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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1315654
異議申立番号 異議2015-700012  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-08-27 
確定日 2016-05-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5726084号「薄型電極アセンブリ」の請求項1ないし32に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5726084号の請求項1ないし32に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5726084号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし32についての出願は、2009(平成21)年11月11日(パリ条約による優先権主張2009(平成21)年5月19日等、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願に係るものであって、平成27年4月10日に特許権の設定登録がなされ(特許公報の発行日は平成27年5月27日)、その後、平成27年8月27日に特許異議申立人 菊地 公一(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成28年1月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年4月28日に意見書の提出がなされたものである。

2 本件発明
特許第5726084号の請求項1ないし32の特許に係る発明(以下「本件発明1」などということがある。)は、明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
組織電極アセンブリ(105)であって、
患者内で展開可能である拡張可能な適合性の本体を形成するように構成された膜(34)と、
前記膜(34)の表面に配置され、かつ少なくとも1つのベース基板層(52)と、少なくとも1つの絶縁層(100)と、少なくとも1つの平面導電層(96)とを備えるフレキシブル回路(89)と、
ポリマー系インクを含み、前記フレキシブル回路(89)の少なくとも一部と、前記フレキシブル回路(89)により覆われていない前記膜(34)の前記表面の一部とを覆う導電性電極(6)であって、前記患者への当該アセンブリ(105)の低侵襲性送達に適している直径を有する送達形態へと、前記膜(34)とともに折畳み可能である、導電性電極(6)と
を備えるアセンブリ。
【請求項2】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記ベース層または前記絶縁層が、絶縁材料の基板層を含み、前記平面導電層が、絶縁材料の前記基板層の少なくとも一部を覆う導電材料を含む、アセンブリ。
【請求項3】
請求項2に記載のアセンブリであって、前記絶縁材料が、ポリイミド、ポリエステル、ポリエチレン・テレフタレート、ポリアリルエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン・ナフタレート、液晶ポリマー、フォトイメジャブル・カバーレイ、薄いエポキシ・ガラス、ポリイミド・ガラス、およびアクリル系接着剤のうちの少なくとも1つを含む群から選択される、アセンブリ。
【請求項4】
請求項2に記載のアセンブリであって、前記導電材料が、銅、金、銀、錫、ニッケル、鋼鉄、キュプロニッケル、およびニッケル・コバルト鉄合金のうちの少なくとも1つを含む群から選択される、アセンブリ。
【請求項5】
請求項2に記載のアセンブリであって、前記導電層が、絶縁材料の誘電体層により少なくとも部分的に更に覆われる、アセンブリ。
【請求項6】
請求項5に記載のアセンブリであって、前記フレキシブル回路が、1または複数の導電性トレースを有する少なくとも2つの分岐部へと分裂する主リードを備える、アセンブリ。
【請求項7】
請求項6に記載のアセンブリであって、それぞれの前記導電性トレースが、前記絶縁材料の誘電体層により覆われていない露出した導電性層の領域を含む導電性パッドを備える、アセンブリ。
【請求項8】
請求項7に記載のアセンブリであって、前記導電性パッドの下にある前記絶縁材料の基板層の領域が、前記導電性トレースの下にある前記絶縁材料の基板層の領域と比較して広くされた幅を有する、アセンブリ。
【請求項9】
請求項8に記載のアセンブリであって、前記導電性パッドの下にある前記絶縁材料の基板層の前記領域が、前記フレキシブル回路と前記膜とのより優れた付着を可能にするように1または複数の穴を更に備える、アセンブリ。
【請求項10】
請求項6に記載のアセンブリであって、少なくとも1つの導電性トレースが少なくとも2つの導電性パッドを備える、アセンブリ。
【請求項11】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記導電性電極により覆われている前記フレキシブル回路の前記部分は導電性パッドを含む、アセンブリ。
【請求項12】
請求項11に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が、前記導電性パッドの表面積よりも広い表面積を有する、アセンブリ。
【請求項13】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が、エネルギ供給される組織へ直接に接触する、アセンブリ。
【請求項14】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が、印刷、塗装、噴霧、はんだ付け、接着、真空蒸着、およびポジ型材料堆積のうちの少なくとも1つを含む群から選択された技法により堆積されている、アセンブリ。
【請求項15】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が膜の適合性を変えない、アセンブリ。
【請求項16】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が、単極無線周波数、双極無線周波数、マイクロ波、高電圧、およびエレクトロポレーションのうちの少なくとも1つを含む群から選択されるエネルギを放出する、アセンブリ。
【請求項17】
請求項1に記載のアセンブリであって、1つより多いフレキシブル回路を更に備える、アセンブリ。
【請求項18】
請求項1に記載のアセンブリであって、少なくとも5つのフレキシブル回路を備え、それぞれの前記フレキシブル回路が、1または複数の導電トレースを有する少なくとも2つの分岐部へと分裂し、それぞれの前記導電性トレースが少なくとも1つの導電性電極へ電力を供給する、アセンブリ。
【請求項19】
請求項18に記載のアセンブリであって、前記導電性電極が個々に制御される、アセンブリ。
【請求項20】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記フレキシブル回路に取り付けられ、かつ導電性フィルム電極に隣接して配置される少なくとも1つの温度センサを更に備える、アセンブリ。
【請求項21】
請求項20に記載のアセンブリであって、前記温度センサが、導電性トレースを前記導電性電極と共用する、アセンブリ。
【請求項22】
請求項20に記載のアセンブリであって、導電性電極に隣接して配置される前記温度センサが、前記導電性電極から1mm未満離れている、アセンブリ。
【請求項23】
請求項20に記載のアセンブリであって、前記温度センサが、表面実装サーミスタ、熱電対、プラチナ抵抗温度計、または抵抗温度検出器を含む、アセンブリ。
【請求項24】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記拡張可能な適合性の本体が自己拡張型である、アセンブリ。
【請求項25】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記膜の前記拡張可能な適合性の本体が液密である、アセンブリ。
【請求項26】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記膜の前記拡張可能な適合性の本体が織られたものである、アセンブリ。
【請求項27】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記拡張可能な適合性の本体が、管状、球状、トロイド状、円錐状、分岐状、又状、テーパ状、および非対称状の形状を含む群から選択される形状を有する、アセンブリ。
【請求項28】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記膜が、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリオレフィン・コポリマー、ポリエチレン・テレフタレート、ナイロン、ポリマー・ブレンド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン、ラテックス、マイラー・エラストマー、およびポリジメチルシロキサンのうちの少なくとも1つを含む群から選択された材料を含む、アセンブリ。
【請求項29】
請求項1に記載のアセンブリであって、前記膜が、低侵襲の送達のために構成されたカテーテルの遠位端に結合される、アセンブリ。
【請求項30】
請求項29に記載のアセンブリであって、前記送達の構成は、前記膜が前記カテーテルの前記遠位端に対して遠位へ折り畳まれることと、前記導電性電極がそれ自体の上に折り畳まれることとを含む、アセンブリ。
【請求項31】
請求項29に記載のアセンブリであって、前記フレキシブル回路が、1または複数の導電性トレースを有する少なくとも2つの分岐部へと分裂する主リードを備え、前記主リードが、前記カテーテルの内径を通され、前記膜の近位領域で前記カテーテル内径から出る、アセンブリ。
【請求項32】
請求項31に記載のアセンブリであって、前記フレキシブル回路の前記主リードが、前記膜の内径を通され、前記膜の遠位領域で前記膜内径から出る、アセンブリ。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし32に係る特許に対して通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

ア 本件発明1
本件発明1は、甲第1号証(特表2000-504242号公報)記載の発明に、甲第2号証(特開平7-178113号公報)に示される技術事項並びに甲第3号証及び甲第4号証に示される従来周知の技術事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下「甲第1号証」ないし「甲第4号証」を、それぞれ「甲1」ないし「甲4」という。)

イ 本件発明2ないし32
本件発明2ないし32は、いずれも、異議申立書の「3 申立ての理由」「(4)具体的理由」「ウ 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比」の(イ)?(ミ)欄と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 甲各号証の記載
本件特許に係る優先日前に頒布された刊行物である甲1ないし甲4には、以下の発明又は事項が記載されていると認められる。なお、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、下線は当審で付したものである。
(1)甲1
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「体の組織を電気的に分析し加熱するための多機能電極構造体」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「1. 身体組織に接触するように適合させた外壁を含む構造体と、
前記構造体の外壁に備えられた電気導電性電極セグメントと、
各電極セグメントに別個に結合された少なくとも1つの電気導電性経路を含む、前記電極セグメントに結合される電気導電性ネットワークと、
電気導電性ネットワークに結合された制御装置であって、制御装置が第1のモードで作動している間はネットワークの電気的状態が各電極セグメントで組織内の局所的な電気事象をそれぞれ感知するように設定され、制御装置が第2のモードで作動している間はネットワークの電気的状態が、少なくとも一部は電気セグメントにより感知された局所的な電気事象に応じて、少なくとも2つの電極セグメントを共に結合させて同時に電気エネルギーを伝導させ身体組織の一部位に生理学的効果を及ぼすように設定される、前記制御装置と、
を備えるシステム。」

(イ)
「図2及び図3に最もよく示されているように、電極構造体20には膨張?収縮可能な本体22が含まれる。本体22の形態は収縮形態(図3)及び拡大あるいは膨張形態(図2)の間で変化させることができる。図示した好ましい実施の形態では、流体圧力を使用して膨張?収縮可能本体22を膨張形態に膨張させ維持させる。
この段取りでは(図2参照)、カテーテル管12にはその長さに沿って内部に内腔34が備えられる。内腔34の末端は膨張?収縮可能な本体22の中空内部で開いている。内腔34の近接端はハンドル18上の管接続口(ポート)36(図1参照)と接続している。流体膨張媒質(図2の矢印38)は正圧下、管接続口36を通って内腔34内に運ばれる。この流体媒質38により内圧がかかり、膨張?収縮可能本体22がその収縮形態から膨張形態に変わる。
この特性により膨張?収縮可能本体22は、脈管構造内に導入する際、収縮した、扁平形態(理想的には、直径8French未満、すなわち約0.267cm未満)をとることができる。いったん所望の場所に配置すると、膨張?収縮可能本体22を大きく膨張した形態、例えば約7から20mmにすることができる。」(第15ページ下から3行?第16ページ第12行)

(ウ)「図4に最もよく示されるように、構造体20は膨張?収縮可能本体22の全体あるいは一部の上に存在する小電極セグメント44の列を含む。その列は小電極セグメント44が高密度に、近接して配置されるようにその電極セグメントを配向させている。各電極セグメント44の抵抗率はそのセグメント44を離している本体22の抵抗率に比べ低い。
電極セグメント44はスパッタリング、蒸気蒸着、イオンビーム蒸着、蒸着した種層上での電気メッキ、フォトエッチング、多層プロセス、あるいはこれらのプロセスの組合せにより膨張?収縮可能本体22上に析出させた金、白金、白金/イリジウム、などの金属を含む。
銅などの高導電性金属から作製された信号経路32は各電極44から出ている。信号経路32は従来のフォトエッチングまたは多層プロセスにより本体上に析出させる。信号経路32はワイヤ33とつながっており、そのワイヤはカテーテル管12を通って延在し、ハンドル18に設けられたコネクタ38に結合している。」(第17ページ第19行?第18ページ第4行)

(エ)
「治療モードでは、制御装置40は特定した部位の上に存在するグリッドの隣接電極セグメント44を切除エネルギー源42に結合させる。結合させた電極セグメントは同時にエネルギー源42(図1参照)から切除エネルギーを受理し、エネルギーの大表面積伝導機として機能する。図示した好ましい実施の形態において使用する切除エネルギーの型は変えることができ、結合された電極セグメント44は高周波(RF)電磁エネルギーを伝導する。結合させた電極セグメントからの切除エネルギーは組織を通り、典型的には外部のパッチ電極に到達する(単極配列を形成)。その代わりに、伝導されたエネルギーは組織を通り心房及び心室内の別の隣接する電極に到達することができる(双極配列を形成)。高周波エネルギーは組織をほとんどオーム加熱し損傷を形成する。」(第19ページ第9?18行)

(オ)上記記載事項(ウ)の(膨張?収縮可能)本体22上に析出した「信号経路32」については、膨張?収縮可能な本体22上に析出して配置されているのだから、膨張?収縮可能本体22の表面に配置されるフレキシブルな信号経路32、ということができる。

(カ)上記記載事項(イ)に「膨張?収縮可能本体22は、脈管構造内に導入する際、収縮した、扁平形態(理想的には・・・)をとることができる。いったん所望の場所に配置すると、膨張?収縮可能本体22を大きく膨張した形態、例えば約7から20mmにすることができる。」とあることから、該「膨張?収縮可能本体22」は、患者内で膨張可能であるといえ、また、患者への低侵襲性送達に適している直径を有する送達形態へ収縮可能、ということができる。
そして、図2に「膨張?収縮可能本体22」に展開及び折畳み用の折目部が認められることからすれば、該「膨張?収縮可能本体22」は、さらに、患者内で展開可能であるといえ、また、患者への低侵襲性送達に適している直径を有する送達形態へ折畳み可能、ということができる。

イ 甲1発明
上記記載事項(ア)ないし(エ)並びに上記認定事項(オ)及び(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件発明1に照らして整理すると、甲1には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)。
「構造体20であって、
患者内で展開可能である膨張?収縮可能本体22と、
前記膨張?収縮可能本体22の表面に配置されるフレキシブルな信号経路32と、
前記フレキシブルな信号経路32と接続され、前記膨張?収縮可能本体22の一部の上に存在する小電極セグメント44とを備え、
前記患者への当該構造体20の低侵襲性送達に適している直径を有する送達形態へと、前記膨張?収縮可能本体22が折畳み可能である、
構造体20。」

(2)甲2
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「心内膜マッピング・剥離システム及びカテーテルプローブとその方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、心内膜マッピング・剥離システム及びカテーテルプローブと、その方法とに係る。」

(イ)「【0016】フレキシブルな細長い管状部材36の遠位端には、フレキシブルな伸長性の円筒部材46が固定位置に取り付けられる。この伸長性円筒部材46は、以下で述べるように、引っ込んだ位置と延びた位置との間で動くことができる。この伸長性円筒部材には、複数の周囲方向に離間されて長手方向に延びるフレキシブルなアーム47が設けられており、これらは、隣接する近位端及び遠位端、即ち端部48及び49を有している(図6参照)。」

(ウ)「【0017】フレキシブルな伸長性円筒部材46はフレキシブルな平らなシート51で形成され(図2参照)、これは、側部に延びるイヤ52及び53を両端に有する細長い長方形の形態である。シート51は、プラスチックのような適当な絶縁材料で形成される。特に適当であると分かった1つのプラスチックは、カプトン(登録商標)と識別されるポリイミドである。円筒部材46に使用すべき複数のアーム47が8であると仮定すれば、シート51にはナイフ又はダイ(図示せず)によりイア52と53との間で長手方向に延びる平行離間されたスリット56が形成され、複数の周囲方向に離間され長手方向に延びるアーム47が形成される。スリット56の各々の両端には小さな穴57が設けられ、これらはシート51の近位端及び遠位端、即ち端部48及び49に向かってスリット56が伝わるのを阻止するように働く。」

(エ)「【0018】アームに弾力性を与えるために、シート51は、細い部分61a(図3)を有するステンレススチールやプラスチックのような適当な材料のダイカットメタルストリップ61の上に一緒に接合された2つのプラスチックシートで形成することができ、メタルストリップ61はプラスチックの2つの層62と63との間に埋設され(図4)そしてそこに封入され、スリット56を切るべき線と線との間のエリアに存在するようにされる。本発明のある用途においては、伸長性円筒部材46が延びた位置にあるときに以下で述べるように該部材のアーム47を曲げるための所望の形態を得るためにストリップ61に特定のパターンを形成するのが望ましい。細い部分61aは、以下で述べるように円筒部材46が延ばされるときにその領域においてアーム47を大きく曲げるために近位端に設けることができる。ステンレススチールストリップは、例えば、アーム47の巾より小さい所望の巾をもつことができると共に、例えば、0.001インチないし0.010インチの適当な厚みをもつことができ、プラスチック層62及び63は、0.001インチないし0.010インチの適当な厚み、典型的には、0.002インチの厚みをもつことができる。」

(オ)「【0019】鉛又は白金のような適当な材料で形成された半径方向に離間された長方形の放射線不透過マーカ64(当審注:65の誤記)は、ステンレススチールのストリップ61の下に配置することができ、シート51を形成する層62、63、64のうちの層62と63との間に埋設される。・・・(後略)」

(カ)「【0020】バイポーラ電極67及び68の複数の長手方向及び半径方向に離間されたセット66がアーム47の外面69に設けられており、これらは絶縁基板として働くと共に、シート51の横方向に(図6)且つ円筒部材46の周囲方向に(図6)離間されている。円筒部材46は、細長い管状エレメント36の遠位端に固定された伸長手段として働き、引っ込んだ位置と延びた位置との間で動くことができる。これにより、伸長手段が延びた位置へ移動されたときには、以下で述べるように、伸長手段が配置された心室を形成する心臓の壁に電極67及び68が係合される。」

(キ)「【0021】電極67及び68は、図示されたように長方形であり、長さが0.040インチで巾が0.040インチである。バイポーラ電極67及び68は、例えば0.040インチの適当な距離だけ分離される。所望ならば、電極67と68は異なったサイズのものでもよい。アーム47の内部、即ち内面72にはリード71が設けられる。電極67及び68と、リード71は、適当な導電性材料で構成される。・・・(中略)・・・電極67及び68の各々は経路76によりリード71の1つと接続される。リード71はプラスチック層63によりメタルストリップ61から絶縁される。」

(ク)「【0024】図2のシート51を円筒部材46に形成する場合には、遠位端マンドレル91及び近位端マンドレル92が使用される。・・・(後略)」

イ 甲2事項
上記記載事項(ア)ないし(ク)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて、特に図4に示された断面図に着目して整理すると、甲2には以下の事項が記載されていると認める(以下「甲2事項」という。)。
「3つのプラスチックの層62,63,64を備え、2つのプラチック層63,64の間にリード71を備え、2つのプラチック層62,63の間に弾力性を与えるメタルストリップ61を埋設したフレキシブルな平らなシート51を、円筒部材に形成したフレキシブルな伸長性円筒部材46。」

(3)甲3
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「経腔的及び他の操作を行うための方法及び装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)
「【0152】
更に他の形態において、導電性インクを利用したシルク・スクリーンのようなプロセス、又は、回路プリント基板の生産に用いられるような生産プロセスを用いて、電極は、直接的に活性化ポリマー要素の表面にプリントされる。本形態において、導電性インクは、活性化ポリマー要素の移動に伴って膨張して接触することが必要である。これを実現するために、電極は、領域に一部分割され、波形又は他の幾何学的な形状で、全体的な動きを可能にする。図45は、収縮度を大きくすることが可能な、導電性インクのパターン210,212を示す。本形態において、電極のいずれか又は全てを個別に制御するために必要な全ての接続を印刷することが好ましく、それによって、活性化ポリマー要素の多くの領域を制御することが可能になり、従って、図46に示すように更にワイヤを追加する必要を低減し又はなくすことができる。」

(4)甲4
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「経皮電極アレイ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
患者に治療用電気エネルギーを供給するための経皮電極アレイであって、
上面および下面を有する基板と、
近位端、遠位端、前記近位端から前記遠位端までの軸、および前記軸に沿った長さをそれぞれ有する複数の電極とを備え、
各電極が前記基板の前記上面に取り付けられ、
前記電極が0.2平方センチメートルよりも大きい総表面積を有するアレイ。
(・・・中略・・・)
【請求項11】
前記電極が、1つまたはそれより多いドープ半導体材料、シリコン金属化合物、ステンレス鋼、導電性ポリマー、炭素同素体、および、塊もしくは堆積された材料としての導電性金属を含む請求項1に記載のアレイ。」

5 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、甲1発明の「構造体20」は、「小電極セグメント44」及び「患者内で展開可能である膨張?収縮可能本体22」を備えることを踏まえ、本件発明1の「組織電極アセンブリ」に相当するといえる。
次に、甲1発明の「患者内で展開可能である」「膨張?収縮可能本体22」が本件発明1の「患者内で展開可能である拡張可能な適合性の本体を形成するように構成された」「膜」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「フレキシブルな信号経路32」は「フレキシブル回路」に、「小電極セグメント44」は「導電性電極」に相当することも明らかである。

次に、甲1発明の「フレキシブルな信号経路32と接続され、前記膨張?収縮可能本体22の一部の上に存在する小電極セグメント44」は、上記対応関係を踏まえ、「フレキシブル回路と接続され、前記膜の一部の上に存在する導電性電極」と言い改められるところ、
これは本件発明1の「ポリマー系インクを含み、前記フレキシブル回路(89)の少なくとも一部と、前記フレキシブル回路(89)により覆われていない前記膜(34)の前記表面の一部とを覆う導電性電極(6)」と、
「フレキシブル回路と接続され、少なくとも前記膜の一部の上に存在する導電性電極」である限りにおいて共通する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「組織電極アセンブリであって、
患者内で展開可能である拡張可能な適合性の本体を形成するように構成された膜と、
前記膜の表面に配置されるフレキシブル回路と、
前記フレキシブル回路と接続され、少なくとも前記膜の一部の上に存在する導電性電極とを備え、
前記患者への当該アセンブリの低侵襲性送達に適している直径を有する送達形態へと、前記膜が折畳み可能である、
アセンブリ。」

そして、本件発明1と甲1発明とは、以下の4点で相違する。
<相違点1>
本件発明1のフレキシブル回路は、少なくとも1つのベース基板層(52)と、少なくとも1つの絶縁層(100)と、少なくとも1つの平面導電層(96)とを備えるのに対し、甲1発明のフレキシブルな信号経路32は、そのような構造か不明である点。
<相違点2>
フレキシブル回路と接続され、少なくとも前記膜の一部の上に存在する導電性電極に関し、本件発明1の導電性電極(6)は、フレキシブル回路(89)の少なくとも一部と、フレキシブル回路(89)により覆われていない膜(34)の表面の一部とを覆うのに対し、甲1発明の小電極セグメント44は、フレキシブルな信号経路32(フレキシブル回路)と接続され、膨張?収縮可能本体22(膜)の一部の上に存在するものの、その他は不明である点。
<相違点3>
本件発明1の導電性電極(6)は、ポリマー系インクを含むのに対し、甲1発明の小電極セグメント44は、そのようなものか不明である点。
<相違点4>
本件発明1の導電性電極(6)は膜(34)とともに折畳み可能であるのに対し、甲1発明においては、膨張?収縮可能本体22(膜)が折畳み可能であるものの、小電極セグメント44(導電性電極)自体も共に折畳み可能であるか明らかでない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
上記4(2)イにて指摘したように甲2事項は、「3つのプラスチックの層62,63,64を備え、2つのプラチック層63,64の間にリード71を備え、2つのプラチック層62,63の間に弾力性を与えるメタルストリップ61を埋設したフレキシブルな平らなシート51を、円筒部材に形成したフレキシブルな伸長性円筒部材46。」というものであるところ、これを本件発明1と対比すれば、刊行物2事項の「プラスチックの層64」は機能的に本件発明1の「絶縁層」に相当し、同様に「プラスチックの層63」は「ベース基板層」に、「リード71」は「平面導電層」に、「フレキシブルな平らなシート51」は「フレキシブル回路」に相当すると解する余地はある。
しかしながら、甲2事項はあくまで「フレキシブルな伸長性円筒部材46」であって、そのような「伸長性円筒部材」を展開した「フレキシブルな平らなシート」の構造を、敢えて甲1発明の膨張?収縮可能本体22(膜)の表面上に存在する信号経路32(フレキシブル回路)の構造として適用することは、考えにくいといわざるを得ない。
加えて、甲2事項は「2つのプラチック層63,64の間に弾力性を与えるメタルストリップ61を埋設した」ものであり、このようなメタルストリップの存在は、甲2事項のシートを甲1発明の折畳み可能な膨張?収縮可能本体22の表面上に適用する際の阻害事由であるというべきである。
また、甲3及び甲4には、導電性ポリマーインクに関する従来周知の技術事項が示されるが、これは相違点1に係る本件発明1の構成を何ら示すものではない。
これらを併せ考えると、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2事項並びに甲3及び甲4に示される従来周知の技術事項から当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 小括
したがって、相違点1は、いずれも甲1発明及び甲2事項並びに甲3及び甲4に示される従来周知の技術事項から当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、取消理由によって取り消すことはできない。

6 本件発明2ないし32
本件発明2ないし32は、本件発明1を引用するものであるところ、本件発明1に係る特許を取消理由により取り消すことはできないことは、上記5にて説示したとおりである。したがって、本件発明1を引用する本件発明2ないし32に係る特許も、取消理由によって取り消すことはできない。

7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1ないし32に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-18 
出願番号 特願2011-535791(P2011-535791)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村上 聡  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 長屋 陽二郎
平瀬 知明
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5726084号(P5726084)
権利者 シファメド・ホールディングス・エルエルシー
発明の名称 薄型電極アセンブリ  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  
代理人 小見山 泰明  
代理人 大塚 住江  
代理人 星野 修  

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