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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E01C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  E01C
管理番号 1315660
異議申立番号 異議2015-700271  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-03 
確定日 2016-06-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5728048号発明「橋梁の埋設型ジョイント部構造及びその施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5728048号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5728048号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年6月12日に特許出願され、平成27年4月10日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人西日本高速道路メンテナンス九州株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明1ないし4
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」「本件発明4」という。)。

「【請求項1】
橋桁又は橋台を含む橋梁部材どうしを接続する橋梁のジョイント部構造であり、
第1橋梁部材と、
第1橋梁部材に接続される第2橋梁部材であって、第1橋梁部材との間に遊間を介在して対向する第2橋梁部材と、
第1橋梁部材と第2橋梁部材の対向上部を第1橋梁部材と第2橋梁部材との対向線方向に長く切り欠いて遊間に沿って形成された凹部と、
骨材と固化後に伸縮性を有する伸縮性バインダとを混合した接合材を凹部に埋め込み状に充填して設けられ、橋梁部材の伸縮変位を吸収するジョイント部と、を含み、
接合材の骨材は、骨材全体に対して重量比で8?15%の割合で、石材を安定な水平面に置いた状態での平面視でその輪郭に接する2つの平行線間の最小距離である幅bを、該水平面に平行で石材表面に接する平行面間の最大距離である厚さt、で割った値が3以上(b/t≧3)となる偏平骨材を含み、
ジョイント部は、接合材の偏平骨材が偏平方向を横方向に向くように揃えた状態で配置されて設けられたことを特徴とする橋梁の埋設型ジョイント部構造。
【請求項2】
ジョイント部は、遊間に挿入される伸縮性のバックアップ材と、
凹部の底面に遊間上を跨って設置されるギャッププレートと、
ギャッププレートを被覆するように凹部の底面に設置されるシート体と、
接合材の充填前に凹部の第1橋梁部材側の内壁面と第2橋梁部材側の内壁面とにそれぞれ塗布され、該凹部に充填された接合材と一体化するバインダ層と、を含むことを特徴とする請求項1記載の橋梁の埋設型ジョイント部構造。
【請求項3】
凹部は縦断面視で矩形状に形成されており、
ジョイント部のバインダ層は、凹部の第1橋梁部材側と第2橋梁部材側のそれぞれについて隅部を含む側壁面と底壁面とに塗布して形成されることを特徴とする請求項2記載の橋梁の埋設型ジョイント部構造。
【請求項4】
橋桁又は橋台を含む橋梁部材どうしを接続する橋梁の埋設型ジョイント部構造の施工方法であり、
遊間を介在して互いに対向して接続される第1橋梁部材と第2橋梁部材の対向上部を第1橋梁部材と第2橋梁部材との対向線方向に長く切り欠いて遊間に沿った凹部を形成する工程と、
遊間に伸縮性のバックアップ材を挿入する工程と、
凹部内面にプライマを塗布する工程と、
凹部の底面に遊間上に跨らせてギャッププレートを設置する工程と、
凹部の底面に設置されたギャッププレートを被覆するようにシート体を設置する工程と、
凹部の第1橋梁部材側の内壁面と第2橋梁部材側の内壁面とにそれぞれ伸縮性バインダを塗布しバインダ層を形成する工程と、
骨材全体に対して重量比で8?15%の偏平骨材を含む骨材と固化後に伸縮性を有する伸縮性バインダとを混合した接合材を凹部に充填する工程と、
凹部に充填した接合材を上から転圧することにより偏平骨材の偏平方向が横方向に向くように揃えながら締め固める工程と、を含むことを特徴とする橋梁の埋設型ジョイント部構造の施工方法。」

3 取消理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)取消理由1(進歩性欠如)
ア 本件発明1は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件発明2及び3は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 本件発明4は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2004-124456号公報(以下「刊行物1」という。以下同様。)
甲第2号証:特開平11-343606号公報(「刊行物2」)
甲第3号証:特開2013-87586号公報(「刊行物3」)
甲第4号証:東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社編、設計要領 第一集 舗装編、第7版、(株)高速道路総合技術研究所、平成24年7月発行、27頁(「刊行物4」)
甲第5号証:日本道路公団 名古屋技術事務所 奥原正由他、黒色片岩の締固め特性(室内試験と現地施工における差異について)、平成15年7月発行、1331頁(「刊行物5」)
甲第6号証:特開平7-18616号公報(「刊行物6」)
甲第7号証:東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社編、設計要領 第二集 橋梁建設編、第7版、(株)高速道路総合技術研究所、平成24年7月発行、6-61?6-64頁(「刊行物7」)
甲第8号証:特開2001-234504号公報(「刊行物8」)

(2)取消理由2(実施可能要件違反)
本件発明1ないし4は、実施可能要件を満足しておらず、その特許は特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

4 刊行物の記載
(1)刊行物1に記載された事項
ア 本件特許の出願日前に頒布された刊行物1には、以下の記載がある(下線は、本決定で付した。以下同様。)。
(ア)発明の属する技術分野
「【0001】
本発明は弾性舗装材を用いた埋設ジョイントつまり骨材舗装部材内に所定の連続した空隙部を形成した橋梁に於ける埋設継手の構造に関する。」
(イ)従来の技術
「【0004】
また、他の従来の技術の例としては、橋梁の埋設継手は、骨材とゴムアスファルトをバインダーに用いて結合した複合材が用いられ、車両の輪荷重に対する耐圧縮性は、塑性体をベースにして骨材で持ち、床版に対する伸縮性はバインダーで持つ構造となっている。」
(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0005】
従来の技術は叙上した構成であるので、次の課題が存在する。従来の技術に於ける橋梁伸縮継手は、ゴムメッシュ13やゴムチップ又はバインダーの変形等により、橋梁や継手部分の伸縮作用を吸収するが完全ではなく、特に体積変形を吸収する部位や部材が存在しない。また、該ゴムチップ等が劣化し、それ自体が磨耗、変形するので、時経的に伸縮作用が劣るという問題があった。更に、近年の排水性舗装に適応する埋設伸縮継手が存在しないと共に、埋設伸縮継手内は密実となっており、床版の伸縮による変形を複合材のみで不完全に吸収するため、その体積変形量を吸収することができず、経年変化とともに該伸縮継手の上面に背割れ、ひび割れ等の変形が現れる等、種々の問題点があった。」
(エ)課題を解決するための手段
「【0006】
本発明は、例えば常温硬化型であって、高粘度弾性バインダーを被膜した所定粒度の骨材子の集合体で構成した骨材舗装部材を一方及び他方の舗装部材間に介装し、該骨材舗装部材に対する該骨材子の各個に隣接して形成された空隙部の体積比率を所定値の範囲内に設定し、橋梁や合成床版の伸縮作用を合理的に吸収すべくした、橋梁に於ける埋設継手の構造を提供することを目的としたものであって、次の構成、手段から成立する。」
(オ)発明の実施の形態
「【0014】
図1を説明することにより、本発明に係る橋梁に於ける埋設継手の構造を明らかにする。1は一方の床版例えば合成床版であって、一方の床版コンクリート1a及び一方の主桁1bで構成されている。該一方の主桁1bの上面に、前記一方の床版コンクリート1aを配置している。2は他方の床版例えば合成床版であって、他方の床版コンクリート2a及び他方の主桁2bで構成されている。該他方の主桁2bの上面に、前記他方の床版コンクリート2bを配置している。3はジョイントであり、前記一方の主桁1bと前記他方の主桁2bの端部を可動自在に連結し、該一方の主桁1bと該他方の主桁2bの左右伸縮作用を許容している。
【0015】
前記一方の床版コンクリート1aと前記他方の床版コンクリート2aとの間に遊間Bが設定されており、該遊間Bの上部には弾性シール材4を介在させると共にキャッププレート5を固定している。
【0016】
6は、舗装部材であって、例えば一方のアスファルト部材6aと、他方のアスファルト部材6bとで構成されている該舗装部材6、6間に介装した骨材舗装部材7を備えている。該舗装部材6は、前記一方及び他方の合成床版1、若しくは前記一方の床版コンクリート1a及び前記他方の床版コンクリート2aの上面に積層している。
【0017】
また、前記骨材舗装部材7の底部には、弾性ゴムシート等でなる伸縮分散シート7aを設置してあり、前記骨材舗装部材7の伸縮作用を吸収する。8a及び8bはアンカーボルトであり、それぞれ、舗装部材6としての一方のアスファルト部材6a及び他方のアスファルト部材6bの端面6cから所定距離Lの位置に立設配置している。該アンカーボルト8a及び8bの本体軸部が前記骨材舗装部材7内に埋設固定している。そして、該アンカーボルト8a及び8bの双股状脚部8c、8cが前記一方及び他方の床版コンクリート1a及び2aに埋込まれ、前記骨材舗装部7と前記一方及び他方の床版コンクリート1a及び2aとを緊密に固定している。
【0018】
9a及び9bは、図1(a)(b)に示すように弾性接着剤であって、前記骨材舗装部材7内に於ける前記所定距離Lの範囲内に充填しており、前記骨材舗装部材7の左右端部分のグラ付き現象や崩れ現象を防止している。また、図示するように弾性接着剤9cは、前記骨材舗装部材7の底部付近にも充填して更に機能を高めることができる。
【0019】
前記舗装部材6、前記一方及び他方の合成床版1及び2の組合せにより、橋梁橋が構成される。尚、図中10は前記一方及び他方の合成床版1及び2を支持している橋脚である。
【0020】
次に、前記骨材舗装部材7の構成について詳しく説明すると共に、併せて本発明に係る橋梁に於ける埋設継手の構造に基づく作用等を説明する。該骨材舗装部材7は、橋梁伸縮継手や埋設ジョイントとしての機能を有するものであり、例えば、異形状を有する多数個の骨材子71を複数段に群列した集合体で構成されている。そして、該骨材子71の各個の外周面は、バインダー72を被膜している。該バインダー72は、例えば高粘度のウレタン変性アスファルト、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム系樹脂及び/又は、改質アスファルト等特殊な弾性部材や前記組成物で構成され、前記骨材子71の被膜材として外周に例えば、厚膜形成している。該骨材子71の各個の隣接相互間には空隙部Cが形成されている。ここに前記組成物の高粘度としては5,000?100,000(mPa・S)が適用される。
【0021】
該空隙部Cは、前記骨材舗装部材7の全域に渉って、一連に形成されている。そして、前記骨材子71、バインダー72及び連続した空隙部Cによりいわゆる埋設ジョイントが構成され、前記一方の合成床版1及び他方の合成床版2は常に、橋梁の伸縮動作を行うもので、この伸縮作用は、前記バインダー72及び連続した空隙部Cの変形動作によりこれが体積変形や応力を吸収する。また、前記舗装部材6、6上を車両等が走行することにより、前記一方及び他方の床版コンクリート1a及び2aや一方及び他方主桁1b及び2bに輪荷重がかかり、該輪荷重は、前記骨材子71の相互の噛合せ及び前記バインダー72の接着力により支持されている。そして、連続した前記空隙部Cを有したので、前記骨材舗装部材7の表面から雨水等の排水を適切に流過させる機能がある。」
「【0026】
そして、常温硬化型の高粘度例えば、粘度が5,000?100,000(mPa・S)のバインダー72を用いることにより、厚い弾性被膜のバインダー72と骨材子71からなる骨材舗装部材7を形成できる。その骨材舗装部材7に連続した空隙部Cを作る方法は、排水性舗装と同様に単粒を主とする骨材子71に常温硬型の高粘度バインダー72を図2に示すように所定量を添加することにより形成できる。その厚い弾性被膜材としてのバインダー72及び連続した空隙部Cにより、橋梁の伸縮に追従することができる。」
(カ)図面
上記(オ)で摘記した段落【0014】?【0016】の記載事項を踏まえて図1をみると、一方のアスファルト部材6aと他方のアスファルト部材6bの対向部を一方のアスファルト部材6aと他方のアスファルト部材6bとの対向線方向に長く切り欠いて遊間Bに沿って凹部が形成され、該凹部に骨材舗装部材7が埋め込み状に充填して設けられていることが図示されているといえる。

イ 刊行物1には、上記アで摘記した事項からみて、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「一方の主桁1bの上面に一方の床版コンクリート1aを配置した一方の床版1と、
他方の主桁2bの上面に他方の床版コンクリート2bを配置した他方の床版2とからなり、
一方の主桁1bと他方の主桁2bの端部を可動自在に連結し、
一方の床版コンクリート1aと他方の床版コンクリート2aとの間に遊間Bが設定されたものであって、
一方の床版コンクリート1aの上面に積層した一方のアスファルト部材6aと、
他方の床版コンクリート2aの上面に積層した他方のアスファルト部材6bと、
一方のアスファルト部材6aと他方のアスファルト部材6bの対向部を一方のアスファルト部材6aと他方のアスファルト部材6bとの対向線方向に長く切り欠いて遊間Bに沿って形成された凹部と、を含み、
バインダー72を被膜した骨材子71の集合体で構成した骨材舗装部材7を凹部に埋め込み状に充填して設けられ、
骨材子71の各個の隣接相互間には空隙部Cが形成され、
橋梁の伸縮作用を、バインダー72及び連続した空隙部Cの変形動作により吸収するようにした、
橋梁に於ける埋設継手の構造。」

(2)刊行物2に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物2には、以下の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規のアスファルト混合物および舗装体に関し、ただ一層で、排水性舗装の長所(排水性、低騒音性、防眩性など)と砕石マスチックアスファルト舗装の長所(高耐久性など)をバランス良く併せ持つ舗装体及びそれを与えるアスファルト混合物に関する。」
「【0006】
本発明で用いるアスファルト混合物(以下、傾斜機能型アスファルト混合物もしくはポーラスマスチック混合物(PMM)と称する)は、バインダとしては高品質のアスファルト好ましくは高粘度改質もしくは改質アスファルトを用い、粗骨材としては硬質で扁平骨材((長さ/厚さ)比≧3)の含有量が15重量%以下、好ましくは10重量%以下である稜角に富んだものであることを要する。また細砂に分類される粒度の良質細骨材も併用する。本発明で用いるに適するアスファルト混合物の粒度範囲は、表-1に示すよう
なものである。」

(3)刊行物3に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物3には、以下の記載がある。
「【0003】
・・・・長さ/厚さ比が3以上の扁平骨材の含有量が15重量%以下である稜角に富んだ硬質粗骨材・・・・」

(4)刊行物4に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物4の27頁の「表3-19 粗骨材の品質規定」における「細長・偏平石含有量」の「高機能舗装」の欄には「15%以下」と記載されている。

(5)刊行物5に記載された事項
本件特許の出願日前に頒布された刊行物5の1331頁の「図-2 細長率・扁平率試験」における図の注釈欄に、「扁平な石片:B=b/t≧3又は5」と記載されている。

(6)刊行物6に記載された事項(申立人の主張に基づく。)
本件特許の出願日前に頒布された刊行物6の段落【0008】?【0010】及び図1には、
「遊間8に挿入される伸縮性のバックアップ材9と、凹部の底面に遊間上を跨って設置されるギャッププレート10と、ギャッププレート10を被覆するように凹部の底面に設置されるシート体」
が記載されている。

(7)刊行物7に記載された事項(申立人の主張に基づく。)
本件特許の出願日前に頒布された刊行物7の6-62頁の図6-2-30には、
「遊間に挿入される伸縮性のバックアップ材と、凹部の底面に遊間上を跨って設置される瀝青シート1と、瀝青シート1を被覆するように凹部の底面に設置される瀝青シート2」
が記載されている。

(8)刊行物8に記載された事項(申立人の主張に基づく。)
本件特許の出願日前に頒布された刊行物8の段落【0012】?【0014】、及び図2、4には、
「遊間8に挿入される伸縮性の止水材9と、切り欠き部2の底面に遊間8上を跨って設置されるギャッププレート11bと、ギャッププレート11bを被覆するように凹部の底面に設置されるゴムシート11aと、接合材の充填前に切り欠き部2の第1橋梁部材側の内壁面と第2橋梁部材側の内壁面とにそれぞれ塗布され、該切り欠き部2に充填された複合材層4と一体化するバインダー7とを含む橋梁の埋設型ジョイント部構造と、切り欠き部2は縦断面視で矩形状に形成されており、ジョイント部のバインダー7は、切り欠き部2の第1橋梁部材側と第2橋梁部材側のそれぞれについて隅部を含む側壁面と底壁面とにプライマー10を塗布して形成されること」
が記載されている。

5 判断
(1)本件発明1の進歩性について
ア 対比・判断
a 本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1には、本件発明1の発明特定事項である「接合材の骨材は、骨材全体に対して重量比で8?15%の割合で、石材を安定な水平面に置いた状態での平面視でその輪郭に接する2つの平行線間の最小距離である幅bを、該水平面に平行で石材表面に接する平行面間の最大距離である厚さt、で割った値が3以上(b/t≧3)となる偏平骨材を含み、ジョイント部は、接合材の偏平骨材が偏平方向を横方向に向くように揃えた状態で配置されて設けられたこと」が記載されていない。
b 刊行物2ないし4には、上記4(2)ないし(4)に記載したとおり、舗装体における粗骨材としては硬質で偏平骨材((長さ/厚さ)比≧3)の含有量が15重量%以下とすることが開示されており、また、刊行物5には、上記4(5)に記載したとおり、偏平な石片について開示されているが、刊行物2ないし5には、骨材全体に対する偏平骨材の含有量を8重量%以上とすることは開示されておらず、偏平骨材をどのような状態で配置するかについても何ら記載されていない。すなわち、刊行物1発明に刊行物2ないし5に記載された発明を適用しても本件発明1とはならない。
c なお、刊行物6ないし8は、本件発明2ないし4に対する証拠として提出されたものであって、上記4(6)ないし(8)に記載した事項が開示されているが、偏平骨材については記載されていない。
d そして、本件発明1は、「接合材の骨材は、骨材全体に対して重量比で8?15%の割合で、・・・偏平骨材を含み、ジョイント部は、接合材の偏平骨材が偏平方向を横方向に向くように揃えた状態で配置されて設けられた」構成を有することによって、「偏平骨材を含むことで接合材の骨材どうしの間に伸縮性バインダを充填させてジョイント部を構成できるので、橋梁部材の伸縮変位の際に接合材の伸縮が一部に偏ることがなく、良好に伸縮変位を吸収でき、耐久性を向上できる。また、偏平骨材の偏平方向を横向きとすることで、伸縮による横方向の引張や圧縮に抗することができ耐久性を向上できる。その結果、ジョイント部での伸縮機能を保持しながら、ジョイント部による止水機能を長期的に保持できる。」(段落【0011】)という効果を奏するものである。
e したがって、本件発明1は、当業者が刊行物1ないし5(1ないし8)に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、本来、アスファルト混合物用の骨材には、偏平なものが入ってないのが望ましいが、砕石を製造する過程で、必ず混入してしまい、製造後に偏平なものだけを取り除くことは、多大な手間と費用がかかるため、現状では、できるだけ砕石の製造過程でも偏平なものが少ない骨材を使用することとし、甲第4号証に規定されているように、偏平骨材の含有率が15%以下とされているのであって、偏平骨材の含有率を15%以下にすることは、この用途の骨材として要求されている含有率であるため、本願発明の特徴ではない旨主張する。

しかしながら、申立人の主張は以下のとおり採用できない。
本件発明1は、「従来の橋梁の埋設型ジョイント部構造は、骨材どうしの間にアスファルト等のバインダが充填されていない空隙があることから、ジョイント部でのバインダの有無により伸縮変位を全体的に分散させることができずに伸縮作用に偏りが生じてしまい、伸縮を十分に吸収しきれずにクラックが生じやすかった。・・・したがって、従来の橋梁の埋設型ジョイント部構造では、橋梁の伸縮が繰り返されると、埋設型ジョイント部構造では比較的早期に埋設型ジョイント部構造にクラックが入りやすく、止水機能が損なわれて生じたクラックから雨水が下に漏れて橋台や橋脚、支承等の下部構造を劣化、腐食、損傷させてしまう問題があった。」(段落【0005】)ので、「上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、橋梁の伸縮変位を良好に吸収しながら止水機能を長期的に保持できる橋梁の埋設型ジョイント部構造及びその施工方法を提供する」(段落【0006】)ものであって、「接合材の骨材は、骨材全体に対して重量比で8?15%の偏平骨材を含むことから、偏平骨材を含むことで接合材の骨材どうしの間に伸縮性バインダを充填させてジョイント部を構成できるので、橋梁部材の伸縮変位の際に接合材の伸縮が一部に偏ることがなく、良好に伸縮変位を吸収でき、耐久性を向上できる。」(段落【0011】)ものである。
そして、申立人も述べているように、本来、アスファルト混合物用の骨材には、偏平なものが入ってないのが望ましいところ、本件発明1は、偏平骨材の含有率を8%以上とする、すなわち、偏平骨材を積極的に含有しようとするものである。
これに対して、刊行物1には、「該骨材舗装部材7は、橋梁伸縮継手や埋設ジョイントとしての機能を有するものであり、例えば、異形状を有する多数個の骨材子71を複数段に群列した集合体で構成されている。そして、該骨材子71の各個の外周面は、バインダー72を被膜している。・・・該骨材子71の各個の隣接相互間には空隙部Cが形成されている。」(段落【0020】)もので、「前記一方の合成床版1及び他方の合成床版2は常に、橋梁の伸縮動作を行うもので、この伸縮作用は、前記バインダー72及び連続した空隙部Cの変形動作によりこれが体積変形や応力を吸収する。」ことが開示されているが、本件発明1のように、骨材どうしの間にバインダを充填することにより、ジョイント部の伸縮変位を吸収することは、記載も示唆もないといえる。
以上のとおり、刊行物1には、骨材どうしの間にバインダを充填させて空隙を無くそうとする技術思想、及び、偏平骨材を積極的に含有しようとする技術思想は開示されていないので、刊行物1発明において、偏平骨材の含有率を8?15%とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

なお、実施不可能との主張は、後記する「(4)実施可能要件について」で検討する。

(2)本件発明2及び3の進歩性について
本件発明2及び3は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1?8に記載の発明に基いて容易になし得たものではない。
したがって、本件発明2及び3は、当業者が刊行物1ないし8に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4の進歩性について
本件発明4は、橋梁の埋設型ジョイント部構造の施工方法の発明であるが、橋梁の埋設型ジョイント部構造に係る本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むのであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1?8に記載の発明に基いて容易になし得たものではない。
したがって、本件発明4は、当業者が刊行物1ないし8に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

(4)実施可能要件について
ア 申立人は、偏平骨材の含有率を8%以上、15%以下にするよう含有量を調整しようとすると、各々の製造バッチ(釜)ごとに、投入しようとする骨材の含有量を量る必要があるが、現場練りの場合は、実際上は不可能であり、また、本件特許明細書には、偏平骨材の割合が8重量%以上になるように調整するための手法が開示されておらず、実施困難であるので、本件発明1ないし4は、明細書に実施できる程度に記載されていない旨主張する。

しかしながら、申立人の主張は以下のとおり採用できない。
偏平骨材の含有率を8%以上、15%以下にすることは、申立人も述べているように、偏平骨材の含有量を実測し、数値範囲を満たすものを採用することにより達せられるもので、当業者にとって自明な事項であるから、本件特許明細書に具体的な手法が記載されていないとしても、当業者が本件発明1ないし4を実施困難であるとまではいえない。
また、本件特許明細書の段落【0029】?【0037】には、偏平骨材の含有量を変えて試験を行ったことが記載されているので、このことからも可能といえる。

イ 申立人は、現場施工において、偏平骨材を横方向に向かせることは不可能であり、縦方向または斜め方向に向いた偏平骨材を転圧しても、転圧力で偏平骨材が割れることはあっても、横方向に揃えることは、現場施工では、不可能であるので、本件発明1ないし4は、明細書に実施できる程度に記載されていない旨主張する。

しかしながら、請求人の主張は以下のとおり採用できない。
a 本件特許明細書には、「接合材22中の偏平骨材38は、凹部18に接合材22が充填された後に、該接合材22を上から転圧することにより、その偏平方向が横に向けられた状態となる。」 (段落【0023】)、「図5(f)に示すように、加熱状態で接合材22を凹部18内に打設して埋め込み状に充填する。その後、図5(g)に示すように、凹部18内に充填した接合材22を上から振動ローラVRで転圧することにより、偏平骨材の偏平方向が横方向に向くように揃えながら締め固める。ある程度の期間養生して接合材を固化することにより、ジョイント部20が形成され、第1橋梁部材12と第2橋梁部材14が接続される。・・・複数回に分けて接合材22を凹部18に投入することで、転圧する際に接合材22中の偏平骨材の偏平方向を横に向けやすい。」(段落【0028】)と記載されているので、当業者であれば上記記載事項に基づいて「接合材の偏平骨材が偏平方向を横方向に向くように揃えた状態で配置されて設け」ることは可能である。
b 申立人は、縦方向または斜め方向に向いた偏平骨材を転圧しても、転圧力で偏平骨材が割れることはあっても、横方向に揃えることは、現場施工では、不可能である旨主張するが、加熱状態で接合材を複数回に分けて凹部に投入することにより、転圧前においても偏平骨材は横方向に近い状態であると推測されるので、偏平骨材が偏平方向を横方向に向くように揃えた状態で配置されて設けることは可能といえる。

ウ 以上のとおり、実施可能要件に関して、申立人が主張する理由によって、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-27 
出願番号 特願2013-123420(P2013-123420)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (E01C)
P 1 651・ 121- Y (E01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 須永 聡  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
小野 忠悦
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5728048号(P5728048)
権利者 山王株式会社 株式会社陽光興産 日本マーキング株式会社 オグラロード・サービス株式会社
発明の名称 橋梁の埋設型ジョイント部構造及びその施工方法  
代理人 森 博  
代理人 高宮 章  
代理人 穴見 健策  
代理人 穴見 健策  
代理人 高宮 章  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 加藤 久  
代理人 高宮 章  
代理人 南瀬 透  
代理人 穴見 健策  

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