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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1317398 |
審判番号 | 不服2014-22444 |
総通号数 | 201 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-04 |
確定日 | 2016-07-20 |
事件の表示 | 特願2012-264562「閉じ込められた層を製造するための方法、及び同方法によって製造されたデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 7日出願公開、特開2013- 48118〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 (1)手続の経緯 本願は、2006年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月2日、米国)を国際出願日とする特願2008-557249号の一部を平成24年12月3日に新たな特許出願としたものであって、平成25年11月6日に手続補正がなされ、平成26年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、平成27年10月21日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月27日に手続補正がなされたものである。 なお、請求人は、当審拒絶理由に対して平成28年1月27日に意見書を提出している。 (2)本願発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年1月27日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載の事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。 「第1の層の上に、閉じ込められた第2の層を形成する方法であって、 第1の表面エネルギーを有する前記第1の層を形成する工程であって、前記第1の層が基板と接触している工程と、 前記第1の層上に、フッ素化アクリレートモノマー、フッ素化エステルモノマー、およびフッ素化オレフィンモノマーよりなる群から選択される反応性界面活性組成物をコーティングして、前記第1の表面エネルギーよりも低い第2の表面エネルギーを有するコーティング層を形成する工程と、 前記コーティング層を放射線に曝露する工程であって、前記放射線がパターンで適用され、前記反応性界面活性組成物の暴露領域および非暴露領域を形成する工程と、 反応性界面活性組成物の暴露領域または非暴露領域のいずれかの反応性界面活性組成物を除去する工程と、 前記除去する工程で、反応性界面活性組成物が除去された領域に前記第2の層を形成する工程と を含む、方法。」(以下、「本願発明」という。) (3)本願発明の文言の解釈について ア 本願発明の「前記除去する工程で、反応性界面活性組成物が除去された領域に前記第2の層を形成する工程」の記載では、「前記除去する工程」において「第2の層を形成する工程」も実施するようにも解されるが、本願明細書の【0110】には、「このコーティングを、・・・放射線に曝露した。・・・、非曝露のRSAを除去した。図6は、RSAで覆われた区域230と、ITO上の材料Aで覆われた区域211と、ガラス上の材料Aで覆われた区域220とを有する、現像後の試験片を示す。アニソール中で全固形分が1.5%であってBH119とBH215(いずれもイデミツ(Idemitsu)から)を8:92の比率で含む発光インクを、周囲条件でマイクロファブ(MicroFab)印刷機を使用してITOライン上に印刷した。滴の体積は約40?45ピコリットルであり、滴の間隔は0.08mmで、連続印刷ラインを作り出した。・・・パターン化されたRSAを有するパネル上では、インクは、RSAで処理された領域内に完全に閉じ込められており、印刷された高品質のデバイスをもたらすであろう。」と記載されており、当該記載を参酌すれば、RSAからなる反応性界面活性組成物を除去する工程において反応性界面活性組成物が除去された領域に、発光インクからなる第2の層を形成することが明らかであるから、前述の「・・・前記第2の層を形成する工程」は、「前記除去する工程で反応性界面活性組成物が除去された領域」に、「第2の層」を形成する「工程」を意味することは明らかである。 イ 本願発明の「・・・工程と、・・・工程と を含む」の記載については、本願明細書の【0036】には、「本明細書で使用するとき、用語「含む(comprises)」「含んでいる(comprising)」「含む(includes)」「含んでいる(including)」「有する(has)」「有している(having)」、又はそれらの他の任意の変形形態は、非排他的な包含に及ぶことが意図される。例えば、要素のリストを含む方法(process、プロセス)、方法(method)、物品、又は装置は、必ずしもそれらの要素だけに限定されるわけではなく、明確に列挙されていない、又はかかるプロセス、方法、物品、若しくは装置に固有ではない他の要素を含み得る。」と記載されており、当該記載からみても又は一般的な意味からしても、本願発明は、請求項1に記載された各工程だけに限定されず、他の工程の包含を許容するものと解される。 2 当審拒絶理由 当審拒絶理由は概ね次のとおりである。 「本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 記 引用例1.特開2005-93751号公報」 3 引用例の記載事項 (1)当審拒絶理由で引用例1として引用した本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2005-93751号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。 ア 「【0017】 1.第1実施態様 第1実施態様におけるパターニング用基板の製造方法は、基板と、前記基板上にパターン状に形成され、前記基板よりも液体との接触角が高い撥液性層とを有するパターニング用基板の製造方法であって、 基板上に、前記基板よりも液体との接触角が高い撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し、パターン状に撥液性層を形成する撥液性層形成工程と、 前記パターン状に形成された撥液性層を有する基板に対して、その全面に除去処理を施す除去工程と、 液体との接触角を高める接触角回復処理を、前記除去工程後の、前記パターン状に形成された撥液性層を有する基板に対して施すことにより、前記撥液性層の液体との接触角を、前記除去工程後よりも高くする接触角回復処理工程とを有することを特徴とするものである。 【0018】 このような本実施態様のパターニング用基板の製造方法について図面を用いて説明する。図1は、本実施態様のパターニング用基板の製造方法の一例を示した概略断面図である。まず、図1(a)に示すように、電極層2が形成された基板1上に、当該電極層2が有する液体との接触角よりも高い接触角を有する撥液性の撥液性層形成用塗工液を塗布し、撥液性膜3を形成する。なお、上記撥液成膜3は、撥液性物質αを含むものである。その後、図1(b)に示すように、撥液性膜3に対してマスク4を介して紫外線5を照射し、現像、洗浄等を行うことにより、図1(c)に示すように、パターン状に形成された撥液性層3´を得る。 【0019】 さらに、撥液性層3´をパターン状に形成した後、図1(d)に示すように、基板1全面に対して除去処理6を施す。これにより、例えば、撥液性層3´のパターニングを行った際に、撥液性膜3が除去された領域aに残存する撥液性膜3の残渣(撥液性物質α)を除去することができる。よって、除去処理6後は、撥液性膜3が除去された領域aの親液性を高めることができる。しかしながら、本実施態様においては、撥液性層3´に対しても除去処理6が施されることから、撥液性層3´も親液化され、その撥液性は低下してしまう。 【0020】 次に、図1(e)に示すように、加熱処理7を施す。本実施態様においては、加熱処理を施すことにより、上記除去処理6により一度低下した撥液性層3´の撥液性を、所定の程度まで再び高めることができる(図1(f)参照)。すなわち、除去処理6後の撥液性層3´と比較して、加熱処理7後の撥液性層3´の方が、液体との接触角を高くすることができる。これにより、精度良く形成された撥液性層のパターンに応じて、充分な濡れ性の差を有するパターニング用基板を簡便な方法で、容易に製造することができる。 【0021】 このような本実施態様のパターニング用基板の製造方法について各工程に分けて、以下、詳細に説明する。 【0022】 (1)撥液性層形成工程 まず、本実施態様における撥液性層形成工程について説明する。本実施態様における撥液性層形成工程は、基板上に、前記基板よりも液体との接触角が高い撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し、パターン状に撥液性層を形成する工程である。 【0023】 本工程により撥液性層のパターニングを行う。このような本工程において、撥液性層のパターニングの方法は、所望の形状に精度良く撥液性層をパターン状に形成することが可能な方法であれば特に限定はされない。具体的には、感光性樹脂を用いたフォトリソグラフィー法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、熱転写法、レーザ転写法等を挙げることができる。 【0024】 また、本工程において、基板上に塗布する撥液性層形成用塗工液としては、後述する基板が有する液体との接触角よりも、高い液体との接触角を有する撥液性層を形成することが可能な塗工液であれば特に限定はされない。具体的には、適切な溶媒に、撥液性を有する材料が溶解したものを挙げることができる。例えば、撥液性を有する材料としては、樹脂材料自体が撥液性を有するものである場合と、樹脂材料に添加剤を付与して撥液性を付与する場合とがある。 【0025】 まず、樹脂材料自体が撥液性を有する場合に、撥液性層を形成する材料としては、ポリテトラフルオロエチレンや、フルオロ脂肪族基を含むアクリレートまたはメタクリレートおよびフッ素を含まないアクリレートまたはメタクリレートの共重合体等の含フッ素高分子化合物を挙げることができる。 ・・・略・・・ 【0026】 なお、上述した含フッ素高分子化合物とフッ素を含有しない一般の高分子材料とを共重合させた共重合体を用いて撥液性層を形成することも可能である。 【0027】 一方、樹脂材料に添加剤を付与して撥液性を付与する場合における撥液性層を形成する材料としては、感光性ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、他、光硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、フッ素化合物含有樹脂、ケイ素含有樹脂等の樹脂に撥液性を有する添加剤を添加したもの等を挙げることができる。 【0028】 例えば、撥液性を有する添加剤としては、パターニング用基板を種々の用途に用いた場合に、基板上に形成する部材に対して悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、界面活性剤、または、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、パーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを主成分とする共重合オリゴマー、フッ素化合物を有するケイ素含有化合物等を挙げることができる。 【0029】 上記界面活性剤としては、種々のものがあるが、例えば一般の界面活性剤の親油基の水素をフッ素に置換してパーフルオロアルキル基としたものが挙げられる。具体的には、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロエチレンオキシド、パーフルオロアルキルオリゴマー、パーフルオロアルキルスルホン酸のアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸のカリウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩等のアニオンタイプ、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物等のカチオンタイプ、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、フッ素化アルキルエステル等のノニオンタイプが挙げられる。 【0030】 また、共重合オリゴマーとしては、中でもパーフルオロアルキル基含有アクリレートまたはメタクリレートを主成分とするものを用いることが好ましい。例えば、市販品としては、サーフロン(ランダム型オリゴマー;セイミケミカル社製)、アロンG(グラフト型オリゴマー;東亜合成化学社製)、モディパーF(ブロック型オリゴマー;日本油脂社製)等を挙げることができる。 【0031】 さらに、フッ素化合物を有するケイ素含有化合物としては、フルオロアルキル基を含有するポリシロキサンであることが好ましい。具体的には、フルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物を挙げることができる。また、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られているものを使用してもよい。 【0032】 本実施態様においては、上記樹脂材料自体が撥液性を有する材料で形成した場合であっても、必要がある場合はさらに上述した撥液性を付与する添加剤を加えるようにしてもよい。 【0033】 このような撥液性層形成用塗工液を用いて形成された撥液性層において、その撥液性の程度としては、後述する基板よりも、液体との接触角が高いのであれば特に限定はされない。具体的には、純水の撥液性層に対する接触角が、30°?150°の範囲内、中でも、50°?120°の範囲内であることが好ましい。 【0034】 なお、ここでいう、接触角は、純水を用いその接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA-Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果に基づいて規定したものである。 ・・・略・・・ 【0058】 (EL素子の製造方法) 本発明におけるEL素子の製造方法は、少なくとも電極層を有する基板上に、前記電極層よりも液体との接触角が高い撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し、パターン状に撥液性層を形成する撥液性層形成工程と、前記パターン状に形成された撥液性層を有する基板に対して、その全面に除去処理を施す除去工程と、液体との接触角を高める接触角回復処理を、前記除去工程後の前記パターン状に形成された撥液性層を有する基板に対して施すことにより、前記撥液性層の液体との接触角を、前記除去工程後よりも高くする接触角回復処理工程と、前記電極層上に、ノズル吐出法により有機EL層形成用塗工液を吐出して塗布することにより、有機EL層をパターン状に形成する工程とを有することを特徴とするものである。 【0059】 本発明におけるEL素子の製造方法の一例については、上述した図1に示す。EL素子の製造方法においても、上述したパターニング用基板の製造方法と同様に、図1(a)に示すように、電極層2が形成された基板1上に撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し撥液成膜3を成膜した後、図1(b)に示すように、マスク4を用いて紫外線5をパターン状に照射し、現像、洗浄等を行うことにより、撥液性層3´をパターン状に形成する(図1(c)参照)。撥液性層3´をパターン状に形成した後、図1(d)に示すように、基板1全面に対して除去処理6を施す。次に、図1(e)に示すように、加熱処理7を施す。本発明においては、加熱処理7を施すことにより、上記除去処理6により一度低下した撥液性層3´の撥液性を、所定の程度まで再び高めることができる(図1(f)参照)。これにより、電極層2と撥液性層3´との濡れ性の違いによるパターンが精度良く形成されたパターニング用基板を得る。EL素子の製造方法においては、次いで、撥液性膜3が除去され、親液性を有する電極層2上の領域aに、発光層を形成するための発光層形成用塗工液を、インクジェット装置により、吐出することにより塗布する。この発光層形成用塗工液を固化させることにより、所定の位置に発光層を形成し、さらに、対向電極層等を形成することによりEL素子を作製することができる。 【0060】 本発明においては、上述したパターニング用基板の製造方法により製造されたパターニング用基板を用いてEL素子を製造していることから、発光層等の有機EL層を形成する際に、所定の領域以外に塗工液が濡れ広がることが防止され、均一にムラ無く、発光層等を精度良く形成することができる。」 イ 「【図1】 」 ウ 本発明のパターニング用基板の製造方法の一例を示す概略断面図である図1(上記イ)の記載及び【0059】(上記ア)の記載からみて、基板1と電極層2との間に介在する層は存在せず、電極層2が基板1に接触して形成されていることは自明である。 エ 上記アないしウから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。 「電極層2が接触して形成された基板1上に撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し撥液性膜3を成膜した後、マスク4を用いて紫外線5をパターン状に照射し、現像、洗浄等を行うことにより、撥液性層3´をパターン状に形成し、撥液性層3´をパターン状に形成した後、基板1全面に対して、撥液性膜3が除去された領域aに残存する撥液性膜3の残渣を除去する除去処理6を施し、次に、加熱処理7を施し、一度低下した撥液性層3´の撥液性を、所定の程度まで再び高め、これにより、電極層2と撥液性層3´との濡れ性の違いによるパターンが精度良く形成されたパターニング用基板を得、次いで、撥液性膜3が除去された親液性を有する電極層2上の領域aに、発光層を形成するための発光層形成用塗工液を、インクジェット装置により、吐出することにより塗布し、この発光層形成用塗工液を固化させることにより、所定の位置に発光層を形成し、さらに、対向電極層等を形成する、EL素子の製造方法であって、 撥液性層を形成する材料は、ポリテトラフルオロエチレンや、フルオロ脂肪族基を含むアクリレートまたはメタクリレートおよびフッ素を含まないアクリレートまたはメタクリレートの共重合体等の含フッ素高分子化合物である、 EL素子の製造方法。」(以下「引用発明」という。) 4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「電極層」、「基板」、「発光層」、「『撥液性層を形成する材料』又は『撥液性層形成用塗工液』」、「『撥液性膜3』又は『撥液性層3´』」及び「紫外線」は、それぞれ本願発明の「第1の層」、「基板」、「第2の層」、「反応性界面活性組成物」、「コーティング層」及び「放射線」に相当する。 (2)引用発明は、「基板」(基板:以下、引用発明の構成に続く括弧書き内は、対応する本願発明の構成である。)に接触して形成された「電極層」(第1の層)が所定の表面エネルギーを有するといえるから、引用発明は、本願発明の「第1の表面エネルギーを有する前記第1の層を形成する工程であって、前記第1の層が基板と接触している工程」を備えるものである。 (3)引用発明は、「電極層」(第1の層)が形成された「基板」(基板)上に撥液性層を形成する「撥液性層形成用塗工液」(反応性界面活性組成物)を塗布し「撥液性膜3」(コーティング層)を成膜するものであり、撥液性を有する「撥液性膜3」が親液性を有する「電極層」(第1の層)と比べて表面エネルギーが低いことが明らかであるから、引用発明は、本願発明の「第1の層上」に「反応性界面活性組成物をコーティングして、第1の表面エネルギーよりも低い第2の表面エネルギーを有するコーティング層を形成する工程」を備えるものである。 (4)ア 本願発明の「フッ素化」について、本願明細書の【0026】には「有機化合物に言及するときの用語「フッ素化」は、該化合物中の水素原子の1以上がフッ素によって置き換えられていることを意味することが意図される。その用語は、部分フッ素化材料及び完全フッ素化材料を包含する。」と記載されている。 イ 引用発明の「撥液性層を形成する材料」(反応性界面活性組成物)は、ポリテトラフルオロエチレンや、フルオロ脂肪族基を含むアクリレートまたはメタクリレートであり、該アクリレートまたはメタクリレートが、上記アからみて、化合物中の水素原子の1以上がフッ素によって置き換えられているアクリレート、すなわち「フッ素化アクリレート」であるから、引用発明の「撥液性層を形成する材料」と、本願発明の「反応性界面活性組成物」とは、「フッ素化アクリレートモノマー、フッ素化エステルモノマー、およびフッ素化オレフィンモノマーよりなる群から選択される」点で一致する。 (5)引用発明は、「撥液性膜3」(コーティング層)を成膜した後、マスク4を用いて「紫外線」(放射線)をパターン状に照射し、現像、洗浄等を行うことにより、「撥液性層3´」(コーティング層)をパターン状に形成しているから、本願発明の「コーティング層を放射線に曝露する工程であって、前記放射線がパターンで適用され、前記反応性界面活性組成物の暴露領域および非暴露領域を形成する工程」及び「反応性界面活性組成物の暴露領域または非暴露領域のいずれかの反応性界面活性組成物を除去する工程」を備えるものである。 (6)引用発明は、「撥液性膜3」(コーティング層)が除去され、親液性を有する「電極層」(第1の層)上の領域aに、「発光層」(第2の層)を形成するための発光層形成用塗工液を、インクジェット装置により、吐出することにより塗布し、この発光層形成用塗工液を固化させることにより「発光層」(第2の層)を形成するものであるから、本願発明の上記1(3)アのとおり解釈した「前記除去する工程で、反応性界面活性組成物が除去された領域に第2の層を形成する工程」を含むものである。 (7)引用発明は、上記(6)のように、「撥液性膜3」(コーティング層)が除去された親液性を有する「電極層」(第1の層)上の領域aに「発光層」(第2の層)を形成するものであり、本願明細書の【0023】に記載されている「層に言及するときの用語「閉じ込められた(contained)」は、層が、それが堆積された範囲を大きく越えて広がらないことを意味することが意図される。」を考慮すれば、「電極層」(第1の層)の上の領域aに「発光層」(第2の層)が「閉じ込められ」ているといえるから、引用発明の「EL素子の製造方法」は、本願発明の「第1の層の上に、閉じ込められた第2の層を形成する方法」に相当する。 (8)上記(1)ないし(7)からみて、本願発明と引用発明とは、 「第1の層の上に、閉じ込められた第2の層を形成する方法であって、 第1の表面エネルギーを有する前記第1の層を形成する工程であって、前記第1の層が基板と接触している工程と、 前記第1の層上に、フッ素化アクリレートモノマー、フッ素化エステルモノマー、およびフッ素化オレフィンモノマーよりなる群から選択される反応性界面活性組成物をコーティングして、前記第1の表面エネルギーよりも低い第2の表面エネルギーを有するコーティング層を形成する工程と、 前記コーティング層を放射線に曝露する工程であって、前記放射線がパターンで適用され、前記反応性界面活性組成物の暴露領域および非暴露領域を形成する工程と、 反応性界面活性組成物の暴露領域または非暴露領域のいずれかの反応性界面活性組成物を除去する工程と、 前記除去する工程で、反応性界面活性組成物が除去された領域に前記第2の層を形成する工程と を含む、方法。」の点で一致し、引用発明は本願発明の構成を全て備えているから、引用発明と本願発明とは相違するところはない。 したがって、本願発明は、引用発明と同一の発明であり、引用例に記載された発明である。 5 審判請求人の主張について (1)審判請求人は以下のとおり主張する。 ア 「これに対し、引用例1に記載の発明は、以下のような、EL素子の製造方法が開示されている(引用例1の段落0059)。 (a)電極層2が形成された基板1上に撥液性層を形成する撥液性層形成用塗工液を塗布し撥液性膜3を成膜する。 (b)次いで、マスク4を用いて紫外線5をパターン状に照射し、現像、洗浄等を行うことにより、撥液性層3´をパターン状に形成する。 (c)このパターン形成後、基板1全面に対して除去処理6を施す。 (d)次に、加熱処理7を施し、一度低下した撥液性層3´の撥液性を、所定の程度まで再び高める。 (e)、これにより、電極層2と撥液性層3´との濡れ性の違いによるパターンが精度良く形成されたパターニング用基板を得、次いで、撥液性膜3が除去され、親液性を有する電極層2上の領域aに、発光層を形成するための発光層形成用塗工液を、インクジェット装置により、吐出することにより塗布し、この発光層形成用塗工液を固化させることにより、所定の位置に発光層を形成し、さらに、対向電極層等を形成する。 (f)撥液性層を形成する材料は、ポリテトラフルオロエチレンや、フルオロ脂肪族基を含むアクリレートまたはメタクリレートおよびフッ素を含まないアクリレートまたはメタクリレートの共重合体等の含フッ素高分子化合物である。 上述の引用例1に記載の発明は、(c)で示したように、撥液層3’をパターン状に形成した後、基板1前面に対して除去処理6を施す。この除去処理は、撥液層3’の形成工程(上記(b))の後に撥液層を除去した箇所に残存する異物等の残渣を除去するためのものである。引用例1に記載の発明は、このような除去処理の工程を必須の工程として含んでおり、このような除去処理を行わない本願の請求項1に係る発明とは明確に異なる方法である。 しかし、引用例1では、上記(c)及び(d)の工程を経て初めて、撥液層3’の領域と撥液層3’の存在しない領域との間で所望の表面エネルギーの差を実現しているのである。この点は、例えば、引用例1の段落0055などの記載から明らかである。 更に申し述べれば、引用例1では、除去処理が必須であることにより、この除去処理の後に接触角の回復処理も必須である。このような点も本願の請求項1に係る発明とは明確に異なる点である。」(平成28年1月27日付け意見書3頁23行?4頁3行) イ 「更に、引用例1においては、上記(f)に記載のような含フッ素高分子化合物を撥液層形成材料として使用するが、引用例1に記載の発明において上記除去処理を行うことが必須である以上、引用例1に接した当業者は、引用例1で使用される材料は、このような除去処理を前提とした材料として認識するのであり、除去処理を必要としない本願発明の材料として、上記(f)の材料が使用できると着想することはないはずである。引用例1に本願発明で使用する化合物と類似の化合物が開示されているとしても、その事実が直ちに、構成の異なる発明において、その材料の使用を想起させるものではない。引用例1に記載の発明からは、本願発明の構成を想起させる動機付けは存在しない。」(平成28年1月27日付け意見書4頁26行?同頁33行) (2)しかしながら、本願発明は、請求項1に記載された各工程「を含む、方法」の発明であり、「含む」は、上記1(3)イで説示したとおり、請求項1に記載された各工程だけに限定されず、他の工程の包含を許容するものであり、本願発明は、前記各工程以外の他の工程を含み得るものであるから、上記(1)アのように、引用発明における「基板1全面に対して、撥液性膜3が除去された領域aに残存する撥液性膜3の残渣を除去する除去処理6を施し、次に、加熱処理7を施し、一度低下した撥液性層3´の撥液性を、所定の程度まで再び高め、これにより、電極層2と撥液性層3´との濡れ性の違いによるパターンが精度良く形成されたパターニング用基板を得」るという工程(上記(1)アの(c)及び(d))は、本願発明において排除される工程ではなく、コーティング層の材料等の事情に応じ適宜行われ得る工程である。 (3)上記(1)イのように、引用例1で使用される材料(上記(1)アの(f))が上記(1)アの(c)及び(d)の工程(除去処理及び加熱処理)を前提とした材料であるとしても、本願発明は「フッ素化アクリレートモノマー、フッ素化エステルモノマー、およびフッ素化オレフィンモノマーよりなる群から選択される反応性界面活性組成物」との限定しかなく、引用例1で使用される材料を排除しているとまではいえないから、本願発明の材料として、上記(1)アの(f)の材料が使用できないとまではいえない。 (4)してみると、上記(1)のような審判請求人の主張は採用できない。 6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-02-19 |
結審通知日 | 2016-02-23 |
審決日 | 2016-03-07 |
出願番号 | 特願2012-264562(P2012-264562) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(H05B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越河 勉 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
佐竹 政彦 鉄 豊郎 |
発明の名称 | 閉じ込められた層を製造するための方法、及び同方法によって製造されたデバイス |
代理人 | 特許業務法人 谷・阿部特許事務所 |
復代理人 | 主代 静義 |