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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S |
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管理番号 | 1316852 |
審判番号 | 不服2015-5861 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-03-31 |
確定日 | 2016-07-13 |
事件の表示 | 特願2013- 28708「位置測位方法及び装置並びに電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 2日出願公開、特開2013-171044〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この審判事件に関する出願(以下,「本願」という。)は,2013年(平成25年)2月18日(パリ条約による優先権主張2012年(平成24年)2月17日(以下,「優先日」という。),韓国,2013年(平成25年)1月30日,韓国)を出願日とする特許出願であって,その手続の経緯の概略は,以下のとおりである。 平成26年 3月26日付け 拒絶理由の通知(同年4月1日発送) 平成26年 6月27日 意見書,手続補正書(以下,「補正1」と いう。)の提出 平成26年11月25日付け 拒絶査定(同年12月2日送達) 平成27年 3月31日 手続補正書(以下,「本件補正」という。 ),審判請求書の提出 平成27年 6月 3日 前置報告 平成27年 7月23日 上申書の提出 第2 補正却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。) 「衛星航法装置及び慣性航法装置を含む電子装置の位置測位方法であって, 前記衛星航法装置を通じて衛星信号を受信するステップと, 前記衛星信号に基づいて前記電子装置の位置を決定するステップと, 前記衛星信号に含まれる衛星情報及び決定された前記電子装置の位置に基づく位置情報の中の少なくとも一つ以上を利用して,前記衛星航法装置が提供する前記電子装置の位置情報に対する信頼性を決定するステップと, 前記電子装置の位置情報に対する信頼性を利用して,前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップと, 前記決定された慣性航法装置の動作レベルに応じて前記慣性航法装置を作動させて前記電子装置の位置を補正するステップと,を有し, 前記慣性航法装置の動作レベルは,前記慣性航法装置内の複数のセンサーのオン又はオフ状態,及び該複数のセンサーのサンプリング周期によって複数の動作レベルに区分され, 前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは, 前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の停止及び移動の可否を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転したか否かを判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転角度を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,及び, 前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,の内の少なくとも1つである,ことを特徴とする位置測位方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,すなわち補正1の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「衛星航法装置及び慣性航法装置を含む電子装置の位置測位方法であって, 前記衛星航法装置を通じて衛星信号を受信するステップと, 前記衛星信号に基づいて前記電子装置の位置を決定するステップと, 前記衛星信号に含まれる衛星情報及び決定された前記電子装置の位置に基づく位置情報の中の少なくとも一つ以上を利用して,前記衛星航法装置が提供する前記電子装置の位置情報に対する信頼性を決定するステップと, 前記電子装置の位置情報に対する信頼性を利用して,前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップと, 前記決定された慣性航法装置の動作レベルに応じて前記慣性航法装置を作動させて前記電子装置の位置を補正するステップと,を有し, 前記慣性航法装置の動作レベルは,前記慣性航法装置内の複数のセンサーのオン又はオフ状態,及び該複数のセンサーのサンプリング周期によって複数の動作レベルに区分される,ことを特徴とする位置測位方法。」 2 補正の適否(補正の目的要件)について 本件補正は,本件補正前の請求項1で特定されていた「慣性航法装置の動作レベルを決定するステップ」を「前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の停止及び移動の可否を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転したか否かを判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転角度を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,及び,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,の内の少なくとも1つである」と限定する補正であり,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3 補正の適否(独立特許要件)について そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用例の記載事項,引用発明,技術事項 ア 引用例1の記載事項,引用発明 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2009-216484号公報(発明の名称:測位方法,プログラム及び測位装置,出願人:セイコーエプソン株式会社,公開日:平成21年9月24日,以下,「引用例1」という。)には,次の事項(a)ないし(e)が図面とともに記載されている。なお,下線は,当審が付与した。 (a) 「【0001】 本発明は,移動体に搭載されて,該移動体の現在位置を測位する測位装置が行う測位方 法等に関する。 【背景技術】 【0002】 人工衛星を利用した測位システムとしては,GPS(Global Positioning System)が広く知られており,携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利用されている。GPSでは,自機の位置を示す3次元の座標値と,時計誤差との4つのパラメータの値を,複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情報に基づいて求める測位演算を行うことで,自機の現在位置を測位する。 【0003】 しかし,トンネル内や屋内等,GPS衛星信号を受信することができない環境では,GPSによる測位を行うことができないため,ジャイロセンサや加速度センサ等の慣性航法用センサを用いた慣性航法演算処理を行って,現在位置を測位する技術が広く用いられている(例えば,特許文献1)。 【特許文献1】特開平6-341847号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし,従来の技術では,GPSによる測位システムと,慣性航法用センサを用いた測位システムとの両方のシステムを常に動作させておく必要があるため,測位装置における消費電力が増大するという問題があった。 【0005】 本発明は,上述した課題に鑑みて為されたものである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 以上の課題を解決するための第1の発明は,移動体に搭載されて,測位用衛星から受信した測位用信号に基づく所定の測位演算を行って現在位置を測位する第1測位モードと,所定の慣性航法用センサを用いた所定の慣性航法演算処理を行って現在位置を測位する第2測位モードとを有する測位装置が行う測位方法であって,前記測位用信号の受信状況を示す指標値が,予め定められた第1低レベル条件を満足するか否かを判定することと,前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記慣性航法用センサを起動状態とし,前記第1低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記慣性航法用センサを停止状態とする制御を行うことと,前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合に,前記第1低レベル条件よりもレベルの低い第2低レベル条件を前記指標値が満足するか否かを判定することと,前記第2低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記第2測位モードによる測位を行い,前記第2低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記第1測位モードによる測位を行うことと,を含む測位方法である。」 (b) 「【0028】 ジャイロセンサ60は,角速度を検出して自動車の回転を検出する3軸のセンサ(角速度センサ)であり,検出した3軸の角速度をホストCPU30に出力する。ジャイロセンサ60は,慣性航法用センサの一種である。 【0029】 加速度センサ70は,加速度を検出して自動車の移動状態を検出する3軸のセンサであり,検出した3軸の加速度をホストCPU30に出力する。加速度センサ70も,慣性航法用センサの一種である。」 (c) 「【0040】 測位処理とは,ホストCPU30が,自動車が停止していると判定した場合に,フィールドキャリブレーションを行って,慣性航法用センサであるジャイロセンサ60及び加速度センサ70それぞれについて,その検出誤差であるゼロ点バイアスを補償する温度補償モデル式を算出・更新する処理である。そして,自動車が走行している場合に,最新の温度補償モデル式に従って,ジャイロセンサ60及び加速度センサ70のゼロ点バイアスを補償する。」 (d) 「【0067】 次いで,ホストCPU30は,GPS衛星信号の受信状況を示す指標値が,第1低レベル条件を満足するか否かを判定する(ステップA61)。第1低レベル条件は,例えば(1)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の天空配置を表す指標値であるPDOP(Position Dilution of Precision)値が“3”を超えている,(2)GPS受信部20が測位したGPS測位位置の標準偏差(以下,「位置σ値」と称す。)が“10m”を超えている,(3)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の個数(以下,「測位使用衛星数」と称す。)が“5個”未満である,(4)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星信号の信号強度の平均値(以下,「信号強度平均値」と称す。)が“-135dBm”未満である,のうちの少なくとも1つに基づいて定められた条件である。」 (e) 「【0075】 3.作用効果 本実施形態によれば,カーナビゲーション装置1において,GPS衛星信号の受信状況を示す指標値が,予め定められた第1低レベル条件を満足するか否かが判定され,満足すると判定された場合には,慣性航法用センサを起動状態(ON)とし,満足しないと判定された場合には,慣性航法用センサを停止状態(OFF)とする制御が行われる。すなわち,GPS衛星信号の受信状況が良い場合は,慣性航法用センサを停止状態とするため,常に慣性航法用センサを起動させておく必要がなく,消費電力の削減が図られる。」 以上の記載から,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「移動体に搭載されて,測位用衛星から受信した測位用信号に基づく所定の測位演算を行って現在位置を測位する第1測位モードと,所定の慣性航法用センサを用いた所定の慣性航法演算処理を行って現在位置を測位する第2測位モードとを有する測位装置が行う測位方法であって,前記測位用信号の受信状況を示す指標値が,予め定められた第1低レベル条件を満足するか否かを判定することと,前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記慣性航法用センサを起動状態(ON)とし,前記第1低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記慣性航法用センサを停止状態(OFF)とする制御を行うことと,前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合に,前記第1低レベル条件よりもレベルの低い第2低レベル条件を前記指標値が満足するか否かを判定することと,前記第2低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記第2測位モードによる測位を行い,前記第2低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記第1測位モードによる測位を行い, 前記慣性航法用センサは,回転を検出するジャイロセンサ及び移動状態を検出する加速度センサであり, 前記第1低レベル条件は,例えば(1)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の天空配置を表す指標値であるPDOP(Position Dilution of Precision)値が“3”を超えている,(2)GPS受信部20が測位したGPS測位位置の標準偏差(以下,「位置σ値」と称す。)が“10m”を超えている,(3)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の個数(以下,「測位使用衛星数」と称す。)が“5個”未満である,(4)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星信号の信号強度の平均値(以下,「信号強度平均値」と称す。)が“-135dBm”未満である,のうちの少なくとも1つに基づいて定められた条件である 測位方法。」(以下,「引用発明」という。) イ 引用例2の記載事項,技術事項 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である,特開2010-151459号公報(発明の名称:位置算出方法及び位置算出装置,出願人:セイコーエプソン株式会社,公開日:平成22年7月8日,以下,「引用例2」という。)には,次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。なお,下線は,当審が付与した。 (a) 「【0040】 センサー部90は,移動体の移動状態を検出するための各種センサーで構成されており,例えば,加速度センサー91と,ジャイロセンサー93と,方位センサー95とを備えている。ホストCPU40は,センサー部90の検出結果を用いて所定の慣性航法演算を行って慣性航法演算位置を算出する。」 (b) 「【0058】 次に,図6を参照して,サンプリング時間間隔の違いによる位置算出の正確性について説明する。図6において,上段はサンプリング時間間隔を長く設定した場合の出力位置の時間変化を示しており,下段はサンプリング時間間隔を短く設定した場合の出力位置の時間変化を示している。また,実線は移動体の真の軌跡,点線矢印は移動体の移動ベクトル,実線矢印は合成移動ベクトル,白丸は慣性航法演算により求めた慣性航法演算位置,×印はGPS衛星信号に基づいて算出したGPS算出位置,黒丸は出力位置をそれぞれ示している。 【0059】 ホストCPU40は,センサー部90により検出がなされる毎に移動体の移動速度及び方位を含む移動ベクトルを算出する。そして,位置の出力タイミング(本実施形態では1秒間隔として説明する。)において,過去1秒間に算出された移動ベクトルを合成して合成移動ベクトルを算出し,算出した合成移動ベクトルを前回の出力位置に加算することで,慣性航法演算位置を算出する。そして,算出した慣性航法演算位置とGPS算出位置とを合成して,最終的な出力位置を決定する。」 (c) 「【0068】 乖離衛星数1135は,受信周波数の乖離又はコード位相の乖離の条件を満たすGPS衛星の数である。移動状況/受信環境1137は,移動体の現在の移動状況又はGPS衛星信号の受信環境を示している。受信周波数の乖離衛星数1135が多いほど,移動体は急加速状態又は旋回状態にある可能性が高いと判定する。また,コード位相の乖離衛星数1135が多いほど,GPS衛星信号の受信環境は悪いと判定する。 【0069】 サンプリング時間間隔1139は,当該移動状況/受信環境1137において設定するサンプリング時間間隔であり,移動体が急加速状態又は旋回状態にある可能性が高いほど,短い時間間隔が設定されている。また,GPS衛星信号の受信環境が悪いほど,短い時間間隔が設定されている。 【0070】 例えば,受信周波数の乖離衛星数が「1?3個」である場合は,移動体の移動状況は「急加速状態又は旋回状態の可能性低」と判定され,サンプリング時間間隔は「500ミリ秒」に設定される。また,受信周波数の乖離衛星数が「6個以上」である場合は,移動体の移動状況は「急加速状態又は旋回状態の可能性高」と判定され,サンプリング時間間隔は「100ミリ秒」に設定される。 【0071】 また,コード位相の乖離衛星数が「0個」である場合は,GPS衛星信号の受信環境は「非常に良い」と判定され,サンプリング時間間隔は「∞(センサーOFF)」に設定される。また,コード位相の乖離衛星数が「3?5個」である場合は,GPS衛星信号の受信環境は「悪い」と判定され,サンプリング時間間隔は「200ミリ秒」に設定される。 【0072】 尚,受信周波数に基づいて判定したサンプリング時間間隔と,コード位相に基づいて判定したサンプリング時間間隔とが異なる場合は,短い方のサンプリング時間間隔を選択・設定することにすればよい。」 (d) 「【0112】 GPS衛星信号の受信状況が良好である場合は,GPS算出位置は正確性の高い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置はそれほど高い正確性が要求されない。そのため,この場合は,センサー部90の間欠動作周期を長く設定する。一方,GPS衛星信号の受信状況が良好ではない場合は,GPS算出位置は正確性の低い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置に高い正確性が要求される。そのため,この場合は,センサー部90の間欠動作周期を短く設定する。これにより,位置算出の正確性とセンサー部の消費電力とのバランスを考慮した適切な位置算出を実現できる。」 以上の記載から,引用例2には,以下の技術事項が記載されていると認められる。 「移動体の移動状態を検出するための各種センサー,例えば,加速度センサー91と,ジャイロセンサー93と,方位センサー95とを備えているセンサー部の検出結果を用いて所定の慣性航法演算を行って慣性航法演算位置を算出し, 算出した慣性航法演算位置とGPS算出位置とを合成して,最終的な出力位置を決定する際に, GPS衛星信号の受信状況が良好である場合は,GPS算出位置は正確性の高い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置はそれほど高い正確性が要求されないから,この場合は,センサー部の間欠動作周期を長く設定し, GPS衛星信号の受信環境は「非常に良い」と判定される場合は,サンプリング時間間隔は「∞(センサーOFF)」に設定し, GPS衛星信号の受信状況が良好ではない場合は,GPS算出位置は正確性の低い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置に高い正確性が要求されるから,この場合は,センサー部の間欠動作周期を短く設定する。」 (3)対比 ア 本件補正発明と引用発明とを,主たる構成要件毎に順次対比する。 (a) 引用発明における「移動体」は,本件補正発明の「電子装置」に相当する。そして,引用発明の「移動体に搭載されて,測位用衛星から受信した測位用信号に基づく所定の測位演算を行って現在位置を測位する第1測位モードと,所定の慣性航法用センサを用いた所定の慣性航法演算処理を行って現在位置を測位する第2測位モードとを有する測位装置が行う測位方法」は,本件補正発明の「衛星航法装置及び慣性航法装置を含む電子装置の位置測位方法」に相当する。 (b) 引用発明の「測位用衛星から受信した測位用信号に基づく所定の測位演算を行って現在位置を測位する」ことは,本件補正発明の「前記衛星航法装置を通じて衛星信号を受信するステップと,前記衛星信号に基づいて前記電子装置の位置を決定するステップ」に相当する。 (c) 引用発明において,「前記測位用信号の受信状況を示す指標値が,予め定められた第1低レベル条件を満足するか否かを判定すること」において,「前記第1低レベル条件は,例えば(1)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の天空配置を表す指標値であるPDOP(Position Dilution of Precision)値が“3”を超えている,(2)GPS受信部20が測位したGPS測位位置の標準偏差(以下,「位置σ値」と称す。)が“10m”を超えている,(3)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星の個数(以下,「測位使用衛星数」と称す。)が“5個”未満である,(4)GPS受信部20が測位に用いたGPS衛星信号の信号強度の平均値(以下,「信号強度平均値」と称す。)が“-135dBm”未満である,のうちの少なくとも1つに基づいて定められた条件である」。 ここで,(1),(3)及び(4)の条件は,衛星信号(測位用信号)に含まれる衛星情報に関する条件といえ,(2)の「GPS受信部20が測位したGPS測位位置の標準偏差(以下,「位置σ値」と称す。)が“10m”を超えている」との条件は,移動体の位置に基づく位置情報に関する条件といえる。また,「測位用信号の受信状況を示す指標値」は,受信状況の良否がGPS算出位置の正確性に影響することを踏まえると,移動体の位置情報に対する信頼性を表す指標であるといえる。 よって,引用発明の「前記測位用信号の受信状況を示す指標値が,予め定められた第1低レベル条件を満足するか否かを判定すること」は,本件補正発明の「前記衛星信号に含まれる衛星情報及び決定された前記電子装置の位置に基づく位置情報の中の少なくとも一つ以上を利用して,前記衛星航法装置が提供する前記電子装置の位置情報に対する信頼性を決定するステップ」に相当するといえる。 (d) 以上のことを踏まえると,引用発明の「前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記慣性航法用センサを起動状態(ON)とし,前記第1低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記慣性航法用センサを停止状態(OFF)とする制御を行うこと」は,本件補正発明の「前記電子装置の位置情報に対する信頼性を利用して,前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップ」に相当する。 (e) 引用発明は,慣性航法用センサが起動状態(ON)で,測位用信号の受信状況を示す指標値が第2低レベル条件を満足すると判定された場合に「第2測位モードによる測位を行い」つまり「所定の慣性航法用センサを用いた所定の慣性航法演算処理を行って現在位置を測位」し,慣性航法用センサが停止状態(OFF)では,「所定の慣性航法用センサを用いた所定の慣性航法演算処理を行って現在位置を測位」することは行わないものである。 よって,引用発明の「第2測位モードによる測位を行」う制御は,本件補正発明の「前記決定された慣性航法装置の動作レベルに応じて前記慣性航法装置を作動させて前記電子装置の位置を補正するステップ」に相当する。 (f) 引用発明において,「前記慣性航法用センサは,回転を検出するジャイロセンサ及び移動状態を検出する加速度センサであり,」前記慣性航法用センサが起動状態(ON)と停止状態(OFF)があることと,本件補正発明の「前記慣性航法装置の動作レベルは,前記慣性航法装置内の複数のセンサーのオン又はオフ状態,及び該複数のセンサーのサンプリング周期によって複数の動作レベルに区分され」ていることは,共に,「前記慣性航法装置の動作レベルは,前記慣性航法装置内の複数のセンサーのオン又はオフ状態によって複数の動作レベルに区分され」ている点で共通する。 (g) 引用発明において,「前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記慣性航法用センサを起動状態(ON)とし,前記第1低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記慣性航法用センサを停止状態(OFF)とする制御を行うこと」は,本件補正発明の「前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップ」であり,「前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか,」「前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,」に対応するものであり,本件補正発明の「前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは,・・・の内の少なくとも1つである」から,5つある決定のうち一つでも該当すれば,本件補正発明の「決定するステップ」に相当するといえる。 してみると,引用発明の「前記第1低レベル条件を満足すると判定された場合には,前記慣性航法用センサを起動状態(ON)とし,前記第1低レベル条件を満足しないと判定された場合には,前記慣性航法用センサを停止状態(OFF)とする制御を行うこと」は,本件補正発明の5つの決定のうちの2つの決定に該当するものであり,「前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の停止及び移動の可否を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転したか否かを判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転角度を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,及び,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,の内の少なくとも1つである」ことに相当する。 イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「衛星航法装置及び慣性航法装置を含む電子装置の位置測位方法であって, 前記衛星航法装置を通じて衛星信号を受信するステップと, 前記衛星信号に基づいて前記電子装置の位置を決定するステップと, 前記衛星信号に含まれる衛星情報及び決定された前記電子装置の位置に基づく位置情報の中の少なくとも一つ以上を利用して,前記衛星航法装置が提供する前記電子装置の位置情報に対する信頼性を決定するステップと, 前記電子装置の位置情報に対する信頼性を利用して,前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップと, 前記決定された慣性航法装置の動作レベルに応じて前記慣性航法装置を作動させて前記電子装置の位置を補正するステップと,を有し, 前記慣性航法装置の動作レベルは,前記慣性航法装置内の複数のセンサーのオン又はオフ状態によって複数の動作レベルに区分され, 前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは, 前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の停止及び移動の可否を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転したか否かを判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか, 前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転角度を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,及び, 前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,の内の少なくとも1つである,ことを特徴とする位置測位方法。」 (相違点) 慣性航法装置の複数の動作レベルの区分が,本件補正発明は,複数のセンサーのオン又はオフ状態,及び該複数のセンサーのサンプリング周期であるのに対し,引用発明は,複数の慣性航法用センサを起動状態(ON)及び停止状態(OFF)とする区分はあるものの,該複数のセンサーのサンプリング周期による区分がない点。 (4)判断 以下,相違点について検討する。 引用例1に記載の技術と,測位用衛星から受信した測位用信号に基づく測位と慣性航法用センサを用いた測位をする際に衛星信号の受信状況に応じて慣性航法用センサの動作を設定することに関する技術分野で共通する引用例2には,「GPS衛星信号の受信状況が良好である場合は,GPS算出位置は正確性の高い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置はそれほど高い正確性が要求されないから,この場合は,センサー部の間欠動作周期を長く設定し,GPS衛星信号の受信環境は「非常に良い」と判定される場合は,サンプリング時間間隔は「∞(センサーOFF)」に設定し,GPS衛星信号の受信状況が良好ではない場合は,GPS算出位置は正確性の低い位置である可能性が高いため,慣性航法演算位置に高い正確性が要求されるから,この場合は,センサー部の間欠動作周期を短く設定する」との技術事項が記載されている。 してみると,引用発明に技術分野の共通する引用例2に記載された技術事項を適用し,複数の慣性航法用センサを起動状態(ON)及び停止状態(OFF)とする区分に加え,衛星信号の受信状況に応じてセンサー部の間欠動作周期を設定するようにし,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 上記相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明,及び引用例2に記載された技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 よって,本件補正発明は,引用発明,及び引用例2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4 補正の適否についてのまとめ 上記3のとおり,本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし18に係る発明は,補正1の特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,「第2 1 (2)」に記載したとおりである。 2 引用例記載の事項,引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項,引用発明,技術事項は,上記「第2 3(2)」に記載したとおりである。 3 対比,判断 本願発明は,本件補正発明の「慣性航法装置の動作レベルを決定するステップ」について,「前記慣性航法装置の動作レベルを決定するステップは,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーがオフ(OFF)されるように前記慣性航法装置動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の停止及び移動の可否を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転したか否かを判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,前記慣性航法装置に関連したセンサーの内の回転角度を判定するセンサーが動作されるように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,及び,前記慣性航法装置に関連した全てのセンサーが動作するように前記慣性航法装置の動作レベルを決定するか,の内の少なくとも1つである」との限定を削除したものである。(上記「第2 2」参照。) そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,上記「第2 3 (3),(4)」に記載したとおり,引用発明,及び引用例2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明,及び引用例2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-09 |
結審通知日 | 2016-02-16 |
審決日 | 2016-02-29 |
出願番号 | 特願2013-28708(P2013-28708) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01S)
P 1 8・ 121- Z (G01S) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 須中 栄治、大和田 有軌、吉田 久 |
特許庁審判長 |
中塚 直樹 |
特許庁審判官 |
堀 圭史 森 竜介 |
発明の名称 | 位置測位方法及び装置並びに電子装置 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |