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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G08G
管理番号 1317022
異議申立番号 異議2016-700430  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-16 
確定日 2016-08-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5813298号発明「ドライブレコーダ、及び、画像記憶方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5813298号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5813298号(請求項の数[7]、以下、「本件特許」という。)は、平成22年7月22日に出願した特願2010-164405号に係るものであって、その請求項1-7に係る発明について、平成27年10月2日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5813298号の請求項1-7に係る発明は、下記の特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、本件請求項1-7に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」-「本件特許発明7」という。)
「【請求項1】
車両の走行履歴を記録するドライブレコーダであって、
前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する入力手段と、
前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する認識手段と、
前記車両の特定の挙動の発生を検知する検知手段、
過去に取得された前記走行履歴を記憶する揮発性メモリと、
前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段と、
を備え、
前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録することを特徴とするドライブレコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載のドライブレコーダにおいて、
前記対象物は、前記車両が徐行すべきことを示す標識、及び、前記車両が停止すべきことを示す標識のいずれかを含むことを特徴とするドライブレコーダ。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れかに記載のドライブレコーダにおいて、
前記対象物は、路面標識を含むことを特徴とするドライブレコーダ。
【請求項4】
請求項1から請求項3何れかに記載のドライブレコーダにおいて、
前記入力手段は、前記撮像部が所定周期で取得する前記画像を入力するものであり、
前記走行履歴は、所定周期で取得される前記画像を含むことを特徴とするドライブレコーダ。
【請求項5】
車両の走行履歴を記録するドライブレコーダであって、
前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する入力手段と、
前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識し、前記画像に含まれる路面の走行レーンを区画する区画線を認識する認識手段と、
前記区画線を前記車両が逸脱するか否かを判定する判定手段と、
前記車両の特定の挙動の発生を検知する検知手段、
過去に取得された前記走行履歴を記憶する揮発性メモリと、
前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段と、
を備え、
前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録することを特徴とするドライブレコーダ。
【請求項6】
車両の走行履歴を記録する画像記録方法であって、
(a)前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する工程と、
(b)前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する工程と、
(c)前記車両の特定の挙動の発生を検知する工程と、
(d)過去に取得された前記走行履歴を揮発性メモリへ記憶する工程と、
(e)前記走行履歴を前記(b)工程の認識結果と関連付けて記録する工程と、
を備え、
前記(e)工程は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録することを特徴とする画像記録方法。
【請求項7】
車両の走行履歴を記録する画像記録方法であって、
(a)前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する工程と、
(b)前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識し、前記画像に含まれる路面の走行レーンを区画する区画線を認識する工程と、
(c)前記区画線を前記車両が逸脱するか否かを判定する工程と、
(d)前記車両の特定の挙動の発生を検知する工程と、
(e)過去に取得された前記走行履歴を揮発性メモリへ記憶する工程と、
(f)前記走行履歴を前記(b)工程の認識結果と関連付けて記録する工程と、
を備え、
前記(e)工程は、前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録することを特徴とする画像記録方法。」

3.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、特開2003-63459号公報(以下「引用文献1」という。)、特開2010-86362号公報(以下「引用文献2」という。)、特開2009-301267号公報(以下「引用文献3」という。)、特開2009-181420号公報(以下「引用文献4」という。)を提出し、以下のように主張している。

理由ア:特許法第29条第2項
・請求項1-7について
本件特許発明1-7は、引用文献1-4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由イ:特許法第36条第6項第1号
・請求項5、7について
請求項5、7に記載の「前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録すること」は発明の詳細な説明に記載したものでない。

4.各引用文献の記載(下線部は当審付加)
(1)引用文献1の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、「車両用ドライブレコーダ装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両走行状態の記録から事故発生原因を究明する装置において、特に車両周辺環境を記録することにより事故発生時の状況を明確にする車両用ドライブレコーダ装置に関する。」

(イ)「【0007】また、本発明の車両用ドライブレコーダ装置は、信号機または道路標示または道路標識の標準画像を格納したメモリと、前記撮像手段により撮像した信号機または道路標示または道路標識の画像と前記メモリ内の標準画像とのパターンマッチング処理を行う画像処理手段と、車両の衝突を検出する衝撃検知センサとを有し、前記第1の記録保存手段への記録情報の転送を前記画像処理手段からの画像認識情報により行い、前記第2の記録保存手段への記録情報の転送を前記衝撃検知センサからの衝突検出信号により行うことを特徴とするものである。この構成により、道路標識等を利用して事故が発生しやすい特定地点を想定し、その特定地点における道路標識等の画像情報をもとに記録情報を保存することにより、事故発生以前の周辺情報を長時間記録保存可能であり、事故発生以前の周辺状況を解析し、事故発生時原因の解明に役立てることができる。また、衝突度合いが大きく記録保存動作しない状況においても、予め事故発生前の情報を記録保存しておくことにより、事故発生原因解明の手掛かりを得ることができる。」

(ウ)「【0010】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態1における車両用ドライブレコーダ装置の構成を示している。図1において、制御部10は、装置全体を制御するものであり、装置の各部が接続されている。撮像部11は、走行時の車両周辺環境等の画像を撮像するビデオカメラである。現在位置検出部12は、車両の現在位置を検出するものであり、例えば本装置に接続されたナビゲーション装置からの現在位置情報を利用する。衝撃検知センサ13は、車両の衝突を検知するものであり、加速度センサが用いられる。車両センサ14は、車速・加速度・ブレーキ圧・ハンドル舵角等の車両走行状態を検知するセンサの集合である。リングバッファ構造の記録部15は、撮像部11からの撮像画像と車両センサ14からの車両走行状態を連続的に記録する。第1記録保存部16及び第2記録保存部17は、制御部10の制御の基に記録を所定のタイミングで停止して記録情報を保存する。
【0011】次に本実施の形態1の動作について図2を用いて説明する。まず、エンジン始動によりドライブレコーダ装置およびナビゲーション装置を起動し、ステップS20でエンジン始動から所定時間経過後、制御部10は、記録部15に対し撮像部11で撮像された画像及び車両センサ14で検出された信号の記録を開始させる。なお、図示していないが手動スイッチにより記録を開始するようにしても良い。次にステップS21で現在位置検出部12によりナビゲーション装置から現在位置情報の取り込みを開始する。そしてステップS22で上記現在位置情報を基に車両が特定の場所に接近しているかどうかを検出する。上記特定の場所とは、事故が起こりやすい場所を予め想定し、例えば出会い頭事故が発生しやすい交差点を選択して特定地点として設定しておく。そしてステップS23で特定地点として設定した交差点に接近したことを示す信号を現在位置検出部12から受け取ると、制御部10は記録部15の記録を停止し、ステップS24で上記記録情報を第1記録保存部16へ転送した後、ステップS25で上記画像及び車両センサ情報の記録を再開する。次にステップS26で、記録再開後所定時間t0内に衝撃検知センサ13からの信号を入力したかどうか判別する。そして上記信号を入力した場合は事故が発生したと判断し、ステップS27で信号入力から所定時間t1経過後、記録部15の記録を停止し、ステップS28で上記記録情報を第2記録保存部17に保存する。一方、衝撃検知センサ13の信号が所定時間t0内に受信されなければ、事故が発生しなかったと判断し、ステップS29で第1記録保存部16の情報をリセットし、ステップS20に戻る。したがって、事故が発生しない限り、上記のステップが繰り返されることになる。衝撃検知センサ13の信号を検出する時間t0の設定は、事故発生の有無を判定するまでの時間であり、任意に設定した時間でもよく、例えば車速が交差点通過後所定値以上に達した時としても良い。上記動作により、交差点進入以前の車両周辺環境情報が第1記録保存部16に保存され、それ以降の事故発生前後の車両周辺環境情報が第2記録保存部17に記録される。
【0012】このように、本実施の形態1によれば、車両の現在位置情報を利用して事故が発生しやすい特定地点を想定し、その特定地点検出情報をもとに記録情報を保存することにより、事故発生以前の周辺情報を長時間記録保存可能であり、事故発生以前の周辺状況を解析し、事故発生時原因の解明に役立てることができる。また、衝突度合いが大きく記録保存動作しない状況においても、予め事故発生前の情報を記録保存しておくことにより、事故発生原因解明の手掛かりを得ることができる。
【0013】(実施の形態2)次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2は、上記実施の形態1における記録保存のタイミングを、車両の現在位置情報によらずに、信号機や道路標識、あるいは路面上の道路標示の検出情報を用いて行うものである。図3は本実施の形態2における車両用ドライブレコーダ装置のブロック構成を示し、上記実施の形態1の構成に、現在位置検出部12を削除し、画像認識を行うための画像処理部31とメモリ32と追加したものであり、信号機や道路標示・道路標識の標準画像をメモリ32に収納し、画像処理部31が、撮像部11で撮像した認識対象の画像と上記標準画像のパターンマッチング処理により画像認識を行うことで、制御部30が交差点等の事故の発生しやすい場所に接近したか否かを判定し、そうである場合には、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行うものである。また記録保存の条件を交差点に限定せず、例えば事故発生率の大きい道路の速度制限標識あるいは道路標示を画像認識して記録保存することにより、事故発生時車両が制限速度を守っていたかどうか検証することができる。なお、上記速度制限情報等は、例えばインフラ情報受信手段を接続し、その受信情報にもとづき記録保存動作するようにしても良い。
【0014】このように、本実施の形態2によれば、道路標識等を利用して事故が発生しやすい特定地点を想定し、その特定地点における道路標識等の画像情報をもとに記録情報を保存することにより、事故発生以前の周辺情報を長時間記録保存可能であり、事故発生以前の周辺状況を解析し、事故発生時原因の解明に役立てることができる。また、衝突度合いが大きく、記録保存動作しない状況においても、予め事故発生前の情報を記録保存しておくことにより、事故発生原因解明の手掛かりを得ることができる。また、実施の形態1のようなナビゲーション装置がなくても実施できるので、装置を小型化することができる。」

上記(ウ)には、「実施の形態1」として「次にステップS21で現在位置検出部12によりナビゲーション装置から現在位置情報の取り込みを開始する。そしてステップS22で上記現在位置情報を基に車両が特定の場所に接近しているかどうかを検出する。上記特定の場所とは、事故が起こりやすい場所を予め想定し、例えば出会い頭事故が発生しやすい交差点を選択して特定地点として設定しておく。そしてステップS23で特定地点として設定した交差点に接近したことを示す信号を現在位置検出部12から受け取ると、制御部10は記録部15の記録を停止し、ステップS24で上記記録情報を第1記録保存部16へ転送した後」とあるが、この記載は、上記(ウ)の「(実施の形態2)次に、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態2は、上記実施の形態1における記録保存のタイミングを、車両の現在位置情報によらずに、信号機や道路標識、あるいは路面上の道路標示の検出情報を用いて行うものである。図3は本実施の形態2における車両用ドライブレコーダ装置のブロック構成を示し、上記実施の形態1の構成に、現在位置検出部12を削除し、画像認識を行うための画像処理部31とメモリ32と追加したものであり、信号機や道路標示・道路標識の標準画像をメモリ32に収納し、画像処理部31が、撮像部11で撮像した認識対象の画像と上記標準画像のパターンマッチング処理により画像認識を行うことで、制御部30が交差点等の事故の発生しやすい場所に接近したか否かを判定し、そうである場合には、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行うものである。」と示されるように、「実施の形態2」の場合には、上記(イ)の記載、また、図1-3も併せて参照すると、「信号機や道路標示・道路標識の標準画像をメモリ32に収納し、画像処理部31が、撮像部11で撮像した認識対象の画像と上記標準画像のパターンマッチング処理により画像認識を行うことで、制御部30が交差点等の事故の発生しやすい場所に接近したか否かを判定し、そうである場合には、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行う」ものといえる。
また、ステップS20、S21、S25?26の動作は、「実施の形態2」においても同様といえる。

上記(ア)?(ウ)の記載、及び図面を参照すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認める。

「車両用ドライブレコーダ装置であって、
撮像部11は、走行時の車両周辺環境等の画像を撮像するビデオカメラであり、
リングバッファ構造の記録部15は、撮像部11からの撮像画像と車両センサ14からの車両走行状態を連続的に記録し、
車両の衝突を検出する衝撃検知センサを有し、
ステップS20で制御部は、記録部15に対し撮像部11で撮像された画像及び車両センサ14で検出された信号の記録を開始させ、
ステップS21で現在位置検出部12によりナビゲーション装置から現在位置情報の取り込みを開始し、
信号機や道路標示・道路標識の標準画像をメモリ32に収納し、画像処理部31が、撮像部11で撮像した認識対象の画像と上記標準画像のパターンマッチング処理により画像認識を行うことで、制御部30が交差点等の事故の発生しやすい場所に接近したか否かを判定し、そうである場合には、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行い、
ステップS25で上記画像及び車両センサ情報の記録を再開し、
ステップS26で、記録再開後所定時間t0内に衝撃検知センサ13からの信号を入力したかどうか判別し、上記信号を入力した場合は事故が発生したと判断して、ステップS27で信号入力から所定時間t1経過後、記録部15の記録を停止し、ステップS28で上記記録情報を第2記録保存部17に保存する、
一方、衝撃検知センサ13の信号が所定時間t0内に受信されなければ、事故が発生しなかったと判断し、ステップS29で第1記録保存部16の情報をリセットし、ステップS20に戻り、事故が発生しない限り、上記のステップが繰り返される車両用ドライブレコーダ装置。」

(2)引用文献2の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、「ドライブレコーダ」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0017】
本発明のドライブレコーダによれば、実際に発生した事故だけでなく、事故につながるようなヒヤリハットの画像等の情報も記録し事後の解析が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態のドライブレコーダの基本構成を概略的に示すブロック図である。
【0019】
図1のドライブレコーダ10は、ステレオカメラ11と、ステレオカメラ11からステレオ画像を取得するステレオ画像取得部12と、車両状態情報を取得する車両状態情報取得部14と、ステレオ画像取得部12で取得したステレオ画像と車両状態情報取得部14で取得した車両状態情報とから記録情報を生成する記録情報生成部13と、記録情報生成部13で生成されたステレオ画像と車両状態情報との記録情報を記録する記録部15と、を備え、自動車等の車両に搭載される。
【0020】
ステレオカメラ11は、所定間隔で配置された少なくとも一対のカメラからなり、各カメラはCCDやCMOS等からなる撮像素子(イメージセンサ)を備え、撮像面に結像した被写体画像の電気信号を出力する。
【0021】
車両状態情報取得部14は、車両に搭載された速度センサ及び加速度センサから車両の速度及び加速度の各情報を得る。記録部15は、ハードディスクや光記録媒体や磁気記録媒体や光磁気記録媒体等を用いた情報記録装置から構成可能である。
【0022】
図1のドライブレコーダ10によれば、ステレオ画像と車両使用中における車両の速度及び加速度の車両状態情報とを記録部15に記録することができ、記録後に記録情報(ステレオ画像、車両状態情報)を記録部15から得て事故やヒヤリハットの解析を行うことができる。
【0023】
図2は本実施形態による第1のドライブレコーダを概略的に示すブロック図である。図2では、図1の各部と同一の構成部分には同一符号を付け、その説明を省略する。
【0024】
図2のドライブレコーダ20は、記録情報生成部13として、ステレオ画像取得部12で取得したステレオ画像を一時的に記録する一時保持部21と、ステレオ画像に基づいて道路上の障害物を認識する画像認識部22と、画像認識部22による障害物等の認識情報を記録情報に付加する情報付加部23と、を有する。」

(イ)「【0047】
図5,図6を参照して第1の動作(ステップS01?S07)を説明する。自動車に搭載されたドライブレコーダ50のステレオカメラ11により前方の視界からステレオ画像を取得し(S01)、そのステレオ画像を一時保持部21に書き込む(S02)。
【0048】
次に、画像認識部22でステレオ画像に基づいてステレオマッチング処理により被写体の三次元情報を取得し(S03)、その三次元情報に基づいて画像認識処理を行うことで、人、車、自転車、側壁等の障害物を認識する(S04)。このとき、障害物までの距離情報(例えば、障害物まで近距離、中間距離、遠距離の何れであるか)もあわせて取得する。
【0049】
次に、記録判定部24で障害物が例えば人で近距離の場合は要記録と判定し、かつ、分類判定部25で「人近距離」の分類情報を生成する(S05)。
【0050】
また、記録判定部24で障害物が例えば自転車で近距離の場合は要記録と判定し、かつ、分類判定部25で「自転車近距離」の分類情報を生成する(S06)。
【0051】
次に、要記録と判定されたステレオ画像について、その前後のステレオ画像とともに、車両状態情報取得部14で取得した車両の加速度・速度の車両状態情報と上記分類情報とを情報付加部23で付加して記録部15に記録する(S07)。

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献2には、以下の事項が開示されているものと認める。

「ドライブレコーダ20は、記録情報生成部13として、ステレオ画像取得部12で取得したステレオ画像を一時的に記録する一時保持部21と、ステレオ画像に基づいて道路上の障害物を認識する画像認識部22と、画像認識部22による障害物等の認識情報を記録情報に付加する情報付加部23と、を有し、
記録判定部24で障害物が例えば人で近距離の場合は要記録と判定し、かつ、分類判定部25で「人近距離」の分類情報を生成し、
記録判定部24で障害物が例えば自転車で近距離の場合は要記録と判定し、かつ、分類判定部25で「自転車近距離」の分類情報を生成し、
要記録と判定されたステレオ画像について、その前後のステレオ画像とともに、車両状態情報取得部14で取得した車両の加速度・速度の車両状態情報と上記分類情報とを情報付加部23で付加して記録部15に記録するドライブレコーダ20。」

(3)引用文献3の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献3には、「運転支援装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0048】 ・・・・ 図5は、住宅地の比較的狭い道路の交差点の一例を示す図である。図5に示すように、住宅地等の交差点では、樹木等により見通しが悪い場合があり、そのため標識を見落とし
たり、走り慣れた道で車が少ないので危険はないだろうと考えて一時停止を怠ったりする可能性がある。このような場合に、実施の形態の運転支援装置11による安全運転支援について、図6を参照して説明する。
【0049】
運転支援装置11は、カメラ18で撮影した前方の交差点に設置されている標識、あるいは路面の標示に対して画像認識処理を実行し、認識結果のデータと撮影地点を示すGPSデータをデータベース15に予め格納しておく。
【0050】
データベース15には、前述したように交差点に設置されている交通標識の認識結果である標識認識情報と路面の標示の認識結果である標示認識情報(標識・標示データ)が、それぞれの撮影地点のGPSデータと対応付けて記憶されている。また、過去に急ブレーキ等の操作が行われたことを示す危険度判定情報やヒヤリとした状況、あるいはハットした状況を示すヒヤリハット情報からリスクポイントが設定される。データベース15のこれらの情報をもとに後述する標識マップが作成される。
【0051】
車両が交差点に近づいたときに、夜間、あるいは雨天などのために標識が認識できない場合には、運転支援装置11は、GPS装置19からGPSデータを取得し、そのGPSデータをキーにして対応する標識認識情報(または標示認識情報)を検索する。そして、車速、ブレーキ操作状態及びアクセル操作状態等を示す車両信号と標識の種類から、適切な減速操作がなされているか否かを判断する。例えば、前方の交差点の標識が「一時停止」あるいは「横断歩道」で、適切な減速操作がされていない場合には、運転者の注意を強く喚起するための警告を行う。
【0052】
図7は、認識対象の標識の一例を示す図である。交差点に設置されている「徐行」、「止まれ」、「横断歩道」等の標識を画像認識処理により認識し、標識、標示の週別(審決注:「種別」の誤記)が「一時停止」、「横断歩道」等としてデータベース15に記録される。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献3には、以下の事項が開示されているものと認める。

「カメラで撮影した前方の交差点に設置されている標識、あるいは路面の標示に対して画像認識処理を実行し、認識結果のデータと撮影地点を示すGPSデータをデータベースに予め格納する運転支援装置であって、
交差点に設置されている「徐行」、「止まれ」、「横断歩道」等の標識を画像認識処理により認識し、標識、標示の種別が「一時停止」、「横断歩道」等としてデータベースに記録される運転支援装置。」

(4)引用文献4の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である引用文献4には、「車両用周辺状況記録装置」として、図面と共に以下の記載がある。

(ア)「【0020】 ・・・ 以下、詳細に、この車両用周辺状況記録装置1Aについて説明する。
【0021】
カメラ10は、被写体を短い周期で連続的に撮像し2次元の画像情報として出力することが可能な撮像装置である。このカメラ10は、自己の車両の前方窓ガラスの近傍に配置され、車両の走行方向の前方(進行方向)、及びその周辺としてこの進行方向の側方を含む所定画角の範囲を、被写体として撮像できるように自己の車両内に固定されている。このため、この車両を運転する運転者の目から見える範囲と同等の車外の状況が、このカメラ10により撮像される。
【0022】
QOD制御装置20は、運転者の運転の状況を検出するための機能を有しており、図1に示すように前方車両検出部21と、白線検出部(区切線検出部)22と、走行速度検出部23と、内部記憶装置24と、記憶制御部(画像記録制御部)25と、メモリーカード26と、運転状態評価部(運転状況監視部、トリガー信号生成部)27と、時計回路28と、を備えて構成されている。
なお、QOD制御装置20における主要な制御要素(制御機能)は、図示しないマイクロコンピュータのハードウェアとこのマイクロコンピュータが実行する予め用意されたプログラムに基づいて実施される。
【0023】
前方車両検出部21は、カメラ10により出力された画像情報を処理して、この画像情報に含まれる、自己の車両の走行方向の前方に存在する他の車両(前方車両)を検出する。
【0024】
白線検出部22は、カメラ10により出力された画像情報を処理して、この画像情報に含まれる、自己の車両の走行中の自車線の両側に位置する一対の白線(区切線:車線の区切りを表す表示線)を検出する。
【0025】
走行速度検出部23は、自己の車両に搭載されている車速センサ11から出力される車速信号(車両が一定量移動する毎にパルスが現れる信号)SG11に基づいて自己の車両の走行速度を検出する。
【0026】
内部記憶装置24及びメモリーカード26は、カメラ10から出力される画像情報等を記憶保持することができる。
なお、メモリーカード26はQOD制御装置20に対して着脱自在に構成されている。このため、収集されたデータを、メモリーカード26を介して車両の外に持ち運ぶことができ、これにより、管理者等は事務所内等でメモリーカード26からデータを読み出して運転状況の分析を行うことができる。
【0027】
記憶制御部25は、内部記憶装置24及びメモリーカード26に対する画像情報の記憶を運転状態評価部27からの指示に基づき制御する。
【0028】
時計回路28は、現在時刻及び日付の情報を出力したり、タイマーの機能を提供したりする。
【0029】
そして、運転状態評価部27は、前方車両検出部21が検出した前方車両により、この前方車両の位置を認識して前方車両と自己の車両との車間距離状況を検出したり、或いは、白線検出部22が検出した一対の白線により、この一対の白線と自己の車両との相対的な位置関係を認識し、そしてこの相対的な位置関係の変化に基づいて、蛇行や車線逸脱等の蛇行状況を検出したり、或いは、走行速度検出部23が検出した走行速度に基づいて速度状況を検出したりして、自己の車両の運転に係る状況(運転状況情報)の把握を行う。
また、運転状態評価部27は、他車両に自己の車両の車線変更等を知らせるためのウインカースイッチ12が出力する信号(左右のウインカーのランプ点滅のオンオフを表す信号)SG12、SG13を監視することにより、運転者の自己意志に従って車線変更したのか、それとも居眠り運転等の無意識のうちに車線を逸脱したのかを区別する。
【0030】
また、運転状態評価部27が検出した、前方車両との走行中の車間距離状況、蛇行状況(車線逸脱も含む)、速度状況は、QOD制御装置20から出力され、これら状況に係る運転状況情報がデジタルタコグラフ30に自動的に記録されることになる。また、運転状態評価部27は、前述の運転状況情報に基づき、居眠り運転等の危険運転状態を検出すると、トリガー信号SG5を出力する。このトリガー信号SG5により、この危険運転状態発生時の画像情報が内部記憶装置24及びメモリーカード26に保存されることになる。また、これに合わせて、この危険運転状態発生時に運転状態評価部27から出力される信号により、デジタルタコグラフ30は、その危険運転状態が発生したことを示す所定のフラグを、収集した情報(後述)に対し時系列で対応した位置に記録する。」

上記の記載、及び図面を参照すると、引用文献4には、以下の事項が開示されているものと認める。

「白線検出部22は、カメラ10により出力された画像情報を処理して、この画像情報に含まれる、自己の車両の走行中の自車線の両側に位置する一対の白線(区切線:車線の区切りを表す表示線)を検出し、運転状態評価部27は、白線検出部22が検出した一対の白線により、この一対の白線と自己の車両との相対的な位置関係を認識し、そしてこの相対的な位置関係の変化に基づいて、蛇行や車線逸脱等の蛇行状況を検出したりして、自己の車両の運転に係る状況(運転状況情報)の把握を行い、この運転状況情報に基づき、居眠り運転等の危険運転状態を検出すると、トリガー信号SG5を出力し、このトリガー信号SG5により、この危険運転状態発生時の画像情報が内部記憶装置24及びメモリーカード26に保存される車両用周辺状況記録装置。」

5.判断
(1)理由ア(特許法第29条第2項)について
ア.本件特許発明1
(ア)本件特許発明1と引用発明との対比
・引用発明の「車両用ドライブレコーダ装置」は、本件特許発明1の「ドライブレコーダ」に相当する。

・引用発明の「走行時の車両周辺環境等の画像を撮像するビデオカメラである」「撮像部11」は、本件特許発明1の「車両に搭載される撮像部」に相当する。

・引用発明の、車両用ドライブレコーダ装置が記録する、「撮像部11からの撮像画像と車両センサ14からの車両走行状態」は、本件特許発明1の「車両の走行履歴」に相当する。
また、引用発明の「撮像部11からの撮像画像と車両センサ14からの車両走行状態を連続的に記録する、リングバッファ構造の記録部15」は、本件特許発明1の「過去に取得された前記走行履歴を記憶する揮発性メモリ」に相当する。

・引用発明の「衝撃検知センサ13」は、車両の衝突を検知するものであるから、本件特許発明1の「前記車両の特定の挙動の発生を検知する検知手段」に相当する。

・引用発明の「第1記録保存部16」及び「第2記録保存部17」と、本件特許発明1の「不揮発性メモリ」とは、「不揮発性の記憶部」である点で共通する。

・引用発明の「信号機や道路標示・道路標識」は、交通規制を行うものであるから、本件特許発明1の「交通規制を示す対象物」に相当する。
そうすると、引用発明の「信号機や道路標示・道路標識の標準画像をメモリ32に収納し」、「撮像部11で撮像した認識対象の画像と上記標準画像のパターンマッチング処理により画像認識を行う」、「画像処理部31」は、撮像部11で撮像して取得した認識対象の画像が入力されることによって、交通規制を示す対象物を認識する手段ということができ、本件特許発明1の「車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する入力手段と、前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する認識手段」に相当する。

・引用発明の「記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行」う「制御部30」と、本件特許発明1の「前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段」とは、「前記走行履歴を記録する手段」である点において共通する。

・引用発明の「ステップS25で上記画像及び車両センサ情報の記録を再開し、ステップS26で、記録再開後所定時間t0内に衝撃検知センサ13からの信号を入力したかどうか判別し、上記信号を入力した場合は事故が発生したと判断して、ステップS27で信号入力から所定時間t1経過後、記録部15の記録を停止し、ステップS28で上記記録情報を第2記録保存部17に保存する」ことと、本件特許発明1の「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」こととは、「特定の挙動が検知された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴を不揮発性の記憶部へ記録する」点において共通する。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「車両の走行履歴を記録するドライブレコーダであって、
前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する入力手段と、
前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する認識手段と、
前記車両の特定の挙動の発生を検知する検知手段、
過去に取得された前記走行履歴を記憶する揮発性メモリと、
前記走行履歴を記録する手段と、
を備え、
特定の挙動が検知された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴を不揮発性の記憶部へ記録するドライブレコーダ。」

そして、以下の点で相違する。
本件特許発明の「記録手段」は、「走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段」であって「前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」動作を行うのに対し、引用発明が、「制御部」を用いて行う記録保存動作は、交差点等の事故の発生しやすい場所に接近したことが認識されると、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送する記録保存動作、及び、当該記録保存動作後に記録部15の記録を再開し、再開後所定時間内の衝突検出信号により、事故が発生したと判断して記録部15の記録情報を第2記録保存部17に保存するという2つの記録保存動作である点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
本件特許発明1は、「前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段、を備え、前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」ことで、「ドライブレコーダにおいて、走行履歴を、画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識した結果と関連付けて記録するため、車両運転後において、記録した走行履歴のなかから、安全運転すべき状況を示す走行履歴を容易に抽出することができ、結果、運転後における、適切な走行履歴に基づく運転の評価、教育、及び、研修などを容易にすることができる。」(段落【0008】参照。)という効果を奏する発明である。
一方、引用発明は、引用文献1記載事項(イ)の「道路標識等を利用して事故が発生しやすい特定地点を想定し、その特定地点における道路標識等の画像情報をもとに記録情報を保存することにより、事故発生以前の周辺情報を長時間記録保存可能であり、事故発生以前の周辺状況を解析し、事故発生時原因の解明に役立てることができる。また、衝突度合いが大きく記録保存動作しない状況においても、予め事故発生前の情報を記録保存しておくことにより、事故発生原因解明の手掛かりを得ることができる。」ものであって、「衝突検出信号」により、記録部15に記録した画像を第2記録保存部17に転送して記録保存動作を行う以前に、「事故の発生しやすい場所に接近した」ことで、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送して記録保存動作を行っておくものであるから、「衝突検出(本件特許発明1の「車両の特定の挙動の発生を検知する」に相当)」された場合に第2記録保存部17に保存される(本件特許発明1の「不揮発性メモリへ記録する」に相当)情報は、記録部15に記録した画像であって、交通規制を示す対象物を認識する認識手段の認識結果ではない。
また、「事故の発生しやすい場所に接近した」ことで、記録部15に記録した画像を第1記録保存部16に転送する記録保存動作は、「衝突検出(本件特許発明1の「車両の特定の挙動の発生を検知する」に相当)」が無くてもなされるものである。
そうすると、「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」という技術が開示されるものでも示唆されるものでもない。
したがって、上記相違点は、引用発明に基づき容易に導くことができたものではない。
また、引用文献2-4にも、「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」という技術が開示されるものでも、示唆されるものでもなく、さらに、引用発明の特徴である「衝突検出信号」が検出される(つまり「事故発生」が検出される)時点以前の記録を、より長く記録することに関連する技術ではないから、引用発明に引用文献2-4に開示された技術を適用しようとする積極的な動機付けも存在しない。
したがって、本件特許発明1は、引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということもできない。

なお、異議申立人は、特許異議申立書において、大要次のように主張している。
「相違点1:『F 記録手段』について、本件特許発明1は『前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する』のに対し、引用発明は『撮影画像(走行履歴に相当)を記録する』点
相違点2:『G 記録手段』について、本件特許発明1は『前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する』のに対し、引用発明は『前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴を不揮発性メモりヘ記録する』点

そこで、相違点について検討する。

相違点1について
引用文献2には、 画像認識部22による障害物等の認識情報を記録情報(例:ステレオ画像情報)に付加する情報付加部23が記載されている。
すなわち、走行履歴と、画像認識部によつて認識された認識結果とを関連付けて記録することが記載されている。なお、引用文献2の記載事項には、『障害物等』を認識することが記載されているが、『障害物等』に代えて本件特許発明1のような『交通規制を示す対象物』を認識することは文献を提示するまでもなく周知である。
そして引用文献2に記載されたものは車載の撮影装置に用いられるものであり、引用発明と技術分野を一にするものであることから、引用文献2の記載事項を引用発明に適用することは、容易に想到し得るものである。

相違点2について
引用文献2には、要記録と判定されたステレオ画像について、その前後のステレオ画像とともに、車両状態情報取得部14で取得した車両の加速度・速度の車両状態情報と上記分類情報とを情報負加部23で付加して記録部15に記録することが記載されている。
すなわち、本件特許発明1のように、条件を満たした場合に、『前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録すること』は記載されている。
そして引用文献2に記載されたものは車載の撮影装置に用いられるものであり、引用発明と技術分野を一にするものであることから、引用文献2の記載事項である『走行履歴と関連付けた認識結果を不揮発性メモリに記憶する』ための条件として、引用発明に記載の『前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合』を用いることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。」(19頁19行?21頁3行)

上記異議申立人の主張は、引用文献2には、「条件を満たした場合に、『前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録すること』は記載されている。」から、引用発明に記載の「衝突検出信号」を条件として、引用文献2に示された技術を用いることは、当業者であれば容易に想到し得るとするものである。
しかし、引用発明は、「衝突検出信号」が検出される(つまり「事故発生」が検出される)時点以前の記録を、より長く記録するという特徴を有するが、「認識結果を不揮発性メモリへ記録する」ことについては何ら示されるものでなく、引用文献2も、引用発明の前記技術的特徴に関連するものではないから、「衝突検出信号」が検出された場合に「認識結果を不揮発性メモリに記憶する」ことは、引用発明及び引用文献2から容易に想到されるものではなく、異議申立人の主張を採用することはできないものである。

イ.本件特許発明2-4
本件特許発明2-4は、本件特許発明1に、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、上記ア.と同様の理由により、上記引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.本件特許発明5
本件特許発明5は、本件特許発明1に「前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識し、前記画像に含まれる路面の走行レーンを区画する区画線を認識する認識手段と、前記区画線を前記車両が逸脱するか否かを判定する判定手段」を有し、「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」ことを付加したものである。
そうすると、本件特許発明5は、本件特許発明1に、さらに構成要件を付加したものに相当するから、上記ア.と同様の理由により、上記引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

エ.本件特許発明6
本件特許発明6「画像記録方法」は、本件特許発明1の「ドライブレコーダ」を、方法のカテゴリで記載したものである。
具体的には、本件特許発明6の「車両の走行履歴を記録する画像記録方法」は、本件特許発明1の「車両の走行履歴を記録するドライブレコーダ」を方法として記載したものであり、
以下、本件特許発明6の、
「(a)前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する工程と、
(b)前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する工程と、
(c)前記車両の特定の挙動の発生を検知する工程と、
(d)過去に取得された前記走行履歴を揮発性メモリへ記憶する工程と、
(e)前記走行履歴を前記(b)工程の認識結果と関連付けて記録する工程と、
を備え、
前記(e)工程は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」は、
本件特許発明1の
「前記車両に搭載される撮像部が取得する画像を入力する入力手段と、
前記画像に含まれる交通規制を示す対象物を認識する認識手段と、
前記車両の特定の挙動の発生を検知する検知手段、
過去に取得された前記走行履歴を記憶する揮発性メモリと、
前記走行履歴を前記認識手段の認識結果と関連付けて記録する記録手段と、
を備え、
前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」
の「入力手段」を「入力する工程」、「認識手段」を「認識する工程」、「検知手段」を「検知する工程」、「記録手段」を「記録する工程」として記載したものである。
そうすると、本件特許発明6は、上記ア.と同様の理由により、上記引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

オ.本件特許発明7
本件特許発明7は、本件特許発明5を方法のカテゴリで記載したものである。
そうすると、上記ウ.及びエ.と同様の理由により、本件特許発明7は、上記引用発明に、引用文献2-4に記載された技術を適用することで、容易に発明をすることができたものということはできない。

カ.理由アについてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1-7は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2-4に記載される事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)理由イ(特許法第36条第6項第1号)について
ア.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「エ 記載不備の理由」において、
「(ア) 本件特許発明5についての記載不備について
本件特許発明5には「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」ことが記載されているのに対し、発明の詳細な説明には「標識フラグ」または「逸脱フラグ」がオンになっている場合に、認識結果を不揮発性メモリへ記録することが記載されされているのみであり、「標識フラグ」かつ「逸脱フラグ」がオンになっている場合に、認識結果を不揮発性メモリへ記録することは記載も示唆もされていない。
したがって、本件特許発明5は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明7についての記載不備について
本件特許発明5と同様の理由である。」
と主張している。

イ.当審の判断
発明の詳細な説明には、以下のように記載されている。
「【0087】
次に、走行履歴記録制御のうち走行履歴抽出制御を図15に示す制御フローに基づいて説明する。
【0088】
(走行履歴抽出制御)
第2制御部6は、ユーザ操作により操作部11からその機能を開始する旨の信号を受け付けた場合に、第2制御部6が、図15に示す制御フローを所定の周期で実行する。従って、第2制御部6は、所定の周期ごとに図15に示す制御フローのステップS12へ移行する。
【0089】
なお、第2制御部6は、図14、及び、図15に示す制御を、マルチタスク制御機能により並列に処理する。
【0090】
ステップ12において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7に挙動フラグがオンになっているか否かを判定する。挙動フラグがオンになっていると判定する場合はステップS13へ移行する(ステップS12においてYES)。挙動フラグがオンになっていると判定しない場合はリターンへ移行する。
【0091】
ステップS13において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7において、挙動フラグをオンにした第1所定時間(例えば12秒)前から、挙動フラグをオンにしたときまでの、第2揮発性記憶部7に記憶されている車外画像を不揮発性記憶部8へ記録する。次に、ステップS14へ移行する。
【0092】
ステップS14において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7において、挙動フラグをオンにしたときから第2所定時間(例えば、8秒)までの、第2揮発性記憶部7に記憶されている車外画像を不揮発性記憶部8へ記録する。次に、ステップS15へ移行する。
【0093】
ステップS15において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7に標識フラグ、又は、逸脱フラグがオンになっているか否かを判定する。標識フラグ、又は、逸脱フラグがオンになっていると判定する場合はステップS16へ移行する(ステップS12においてYES)。標識フラグ、又は、逸脱フラグがオンになっていると判定しない場合はステップS18へ移行する。
【0094】
ステップS16において、第2制御部6は、ステップS13やステップS14の処理において、不揮発性記憶部8へ記録させた車外画像に関連付けた標識フラグ、又は、逸脱フラグと同様に、不揮発性記憶部8においても、車外画像と関連付けて標識フラグ、又は、逸脱フラグの状態を記録する。
【0095】
つまり、第2制御部6は、前述した通り、第2揮発性記憶部7において、所定の周期で入力される車外画像を時系列に記憶しているとともに、標識フラグ、又は、逸脱フラグは、記憶された車外画像と関連付けて記憶している。
【0096】
このため、ドライブレコーダ2は、図16に示すように、挙動フラグをオンにした第1所定時間前から、挙動フラグをオンにしたときまでと、挙動フラグをオンにしたときから第2所定時間後までにおいて、第2揮発性記憶部7に記憶されている車外画像を不揮発性記憶部8へ記録することができるとともに、不揮発性記憶部8へ記録した車外画像と関連付けつつオン状態に記憶した標識フラグも同様に記録することができる。次に、ステップS17へ移行する。
【0097】
ステップS17において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7における、標識フラグ、又は、逸脱フラグをオフにする。次に、ステップS18へ移行する。
【0098】
ステップS18において、第2制御部6は、第2揮発性記憶部7に記憶していた挙動フラグをオフにする。次に、リターンへ移行する。
【0099】
このような制御を実行するため、ドライブレコーダ2は不揮発性記憶部8に次のような構成で走行履歴を記録することができる。
【0100】
ドライブレコーダ2は、不揮発性記憶部8において、イベントが発生したごとに、即ち、車両における特定の挙動の発生を検知したごとに、走行履歴である車外画像を記録する。
【0101】
具体的には、ドライブレコーダ2は、不揮発性記憶部8において、イベントが発生したごとに、グループが組まれるように車外画像を記録する。例えば、図17に示すように始めにイベントが発生した際の車外画像をグループG1とし、その次にイベントが発生した際の車外画像をグループG2とし、その次にイベントが発生した際の車外画像をグループ
G3とし、というように構成して記録する。
【0102】
グループを構成する複数の車外画像のそれぞれには、イベントデータである車両における特定の挙動の発生を検知するための加速度、標識フラグや逸脱フラグ(例えば、図17に示すフラグFAからフラグFD)などを関連付けて記録している。」

この記載を参照すると、挙動フラグをオンにした第1所定時間前から、挙動フラグをオンにしたときまでと、挙動フラグをオンにしたときから第2所定時間後までにおいて、第2揮発性記憶部7に記憶されている車外画像を不揮発性記憶部8へ記録するとともに、車外画像には、標識フラグや逸脱フラグ(例えば、図17に示すフラグFAからフラグFD)を関連付けて記録していることが示されている。
そうすると、「挙動フラグ」かつ「標識フラグ」かつ「逸脱フラグ」がオンになっている場合には、車外画像を不揮発性記憶部8へ記録しているといえるものであり、本件特許発明5の「前記記録手段は、前記特定の挙動が検知され、前記区画線を前記車両が逸脱したことが判定され、かつ、前記交通規制を示す対象物が認識された場合に、前記揮発性メモリに記憶されている前記走行履歴と関連付けた前記認識結果を不揮発性メモリへ記録する」ことは、発明の詳細な説明に記載されている。
また、本件特許発明7の記載についても同様である。
したがって、「本件特許発明5、7の記載は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものでない。」とはいえない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1-7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-07-21 
出願番号 特願2010-164405(P2010-164405)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G08G)
P 1 651・ 537- Y (G08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白石 剛史  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 中川 真一
矢島 伸一
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5813298号(P5813298)
権利者 富士通テン株式会社
発明の名称 ドライブレコーダ、及び、画像記憶方法  

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