトリックス駆動方式が用いられ、制御回路8(描画部87)から送られる表示指令および表示画面データに基づいて表示を行う。また、表示器10として周知の有機EL(ElectroLuminescence:電界発光)表示器,プラズマ表示器を用いてもよい。
【0045】
送受信機13は、例えば道路に沿って設けられた送信機(図示せず)から出力される光ビーコン、または電波ビーコンによって前述のVICSセンタ14から道路交通情報を受信、あるいはFM多重放送を受信するための装置である。また、送受信機13を用いてインターネット等の外部ネットワークに接続可能な構成としてもよい。なお、送受信機13が本発明の渋滞情報取得手段に相当する。
・・・中略・・・
【0048】
HDD21には、ナビプログラム21pの他に位置検出の精度向上のためのいわゆるマップマッチング用データ、道路の接続を表した道路データを含む地図データベースである道路地図データ21mが記憶される。道路地図データ21mは、表示用となる所定の地図画像情報を記憶するとともに、リンク情報やノード情報等を含む道路網情報を記憶する。リンク情報は、各道路を構成する所定の区間情報であって、位置座標,距離,所要時間,道幅,車線数,制限速度等から構成される。また、ノード情報は、交差点(分岐路)等を規定する情報であって、位置座標,右左折車線数,接続先道路リンク等から構成される。また、リンク間接続情報には、通行の可不可を示すデータなどが設定されている。なお、道路地図データ21mが本発明の道路地図データ記憶手段に相当する。
【0049】
また、HDD21には経路案内の補助情報や娯楽情報、その他にユーザが独自にデータを書き込むことができ、ユーザデータ21uとして記憶される。また、ナビゲーション装置100の動作に必要なデータや各種情報はデータベース21dとしても記憶される。
【0050】
ナビプログラム21p,道路地図データ21m,ユーザデータ21u,およびデータベース21dは、地図データ入力器6を介して記憶媒体20からそのデータの追加・更新を行うことが可能である。記憶媒体20は、そのデータ量からCD-ROMやDVDを用いるのが一般的であるが、例えばメモリカード等の他の媒体を用いてもよい。また、外部ネットワークを介してデータをダウンロードする構成を用いてもよい。
【0051】
車速センサ23は周知のロータリエンコーダ等の回転検出部を含み、例えば車輪取り付け部付近に設置されて車輪の回転を検出してパルス信号として制御回路8に送るものである。制御回路8では、その車輪の回転数を車両の速度に換算して、車両の現在位置から所定の場所までの予想到達時間を算出したり、車両の走行区間毎の平均車速を算出する。
【0052】
通信ユニット25は周知の無線送受信機として構成され、インターネット等の公衆通信網と接続するために用いる。また、通信ユニット25を携帯電話機等の携帯通信端末(図示せず)を接続してデータ通信を行うための、携帯通信端末と制御回路8との間のインターフェース回路として構成してもよい。」(段落【0035】ないし【0052】)

1c 「【0054】
このような構成を持つことにより、ナビゲーション装置100は、制御回路8のCPU81によりナビプログラム21pが起動されると、ユーザが操作スイッチ群7,タッチパネル22,リモコン端末12の操作、あるいはマイク31からの音声入力によって、表示器10上に表示されるメニュー(図示せず)から目的地経路を表示器10に表示させるための経路案内処理を選択した場合、次のような処理を実施する。
【0055】
すなわち、まず、ユーザは目的地を探索する。 ・・・中略・・・ 目的地が設定されると、位置検出器1により車両の現在位置が求められ、該現在位置を出発地として目的地までの最適な案内経路を求める処理が行われる。そして、表示器10の画面上の道路地図に案内経路を重ねて表示し、ユーザに適切な経路を案内する。このような自動的に最適な案内経路を設定する手法は、ダイクストラ法等の手法が知られている。また、表示器10およびスピーカ15の少なくとも一方によって、操作時のガイダンスや動作状態に応じたメッセージの報知を行う。
【0056】
経路探索は、出発地(現在地)から目的地へ向けて、次に到達できる交差点(ノード)までの道路(リンク)の探索及びそのコスト(評価値)の計算を順次行っていき、目的地までが最小コストとなる経路(リンク列)を選択するものである。前記各リンクのコストは、道路長や道路種別,道路幅,有料無料の別,渋滞度,右左折,踏切の有無などから、所定の計算式にて算出され、例えば他の条件が同一の道路の場合には、道路長にほぼ比例して大きな値となるようになっている。」(段落【0054】ないし【0056】)

1d 「【0057】
図2を用いて候補経路探索表示処理について説明する。なお、本処理はナビプログラム21pに含まれ、ナビプログラム21pの他の処理とともに繰り返し実行される。まず、VICSセンタ14などの車両外部から、車両の走行方向前方の渋滞情報を受信する(S201)。車両の走行方向前方は、位置検出器1により検出される車両の現在位置の履歴あるいはジャイロスコープ3等から特定可能である。案内経路上に渋滞箇所がある場合(S202:Yes)、上述の経路探索と同様の方法で、渋滞区間を迂回するための迂回路を探索する(S203)。迂回路は複数探索してもよい。
【0058】
次に、案内経路における迂回路との分岐点から合流点までの、案内経路上の渋滞区間を含む区間である基本経路を走行した場合と、迂回路を走行した場合とについてそれぞれ走行時間を算出する。走行時間は、例えば、それぞれの経路の距離を予め定められた基準車速で割ることで算出できる。基準車速は道路種別に応じて異なる値としてもよい。そして、分岐点から合流点までを、迂回路を走行した場合の走行短縮時間が、例えば10分以上のような予め定められた閾値を上回るか(有意差があるか)否かを判定する。
【0059】
図12のように、車両の現在位置Pの前方に渋滞区間Sがある場合、P→Q(分岐点)→渋滞区間S→R(合流点)が基本経路となり、渋滞区間Sを含まないP→Q(分岐点)→R(合流点)が迂回路となる。
【0060】
有意差がないと判定された場合(S204:No)、本処理を終了する。一方、有意差があると判定された場合(S204:Yes)、ユーザに対し案内経路の前方に渋滞があることを、例えば、“前方に渋滞区間があります”のような案内を、スピーカ15から音声メッセージとして出力する(S205)。表示器10の表示画面上に同様のメッセージを表示してもよい。
【0061】
そして、表示器10に、経路の第1候補と第2候補,そのいずれにも属さない道路(これは必須ではない)を、ユーザが識別可能なように地図上に表示色あるいは表示パターンを変えて表示する(S206)とともに、本発明の経路切り替えアイコンである経路変更釦を表示する(S207)。なお、この時点では第1候補は基本経路、第2候補は迂回路とする。その後、渋滞区間を通過するまでを“渋滞回避モード”として経路探索・案内を行う渋滞回避モード処理を実行する(S208,後述)。
【0062】
図3を用いて、図2のステップS208に相当する渋滞回避モード処理について説明する。渋滞回避モード処理では、迂回路が探索されてから、自車位置が渋滞区間あるいは合流点を通過し終えるまでの間、“第1候補/第2候補の分岐点通過”,“走行中の経路からの離脱”,“渋滞区間の通過”などのイベントを管理し、それぞれのイベントに応じた必要な処理を行う。
【0063】
まず、位置検出器1から車両の現在位置情報を取得する(S301)。次に、表示器10に表示されている、経路変更釦が押下(タッチパネル22に接触すること、以下同じ)されたか否かを判定する。経路変更釦が押下された場合(S302:Yes)、経路変更釦押下時処理を実行する(S308,後述)。
【0064】
一方、経路変更釦が押下されない場合(S302:No)、車両の現在位置が、例えば案内経路上の第1候補,第2候補の分岐点の手前500mのような、予め定められた範囲に接近したか否かを判定する。車両が分岐点に接近したと判定された場合(S303:Yes)、分岐点通過処理を実行する(S309,後述)。」(段落【0057】ないし【0064】)

1e 「【0068】
図4を用いて、図3のステップS308に相当する経路変更釦押下時処理について説明する。本処理では、経路変更釦が押下された場合に、車両の現在位置に応じた処理を行う。
【0069】
まず、車両の現在位置情報に基づいて、車両が分岐点を通過する前か否かを判定する。車両が分岐点を通過する前であると判定された場合(S501:Yes)、走行希望経路の変更要求があったと判定し、第1候補(走行希望経路)と第2候補との表示形態を切り替える。すなわち、走行希望経路として迂回路が選択された場合には第一表示態様とし、基本経路が選択された場合には第二表示態様とする。(S502)。そして、例えば、“経路が変わりました”のような案内を、スピーカ15から音声メッセージとして出力する(S503)。また、表示器10の表示画面上に同様のメッセージを表示してもよい。
【0070】
一方、車両が分岐点を通過した後であると判定された場合(S501:No)、現在の走行経路を基本経路として、車両の現在位置から目的地までの案内経路を再探索する(S504)。 ・・・中略 ・・・
【0071】
図4に戻り、探索された経路と、現在走行中の経路(基本経路,第1候補)との有意差の有無を判定する。有意差の内容については図2と同様である。また、基本経路と探索された経路とが別々のルートであり、かつ基本経路が渋滞区間を通過している場合も、有意差があると判定する。
【0072】
有意差がある場合(S505:Yes)、上記と同様に第1候補と第2候補(探索された経路)との表示形態を切り替え(S502)、例えば、“経路が変わりました”のような案内を、スピーカ15から音声メッセージとして出力する(S503)。
【0073】
一方、現在走行中の経路と再探索された案内経路との間で有意差がない場合(S505:No)、表示器10に表示されている地図上の第2候補の表示を消去する。また、経路変更釦の表示も消去する(S506)。そして、渋滞回避モードを終了する(S507)。このとき、例えば、“渋滞回避モードを終了します”のような案内を、スピーカ15から音声メッセージとして出力してもよいし、表示器10の表示画面上に同様のメッセージを表示してもよい。」(段落【0068】ないし【0073】)

1f 「【0076】
図5を用いて、図3のステップS309に相当する分岐点通過処理について説明する。本処理では、車両の現在位置が第1候補と第2候補との分岐点に接近してから合流点を通過するまでに必要な処理を実行する。まず、車両が分岐点に接近している旨の、例えば“まもなく分岐点です”のような音声メッセージを、スピーカ15から出力する(S401)。表示器10の表示画面上に同様のメッセージを表示してもよい。
【0077】
次に、位置検出器1から車両の現在位置情報を取得して、車両が分岐点を通過したか否かを判定する(S402)。車両が分岐点を通過したと判定された場合(S403:Yes)、ユーザが候補経路のうち第1候補,第2候補のいずれを選択したかを確認する(S404)。すなわち、分岐点通過後の車両の現在位置を検出して、車両の現在走行中の候補経路をユーザによって選択された走行希望経路とする。
【0078】
そして、ユーザが経路切り替えアイコンの押下、あるいは第2候補の経路に車両を進入させたことにより、第2候補を選択した場合(S405:No)、表示器10の表示画面における経路表示において、第1候補と第2候補の表示色あるいは表示パターンを入れ替えて表示する(S406)。つまり、ユーザにより選択された候補経路を走行希望経路(第1候補)とする。一方、ユーザが第1候補を選択した場合(S405:Yes)、表示はそのままとする。
【0079】
その後、車両が分岐点を通過した旨の、例えば“分岐点を通過しました”のような音声メッセージを、スピーカ15から出力する(S407)。表示器10の表示画面上に同様のメッセージを表示してもよい。」(段落【0076】ないし【0079】)

1g 「【0083】
図6に、図2のステップS206,S207が実行されたときの、表示器10の表示画面例を示す。選択された候補経路(第1候補,走行希望経路)である基本経路R1は実線で表示され、選択されなかった候補経路(第2候補)である迂回路R2は破線で表示されており、ユーザが識別可能となっている。経路の表示色を変える方法でもよい。そして、道路地図の右上に、走行希望経路を第1候補と第2候補との間で切り替える切り替えコマンドを実行するための経路切り替えアイコン(以下、アイコンと略称する)Iが表示されている。アイコンIの表示位置はユーザにより設定可能としてもよい。アイコンIにも経路の選択状態が識別可能に示されている。このとき、アイコンI内の表示は、地図表示の縮尺によらず、分岐点から合流点間での経路(第1候補,第2候補)が表示される。
【0084】
図7に、迂回路R2が走行希望経路として選択された場合の、表示器10の表示画面例を示す。これは、図6の表示画面において、アイコンIを押下したとき、あるいは、第1候補を走行希望経路としていた状態で第2候補に進入したときの状態でもある。走行希望経路が基本経路R1から迂回路R2に変更されたので、第1候補,走行希望経路となった迂回路R2は実線で表示され、基本経路R1は選択されなかった候補経路(第2候補)である破線で表示されている。アイコンIの表示も同様に入れ替わっている。図7の状態でアイコンIを押下すれば、図6の状態に戻る。アイコンIを押下する代わりに、操作スイッチ群7,リモコン端末12の操作、あるいはマイク31からの音声入力によって、切り替えコマンドを実行可能としてもよい。
【0085】
ナビゲーション装置の機能として、交差点に接近すると交差点の拡大図を表示するものがあるが、この交差点拡大図にアイコンを重ね合わせて表示する例を以下に示す。図8および図9に車両が分岐点でもある交差点Qに接近したときの交差点拡大図Kおよび選択状態を示すアイコンIの表示例を示す。図8には、基本経路R1を第1候補としている表示例が示されている。また、図9には、迂回路R2を第1候補としている表示例が示されている。この場合にも、アイコンIを押下すれば、第1候補と第2候補が入れ替わって表示される。
【0086】
図10に、アイコンIすなわち経路変更釦を押下して走行希望経路を変更したとき、すなわち、図4のステップS502,S503が実行されたときの表示器10の表示画面例を示す。つまり、図7の状態でアイコンIを押下すると、経路が変更された旨を示すコーション画面Wが表示される。そして、地図上およびアイコンI上の表示態様(第一表示態様,第二表示態様)が入れ替わる。コーション画面WにアイコンIaを表示してもよい。コーション画面Wにのみアイコンを表示してもよい。
【0087】
図11に、車両が分岐点に接近したときの表示器10の表示画面例を示す。図11のように、第1候補として選択されている迂回路R2を案内する旨のコーション画面Wが表示される。このときに、アイコンI(またはIa)を押下することなく、第2経路である基本経路R1に進入した場合、図10の画面が表示され、地図上およびアイコンI上の表示態様(第一表示態様,第二表示態様)が入れ替わる。」(段落【0083】ないし【0087】)

(イ)甲第1号証の記載事項
甲第1号証における記載1aないし1g及び図面から、甲第1号証には、次の事項(以下、順に「記載事項1h」ないし「記載事項1n」という。)が記載されていると認める。

1h 記載1a及び図面(特に、段落【0001】)によると、甲第1号証には、車両用ナビゲーション装置が記載されている。

1i 記載1b、1c及び1d並びに図面(特に、段落【0044】、【0048】、【0055】及び【0056】ないし【0059】並びに図1及び6)を記載事項1hとあわせてみると、甲第1号証には、道路地図データを用いて探索された基本経路R1を含む案内経路が表示されている表示器10を備えた車両用ナビゲーション装置が記載されている。

1j 記載1b、1c及び1d並びに図面(特に、段落【0039】、【0056】及び【0057】並びに図2)によると、甲第1号証には、車両用ナビゲーション装置において、予め取得された道路地図データおよび予め取得された車両の走行方向前方の渋滞情報を用いて、迂回路R2を再び探索する迂回路探索手段を備えたことが記載されている。

1k 記記載1d、1e、1f及び1g並びに図面(特に、段落【0064】、【0069】、【0076】及び【0087】並びに図3ないし5及び11)によると、車両が基本経路R1と迂回路R2との分岐点に接近したか否かや、当該分岐点を通過する前か否かを判断していることから、甲第1号証には、車両用ナビゲーション装置において、表示器10に出力されている上記基本経路R1を含む案内経路と迂回路探索手段で探索された迂回路R2との分岐点を特定する特定手段を備えたことが実質的に記載されているといえる。

1l 記記載1d、1e、1f及び1g並びに図面(特に、段落【0061】ないし【0064】、【0069】、【0083】ないし【0087】並びに図2ないし5及び11)によると、甲第1号証には、車両用ナビゲーション装置において、表示器10に、第一表示態様とした基本経路R1、第二表示態様とした迂回路R2及び経路切り替えアイコンを表示し、ユーザによって経路切り替えアイコンが押下されることにより第1候補として選択されている迂回路R2を第一表示形態に入れ替え、車両が上記特定手段で特定された上記分岐点に近接したと判定されたとき、第1候補として選択されている迂回路R2を案内する旨のコーション画面Wを表示する手段を備えたことが記載されている。

(ウ)甲1発明
記載1aないし1g及び記載事項1iないし1l並びに図面を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「道路地図データを用いて探索された基本経路R1を含む案内経路が表示されている表示器10を備えた車両用ナビゲーション装置であって、
予め取得された上記道路地図データおよび予め取得された車両の走行方向前方の渋滞情報を用いて、迂回路R2を再び探索する迂回路探索手段と、
上記表示器10に出力されている上記基本経路R1を含む案内経路と上記迂回路探索手段で探索された迂回路R2との分岐点を特定する特定手段と、
上記表示器10に、第一表示態様とした基本経路R1、第二表示態様とした迂回路R2及び経路切り替えアイコンを表示し、ユーザによって経路切り替えアイコンが押下されることにより第1候補として選択されている迂回路R2を第一表示形態に入れ替え、車両が上記特定手段で特定された上記分岐点に近接したと判定されたとき、第1候補として選択されている迂回路R2を案内する旨のコーション画面Wを表示する手段と、
を備えたナビゲーション装置。」

イ 甲第2号証の記載
本件出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である甲第2号証には、「ナビゲーション装置及びナビゲーション方法」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載2a」ないし「記載2c」という。)がある。

2a 「【0009】
【発明の実施の形態】(A)本発明の概略
(a)迂回理由表示
図1は迂回理由表示の説明図であり、(a)は旗又は吹き出しにより迂回理由を表示する例であり、(b)は記号により迂回理由を表示する例である。現在位置から目的地までの誘導経路を探索し、該誘導経路IRTをディスプレイ画面DPLに表示し、該誘導経路に含まれる迂回区間(N1→N2→N3→N4)を探索し、該迂回区間がディスプレイ画面DPLに表示された時、迂回しなければならない理由を(a)に示すように旗FLで表示し、あるいは(b)に示すように記号MKで表示する。このように迂回した理由を表示するから、ユーザは安心して運転することができる。なお、吹き出し表示とは図2の1,2のような表示を意味する。」(段落【0009】)

2b 「【0011】(B)本発明のナビゲーション装置
図3は本発明のナビゲーション装置の構成図である。図中、11は地図情報を記憶する地図記憶媒体で、例えばDVD(ディジタルビデオディスク)、12はDVDからの地図情報の読み取りを制御するDVD制御部、13は車両現在位置を測定する位置測定装置、14はDVDから読み出した車両位置周辺の地図情報を記憶する地図情報メモリ、15はメニュー選択による各種設定、指示を行なうと共にアドレス入力、拡大/縮小等の操作を行うリモコン、16はリモコンインターフェースである。
【0012】17はナビゲーション装置全体を制御するCPU(ナビゲーション制御部)、18は各種ソフトウェアや固定データ類を記憶するROMであり、ソフトウェアとして、誘導経路探索用ソフトウェアSF1、経路誘導ソフトウェアSF2、迂回理由表示ソフトウェアSF3等がある。19は誘導経路データや各種処理結果を一時的に記憶するワークRAM、21は地図画像/誘導経路等を発生するディスプレイコントローラ、22はディスプレイコントローラが発生した画像を記憶するビデオRAM、23は各種メニューおよびリストを発生するメニュー/リスト発生部、24は各種画像を合成して出力する画像合成部、25は画像合成部から出力される画像を表示する表示装置(モニタ)、26は透明タッチパネル部であり、ディスプレイ画面の前面に配置されるもの、27は交差点までの距離や進行方向、迂回理由などを音声で案内する音声案内部、28はVICS情報受信機である。」(段落【0011】及び【0012】)

2c 「【0014】(C)迂回理由表示処理
図6は本発明の第1の迂回理由表示処理フローである。目的地が入力されると、ナビゲーション制御部17は経路探索ソフトウェアSF1にしたがって、地図記憶媒体及びVICSより得られる全ての通行規制情報及び道路情報を考慮せず、距離最短の経路(ルートA)を探索する(ステップ101)。通行規制及び道路情報としては、
・一方通行
・右折禁止
・通行止め
・冬季閉鎖道路
・曜日・時間通行規制道路
・中央分離帯あり
・柵あり(自動車しか通れない)
・この先の橋は一般道でない(歩行者しか渡れない)
・高架
・道幅狭い
・VICS渋滞情報により渋滞
・10km速度制限などがある。
【0015】ついで、ナビゲーション制御部は全ての通行規制及び道路情報を考慮した距離最短の経路(ルートB)を探索する(ステップ102)。
しかる後、ナビゲーション制御部はルートAとルートBを比較してルートAの距離が短い区間が存在するか調べ(ステップ103)、存在すれば、ルートBの誘導経路情報(図4参照)に直進規制開始フラグ、直進規制終了フラグ及び迂回理由を挿入する(ステップ104)。 たとえば、図1に示すように車両通行止めでノードN1,N4間のリンクL1をN1→N2→N3→N4と遠回りする場合には、図4のノードN1に対応させて直進規制開始フラグと迂回理由(車両通行止め)を記入し、ノードN4に対応させて直進規制終了フラグを記入する。
【0016】ルートBよりルートAの距離が短い全ての区間についてステップ104の処理を終了すれば、ナビゲーション制御部17は経路誘導ソフトウェアSF2にしたがって誘導経路情報を用いて経路誘導を開始する(ステップ105)。これにより、ディスプレイ画面には誘導経路が表示され、自動車の走行に応じて地図及び誘導経路がスクロール表示される。ナビゲーション制御部は迂回区間がディスプレイ画面に表示されたかチェックし(ステップ106)、表示されなければ目的地に到達したかチェックし(ステップ108)、到達しなければステップ105以降の処理を繰り返す。
【0017】一方、ステップ106において、迂回区間がディスプレイ画面に表示されれば、誘導経路情報に含まれる迂回理由を読み出し、迂回されたリンクL1の近傍に旗あるいは吹き出し等により迂回理由を表示する(ステップ107)。図1(a)の例では旗で迂回理由を表示しているが、迂回理由に応じた記号を用いて図1(b)に示すように表示してもよい。図7は記号の一例であり、迂回理由と記号の対応を示すもので、交通標識を基本にし、柵有り、中央分離帯ありなど通行不能な記号は全て通行止めの記号を用いて表示する。しかる後、目的地に到達したかチェックし(ステップ108)、到達しなければステップ105以降の処理を繰り返す。」(段落【0014】ないし【0017】)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構成または技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明における「道路地図データ」は、本件発明1における「経路ネットワーク情報」に相当し、以下同様に、「基本経路R1を含む案内経路」は、「所定の探索条件を満たす経路」に、「表示」は「出力」に、「表示器10」は「出力部」に、「車両用ナビゲーション装置」は「ナビゲーションシステム」に、「車両の走行方向前方の渋滞情報」は「交通情報」に、「迂回路R2」は「所定の探索条件を満たす経路」に、「迂回路探索手段」は「再探索手段」に、「表示器10に出力されている上記基本経路R1を含む案内経路」は「出力部に出力されている上記経路」に、「迂回路探索手段で探索された迂回路R2」は「再探索手段で探索された上記経路である再探索経路」に、「分岐点」は「分岐箇所」に、「特定手段」は「特定手段」に、それぞれ相当する。

・甲1発明における「表示器10に、第一表示態様とした基本経路R1、第二表示態様とした迂回路R2及び経路切り替えアイコンを表示し、ユーザによって経路切り替えアイコンが押下されることにより第1候補として選択されている迂回路R2を第一表示形態に入れ替え、車両が上記特定手段で特定された分岐点に近接したと判定されたとき、第1候補として選択されている迂回路R2を案内する旨のコーション画面Wを表示する手段」は、本件発明1における「特定手段で特定された分岐箇所の周辺が出力部に出力された場合には、特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる経路出力手段」に、「特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる経路出力手段」という限りにおいて、一致する。

したがって、両者は、
「経路ネットワーク情報を用いて探索された所定の探索条件を満たす経路が出力されている出力部を備えたナビゲーションシステムであって、
予め取得された上記経路ネットワーク情報および予め取得された交通情報を用いて、上記所定の探索条件を満たす経路を再び探索する再探索手段と、
上記出力部に出力されている上記経路と上記再探索手段で探索された上記経路である再探索経路との分岐箇所を特定する特定手段と、
上記特定手段において用いられた上記再探索経路を上記出力部に出力させる経路出力手段と、
を備えたナビゲーションシステム。」の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
「特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる経路出力手段」に関して、本件発明1においては、「特定手段で特定された分岐箇所の周辺が出力部に出力された場合には、特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる経路出力手段」であるのに対して、甲1発明においては、「表示器10に、第一表示態様とした基本経路R1、第二表示態様とした迂回路R2及び経路切り替えアイコンを表示し、ユーザによって経路切り替えアイコンが押下されることにより第1候補として選択されている迂回路R2を第一表示形態に入れ替え、車両が特定手段で特定された分岐点に近接したと判定されたとき、第1候補として選択されている迂回路R2を案内する旨のコーション画面Wを表示する手段」である点(以下、「相違点」という。)。

イ 判断
上記相違点の判断にあたり、まず、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項における「特定手段で特定された分岐箇所の周辺が出力部に出力された場合には、特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる」ことについて検討すると、本件出願の願書に添付した明細書の段落【0005】、【0006】、【0024】、【0025】、【0071】及び【0084】ないし【0092】並びに図1ないし13の記載によれば、特定手段で特定された分岐箇所の周辺におけるリルート通知地点として設定された所定位置が出力部に出力された場合を機に、初めて再探索経路が出力部に出力されるものと認められ、それによって、本件発明1は、利用者を攪乱させることのない適切なタイミングで再探索経路を通知することができるものである。
一方、甲1発明において、車両が特定手段で特定された分岐点(本件発明1の「分岐箇所」に相当。)に近接したと判定されたときに表示器10(本件発明1の「出力部」に相当。)に表示(本件発明1の「出力」に相当。)されるのは、第1候補として選択されている迂回路R2(本件発明1の「再探索経路」に相当。)を案内する旨のコーション画面Wであって、迂回路R2は、迂回路探索手段(本件発明1の「再探索手段」に相当。)により探索された直後に、表示器10に表示されている基本経路R1を含む案内経路(本件発明1の「所定の探索条件を満たす経路」に相当。)とともに表示器10に表示されるものであるから、甲1発明が、「車両が分岐点に接近したとき」を機に、初めて再探索経路を出力させるものとはいえない。
したがって、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、現在位置が分岐点に接近した時点で再探索経路を通知するための具体的運用に伴う設計変更とはいえず、当業者が容易に想到し得たものではない。

また、記載2aないし2c及び甲第2号証の図面によると、甲第2号証には、ナビゲーション装置において、全ての通行規制情報及び道路情報を考慮せずに探索した最短距離の経路と全ての通行規制情報及び道路情報を考慮して探索した最短距離の経路である誘導経路とを比較することにより、誘導経路に含まれる迂回区間を探索し、迂回区間がディスプレイ画面に表示されれば、誘導経路情報に含まれる迂回理由を読み出し、迂回されたリンクL1の近傍に迂回理由を表示する技術が記載されている。
しかしながら、当該技術において、誘導経路の迂回区間がディスプレイ画面に表示されれば、迂回理由を表示するところ、誘導経路は、全ての通行規制情報及び道路情報を考慮して探索した直後にディスプレイ画面に表示されるものであって、迂回区間における分岐箇所の周辺がディスプレイ画面に表示された場合を機として、初めて表示されるものではない。
そうすると、ナビゲーションシステムにおいて、「特定手段で特定された分岐箇所の周辺が出力部に出力された場合には、特定手段において用いられた再探索経路を出力部に出力させる」ことは、記載2aないし2cを含めた甲第2号証の全体の記載(以下、「甲2記載事項」という。)に記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて相違点に係る本件発明1の発明特定事項を特定することは、当業者が容易になし得たことではない。

ウ まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも、上記(2)の本件発明1の検討において挙げた相違点に係る本件発明1の発明特定事項を実質的に包含するものである。
また、特許異議申立書には、本件発明2ないし8について、「(イ)本件特許発明2乃至8については、本件特許発明1と同様の対比である。」(21ページ7及び8行。)としか記載されておらず、具体的な対比及び判断は何ら記載されていない。
したがって、本件発明2ないし8は、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)理由1についてのむすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当するものではない。

2 理由2について
(1)申立人の具体的な主張
特許異議申立人は、理由2について、具体的には、次のとおり主張している。

「本件特許発明1乃至8には、「分岐箇所の周辺が上記出力部に出力された場合」とあるが、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、「分岐箇所の周辺」とはどの範囲を指すのか不明確である。したがって、本件特許発明1乃至8の記載から発明を明確に把握することができない。」(特許異議申立書21ページ15ないし18行)

(2)判断
「分岐箇所の周辺」は、分岐箇所をとりまく、まわりの部分であると理解できる。
そして、本件出願の願書に添付した明細書の段落【0005】、【0006】、【0024】、【0025】、【0071】及び【0084】ないし【0092】並びに図1ないし13の記載をあわせてみると、本件特許発明1乃至8における「分岐箇所の周辺」は、分岐箇所をとりまく、まわりの部分であって、利用者を攪乱させることのない適切なタイミングで再探索経路を通知することができるように、出力部に出力されたか否かの判定に用いられる所定位置がリルート通知地点として設定される範囲の部分であるといえる。
したがって、本件出願の願書に添付した特許請求の範囲における請求項1ないし8の記載は、本件発明1ないし8を明確に把握することができるものである。

(3)理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当するものではない。


第5 結語
上記第4のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-04 
出願番号 特願2011-89314(P2011-89314)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G01C)
P 1 651・ 121- Y (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 東 勝之  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5743665号(P5743665)
権利者 株式会社ナビタイムジャパン
発明の名称 ナビゲーション装置、ナビゲーションシステム、ナビゲーションサーバ、端末装置、ナビゲーション方法、およびプログラム  
代理人 酒井 宏明  

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