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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1313084
異議申立番号 異議2015-700327  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-18 
確定日 2016-04-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第5753357号「誘導加熱装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5753357号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5753357号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年9月21日に特許出願され、平成27年5月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議の申立てがされたものである。

2.本件の発明
特許第5753357号の請求項1ないし3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
非磁性の金属で構成され、底部に排出機構が設けられている製造釜と、
前記製造釜を高周波磁界に晒して誘導加熱により発熱させる誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルを挟んで前記製造釜と反対側に配置される磁性体と、を備え、
前記誘導加熱コイルおよび前記磁性体が前記製造釜の少なくとも垂直な側面の側方を垂直に取り囲むように形成されている、
誘導加熱装置。
【請求項2】
前記磁性体は、棒状であり、前記誘導加熱コイルの中心から放射状に複数個配置される、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記製造釜は、下部に設けられた排出孔に向けて底面が窄んでおり、
前記誘導加熱コイルは、尻窄み状の前記製造釜の下部に沿って巻線が形成されており、
前記磁性体は、尻窄み状の前記製造釜の下部に沿って形成された巻線の下側を覆うように、放射状に複数個配置される、
請求項1または2に記載の誘導加熱装置。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人 トクデン株式会社は、主たる証拠として甲第1号証:特開2003-10748号公報(以下「刊行物1」という。)及び従たる証拠として甲第2号証:特開2008-270123号公報(以下「刊行物2」という。)、甲第3号証:特開2010-37175号公報(以下「刊行物3」という。)、甲第4号証:特開2008-107063号公報(以下「刊行物4」という。)、甲第5号証:特開2003-297537号公報(以下「刊行物5」という。)、甲第6号証:特許第4036725号公報(以下「刊行物6」という。)、甲第7号証:特公昭61-46750号公報(以下「刊行物7」という。)、甲第8号証:実公平7-1758号公報(以下「刊行物8」という。)、甲第9号証:実公平1-27037号公報(以下「刊行物9」という。)及び甲第10号証:特開2001-108795号公報(以下「刊行物10」という。)を提出し、特許第5753357号の請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.刊行物の記載
(1)刊行物1には、特に、【0024】、【0030】、【0031】、【0050】、【0051】及び【0055】並びに図1等を参酌すると、
「鉄製の容器で構成され、接着剤を送るギアポンプ34を備える接着剤供給部18が底面に設けられているリザーブタンク24と、前記リザーブタンク24を高周波磁束による渦電流のジュール熱により発熱させる第2の電磁誘導用加熱コイル40と、前記第2の電磁誘導用加熱コイル40を挟んで前記リザーブタンク24と反対側に配置され、発生した磁束を収束させるためのフェライトコア42と、を備え、前記第2の電磁誘導用加熱コイル40および前記フェライトコア42が前記リザーブタンク24の側壁の側方を取り囲むように配置されている、リザーブタンク24に収納されている接着剤を溶解する電磁誘導加熱装置」
の発明が記載されている。
(2)刊行物2には、特に、【0015】、【0020】、【0021】、【0022】、【0025】及び【0027】並びに図1等を参酌すると、
「オーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性導体から成るとともに内部を流体が流通する外筒6と、外筒6の外側に巻回されるコイル8と、外筒6に近接して外筒6内に配された磁性導体から成る内部部材11と、コイル8の外側に配された強磁性体9とを備え、コイル8に高周波電圧を印加することにより外筒6及び内部部材11が電磁誘導加熱により発熱して外筒6内を流通する流体を昇温する流体昇温装置であって、コイル8の外側を通る磁束は強磁性体9を通るため磁界の漏れが防止され、また、外筒6が非磁性体から成るので、外筒6内の内部部材11まで磁束が到達しやすくなるため、外筒6とともに内部部材11の発熱も効率よく行うことができ、発熱を均一に行うことができること」
が記載されている。
(3)刊行物3には、特に、【0006】、【0026】、【0029】、【0031】及び【0033】並びに図1等を参酌すると、
「導電性液体1を貯える容器2と、容器2内に設けられ導電性液体1を加熱可能なインコネル等の金属によって形成されている発熱体3と、使用する交流電流の周波数の切り換えによって発生させる電磁場の磁気浸透距離δを変えて発熱体3又は発熱体3と導電性液体1の両方を誘導加熱する例えば誘導加熱コイルである加熱装置4を備える溶融炉であって、高レベル放射性廃液とガラスの混合体等の導電性液体を均一に加熱することができること」
が記載されている。
(4)刊行物4には、特に、【0020】、【0022】、【0029】、【0030】及び【0031】並びに図1等を参酌すると、
「内部を加熱対象となる流動物が移動し隙間を有して平行に配置され導電性を有する金属材料からなる複数の直管12と、全ての直管12よりなる直管群21を取り囲むように巻回されて各直管12に高周波誘導電流を流す誘導コイル20とを有する流動物加熱装置10であって、直管群21の内側に位置する直管12に到達する誘導磁場の減衰を抑制するために、また、耐食性があり衛生面が重視される流動食品等の熱処理に好適なオーステナイト系ステンレス鋼、チタン等の非磁性の金属材料を用いることが好ましいこと」
が記載されている。
(5)刊行物5には、特に、【0032】、【0034】、【0035】、【0036】及び【0037】並びに図4等を参酌すると、
「中空円筒状の導電性管体12aからなる管体群12と、管体群12の包括的外周囲に誘導コイル15とを備えた過熱水蒸気発生装置11であって、管体12aは、誘導コイル15によって発生した交流磁界が中心領域に進入する際にその交流磁界を減衰させることが無いように耐熱性および耐食性を兼ね備えたオーステナイト系ステンレス鋼などの非磁性の材質から形成されていること」
が記載されている。
(6)刊行物6には、特に、【0016】及び図2等を参酌すると、
「複数の管状体3baaを外縁領域から内奥領域に亘って輻輳配置した場合でも、高周波通電を受ける誘導コイル6Bによる電磁誘導作用が内奥領域の管状体3baaにまで均等に及んで、各管状体3baaを均等に誘導加熱することが出来る、管状体を非磁性のオーステナイトステンレス鋼製としている加熱処理装置」
の発明が記載されている。
(7)刊行物7には、特に、1ページ2欄26行?2ページ3欄2行並びに第3図及び第4図等を参酌すると、
「鉄心3,8,9が棒状であり、コイル2の周りに均等に複数個配置されている誘導溶解炉」
が記載されている。
(8)刊行物8には、特に、1ページ1欄12行?2欄7行及び2ページ3欄17行?4欄6行並びに第1図及び第2図等を参酌すると、
「鉄心6が棒状であり、加熱コイル2の外側において周方向に所定間隔を隔てて複数個配置されている誘導炉」
が記載されている。
(9)刊行物9には、特に、1ページ1欄16?20行、1ページ1欄23?25行及び2ページ3欄30?34行並びに第1図及び第2図等を参酌すると、
「磁束の外部への漏洩を遮蔽して有効な磁束ループを形成する鉄心3が棒状であり、加熱コイル2の外側において放射状に間隔をおいて複数個配置されている誘導溶解炉」
が記載されている。
(10)刊行物10には、特に、【0008】、【0009】、【0010】、【0017】及び【0018】並びに図3等を参酌すると、
「金属容器6は、抜出しノズル5に向けてテーパ部6aが形成されており、上コイル2は、金属容器6のテーパ部6aに沿って形成されている、金属系廃棄物や保温材,ガラス,コンクリートなどの非金属系廃棄物が含まれる放射性廃棄物を高温で溶融する溶融炉」
の発明が記載されている。

5.判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
機能・構造からして、刊行物1に記載された発明の「接着剤を送るギアポンプ34を備える接着剤供給部18が底面に設けられている」態様は、請求項1に係る発明の「底部に排出機構が設けられている」態様に相当し、以下同様に、「高周波磁束による渦電流のジュール熱により発熱させる」態様は「高周波磁界に晒して誘導加熱により発熱させる」態様に、「第2の電磁誘導用加熱コイル40」は「誘導加熱コイル」に、「発生した磁束を収束させるためのフェライトコア42」は「磁性体」に、「リザーブタンク24に収納されている接着剤を溶解する電磁誘導加熱装置」は「誘導加熱装置」に、それぞれ相当している。
また、請求項1に係る発明の「非磁性の金属で構成され」た態様と刊行物1に記載された発明の「鉄製の容器で構成され」た態様とは「金属で構成され」た概念で共通し、請求項1に係る発明の「製造釜」と刊行物1に記載された発明の「リザーブタンク24」とは「容器」の概念で共通している。
そして、請求項1に係る発明の「誘導加熱コイルを挟んで前記製造釜と反対側に配置される」態様と刊行物1に記載された発明の「第2の電磁誘導用加熱コイルを挟んで前記リザーブタンク24と反対側に配置され」る態様とは「誘導加熱コイルを挟んで前記容器と反対側に配置される」態様で共通し、請求項1に係る発明の「製造釜の少なくとも垂直な側面の側方を垂直に取り囲むように形成されている」態様と刊行物1に記載された発明の「リザーブタンク24の垂直な側壁の側方を垂直に取り囲むように配置されている」態様とは「容器の少なくとも垂直な側面の側方を垂直に取り囲むように形成されている」態様で共通している。

したがって,両者は,
「金属で構成され、底部に排出機構が設けられている容器と、前記容器を高周波磁界に晒して誘導加熱により発熱させる誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルを挟んで前記容器と反対側に配置される磁性体と、を備え、前記誘導加熱コイルおよび前記磁性体が前記容器の少なくとも垂直な側面の側方を垂直に取り囲むように形成されている、誘導加熱装置」
の点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点>
容器について、請求項1に係る発明では「非磁性の金属で構成された」「製造釜」であるのに対して,刊行物1に記載された発明では「鉄製の容器で構成された」「リザーブタンク」である点。

上記<相違点>について検討する。
刊行物2の記載からすると、誘導加熱により発熱される外筒及び内部部材からなる発熱体を備え、外筒とともに内部部材の発熱も効率よく行い、発熱を均一に行うことができるように外筒を非磁性の金属で構成した、流体昇温装置は本件に係る特許についての出願前に公知であるといえる。また、刊行物3ないし刊行物6の記載からすると、誘導加熱により発熱される外側と内側の発熱体を備える加熱装置において、内側の発熱体にも電磁誘導作用が及ぶように外側の発熱体を非磁性の金属で構成することは本件に係る特許についての出願前に周知であるといえる。さらに、刊行物3及び刊行物10に廃棄物混合体の溶融処理物を製造する容器が記載されていることから、請求項1に係る発明の「製造釜」のように加熱する原材料が触れる容器は本件に係る特許についての出願前に周知であるといえる。
これらのことからすると、請求項1に係る発明の構成は刊行物1に記載された発明と、刊行物2に記載された事項あるいは刊行物3ないし刊行物6に記載された周知の事項と刊行物3及び刊行物10に記載された周知の事項とを寄せ集めることにより充足すると解せる。
そこで、これらを寄せ集めることの動機について検討する。請求項1に係る発明は「製造釜に要求される衛生度を保つためには、誘導加熱に好適でない材質を製造釜に用いざるを得ないことがある。そのような材質としては、例えば、耐食性に優れる非磁性のオーステナイト形のステンレス鋼等を例示できる。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、非磁性の金属で構成される製造釜を効果的に加熱できる誘導加熱装置を提供することを課題とする。」(【0004】、【0005】)ものであって、「非磁性の金属で構成される製造釜と、前記製造釜を高周波磁界で誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルを挟んで前記製造釜と反対側に配置される磁性体と、を備える。非磁性の金属は、透磁率が低くて渦電流が小さいためジュール熱が生じにくく、また、透磁率の低い金属は一般に磁気モーメントも小さいためヒステリシス熱も生じにくい。・・・しかし、上記誘導加熱装置は、磁性体を、誘導加熱コイルを挟んで製造釜と反対側に配置しているため、製造釜に透過させるべき磁束が磁性体に集約されてしまうことが無い。また、誘導加熱コイルを挟んで製造釜と反対側の磁束の多くが磁性体に集約されることにより、誘導加熱コイルを挟んで磁性体と反対側に形成される磁界の磁束も製造釜が配置される空間に集約されて、製造釜を通過する磁束の密度が高まることになる。この結果、製造釜の効果的な加熱が実現される。」(【0008】?【0010】)ものである。一方、刊行物2に記載された事項あるいは刊行物3ないし刊行物6の記載された周知の事項においては、主に内側の発熱体にも電磁誘導作用が及ぶように外側の発熱体を非磁性の金属で構成するものであって、請求項1に係る発明のような製造釜に要求される非磁性の金属を効果的な加熱を実現するとの課題は、刊行物1ないし刊行物6にみあたらない。さらに、刊行物1に記載された発明のリザーブタンクは接着剤塗布装置のホットメルトの接着剤を単に溶融するものであって、製造釜とする特段の事情もみあたらないし、その材質について溶融物に応じて耐蝕性等の特性を必要とするものとはいえず、また、請求項1に係る発明のような衛生度を保つために耐食性に優れる金属を用いざるを得ない事情もみあたらない。さらに、刊行物1には、発熱部材の材質としては、発熱速度を考慮して、鉄等の磁性材料が好ましいとされ(【0040】)、この点を考慮して、刊行物1に記載された発明は鉄製の容器を採用しているものである。したがって、請求項1に係る発明の構成となるように、刊行物1に記載された発明と、刊行物2に記載された事項あるいは刊行物3ないし刊行物6に記載された周知の事項と刊行物3及び刊行物10に記載された周知の事項とを寄せ集める動機付けはないというべきである。
さらに、刊行物1ないし刊行物10に記載された全ての事項を勘案しても、請求項1に係る発明の上記課題はみあたらず、上記相違点において請求項1に係る発明のように構成しようとする動機を見出すことはできない。
そして、請求項1に係る発明はその構成により「製造釜の効果的な加熱が実現される。」(【0010】)顕著な効果が認められるものである。
そうすると,刊行物1に記載された発明をして上記相違点に係る請求項1に係る発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、上記刊行物1に記載の発明、刊行物2記載事項及び刊行物3ないし6、10記載の周知技術から当業者が容易になし得たものではない。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書25ページ12?17行において「非磁性の金属から構成される製造釜を用いるのは、当該製造釜の内容物に応じて決まり、『衛生面が重視される流動食品等の流動物が汚染されることが無いように、オーステナイト系ステンレス鋼などの耐食性を有する金属材料を用いる』点が甲4に記載されている通り、耐食性や衛生面向上等の本技術分野に常在する課題に基づいて成される周知・慣用技術に過ぎない。」から「前記課題に基づいて」「誘導加熱されるリザーブタンク24を非磁性の金属(例えばオーステナイト系ステンレス鋼)から構成されたものとすることは、容易に想到し得るものである。」旨主張しているが、先のとおり刊行物1に記載された発明には「前記課題」と呼ぶものは認められないから、かかる主張は根拠がない。

(2)請求項2及び3に係る発明について
刊行物7ないし刊行物9の記載からすると、誘導加熱コイルの外側において周方向に所定間隔を隔てて複数個棒状の鉄心を配置することは本件に係る特許についての出願前に周知であるといえる。
しかしながら、請求項2及び3に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記刊行物1に記載の発明、刊行物2記載事項、及び刊行物3ないし10記載の周知技術から当業者が容易になし得るものではない。

以上のとおり、請求項1ないし3に係る発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載事項、及び刊行物3ないし10記載の周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-30 
出願番号 特願2010-211283(P2010-211283)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 田村 嘉章
山崎 勝司
登録日 2015-05-29 
登録番号 特許第5753357号(P5753357)
権利者 ポーラ化成工業株式会社
発明の名称 誘導加熱装置  
代理人 齊藤 真大  
代理人 今堀 克彦  
代理人 香坂 薫  
代理人 高田 大輔  
代理人 西村 竜平  
代理人 川口 嘉之  

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