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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63H
管理番号 1317865
審判番号 不服2015-722  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-14 
確定日 2016-08-12 
事件の表示 特願2010-218589号「船舶の運転制御方法及びその船舶」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月12日出願公開、特開2012-71710号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年9月29日の出願であって、平成25年12月2日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月7日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年6月9日付けで拒絶理由が通知され、平成26年8月18日に意見書が提出され、平成26年10月1日付けで拒絶査定がされた。
これに対して、平成27年1月14日に拒絶査定不服審判が請求された。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成26年2月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、
前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となるこのディーゼルエンジンの低速回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行って、この補助ブロアを連続運転しながら、前記船舶を前記低速回転領域で運航することを特徴とする船舶の運転制御方法。」

3.引用文献に記載された事項及び発明
(1)引用文献1に記載された事項
ア.原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特表2009-507161号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図と共に、次の事項が記載されている。
なお、下線は当審が加筆した。

(1a)
「【0033】
以下の詳細な説明では、クロスヘッド型大型2サイクルディーゼルエンジンを含む外洋航行船舶のための推進システムを、好適な実施形態によって記述する。
【0034】
図1および2は、本推進システムの中核である、ピストン直径が98cmのクロスヘッド型大型低速2サイクルインラインディーゼルエンジン10を示す図である。これらのエンジンは、一般的に直列の6?16のシリンダを有する。図1には、本エンジンの9、10、11、および12シリンダバージョンのエンジンの概略を示す補助線とともに、8シリンダエンジン10の側面図を示す。エンジン10の下方には、メートルのスケールを示し、約18メートル(8シリンダ)?28メートル(14シリンダ)の長さに及ぶこれらの機関の絶対的なサイズを表す。」
(1b)
「【0037】
溶接設計のA形クランクケースフレーム12は、台板11上に載置される。シリンダフレーム13は、クランクケースフレーム12の上部に載置される。控えボルト(図示せず)は、台板11をシリンダフレーム13に連結して、その構造を統一的に保持する。シリンダ14は、シリンダフレーム13によって担持される。排出弁アセンブリ15は、各シリンダ14の上部に載置される。シリンダフレーム13は、燃料噴射システム19、排気ガス受16、ターボチャージャ17、および掃気受18も担持する。ターボチャージャ17は、掃気受に空気を給送する。冷却器(図示せず)および補助ブロワ18aは、各ターボチャージャ17と掃気受18との間に配置される。エンジンの運転中に、補助ブロワ18aは、エンジン負荷が30?40%に低下するたびに自動的に始動され、その負荷が約40?50%を超えるまで運転が続けられる。圧力スイッチ(図示せず)からの信号は、補助ブロワの起動を制御する。エンジン負荷がエンジンの最大連続定格の30?50%を超えると、ターボチャージャ17は、単独で十分な空気を吸気口18に供給する。より低い負荷では、補助ブロワ18aは、所要掃気量の全部または一部を吸気口18に供給する。」
(1c)
「【0046】
管路50は、コモンレール45の下流で管路47から分岐し、高圧燃料油を、補助ブロワ18aを駆動する可変ストロークの容積式モーター49に供給する。補助ブロワ18aが必要とする動力量は変化し、大型2サイクルディーゼルエンジン10の中間負荷レベルの直下で最高となり、大型2サイクルディーゼルエンジン10の最大連続定格の40?45%を超えるとゼロとなる。可変ストロークによって、モーター49は、それを超えない所要の動力量を、大型2サイクルディーゼルエンジン10の全ての負荷レベルにおいて補助ブロワ18aに供給することができる。油圧モーター49は、補助ブロワ18aの最適な回転速度でそれらを駆動するように容易に構成できるので、補助ブロワ18aの駆動に油圧モーター49を使用することによって、エネルギー効率の観点から補助ブロワの容量を最適に決めることもできる。」

イ.引用文献1に記載された発明
(ア)
上記ア.(1b)から、外洋を航行をしている船舶において、「エンジンの運転中に、補助ブロワ18aの起動を制御する」と、通常、エンジン回転数等を制御することになるから、「船舶の運転制御」が行われるといえる。

(イ)
上記(ア)の事項、上記ア.(1a)?(1c)の記載事項及び図1?2の図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「大型2サイクルディーゼルエンジン10と、空気を掃気受18に供給するターボチャージャ17と、ターボチャージャ17と掃気受18との間に配置される補助ブロワ18aを有した外洋航行船舶の運転制御方法において、
前記エンジンの運転中に、エンジン負荷が30?40%に低下するたびに自動的に始動され、その負荷が約40?50%を超えるまで運転が続けられる、補助ブロワ18aの起動を制御する外洋航行船舶の運転制御方法。」

(2)引用文献2に記載された事項
本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「Going Slow to Reduce Emissions」(January 2010:ウエブサイト:http://www.rina.org.uk/hres/mepc%2061 inf 22.pdf)の写し(以下、「引用文献2」という。)には、図と共に、次の事項が記載されている。
なお、和訳は当審において付したものである。

(2a)
「-2-stroke: Container vessel panamax and post-panamax, large bulker and tanker.」(第7頁第19?20行)
(和訳)
「-2サイクルエンジン:パナマックスおよびポストパナマックス(超パナマックス)級コンテナ船、および大型のばら積み船ならびにタンカー」

(2b)
「-Figure 3 and Figure 4 are showing the variations of fuel consumption depending on engine load. The displayed values are for ideal engines taken from manufacturers’ brochures, with effects of optional retrofits for slow steaming.」(第7頁下から第3?1行)
[和訳]
「図3および4はエンジン負荷に応じた燃料消費の変化を示している。示した値はメーカーのカタログから取った理想的エンジンについての値と、低速航行の効果を加えた場合の値である。」

(2c)
「From a technical point of view, a ship operating on slow steaming is most probably operating in so-called ‘off-design conditions'. Sailing in off design conditions the following disadvantages are likely to occur:
The heat recovery systems possibly lose their efficiency. E.g. the output of the exhaust gas boiler may be not sufficient and therefore an oil boiler must be use to generate sufficient heat onboard.

-Loss of turbo charger efficiency.
-Loss of propeller efficiency.
-Increased fouling of hull and propeller due to reduced velocity and hence reduced flow velocities. Some antifouling systems need mini mum velocities to ‘wash-off’ fouling.
-Auxiliary systems may work in off-design conditions to compensate e.g. the loss of heat recovery and turbo chargers. Often these systems are not designed for continuous operation and an increased maintenance as well as failure may occur.
-Increased lubrication oil demand.
-Due to sailing in off-design conditions the level of vibrations can increase.
-At variable pitch propeller cavitation on the pressure side of the propeller can occur.

Most of the above mentioned disadvantages can be overcome by retrofits. Others could possibly be neglected because they will not cause damages or restrict operations, such as the loss of propeller efficiency. I.e. a propeller may not work at its design point sailing slow steaming, however, the propeller will not be damaged (fix pitch propellers), even if another propeller designed for slow speed would be more efficient. An absolute fuel oil consumption reduction can be measured anyway.

However, some compounds are more critical, for example auxiliary blowers which are needed to start turbocharged 2-stroke engines. A continuous operating of the auxiliary blowers because of a decreased efficiency of the turbocharger will increase the frequency of failure of these compounds. If all auxiliary blowers would be broken it is not possible to start the main engine, which is a serious safety issue. A spare auxiliary blower in the store of the ship could be reasonable.」(第8頁下から第3行?第9頁第30行)
[和訳]
「技術的視点から、船舶を減速して運用することは、いわゆる「非設計点」での運用となることが多い。非設計点での航海には次の様な不利益が発生することがある。

-熱回収システムはその効率性を失う可能性がある。例えば排気ガスボイラ ーの出力は不十分となり、そのため船内で十分な熱を発生させるためには オイルボイラーを使用しなければならない。
-ターボ過給機の効率低下
-推力装置の効率低下
-速度の低下、従って水流速度の低下による船体および推力装置の汚損増加 。一部の汚損防止システムは、汚損の「洗い流し」に最低速度を必要とす る。
-非設計点では補助システムを作動させて、例えば熱吸収やターボ過給機の 低下を補う必要があるだろう。これらのシステムは連続運転向けにデザイ ンされておらず、また保守作業が増え、故障が起こることもある。
-必要潤滑油量の増加
-非設計点での航行によって振動が増すことがある。
-ピッチ変動に伴ってスクリュープロペラの圧力側に気泡(キャビテーショ ン)が起こる可能性がある。

上記の欠点の多くは改造によって克服できる。その他の事は、例えばプロペラの効率を損なう形で運転に害を及ぼしたり制限したりすることは無いため無視できるだろう。即ちプロペラはその設計点で作動せずに低速で航行しても、例え低速用にデザインされた別のプロペラの方が効率は高いとしても、それによってプロペラそのものが損傷を受けることはない(固定ピッチプロペラ)。いずれにせよ消費燃料の絶対量は削減できる。

しかしながら幾つかの構成要素はより重要であり、例えばターボ過給機型2サイクルエンジンを始動させるには補助ブロワーが必要である。ターボ過給機の効率が低下することによって補助ブロワーが連続運転することによりこうした構成要素の故障が増えるだろう。補助ブロワーが故障するとメインエンジンを始動することが出来なくなり、これは重大な安全上の問題である。船内にスペアの補助ブロワーを準備しておくことが合理的であろう。」

(2d)
「2.2 Minimum engine loads
Engines cannot be operated at any load without adjustments to the engine. The minimum load depends on the technical specification of the manufacturer for each individual engine. Even engine of the same engine type might differ to each other, depending on engine configurations such as revolutions, stroke, etc.

Experience gained in recent years sailing with slow steaming have shown following damages:

-Increased pollution of the exhaust gas economiser through increased appearance of soot. Exhaust gas economiser fires due to built up of soot were occurred.
-Piston rings sticking in top landings due to over lubrication.
-Fuel pump and injector nozzle damage due to operating in off-design conditions.
-Increase of turbo charger fouling.
-Increase of cleaning and maintenance demand for complete engine.

The above mentioned damages, which have occurred in the past, occurred during ‘normal’ slow steaming not explicit running engines below their minimum load. It is to expect that the frequency of these damages will increase when running an engine below their minimum load. Engine manufactures advice against possible damages caused by slow steaming in their technical specifications.

Trials have shown that for 2-stroke engines the limit could be set to about 40% without permanent use of auxiliary blowers, for 4-stroke engines the limit is lower, perhaps as low as 10% of MCR. Electronically controlled engines are more flexible to operation in off-design and can generally be operated at lower loads than mechanically controlled engines. If ship operators want to reduce speed below these levels, they can derate their engines or install ‘slow steaming upgrade kits’.」(第9頁第31行?第10頁第11行)
[和訳]
「2.2 最小エンジン負荷

エンジンは調整無しではどのような負荷でも動かすことはできない。最小負荷はそれぞれのエンジンのメーカーが出す技術仕様書に定められている。同一タイプのエンジンでも、回転数やストロークといったエンジンの構成によって異なるだろう。

最近の低速航行の経験からは、次の様なダメージがあることが分かった。

-煤煙の増加による排気ガスエコノマイザーの汚染増加。煤煙を原因とする 排気ガスエコノマイザーの火事が発生している。
-過剰潤滑による上部溜まり内へのピストンリングのスティッキング
-非設計点での運転による燃料ポンプおよびインジェクタノズルの損傷
-ターボ過給機の汚損増加
-エンジンを完全な状態に保つための清掃および保守の増加

上記した障害は、過去に発生したものであるが、エンジンをその最小負荷以下で運転しない「通常の」低速航行時に発生したものである。こうした障害の頻度は、エンジンをその最小負荷以下で運転した場合には増加すると考えなければならない。エンジンメーカーは技術規格書の中で低速で航行した場合に起こり得る障害についてアドバイスを行っている。

試験では2サイクルエンジンについて、その限界は補助ブロワーを継続して使用しない場合は約40%、4サイクルエンジンの場合、その限界は更に低く、おそらくMCRの10%程度となる。電子制御型エンジンは非設計点での運転に対してより柔軟であり、通常は機械制御型のエンジンに比べて低い負荷で運転することができる。海運業者が速度をこうしたレベルよりも下げたいと考えた場合、そのエンジンを出力の低いものに交換する、または「低速航行アップグレードキット」を取り付けることができる。」

(2e)
「Chapter 4 shows that the potential fuel and emission savings of slow steaming are considerable. A share of these savings has already been achieved, as many shipping companies have announced slow steaming (see e.g. Maersk, 2009; ZIM, 2009; Cosco, 2009; Notteboon and Vernimmen, 2008). 」(第22頁第2?5行)
[和訳]
「第4章では低速航行によって燃料および排出量の削減の可能性があることについて示した。こうした形での削減は一部既に行われており、多くの海運会社が低速航行を行っていることを表明している(例えばMaersk、2009;ZIM、2009;Cosco、2009;Notteboon and Vernimmen、2008を見よ)。」

(2f)
「This report estimates the potential emission reductions of slow steaming. It does so against a baseline in which ships continue to sail at their historic speeds, but decrease the average amount of cargo they carry. The report demonstrates that from 2010 through 2012, emission reductions in the order of 30% are maximally achievable without the need for retrofitting slow steaming equipment. For bulkers, the potential reductions are even higher.

A share of these emission reductions are currently realised as ships are slow steaming. However, there seems to be additional potential to sail even slower. Of course, realising all of these savings will require certain technical and operational barriers to slow steaming to be addressed.」(第23頁第13?22行)
[和訳]
「本報告書は、低速航行によって可能となる排出量の削減を見積もった。見積もりは船舶が従来の速度で航行するが、運ぶ平均貨物量を少なくした場合をベースラインとし、これと比較する形で行った。報告書は2010?2012年の間に、低速航行のための装置改造を必要とせずに、最大30%のオーダーの排出量削減が達成できることを明らかにした。ばら積み船については、削減の可能性は更に高かった。

こうした排出量削減の一部は、船舶を低速運航させることで現在実現されている。しかしながらより一層の低速航行を行うことも可能だと思われる。当然こうした節減の全てを実現するためには、低速航行を阻む技術的および運用上の障害について取り組む必要があるだろう。」


4.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)
引用発明の「大型2サイクルディーゼルエンジン10」は、本願発明の「ディーゼルエンジン」に相当する。
(イ)
引用発明の「掃気受18」は、「大型2サイクルディーゼルエンジン10」の「掃気受18」であるから、引用発明の「空気を掃気受18に供給するターボチャージャ17 」は、本願発明の「ディーゼルエンジンに過給を行う過給器」に相当する。
(ウ)
引用発明の「ターボチャージャ17と掃気受18との間」は、ターボチャージャ17で加圧された吸気がディーゼルエンジンに向かって流れる流路であるから、「ディーゼルエンジンの吸気ライン」であり、引用発明の「ターボチャージャ17と掃気受18との間に配置される補助ブロワ18aを有した」ことは、本願発明の「ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した」ことに相当する。
(エ)
上記(ア)?(ウ)から、引用発明の「大型2サイクルディーゼルエンジン10と、空気を掃気受18に供給するターボチャージャ17と、ターボチャージャ17と掃気受18との間に配置される補助ブロワ18aを有した外洋航行船舶の運転制御方法」は、本願発明の「ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法」に相当する。
(オ)
外洋航行では、エンジン負荷が50%程度以上で運航することが技術常識であることや、本願発明においても出力が44.8%以上53.3%以下を低速回転領域としていることからみて、外洋航行船舶のディーゼルエンジンにおいて、エンジン負荷が30?50%程度の領域は、通常の外洋航行の速度に比べて速度を落としている領域であることは明らかであり、低速回転領域といえること、及び、船舶の運航は、決まった航路を運転して航行することであるから、引用発明の「前記エンジンの運転中に、エンジン負荷が30?40%に低下するたびに自動的に始動され、その負荷が約40?50%を超えるまで運転が続けられる、補助ブロワ18aの起動を制御する外洋航行船舶の運転制御」と、本願発明の「前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となるこのディーゼルエンジンの低速回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行って、この補助ブロアを連続運転しながら、前記船舶を前記低速回転領域で運航する船舶の運転制御」とは、「このディーゼルエンジンの低速回転領域で、前記補助ブロアを運転する制御を行って、この補助ブロアを運転しながら、前記船舶を前記低速回転領域で運転する船舶の運転制御」という限りで共通しているといえる。

(2)一致点及び相違点
以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、
このディーゼルエンジンの低速回転領域で、前記補助ブロアを運転する制御を行って、この補助ブロアを運転しながら、前記船舶を前記低速回転領域で運転する船舶の運転制御方法。」

<相違点>
「低速回転領域で運転する船舶の運転制御」が、本願発明では、「前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となるこのディーゼルエンジンの低速回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行って、この補助ブロアを連続運転しながら、前記船舶を前記低速回転領域で運航する船舶の運転制御」であるのに対して、引用発明では、「前記エンジンの運転中に、エンジン負荷が30?40%に低下するたびに自動的に始動され、その負荷が約40?50%を超えるまで運転が続けられる、補助ブロワ18aの起動を制御する外洋航行船舶の運転制御」である点。

(3)判断
以下、相違点について検討する。
(ア)
上記3.(2)(2a)?(2f)から、引用文献2には、2サイクルエンジンを搭載する大型船舶の「低速航行」すなわち「低速運航」に関するものであり、図4に図示されるエンジン負荷が約60%以下の低負荷運転は、船舶を減速して運転する非設計点での運用となることが多く、そのために発生する、低速域でのターボ過給機の効率の低下という欠点を、補助システムを作動させて補う必要があるところ、ターボ過給機の効率が低下することによって補助ブロワーが連続運転することにより故障が増えるから、スペアの補助ブロワーを準備しておくことが合理的であり(上記3.(2)(2a)?(2d)を参照)、低速航行によって燃料及び排出量の削減の可能性があり、排出量削減の一部は、船舶を低速運航させることで実現されている(上記3.(2)(2e)?(2f)を参照)という技術事項が開示されているといえる。
(イ)
上記(ア)から、引用文献2には、2サイクルエンジンを低速回転領域で運航すれば、過給機の効率が低下した状態が継続するところ、それを補うため補助システムを連続的に作動させることが必要となり、故障に備えスペアの補助ブロワーを準備することが合理的であることから、故障の可能性を承知した上で、過給機の効率の低下を補う上記補助システムとして補助ブロアを機能させて、連続運転しようとすることが示唆されているといえる。

(ウ)
大型船舶に備えられる大型ディーゼルエンジンは、通常、外洋航行で長期間使用される特定の範囲の回転領域で効率よく運航できるように、その範囲の回転領域に対して過給機の効率が設定されて規格されていることは技術常識であり、当該ディーゼルエンジンにおいて、低速回転領域であり過給機が充分に作動しない範囲、すなわち、過給機の効率が低下し補助ブロアなどの補助システムの作動が必要となる出力範囲は、ディーゼルエンジンの規格によって定まるといえる。
(エ)
引用文献2に記載の大型船舶のディーゼルエンジンは、大型ディーゼルエンジンであることが明らかであるところ、引用発明も引用文献2に記載の技術事項も、外洋航行船舶の大型ディーゼルエンジンの吸気に関して、過給機が充分に作動せず過給機の効率が低下する低速回転領域では、補助ブロアなどの補助システムを作動させることで過給機の役割を補うという機能の点で共通すること、また、引用発明においても、推進装置として多くの燃料を消費し多くの排出ガスを放出する大型ディーゼルエンジンを、外洋航行中に長時間使用するものである以上、燃料及び排出量の削減ができるようにすることは当然考慮すべき課題であるから、引用発明と引用文献2に記載の技術事項の課題も共通しているといえることから、引用文献2に記載の技術事項を引用発明に適用することには充分な動機付けが存在するといえる。
したがって、引用文献2に記載の上記(ア)で述べた低速運航にかかる技術事項を引用発明に適用して、上記(ウ)で述べたディーゼルエンジン毎に定められる規格に対応させ、ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲に低負荷運転領域(低速回転領域)を適宜に設定し、その低速回転領域で運転を続けて運航するようにし、上記(イ)で述べたように、その低速回転領域の運航による過給機の効率の低下を補うための補助システムとして補助ブロア18aを連続運転するように構成すること、すなわち、上記相違点に係る本願発明の構成に到ることは、当業者が容易になし得たといえる。
(オ)
なお、出力範囲の数値について補足すると、本願発明(請求項1の記載)では、出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲以外の範囲での、補助ブロアの状態については言及されていない(むしろ、本願の明細書の段落【0020】には、当該範囲外でも補助ブロアを作動させてもよいことが示唆されている)から、出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲以外の範囲で、補助ブロアが作動しているものを排除していないとも解されるため、当該数値範囲に臨界的意義があるといえず、当該範囲を選定することは、上記(エ)でも述べたとおり、当業者が適宜に設定し得たともいえる。

(4)作用効果について
本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別に顕著なものということはできない。

(5)審判請求人の主張について
(ア)
審判請求人は、審判請求書において、
「(ロ)引用文献2には、補助ブロアを連続運転することで補助ブロアが故障するという内容が記載されています(引用文献2第9ページ第25行?第27行参照)。この内容は、一般的な使用条件下よりも補助ブロアが故障し易いことを示唆していると解せます。このような記載を当業者が見れば、補助ブロアを積極的に連続運転させようとする動機付けにはなりません。むしろ、補助ブロアを連続運転させないことの動機付けになると思われます。
補助ブロアの故障対策として予備の補助ブロアを準備する必要性が記載されていますが(第9ページ第27行?第30行参照)、無駄な設備は燃費性能の悪化につながるので、排除しようとするのが当業者の通常の発想です。燃費性能を向上させるために様々な工夫をしなければならない状況で、搭載するだけで明らかに燃費性能を悪化させる予備の補助ブロアは、採用し難いものです。
ディーゼルエンジンの低回転使用については、排気ガスエコノマイザーの汚染が増加して火災が発生し、ピストンリングが固着し、ターボチャージャの汚れが発生して、エンジンのオーバーホールを頻繁に行わなければならない旨、記載されています(第9ページ第39行?第46行参照)。つまりディーゼルエンジンの低回転使用は、エンジンおよび周辺機器に過度の負担を強いることを示唆しています。そのため引用文献2の記載から、ディーゼルエンジンの低回転使用により燃費性能を向上できる可能性はあるものの、解決できていない課題が山積しているので、ディーゼルエンジンの低回転使用は問題があると判断するのが当業者の通常の発想です。
加えて、ターボチャージャの効率低下を補うために補助ブロアが回転し続ける旨が記載され(第9ページ第25行?第27行参照)、同時にディーゼルエンジンの出力の最小値を40%とすれば補助ブロアを連続的に運転させなくてもよくなる旨、記載されています
(第10ページ第5行?第6行参照)。つまりエンジン出力が40%以上の範囲では補助ブロアを停止させることを示唆しています。」
と主張する。
(イ)
上記(3)(ア)及び(イ)によれば、引用文献2には、故障に備え予備の補助ブロアを準備してまで、補助ブロアを積極的に連続運転させようとすることが示唆されているから、「補助ブロアを連続運転させないことの動機付けになる」という審判請求人の主張は採用できない。
また、エンジンの運転状況に対応してエンジン関連部品の改良を試みることは分野を問わず技術常識であり、上記3.(2)(2c)(2d)から、引用文献2には、低速運航における欠点は、改造によって克服できること、及び、低速航行アップグレードキットを取り付けることで改善できる旨記載されているから、耐久性の高い部品の採用、ディーゼルエンジン関連部品である補助ブロア自体の改善等によって、ディーゼルエンジンの低速回転を連続的に行う動機付けが示唆されているといえる。したがって、「ディーゼルエンジンの低回転使用は問題がある」という審判請求人の主張は採用できない。
さらに、ディーゼルエンジンの規格(特性)等により、補助ブロアなどの補助システムを必要とする出力範囲が適宜に設定されることは、上記(3)(ウ)及び(エ)で述べたとおりであり、上記3.(2)(2d)の「試験では2サイクルエンジンについて、その限界は補助ブロワーを継続して使用しない場合は約40%」という事項が、全ての船舶の大型ディーゼルエンジンの規格に適用されるということはできない。
以上より、上記(ア)の審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前に日本国内又は外国におい頒布された刊行物に記載された発明(引用発明)及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術事項(引用文献2に記載の技術事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-06-08 
結審通知日 2016-06-14 
審決日 2016-06-29 
出願番号 特願2010-218589(P2010-218589)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 信秀  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 出口 昌哉
櫻田 正紀
発明の名称 船舶の運転制御方法及びその船舶  
代理人 昼間 孝良  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 平井 功  
代理人 境澤 正夫  
代理人 境澤 正夫  
代理人 清流国際特許業務法人  
代理人 平井 功  
代理人 昼間 孝良  

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