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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1317924
審判番号 不服2013-5197  
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-19 
確定日 2016-08-10 
事件の表示 特願2009-235501「腫瘍転移および癌の治療における5-フルオロウラシルの有効性の増強」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 43115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件発明
本件出願は、平成13年11月27日(パリ条約による優先権主張2000年11月28日、米国)に出願した特願2001-361167号の一部を平成21年10月 9日に新たな特許出願としたものであって、特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明は、平成24年 8月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
5-フルオロラウシル(5-FU)の投与中の5-FUの毒性又は副作用を軽減するための医薬品の製造における、5-FU並びにタウロリジン、タウルルタム及びそれらの混合物から選択されるメチロール移行剤の使用であって、ここで、5-FUおよび該メチロール移行剤の組み合わせが、癌患者における結腸直腸癌およびそれらの腫瘍転移を阻害することにおける同時、別々または逐次使用のためのものである、使用。」

2.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先権主張日前に頒布された、「特表平5-500973号公報」(以下、「引用例A」という。原査定の引用文献5に相当)、「日本消化器外科学会雑誌,日本消化器外科学会,1990年 2月 1日,第23巻 第2号,p.517」(以下、「引用例B」という。原査定の引用文献1に相当)、及び、「日本消化器外科学会雑誌,日本消化器外科学会,1997年 6月 1日,第30巻 第6号,p.1635,右上欄」(以下、「引用例C」という。原査定の引用文献4に相当)には、各々、以下の記載がある。

「引用例A」
A-1 「【特許請求の範囲】
1)腫瘍生長の進行または危険にさらされている哺乳動物患者にタウロリジンおよび/またはタウルルタムの有効用量を投与することからなる、該患者の腫瘍の治療または予防の方法。

(2)から4)省略)

5)リンパ腫、肉腫、メラノーマおよびガン腫の治療または予防のための請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。
6)さらに該哺乳動物患者に細胞傷害剤または腫瘍代謝に包含されることの知られている剤を別々にまたは同時に投与する請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
7)さらにγ-インターフェロン、インターロイキン-1、インターロイキン-2、アドリアマイシンまたはアクチノマイシンDを投与する請求項6記載の方法。
8)哺乳動物患者の腫瘍の治療または予防におけるタウロリジンおよび/またはタウルルタムの使用。
9)哺乳動物患者の腫瘍の治療または予防用医薬組成物の調製におけるタウロリジンおよび/またはタウルルタムの使用。
10)腫瘍生長の進行または危険にさらされている哺乳動物患者に対する個別または同時投与用の、タウロリジンおよび/またはタウルルタム、並びに細胞傷害剤または腫瘍代謝に包含される剤から選択される少なくとも1種の剤を含有する医薬組成物。」(特許請求の範囲)

A-2 「タウロリジンおよびタウルルタムは下記の式を有する。

(構造式省略)

これらの化合物はメチロール転移剤である。・・・すなわち、これら2つの化合物は本質的に同一の機序によって作用する。メチロール転移が、毒性の高い多くの抗腫瘍薬に特徴的であるメチル転移と対比されうることに注目すべきである。タウロリジンおよびタウルルタムは毒性が低く、しかも正常細胞に対して細胞障害性ではない。」(p2左上欄下から3行?右上欄11行)

A-3 「腫瘍代謝に包含されることの知られているその他の剤もまた、前記併用療法と共に一緒に投与するのが有利であることもあると信じられている。このような剤の例としてはγ-インターフェロン、インターロイキン-1およびインターロイキン-2がある。細胞傷害剤例えばアドリアマイシンおよびアクチノマイシンDもまた併用投与されうる。」(p2左下欄6?12行)

A-4 「タウロリジンおよび/またはタウルルタムを使用して、特に腫瘍の外科的除去後における転移拡大を防止するのが特に有利である。」(p2左下欄15?17行)

A-5 「本発明はさらに、哺乳動物患者の腫瘍の治療または予防用医薬組成物の調製におけるタウロリジンおよび/またはタウルルタムの使用を包含する。」(p2左下欄22?24行)

A-6 「実施例1
1.5×10^(6)個のB16メラノーマ細胞を静脈注射したC573L/6マウスをa)0?10日に通常の塩水でtid(1日に3回)腹腔内投与で、b)0?10日にタウロリジン4.0mgでtid腹腔内投与で、およびc) 3?10日にタウロリジン4.0mgでtid腹腔内投与で処置した。マウスを10日目に犠牲にし、肺転移を計数した。腫瘍注射の日にタウロリジン治療を開始した場合には、肺転移の数は対照群またはグループCのいずれかと比較して有意に減少した(p<0.05)。」(p2右下欄1?10行)

A-7 平均肺転移±S.E.M.の数が、上記処置a)、b)、c)の順に、117.3±18.5、16 76.4±14.9、103.5±14.8であったことが記載されている。(p2右下欄11?14行)

A-8 「実施例2
下記の用量を用いて、タウロリジンを多細胞系統(2つの腫瘍、1つの正常細胞)について試験した。・・・腫瘍系統に対する選択的活性は、腫瘍の完全な細胞阻止については低用量で証明されたが、しかし正常細胞では証明されないで、>200μg mlの用量で細胞代謝阻止が生じた。」(p3左上欄4?15行)

A-9 タウロリジンを20μg mlの濃度で用いたときの、細胞代謝の阻止が、繊維芽細胞、LS174T(結腸)、Jurkat(白血病性)の順に、31.7、84.3、84.6であったことが記載されている(p3左上欄7?11行)。

引用例Aには、上記A-1、A-5に摘記のとおり、タウロリジンおよび/またはタウルルタムを哺乳動物患者の腫瘍の治療または予防用医薬組成物の調製において使用することが記載されている。ここで、腫瘍とは、リンパ腫、肉腫、メラノーマ及びガン種である旨が同引用例に記載されており(上記A-1、特に5))、タウロリジンの投与が、メラノーマ細胞の肺転移を抑制したことや(上記A-6、A-7)、結腸腫瘍細胞の代謝を阻止したことが(上記A-8、A-9)具体的に記載されている。
そして、上記のタウロリジン投与による、メラノーマに対する腫瘍予防作用や、結腸のガン腫に対する腫瘍治療作用について記載されている試験結果は、上記A-1、A-4の記載に照らせば、上記腫瘍の治療または予防の一実施態様として記載されたものであると認められ、具体的に記載のある場合に限られるというよりむしろ、同引用例に同じく「腫瘍の治療または予防用」とされている、他の腫瘍の治療や予防についても同様に期待されるものということができる。

そうすると、引用例Aには、「哺乳動物患者の結腸ガンの治療または予防用医薬組成物の調製におけるタウロリジンの使用。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「引用例B」
B-1 「〔目的〕・・・マウス大腸癌肝転移モデルを作成し、肝転移巣の成立を経時的に観察し、化学療法による肝転移防止の可能性について検討する。」(目的の項)

B-2「〔方法〕1)5週齢BALB/Cマウスを用い、皮下継代されたマウス大腸癌Colon26を1×10^(5)個/mlの細胞浮遊液とした。ネンブタール麻酔下に開腹し脾臓より経門脈的に5000個(0.05ml)注入し肝転移モデルを作成した。・・・
2)・・・皮下継代した腫瘍が一定重量に達した時点で5-Fu、25?100mg/kg3日間投与し、連日推定腫瘍重量およびマウスの体重を計測した。
3)抗癌剤投与経路として肝転移作成時に脾臓を皮下に脱転固定し、脾臓より経門脈的に反復投与を施行した。」(方法の項)

B-3「〔結果〕門脈内に移植した細胞は、数個から数10個の細胞塊となりsinusoidに塞栓し、4日目には腫瘍細胞の増殖が出現し、周囲肝細胞の変性がみられた。・・・10日目には肉眼的な結節を確認できる転移巣を形成し、14日目で全例に肉眼的な結節を認めた。
微少転移巣形成前に5-Fu50mg/kgを3日間経脾臓的に門脈より注入することにより、14日目における肉眼的な結節数は未治療群で8.9±3.4個、経門脈投与群においては0.5±1.0個となり、有意に減少した(p<0.01)。また、平均生存日数においてもそれぞれ19.8±1.8日、48.8±8.3日と有意に延長した(p<0.01)。」(結果の項)

B-4「〔まとめ〕・・・2)至適投与量を転移形成前に経門脈的に投与することにより、転移形成を抑制し生存率を向上させることが可能であった。」(まとめの項)

「引用例C」
C-1 「我々は術後の骨盤内再発と術前切除困難な直腸癌に対し、経内腸骨動脈の5-FU持続動注療法を試み、良好な成績を得られたので報告する。」(1?3行)

C-2 「症例は5例で・・・4例は腹会陰式直腸切断術後の37ヶ月までの再発例で、1例は術前に外陰部への浸潤を認めた。全症例は著明な・・・CEA、CA19-9上昇を認め、CTでは骨盤内に癌腫を認めた。それらに対し、両側内腸骨動脈リザーバー留置し、5-FU(250?360mg/body/day)交互に持続動注を50日以上行った。その結果、5例中3例が腫瘍縮小し、・・・CEA、CA19-9値は減少し、CT上腫瘍の縮小効果を認めた(奏功度PR、縮小率は65%?55%)。」(4?14行)

C-3 「本療法は直腸癌局所再発或いは術前切除困難な症例に対し、Neoadjuvant Chemotherapyとしての有用性が示唆された。」(14?16行)

3.対比・判断
3-1 本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「哺乳動物患者」が、「腫瘍」の治療または予防を要する患者であることは明らかであり、また、引用例Aの前記A-1に記載があるように、上記「腫瘍」にはガン腫が含まれているのであるから、引用発明の「哺乳動物患者」にガン患者が含まれることは明らかである。よって、引用発明の「哺乳動物患者」は、本件発明の「癌患者」に相当するといえる。
そして、上記2に記載のとおり、引用例Aにおいては、腫瘍細胞の転移抑制作用をもってタウロリジンが腫瘍の予防用医薬組成物の、また、腫瘍細胞の代謝阻止作用をもってタウロリジンが腫瘍の治療用医薬組成物の調製に使用しうると捉えていると理解しうるし、また、本願明細書の段落0005には、「腫瘍増殖および転移が、有効量の5-フルオロウラシル(5-FU)およびメチロール移行剤(methylol transfer agent)を含む組み合わせ治療剤を癌患者に投与することにより、癌患者において阻止される。」との記載があるから、引用発明の「治療」、「予防」は、各々、本件発明の「癌を阻害すること」、「腫瘍転移を阻害すること」に相当するといえる。また、引用発明の「医薬組成物の調製」は、本件発明の「医薬品の製造」に相当するといえる。
ところで、「結腸直腸癌」との用語は、一般に、「大腸癌」を意味する用語であり(必要なら、大腸癌研究会 http://www.jsccr.jp/ >大腸癌診療のトピックス > 英語表記の日本語訳 参照)、本件発明の「結腸直腸癌」は、「大腸癌」と言い換えることができる。また、大腸は、その部位により結腸、直腸などに大別できる器官であることは当業者に周知の事実であるから、引用発明の「結腸ガン」は「大腸癌」に該当する。

そうすると、両者は、
「医薬品の製造における、タウロリジンの使用であって、タウロリジンが、癌患者における大腸癌及びそれらの腫瘍転移を阻害することにおける使用のためのものである、使用。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
医薬品の製造に使用されるものが、本件発明においては、「5-FU並びにタウロリジン、タウルルタム及びそれらの混合物から選択されるメチロール移行剤の使用であって、ここで、5-FUおよび該メチロール移行剤の組み合わせが、癌患者における結腸直腸癌およびそれらの腫瘍転移を阻害することにおける同時、別々または逐次使用のためのものである」のに対し、引用発明では、「タウロリジン」であって、「結腸ガンの治療または予防用医薬組成物の調製における」ものである点、

相違点2
医薬品が、本件発明においては、「5-フルオロラウシル(5-FU)の投与中の5-FUの毒性又は副作用を軽減するため」のものであるのに対し、引用発明では、その点について何ら規定されていない点

3-2 相違点の判断
前記相違点1、2について、以下、検討する。

3-2-1 相違点1について
(1)5-FUとメチロール移行剤の組み合わせが、癌患者における結腸直腸癌およびそれらの腫瘍転移を阻害することにおけるものである点について
抗癌薬の投与法には、一般に、単独投与法、多剤併用投与法があるが、実際は、癌細胞の感受性が単一でないこと、副作用の分散が可能であること、薬剤耐性の発現を少しでも遅延させることなどの理由から、多剤併用法が臨床的に優れていることが多いとされている(必要なら、水島 裕編著 今日の治療薬(2000年版) p148 2 抗癌薬の使い方 1?6行 株式会社南江堂 2000年2 月20日発行)。
そして、引用例Aには、タウロリジンを、細胞傷害剤または腫瘍代謝に包含されることの知られているその他の剤と一緒に投与するのが有利である旨が記載されており(上記A-1、A-3)、この記載から、上記した抗癌剤の多剤併用投与法は、タウロリジンにも該当すると当業者は理解することができる。もっとも、同引用例には、タウロリジンと組み合わせるべき剤として、5-フルオロウラシル(以下、「5-FU」という。)は挙げられていない。
しかし、5-FUが、大腸癌の肝転移に対し抑制作用を有することや(上記B-1?B-4)、直腸癌に対し腫瘍縮小作用を有することは(上記C-1?C-3)、各々、引用例B、Cに記載されている。
そして、直腸が大腸の一部位であることは上記3-1に記載したとおりであるから、タウロリジンがその治療または予防の対象とする癌も、5-FUが対象とする癌もともに大腸癌であるといえる。そして、5-FUの大腸癌に対する作用、効果は、上記のとおり、腫瘍縮小、転移抑制であって、タウロリジンのそれと同様である。
また、5-FUは、本願出願優先日当時、併用投与法において用いられる薬剤としてすでに広く知られていたものである(必要なら、前記した今日の治療薬 p148 2 抗癌薬の使い方 15?27行、Poon MA,et al.,J Clin Oncol.,9(11),p1967-1972(1991),特にアブストラクト、de Gramont A,et al.,Eur J Cancer Clin Oncol.,24(9),p1499-1503(1988),特に、アブストラクト参照)。
そうすると、引用発明において、医薬品として使用されるタウロリジンと、タウロリジンと同様に大腸癌の治療または予防に有効であることが引用例B、Cに記載されている5-FUとの組み合わせを、当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
そして、本件発明の「結腸直腸癌」は、「大腸癌」と同義であることは前記3-1に記載のとおりであるから、5-FUとタウロリジンとの組み合わせを大腸癌、すなわち結腸直腸癌およびそれらの腫瘍転移を阻害することにおけるものである、とする点も格別の着想力を要さずに当業者がなしうるところである。

また、引用例Aには、タウロリジンとタウルルタムは、ともにメチロール転移剤であること、また、両化合物は本質的に同一の機序によって作用することが記載されている(上記A-2)。そして、タウロリジンが、結腸ガンの治療または予防に有効であることは、すでに検討のとおりであるから、引用例Aの上記記載に照らせば、当業者は、タウロリジンが有するのと同様の作用、効果をタウルルタムに期待すると理解されるのであって、引用発明において、タウロリジンにかえて、タウルルタム、あるいは、それらの混合物を有効成分とする医薬組成物を当業者は容易に想到しうるところと認める。
ところで、引用例Aにおいてはタウロリジンとタウルルタムをメチロール転移剤と(上記A-2)、本件発明においては、タウロリジン、タウルルタム、あるいは、それらの混合物をメチロール移行剤と記載しており、両用語は少なくともタウロリジン、タウルルタムを内包している点で同一であるから、本件発明が、タウロリジン、タウルルタムを「メチロール移行剤」と規定している点は、実質的な相違点ではない。

(2)癌患者における結腸直腸癌およびそれらの腫瘍転移を阻害することにおける同時、別々または逐次使用のためのものである点について
本件発明の「5-FUおよび該メチロール移行剤の組み合わせ」は、請求項1の記載から、「5-FUおよびタウロリジン、タウルルタム及びそれらの混合物」と読み替えることができる。
引用例Aには、「腫瘍生長の進行または危険にさらされている哺乳動物患者に対する個別または同時投与用の、タウロリジンおよび/またはタウルルタム、並びに細胞傷害剤または腫瘍代謝に包含される剤から選択される少なくとも1種の剤を含有する医薬組成物。」(上記A-1、特に10))との記載があり、該記載から、当業者は、同引用例Aには、「タウロリジンおよび/またはタウルルタム」にさらに他の薬剤を併用する場合に、それら他の薬剤を個別に、または同時に投与することを想定していると理解するといえる。
そうすると、前記(1)の項で検討したとおり、引用発明の「タウロリジン」と他の薬剤である5-FUとの組み合わせについても、使用時の態様として、上記引用例A記載の、個別又は同時使用のためのものとすることを当業者が検討してみることに格別の困難性は見いだせない。ところで、引用例Aにおいては、併用の際の投与を「個別」と「同時」と大別して記載していることからみて、同引用例における「個別」は、「同時」以外の投与を意味するものと理解することができ、そのような投与の態様として、時間をおいて投与する場合、たとえば、別々に、もしくは逐次的に投与することを当業者は容易に着想することができるものと認められるから、引用例A記載の「個別又は同時投与用」を、本件発明におけるように、「同時、別々または逐次使用のための」ものと規定することに格別の困難性は見いだせない。

3-2-2 相違点2について
引用例Aには、タウロリジンが、5-FUの毒性または副作用を軽減する作用を有することは記載されていない。
抗癌薬の多剤併用投与は、前記3-2-1(1)に記載したとおり、たとえば、副作用の分散が可能であることから臨床的に優れているとされており、実際、抗癌薬の投与の前後や最中にその薬剤に影響を与える他の薬剤を投与して本来の抗腫瘍効果を増強したり、副作用を軽減する試みが本願優先日当時すでになされているところである(必要なら、前記した今日の治療薬 p148 2 抗癌薬の使い方 15?27行)。
そうすると、抗癌薬の副作用を減少させることは、本願優先日当時において、多剤を併用するにあたっての代表的な目的の一つといえる。
そして、5-FUが毒性副作用を有する抗癌薬であることは本願優先日当時周知の事実であるから(必要なら、前記した今日の治療薬 p151 表5 抗癌薬の副作用 5-FUの項)、前記3-2-1(1)に記載理由により当業者が容易に想到しうると認められる、5-FUがタウロリジン、タウルルタムなどのメチロール移行剤と組み合わされた場合にあっても、用いられる抗癌薬の副作用を軽減することは当然に目的とされるべき事項であるといえる。
そして、引用例Aの、タウロリジン及びタウルルタムは毒性が低く、正常細胞に対して細胞傷害性ではない、との記載に照らせば(上記A-2、A-9)、前記組み合わせにおいては、5-FUの副作用を軽減することがもっぱら目的とされるべき事項であるといえるから、該目的を明示的に規定するとともに、5-FUとタウロリジン、タウルルタムなどのメチロール移行剤とを組み合わせて使用した結果、目的とした副作用軽減効果が実際に奏されているかを確認してみる程度のことは、当業者の通常の創作能力の発揮によってなしえたものである。

3-3 本件発明の効果
本願明細書には、本件発明の作用、効果に関連して以下の記載がある。

(1)「本発明によれば、腫瘍増殖および転移が、有効量の5-フルオロウラシル(5-FU)およびメチロール移行剤(methylol transfer agent)を含む組合せ治療剤を癌患者に投与することにより、癌患者において阻止される。」(段落0005)
(2)「本発明は、驚くべきことに、タウロリジン(taurolidine)およびタウルルタム(taurultam)のようなメチロール移行剤が、患者への腫瘍転移阻止用および癌治療用の組合せ治療剤において、5-FUの抗腫瘍性効果を実質的に増強または増加することを見出した。また、そのようなメチロール移行剤は、5-FUの毒性の副作用を実質的に減少もする。」(段落0006)
(3)「特に好ましい実施態様は、結腸癌、直腸癌および結腸直腸癌からなる群から選ばれる癌の治療、およびそれらの腫瘍転移の阻止を包含する。」(段落0009)
(4)「他の抗腫瘍性薬剤との対比において、タウロリジンおよびタウルルタムのようなメチロール移行剤は、驚いたことに、5-FUの抗腫瘍性効果を著しく増強または増加させ、5-FUの極度の毒性副作用を著しく減少させた。従って、5-FUと、タウロリジンおよび/またはタウルルタムのようなメチロール移行剤との組合せ治療剤を用いると、5-FUの量を減らして、5-FU単独の大量投与と同等の活性を達成し、同時に少ない毒性副作用を生ずる。別の本発明による組合せ治療剤は、5-FUを用いる単独治療剤と同じ5-FU投与量で利用することができ、より少ない副作用と共に増強した抗腫瘍性効果を達成する。」(段落0016)
(5)実施例1には、SW480、SW620、SW707を、5-FU単独、タウロリジン+5-FUの存在下、培養した結果、タウロリジンは、5-FUの所与の投与量の効果(p=0.0001)を増加することが見出された旨の記載がある(段落0017、0018)。

上記(1)、(3)によれば、本件発明は、5-FUとタウロリジンなどのメチロール移行剤を含む組み合わせが、癌、特に、直腸癌、結腸癌、および結腸直腸癌の治療、およびそれらの腫瘍転移の阻止に有効である、というものであり、これらの作用、効果が引用例A?C記載の発明から予測されるものであることは、前記した3-1、3-2においてすでに検討のとおりである。また、上記(2)、(4)、(5)は、本件発明は、メチロール移行剤が5-FUの抗腫瘍性効果を増強又は増加することを記載したものと理解できるが、5-FUも、タウロリジンおよびタウルルタムのようなメチロール移行剤も、ともに大腸癌に対し有効であることは、3-2-1(1)においてすでに検討したとおりである。よって、該組み合わせが、いずれかの単独投与に比べて優れた効果が奏されることもまた、引用例A?C記載の発明から予測しうることである。
特に、上記(4)は、5-FUとタウロリジンとの組み合わせは、同等の活性を達成するのに要する5-FUの量を減らすことができ、その結果として5-FUに起因する毒性副作用をより少なくできることを記載していると理解することができ、それら本願明細書の記載によれば、本件発明の「5-フルオロウラシル(5-FU)の投与中の5-FUの毒性又は副作用を軽減するための医薬品」には、他の薬剤を併用して、5-FUの使用量を減少した結果、その毒性副作用の軽減効果がもたらされた場合が含まれているといえる。
ところで、抗癌薬の副作用減少が、本願優先日当時において、多剤を併用するための代表的な目的の一つといえることは、3-2-2に記載したとおりである。そして、副作用の調節には投与量の調節が大切であることも本願優先日当時にすでに知られるところである(p152 3 抗癌薬の副作用 3行)。
そうすると、副作用の発現が予測される薬物を併用して抗癌薬とする場合に、効果の増大よりも副作用の減少を優先させるために該薬剤の投与量を減少させることは当業者がなしうるところであり、また、その結果として、少なくとも減少された投与量の分だけ副作用が減少されるであろうことは当業者が予測しうるところといえる。そして、5-FUは毒性副作用の知られる薬剤であるから、5-FUとタウロリジンとの組み合わせにおいて、5-FUの使用量を減少させれば、投与量減少に基づく副作用が軽減されるであろうことも当業者が予測しうるところである。
また、上記(1)?(5)の記載、及び本願明細書のその他の記載、並びに、平成24年 8月10日付け意見書や平成25年 4月18日付け手続補正書における主張、及び、上記意見書や上記手続補正書に添付された参考資料をみても、タウロリジンが、5-FUの投与量減少とは無関係に、5-FUの毒性や副作用を軽減したことを直接確認できるような試験結果は記載されていない。たとえば、平成24年 8月10日付け意見書に添付された参考資料3をみても、25μg/mlタウロリジンと5-FUとの組み合わせの抗腫瘍効果は、タウロリジン25μg/ml単独の抗腫瘍効果とほぼ同じであることが確認されるにすぎず、タウロリジンおよび/またはタウルルタム及びそれらの混合物から選択されるメチロール移行剤が、5-FUの抗腫瘍効果を向上又は増加させ、さらには5-FUの毒性及び副作用を軽減し、予測しえない顕著な効果を奏する旨の、本願明細書に記載された、あるいは上記意見書、手続補正書において主張された、作用、効果を本件発明が奏するものと認めることはできない。

そして、平成27年 3月31日付け審尋書において、これらの記載及び主張について、その根拠や釈明を請求人に求めたが、指定された期間内に何らの回答も得られなかった。

よって、本件発明が当業者が予測しえない格別顕著な効果を奏したものとも認められない。

したがって、本件発明は、その優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である、引用例A?Cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-07 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2009-235501(P2009-235501)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 横山 敏志
穴吹 智子
発明の名称 腫瘍転移および癌の治療における5-フルオロウラシルの有効性の増強  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 梶並 順  

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