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審決分類 審判 全部無効 6項4号請求の範囲の記載形式不備  E02D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 特174条1項  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1315970
審判番号 無効2013-800157  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-08-29 
確定日 2016-03-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4256545号発明「斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4256545号(請求項の数[7]、以下、「本件特許」という。)は、平成11年8月18日(優先権主張平成11年4月27日)に特許出願された特願平11-231467号に係るものであって、その請求項1?7に係る発明について、平成21年2月6日に特許の設定登録がなされた。以降、審判請求日からの経緯を整理して示す。
1.平成25年8月29日 本件無効審判請求〔無効2013-800157号〕
2.平成25年11月15日 審判事件答弁書、及び訂正請求書
3.平成25年12月24日 審判事件弁駁書
4.平成26年5月26日 口頭審理陳述要領書(請求人)
5.平成26年5月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
6.平成26年5月30日 上申書(被請求人)
7.平成26年6月5日 上申書(請求人)
8.平成26年6月9日 口頭審理
9.平成26年6月23日 上申書(請求人)
10.平成26年6月23日 上申書(被請求人)
11.平成26年7月7日 上申書(請求人)
12.平成26年7月7日 上申書(被請求人)

第2.訂正について
1.訂正請求の内容
被請求人が平成25年11月15日にした訂正請求(以下、同訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、特許第4256545号の明細書を本件訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、本件特許明細書等という。)のとおり一群の請求項ごとに訂正することを請求するものであって、以下の訂正事項をその訂正内容とするものである。下線は訂正された箇所を示す。

(1)訂正事項1
(a)特許請求の範囲の請求項1に「引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を」とあるのを「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。
(b)特許請求の範囲の請求項1に「ことを特徴とする斜面保護方法」とあるのを「ことを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5及び請求項6にそれぞれ記載された「ワイヤー」とあるのを、「硬鋼製のワイヤー」に訂正する(請求項5及び請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
(a)願書に添付した明細書の段落0008における「引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする。」とあるのを、「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法である。」に訂正する。
(b)願書に添付した明細書の段落0012における「また、例えば金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」とあるのを、「また、金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」に訂正する。
(c)願書に添付した明細書の段落0019、0022、0036、0041及び符号の説明にそれぞれ記載された「ワイヤー」とあるのを、「硬鋼製のワイヤー」に訂正する。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1(a)は、「引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を」とあるのを「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を」へと訂正するものである。
訂正前の請求項1記載の特許発明では、「ワイヤー」と記載されており、ワイヤーがどのような材質のものであるかについては何ら特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項1記載の発明では、「硬鋼製のワイヤー」として、ワイヤーの具体的な材質を明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようすとするものである。
訂正事項1(b)は、「ことを特徴とする斜面保護方法」とあるのを「ことを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法」に訂正するものである。
訂正前の請求項1記載の特許発明では、斜面保護方法の目的については具体的に特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項1記載の発明では、斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法に訂正し、具体的目的を明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
また、特許公報の【0012】には、「また、例えば金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」と【0001】には、「本発明は、斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法、特に地山の斜面や法面(以下斜面と総称する)の表層の滑り、崩壊を防止するための方法に関する。」と記載されており、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1による訂正後の請求項1の記載とこれを引用する請求項5及び6の記載との整合を図るため、請求項5及び6に記載された「ワイヤー」を「硬鋼製のワイヤー」に訂正するものである。
よって訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許公報の【0012】には、「また、例えば金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」と記載されており、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3(a)は、願書に添付した明細書の段落0008における「引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする。」とあるのを、「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法である。」に訂正するものである。
請求項1に対応する明細書の箇所を請求項1と同一記載となるように整合を図るために訂正を行うものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3(b)は、願書に添付した明細書の段落0012における「また、例えば金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」とあるのを、「また、金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」に訂正するものである。
上記訂正事項1により、金網の製作に用いられるワイヤーを硬鋼製のワイヤーにする限定を行ったため、「例えば」を削除したものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3(c)は、願書に添付した明細書の段落0019、0022、0036、0041及び符号の説明にそれぞれ記載された「ワイヤー」とあるのを、「硬鋼製のワイヤー」に訂正するものである。
上記訂正事項1により、金網の製作に用いられるワイヤーを硬鋼製のワイヤーにする限定を行ったため、「ワイヤー」との記載を整合を図るために「硬鋼製のワイヤー」に訂正したものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

よって訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、特許公報の【0012】には、「また、例えば金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、」と【0001】には、「本発明は、斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法、特に地山の斜面や法面(以下斜面と総称する)の表層の滑り、崩壊を防止するための方法に関する。」と記載されており、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。


第3.本件発明
本件特許請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、平成25年11月15日付けで訂正された明細書の請求項1?7に記載された次のとおりのものである。(A?Fは当審で付与した。)
「【請求項1】
A:引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を、
B:保護すべき斜面に展設し、
C:この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し
D:前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、
E:前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる
F:ことを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法。
【請求項2】
金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、
前記受圧板の設置箇所に、前記金網の展設に先立って可撓性の袋体を置き、
前記袋体の配置箇所の前記金網の上側に前記受圧板を配置し、
前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、
前記袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、
前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護方法。
【請求項3】
金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、
前記受圧板の設置箇所に、前記金網の上側と下側に可撓性の袋体を置き、
前記金網の上側に配置した袋体の上に前記受圧板を配置し、
前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、
前記両袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、
前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護方法。
【請求項4】
前記受圧板が椀状または皿状の中空殼体構造であって、この受圧板を金網上に配置する際、内側の空間部に前記金網の上側の袋体を配置し、受圧板の仮締めを行った後、この金網の上側の袋体内に硬化性流動性注入材を注入して受圧板内と金網との間の空間を埋めることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金網は、前記硬鋼製のワイヤーが平面視鋭角のジグザグ状、正面視長円形状となるように直線状の上辺直線部及び下辺直線部とそれらの間をつなぐ屈曲部とを有し、かつ螺旋状に伸長するように形成され、前記屈曲部によって形成される前記上辺直線部と下辺直線部との間隔が硬鋼製のワイヤー太さの数倍となるように成形され、複数の該硬鋼製のワイヤーを前記屈曲部相互が係止し合うように編み合わせて菱形編み目となるように形成され、この金網が前記斜面上に、前記菱形編み目の長い方の対角線の伸長方向が斜面の上下方向へ向かうように配設されることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記硬鋼製のワイヤーの表面が防食処理されていることを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記請求項1から6の何れか1項に記載の斜面保護方法を当該斜面の上方位置から下方位置へ所定範囲ずつ順次段階的に施していく逆巻き施工にて行うようにしたことを特徴とする逆巻き施工斜面保護方法。」

第4.当事者の主張概要
1.請求人の主張概要
請求人は、本件特許第4256545号の特許請求の範囲の請求項1?7に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成25年12月24日付け審判事件弁駁書、平成26年5月26日付け口頭審理陳述要領書、同年6月5日付け上申書、同年6月9日の口頭審理、同年6月23日付け上申書、同年7月7日付け上申書において、証拠方法として甲第1?10号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

理由1:本件特許の請求項1に「前記アンカーを用いた受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」との文言を追加する補正は願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下、当初明細書等という)に記載されていない事項の追加であるから特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

理由2:本件発明1は明確ではなく、本件発明2ないし本件発明7も明確ではないから、本件発明1ないし本件発明7についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。

理由3:本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし本件発明7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1ないし本件発明7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。

理由5:本件発明1ないし本件発明7は,本件優先権主張日前、日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1ないし本件発明7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。
具体的に主張された各証拠の関係を整理すると、
理由5-1:当業者は、甲2と甲5?7を組み合わせることにより、本件発明1に容易に想到することができた。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-1))
理由5-2:当業者は、甲1と甲5?7を組み合わせることにより、本件発明1に容易に想到することができた。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-2))
理由5-3:当業者は、甲3と甲5?7を組み合わせることにより、或いは甲1の図2、甲2の図3.6.2、甲4の写真7-5で示されているような周知技術を組みあせて、本件発明1に容易に想到することができた。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-3))
理由5-4:当業者は、甲4と甲5?7を組み合わせることにより、本件発明1に容易に想到することができた。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-4))
理由5-5:本件発明2?本件発明7はいずれも本件発明1に周知技術を適用して付加限定を加えたものであるから、本件発明1が無効となった場合、いずれも無効とされるべきものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-5))
理由5-6:本件発明2?本件発明7は、甲1?甲7に加えて、甲8?甲10を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6))
さらに具体的には、
本件発明2は、甲1?甲7に加えて、甲8或いは甲9を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-1))
本件発明3は、甲1?甲7に加えて、甲8或いは甲9を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-2))
本件発明4は、甲1?甲7に加えて、甲8或いは甲9を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-3))
本件発明5は、甲1?甲7により、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-4))
本件発明6は、甲1?甲7により、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-5))
本件発明7は、甲1?甲7に加えて、甲10を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できたものである。(平成26年5月26日付け請求人陳述要領書(6-6-6))

なお、理由4(特許法第29条第1項第1号乃至第3号に係る無効理由)は、平成26年6月5日の上申書で取り下げ希望があり口頭審理の場において被請求人も同意し、取り下げられた。

〈証拠方法〉
甲第1号証 特開平7-42158号公報
甲第2号証 第二東名高速道路 長大切土のり面設計施工指針(案)の写し
甲第3号証 地山補強土工法に関するシンポジウム 発表論文集の写し
甲第4号証 落石対策便覧の写し
甲第5号証 東京製綱株式会社落石防護網カタログの写し
甲第6号証 鉄鋼関係JIS要覧 G3543の写し
甲第7号証 鉄鋼関係JIS要覧 G3547の写し
甲第8号証 特開平9-125397号公報
甲第9号証 特開平7-259088号公報
甲第10号証 特開平8-144287号公報

2.被請求人の主張概要
これに対して、被請求人は、平成25年11月15日付け審判事件答弁書及び訂正請求書、平成26年5月26日付け口頭審理陳述要領書、同年5月30日上申書、同年6月9日の口頭審理、同年6月23日上申書、同年7月7日上申書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求の負担とするとの審決を求め、乙第1?19号証を提示し、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

(1)無効理由1に対する反論
補正により追加された「前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」という構成要件は、出願当初の請求項2に同趣旨の内容が記載されており、また、出願当初の明細書の段落[0014]及び[0032]にも明示的に記載された事項である。(答弁書第5?8頁(イ))

(2)無効理由2に対する反論
受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けるための受圧板の配置や固定方法は明細書及び図面や技術常識を考慮すれば理解することができる。(答弁書第8?10頁(ロ))

(3)無効理由3に対する反論
受圧板の固定が前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押さえ付けて行われることの技術的手段は本件明細書に記載されている。すなわち、受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けるためには、受圧板を上記の矩形状配置等の均等な点在配置とし、アンカーを緊張させて受圧板を固定すればよく、その作業を行うにあたり、特別な情報と技能を必要とすることでもない。(答弁書第10?11頁(ハ))

(4)無効理由5に対する反論
特に斜面の表層の滑りや崩壊の対策として構成要件AとEを組合せたものは新たな発想であり、上記各文献にもその様な技術的示唆は存在しない。(答弁書第23?26頁(ホ))

[証拠方法]
乙第1号証 訂正請求書
乙第2号証 落石対策便覧の写し
乙第3号証 JIS規格「JIS G 3506」の写し
乙第4号証 JIS規格「JIS G 3505」の写し
乙第5号証 JIS規格「JIS G 3552」の写し
乙第6号証 JIS規格「JIS G 3532」の写し
乙第7号証 JIS規格「JIS L 0221」の写し
乙第8号証 従来技術の技術説明書の写し
乙第9号証 本件特許に係る方法で斜面の保護を行っている例
乙第10号証 落石対策便覧301頁の写し
乙第11号証の1 高強度ネット実証実験Iのビデオ
乙第11号証の2 高強度ネット実証実験Iのビデオ説明書の写し
乙第12号証の1 高強度ネット実証実験IIのビデオ
乙第12号証の2 高強度ネット実証実験IIのビデオ説明書の写し
乙第13号証 広辞苑 第6版の写し
乙第14号証 切土補強土工法設計・施工要領の写し
乙第15号証 JIS G 3548 亜鉛めっき鋼線の写し
乙第16号証 JIS G 3521 硬鋼線の写し
乙第17号証 機械公式活用ポケットブックの写し
乙第18号証 HDネット工法 技術・積算資料の写し
乙第19号証 クモの巣ネット工法 設計・施工マニュアルの写し


第4 無効理由についての当審の判断
無効理由1?5の内で、無効理由4(特許法第29条第1項第1号乃至第3号に係る無効理由)は、平成26年6月9日の口頭審理において取り下げが確認されたので、請求人の主張する無効理由は無効理由1?3、及び5について判断する。

1.無効理由1(特許法第17条の2第3項)について
(1)当初明細書等の記載事項
当初明細書等には以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】引張り強度の高いワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定することを特徴とする斜面保護方法。
【請求項2】前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行うを特徴とする請求項1に記載の斜面保護方法。」
(イ)「【0014】
次に、請求項2に記載の発明は、
受圧板のアンカーによる固定作業は、金網全体に張力がほぼ均等に働くようにすることにより、地山から及ぼされる圧力は、金網全体でほぼ均等に受け持つことができる。すなわち、連続する梁などのコンクリートブロック面で金網を押さえるのではなく、点在する受圧板により「点」で押さえる状態を得ていることから、金網の張力を均等化し易いという利点がある。よって斜面の金網による押さの均等化も向上する。また、当初、金網全体に張力がほぼ均等に働くように受圧板の固定作業を行った後、更に地山の変形等によりゆるみが生じたような場合でもそれを解消するための再緊張行うことも可能である。」
(ウ)「【0015】
なお、このようなアンカーによる固定のため、例えば、受圧板には、平面視中央部に貫通孔が設けられ、この貫通孔にはアンカーの上端部と係合して、アンカーを緊張させながら受圧板を地山方向へ押し付けるための締め付け手段が配置される。」
(エ)「【0029】
受圧板2は、図2に示すように、地山3に埋設固定されたアンカーもしくはロックボルト4(以下アンカーと総称する)と協同しており、アンカー4との係合部に設けられた締付け手段5(図3参照)により、地山3に対して押し付けられる。
(オ)「【0030】
締付け手段5は、例えば図3に示すように、受圧板2の中央部に設けた貫通孔を突き抜けて突出しているアンカー4の先端部を銜えて支持している雄ねじ部材41と、この雄ねじ部材に螺合し、受圧板2上に保持されている雌ねじ部材42とから成っており、雌ねじ部材42を雄ねじ部材41に対して、例えば右回転させることにより、アンカー4に働く緊張力が増大すると共に、受圧板2が地山3へ向けて押し込まれる。雌ねじ部材42を左回転させれば、上記とは逆にアンカー4に働く緊張力は次第に低下し、受圧板2による押付け力は次第に減少する。」
(カ)「【0032】
上記のように、金網1は受圧板2によって地山3へ押し付けられるが、本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で押さえているので、金網1による斜面の押え付けは、金網1全体に均一に土圧による張力が働くように行われている。また、保護すべき斜面の凹凸に対しより的確に追従した金網の設置が可能になる。すなわち、金網による斜面の押さえ機能がより均質かつ的確なものとなる。また、従来のコンクリートブロックに比し、金網1の展設面積に対する受圧板2の占める面積は非常に小さいので、保護斜面の植生はより良好なものとなり、その外観もコンクリート部分が目立たず、より自然な状態に近いものとなる。」
(キ)「【0053】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る斜面保護方法によれば、金網を点在する受圧板で固定することによって、斜面を金網で均等に押さえるという作用を容易に達成することができる。すなわち、地山から及ぼされる圧力を金網全体でほぼ均等に受け持つようにすることができる。 また、本発明の受圧板の設置作業は比較的簡単で短時間の作業で行うことができ、更に、本発明によれば、保護斜面において、金網の領域に対して受圧板の占める領域が従来のブロックに比し、極めて小さくなること、また金網の厚さが確保されていることから保護斜面の植生のが向上するという効果が得られる。」

(2)当審の判断
当初明細書等の請求項2に「受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けること」が記載され、【0014】に「受圧板のアンカーによる固定作業は、金網全体に張力がほぼ均等に働くようにすることにより、地山から及ぼされる圧力は、金網全体でほぼ均等に受け持つことができる。」と記載され、【0032】に「上記のように、金網1は受圧板2によって地山3へ押し付けられるが、本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で抑えているので、金網1による斜面の押え付けは、金網1全体に均一に土圧による張力が働くように行われている。」と記載されてており、さらに、被請求人も平成26年6月23日付け上申書第2?4頁6.(1)で「『締め付ける』は元々狭い概念ではなく、『押さえ付けて』という記載によって受圧板の固定作業の概念が広がることもないと思料する。
仮に、例えば、『締め付けることで押さえ付けて』との訂正を行ったとしても技術的範囲に変化はないと思料する。」と主張している様に、本件明細書において、本件発明1の「押え付けて」が「締め付けることで押さえ付けて」と同じ技術的範囲を表す意味で使用されており、本件発明の「受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて」は、当初明細書請求項2の「受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付ける」ことを意味するものであって、それ以外の態様を意味しないものであることを考慮すると、請求項1に「前記アンカーを用いた受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」との文言を追加する補正は当初明細書等に記載されていない事項の追加であるとはいえない。

(3)請求人の主張に対する検討
請求人は、請求書第12?19頁(4-1)において、
(a)「イ ・・・(ア)『(a)引張強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を』
この要件(a)は旧請求項1の『(a)引張り強度の高いワイヤーで製作した金網を』なる要件を、旧請求項4記載の要件に置き換えたに過ぎないものであるが、・・・格別の意義を有するものではない。・・・
拒絶理由において指摘されたところに対し十分に耐えられる答弁とはなっていない。」
(b)「イ ・・・(イ)さらに、請求項1の要件(e)『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押えつけて(受圧板の固定が)行われる』方法につき、被請求人は何らの合理的な理由も述べていない。すなわち、
第1に、旧請求項2には、上記のとおり、『受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行う』(段落〔0014〕でも『当初、金網全体に張力がほぼ均等に働くように受圧板の固定作業を行った後』とされている。)との技術手段は開示されているが、『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように(受圧板の固定が)行われる』との技術思想も、具体的な技術手段も開示されていない。
第2に旧請求項4の『前記ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)』については、上記のとおり、拒絶理由において、周知技術であり、かつ格別の臨界的意義を生じるものとは認められないとされており、上記要件(e)の追加補正を支持し得る記載ではない。
第3に、段落〔0023〕には『本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で押えているので、金網1による斜面の押え付けは、金網全体に均一に土圧による張力が働く』との記載はあるが、本件特許明細書のどこにも『金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように受圧板を押えつけて固定する具体的方法』に関する記載はない。・・・
第4に、被請求人は、周知技術の金網につき・・・主張をしているが、事実と相違する。・・・
第5に、引用文献1(甲1)で使用している『ジオテキスタイル』を使用した工法に関する被請求人の主張は、その論拠において不明かつ合理的な理由に欠けるものである。
以上に述べたところから明らかなとおり、請求項1の要件(e)にいう『受圧板の固定は、金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる』という具体的な技術手段は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれにも記載されていない事項であり、この要件を請求項1に追加補正することは特許法第17条の2第3項に違反するものである。」
と、
平成26年6月23日付け上申書第2?3頁(5-1)で、
(c)「『アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行われる』ことと『アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押さえ付けて行われる』とは相互に技術的意義を全く異にする。
すなわち、訂正明細書段落【0030】によれば、『締付け手段5は、例えば図3に示すように、受圧板2の中央部に設けた貫通孔を突き抜けて突出しているアンカー4の先端部を銜えて支持している雄ねじ部材41と、この雄ねじ部材に螺合し、受圧板2上に保持されている雌ねじ部材42とから成っており、雌ねじ部材42を雄ねじ部材41に対して、例えば右回転させることにより、アンカー4に働く緊張力が増大すると共に、受圧板2が地山3へ向けて押し込まれる。雌ねじ部材42を左回転させれば、上記とは逆にアンカー4に働く緊張力は次第に低下し、受圧板2による押付け力は次第に減少する。』とされており、『雌ねじ部材42を雄ねじ部材41」に対して、例えば『同じ回転数だけ右回転させることにより」金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることは平坦地に金網を張る場合には理論的には一応理解される。しかし、・・・広大な斜面地全体に多数の受圧板を固定する際に、『金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行う』などということは、そもそも実施可能な要件とは思えない。
・・・『斜面地全体に展設された金網全体に、崩落場所の土圧の増大に対応して崩落土砂によるほぼ均等な張力が働くようにする』ためには特別の構成が必要であり、かつ、『崩落以前にアンカーに固定される受圧板により金網を押え付けること』によってこのような作用効果を発揮させるためにはさらに特別の構成が必要となる。・・・被請求人が『要領書」5頁12行?6頁22行で述べるところは十分な回答とはなっていない。」
と主張している。
しかし、
(d)まず、上記(a)でいう「拒絶理由」は、特許法第29条第2項、及び、特許法第36条第6項第2号に係るものであって、上記(a)の主張は特許法第17条の2第3項に係る無効理由1の主張と解せるものではない。
(e)また、上記(b)の「第1・・『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように(受圧板の固定が)行われる』との技術思想も、具体的な技術手段も開示されていない。」「第3・・明細書のどこにも『金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように受圧板を押えつけて固定する具体的方法』に関する記載はない。」との主張は、上記(2)に記載したように、表現が変更されているとしても、当初明細書請求項2の「受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付ける」ことを意味するものであって、実質的に技術的事項を変更するものではないので、主張は採用できるものではない。
(f)また、上記(b)の「第2・・」「第4・・」「第5・・」は、特許法第29条第2項、及び、特許法第36条第6項第2号に係る拒絶理由、及びそれに対しての被請求人の主張についてのものであって、特許法第17条の2第3項に係る無効理由1の主張として採用できるものではない。
(g)また、上記(c)の「『アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行われる』ことと『アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押さえ付けて行われる』とは相互に技術的意義を全く異にする。」との主張は、上記(2)に記載したように、表現が変更されているとしても、当初明細書請求項2の「受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付ける」ことを意味するものであって、実質的に技術的事項を変更するものではないので、主張は採用できるものではない。
請求人は、「すなわち、・・・そもそも実施可能な要件とは思えない。」「・・・作用効果を発揮させるためにはさらに特別の構成が必要となる。」と主張するが、「実施可能な要件」であるか否かや、「特別の構成が必要となる」か否かは、「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体がほぼ均等な張力になるように締め付けることによって行われる」ことと「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押さえ付けて行われる」こととが「技術的意義を全く異にする。」との結論を導き出すものではない。

(4)結論
そうすると、本件特許の請求項1に「前記アンカーを用いた受圧板の固定は,前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」との文言を追加する補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、当初明細書等に記載されていない事項の追加であるとはいえない。


2.無効理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)請求人の主張
請求人は、無効理由2の「本件発明1は明確ではなく、本件発明2ないし本件発明7も明確ではない」ことに関して、概ね下記の主張を行っている。
ア.「請求項1に係る発明の発明特定事項(e)『前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる具体的方法』につき、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載はない。
すなわち、上記要件(e)においては『アンカーを用いた受圧板の固定』方法について、『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる』としているが『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように』する方法が記載されていない。
また、『押え付けて行われる』とあるが、何によって『受圧板』を押え付けるのかについての記載もない。・・・
そして、当業者において、請求項1の記載自体から、『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて(受圧板の固定が)行われる』具体的な受圧板の固定方法を理解することはできず、したがって、請求項1に係る発明は明確でない。」(請求書第19?20頁(4-2))
イ.「『受圧板を矩形状配置等の均等な点在配置とすれば、受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くのは何故か?』についての説明は本件特許の明細書及び図面には一切存在せず、また、『受圧板を矩形状配置等の均等な点在配置とすれば、受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く』という技術常識は存在しない。したがって、・・構成要件は、明確でなく・・違反である。」(弁駁書第4?5頁(2-1))
ウ.「『押え付けて行われる』とあるが、何によって『受圧板』、を押え付けるのかについての記載もない。
そして、当業者において、請求項1の記載自体から、『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて(受圧板の固定が)行われる』具体的な受圧板の固定方法を理解することはできない。・・・
これに加えて・・・構成要件(a)において、『引張り強度400?2000N/mm^(2)であるワイヤー』と『硬鋼線』及び『亜鉛メッキ鋼線』とは一致せず、構成要件(a)の『硬鋼製のワイヤー』には、『硬鋼線』又は『亜鉛メッキ鋼線』と『そうではないもの』とが混在していることになり、本件特許発明の構成要件(a)がどのようなものか一義的に定まっていない。」(陳述要領書第5?6頁(4))
エ.「(5-2-1)・・・被請求人の主張では、『硬鋼』或いは『硬鋼製のワイヤー』は、JISでも、炭素含有量でも、引張強度でも定義されない不明確な文言である。・・・
(5-2-2-1)・・・構成要件eにおいて『金網に生じる』とされる『土圧による張力』は、地山の状態を考慮せずに論ずることは出来ないものであり、地山の状態とは無関係に『金網全体に均一に土圧による張力が働く』ようにすることは技術的に不可能である。・・」(平成26年6月23日付け上申書第3?6頁(5-2))

そして、当該主張は、結局、本件特許請求の範囲請求項1の「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」及び「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」で特定される発明が明確でないというものである。

(2)当審の判断
そこで、「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」及び「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」で特定される発明が明確であるかについて検討する。

ア.「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」に関して
請求項1記載の「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」との記載は、機能的な表現を含むものであるが、要求される機能は理解可能であり特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえない。
また、請求人は、「『受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように』する方法が記載されていない。」旨も主張しているが、張力の「均等」は、「ほぼ均等」であって、厳格なものでないと解され、さらに、特許明細書【0032】に「本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で押さえているので、金網1による斜面の押え付けは、金網1全体に均一に土圧による張力が働くように行われている。」と記載されており、その記載を参酌すれば一応理解出来る。

イ.「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」に関して
被請求人が陳述要領書第4?5頁(2-1)で主張する様に、請求項1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)の硬鋼製のワイヤーで製作した金網」は、金網作製の条件として、硬鋼製のワイヤーで製作されていること、そして硬鋼製のワイヤーのうち引張り強度が400?2000N/mm^(2)の範囲に入るものを用いていることを意味するものであることは、明確であり、硬鋼製の意味も「硬鋼」を用いたものとして普通に理解されるものである。

(3)結論
そうすると、本件発明1は明確ではないとはいえない。また、請求項1を従属する請求項2ないし請求項7に係る本件発明2?7も明確ではないとはいえない。


3.無効理由3(特許法第36条第4項第1号)について
(1)請求人の主張
請求人は、無効理由3の「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし本件発明7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない」ことに関して、概ね下記の主張を行っている。
ア.「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記において既に述べたとおり、請求項1に係る発明の発明特定事項(e)につき、当該技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載していない。
したがって、請求項1に係る発明は特許法第36条第4項第1号の要件を充たしておらず、無効なものである。また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?7についても同様である。」(請求書第20頁(4-3))
イ.「受圧板を矩形状配置等の均等な点在配置とすれば、何故、受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くのか?という原理あるいはメカニズムについて被請求人は一切言及しておらず、明細書及び図面にも、係る原理あるいはメカニズムを説明する記載は存在しない。」(弁駁書第5?6頁(2-2))
ウ.「『引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー』の意義が全く不明であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄は、当該技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」(陳述要領書第5?6頁(4))
エ.「(5-2-1)・・・被請求人の主張では、『硬鋼』或いは『硬鋼製のワイヤー』は、JISでも、炭素含有量でも、引張強度でも定義されない不明確な文言である。・・・特許法第36条第4項第1号に違反することが、被請求人の主張から明らかになった。・・・
(5-2-2-2)さらに、『金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように』するためには、所定間隔毎に金網に作用する『土圧による張力』を計測する機構や、計測された『土圧による張力」を均等に調整する機構等が必要不可欠である。
しかし、本件特許の出願当初の明細書には、そのような機構(『土圧による張力』を計測する機構や、計測された『土圧による張力』を均等に調整する機構等)については全く開示されていない。
そのため、本件特許の出願当初の明細書、図面から、当業者が構成要件eを実施することは全く不可能である。」(平成26年6月23日付け上申書第3?6頁(5-2))

そして、当該主張は、結局、発明の詳細な説明に「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」及び「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」が当業者がその実施をすることができる程度に記載されていないというものである。

(2)当審の判断
そこで、「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」及び「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」が当業者がその実施をすることができる程度に記載されているかについて検討する。

ア.「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤー」に関して
上記2.(2)イ.に記載した様に、請求項1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)の硬鋼製のワイヤーで製作した金網」は普通に理解されるものであるので、実施可能である。

イ.「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われること」に関して
上記2.(2)ア.に記載した様に、請求項1記載の「受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」との記載は、該記載の張力の「均等」が、厳格なものでないと解されるものであり、【0032】の記載があるので、実施可能である。

(3)結論
そうすると、特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし本件発明7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。


4.無効理由5(特許法第29条第2項)について
4-1.甲第1?10号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、斜面安定化工法に関して、次の事項が記載されている。

(ア)「【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面について詳細に説明する。図1は本発明の斜面安定化工法の1実施例を示す縦断側面図、図2は同上平面図で、すべり面2が地盤にある法面等の斜面の安定化を図る場合である。
【0014】本発明は、法面等斜面にジオテキスタイル(土木用繊維布)6を敷設し、このジオテキスタイル6を反力構造物としてグランドアンカー1を配置する。
【0015】本実施例ではジオテキスタイル6を斜面に敷設する際に、グランドアンカー1の配置個所にアンカー定着具としてのプレキャストコンクリートブロック製の受圧版7を配置し、この受圧版7でジオテキスタイル6を押さえ込み固定するようにした。
【0016】ジオテキスタイル6にはその材質の相違により種々のものがあるが、いずれにせよ、所定の引っ張り耐力を有するものであることを前提条件とする。」
(イ)図1及び図2には、地山斜面にネット状のジオテキスタイル6を展設し、所定間隔で点在する受圧版7で上面から当該ネットを押えつけ、また、受圧版配置箇所に相当して地山に固設されるグランドアンカー1を用いて受圧版が地山に固定される斜面安定化工法が開示されている。

上記記載事項から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「ネット状のジオテキスタイル6を、
地山斜面に展設し、
所定間隔で点在する受圧版7で上面から当該ネットを押えつけ、
受圧版配置箇所に相当して地山に固設されるグランドアンカー1を用いて受圧版が地山に固定される斜面安定化工法」(以下、これを「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、第二東名高速道路の長大切土のり面設計施工指針(案)に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「配置パターンは、通常、図3.6.2に示すように千鳥配置が多い。吹付けのり枠工を併用した場合は、のり枠の交点に合わせて格子状とする。図3.6.3,3.6.4に切土補強土工を硬岩と土砂に適用した配置例を示す。また、図3.6.5,3.6.6に切土補強土工の細部構造の例を示す。」(3-34頁)
(イ)図3.6.2には、金網に対して、補強材が所定間隔をおいて点在状態に配置されている切土補強土工の配置の例が記載されている。
(ウ)図3.6.5には、切土表面に金網を展設し、金網の上方に、モルタル、頭部プレートを配置し、切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定した切土補強土工の細部構造の例が記載されている。
(エ)頭部プレートは、モルタルの上方に配置され、切土に貫入固設された補強材を用いて固定されたものであるので、上方からモルタルを押え付けられていることは自明である。
さらに、モルタルは、金網の上方に配置されたものであるので、頭部プレートは、上方からモルタルを介して金網を押え付けられていることは自明である。

上記記載事項から、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「切土表面に金網を展設し、
金網に対して、補強材が所定間隔をおいて点在状態に配置され、
金網の上方に、モルタル、頭部プレートを配置し、
切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定し、
頭部プレートは、上方からモルタルを介して金網を押え付ける切土補強土工」(以下、これを「甲第2号証記載の発明」という。)

(3)甲第3号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第3号証は、地山補強土工法に関するシンポジウムの発表論文集であって、補強土工施工事例に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「工事概要 使用場所 鉄道トンネル坑口付近の切土、及び開削トンネル区間(60m)、使用目的 ・・法面勾配を急にして・・補強材 ロックボルト、角ワッシャー・・表面保護法 吹付けコンクリート 溶接金網・・」(192頁)
(イ)「補強工詳細図」(192頁)には、法面に溶接金網を展設し、吹付コンクリートを施工し、吹付コンクリートの上から角ワッシャーを配置するとともに、角ワッシャー配置箇所に相当して法面に固設されるロックボルトを用いて角ワッシャーが法面に固定された補強工詳細図が示されている。

上記記載事項から、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「法面に溶接金網を展設し、吹付コンクリートを施工し、吹付コンクリートの上から角ワッシャーを配置するとともに、角ワッシャー配置箇所に相当して法面に固設されるロックボルトを用いて角ワッシャーが法面に固定された法面保護方法」(以下、これを「甲第3号証記載の発明」という。)

(4)甲第4号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第4号証は「落石対策便覧」であって、次の事項が記載されている。
(ア)写真7-3には、現場打ちコンクリートわく中(施工中)が示されている。
(イ)写真7-4には、ロックボルト工施工中が示されている。
(ウ)写真7-5には、ロックボルト落石防止網工が示され、網の上には板状部材が示されている。
(エ)300頁の7-3には「ロックボルト工およびロックアンカー工」について、「・・斜面安定策として・・」と記載されている。

上記記載事項から、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「斜面に網を設置し、網の上から板状部材を介しロックボルトを法面に打ち込まれる落石防止のための斜面安定工法」(以下、これを「甲第4号証記載の発明」という。)

(5)甲第5号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、金網に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「金網
名称 ひし形金網・・・
ビニル被覆 V-GS2
亜鉛めっき Z-GS3
・・・
寸法
種類 形式 目合
ビニル被覆 TRN-1500 50×50mm」(第14頁)
(イ)表紙にはひし形金網の斜視図が示されている。
(ウ)第14頁右下には、ロケットアンカーの写真が提示されている。
(エ)「974-5T-SA」(最終頁)

(6)甲第6号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、JISG3543合成樹脂被覆鉄線に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「表5 塩化ビニル被覆鉄線の引張強さ」の「SW/MV-GS2」と「SWMV-GS3 SWMV-GS4」の引張強さの欄に「290?540N/mm^(2)」と記載されている。
また、「SW/MV-B」の引張強さの欄に「590?1270N/mm^(2)」と記載されている。
(592-14-2頁)

(7)甲第7号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、JISG3547亜鉛めっき鉄線に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「表2 機械的性質」の「SWMGS-3 SWMGS-4」の引張強さの欄に「290?540N/mm^(2)」と記載されている。
また、「SWMGH-3 SWMGH-4」の引張強さの欄に「590?880N/mm^(2)」と記載されている。
(592-29頁)

(8)甲第8号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、法面施工における下地処理工法に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0022】上記袋体20を備え付けた平面軽量型枠30を法面10に設置する。これを図2に示す。あらかじめ法面10に打設されているアンカー体14を、平面軽量型枠30の中心部に開設されているアンカー挿入孔33に挿通させ、法面上での設置位置を仮固定する。
【0023】続いて、袋体20の粉体混入グラウト注入孔にホースを差し込み、粉体とセメントと水とを練り混ぜた粉体混入グラウト21を注入する。グラウトに混入する粉体はプラスティックを加工する時等に発生する繊維状の粉体や、砂や石粉およびそれらに上記の繊維状のプラスチック細粒物を加えたもので、本例ではその粒径が略1mm以下のものを使用した。
【0024】袋体20に粉体混入グラウト21を注入する際には法面10の凹凸を見ながら加減して行う。比較的変形の少ない上部変形防止金網32を通して注入の状況を確認することができるので、均等な注入と凹凸の微調整が可能である。
【0025】上記注入が完了した後、コンクリート製受圧構造物12を平面軽量型枠30の上に設置する。受圧構造物12の荷重により粉体混入グラウト充填袋体22は圧潰され、法面10の凹凸に合わせて変形し間隙を隙間なく埋めてゆく。更に透水性の袋体20を通して徐々に水が絞り出され、粉体混入グラウト21は次第に塑性化されてゆく。これを図3に示す。
【0026】その後、ジャッキでアンカー体14に引張力を導入すると、受圧構造物12は更に法面方向に荷重を増し、その結果粉体混入グラウト21は更に水分を放出し完全に塑性化する。受圧構造物12の載荷面積は2m^(2)であるため、均等に100tの荷重をかけると、粉体混入グラウト21には5kg/cm^(2)の力が作用することになるが、完全に塑性化した状態ではこの荷重に対し、それ以上変形は進まないことが確認されている。従って、最終的に受圧構造物12の荷重を、塑性化された粉体混入グラウト21がすべて支持するため、これを充填する袋体20は少なくとも可撓性及び透水性を有しているならば、別段特殊な材質である必要がなく、安価なものを使用してもよいことが明らかになった。また、平面軽量型枠30は最終的に受圧構造物12の圧潰により粉体混入グラウト21内にめり込み、ほとんど埋設されてしまうため、その後の腐食発生による影響はほとんど心配ない。
【0027】上記粉体混入グラウト21の塑性化により、受圧構造物12の荷重は完全に且つ確実に地山へ伝達され、その後受圧構造物12の本固定を行うことにより施工は完了する。粉体混入グラウト21はその後化学的に固結し強度を発揮し、更に強固なものとなる。」
(イ)上記(ア)を見ると、図2及び図3には、型枠30の下方に袋体20を設け、受圧構造物に荷重をかけることによって袋体を法面10の凹凸に馴染ませ、受圧構造物(受圧板)を法面に密着させるアンカー体14を用いたアンカー工法が開示されている。

(9)甲第9号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、アンカー受圧板の地山不陸調整方法に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 アンカー受圧板の内側に凹部を形成して充填孔により外側に連通し、該凹部内に周縁部を固定した布体を収め、充填孔から充填材を充填し布体を膨出して地山の不陸を調整することを特徴とするアンカー受圧板の地山不陸調整方法。」
(イ)「【0015】アンカーの支持に際し図3に示すように、アンカー挿通孔3にアンカー15を挿通し、アンカー受圧板1を地山Aに当接させる。そこで、充填孔6から、セメントミルク、モルタル、コンクリート、発泡ウレタン等の充填材16を注入する。すると、袋体7は充填材16の重さで内壁5aからはがれ、充填材16は内壁5aと袋体7との間に充填される。したがって、布体7は充填材16の圧力で地山A側に膨出し、膨出周縁部7bは脚部4の下面まではみ出して地山Aの不陸になじみ、地山Aの不陸が確実に調整される。この際、充填孔6の開口部を清掃することにより、充填材16と脚部4の表面とは、面一に形成され、固化後の景観が向上される。」

(10)甲第10号証の記載事項
本件優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、法枠及びその施工方法と法枠形成用型枠に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「【0025】<イ> 縦枠が片持ち式で上下に連続していないため、縦枠両端部間の狭い範囲を水平方向に掘削すればよく、従来のような斜面崩落の危険性がない。
<ロ> また、縦枠を先細り状に形成できるため、固化材や補強材を大幅に節約することができる。
<ハ> 斜面の横方向の枠体が連続枠構造となるため、独立枠と比較して耐力が大きくなるため、枠断面を小さくすることができるので、非常に経済的である。
<ニ> 複数個の枠体が横方向に連続するため、アンカーが破断した場合においても、個々の枠体が斜面上をズリ落ちることがない。
<ホ> 法枠形成用型枠が略逆U字形の断面形状で底面が開放されているため、内部に流し込んだコンクリートが地山と密着するので、法枠底部の地山が雨滴等により洗い取られることがない。
<ヘ> また、地山の凹凸と密着した枠体となるため、枠体にかかる地盤反力が均一となる。
<ト> 逆巻き施工で行えるため、工期を大幅に短縮できると共に、高い施工の安全性も確保できる。
<チ> プレハブ化された枠の構造体を組立てるので、現場斜面上での作業が大幅に省力化される。
<リ> コンクリート型枠の採用により、木製型枠を殆ど使用しないため、近年盛んとなっている森林保護に繋がる。」

4-2.理由5-1(甲2と甲5?7を組み合わせ)について。
(1)本件発明1と甲第2号証記載の発明との対比
対比に際し、第3において本件発明1で文説したA?Fと対応する箇所をA’? F’とした。
(a)甲第2号証記載の発明の「切土」は、本件発明1の「保護すべき斜面」に相当し、以下同様に、「頭部プレート」は「受圧板」に、「補強材」は「アンカー」に、「切土補強土工」は「斜面保護方法」にそれぞれ相当する。
(b)甲第2号証記載の発明の「切土」は、切土補強土工の対象であって、保護すべき斜面といえるものであるので、甲第2号証記載の発明の「切土表面に金網を展設」することは、本件発明1の「金網を、保護すべき斜面に展設」(A’、B)することに相当する。
(c)甲第2号証記載の発明の「金網の上方に、モルタル、頭部プレートを配置し、切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定」は、「補強材が所定間隔をおいて点在状態に配置」されるものであるので、甲第2号証記載の発明の「金網の上方に、モルタル、頭部プレートを配置し、切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定」することと、本件発明1の「金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置」することとは、「金網の上面側から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置」(C’)する点で共通する。
(d)本件発明1の「地山」も甲第2号証記載の発明の「切土」も「保護すべき斜面」であるから、甲第2号証記載の発明の「切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定」することと、本件発明1の「受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定」することとは、「受圧板配置箇所に相当して保護すべき斜面に固設されるアンカーを用いて受圧板を保護すべき斜面に対して固定」(D’)する点で共通する。
(e)甲第2号証記載の発明の「切土に貫入固設された補強材を用いて頭部プレートを切土に固定し、頭部プレートは、上方からモルタルを介して金網を押え付ける」ことと、本件発明1の「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」こととは、「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網を押え付けて行われる」(E’)点で共通する。

そうすると、両者は、
「A’:金網を、
B:保護すべき斜面に展設し、
C’:この金網の上面側から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し
D’:前記受圧板配置箇所に相当して保護すべき斜面に固設されるアンカーを用いて受圧板を保護すべき斜面に対して固定し、
E’:前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網を押え付けて行われる
F’:斜面保護方法。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:金網が、本件発明1は、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作したのに対し、甲第2号証記載の発明はそのような特定がなされていない点。
相違点2:受圧板により金網を押え付けて行われる斜面保護方法において、本件発明1は金網の「上面」から受圧板を配置し、「地山に固設される」「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」「斜面の表層の滑り、崩壊を防止する」ようにしたのに対し、甲第2号証記載の発明は「切土」に固設され、アンカーを用いた受圧板の固定は、「上方からモルタルを介して」金網を押え付けて行われるようにした点。

(2)相違点についての判断
(2-1)上記相違点1について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点1に関して、概ね下記の主張を行っている。
「甲5?甲7から明かな通り、斜面保護に用いられる金網として引張り強度290?1270N/mm^(2)のものが本件優先権主張日前に製造販売されていた。」
「施工現場で使用される金網の材質、強度は施工現場の条件により決定される設計事項であるから、甲2の設計施工指針に基づき現場に適用すべき金網について、当業者は、甲5?甲7で示される金網を含む各種強度の金網を選択する動機付けは十分に存在する。」
「当業者において、甲2に、施工現場の条件をあてはめて甲5?甲7で示される金網の選択をすることは、単なる設計事項に過ぎない。」(陳述要領書第8?10頁(6-1-2))

イ.当審の判断
そこで、請求人の主張について検討する。
本件特許明細書の詳細な説明の記載によれば、「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)というものであるのに対して、甲第2号証には、甲第2号証記載の発明が記載されているものの、金網の機能について特段説明されているものではない。
また、被請求人も平成26年6月23日付け被請求人上申書(2-3-1)で「甲第2号証のような切土補強土工とは、鉄筋やロックボルトなどの比較的短い棒状の補強材を地山に多数挿入することで、地山と補強材の相互作用によって切土のり面全体の安定性を高めることを目的とするものである。・・そのため、切土を補強するのは補強材であり、金網は補助的に使用されるにすぎない。すなわち、金網は、切土表面の小さい石の落下防止や植物の根茎等を絡ませて植生を促すための機能しか有せず、この金網に高い強度は必要とされない。」と主張しているが、甲第2号証の記載から、補強材や、さらに金網の上方に配置されたモルタル等との切土補強に係る機能分担は特定出来るものではない。
そうすると、請求人は「甲2の設計施工指針に基づき現場に適用すべき金網について、当業者は、甲5?甲7で示される金網を含む各種強度の金網を選択する動機付けは十分に存在する。」と主張するが、各種強度の金網を選択するには、当該金網に要求される機能を特定して当該要求を満足する条件のものを選択する必要があるところ、上記の如く、甲第2号証は、金網の機能について特定し得る様なものではないので、甲5?甲7記載の引張り強度540N/mm^(2)、880N/mm^(2)、1270N/mm^(2)の金網が本件優先権主張日前に製造販売されていたとしても、本件優先権主張日前に製造販売されていた多数の金網の中から甲5?甲7記載の引張り強度540N/mm^(2)、880N/mm^(2)、1270N/mm^(2)の金網を選択する動機付けが存在したとはいえない。
また、本件発明1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤー」は、本件特許明細書の「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)(なお、「金網の上面から受圧板」を配置するものが前提であって、甲第2号証の様な「モルタル」を介した配置とは異なる。)という技術的意義を有するものであって「単なる設計事項」といえるものでもない。

(2-2)上記相違点2について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点2に関して、概ね下記の主張を行っている。
「因みに、被請求人は、構成要件eについて、『金網の上面から、受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置してアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定する』という公知の方法で『金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように』(答弁書9頁13行?20行)するという作用効果が得られるという。
そうだとすると、甲2の3-34頁図3.6.2及び3-3 5頁図3.6.5には、地山表面に展設した金網に対して、受圧板を所定間隔をおいて点在伏態に配置されていることが示されているのであるから、甲2には、本件特許発明の構成要件eの『金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように』する方法が開示されていることになり、甲2は『斜面保護方法』に関する設計施工方針を記載するものであるから、上記方法を示す構成要件fが開示されていることになる。」(平成26年7月7日付け上申書第8頁)

イ.当審の判断
本件発明1の構成要件Eすなわち「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」については、張力が働く押え付けが前提となり、本件発明1の構成要件Aの「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」を使用することによって得られる構成であり、そのように限定された金網を使用しない限り構成要件Eを得られることは保証できない。しかしながら、前記(2-1)で検討したように、甲第2号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも構成要件Aの記載はなく、甲各号証を組み合わせても構成要件Aすなわち相違点1に係る構成は当業者が容易に想到できたものではない以上、構成要件Eに係る構成も同様理由で当業者が容易に想到できたものではない。
さらに、前記相違点2について、本件発明1では保護すべき斜面は「地山」であり、「斜面の表層の滑り、崩壊を防止する」必要性は「地山」特有のものでであり、また、現実の地山は、斜面が均一なものではなく、甲第2号証記載の発明の様に「補強材が所定間隔をおいて点在状態に配置され、・・頭部プレートを切土に固定」したところで、必ずしも構成要件Eの「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」構成となるものでもない。そのような前提を基にして構成要件E、Fを含む相違点2に係る本件発明1の構成は、構成要件Aと密に関連しており、かつ、甲第2号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付け」る様にすることを示唆する記載がない以上、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第2号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも記載はなく、甲第2号証記載の発明と甲第5号証?甲第7号証に記載された発明(事項)を組み合わせても当業者が容易に想到できたものではない。
なお、本件発明1の構成要件Eは、「構成要件Eは、本件特許の明細書の段落【0032】に『本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で押さえているので、金網1による斜面の押え付けは、金網1全体に均一に土圧による張力が働くように行われている。また、保護すべき斜面の凹凸に対しより的確に追従した金網の設置が可能になる。すなわち、金網による斜面の押さえ機能がより均質かつ的確なものとなる。』と記載されているように、斜面が平坦である場合のみならず、斜面に凹凸がある場合も考慮された構成要件となっている。」(平成26年7月7日付け被請求人上申書(3-1))と説明されているように保護すべき斜面に凹凸がある場合も含んでのものであって、単に受圧板が所定間隔をおいて点在伏態に配置されているからといって、「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付け」る構成ということはできない。

(3)小括
以上の検討のとおり、本件発明1は、甲第2号証を主引例として、甲第5号証?甲第7号証を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-3.理由5-2(甲1と甲5?7の組み合わせ)
(1)本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比
甲第1号証記載の発明の「地山斜面」は、本件発明1の「保護すべき斜面」、「地山」に相当し、以下同様に、「受圧版7」は「受圧板」に、「グランドアンカー1」は「アンカー」に相当する。
甲第1号証記載の発明の「ネット状のジオテキスタイル」と、本件発明1の「硬鋼製のワイヤーで製作した金網」とは、「網状体」である点で共通する。

そうすると、両者は
「A’:網状体を、
B:保護すべき斜面に展設し、
C’:この網状体の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し
D:前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、
E’:前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により網状体を押え付けて行われる
F’:斜面保護方法。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:網状体を、本件発明1は、引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網としたのに対し、甲第1号証記載の発明はネット状のジオテキスタイルとした点。
相違点2:受圧板により網状体を押え付けて行われる斜面保護方法において、本件発明1は「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」「斜面の表層の滑り、崩壊を防止する」ようにしたのに対し、甲第1号証記載の発明のアンカーを用いた受圧板の固定は、受圧板により「網状体」を押え付けて行われるようにした点。

(2)相違点についての判断
(2-1)上記相違点1について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点1に関して、概ね下記の主張を行っている。
「ジオテキスタイルを敷設するか或いは金網を敷設するかは、施工現場の条件に基づいて設計段階で決定されるべき設計事項に過ぎない。したがって、本件特許明細書の段落【0002】で従来技術として記載されている斜面の工事にあたって、甲1のジオテキスタイルに代えて金網を使用する動機は十分に存在する。」
「上記項目(3-1-2)で述べた通り、本件発明の構成要件(a)(相違点6211a)は、『硬鋼製』の用語が意味するところは不明であるため、構成要件(a)はその実体を欠いている。」
「甲5?甲7から明かな通り、『400?1270N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を使用した斜面保護方法』は公然と知られ、実施され、かつ刊行物に記載されたものである。
当業者において、甲1に、施工現場の条件をあてはめて甲5?甲7で示される金網の選択をすることは、単なる設計事項に過ぎない。そして、当業者が適宜なし得る事項にすぎず、これによる効果も予測される範囲を超えるものではない。」(陳述要領書第12頁(6-2-2))

イ.当審の判断
そこで、請求人の主張について検討する。
本件特許明細書の詳細な説明の記載によれば、「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)というものであるのに対して、甲第1号証記載の発明は、ジオテキスタイルを用いるものであって、特段金網への置換を示唆したものではない。
また、被請求人も平成26年6月23日付け被請求人上申書(2-4-1)で「『ジオテキスタイル』は基本的に樹脂製のシート状部材であり、本公開公報の図2には格子状とも認識できる部材が示されているが、引張強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは材料的な性質も異なり、材質そのものの強度も弱い。
また、硬鋼製のワイヤーに比べるとはるかに伸びやすく一旦伸びて塑性変形した後は、収縮方向の力は生じることはなく、伸びきった後、さらに力が加わると断裂する。」と主張しているが、甲第1号証記載の発明のジオテキスタイルと、本件発明1の硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは、性質が異なるものである。
そうすると、請求人は「甲1のジオテキスタイルに代えて金網を使用する動機は十分に存在する。」と主張するが、発明の構成を変更するには、課題認識等の動機付けが必要となるところ、上記の如く、甲第1号証は、金網への置換を示唆したものではなく、かつ、そもそもジオテキスタイルと、硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは、性質が異なるものであるので、甲第1号証記載の発明のジオテキスタイルに変えて、甲5?甲7記載の引張り強度540N/mm^(2)、880N/mm^(2)、1270N/mm^(2)のものを用いる動機付けが存在したとはいえない。
また、本件発明1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」は、その文言どおり認識できるものであって、実態を欠くようなものではない。そして、本件特許明細書の「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)という技術的意義を有するものであって、甲第1号証記載の発明のジオテキスタイルを、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網に変更することを「単なる設計事項」といえるものでもない。

(2-2)上記相違点2について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点2に関して、概ね下記の主張を行っている。
「甲1の図1、図2、段落番号【0013】?【0016】には、地山斜面にジオテキスタイル6を展設し、所定間隔で点在する受圧版7を用いて上面からジオテキスタイル6を押えつけ、かつ受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるグランドアンカー1を用いて受圧板が地山に固定される発明が開示されている。そして上記の通り、甲1のジオテキスタイルに代えて、甲5?甲7の金網を受圧板で押さえ付けることは当業者であれば、容易に想到できることである。
したがって、甲1には構成要件eの『土圧による張力がジオテキスタイルに働くように』する技術的思想が開示されている。」(平成26年7月7日付け上申書第10頁)

イ.当審の判断
本件発明1の構成要件Eすなわち「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」については、張力が働く押え付けが前提となり、本件発明1の構成要件Aの「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」を使用することによって得られる構成であり、そのように限定された金網を使用しない限り構成要件Eを得られることは保証できない。しかしながら、前記(2-1)で検討したように、甲第1号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも構成要件Aの記載はなく、甲各号証を組み合わせても構成要件Aすなわち相違点1に係る構成は当業者が容易に想到できたものではない以上、構成要件Eに係る構成も同様理由で当業者が容易に想到できたものではない。
さらに、甲第1号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付け」る様にすることを示唆する記載がない(前記4-2.(2-2)イ.に記載した様に受圧板を「所定間隔をおいて点在状態に配置」したところで、必ずしも構成要件Eの「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」構成となるものではない。)以上、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証、甲第5号証?甲第7号証に記載された発明(事項)を組み合わせても当業者が容易に想到できたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証を主引例として、甲第5号証?甲第7号証を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-4.理由5-3(甲3と甲5?7或いは甲1、2、4の組み合わせ)
(1)本件発明1と甲第3号証記載の発明との対比
甲第3号証記載の発明の「法面」は、本件発明1の「保護すべき斜面」、「地山」に相当し、以下同様に、「角ワッシャー」は「受圧板」に、「ロックボルト」は「アンカー」に相当する。
甲第3号証記載の発明の「溶接金網」は「吹付コンクリート」を補強するためのものであるので、本件発明1の保護すべき斜面に展設される硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは、目的が異なるものであるが、甲第3号証記載の発明の「溶接金網」と本件発明1の「硬鋼製のワイヤーで製作した金網」も一応「金網」である点で共通している。
甲第3号証記載の発明の「溶接金網」は「吹付コンクリート」を補強するためのものであるので、本件発明1の保護すべき斜面に展設される硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは、目的が異なるものであるが、一応、甲第3号証記載の発明の「法面に溶接金網を展設し、吹付コンクリートを施工し、吹付コンクリートの上から角ワッシャーを配置する」とこと、本件発明1の「金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し」は、「金網の上面側から受圧板を配置し」た点で共通している。

そうすると、両者は
「A’:金網を、
B:保護すべき斜面に展設し、
C’:この金網の上面側から受圧板を配置し
D:前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、
F’:斜面保護方法。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:金網を、本件発明1は、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作したとしたのに対し、甲第3号証記載の発明は溶接金網とした点。
相違点2:斜面保護方法において、本件発明1は「金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し」、「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」「斜面の表層の滑り、崩壊を防止する」ようにしたのに対し、甲第3号証記載の発明の金網は吹付コンクリートを補強するものであって、そのような特定がなされていない点。

(2)相違点についての判断
(2-1)上記相違点1について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点1に関して、概ね下記の主張を行っている。
「甲5?甲7から明かな通り、『400?1270N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を使用した斜面保護方法』は公然と知られ、実施され、かつ刊行物に記載されたものである。
当業者において、甲5?甲7で示される金網を甲3の施工に際して選択することは単なる設計事項であり、当業者が適宜なし得る事項である。さらに、本件発明の構成要件(a)は格別の臨界的意義を生じるものではない。」
(陳述要領書第13頁(6-3-2))

イ.当審の判断
そこで、請求人の主張について検討する。
本件特許明細書の詳細な説明の記載によれば、「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)というものであるのに対して、甲第3号証記載の発明の溶接金網は、「吹付コンクリート」を補強するためのものであって、本件発明1の保護すべき斜面に展設される硬鋼製のワイヤーで製作した金網とは、目的、機能が異なるものである。
そうすると、請求人は「甲5?甲7で示される金網を甲3の施工に際して選択することは単なる設計事項であり、当業者が適宜なし得る事項である。」と主張するが、部品選択は要求される目的、機能を特定して当該目的、機能を満足する条件のものを選択する必要があるところ、上記の如く、甲第3号証の金網は目的、機能が異なるものである、甲第3号証記載の発明の金網として、甲5?甲7記載の引張り強度540N/mm^(2)、880N/mm^(2)、1270N/mm^(2)のものを選択することが当業者が適宜なし得る事項であるとはいえない。
また、本件発明1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」は、その文言どおり認識できるものであって、実態を欠くようなものではない。そして、本件特許明細書の「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)という技術的意義を有するものであって、甲第1号証記載の発明のジオテキスタイルを、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網に変更することを「単なる設計事項」といえるものでもない。

(2-2)上記相違点2について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点2に関して、概ね下記の主張を行っている。
「構成要件(e)には具体的な実体が存在せず、仮に『受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置すること』であることを意味しているとしても、本件特許の出願以前から一般的に実施されている周知技術に過ぎない(例えば、甲1の図2、甲2の図3.6.2、甲4の写真7-5参照)。」(陳述要領書第13頁(6-3-2))

イ.当審の判断
本件発明1の構成要件Eすなわち「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」については、張力が働く押え付けが前提となり、本件発明1の構成要件Aの「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」を使用することによって得られる構成であり、そのように限定された金網を使用しない限り構成要件Eを得られることは保証できない。しかしながら、前記(2-1)で検討したように、甲第1号証?甲第7号証のいずれにも構成要件Aの記載はなく、甲各号証を組み合わせても構成要件Aすなわち相違点1に係る構成は当業者が容易に想到できたものではない以上、構成要件Eに係る構成も同様理由で当業者が容易に想到できたものではない。
さらに、甲第1号証?甲第7号証のいずれにも「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付け」る様にすることを示唆する記載がない(前記4-2.(2-2)イ.に記載した様に受圧板を「所定間隔をおいて点在状態に配置」したところで、必ずしも構成要件Eの「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」構成となるものではない。)以上、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明(事項)を組み合わせても当業者が容易に想到できたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証を主引例として、甲第1号証?甲第7号証を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-5.理由5-4(甲4と甲5?7の組み合わせ)
(1)本件発明1と甲第4号証記載の発明との対比
甲第4号証記載の発明の「斜面」は、本件発明1の「保護すべき斜面」に相当し、以下同様に、「板状部材」は「受圧板」に、「ロックボルト」は「アンカー」に、「斜面安定工法」は「斜面保護方法」に相当する。
そして、甲第4号証記載の発明の「網」は本件発明1の「硬鋼製のワイヤーで製作した金網」も一応「網」である点で共通している。

そうすると、両者は
「A’:網を、
B:保護すべき斜面に展設し、
C’:この網の上面側から受圧板を配置し
D:前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定した
F’:斜面保護方法。」
で一致し、次の点で相違する。
相違点1:網を、本件発明1は、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網としたのに対し、甲第4号証記載の発明はそのような特定がなされていない点。
相違点2:斜面保護方法において、本件発明1は受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し、アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」「斜面の表層の滑り、崩壊を防止する」ようにしたのに対し、甲第4号証記載の発明はそのような特定がなされていない点。

(2)相違点についての判断
(2-1)上記相違点1について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点1に関して、概ね下記の主張を行っている。
「甲5?甲7から明かな通り、『400?1270N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網を使用した斜面保護方法』は公然と知られ、実施され、かつ刊行物に記載されたものである。
当業者において、甲5?甲7で示される金網を甲4の施工に際して選択することは単なる設計事項であり、当業者が適宜なし得る事項である。さらに、本件発明の構成要件(a)は格別の臨界的意義を生じるものではない。」(陳述要領書第14頁(6-4-2))

イ.当審の判断
そこで、請求人の主張について検討する。
本件特許明細書の詳細な説明の記載によれば、「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)というものであるのに対して、甲第4号証記載の発明の網は、材質、目的、機能が不明である。
そうすると、請求人は「甲5?甲7で示される金網を甲4の施工に際して選択することは単なる設計事項であり、当業者が適宜なし得る事項である。」と主張するが、部品選択は要求される目的、機能を特定して当該目的、機能を満足する条件のものを選択する必要があるところ、上記の如く、甲第4号証の網は目的、機能が不明であるので甲第4号証記載の発明の網として、甲5?甲7記載の引張り強度540N/mm^(2)、880N/mm^(2)、1270N/mm^(2)のものを選択することが当業者が適宜なし得る事項であるとはいえない。
また、本件発明1の「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」は、本件特許明細書の「ワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。」(段落0009)という技術的意義を有するものであって、甲第1号証記載の発明のジオテキスタイルを、引張り強度が400?2000N/mm^(2)であるワイヤーで製作した金網に変更することを「単なる設計事項」といえるものでもない。

(2-2)上記相違点2について
ア.請求人の主張
請求人は、上記相違点2に関して、概ね下記の主張を行っている。
「本件発明の構成要件(e)には具体的な実体が存在しない。仮に本件発明の構成要件(e)が、『受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置すること』であることを意味しているとしても、本件特許の出願以前から一般的に実施されている周知技術に過ぎず(例えば、甲1の図2、甲2の図3.6.2)、甲4の写真7-5でも示されている。」(陳述要領書第14頁(6-4-2))

イ.当審の判断
本件発明1の構成要件Eすなわち「アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われ」については、張力が働く押え付けが前提となり、本件発明1の構成要件Aの「引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網」を使用することによって得られる構成であり、そのように限定された金網を使用しない限り構成要件Eを得られることは保証できない。しかしながら、前記(2-1)で検討したように、甲第4号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも構成要件Aの記載はなく、甲各号証を組み合わせても構成要件Aすなわち相違点1に係る構成は当業者が容易に想到できたものではない以上、構成要件Eに係る構成も同様理由で当業者が容易に想到できたものではない。
さらに、甲第4号証、甲第5号証?甲第7号証のいずれにも「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付け」る様にすることを示唆する記載がない(前記4-2.(2-2)イ.に記載した様に受圧板を「所定間隔をおいて点在状態に配置」したところで、必ずしも構成要件Eの「金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われる」構成となるものではない。)以上、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第4号証、甲第5号証?甲第7号証に記載された発明(事項)を組み合わせても当業者が容易に想到できたものではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第4号証を主引例として、甲第5号証?甲第7号証を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-6.理由5-5、及び理由5-6(請求項2-7について)
(1)本件発明2?本件発明7はいずれも、本件発明1の発明特定事項にさらに限定した発明特定事項を付加するものである。
(2)本件発明1についての進歩性判断は前記4-2.?4-5.のとおりであり、甲第1?甲第4号証に記載された発明のいずれかを主とした引例発明として、他の甲第1?4号証、甲第5号証?甲第7号証と組み合わせても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、甲第8号証?甲第10号証は、本件発明2?4、7の発明特定事項に対して提示された文献であって、上記主とした引例発明と、それらを組み合わせても、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)したがって、本件発明2?本件発明7について、本件発明1についての検討と同様の理由が少なくとも存在し、甲第1号証?甲第10号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4-7.まとめ
前記4-1.?4-6.で検討のとおり無効理由5によって本件発明1?本件発明7の特許は特許法第29条第2項に違反してされたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?3、5及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法。
【請求項2】
金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、
前記受圧板の設置箇所に、前記金網の展設に先立って可撓性の袋体を置き、
前記袋体の配置箇所の前記金網の上側に前記受圧板を配置し、
前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、
前記袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、
前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護方法。
【請求項3】
金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、
前記受圧板の設置箇所に、前記金網の上側と下側に可撓性の袋体を置き、
前記金網の上側に配置した袋体の上に前記受圧板を配置し、
前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、
前記両袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、
前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする請求項1に記載の斜面保護方法。
【請求項4】
前記受圧板が椀状または皿状の中空殻体構造であって、この受圧板を金網上に配置する際、内側の空間部に前記金網の上側の袋体を配置し、受圧板の仮締めを行った後、この金網の上側の袋体内に硬化性流動性注入材を注入して受圧板内と金網との間の空間を埋めることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金網は、前記硬鋼製のワイヤーが平面視鋭角のジグザグ状、正面視長円形状となるように直線状の上辺直線部及び下辺直線部とそれらの間をつなぐ屈曲部とを有し、かつ螺旋状に伸長するように形成され、前記屈曲部によって形成される前記上辺直線部と下辺直線部との間隔が硬鋼製のワイヤー太さの数倍となるように成形され、複数の該硬鋼製のワイヤーを前記屈曲部相互が係止し合うように編み合わせて菱形編み目となるように形成され、この金網が前記斜面上に、前記菱形編み目の長い方の対角線の伸長方向が斜面の上下方向へ向かうように配設されることを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記硬鋼製のワイヤーの表面が防食処理されていることを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記請求項1から6の何れか1項に記載の斜面保護方法を当該斜面の上方位置から下方位置へ所定範囲ずつ順次段階的に施していく逆巻き施工にて行うようにしたことを特徴とする逆巻き施工斜面保護方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法、特に地山の斜面や法面(以下斜面と総称する)の表層の滑り、崩壊を防止するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
地山の斜面の表層を保護し、その安定化を図るための様々な方法が提案されており、その中で、比較的浅い、例えば1?2mの深さの表層が剥離して滑り落ちるおそれがあるような斜面の安定化法として、金網などの網体で斜面を覆い、この網体の上面に所定の間隔で多数のコンクリートブロックを配置し、この配置箇所の地山に固定的に設置されるアンカーを用いてコンクリートブロックを網体に押し付け、これら網体を地山に定着する方法がある。このような方法は、例えば、特開平10-46589号に開示されており、更に、使用される網体が地山から受ける圧力によって破断して保護機能を失ってしまうことがあることから、その対策として、網体にPC鋼線を編み込んで、網体の引っ張り強度を高める方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
まず、上記公報に開示されたような多数のコンクリートブロックを並べ、連続したコンクリートの枠の状態として網体を上面から押さえる方法或いは梁状のコンクリート体となるようにコンクリートの打設を行うものでは、法面形状の経時的な変化による網体とコンクリートブロックとの接触、押圧関係の変化は非常に大きなものとなる。すなわち、上記のようなコンクリートブロックなどによる網体の押さえ状態は安定性に欠ける。このことは、地山から網体に対する圧力である土圧による網体の破損の可能性が増加することを意味する。
【0004】
また、上記従来の方法は、網体の補強のためにPC鋼線の編み込みを行った箇所で専ら地山からの圧力を強く受け止めることになり、それ以外の網体部分との間には圧力受け止め作用に大きな差異が生じ、斜面全体に均一で十分な保護効果を及ぼすという点では、未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、斜面全体に亙って土圧が金網に均一に且つ確実に及ぼされるようにし、効果的な斜面保護ができるようにする方法を提供することを目的としたものである。
【0006】
更に本発明は上記目的に加えて、受圧板と、金網と、地山とがより密着し、受圧板の押圧作用がより的確に地山に伝達されるようにした方法を提供することを目的としたものである。
【0007】
更に、請求項7に係る発明は、上記斜面保護方法による斜面保護作業を逆巻き施工により行うことにより、同作業の円滑化、容易化を達成することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、引張り強度が400?2000N/mm^(2)である硬鋼製のワイヤーで製作した金網を、保護すべき斜面に展設し、この金網の上面から受圧板を所定間隔をおいて点在状態に配置し前記受圧板配置箇所に相当して地山に固設されるアンカーを用いて受圧板を地山に対して固定し、前記アンカーを用いた受圧板の固定は、前記受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行われることを特徴とする斜面の表層の滑り、崩壊を防止するための斜面保護方法である。
【0009】
このようにワイヤーの引張り強度が400?2000N/mm^(2)である構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。また、金網の上面から受圧板を点在状態で配置して固定することにより、保護すべき斜面の凹凸により的確に追従した金網の設置が可能になる。すなわち、金網による斜面の押さえ機能がより均質かつ的確なものとなる。また、十字状のコンクリートブロックや梁状のコンクリート体を対象斜面全体に配設する従来の技術に比し、受圧板の点在配置方式によれば、斜面保護に必要な部材の総重量がはるかに軽量化される。このことは作業性の向上だけでなく、斜面保護においても良好な結果をもたらすものである。
受圧板により金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くように押え付けて行うアンカーを用いた受圧板の固定は、地山から及ぼされる圧力を、金網全体でほぼ均等に受け持つことを可能とする。すなわち、連続する梁などのコンクリートブロック面で金網を押さえるのではなく、点在する受圧板により「点」で押さえる状態を得ていることから、金網の張力を均等化し易いという利点がある。よって斜面の金網による押しの均等化も向上する。また、当初、金網全体に張力がほぼ均等に働くように受圧板の固定作業を行った後、更に地山の変形等によりゆるみが生じたような場合でもそれを解消するための再緊張行うことも可能である。
【0010】
また、従来のコンクリートブロックの設置に比し、金網の展設面積に対する受圧板の占める面積が小さくなるので、その結果、保護斜面の植生も良好なものとなり、その外観もコンクリート部分が目立たずより自然な状態に近いものを維持することができる。
【0011】
更に、受圧板の点在配置は、斜面の形状変化が生じたような場合に、受圧板の相互の間の位置に別の新たな受圧板を事後的に追加することも可能であり、また、当初設置した受圧板の位置を移すことにより、より適切な金網の保持を行うことが可能である。このような利点は、従来のようなコンクリートブロックや梁の設置による場合には得られなかったものである。
【0012】
また、金網を構成するワイヤーを引張り強度の高い硬鋼製とすることにより、金網は大きな力の作用を受けても破断することなく、長期の使用に耐える。更に、受圧板の点在位置は、上記地山から受ける圧力の均等化のために金網全体にできるだけ均等に分散配置されるのが好適である。
【0013】
上記の引張り強度の高いワイヤーとは、例えば、ばね鋼ワイヤーやステンレスワイヤーであり、そのほかの市販の鋼線も使用可能である。受圧板は平面的に見て丸形状、多角形形状など様々な形状のものが使用可能である。
【0014】
次に、請求項2に記載の発明は、金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、前記受圧板の設置箇所に、前記金網の展設に先立って可撓性の袋体を置き、前記袋体の配置箇所の前記金網の上側に前記受圧板を配置し、前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、前記袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする。また、請求項3に記載の発明は、金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働く前記押え付けは、前記受圧板の設置箇所に、前記金網の上側と下側に可撓性の袋体を置き、前記金網の上側に配置した袋体の上に前記受圧板を配置し、前記アンカー緊張による前記受圧板の仮締めを行い、前記両袋体の内部に硬化性流動性注入材を注入し、前記硬化性流動性注入材が完全に硬化する前に前記アンカーの本締めを行い、前記受圧板を沈み込ませ、前記金網に一定の張力を付与することによって行なわれることを特徴とする。
これらの構成によって、金網全体にほぼ均等に土圧による張力が働くようにする作用を効果的にもたらすことができる。
また、このようにした場合、地山に凹凸があっても、袋体に注入した注入材が地山と受圧板との間の隙間を埋め、注入材硬化後は受圧板と金網と地山とが密着状態になるので、受圧板による締め付け作用が金網を介して効果的に地山に伝えられ、また受圧板と金網との間の相対移動を防止することができる。
【0015】
なお、このようなアンカーによる固定のため、例えば、受圧板には、平面視中央部に貫通孔が設けられ、この貫通孔にはアンカーの上端部と係合して、アンカーを緊張させながら受圧板を地山方向へ押し付けるための締め付け手段が配置される。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記受圧板が椀状または皿状の中空殻体構造であって、この受圧板を金網上に配置する際、内側の空間部に前記金網の上側の袋体を配置し、受圧板の仮締めを行った後、この金網の上側の袋体内に硬化性流動性注入材を注入して受圧板内と金網との間の空間を埋めることを特徴とする。このようにした場合、受圧板を軽量化することができ、受圧板の搬送や取付けを行う場合に受圧板の取扱が極めて容易になる。
【0019】
請求項5による発明は、前記硬鋼製のワイヤーが平面視鋭角のジグザグ状、正面視長円形状となるように直線状の上辺直線部及び下辺直線部とそれらの間をつなぐ屈曲部とを有し、かつ螺旋状に伸長するように形成され、前記屈曲部によって形成される前記上辺直線部と下辺直線部との間の間隔が硬鋼製のワイヤー太さの数倍となる構成とされ、複数の該硬鋼製のワイヤーを前記屈曲部相互が係止し合うように編み合わせて菱形編み目の金網が形成され、この金網が前記斜面上に、前記菱形編み目の長い方の対角線の伸長方向が斜面の上下方向へ向かうように配設されることを特徴としている。
【0020】
上記のように形成された金網は、その菱形編み目の2つの対角線のうち長い方の対角線の伸長方向に働く力に対抗して最も大きな抗力を示すことから、土圧に対抗して最も金網の効果的に金網の強度を使うことができる。即ち、土圧の最も強く作用する方向(一般的には斜面の上下の方向)に合わせて金網配置が行われることとなる。
【0021】
また、上述のように金網が厚さ(上辺直線部と下辺直線部との間の間隔)を持った立体構造であり、弾性を有する構造であることから、経時的な斜面の変形に柔軟に追随することができ、圧力の均等性を維持することができる。また、金網の立体構造によって、上記、受圧板の点在構造と相俟って金網展設斜面にある植生の保護がより一層図られる。
【0022】
請求項6による発明は、前記硬鋼製のワイヤーの表面が防食処理されていることを特徴としている。この構成により、金網を斜面に設置した際、地山の圧力を確実に受け止めることができ、しかも破断することはない。
【0025】
請求項7による発明は、前記請求項1から6に記載の斜面保護方法の斜面への施工を当該斜面の上方位置から下方位置へ所定範囲ずつ順次段階的に施していく逆巻き施工にて行うことを特徴とする。
【0026】
このような逆巻き施工との組合せにより上記斜面保護方法を実行することにより、斜面保護作業における円滑性や容易化を達成することができると共に、逆巻き施工の特性から金網の展設作業がより容易なものとなる。すなわち、斜面の上方位置の所定領域にまず表面の除去などによる保護すべき法面の形成作業が施されるが、その段階でまずその部分への上記斜面保護方法が実行されるので、金網の展設作業もその所定領域のみについて行えば足る。したがって、金網も順次段階的に下方へ拡げていく作業を行うことになり、その作業が容易なものとなる。すなわちその作業は、巻いた金網或いは折り畳んだ金網を順次段階的に下方へ拡げていく方法やその領域毎に金網を連結していく方法などが考えられる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明方法により施工した保護斜面の部分図であり、図中1は金網、2は受圧板である。
【0028】
図面には、斜面に展設した金網1を、一定間隔おきに配置した受圧板2により押えた状態が示されている。受圧板2は、図1に示すように、互いに1?3mの距離をおいて、縦横に整列した矩形状配置にしても良いし、あるいは1?3mの距離をおいて千鳥状配置にしても良い。できるだけ均等な分散状態にすることが好適である。
【0029】
受圧板2は、図2に示すように、地山3に埋設固定されたアンカーもしくはロックボルト4(以下アンカーと総称する)と協同しており、アンカー4との係合部に設けられた締付け手段5(図3参照)により、地山3に対して押し付けられる。
【0030】
締付け手段5は、例えば図3に示すように、受圧板2の中央部に設けた貫通孔を突き抜けて突出しているアンカー4の先端部を銜えて支持している雄ねじ部材41と、この雄ねじ部材に螺合し、受圧板2上に保持されている雌ねじ部材42とから成っており、雌ねじ部材42を雄ねじ部材41に対して、例えば右回転させることにより、アンカー4に働く緊張力が増大すると共に、受圧板2が地山3へ向けて押し込まれる。雌ねじ部材42を左回転させれば、上記とは逆にアンカー4に働く緊張力は次第に低下し、受圧板2による押付け力は次第に減少する。
【0031】
この締付け手段5は、好ましくは、受圧板2の上面に設けた円錐台状の凹陥部21内に配置されており、この凹陥部は蓋22によって閉鎖され、それによって締付け手段5は落石などによる衝撃や、雨水などから保護される。
【0032】
上記のように、金網1は受圧板2によって地山3へ押し付けられるが、本発明によれば、所定間隔を開けて点在する受圧板2により、いわば複数分散した点で押さえているので、金網1による斜面の押え付けは、金網1全体に均一に土圧による張力が働くように行われている。また、保護すべき斜面の凹凸に対しより的確に追従した金網の設置が可能になる。すなわち、金網による斜面の押さえ機能がより均質かつ的確なものとなる。また、従来のコンクリートブロックに比し、金網1の展設面積に対する受圧板2の占める面積は非常に小さいので、保護斜面の植生はより良好なものとなり、その外観もコンクリート部分が目立たず、より自然な状態に近いものとなる。
【0033】
更に、十字状のコンクリートブロックや梁状コンクリート体を対象斜面全体に配設する従来の技術に比し、受圧板の点在配置によれば、斜面保護に必要な部材の総重量がはるかに軽量化され、作業性の向上だけでなく、斜面の形態保持の面でも良好な結果をもたらすものである。
【0034】
また、斜面の形状変化が生じたような場合における対策として、受圧板の相互の間の位置に別の新たな受圧板を事後的に追加することや、当初設置した受圧板の位置を移すことが可能であり、より適切な金網の保持を行うことができる。
【0035】
上記の金網1は、引張り強度の高いワイヤー、例えば硬鋼ワイヤーやステンレスで構成されており、そしてこのワイヤーは平面的に見て鋭角のジグザグ状に(図5)、伸長方向に向かって螺旋状に(図4A)、形成されている。すなわち、ほぼ直線状の上辺直線部111と下辺直線部112とがそれらの間の屈曲部113によって上述の螺旋状になるように結合されている。
【0036】
このような構成により、正面から見ると長円形状(図4B)に形成されているが、この金網1の特徴的なことは、上辺直線部111と下辺直線部112との間の高さ方向の間隔Dが硬鋼製のワイヤー太さの3倍もしくはそれ以上となっていることである。
【0037】
かかる構成によれば、金網が厚さを持った立体的構造となり、弾性を有するものとなる。したがって、経時的な斜面の変形に柔軟に追随することができ、圧力の均等性を維持することができる。
【0038】
また、上辺直線部111と下辺直線部112とが成す鋭角的角度は、図5に示すように、30?50°であることが好ましい。その結果、このような構成の折曲ワイヤー11が、図5および図6に示すように、互いに屈曲部113を係合させて編み合わされ金網1となされることにより、編み上がり後の金網1に生じる編み目12は、一方の対角線が他方の対角線より長い菱形となる。
【0039】
このように金網1を構成することにより、長い対角線方向の金網強度が極めて大きくなり、従って、図1に示すように、地山斜面の土圧が最も大きく作用する方向(一般的には斜面の上下方向)に長い対角線の伸長方向を合わせることにより、上記金網の強度的機能を十分に発現させることができる。金網1の編み目12の大きさの例としては、短い方の対角線長さが50?150mm、長い方の対角線長さが50?200mmである。
【0040】
上記の金網は、図4に示すように、比較的厚み(高さ方向の間隔D)を持った大きな隙間の確保されたものであるので、金網被覆斜面上の植生を保護する効果も有している。
【0041】
上記の硬鋼製のワイヤーは防食処理されていることが好ましく、具体的な防食処理としては亜鉛メッキ、樹脂による被覆が行われる。使用される樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0042】
受圧板2は、図1には平面的に見て8角形のものが示されているが、図7に示すように様々な形状のものが使用可能である。図7Aには、図1のものと同じ8角形であるが、縦方向および横方向の辺の長さが比較的短縮されており、その結果、幾分スリム化されている。
【0043】
受圧板の中央には図2に関連して説明した前述の円錐台状の凹陥部22が設けられている。図7Bは平面視楕円形、図7Cは平面視円形の受圧板をそれぞれ示している。寸法の例としては、長さまたは径が20cm?1m、厚さは10?30cmであり、材料としてはコンクリート、金属、あるいはプラスチックが挙げられる。コンクリートおよびプラスチック製の場合、中実であることが好ましく、金属製、特に鉄製の場合には、中空殻体構造であることが好ましい。
【0044】
次に、図8および図9は、斜面に凹凸があっても、簡単な作業で受圧板の作用を金網に均等にかつ十分に及ぼすようにした実施の形態を示している。
【0045】
図8の実施の形態の場合、中実の受圧板の地山上での接地箇所に、金網の展設に先立って可撓性の袋体6が置かれ、その後で金網の展設、受圧板の配置、アンカー緊張による受圧板の仮締めまたは本締めを行い、次いで袋体6の内部に硬化性流動性注入材、例えばセメントミルクを注入口61より圧入する。その結果、注入材は袋体を変形させながら、金網1と地山3との間の隙間を埋め、金網を受圧板2の底部に押し当てる。セメントミルクは次第に硬化し、最終的には、図8Bに示すように、受圧板2と金網1とを密着固定すると共に、金網と地山との間の空隙を埋め、従って受圧板の押圧力はその下の金網部分に効果的に伝達され、受圧板周囲の金網部分に一様に張力を生じさせる。セメントミルクの注入を、アンカー仮締め状態で行った場合には、セメントミルクが完全に硬化する前に本締めを行い、受圧板2を沈み込ませ、金網に一定の張力を付与する。
【0046】
上記の袋体6は、受圧板2の底面と同じ輪郭形状を有し、不織布等の通気性を有する変形可能な材料で製作されている。袋体6の内部には、スポンジ、発泡ウレタン、パルプ製品、パーム(シュロ科やヤシ科植物の果実から得られる塊状繊維)等の変形可能な多孔質物質を充填しておくことが好ましい。多孔質物質は、断片状のものを複数個充填しても良いし、一体的のものを充填しても良い。また、多孔質物質として、注入材が浸透あるいは透過し易い多孔質物質断片と注入材の含浸保持能力の高い多孔質物質断片とを混在させたものや、それぞれの性質を有する多孔質物質を、断片ではなく板状にして、それらを層状に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
図9は、受圧板2として、皿状もしくは椀状の殻体構造を有し、鋼製のものを使用した場合の実施の形態を示している。この受圧板2は、図8の場合と同様に金網1のうえに配置されるが、図示のように中空部を下側にし、この中空部内に第2の袋体7が配置されている。第2の袋体7それ自体の素材や、その中に充填される多孔質物質は上記のものと同じで良い。
【0048】
図8の場合と同様に、アンカー緊張による受圧板2の仮締めまたは本締めを行った後、袋体6の内部にセメントミルクを注入するが、それと同時に第2の袋体7にも、受圧板2の外側に突き出してある注入口71よりセメントミルクを圧入する。その結果、袋体6内に圧入される注入材は同袋体を変形させながら、金網1と地山3との間の隙間を埋め、一方第2の袋体7に圧入される注入材は同袋体を変形させながら、中空部を埋めると共に金網1と密着する。従って、金網1は、図9Bに示すように、両注入材に密着して挟まれた状態になり、セメントミルクが硬化した後には、金網と地山との間で隙間なく固定される。セメントミルクの注入を、アンカー仮締め状態で行った場合には、図8の場合と同様、セメントミルクが完全に硬化する前にアンカーの本締めを行い、受圧板2を沈み込ませ、金網に一定の張力を付与する。
【0049】
次に、図10は、上記本発明に係る斜面保護方法を逆巻き施工と組み合わせて行う場合の実施例を示している。例えば、図上波線で示した部分100の下方位置に道路200を形成する場合、波線で示した部分100を除去して新たな斜面300を形成し、その斜面300に対して上記実施の形態に係る斜面保護方法の処理を行う。
【0050】
これを逆巻き施工で行う場合、まず斜面の上方位置の所定領域100-1の部分のみを除去し、この部分の斜面300-1を上記実施の形態による方法で処理する。本願発明の場合、受圧板2は連続的な構成でなく、従来のコンクリートブロックに比し、長さの短いものであるので、段階的な逆巻き施工によっても何ら支障なく斜面保護作業を行うことができる。
【0051】
また、金網1の展設も図示のように巻回したものを順次各処理段階毎に解いて拡げつつ処理を行うことができ、作業性も向上する。勿論、このように金網1を巻回して展設するものに限る必要はなく、折り畳んだ金網1を拡げながらあるいは所定の大きさの金網1を連結しながら下方へ拡げていく方法でも良い。
【0052】
このような作業を順次下方へ(100-2、100-3へ)向かって段階的に行って行くものであるが、これにより、上記斜面保護方法が好適に適合する逆巻き施工の工程と相俟って、逆巻き施工特有の容易性や安全性の高い作業が可能となるという利点と共に上記斜面保護方法の利点を生かすことができる。
【0053】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る斜面保護方法によれば、金網を点在する受圧板で固定することによって、斜面を金網で均等に押さえるという作用を容易に達成することができる。すなわち、地山から及ぼされる圧力を金網全体でほぼ均等に受け持つようにすることができる。また、本発明の受圧板の設置作業は比較的簡単で短時間の作業で行うことができ、更に、本発明によれば、保護斜面において、金網の領域に対して受圧板の占める領域が従来のブロックに比し、極めて小さくなること、また金網の厚さが確保されていることから保護斜面の植生のが向上するという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法による保護斜面の上面図である。
【図2】図1の保護斜面を、地山に対して垂直の断面で示した図である。
【図3】受圧板とアンカーとの結合の例を示す中央縦断面図である。
【図4】金網を構成するワイヤーの構成を示す図であって、(A)は同ワイヤーの部分的斜視図、(B)は正面図である。
【図5】金網の編み目の形状を示す部分的平面図である。
【図6】図4に示すワイヤーを編み合わせて構成した金網の部分的斜視図である。
【図7】本発明で使用できる様々なタイプの受圧板の平面図である。
【図8】本発明の好ましい施工例を説明する中央縦断面図であって、(A)は地山に対する各要素の配列状態を示し、(B)は設置作業完了後の地山に対する各要素の状態を示す図である。
【図9】本発明の他の好ましい施工例を説明する中央縦断面図であって、(A)は地山に対する各要素の配列状態を示し、(B)は設置作業完了後の地山の対する各要素の状態を示す図である。
【図10】本発明の逆巻き施工による施工例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 金網
2 受圧板
3 地山
4 アンカ-
5 締付け手段
6 袋体
7 第2の袋体
11 硬鋼製のワイヤー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-03-18 
結審通知日 2015-03-20 
審決日 2015-04-02 
出願番号 特願平11-231467
審決分類 P 1 113・ 55- YAA (E02D)
P 1 113・ 538- YAA (E02D)
P 1 113・ 121- YAA (E02D)
P 1 113・ 537- YAA (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 苗村 康造  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
中川 真一
登録日 2009-02-06 
登録番号 特許第4256545号(P4256545)
発明の名称 斜面保護方法及び逆巻き施工斜面保護方法  
代理人 杉本 賢太  
代理人 田中 成志  
代理人 高橋 修平  
代理人 安江 裕太  
代理人 江藤 聡明  
代理人 田中 成志  
代理人 特許業務法人高橋特許事務所  
代理人 高橋 修平  
代理人 安江 邦治  
代理人 杉本 賢太  
代理人 江藤 聡明  

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