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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1316138
審判番号 不服2014-724  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-15 
確定日 2016-06-14 
事件の表示 特願2009-216883「抗腫瘍剤としてのCCI-779の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日出願公開、特開2010- 18620〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成13年11月13日(パリ条約による優先権主張 2000年11月15日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願(以下、「もとの出願」という。)の一部を平成21年9月18日に新たな特許出願としたものであって、平成24年6月25日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月25日に手続補正がなされたが、平成25年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年1月15日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において、平成27年6月12日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月10日に意見書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願に係る発明は、平成24年12月25日受付の手続補正書により補正された請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項2】
腫瘍に適する標準的な化学療法で処置されたものの、処置した後に当該腫瘍が進行した、哺乳動物における難治腎細胞癌の治療のための3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸とのラパマイシン42-エステル(CCI-779)を含む医薬組成物。」


第3 刊行物の記載

(1)当審拒絶理由に引用した、もとの出願の優先日前に頒布された刊行物である「Manuel Hidalgo et al.、A Phase I and pharmacological study of CCI-779, a rapamycin ester cell cycle inhibitor.、Annals of Oncology、2000.11.07受入、Vol.11 (Suppl.4)、p.133、「606O」の項目」(以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある(なお、原文は英語であるため、日本語翻訳文で記載した。以下同じ。)。

(1-a)「細胞周期阻害剤であるラパマイシンエステル、CCI-779に関するフェーズI及び薬理学的研究」(タイトル部分)

(1-b)「この研究は、充実性腫瘍患者に対して、CCI-779を2週間ごとに5日間、一日当たり30分間の静脈投与をするというスケジュールにおいて、投与量の上昇に関する実行可能性、薬物動態及び生物学的効果評価することである。」(本文第4?7行)

(1-c)「NSCLCの患者1名が部分奏功に達した。軟部組織肉腫(3例)、子宮頸癌(1例)、子宮癌(1例)、腎細胞癌(3例)を含むいくつかの薬剤難治性(drug-refractory)腫瘍において、弱い奏功及び/又は疾患安定期間の延長(4ヶ月超)が観察された」(本文第22?25行、当審注:NSCLCは非小細胞肺癌)

上記の記載(1-a)及び(1-b)によれば、引用例1は、CCI-779という薬剤について、治験第1相において、実際のがん患者を対象とした薬剤耐容性を検討し、その結果の概要を報告する文献であると理解できる。
そして、記載(1-c)によれば、薬剤難治性の癌を患っているヒト患者に対してCCI-779を投与したところ、3名の腎細胞癌患者において、弱い奏功及び/又は疾患安定期間の延長という薬効が観察されたことが記載されているのであるから、当該引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「ヒトにおける薬剤難治性腫瘍の一種である腎細胞癌に対して治療効果を有する、ラパマイシンエステルであるCCI-779を含む医薬組成物。」


(2)当審拒絶理由に引用した、もとの出願の優先日前に頒布された刊行物である「ALEXANDRE, Jerome et al.、Phase I study of CCI-779, a novel rapamycin analog: preliminary results、PROCEEDINGS OF THE AMERICAN ASSOCIATION FOR CANCER RESEARCH、2000年3月発行、vol.41、p.613」(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。

(2-a)「進行した固形腫瘍の患者に、CCI-779を1週間に30分ずつの点滴により投与した」(本文第2?3行)

(2-b)「13名の患者が有効性の評価が可能であり、そのうちIL-2とIFNαの薬剤に耐性であった転移性腎細胞癌患者であって、15mg/m^(2)/wで投与された患者1例において部分奏功(partial response)が見られ、3例において弱い奏功が見られ、また5例において疾患安定が見られた。」(本文第20?22行)


(3)当審拒絶理由において技術常識を示す文献として引用した、もとの出願の優先日前に頒布された刊行物である「多賀須幸男 他編、今日の治療指針1999、日本、1999.01.15発行、第1999年版、第490-491ページ」(以下「引用例3」という。」には、以下の記載がある。

(3-a)「腎細胞癌の治療の原則は早期診断・早期根治手術にあり、化学療法や放射線療法の効果は低く、進行癌の予後は不良である。」(第490ページ右欄第11?13行)

(3-b)「2.化学療法
進行腎細胞癌に対する化学療法は、内因性薬剤耐性機序などの関与により、その効果については否定的な報告が多く、現時点で確立されたregimenはない。」 (第490ページ右欄第37?40行)

(3-c)「3.放射線療法
腎細胞癌に対する放射線療法は、主として骨転移巣に対する疼痛の緩和療法として用いられ、生存期間の延長にはつながるものではないが、今後、集学的治療の一環として活路が期待される。」(第490ページ右欄第41?45行)

(3-d)「4.免疫療法
近年、進行腎細胞癌に対するサイトカイン療法に注目が集まっているが、各種インターフェロン(IFN)単独の奏功率は部分寛解を含めて9-18%で、原発巣摘除後の限局した肺転移病巣を有する全身状態のよい症例に奏功する傾向が見られる。抑制性T細胞活性を抑制するシメチジンや種々の抗がん剤およびIL-2との併用療法により、IFNの奏功率の向上が報告されているが、報告者によってその成績に大きな差がみられている。」(第491ページ左欄第1?9行)


次の(4)と(5)で提示する文献は、もとの出願の優先日当時における技術常識を示すものとして引用するものである。

(4)もとの出願の優先日前に頒布された刊行物である「各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知、『抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン』について」、薬新薬第9号、平成3年2月4日」(以下、「引用例4」という。下線は当審が付した。)には、以下の記載がある。

(4-a)「一方、海外大規模試験により臨床的有用性の検証された薬剤で、国内への導入が大幅に遅れ、国内臨床現場において国際的標準薬が使用できないという状況も認められた。これらの状況を踏まえて、米・EUをはじめとする海外の規制当局における抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインとの共通化も念頭に置き、今回のガイドライン改訂を行った。」((別添)「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」のII.背景)

(4-b)「本ガイドラインは、第I相から第III相までの臨床試験の在り方を記述している。第I相試験では主として安全性を、第II相試験では腫瘍縮小効果等の有効性と安全性を、第III相試験では延命効果等を中心とした臨床的有用性を検討する。」((別添)「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」のIII.概要)

(4-c)「IV.第I相試験
[1.目的]
第I相試験は非臨床試験成績を基に治験薬を初めてヒトに投与する段階である。非臨床試験で観察された事象に基づき、用量に依存した治験薬の安全性を検討するのが主な目的であり、以下の項目について検討を行う。
a) 至適用量(optimal dose)又は臨床上適切な用量、例えば最大耐量(MTD:maximumtolerated dose)、最大許容量(MAD:maximum accepted dose)の推定
b) 薬物動態学的検討
c) 第II相試験で推奨される投与量の決定
d) 治療効果の観察
e) 治療効果を予測するマーカーの探索(分子標的薬等)
なお、臨床試験の開始前に、治験薬の単回投与毒性試験及び反復投与毒性試験、その他、治験薬をヒトに投与開始する場合に必要な安全性を確認する試験が終了していることが原則である。
[2.試験担当者及び試験施設]
新GCPに規定される実施医療機関としての条件を満たし、非臨床試験成績について十分な知識を有する研究者、臨床薬理学に精通した研究者及び抗悪性腫瘍薬について十分な知識と経験を有する治験担当医師が協同して実施することが望ましい。
第I相試験では、予期せぬ副作用の出現をみることがある。このため試験担当者相互の連絡を密にして試験を安全に実施できるように、初期にはできるだけ単一施設で行うことが望ましい。やむを得ず多施設の共同試験により第I相試験を行う場合は、均一な臨床の能力を持つ必要最小限の施設の共同試験とする。また、各施設における代表者たる治験責任医師及び治験依頼者は、情報の交換を速やかに行うとともに、各施設における試験の進行状況を定期的に確実に把握しておくよう努力する必要がある。
[3.対象患者]
毒性が強い抗悪性腫瘍薬の第I相試験では、健康な人ではなく、がん患者を対象とすべきである。また、一般的に認められた標準的治療法によって延命や症状緩和が得られる可能性のあるがん患者を対象とすべきではない。
治験の対象となる症例は、原則として入院による管理下におく。
対象患者は、以下の条件を満たすものとする。
(1) 組織診又は細胞診により悪性腫瘍であることが確認されていること。
(2) 治験参加の時点で、通常の治療法では効果が認められないか、又は一般に認められた標準的治療法がない悪性腫瘍を有する患者であること。ただし、客観的に計測可能な病変を有する必要はない。なお、薬剤の特性や開発目標により特定の癌腫を対象とすることが明白な場合は、その癌腫に限定して試験を行う。
(3) 生理的に代償機能が十分であり、造血器、心臓、肺、肝、腎等に著しい障害のないこと、すなわち治験薬投与時の有害事象を適確に評価しうる臓器機能が維持されていること。ただし、一般状態(PS:Performance Status)が3、4の症例は除外する。年齢については、臓器機能や同意取得能力を考慮して決定する。
(4) 前治療の影響がないと認められること、すなわち試験開始時点では安定した生理状態にあること。前治療から臨床的に妥当と判断される間隔をあけることが必要とされる。」((別添)「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」のIV.第I相試験。なお原文の丸囲み数字については、制限文字であるため、便宜的に括弧( )囲み数字で表した。)


(5)もとの出願の優先日前に頒布された刊行物である「Schwartsmann G. Marine organisms and other novel natural sources of new cancer drugs., Ann Oncol. (2000年10月発行), Vol.11(Suppl 3), p.235-243」(以下、「引用例5」という。)には、以下の記載がある。

(5-a)「CCI-779
CCI-779[シロリムス 42-{3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸};NSC 683864]は、ラパマイシン(シロリムス)の可溶性の構造アナログであり、Streptomyces hygroscopicusから単離されたマクロライド系抗生物質である。」(第239ページ右欄第23?28行)


第4 対比・判断

(1)対比
引用発明1の有効成分であるラパマイシンエステルである「CCI-779」が、ラパマイシンの42位における「3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸」とのエステル体を意味することは引用例5にも記載されているとおり、本願のもとの出願の優先日当時の当業者に周知の事項であったと認められるところ、本願発明の有効成分も「3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸とのラパマイシン42-エステル(CCI-779)」と記載されているから、両発明における有効成分であるCCI-779は同じ化合物を意味していることは明らかである(以下、本願発明に係る「3-ヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-2-メチルプロピオン酸とのラパマイシン42-エステル(CCI-779)」についても、簡略化のため単に「CCI-779」という。)。
また、引用発明1の「ヒト」は、哺乳動物の一種であることは明らかであるから、本願発明における「哺乳動物」に相当する。
これらのことを踏まえて、本願発明と引用発明1とを対比すると、一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)哺乳動物における腎細胞癌に対する、CCI-779を含む医薬組成物。

(相違点1)患者である哺乳動物について、本願請求項1では「腫瘍に適する標準的な化学療法で処置されたものの、処置した後に当該腫瘍が進行した」という特定がされているのに対して、引用発明1にはそのような特定がなされていない点

(相違点2)腎細胞癌の性質について、本願請求項1では「難治」という特定がされているのに対し、引用発明1では「薬剤難治性腫瘍の一種である」と特定されている点

(相違点3)医薬組成物について、本願発明では「治療のための」と用途を特定しているのに対し、引用発明1では、用途ではなく「治療効果を有する」という性質を特定している点


(2)判断
(相違点1)及び(相違点2)について
引用例4は、本願のもとの出願の優先日前である平成3年に、厚生省(当時)薬務局新医薬品課長の名で各都道府県衛生主管部(局)長あてになされた通知であり、抗悪性腫瘍薬の臨床試験に携わる者に公表されていたものであるから、当業者にとっては技術常識を示すものである。そして、当該引用例4の記載(4-a)では、別添のガイドラインは米・EUをはじめとする海外規制当局のガイドラインとも共通する内容であることが記載されている。そして、記載(4-b)及び(4-c)によれば、臨床試験第I相においては、安全性の確認が主目的ではあるが、対象者はがん患者とすべきであり、一般的に認められた標準的治療法によって延命や症状緩和が得られる可能性のあるがん患者を対象とすべきではないこと、治験参加の時点で、通常の治療法では効果が認められないか、又は一般に認められた標準的治療法がない悪性腫瘍を有する患者であることが定められている。
このような技術常識が存在しており、かつそれは米・EUをはじめとする海外規制当局のガイドラインとも共通する内容であるという状況を考慮すると、引用例1は、新しい抗癌剤であるCCI-779の治験第1相に関する報告であることから、そこで対象に選ばれた患者は、当時既に腎細胞癌について知られていた標準的な治療方法で処置されたものの、それによっては有効な結果が得られなかった患者であると認められる。
ここで、引用例3は、その発行日当時(1999年)における医学情報を網羅的に解説する書籍であるから、本願のもとの出願の優先日前における技術常識を示すものといえるところ、当該引用例3の記載(3-a)によれば、腎細胞癌に対して化学療法や放射線療法の効果は低く、進行癌の予後は不良であること、記載(3-b)、(3-c)及び(3-d)によれば、手術以外の治療方法としては、放射線療法、化学療法及び免疫療法があるが、化学療法については確立されたregimenがなく、放射線療法については主として骨転移巣という特定箇所における疼痛緩和として利用され、免疫療法についてはサイトカイン療法があり抗癌剤との併用例も存在するものの必ずしも奏功するとは限らないものであることが理解できる。
引用例3で示されている状況において、引用例1の記載に触れた当業者にしてみれば、具体的な治療方法までは特定されていないものの標準的な治療方法が有効でなかった腎細胞癌患者に対して、CCI-779を適用すると一定の治療効果が得られたことが報告されたのであるから、当該CCI-779を、腎細胞癌に対する標準的な治療方法の一つである化学療法で処置されたものの、有効な結果が得られなかった、すなわち処置した後に腎細胞癌が進行してしまった患者に対して適用することは、容易に想到できたことである。そして、患者として特に「腫瘍に適する標準的な化学療法で処置されたものの、処置した後に当該腫瘍が進行した」患者を選択したことで、引用例1からは予測できない顕著な効果が得られたとも認められない。

ところで、本願発明の「難治腎細胞癌」という用語に関して、本願明細書には、次のとおりの記載がある。

「『難治性腫瘍』なる用語は、典型的には、所定の腫瘍に適する標準的な化学療法で処置した後に進行した、患者における腫瘍を意味する」(本願明細書段落【0010】)

本願明細書のこのような説明に基づくと、本願発明の「難治腎細胞癌」とは、腎細胞癌に適する標準的な化学療法で処置した後に結果として進行してしまった、患者における腎細胞癌を意味するものと理解できる。そうすると、本願発明における「難治」とは、本願発明の冒頭における患者を特定するための「腫瘍に適する標準的な化学療法で処置されたものの、処置した後に当該腫瘍が進行した」という記載と同じ内容を、腎細胞癌について重複的に繰り返しただけの意味であるといえる。
一方、引用発明1の「薬剤難治性腫瘍の一種である腎細胞癌」とは、腎細胞癌というものが一般的に有している、薬剤に対して難治性であるという性質が特定されているのであって、そのことは引用例3の記載内容と矛盾しない。そうすると、そのような一般的性質として薬剤に対して難治性である腎細胞癌について、先の(相違点1)について検討した事項と同様に、引用例1の記載に基づき、標準的な化学療法では有効に処置できない患者の腎細胞癌を治療対象とすること、すなわち相違点2については当業者が容易に想到できた事項である。

(相違点3)について
引用例1に記載された事項に基づけば、CCI-779は、腎細胞癌に対して実際に治療効果を有しているのであるから、当業者であれば、当該CCI-779を腎細胞癌の治療のために使用することは容易に想到できたことである。

(本願発明の効果について)
本願明細書段落【0011】、【0013】及び【0014】には、腎臓腫瘍系統の細胞を用いたインビトロ試験を行い、CCI-779が低nMの範囲のIC50を示したことが記載されている。また、段落【0012】、【0015】及び【0016】において、腎臓腫瘍系統細胞を移植したマウスを用いたインビボ試験を行い、マウスにおける腫瘍細胞の有意な阻害が観察されたことが記載されている。さらに、同段落【0017】?【0021】には、腎臓癌を有する患者に投与する試験を行い、週1回の投与スケジュールでは、腫瘍サイズが50%以上低下する局所反応が1例、腫瘍サイズが25%以上50%未満低下するより程度の低い反応が2例、さらに、毎日×5の投与スケジュールではより程度の低い反応が1例、未確認のより程度の低い反応が1例、腫瘍サイズが25%未満の増加から25%未満の低下の範囲で約5ヶ月継続する永続性疾患が1例、それぞれ観察されたことが記載されている。

一方、引用例1に記載された治療効果としては、記載(1-c)により、3例において弱い奏功及び/又は疾患安定期間の延長(4ヶ月超)という効果が得られている。当該記載によれば、具体的な腫瘍サイズの数値に関する記載はないものの、弱い奏功及び/又は4ヶ月以上の疾患安定期間の延長という点において、本願明細書に記載された毎日×5の投与スケジュールの下での「より程度の弱い反応」(1例)や「永続性疾患(原文では「stable disease」であるので、疾患がそれ以上悪化しないという意味で「疾患安定」と訳するのが適切と考えられる)の期間約5ヶ月(1例)と同程度の効果であると解される。

また、引用例2は、引用例1と同じCCI-779を用いた治験第1相に関する文献であり、本願明細書や引用例1と同様の第1相治験プログラムによって、CCI-779の薬効を試験した結果を示すものであるから、本願発明による効果を評価する上での参考として考慮できるものである。
そして、当該引用例2の記載(2-a)及び(2-b)によれば、免疫療法(IL-2とIFNα)に耐性の腎細胞癌に対して部分奏功が観察されており、これについては、対象患者が化学療法に対してではなく免疫療法に対して耐性であった者ではあるものの、本願明細書に記載された週1回の投与スケジュールの下での局所反応(原文では「partial response」であるので、「部分奏功」の方が適切な訳語と考えられる)の1例と同等の効果であると解される。

これらのことを踏まえると、少なくとも腎細胞癌の患者を対象とした治験という場面において、本願請求項1に係る発明の効果と同程度の効果が本願優先日前にすでに明らかとなっていたと認められる。そうすると、CCI-779が、腎細胞癌に対して、本願明細書で示された程度の治療効果を発揮することは、当業者であれば十分に予測できた事項である。
したがって、本件発明により奏される効果については、当業者が予測できる範囲を超えて格別顕著であるとは認められない。

(3)まとめ
以上のことから、本願請求項2に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび

以上、検討したとおり、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-08 
結審通知日 2016-01-12 
審決日 2016-01-29 
出願番号 特願2009-216883(P2009-216883)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷尾 忍  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 渕野 留香
佐久 敬
発明の名称 抗腫瘍剤としてのCCI-779の使用  
代理人 四本 能尚  

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