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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1316559
審判番号 不服2014-1797  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-31 
確定日 2016-06-29 
事件の表示 特願2011-259168「連続的灌流および交互接線流による細胞培養の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 90632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成17年3月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成16年3月5日(2004.3.5) 欧州特許庁(EP) 平成16年3月5日(2004.3.5) 欧州特許庁(EP) 平成16年9月27日(2004.9.27) 欧州特許庁(EP) 平成16年9月27日(2004.9.27) 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする,特願2007-501239号の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成23年11月28日に新たな特許出願として分割したものであって,平成25年9月27日付けで拒絶査定がなされたところ,これに対して,平成26年1月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後,当審において平成27年5月19日付けで拒絶理由が通知され,同年10月26日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願請求項1?7に係る発明,平成27年10月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載の事項により特定される発明であると認める。
そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のような発明である。

「【請求項1】
(a) 細胞培養培地と,
(b) 少なくとも80×10^(6)懸濁細胞/mL培養培地の生存細胞密度を有する,培養時に凝集体を容易に又は本質的に形成する動物細胞の懸濁物と,を含む灌流培養物であって,
少なくとも5個の細胞の凝集体が,最大でも細胞の総量の5%を構成する,灌流培養物。」

3 当審の拒絶理由の概要
平成27年5月19日付けの当審の拒絶理由の1つに,補正前の請求項1についての理由が含まれており,概ね,次のようなものである。
この出願の請求項1に係る発明は,その出願の優先日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第00/046354号公報
刊行物2:特開平5-153973号公報

4 引用刊行物記載の事項
上記当審の拒絶理由で引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1及び刊行物2には,次の事項が記載されている。
なお,翻訳及び下線は当審によるものである。

(1) 刊行物1記載の事項
(刊1-1)「細胞培養過程中,細胞密度が増加すると酸素要求が増加する。もし酸素要求が,増加された酸素流量および攪拌によって満たされるとすると,剪断力が増加してしまう。したがって,酸素は,剪断に関連する細胞死を制限する必要があるため,高密度細胞培養においては,主要な制限要因の一つとして残る。言いかえれば,酸素添加を制限することは,細胞成長を抑制し,高密度の培養を達成できなくする。さらに,酸素供給が乏しいと,昆虫細胞に基づく細胞培養系による組換えタンパク質の産生が直接制限される。
したがって,それは,必要とされる栄養素の供給及び阻害性廃棄物の除去手段を提供すること及び/又は酸素供給から剪断に関連する細胞死を減少または制限するという要求に応える酸素供給を提供するような,細胞密度及び組換えタンパク質産生を制限する問題に対処するため当該技術分野における進歩となるであろう。」(明細書7頁3?14行)

(刊1-2)「発明の目的および概要
本発明の目的は,例えば高密度まで,細胞および/または細胞産物を増殖させるための装置および/または方法を提供することであり得る。
その装置および方法は,同時に培養された細胞の増殖中の廃棄産物の除去および栄養素の置換をするための透析過程の使用を含み得る。透析過程は,中空糸フィルタのような半透膜を通した増殖中の細胞の循環を使用してもよく,細胞培地と「再生」培地及び培地(当審注:複数形)と称される追加培地の外部供給源との間で小分子の交換が行われる。半透膜は,水および小分子および小さいタンパク質の通過を可能とするが細胞は通過させない。膜のどちらかの側で小分子の濃度が増加または減少すると,次いで濃度勾配が,半透膜を通して分子を交換することをもたらす。これは,濃度勾配に沿った細胞分画からの廃棄分子の除去及び異なる濃度勾配に沿った細胞分画中への置換栄養素の流入を提供する。中空糸フィルタのように膜が実質的に不活性の場合,移動は,膜を介した分子の拡散により駆動され,そして,膜を横切り分子を駆動するための特定の加圧は必要でない。
その装置および方法は,互換性のある成分のモジュラーセットを提供し得る。この互換性は,性能を改良するために行われる細胞培養の異なるフェーズの間において最適化を提供し,そして,細胞培養操業を中断することなしに機能不全のコンポーネントを迅速に交換する性能を提供する。
中空糸フィルターの比較的小径の管材料を通る細胞の循環は,いかなる凝集した細胞をも崩壊させる追加の利点を提供する。凝集の内部細胞は,外部細胞のように,栄養と酸素を容易に吸収できずそして廃棄物を除去できないので,凝集した細胞は,産物の産生においては有効ではない。」(明細書11頁8行?12頁2行)

(刊1-3)「このバイオリアクターシステム及び方法における中空糸フィルター(図3)は,血液が,吸収したばかりの栄養素を取得する消化管を通って循環し,そして,追加され又は除去される代謝廃棄物がぞれぞれ循環する血液から加えられたり除去されたりする肝臓及び腎臓のような器官を通過する血管によく似て作用する。」(明細書42頁1?5行)

(刊1-4)「実施例8-CHO哺乳類細胞の高密度増殖およびヒトM-CSFの発現
例えば哺乳類細胞のような,昆虫細胞以外の細胞の高密度の増殖を支持する本発明の能力を測定するために,そして,これにより組換えタンパク質の発現が改良されることを示すために,以下の実験を行った。ヒトマクロファージコロニー刺激因子を発現するように遺伝子操作されたチャイニーズハムスターの細胞系(M-CSF CHO細胞)は,HyClone Laboratories Inc(Logan, Utah)(M-CSFをコードするDNAおよびM-CSFを発現するCHO細胞について言及する米国特許第5,650,297号,同第5,567,611号,および同第4,847,201号参照)から入手された。細胞は,5%のCO_(2)に維持した37℃のインキュベーター中で細胞培養シェーカー(135rpm)上のシェーカーフラスコ中に標準条件を用いて維持され,そして,HyQ PF CHO培地(HyClone Laboratories)中で維持された。M-CSF CHO細胞は,0日目に,Bioflo3000バイオリアクター(New Brunswick Scientific, Edison NJ)において,1.5リットルの体積中で0.9×10^(6)細胞/mlの密度で播種され,50rpmの攪拌速度で37℃に維持し,溶解酸素は空気に関して50%に設定し,pHを7.3に設定した。1日目までに,細胞は,1.3×10^(6)細胞/mlに増殖し,本発明の高密度装置(図1,実施例1)が組み立てられ,そして,細胞はその中に導入され,そして,本発明による実験を行った。0.45ミクロン,0.45sq ft AG中空糸フィルタを通してバイオリアクターからの培養培地を50ml/分で循環させた。HyQ PF CHO培地を5L瓶(透析培地)中に入れ,37℃に維持し,中空糸フィルタを通して50ml/分で循環させた。3日目に,培地の5L瓶を,新鮮なHyQ PF CHO培地と交換し,37℃に維持し,中空糸フィルタを通して50ml/分で循環させた。2,3,4および5日目に,高密度バイオリアクター中の細胞は約24時間ごとに2倍になり,5日目までに13.6×10^(6)細胞/mlの密度であった(図11)。」(明細書55頁下から7行?56頁20行)

(刊1-5)図1



(刊1-6)図11


(2) 刊行物2記載の事項
(刊2-1)「【0010】以上の構成において,操作手順を説明する。まず,培養槽1には培地を添加し,細胞を接種する。次に培養槽1に培地を一定流量で添加し,細胞分離装置12を用いて細胞を培養槽1内に残したまま,培地のみを一定流量で抜き出す。細胞の増殖にともない培養槽1内の細胞密度が増加してくるが,これと同時にCHO細胞のような若干の付着性を有する細胞の場合には細胞同志が相互に付着することにより細胞凝集塊を形成し始める。・・・」

5 刊行物1に記載の発明
刊行物1には,「高密度まで,細胞産物及び/又は細胞の増殖のための装置及び/又は方法を提供することにある」(刊1-2)という目的の下,図1(刊1-5)に記載のような,インライン酸素注入装置である中空糸で構成される酸素供給装置151や中空糸透析装置300を有する高密度透析バイオリアクターが開発されたことが記載されている。

その内,実施例8(刊1-4)は,「例えば哺乳類細胞のような,昆虫細胞以外の細胞の高密度の増殖を支持する本発明の能力を測定するために」(刊1-4)に行われた実施例であり,「本発明の高密度装置(図1,実施例1)が組み立てられ,そして,細胞はその中に導入され,そして,本発明による実験を行った。」(刊1-4)ものである。

実施例8で使用された図1(刊1-5)に記載の中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置及び実施例8(刊1-4)に付した下線を整理すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ヒトマクロファージコロニー刺激因子を発現するように遺伝子操作されたチャイニーズハムスターの細胞系(M-CSF CHO細胞)を,HyQ PF CHO培地を使用して,中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置を用いて培養することにより,約24時間ごとに2倍になり,5日目までに13.6×10^(6)細胞/mlの密度となった,M-CSF CHO細胞の培養物。」

6 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 本願発明(a)の特定事項について
引用発明の「HyQ PF CHO培地」は,本願発明の「(a) 細胞培養培地」に相当する。

(2) 本願発明(b)の特定事項について
引用発明の「中空糸透析装置」は,「このバイオリアクターシステム及び方法における中空糸フィルター(図3)は,血液が,吸収したばかりの栄養素を取得する消化管を通って循環し,そして,追加され又は除去される代謝廃棄物がぞれぞれ循環する血液から加えられたり除去されたりする肝臓及び腎臓のような器官を通過する血管によく似て作用する。」(刊1-3)と記載されているように,培地から代謝廃棄器物の除去,及び,栄養素の追加を行うものであるから,引用発明の「中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置」は,灌流培養装置といえる。
よって,引用発明の「中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置」で培養された「M-CSF CHO細胞の培養物」は,本願発明の「(e)灌流培養物」に相当する。

また,引用発明の「M-CSF CHO細胞」の遺伝子操作される前のCHO細胞は,刊行物2に「細胞凝集塊を形成し始める」(刊2-1)と記載されているように,凝集性の細胞である。
引用発明の「M-CSF CHO細胞」は,M-CSFを発現するように遺伝子操作されているが,M-CSFが細胞凝集性を低下させるような技術常識はないので,CHO細胞と同様の凝集性を有するものといえ,引用発明の「M-CSF CHO細胞の培養物」は,本願発明の「(b)灌流培養時に凝集体を容易に又は本質的に形成する動物細胞の懸濁液を含む灌流培養物」に相当する。

そして,引用発明の「5日目までに13.6×10^(6)細胞/ml」となった細胞密度と,本願発明の「少なくとも80×10^(6)懸濁細胞/mL培養培地の生存細胞密度」とは,「高密度の懸濁細胞/mL培養培地の細胞密度」という点で共通する。

以上のことを総合すると,引用発明の「5日目までに13.6×10^(6)細胞/mlの密度となった,M-CSF CHO細胞の培養物」と,本願発明の「(b) 少なくとも80×10^(6)懸濁細胞/mL培養培地の生存細胞密度を有する,培養時に凝集体を容易に又は本質的に形成する動物細胞の懸濁物と,を含む灌流培養物」とは,「高密度の懸濁細胞/mL培養培地の細胞密度を有する,培養時に凝集体を容易に又は本質的に形成する動物細胞の懸濁物と,を含む灌流培養物」である点で共通する。

(3) 本願発明の凝集体についての特定事項について
引用発明の「M-CSF CHO細胞」は,上記「(2)」で述べたように,凝集性の細胞である。引用発明の「中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置を用いて培養」したときに,「M-CSF CHO細胞の培養物」中にどの程度の凝集体が構成されるか規定されておらず不明であるが,「M-CSF CHO細胞」が凝集性の細胞であることに鑑みれば,5個の細胞の凝集体が形成されることは明らかであるし,その割合は不明であるが所定割合で凝集体が存在するものと理解される。

よって,引用発明の「中空糸酸素供給装置と中空糸透析装置を有する高密度装置を用い」培養された「M-CSF CHO細胞の培養物」に含まれる凝集体の割合と,本願発明の「少なくとも5個の細胞の凝集体が,最大でも細胞の総量の5%を構成する」こととは,「少なくとも5個の細胞の凝集体が,所定割合を構成する」ことで共通する。

(4) 小括
以上のことから,両発明の間には,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)がある。
(一致点)
「(a) 細胞培養培地と,
(b) 高密度の懸濁細胞/mL培養培地の細胞密度を有する,培養時に凝集体を容易に又は本質的に形成する動物細胞の懸濁物と,を含む灌流培養物であって,
少なくとも5個の細胞の凝集体が,所定割合を構成する,灌流培養物。」

(相違点1)
高密度の細胞密度が,本願発明では「少なくとも80×10^(6)懸濁細胞/mL培養培地の生存細胞密度」であるのに対して,引用発明では「13.6×10^(6)細胞/mlの密度」である点。

(相違点2)
少なくとも5個の細胞の凝集体の割合が,本願発明では「最大でも細胞の総量の5%を構成する」のに対して,引用発明では,割合が不明な点。

7 検討
(1) 相違点1について
引用発明に「約24時間ごとに2倍になり,5日目までに13.6×10^(6)細胞/mlの密度となった」とされているように,所定の時間毎に2倍となる対数増殖期は5日目でも,図11(刊1-6)のごとく終わっていない。引用発明の「中空糸酸素供給装置」の酸素供給時における「剪断に関連する細胞死を減少」させるとともに,「細胞密度が増加」することに伴い増加する「酸素要求」に見合う酸素を供給する機能(刊1-1),引用発明の「中空糸透析装置」の「必要とされる栄養素の供給及び阻害性廃棄物の除去」(刊1-1)を行う機能,及び,引用発明の「中空糸透析装置」の「栄養と酸素を容易に吸収できずそして廃棄物を除去できない」(刊1-2)凝集細胞に対して,「いかなる凝集した細胞をも崩壊させる」(刊1-2)ことで栄養と酸素の供給を促すという機能に鑑みれば,引用発明において,そのまま培養を続ければ,80×10^(6)細胞/mlの生存細胞密度程度になるまで培養し得るであろうことは当業者が予想するところであって,相違点1に記した本願発明の特定事項のごとく構成することは当業者にとって困難なことではない。

(2) 相違点2
引用発明の「中空糸透析装置」の構成部材である,中空糸フィルターには,「いかなる凝集した細胞をも崩壊させる」(刊1-2)という機能がある。
この機能は,「凝集の内部細胞は,外部細胞のように,栄養と酸素を容易に吸収できずそして廃棄物を除去できない」(刊1-2)という課題を解決できるものである。
そうすると,凝集した細胞の内部細胞に対して栄養と酸素の供給と廃棄物の除去を行えるようにするため,引用発明において,「中空糸透析装置」の構成部材である中空糸フィルタの凝集した細胞を崩壊させるという機能を活用することで,凝集細胞の塊をできるかぎり少なくすることにより,相違点2に記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは,当業者が容易に想到し得たものといえる。

(3) 本願発明の効果について
本願発明の効果は,刊行物1から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

8 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-19 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-18 
出願番号 特願2011-259168(P2011-259168)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊達 利奈  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 小堀 麻子
郡山 順
発明の名称 連続的灌流および交互接線流による細胞培養の方法  
代理人 池田 成人  
代理人 清水 義憲  
代理人 城戸 博兒  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 池田 正人  

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